2020年3月3日火曜日

トルコのイドリブ攻撃: トルコ軍と反政府軍によって破壊・捕獲されたシリア政府側の車両と装備(一覧)


著:ステイン・ミッツアー collaboration with キャリバー・オブスキュラ (編訳:Tarao Goo

 2020年2月27日の遅くに開始されたトルコ軍によるシリア軍と政府側民兵部隊の陣地に対する空爆と地上攻撃:「春の盾」作戦は、イドリブとアレッポの至る所で多数の標的を撃破しました。結果としてこの攻撃は前線に沿って展開していた政権軍を完全に崩壊させ、反政府軍が戦略的な町であるサラキブを再占領した後もさらに前進し続けることを可能にしました。
 この攻撃は33人のトルコ兵がシリア側による空爆で殺害された報復として開始されたものであり、トルコはシリアでの戦争で新しい段階に入ったため、現時点では(トルコの攻撃が内戦にもたらす)長期的な影響しか推測することができません。

 (挑発に対する)報復で全滅させるべくトルコ軍の陣地を故意に攻撃したことは(シリアの)政権が直面する状況に対処できているのか否かという問題を提起します。トルコの決意に直接挑戦を試みた政権(とロシアの)にもたらされた壊滅的な結果はシリア情勢を観察している人々だけでなく政権軍自体も驚かせたに違いありません。

 切迫した危険を完全に見誤ってトルコの報復攻撃を適切に予想することができなかったため、シリア軍は砲撃と無人機の攻撃に直面して完全に崩壊してしまいました。シリア空軍(SyAAF)とシリア防空軍(SyAADF)は(地上の政権軍を自由に攻撃している)トルコ軍の航空機や「バイラクタルTB2」を含む無人機を迎撃したり少なくとも攻撃を阻止するどころか、これまでにトルコ空軍機のシリア領空への侵入を阻止しようとすらしていません。

 確実に言えることはトルコの「新しい段階」が反政府軍にとってベストな時期に来なかったということです。なぜならばイドリブの反政府軍は至る所で守勢に立たされて敗北しており、イドリブはシリア政府・軍に敵対する勢力への最大の武器・弾薬の供給源から大部分が切り離されてしまったからです。

 過去にはシリア軍がアイヤッシュのような主要な武器貯蔵庫の守備や(敵に利用されることを防ぐために)保管武器の分配、少なくとも破壊処分をしなかったために、結果として反政府軍に対する車両や武器・弾薬の一見して無限の供給が確保されました。劣勢となった今日では、反政府軍は外国からの供与か闇市場で調達した少数の弾薬にほとんど依存しています。

 イドリブの反政府軍が戦車などの重装備をストックする唯一の方法は貧弱な防御ながらも過剰に保管された兵器がある政権軍の陣地を突破して奪取することだけしかありません。しかし、現在(2020年3月の時点)ではトルコの支援を受けた攻勢がサラキブ市に対して開始されています(注:奪取の道が開かれたということ)。

        

 破壊や捕獲された車両・兵器・弾薬の詳細なリストは下で見ることができます。
 また、無人機「バイラクタルTB2」によって破壊されたものにはその旨を明記しています。ただし、この作戦にはTAI「アンカ-S」も参加しているため、同機によると思われる戦果がある可能性も否定できません(判明した場合は訂正します)。

 このリストには画像や映像による証拠を提示できる、捕獲・破壊された装備を中心に掲載しています。したがって、トルコに破壊されたり、イドリブの反政府軍に捕獲された装備の量は間違いなくここに記録されているものよりは多いはずです。現時点ではこのリストに小火器と弾薬が含まれていませんがキャリバー・オブスキュラ氏によるリストが公開された後に追加されます。

 このリストは使用できる追加の資料があったり、正確な情報が確認された場合には更新されます。(装備名の後に列挙された数字をクリックすると捕獲・破壊された各車両の画像が表示されます。)

※最終更新日:2021年7月10日午後8時24分


戦車 (50, このうち破壊: 37,捕獲13)


歩兵戦闘車 (21, このうち破壊: 9,捕獲:12)


