この車両はデリゾールでシリア軍に奪われており、画像には乗員と共に同車が映し出されています。この改修された車両は捕獲された直後に近くの政府側のチェックポイントに移動させられ、放棄されました。このチェックポイントは後にISによって制圧され、他で使用するために23mm機関砲が取り外された同車も
ハイル州のBMP-1に行われた最近の改修では、同州のいくつかの戦車に見られる装甲の改修を連想させるような装甲防御力への単純な追加策が見られました。これにはサイドスカートの装着、土嚢やその他の物を入れた砲塔周囲へのフレーム、そして車両の後部に取り付けられたスラット・アーマーが含まれています。
以前はおそらくAPCとして使用されたと見られるBMP-1は後の2016年6月にVBIEDになり、デリゾールで２回目に確認されたBMP-1 VBIEDの使用例となりました。この車両の砲塔は機関銃の装備や乗員の小火器を使用するために、前面を空けて溶接された非常に粗雑な鋼板の列に取り替えられました。
このBMP-1の標準的な装甲防御力は、車両の後部と両側面のスラット・アーマーによって強化されました。このスラット・アーマーの取り付け部分は、上のBMP-1とは違って以下の車両で目撃されたように以前の配置から置き換えられたようです。
別の装甲強化型BMP-1はAPCに改修されました。上の車両とは対照的に、このBMP-1には取り外された砲塔の代わりに何も装備されていないようです。スラット・アーマーの配置は上の車両と同じであり、車体の装甲に対する貧弱な取付け部分をはっきりと見せています。
このBMPの背後には大型トラックの車台をベースにしているように見える興味深い別の車両が見えますが、現時点ではその詳細がはっきりしていません。
いくつかのBMP-1はデリゾールのISによって本来の用途（
IFV）で引き続き使用されています。ほとんどの車両は改修されていないままでですが、いくつかは先の例と同様のスラット・アーマーが装備されており、各車両の間には小さな差異があります。
下の車両は側面のスラット・アーマーを失っており、敵弾が命中したか何かに衝突して外れ落ちた可能性があります。このようなスラット・アーマーの取付け部分は特に頑丈ではありませんが、たった1発の命中弾を受けた後も外れ落ちることはないと思われます。
スラット・アーマーを砲塔に装備した状態では、この車両は「工廠」によるBMP-1の改修型と偶然の類似性がありますが、その質はかなり劣っています。
VBIEDや先のAPCのケースのように転用されたBMP-1は、よくその改修の過程で砲塔が撤去されました。
しかし、砲塔とそれに付随する
2A28「グロム」73mm砲はほとんど無駄になることはありません。
その一例を下に見ることができます。このトヨタ・
ランドクルーザーには今や余剰となった砲塔のうちの1基が搭載され、IS戦闘員に火力支援用の機動プラットフォームとして与えられました。この車両に付与された「ブラック・スクエア」には、الدولةالإسلامية - 'イスラミック・ステート'、جيشالخلافة - 'カリフ制軍'（ジャイシュ・アル・ファリーファ）と記載されており、更に固有のシリアル番号が加えられています。
ハイル州では、主力戦車（
MBT）の改修はこれまでいくつかのT-55とT-62に限られていました。デリゾールではほとんどの戦車は元の状態で運用され続けるか、ISの捕獲直後にVBIEDに転用されたのです。ほかの戦車が本来の用途で使用され続けている一方で、一部の戦車がVBIEDに転用された正確な理由は不明のままです。
戦車が完全に無傷であっても、自爆任務に使用されているように見えます。それにもかかわらず、戦車の重装甲はその積載物を起爆させる直前までに、それらを指定された目標に向かわせることができる点では理想的に適合していました。
戦車の改修対象のほとんどは、デリゾールにいるISで最も多く運用されている戦車であるT-55に限定されていました。
下のT-55は、車体の両側面に鋼板、砲塔の周囲に装甲を向上させることができる、さまざまな物質を積み込むことが可能になるフレームを追加することで改修されました。これには土嚢からゴム板、さらには板でさえ装備可能です。戦車に搭載された著名な
北朝鮮のレーザー測距儀（LRF）は、下の画像で見ることができる。
砲塔への付加物の搭載はデリゾールで行われた最も基本的な改良の1つとして数えられており、そのような即席の「改良」装甲のシンプルさは下のT-55に見られるように誇張することはできません（注：文字どおりということ）。
