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2022年12月23日金曜日

ロシアのアフリカ攻勢:ロシアがマリ空軍の増強を図る(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 トゥアレグ紛争がイスラム過激派勢力の反乱を波及させ、遠くないうちに国土全体がアルカイダの支配下に置かれるという恐れが出てきた2012年以来、 マリはほぼ一貫して紛争状態に置かれています。

 2013年初頭には、首都バマコへ向かうイスラム過激派の進軍を阻止してマリ北部を政府の統治下に戻すためにフランス軍が介入し、マリ共和国軍の支援を得ながら敵の進出を迅速に覆してアルカイダ(後のイスラム国)が撤退したキダル地方を除く国土の大部分を奪回するという成功を収めました。

 近年のアルカイダやイスラム国はさらなる勢力圏の拡大を試みており、マリ軍や同国に展開したままの国連部隊への攻撃を数多く行っています。国連部隊の主な目的は、この地域における治安部隊が将来的にこれらの過激派組織という脅威と戦い、その供給路を遮断し、隠れ家の構築を防ぐといった対処を可能にするための訓練をすることにあります。 

 2012年にマリ北部で勃発した反乱に直面した際、マリ空軍(Armée De L'Air Du Mali)は敵の前進を阻むどころか友軍を支援することも完全に不可能であることが判明しました。

 明らかにマリに展開する外国軍部隊の影響を受け、その後のマリ空軍は自国の安全保障問題により現実的なアプローチをとることを始めました。「MiG-21」戦闘機や「S-125」地対空ミサイル(SAM)といった旧式の残存戦力の大半を迅速に退役させたのです。[1]

 それ以降のマリ空軍は2015年にブラジルから「A-29B "スーパーツカノ"」4機(2018年納入)、ロシアから「Mi-35M」攻撃ヘリ4機(2017年及び2021年納入)を導入するなどして、ゼロからの再建を進めています。

 2019年には、マリはEUから寄贈された情報収集・警戒監視・偵察(ISR)用に特化された「セスナ208」の引き渡しを受けました。前方監視型赤外線装置(FLIR)が装備されているこの飛行機は、3機の「Mi-24D」攻撃ヘリコプター、2機の「H215 " シュペルピューマ"」輸送ヘリコプター、1機の「C-295W」輸送機と共に、マリ空軍の中核を担う機体と言えるでしょう。[2] 

 このようにして、小さな戦力ではあるものの、結果的にこの地域で最も近代的で有能な空軍が誕生したのです。

 「A-29B」は幅広い種類の精密誘導兵器を搭載可能ですが、マリには導入されていません。その代わり、現存している3機はガンポッドや無誘導ロケット弾、そして無誘導爆弾で武装しています(注:「TZ-04C」は2020年に事故で失われました)。 [3] 

 この飛行機は胴体下部にFLIR装置を備え付けることも可能ですが、アメリカが供給に関する合意に消極的だったため、結果としてマリへ引き渡されることはなかったと思われます。[4]

 おそらくは「A29B "スーパーツカノ"」の有効性を高めるための手段が存在しないことに刺激を受けたせいか、マリはトルコや中国から精密誘導爆弾(PGM)を搭載できる無人戦闘航空機(UCAV)の導入を視野に入れているとみられます。

 2021年5月にアッシミ・ゴイタ大佐が10年ぶり3度目の軍事クーデターで政権を握った時点までこの交渉はまだ継続しているように見受けられましたが、彼の政権はロシアとの関係強化を選択して西側諸国との関係をさらに悪化させています。


マリ空軍が保有する「A-29B " スーパーツカノ"」のうちの1機

 アッシミ・ゴイタ大佐による権力奪取のほぼ直後に、マリはロシアから新たな兵器類を調達したり、寄贈を受けました。

 特にマリ空軍は両国の関係改善による恩恵を受けるに至りました。1年前の調印された契約に基づいて2021年12月に納入された4機の「Mi-171Sh」に加えて2機の「Mi-24P」攻撃ヘリコプターが引き渡されたのです。[5]