牽引・自走砲 (26, このうち破壊: 26)


多連装ロケット砲 :(12, このうち破壊:11,損傷:1)


迫撃砲 (3, このうち破壊: 1,捕獲:2)


対戦車ミサイル(37,このうち捕獲:37 ※このうち10は発射機または照準器)


(自走) 対空砲 (7, このうち破壊: 6,捕獲:1) 


対空ミサイルシステム (3, このうち破壊: 1)


レーダー(1,このうち破壊:1)


航空機とヘリコプター(8,このうち破壊:8)
  • 2 Su-24MK2 (2020年3月1日に撃墜)
  • 1 L-39 (2020年3月3日に撃墜)
  • 2 Mi-8/17 (それぞれ2月11日と同月14日に携帯式地対空ミサイルによって撃墜)
  • 3 MBB 223 「フラミンゴ」 (クワイリス基地のハンガー内にて被弾。 以前からスペアパーツ取り用として使われていたり放棄されていた可能性あり)


トラックや各種車両 (31, このうち破壊: 19,捕獲:12)

戦略的施設・拠点

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 ※  この翻訳元の記事は、2020年2月29日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
   により、本来のものと意味や言い回しが異なったり、割愛している箇所があります。
    正確な表現などについては、元記事をご一読願います。 

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2020年2月22日土曜日

再武装が進むシリア軍: ロシアからT-62MV戦車とBRM-1(K)偵察車が到着した


著:スタイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo

 2017年前半からT-62MとBMP-1BMP-2、そして少なくとも1台の2S9自走迫撃砲がシリア軍に引き渡された後、シリアのイドリブ県から流出した新しい画像と映像はこれらの車両のより多くの派生型がロシアの「シリア急行」に載せられてシリア国内に送られたことを明らかにしました。

 (内戦で疲弊した)シリア軍の再建におけるロシアの役割に従うと、「新しい軍隊」への装備と訓練を担当するのもロシアということになります。
 これによってシリアは現時点でのシリア軍が保有する機甲戦力よりも遙かに高度なT-72B、T-90やBMP-3さえも追加分の装備として受け取れると信じる人もいましたが、今まで引き渡された装備のほとんどがロシア軍がもはや必要としなくなった大量の旧式兵器でした。

 それにもかかわらず、これらの旧式兵器と車両の多くはシンプルな構造で運用も容易だったのでシリア軍に理想的に適していました。小火器と大量のウラル、GAZ、KamaZ、UAZ製トラックとジープの引き渡しに加えて、ほかの引き渡しではT-62M、BMP-1(P)と第二次世界大戦時代のM-1938(M-30)122mm 榴弾砲が含まれていました。また、2015年には少数のT-72、T-90、BMP-2が引き渡されました。

 新しく引き渡されたT-62はシリア軍でも使用されているより現代的なT-72の派生型よりも劣っています。しかし、これらの旧式AFVの引き渡しはシリア軍の酷く枯渇した車両保管場所からすると今なお歓迎すべき追加となっています。T-62Mには T-90で見られる「シュトーラ」のようなアクティブ防護システムは装備されていませんが、同車の能力はT-55とそれ以前のT-62派生型よりも大幅に向上されています。BRM-1とBRM-1Kは攻撃・防御に関する能力の面では新しいものがほとんどありませんが、備えている偵察能力のために貴重な戦力(アセット)となる可能性が十分にあります。


 T-62Mは1980年代前半までにより現代的な西側のカウンターパートによってひどく不利になったいくつかのT-62の古い派生型を共通の規格にアップグレードすることを目指した改修プログラムです。このプログラムは火力・防御力・機動力におけるT-62の欠点に対処することを目的としており、それまでに平均以下だった戦車の能力を大幅に改善しました。