この戦車にも粗雑なスラット・アーマーが装備されたように見えますが、ある時点で外れ落ちたはずです。
下の
T-62のフレームには何らかのスポンジ状の物体が追加された状態のようであり、それは確かに装甲防御力を向上させるための興味深い選択といえます。
戦車は完全に再塗装され、背面に「ブラック・スクエア」が施されています。読みづらいものの、
タドムルの近郊で
破壊されたT-55にも「ウスマーン・イブン・アッファーン師団-アル・ハンサ兵員局」と書かれた同様の「ブラック・スクエア」が発見されました。
このT-62は過去数ヶ月にわたり3つの異なる機会に目撃されており、引き続きデリゾールで運用される姿が目撃される可能性があります。
シリアでよく見かける土嚢は、どのAFVに対しても装甲防御力を向上させるための迅速かつ安価な方法として使用されています。この目的のために、たいていは金属製の囲いがその支持フレームとして機能するように砲塔の周囲に装備されます。
土嚢は戦車の前部に簡単に付けることが可能ですが、これは言うまでもなく側面に装着する場合と比較するとはるかにやっかいなものです。
シリアの各勢力の間で非常に普及したもう一つのあまり洗練されていない解決策は、砲塔の周囲に使用済みの薬莢を取り付けることです。
下の画像では、各薬莢がロープで一緒に固定されているように見えます。サイドスカートは鋼製またはスチール製のプレートで補強されており、車体下部の装甲板も同様に補強されています。
戦車の装甲の僅かな部分だけに寄与する上に被弾するのは比較的少ない箇所とはいえ、
DIYによる装甲の改修では車体下部の装甲板がよく見落とされがちです（注：画像の車両では対策が施されている）。この戦車の新しいマッドガード（注：フェンダー部上面）を作成するための素材として、金属板も使用されています。これはオリジナルのものが比較的脆く、シリアの戦車には欠落していることが多いことが理由です。
デリゾールで運用されている改修されたAFVはハイル州にある工廠の「製品」ですが、ほかの場所からも持ち込まれています。実際、ラッカ州の「工廠」によって改修されたAFVはデリゾールで何度か目撃されていました。
ISの戦力は米国主導の有志連合による絶え間ない空爆の脅威にさらされていますが、彼らは依然として探知されずにシリアとイラクの各地へ機甲戦力を移動することができます。
この一例は、2014年10月にシャエル田（ガス田）の近くでシリア軍から
捕獲した
2S1グヴォズジーカで、後にデリゾールのシリア軍に対して使用されたことが
確認されました。イラクで以前に捕獲された少なくとも1台の米国製
ナビスター・インターナショナル7000シリーズ（トラック）も同地域で活動しており、2015年5月にデリゾールでの戦闘とアル・スナスフ及びタドムル（パルミラ）に対する最初の攻勢に参加した
姿が見られました。
デリゾールでISが使用している「工廠」によって改修された車両には、上に見られるBMP-1の砲塔を装備したトヨタ・ランドクルーザーと装甲強化型T-72M1及びBMP-1が含まれています。後者は、2015年後半に市の東側にある政権側の拠点に向かって前進している際に撃破されました。これらの車両は、
ラッカ州の「工廠」のDIY改修車両に関する記事で広くカバーされる予定です。
デリゾールのISは火力支援として多種多様な戦車や他のAFVの使用することに加えて、いくつかの大型トラックを
AZP S-60 57mm機関砲や
D-30 122mm榴弾砲 を追加することによって火力支援車両に変えました。これらの車両の大半は重（火器）大隊によって運用されており、車両のキャビンに塗装された「ولاية الخير كتيبة الثقيل：ハイル州-重（火器）大隊」の文字によって容易に識別できます。
トラックに搭載されたD-30 122mm榴弾砲はハイル州における数少ない火砲の改修プロジェクトの1つです。このプロジェクトに関しては、今までは改造される以前に破損していた可能性が高い短砲身の
M-46 130mm野砲だけしか知られていませんでした。
BMP-1を使用して兵士を最前線に運ぶ以外にもブルドーザーやトラックをベースにした装甲兵員輸送車もデリゾールで活動しており、空軍基地の東への攻撃の先頭に立つ姿をここで見ることができます。上部には
DShK 12.7mm重機関銃または
KPV 14.5mm重機関銃を搭載している可能性がある砲塔があり、乗員および兵員が外を見ることができるいくつかの視界窓も標準装備されています。側面の鋼板と背面の非常に初歩的なスラット・アーマーは、この車両にある程度の防御力を付与します。
