2022年9月8日木曜日

アシガバートの「ス-パーツカノ」: トルクメニスタンが「A-29B」攻撃機を公開した



著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルクメニスタンは様々な種類の新型戦闘機や輸送機の導入による空軍の近代化を目的として、野心的な再装備プログラムに乗り出しています。その新型機には、イタリアから発注した「M-346FA」軽戦闘攻撃機や「C-27J NG」輸送機が含まれています。

 導入が見込まれていたもう一つの導入機が、これまでに世界中の15カ国以上で購入されたブラジルの「A-29B "スーパーツカノ"」ターボプロップ軽攻撃機です。トルクメニスタンは人気の高い攻撃機の獲得を視野に入れていると以前から噂されており、2019年の短期間に1機の「スーパーツカノ」が同国で試験されたことがありました。

 5機のA-29Bの導入は、トルクメニスタンがアフガニスタンと接している長さ804kmの東部国境沿いにおける治安状況の悪化に直面していることに伴ったものです。

 アメリカがアフガニスタンから撤退した後、この地域の諸国は国境を守ることを急いでいますが、トルクメニスタンはすでに2010年代の初頭から軍の戦力向上に重点を置いた投資を行っていました。

 国内外の脅威に対処するために現代的な装備のストックを大幅に増やして訓練を強化したことを別として、その成果は、中国から数種類の無人戦闘航空機(UCAV)を導入したり、既存の「Su-25」飛行隊の大半をオーバーホールすることでも実現しました。

 アフガニスタンの状況が近い将来にどのように展開し続けるのかを予測することについて、まだ今の時点では困難ですが(注:この記事の執筆はカブール陥落の前に執筆されたものです)、紛争がトルクメニスタン自体を台無しにする恐れがある場合に備えて大規模な国境防御部隊が待機しているなど、トルクメニスタンは現時点で国境沿いにおける紛争が激化する可能性に対処するための最善の準備をしていると言えるかもしれません。

 最も注目すべきこととしては、トルクメニスタン軍は対反乱作戦(COIN)戦術に重点を置いていることと、この地域では数少ない地上目標に対して最新の精密誘導爆弾(PGM)を使用する能力を持つ国の一つであるということがあります。

 さまざまなガンポッド、無誘導ロケット弾、汎用爆弾を使用できることに加えて、「A-29B」は幅広い種類のPGMを搭載することが可能なので、同機はこの分野におけるトルクメニスタンの将来の戦力をさらに強化することに貢献するでしょう。


 トルクメニスタンに到着する前の2021年5月から6月にかけて、カーボベルデ、スペイン領カナリア諸島、ポルトガル、マルタ、そしてトルコを経由して同国へ向かった際の5機が広範囲にわたって撮影されました。[1] [2]

 トルクメニスタンに属する機体であることを示すラウンデルやマークは注意深くテープで隠されていました。しかし、マルタ島のルア空港に立ち寄った際に「A-29B」の尾翼にトルクメニスタン空軍のラウンデルがあることを、大型レンズ付きのデジタルカメラで「武装」した航空機スポッターによって明らかにされてしまいました。[3]

 これらの5機は、フィリピン空軍の「A-29B」でも採用されているものをベースにしたように見える迷彩パターンが施されています。この国々では運用する地域の特性や気候が全く異なっていますが、トルクメニスタン空軍は大半の機体にカラフルな塗装を施していることで知られています。この傾向は、今や「A-29B」や同様に新たに導入したばかりの「M-346」M-346「C-27J NG」にも引き継がれているようです。

 5機のA-29Bは青色で「01」,「02」,「03」,「04」,「05」とシリアルナンバーが付与されており、これらは2021年8月1日にトルクメンバシ国際空港を訪れたトルクメニスタンのグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領(当時)による視察ツアーの放送で初公開されました。

A-29B「青色の02」の視察を終えたグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領(当時)

 2019年6月、エンブラル社の「EMB314 "スーパーツカノ"」のデモンストレーション機「PT-ZTU」がトルクメニスタンでデモ飛行を実施しました。

 当時、トルクメニスタン空軍は再装備プログラムのために多数の西側製航空機の導入を検討していたことから、同機や「M-346」、「C-27」、そして「C-295」がそれぞれのメーカーによって同国に売り込むために持ち込まれたのです。

 持ち込まれた機種のうち、どうやら「C-295」だけは調達されていないようです。この機体の導入がまだ計画されているのか、あるいは最終的にイタリアの「C-27JNG」に敗れて頓挫したのかは不明のままです。



 「A-29B」と共にさまざまな種類の搭載兵装も数多く導入されました。これには、主翼内に搭載された「M3」12.7mm 重機関銃2門、70mmロケット弾用の発射ポッド、「BDU-33」訓練爆弾用「SUU-20」ディスペンサー、「Mk-82」500lb 無誘導爆弾、増槽、チャフ・フレア用ディスペンサーが含まれています。