 T-62Mには強力な115mm砲の全潜在能力を活用するため、KTDレーザー測遠器を備えた「ヴォルナ」火器管制システムが搭載されました。また、この改良型はシリアに引き渡された可能性が低い砲発射式の9M117 (9K116-2)シェクスナ対戦車ミサイル(ATGM)の発射能力も得ました。この目的のために戦車長と砲手の双方が新しい照準システムを与えられ、夜間戦闘での有効性も大幅に向上しました。
 装甲防御力の増強は砲塔前部と車体の前面装甲板の上下にBDD増加装甲を装着し、対戦車地雷に対する防御力の向上、そしてゴム製のサイドスカートと砲塔部分の耐放射線ライニングを追加することで達成されました。 T-62MVはBDD増加装甲を装着するかわりにコンタークト1爆発反応装甲(ERA)が砲塔、サイドスカートと車体の前面装甲板に装着されました。
 結果として増加した重量は新型のV-55Uディーゼルエンジン(620馬力)を搭載することで対応しました。これらの全てに加えて、T-62Mには新しい砲安定装置、主砲用のサーマルスリーブ、新型の無線機、(砲塔の右側に)発煙弾発射機が装備されました。

 T-62の1967年型や1972年型といったいくつかの派生型は一般的なT-62M規格に改修されましたが、1967年型にはDShK 12.7mm重機関銃が欠けているので双方の識別は容易にすることができます。興味深いことに、シリアはT-62M規格に改修された1967年型と1972年型の双方を供与されましたが、非改修の1972年型と今ではT-62MVも受け取っています。
 (シリアへ送られる前にロシアで施されたロシアのH22-0-0鉄道輸送マーカーがまだ完全に残った状態の)少なくとも1台の非改修T-62の1972年型は既に2020年1月中旬にイドリブ県のバリシャ近郊で反政府軍によって捕獲されました。
 鉄道輸送マーカーだけでなく、TSh-2B-41砲手用照準器を覆う防護カバーにも注目してください。これはシリア軍のT-72でよく見られる独自改修だからです。   


 その古さにもかかわらず、T-62M(V)はコーカサス地方での数十年にわたる対テロ作戦の後にロシア軍から退役したばかりです。現役から解かれた後で、T-62は中部及び東部軍管区、特にブリヤート共和国に位置するロシアの大規模な兵器保管庫で既に保管されていた装備に加わり、そのほとんどが二度と運用される姿を見られることはないと示唆しています。

 それにもかかわらず、全面戦争の場合に大量の戦車とほかの装甲戦闘車両(AFV)を復活させるロシアの能力をシミュレートする演習に参加するために、相当な数のT-62が作動状態にレストアされました。現在では文字通り数千のより現代的な戦車が保管状態にあるため、T-62を保管庫に戻す理由はほとんどありません(注:T-62より新しい戦車が十分に保管されているため、大量の旧式戦車を保管する必要性が薄いということ)。
 そして、ロシアは戦闘作戦での高い損耗率に苦しむ同盟国と利害が一致しました(注:戦車が必要な国と戦車が多すぎてそれらを手放したい国がうまくマッチングできたということ)。
 シリアに出現する前に、既に一部のT-62Mは(シリアへ輸送するために)港に向かっている途中の姿をロシア各地で目撃されていました。これらの車両は後に「シリア急行」に積載されてタルトゥース港へ輸送されました。 [1] [2]


 ロシアから流出した画像ではT-62MVの第一次発送が2018年5月の時点で既に(シリアに送るための)準備がされていたことを示唆していますが [3]、T-62MVがシリアで存在していたことを示す最初の証拠は1台の同戦車が損傷してタハリール・アル・シャーム機構(HTS)に捕獲された2019年8月までには表面化しませんでした。
 [4] この車両の最終的な運命は不明のままですが、(同じくロシアから流れてきた)MRO-A対戦車ロケットが命中した場合は修復不能レベルまで損傷を受けた可能性が十分にあり得ます(注:引用元の動画ではMRO-Aの射線上にT-62MVがいます)。

 [5] 2019年11月の日付がある下の画像はシリアで砂漠迷彩の塗装を施されたT-62MV群を写したもので、これらは2019年9月にタルトゥース港で目撃された約40台の戦車群に含まれていた可能性があります。これらの戦車とは逆に、シリアで運用されている非再塗装の戦車の大半では今なおシリアへの輸送前にロシアで施されたH22-0-0鉄道輸送マーカーを見ることができます。