 2021年12月には、現地の治安部隊を訓練するためにロシアのPMC「ワグネル」も自身の「オルラン-10」無人偵察機と防空システムを伴ってマリに公式に展開しています。[6] 

 「ワグネル」は治安部隊の訓練のみならず、フランスを陥れるためにマリの旧フランス軍基地の近くに集団墓地を設けたことや、約300人のマリ市民が犠牲になった「ムラの大虐殺」に関与していたことが現在までに判明しています。[7] [8]

 2022年8月、マリ空軍はロシアから「Su-25」対地攻撃機1機、「L-39C」ジェット練習機・軽攻撃機6機、「Mi-24P」攻撃ヘリコプター2機、「Mi-8T」輸送ヘリコプター1機、そしてスペインから「C-295W」輸送機1機の引き渡しを受け、さらに強化されました(ただし、「Su-25」は10月4日に墜落事故で失われてしましました。代わりに納入された機体も2023年9月に撃墜され、保有機がゼロとなりました)。

 「Su-25」と「L-39」の引き渡しについては、マリの近隣諸国の大部分がトルコから「バイラクタルTB2」UCAVを導入、またはその予定であることが要因となった可能性があります。実際、ニジェール、ブルキナファソ、トーゴ、ナイジェリアがすでに同UCAVを運用中か発注していますし、結果としてマリには2022年12月に3機のTB2が納入されました。[9]

 自国の軍隊の需要を満たせるほどのUCAVを生産できないロシアは、マリ空軍にUCAVや関連技術を提供することができないというわけです。


 「Su-25」と「Mi-24P」は、マリ軍のパイロットが十分に熟練するまで「ワグネル」によって運用される可能性がないわけではありません。しかしながら、厳しいパイロットの訓練で「Su-25」や「L-39」が欠いている誘導兵器の運用能力や高度な照準システム、そして危険なサヘル地域で必要とされる生存能力をカバーすることは不可能と言わざるを得ません。

 政治的影響力を受けているかどうかは別として、減少しつつある軍備の蓄えを補う兵器類をロシアからまだ購入できるかもしれません。しかし、購入国はロシアの武器が21世紀の戦いに通用しないという現実に遅かれ早かれ直面することを余儀なくされるでしょう(2023ン年1月20日、マリ大統領府は新たに「Su-25」攻撃機1機、「L-39C」練習機5機、「Mi-8」汎用ヘリコプター2機が空軍に引き渡されたことを公表しました)[10]。

マリ空軍は合計4機の「Mi-35M」を2017年と2021年の引き渡しを受けました:これらはマリでFLIR装置が備え付けられた僅か2機種のうちの1つであり、誘導兵器(最大で8発の「9M120 "アタカ"」対戦車ミサイル)を運用可能な唯一の戦力です


  1. このリストは、マリ空軍で運用されている航空機の総合的なデータ化を目的としたものです。
  2. 現時点で運用されていない機体はこのリストには含まれていません。
  3. このリストは、新たな飛行機やヘリコプターの導入に関する発表や発覚に伴って随時更新されます。


マリ空軍の運用兵器一覧


無人戦闘航空機(9)


対地攻撃機及び練習機(18)


攻撃兼輸送ヘリコプター (16)


輸送兼汎用ヘリコプター (4)


練習兼汎用機 (8)


輸送兼汎用機 (6)


VIP専用機 (1)


無人偵察機 (少数)


レーダー(1)