 トルクメニスタン軍に就役した「A-29B」には、(精密誘導爆弾で)攻撃する前に自身の標的を発見・照準することを可能にする電子光学・赤外線センサー:FLIR装置も搭載されています。

 今のところ「A-29B」用のPGMはトルクメニスタンの保有兵器リストには存在していないようですが、将来的には導入されるかもしれません – それはトルコから得る可能性があります。なぜならば、同国は幅広い種類のPGMを製造しており、過去に数多くの兵器をトルクメニスタンに供給してきたからです。



 トルクメニスタンが保有する5機の「A-29B」は、マル市の北部に位置するマル-2空軍基地を拠点にしています。

同基地はマル市周辺に存在する3つの軍用飛行場のうちの1つです:もう1つのマル空軍基地・国際空港は「MiG-29」と「Su-25」の拠点であり、残りの1つは街の中にある、「Mi-17」や「Mi-24」によって使用されているヘリコプター基地です。

 トルクメニスタンではさらに2つの空軍基地に作戦機が恒久的に配備されており、ほかの2つの基地にはSu-25が分遣されています。

 さらにいくつかの空軍基地が運用可能な状態を維持しているため、必要に応じて作戦機を展開させることが可能となっています。アフガニスタンとの国境付近での治安情勢が悪化した場合、例えば、「A-29B」は現時点で2機の「Su-25」が配備されている南部のGalaýmor基地に配備されるかもしれません。

マル-2空軍基地で5機のEMB314「スーパーツカノ」が6機のSu-25と一緒に駐機しています。上に並んでいる退役したSu-17やMi-8ヘリコプター、La-17無人標的機にも注目。

上の画像を拡大図。5機のEMB314の形状がよりはっきりと示されています。

 隣接する多くの国々は老朽化した機体を使用し続けているためにひどく疲弊した空軍を抱えていますが、「A-29B」にM-346軽戦闘攻撃機、そして「C-27J」輸送機を導入したことはトルクメニスタン空軍をこの地域における現代的な空軍の中心に押し上げました。「A-29B」用PGMといった兵装のさらなる導入はこの地位を強化することに貢献し、トルクメニスタン空軍を必要と思われる種類の任務を遂行するための、比較的充実した装備を持つ空軍にさせるでしょう。

 トルクメニスタンの空軍力を増強する動きについては、「A-29B」が私たちが最後に目にするものとならないことは間違いないでしょう。例えばトルコから「バイラクタルTB2」の導入を通じて別方面の戦力の拡大を図ることも考えられないことはありません(注:その後、トルクメニスタンは実際にTB2を導入しました)。



[1] Delivery flight Turkmenistan Super Tucanos https://www.scramble.nl/military-news/delivery-flight-turkmenistan-super-tucanos
[2] Three more Super Tucanos for Turkmenistan https://www.scramble.nl/military-news/three-more-super-tucanos-for-turkmenistan
[3] Turkmenistan Tucanos! https://milavreachout.org/2021/05/28/turkmenistan-tucanos/

  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
    ります。


おすすめの記事

2022年9月5日月曜日

立ち上がるバイキング:ウクライナに供与されたノルウェーの武器一覧と取り組み


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 欧州諸国の大部分がロシア軍との戦いにおいてウクライナを支援するために一丸となっている中で、ウクライナの継戦能力を維持するための英国とドイツによる努力に多くの注目が注がれています。

 しかし、ノルウェーやスウェーデン、そしてフィンランドといった国々がウクライナに軍事支援を行ったことについては全く報じられていません。これは一部の国の政府がウクライナへの武器供与の詳細を開示しないという決定をした結果でもありますが、 ニュースサイクルでこれらの国々による貢献が取り上げられていないことの方がより普遍的な要因であることは否定できないでしょう。
 
 ノルウェーはロシアによるウクライナ侵攻の僅か数日後に軍事支援の第1陣を供与することを約束したという、60年にわたる紛争地帯への武器輸出の禁止を覆した国です。[1] 

 3月上旬にウクライナに到着したこの軍事支援の物資は、2000発の「M72」 使い捨て式対戦車ロケット砲と5000個のヘルメット、そして1500個の防弾チョッキで占められていました。[2] 

 その翌月には、さらに2000発の「M72」と100発の「ミストラル2」携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)がウクライナに届けられ、三脚に備え付けられた同MANPADSの少なくとも一部は、後にピックアップトラックに搭載されて機動性を得ることができました。[3] [4]

 ノルウェーによるこれまでのウクライナへの支援で最も重要なものは、2022年5月に供与された22台の「M109A3GN」155mm自走榴弾砲(SPG)で、1960年代後半に初めてノルウェー陸軍で運用された「M109A3」を1990年代に改良を加えたものです。