 T-62MVに加えて少数のBRM-1K偵察車が2017年前半にロシアから供与され、(2017年3月にイスラミック・ステートから成功裏に奪還した)タドムル近郊での作戦に参加しました。


 引き渡されたBRM-1とBRM-1Kは過去にシリア軍で運用されたことがない種類の車両だけに注目に値します。
 BRM-1(K)はBMP-1と同じ2A28 73mm低圧砲を装備していますが、砲塔は広くなって位置が車体の後部にずらされており、BMP-2を連想させる姿になっています。(偵察車という)新しい役割に従って、同車にはBMP-1に搭載されていた自動装填装置と対戦車ミサイル発射機は装備されず、73mm砲用の弾薬も40発から20発に減らされました。その代わり、レーザー測遠器、航法装置や検出装置、地雷検知器、さらには追加の無線機や全天候観測装置も搭載されました。
 敵に発見された場合は、6発の902V 81mm「Tucha」発煙弾発射機が一時的にBRM-1Kの位置を隠し、その場から逃れられるようにします。

 また、BRM-1Kはおおよそ7km先にあるAFVや2km先の移動する人を検出できるPSNR-5K「トール・マイク」地上監視レーダーも装備しています。新しい装備の追加で新たに6名の操作要員の増加が必要となり、その結果として歩兵を収納する能力は偵察兵用の2名分まで減少しました。
 シリアに送られた車両に本来の装備がどの程度装着されているのか、本来の用途で実際に使用されているのかは不明ですが、単に軽戦車として使用されているシナリオが最も可能性が高いようです。


 シリアに引き渡されたBRM-1とBRM-1Kの数は不明ですが、既に3台がイドリブで敵勢力に捕獲されています。そのうちの2台はこの記事の前半で言及したロシア供与のT-62(1972年型)とともにバリシャへの襲撃の際に襲撃者の戦利品となりました。
 捕獲された残りの(1台の)BRM-1Kと1台のBRM-1は今年の2月6日にHTSによって使用されました。皮肉なことにそれらは4人以上が後部の区画に窮屈に入れられたIFV(歩兵戦闘車)/APC(装甲兵員輸送車)としての使用でした。[6]  

 BRM-1(K)の脆弱な側面装甲をさらに強固なものにするため、同車には戦場に投入される前にHTSによってスラットアーマーが装備されました。このBRM-1(K)の操縦手が戦場に向けて出発した数分以内に車体後部右側のドアを破壊したことにも注目してください。
 シリアのBMP-1では(燃料タンクとしての機能もある)後部ドアを開放したままで運用することが一般的ですが、BRM-1(K)の後部区画の狭さではドアの開放は4人、あるいは6人の兵士さえも乗車させるためには必須の条件となります(注:ドアを開放しないと4~6人が乗車できないということ)。


 3台目のBRM-1(k)はおそらく2019年8月下旬に捕獲された砂漠迷彩のBRM-1Kであると思われ、新たに調和した迷彩塗装を施された同車は2020年2月11日のナイラブに対する反攻作戦の際に初めて目撃されました。 
 このBRM-1Kも上の画像の車両ように改修され、側面にスラットアーマーが装備されました。特に興味深いことは、このBRM-1Kには砲塔前部に2つの正体不明の装備が装着されて改修されたことで、そのうちの1つはATGMの発射レールに酷似しています。皮肉なことに、この車両は運用している戦闘員によって「BMB(アラビア語では『P』の文字と発音が存在しません)」と呼ばれています
 また、下の画像トルコから引き渡されたM113にも注目してください。BRM-1Kと似た塗装が施されています。


 シリアにとって、追加のT-62M(V)とBRM-1(K)の引き渡しはそれが意味する現在の傾向(注:ロシアの支援とほかの武器供与)よりもあまり重要ではない可能性があります。
Oryxシリア軍の(兵器の)ストックを無制限に補充し、戦闘部隊を再建することができる同盟国がいるため、将来に(この戦争の過程で)予期せぬ出来事が起こらないかぎりはイドリブにおける政府軍の最終的な勝利は確実と思われます。
 シリア軍の備蓄を無制限に補充し、(疲弊した軍隊を)まとまった戦闘部隊として再建することができる同盟国:ロシアの存在によって、イドリブにおける政府軍の最終的な勝利は(将来の内戦の過程で)予期せぬ出来事が起きないかぎりは確実と思われます。