デリゾール市の中心部から残残する政府勢力を追い出すための取り組みで、ISはトンネル爆弾からブルドーザーをベースとした巨大な武装VBIEDの使用までのすべてを試みました。
後者のいくつかは下の画像で見ることができます。
（特性ゆえに）低速に悩まされますが、これらの車両は追加装甲を付与されると信じられないほど耐久性を得ることができます。それに加えて、ブルドーザーのブレード（排土板）は持ち上げたときに追加装甲としても機能します。
これらのVBIEDのほとんどは、「
神からの支援と差し迫った勝利（3）」に登場したものだです。これらの車両の大部分のスラット・アーマーの配置は以前に見つけられたBMP-1のものと非常に似ているので、同一の工廠が両方の改修を担当した可能性があります。
今では明らかなとおり、ハイル州の工廠は見た目よりも実用性の方を好むようです。
別のブルドーザベースのVBIEDに関する映像では、装甲の使用状況がはっきりと見えます。
さらに興味深いことに、運転席の近くに積載された爆発物の一部も見ることができます。
アブ・アマル、アブ・フセイン、アブ・アル・バラーを含むいくつかの名前が追加装甲に書かれていますが、これらは間違いなくIS戦闘員の名前でしょう。
下の装甲強化型ブルドーザーは、デリゾール市内の中心部へ進む際に補強されたブレードをシールドとして使用しているように見えます。操縦手がどこへ向かっているかを見ることができるように、（ブレードの）装甲に2つの切り欠きが設けられています。
実用性はさておき、拠点に向かって前進するこうした巨大な姿が見えることはシリア軍守備隊にかなりの心理的影響を与えたはずです。
重装甲でも、デリゾールのすべてのVBIEDがその目標を達成したわけではありません。
少なくとも2台のブルドーザベースのVBIEDが積載物を起爆させる機会を得る前、つまり目標に到達する前に破壊されたことが知られています。
近くでの爆発が守備隊のいる建物に甚大な被害を与える可能性があるため、これらの巨大なVBIEDの早期発見は最も重要です。
下のVBIEDを撃った弾は少なくとも2つの装甲を貫通しましたが、それが車両自体に到達したかどうかは不明です。ただし、このVBIEDは敵弾が命中する前に立ち往生して放棄された可能性が高いと思われます。
トラックをベースにした装輪式VBIEDはハイル州でも普及しており、そのほとんどは市内中心部よりも市の郊外で使用されています。
興味深いことに、このトラックは後部に荷台を設置することによってダンプ車に改修されたように見えます。この貨物車は現在、VBIEDの爆薬を運ぶために使用されています。
実際、ダンプトラックは運転席に座っている運転手と分離して多数の爆薬を運ぶことができるために人気があります。この車両のスラット・アーマーは鋼板に直接取り付けられており、間隔が無いために命中した命中弾を妨害する効果が生じないことから、それがどのように機能するか理解が不足していることを示しています。
デリゾール市の中心部で重装甲強化型のブルドーザーを使用することに加えて、デリゾールのISは内戦で戦車ベースのVBIEDを初めて使用しており、既に2014年後半に最初の車両が投入されました。
このT-55ベースのVBIEDは依然として砲塔を装備していますが、使用時に市街地の通りを簡単に進むことできるように主砲が撤去されました。少なくとも4台の戦車ベースのVBIEDがその後に続きました。
この画像には、BMPベースのVBIEDとともに目標へ送り出された乗員も映っています。どちらの操縦手もとても若く見え、10代後半か20代前半と思われます。
シリア内戦に関与するすべての勢力が戦闘で子供を利用しており、ISは兵力不足を解消するために若い戦闘員の徴募を増加させています。
高度に改造されたBMP-1はVBIEDとしても使用されました。
この画像では新しく設けられたドアの背後に積載された爆薬を映し出しています。
VBIEDとして使用されることが決まっているBMP-1から後部ドアを1つ、または時には両方取り外すことは一般的な慣行ですが、撤去の背景にある正確な理由は現時点では不明のままです。
少なくとも2台のBTR-50PU指揮統制車もデリゾールでVBIEDとして終わりを迎えました。
シリアのBTR-50の大部分は内戦の開始前に退役になっており、過去6年間で極めて稀にしか見られませんでした。
ハイル州にある他のVBIEDの多くとは対照的に、これらのBTR-50はデリゾールに到着する前にラッカ州の「工廠」によってオーバーホールや改修をされたと考えられています。