 「M109A3GN」はドイツやオランダが供与した「PzH2000」SPGに比べると旧式で性能も劣るものの、砲弾を最大射程25km先(ロケットアシスト弾を使用した場合は30km)まで撃ち込むことが可能な依然として強力なシステムであり続けています。

 22台もの「M109A3GN」は供与されたウクライナの砲兵装備でも著しい数を占めており、彼らの旧式という弱点はその数で十分にカバーされているのです。 

ノルウェーから供与された「M109A3GN」自走榴弾砲(ウクライナにて撮影)

 ノルウェーはフランスのように未改修の多連装ロケット砲(MRL)を埃まみれにしておくのではなく、イギリスと提携して同国陸軍に「M270」を3台供給し、これを受けたイギリスはより新しい「M270B1」3台をウクライナに譲渡できるようにもしたのです。

 この巧妙な迂回しての供与に続いて、2022年7月下旬にウクライナへ14台のイヴェコ製「LAV III」歩兵機動車(IMV)を寄贈することが発表されました。

 また、ノルウェーは、米国によって調達された2個中隊分の「NASAMS」地対空ミサイル(SAM)システムをウクライナに納入する予定にもなっています。このSAMに搭載される「AIM-120C」ミサイルの射程は25km以上もあるため、高空を飛ぶ目標との交戦も可能にさせます。
 
 国家だけでなく、ノルウェー市民による民間の取り組みもウクライナへの支援に大きく貢献しています。

 (ウクライナ軍に軍事装備や訓練を提供する退役軍人の組織である)「ベテラン・エイド・ウクライナ」はウクライナ支援のための資金を募っており、その活動を通じて、すでに3機のテレダイン・フリアー製「スカイレンジャーR60」VTOL型UAVがウクライナに送られています。[5] 

 彼らは3月にウクライナへ入り、毛布や缶詰などの人道支援物資に加えてリヴィウの病院へ発電機を届けました。2022年7月、「ベテラン・エイド・ウクライナ」は再びウクライナへ戻ってきました。今回、彼らはサーマル照準器とDJI製「マヴィック2 あるいは 3」ドローン10機を提供しました。[5] [6]


 余剰の重火器に関するノルウェー軍のストックはほぼ底をついたようですが、ウクライナが他国の防衛企業から兵器を調達するための資金をノルウェーが提供するなどを通じて、ウクライナ軍への支援を継続する可能性があります。

 「M109A3GN(M)」SPGやイヴェコ「LAV III」 IMV、あるいは「M113」装甲兵員輸送車(APC)が追加的に譲渡されることもあり得ますが、これは当該車両の状態やノルウェー軍のこれらを迅速に置き換える装備の調達能力に左右されると思われます。

保管状態にあるノルウェー軍のイヴェコ製「LAV」歩兵機動車

  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際にノルウェーがウクライナに供与した、あるいは提供を約束した軍事装備等の追跡調査を試みたものです。
  2. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されています)。
  3. 一部の武器供与は機密事項であるため、この一覧は供与された武器の総量の最低限の指標としてのみ活用できます。
  4. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  5. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。

戦闘機

地対空ミサイルシステム

多連装ロケット砲 (MRL)
  • 11 「M270 "MLRS"」 (イギリス陸軍がより新型の「M270B1」11台をウクライナへ供与可能とするため、その穴埋めとしてイギリスに引き渡し)

自走砲 (SPG)

戦車

歩兵機動車 (IMV)

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両


携帯式地対空ミサイルシステム (MANPADS)

沿岸防衛システム

レーダー

無人航空機 (UAV)

工兵・支援車両

対戦車兵器

弾薬

衣服・個人携行品
  • 5,000 「HJELM」型ヘルメット [2022年2月]
  • 1,500 ボディアーマー [同上]
  • 1,000 防毒面 [同上]
  • 55,000 防寒着 [2022年11月]
  • 暗視装置 [2022年7月か8月]

その他の物資や装備品
  • 55,000 包帯 [2022年11月]
  •  暗視双眼鏡 [2022年7月か8月]
  • 45,000 レーション (MRE) [2022年2月と11月]
  • 2,000 寝袋 [2022年2月]
  • 10,000 スリーピングパッド [同上]
  • 20,000 「M109A3GN」用予備部品 [同上]
  • 1 野戦病院 [2023年7月] (エストニアとオランダと共同で購入)
  • 4 火器管制ステーション(「NASAMS」用) [同上]
  •  予備部品(「NASAMS」用) [同上]

ノルウェーから譲渡された「M109A3GN」SPGの前で(アメリカから供与された)「M549A1」155mm  HEロケットアシスト弾を構えるウクライナ兵

※  当記事は、2022年8月15日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


おすすめの記事