 DanMorant Mathieucalibreobscura.comCalibre Obscura の協力に感謝を申し上げます。

[1] #PutinAtWar: Soviet Tanks Reactivated in Russia’s East https://medium.com/dfrlab/putinatwar-soviet-tanks-reactivated-in-russias-east-a81a111051a1
[2] Russia has dug out another trainload of T-62M and T-62MV tanks from their depots. This time near Ulan-Ude https://russia.liveuamap.com/en/2019/27-may-russia-has-dug-out-another-trainload-of-t62m-and-t62mv
[3] https://twitter.com/MathieuMorant/status/1193848312283185152
[4] https://twitter.com/calibreobscura/status/1167187591843733505 and https://twitter.com/CalibreObscura/status/1166616999801315329
[5] https://twitter.com/obretix/status/1185924505413308423
[6] https://twitter.com/Danspiun/status/1225539780118827009


 ※  この翻訳元の記事は、2020年2月9日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
   により、本来のものと意味や言い回しが異なったり、割愛している箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。 

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2020年2月1日土曜日

忘れられた軍隊:沿ドニエストルの小さなタンクバスター


著:ステイン・ミッツァー(編訳:Tarao goo

 トランスニストリア、公式には沿ドニエストル・モルドバ共和国(PMR)と呼ばれているこの国は、1990年に沿ドニエストル・ソビエト社会主義共和国として独立を主張して続く1992年にモルドバから離脱して以来、隠れた存在であり続けている東ヨーロッパの分離独立国家です。

 1992年に武力紛争が終結したにもかかわらず、沿ドニエストルの情勢は非常に複雑です。この離脱国家は(平和維持活動で軍隊を残留し続けている)ロシア連邦への加入を希望している一方で、わずかな生産物の輸出をモルドバに大いに依存し続けており、それが経済産出量となっているためです。それにもかかわらず、沿ドニエストルは独自の陸軍だけでなく空軍すら保有する事実上の国家として機能しています。

 注目すべき発展は沿ドニエストル独自の軍需産業で見ることができます。そこではモルドバ内戦中に非常に活発的となり、モルドバ軍に対して使用する装甲兵員輸送車(APC)や複数の多連装ロケット弾発射機(MRL)を含むさまざまなDIY兵器を生産していました。停戦後、この軍需産業はこれまでに旧ソ連製兵器のストックを置き換えることができなかった沿ドニエストル軍の運用状況を維持する上で重要な役割を果たそうとしました。

 この状況を改善するために国内で多くの動きがありましたが、程なくして沿ドニエストルは少なくとも(その時点で)軍が使用できる装甲戦闘車両(AFV)の寄せ集めを埋め合わせるために独自のAFVの製造を始めました。私達は既に以前の記事で「BTRG-127 'バンブルビー'APC」と「プリボール-2」多連装ロケット砲を取り上げていますが、今回紹介する車両はその珍しさと可愛らしい姿でそれらの一群に歓迎すべき追加となります。

 滅多にお目にかかれないソ連のGT-MU軽多目的装甲車がベースである「小さなタンクバスター」は、小さくて軽快なプラットホーム車両とSPG-9 73mm無反動砲(RCL)を組み合わせたものです。そして、この組み合わせは不用心な敵に対する待ち伏せや車両や要塞化された構造物、集結した敵歩兵に対する火力支援任務に理想的に適した移動プラットホームを形成します。