後に別のT-55ベースのVBIEDが見られましたが、この時は空いたスペースに大きな積載物（注：爆発物）を搭載できるようにするために砲塔が撤去されています。その結果として戦車にもたらされた低車高は、飛来してくるRPGを回避し、VBIEDが目標を達成する確率を向上させることにも好都合です。
同車の爆発は
ここで見ることができます（3:26秒）。
上のBTR-50と同様に、このT-55ベースのVBIEDも「工廠」によって改修されたと考えられています。
これらの戦車ベースのVBIEDによって与えられた大規模な爆発と被害に関しては、プロパガンダ映像のシリーズ「神からの支援と差し迫った勝利」（クルアーン61:13）で
最初のものが映し出されました（5:24秒）。
目標に達する前のT-55に守備隊の1人によって発射されたRPGが実際に命中しましたが、装甲を貫通することに失敗しました。その時点で防御側の運命はすでに逃れられないものだったが（注：爆発の被害から避けられないということ）、装甲はVBIEDの成功の重要な要素であることが示されています。
2016年９月１日、ISはデリゾールで任務を果たす直前のイスティシュハーディーズ（自爆者：いわゆる殉教攻撃者）に関するいくつかの画像を公開しました。VBIEDとして使用されている車両の選択は、いくら控えめに言ってもデリゾールの装甲戦力の現況を反映したものではありませんでした。
公開されたものには下の装甲強化型のT-62 VBIEDが含まれ、アブ・アル・ハリス・アル・アンサリによって目標に突入しました。
最初の
ZSU-23-4ベースのVBIEDはアブ・ヤママ・アル・アンサリによって使用されました。これによって生じた爆発は下の画像で見ることができます。
同車に装備されたスラットアーマーの支持部はBMP-1の一部に見られる配置と同様に見えます。
VBIEDへの改修中に装備していた4門の23mm機関砲は取り外された可能性が非常に高いようですが、
RPK-2 「トボル」レーダーはまだ搭載されていました。
以前に鹵獲された
2P25輸送起立発射機(TEL)はデリゾール周辺における
2K12地対空ミサイル（SAM）の基地に所属していた車輌のうちの一つであり、これもVBIEDとして使用されました。上記のZSU-23-4と同様に、2P25をVBIEDとして使用されたことはSAMシステムがこのような任務に初めて使用されたケースとなります。この2P25の操縦手はシリア・ハラブ州（
アレッポ）のアブ・オマール・アル・ハラビでした。
ISがアイヤッシュ兵器庫を
制圧した後に捕獲された2台の
BREM-2装甲回収車（ARV）のうちの少なくとも1台は、後にVBIEDとして使用されました。この改修はどこか他の場所で使用される機会があったかもしれない、BREM-2のクレーンを撤去したにすぎませんでした。
ISはこれらの車両を本来の用途で使用していないし、シリア軍でさえ
ZPU-4 14.5mm機関砲や
M-1939 37mm対空機関砲を搭載した武装車両に改修しています。
BREM-2がいかなる主力戦車（MBT）も牽引することができず、十分な
VT-55KSと
BREM-1 ARVを保有しているため、BREM-2はシリアにおける武装車両としての運命が事実上決定されました。
ハイル州のVBIEDの外見は既に奇怪ですが、デリゾールとその周辺におけるいくつかの装甲強化型テクニカルは真に恐ろしいといえます。
これらの車両には前面と側面の周りに鉄板が継ぎ合わさって装備されており、時には前方にスラット・アーマーが取り付けられている車両もあります。
このような車両はハイル州の工廠ではなく、ISの大隊自身によって作られた可能性が高いと思われます。
ISによる多くのDIYプロジェクトの発祥地であるデリゾールの掌握を巡って、シリア軍とISの間で争いが続けられています。現時点（注：2017年３月）では、どちらの勢力も現在のところお互いに撃破することができず、今では全ての目がシリア北部からゆっくりとデリゾール市に前進しているシリア民主軍（SDF）に照準を合わせているようです。
SDFによるこの地域へのさらなる攻撃は、ISに兵力を市街地からその地域の防衛に割くことになるので、最終的には政府勢力がデリゾールを獲得することになるででしょう。
あるいは、親アサド勢力がタドムルの最近の成功（注：奪回）の勢いをアル・スナスフへの攻撃の拠点とデリゾール奪回に利用して、長期的に見れば同じ結果をもたらすかもしれません。
それまでは、デリゾールの戦場にますます洗練されたDIYプロジェクトが必ず出現し、シリア内戦の典型となった広大な非対称戦を絶え間なく拡大させていくでしょう。