 2018年11月にT-64BV戦車や対戦車砲、重迫撃砲と共に火力演習に参加した状況から、少なくとも3台が運用状態にあることが確認されています。


 今日の世界ではGT-MUが登場することは極めて珍しいので、このキャッチしにくい車両の存在自体を知る人は殆どいません。

 それにもかかわらず、同車はSPR-1移動式電波妨害システムを含むいくつかの高度に特化された派生型のプラットホームとしても使われました。SPR-1は電波妨害によって迫撃砲や野砲から発射された砲弾の近接信管を電波妨害によって無力化するシステムで、ソ連、チェコスロバキア、ハンガリー、シリア、東ドイツで運用されましたが、東ドイツではたった2台だけしか入手していません。小火器や砲弾の破片から上手く防護されているため(注:装甲自体は同じため)、同車は偽装網がかぶせられていると通常のGT-MUと判別が難しくなり得ることでその悪名をとどろかせています。

 GT-MUがどのようにして沿ドニエストルの手に入ったのかは過去にこの地域に駐留していたソ連地上軍第14軍の装備編成から知ることができます。ソ連崩壊後、軍を形成していた多くの兵員と装備は駐留していた地に新しくできた国家に属するようになりました。沿ドニエストルが支配地にある武器貯蔵庫を掌握した時点で歩兵戦闘車両や(自走式を含む)野砲は殆ど残されていませんでしたが、大量の特殊車両を引き継ぐことができました。

 このような経緯で沿ドニエストル軍は突然として明確な用途が定まっていない大量のGT-MUの所有者となったのです。しかし、GT-MUは当初から多目的プラットホームとして設計されていたため、沿ドニエストルは同車のいくつかを砲兵・MRL部隊の指揮観測車に転換し、残りを砲兵の牽引車や今では即席の対戦車車両として採用しています。



 結果として得られた車両は沿ドニエストルの軍需産業によって大量生産された他のDIY装備群よりは間違いなく革新的ではありませんが、「タンクバスター」の武装は同国のもっともらしい唯一の宿敵が運用しているAFVに対処するには十分でしょう。

 その理由は簡単で、(数年前に戦車を退役させた)モルドバ軍が実戦に招集できるAFVはSPG-9の73mm HEAT弾に対する防御力が貧弱な軽装甲車両:BMD-1 IFVしかないからです。    

 「小さなタンクバスター」の上部に取り付けられたSPG-9は同砲の両側にある2つのハッチから一名の乗員が操作をします。もちろん、装填も可能です。実際のところ、妥当な射撃速度を持続させるために車内の兵員用区画から操作する装填装置が必要になります。

 兵員用区画は多くの砲弾が収容できるように改修されている可能性が高く、それはこの車両が戦場で射撃し続けることを確実なものにします(注:すぐに弾切れになって戦闘の機会を逃す状態にはならないということ)。


 確かにこの対戦車型GT-MUは現代の対戦車車両よりも性能は劣っています。それにもかかわらず「可能性を秘めた小さなタンクバスター」は全くコストをかけずに沿ドニエストル軍の火力を増強する面白い試みであり、自称「共和国」が分離独立国家しての地位を存続させるために必要な措置の一環と言えるでしょう。

 ※  この記事は、2020年1月24日に本国版「Oryx」で投稿された記事を翻訳したもので
  す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なったり、割愛してい
  る箇所があります。


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2020年1月29日水曜日

書評:「中東におけるMiG-23(著者:トム・クーパー)」


著:ステイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)

 多くの軍事愛好家は興味を持ったあらゆる(過去や現在の軍事情報を扱った)本を自身の増殖し続けるコレクションに追加するため、地元のマーケットや書店巡りに多くの時間を費やしています。それでも、主に第二次世界大戦後の軍事を扱ったヘリオン&カンパニー社の@ウォーシリーズ(アフリカアジア中東南アメリカヨーロッパの地域ごとに分割してシリーズ化したもの)については人々に全く知られていません。

 私たちOryxが執筆した北朝鮮の軍隊に関する本も4冊のうち3冊(0巻:5軍総合、1巻:陸軍・特殊作戦軍、2巻:空軍・海軍・戦略軍、3巻:対外工作・インテリジェンス)はアジア@ウォー・シリーズに含まれますので、私たちの関心は明らかにほかのシリーズにも惹かれます(注:私たちの本は2020年9月25日に発売され、日本語版も2021年9月3日に発売されました)。

 この新しいコーナーでは、私たちのお気に入りの@ウォー・シリーズの書籍をその知名度を上げることを目的で何冊か取り上げます。もちろん、自分たちの本に関する過剰な宣伝もここで取り扱うでしょう。この書評のコンセプトは本の全体を最初から最後まで説明するよりも人々に好奇心を生じさせてさらに読むことを促すことにあるため、私は常に簡潔でネタバレなしでレビューを心がけます。

 さて、私たちの書評は「中東におけるMiG-23(著者:トム・クーパー、出版:英ヘリオン&カンパニー)」から始まります。

  • タイトル: 「中東におけるMiG-23:アルジェリア、エジプト、イラク、リビア、シリアにおけるミコヤン・グレビッチ MiG-23の運用 1973-2018(原題:MiG-23 Flogger in the Middle East, Mikoyan i Gurevich MiG-23 in Service in Algeria, Egypt, Iraq, Libya and Syria, 1973-2018)」
  • 出版日: 2018年1月
  • 製本形式: ペーパーバック(ソフトカバー)
  • サイズ: A4
  • ページ数: 72
  • 写真: 91点のモノクロ写真と3点のカラー写真 
  • アートワーク(イラスト): 20点
  • 英語を母国語としない読者向けのテキストの理解度: 優良

 レビューを始める前に@ウォー・シリーズの要旨を説明しなくてはなりません。このシリーズはアフリカ@ウォー・シリーズによって設定されたパターンにしたがって、アジア、アフリカ、中東、南アメリカにヨーロッパと範囲を拡大していきました。これらの大陸における軍事力と武力紛争に関する一連の綿密な研究を読者に提供します。

 冊子が出るごとに、@ウォー・シリーズは第二次世界大戦前後の南アメリカにおける忘れられた戦争からシリア内戦やイエメン内戦といった現在の紛争に至るまで読者に必要な最新情報(――そしてもちろんすぐに、あなたが知りたいと思っていた朝鮮人民軍についてのすべても)を提供するレベルまで本当に素晴らしく成長しました。


 ヘリオン&カンパニー社の@ウォー・シリーズの哲学は至ってシンプルです:歴史家とアナリストに手を差し伸べ、(いくつかの場合、そうしなければ彼らのコンピューター内だけに留まっていたであろう)彼らの研究データを印刷して持ち込むことを依頼することによって専門知識の普及に努めることです(注:@ウォー・シリーズが紹介しない限り、これらの研究成果は決して世間で共有されなかっただろうということ)。

 世界の片隅における、忘れられた武力紛争に関する研究は殆どの出版社によって無視される傾向にありました。仮に本が出されたとしても十分な利益をもたらさないことが不安視されていたからです。@ウォー・シリーズはこの常識に挑戦しています。

 通常、このシリーズの本は4万字以上の文字(注:文章などの量が多い場合は分冊化される傾向にあります)と素晴らしいカラーのイラストと今まで公開されていなかった写真(注:大半はモノクロ写真)から構成されており、A4サイズの本にきちんと詰め込まれていてます。これらはいかなるオンライン上でできたことよりも徹底して題材に精通するための情報に簡単にアクセスできる方法を提供してくれます。

 このブログの忠実な読者の圧倒的大部分は特に装備や戦闘に関する情報に興味を持っているため、あなたは軍隊の組織構造、装備、能力、戦術や作戦に焦点を当てた@ウォー・シリーズに納得できるはずです。各本は飛行機や車両、艦船や兵士などのカラー・イラストによって詳細に説明がなされています。


 それでは本題に戻りますが、あなたなら中東でのMiG-23をどのように紹介しますか?
 過去と現在における中東と北アフリカにあるいくつかの空軍の主力を形成した飛行機について、あなたはどこから解説を始めますか?アルジェリアからですか?エジプト?それともイラクですか?トム・クーパーは最終的MiG-23に至るソビエトの最高司令部が定めた要件とその設計理念がすぐに運用者となるであろう中東と北アフリカの運用者のもとと必ずしも一致していなかった理由から始めます。ここで設計された理由などを理解することができます。 

 MiG-23はイラン・イラク戦争ではイラク側で大量に使用されましたが、ほかにもイスラエルといった宿敵との対峙やリビア機が米海軍とにらみ合っていたので、中東における同機の歴史は1970年代半ばまで遡ります。より最近では、リビアやシリアでの内戦に投入され、今日まで散発的に使用されています。

 戦歴を考察してみると、中東各国の空軍で運用されたMiG-23の派生型はひどいMiG-23MSから非常に好評だったMiG-23ML(D)や間違いなくシリーズの中で最も威勢のよいMiG-23BNまでカバーしていました。リビア、イラク、シリアは冷戦中に輸出されたほぼ全てのMiG-23の派生型の受領者だったため、(各国の運用状況は)初期から後期型のフロッガーの戦歴と特徴を比較することに役立ちます。

 MiG-23の新しい派生型は様々な能力を向上させる方策の中でレーダーとアヴィオニクスの改良を得ていますが、(近隣諸国との絶え間ない紛争に携わっている)中東の運用者は頻繁にその新しい派生型を最初に戦闘でテストしました。 現在では北朝鮮が世界で最も多くのMiG-23を保有している運用者なので、それらを発見することは今日でも非常に重要です!

 この本はイラクとシリアによる(非常に成功したり、失敗した)MiG-23近代化計画についても取り上げています。例えば、フランス製エグゾゼ空対艦ミサイルとフロッガーの組み合わせや1990年代に多国籍軍がイラク上空に設けた飛行禁止空域やその付近で行われた空中戦でアメリカ製AIM-120アムラームの命中を防いだ、フランス製ミラージュF1や保管されていたSu-22が装備していた機器で改良を受けたMiG-23MLなどです。

 中東と北アフリカで使用されているMiG-23の詳細と戦歴は一気にいくつかのニッチな題材になんとか軽く触れることができると主張する人がいるかもしれません。しかし、トムはそれらと何が起こっているのか理解するのに十分な(バックグラウンドにある)情報を脱線しすぎず、目の前にあるテーマから逸脱せずに結びつける上で素晴らしい仕事をしました。

 結果として得られる本文はあなたにシリア内戦におけるMiG-23に関する知識を与えるだけでなく、SyAAF(シリア空軍)の全体に対する独自の見識を提供します。これは一石二鳥です!

 さらに本文は各国の迷彩パターンで塗装されたMiG-23各型を紹介する20点の美しいアートワークによって補強されています。眺めるだけで楽しませてくれることは別として、これらのアートワークは必ずしもソビエト製RBK・FAB爆弾だけで構成されていなかった彼らの装備について興味深い詳細情報を明らかにできます。あなたはアルジェリアのMiG-23BNが(アメリカで設計されて)南アフリカで製造されたMk.81 とMk.82爆弾を装備していたことをご存じでしたか?ご存じない?私も全く知りませんでした。


 本文の中で言及・説明されている戦術や場所はイラストと地図によって上手に下支えされています。シリア内戦における戦域を反映したシリアの地図はありませんが、現在ほぼ全ての携帯電話にインストールされているグーグルマップの存在を踏まえると、それはたいした問題にはならないでしょう。


 全体から見ると、「中東におけるMiG-23」は(そのテーマに関して)非常に完成された本になっていますが、豊富で有益な内容を快適に読める方法で読者に提供することを成し遂げています – この種の本にとって賞賛に値する偉業です。
 将来はこういった本がさらに多く出版されるできたらと願うばかりですが、@ウォー・シリーズで出版される本の数は年々増加していますので、それはきっと実現するはずです!

 この本は ヘリオン社のウェブサイトにて約2,040円(£16.95 )で注文することができます。気をつけて欲しいのは、あなたがヘリオン社から本を直接購入することは他のオンライン・ストアで購入するよりも多くのお金が著者と出版社の手に渡ることを意味することです。それは著者の仕事をさらにサポートして、結果的により多くの本がリリースされる可能性を増やすことになります(注:通販サイトを介して購入した場合、ヘリオン社に行き渡る利益が直接購入するよりも少なくなるとのことです)。

 ※  当記事は、2020年1月24日に本国版Oryx(英語)に投稿されたものを翻訳したもの
  です。意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なったり、割愛している箇所
  があります。