[1] Goas In The Savanna: Mali’s S-125 SAM Systems https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/goas-in-savanna-s-125-sam-systems-in.html
[2] New ISR Cessna 208 Caravan for Mali https://www.keymilitary.com/article/new-isr-cessna-208-caravan-mali
[3] Crash Mali Air Force Super Tucano https://www.facebook.com/Scramblemagazine/posts/3538112936215215
[4] Mali receives Super Tucanos https://www.defenceweb.co.za/aerospace/aerospace-aerospace/mali-receives-super-tucanos/
[5] Mali officially takes delivery of Mi-171 helicopters https://www.defenceweb.co.za/aerospace/aerospace-aerospace/mali-officially-takes-delivery-of-mi-171-helicopters/
[6] Townsend: Russia Added to Instability in Africa With New Air Defenses in Mali https://www.airforcemag.com/townsend-russia-added-to-instability-in-africa-with-new-air-defenses-in-mali/
[7] French accuse Russian mercenaries of staging burials in Mali https://apnews.com/article/russia-ukraine-ouagadougou-burkina-faso-europe-africa-af0965b3bd459f90c9cf930625aa4590
[8] ‘The Killings Didn’t Stop.’ In Mali, a Massacre With a Russian Footprint https://www.nytimes.com/2022/05/31/world/africa/mali-massacre-investigation.html
[10] https://twitter.com/PresidenceMali/status/1616111932238356482?s=20&t=49UjxsXzXv4qxLtGhv1AQA

※  当記事は、2022年8月16日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも
  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
  あります。


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2022年9月8日木曜日

アシガバートの「ス-パーツカノ」: トルクメニスタンが「A-29B」攻撃機を公開した



著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルクメニスタンは様々な種類の新型戦闘機や輸送機の導入による空軍の近代化を目的として、野心的な再装備プログラムに乗り出しています。その新型機には、イタリアから発注した「M-346FA」軽戦闘攻撃機や「C-27J NG」輸送機が含まれています。

 導入が見込まれていたもう一つの導入機が、これまでに世界中の15カ国以上で購入されたブラジルの「A-29B "スーパーツカノ"」ターボプロップ軽攻撃機です。トルクメニスタンは人気の高い攻撃機の獲得を視野に入れていると以前から噂されており、2019年の短期間に1機の「スーパーツカノ」が同国で試験されたことがありました。

 5機のA-29Bの導入は、トルクメニスタンがアフガニスタンと接している長さ804kmの東部国境沿いにおける治安状況の悪化に直面していることに伴ったものです。

 アメリカがアフガニスタンから撤退した後、この地域の諸国は国境を守ることを急いでいますが、トルクメニスタンはすでに2010年代の初頭から軍の戦力向上に重点を置いた投資を行っていました。

 国内外の脅威に対処するために現代的な装備のストックを大幅に増やして訓練を強化したことを別として、その成果は、中国から数種類の無人戦闘航空機(UCAV)を導入したり、既存の「Su-25」飛行隊の大半をオーバーホールすることでも実現しました。

 アフガニスタンの状況が近い将来にどのように展開し続けるのかを予測することについて、まだ今の時点では困難ですが(注:この記事の執筆はカブール陥落の前に執筆されたものです)、紛争がトルクメニスタン自体を台無しにする恐れがある場合に備えて大規模な国境防御部隊が待機しているなど、トルクメニスタンは現時点で国境沿いにおける紛争が激化する可能性に対処するための最善の準備をしていると言えるかもしれません。

 最も注目すべきこととしては、トルクメニスタン軍は対反乱作戦(COIN)戦術に重点を置いていることと、この地域では数少ない地上目標に対して最新の精密誘導爆弾(PGM)を使用する能力を持つ国の一つであるということがあります。

 さまざまなガンポッド、無誘導ロケット弾、汎用爆弾を使用できることに加えて、「A-29B」は幅広い種類のPGMを搭載することが可能なので、同機はこの分野におけるトルクメニスタンの将来の戦力をさらに強化することに貢献するでしょう。


 トルクメニスタンに到着する前の2021年5月から6月にかけて、カーボベルデ、スペイン領カナリア諸島、ポルトガル、マルタ、そしてトルコを経由して同国へ向かった際の5機が広範囲にわたって撮影されました。[1] [2]

 トルクメニスタンに属する機体であることを示すラウンデルやマークは注意深くテープで隠されていました。しかし、マルタ島のルア空港に立ち寄った際に「A-29B」の尾翼にトルクメニスタン空軍のラウンデルがあることを、大型レンズ付きのデジタルカメラで「武装」した航空機スポッターによって明らかにされてしまいました。[3]

 これらの5機は、フィリピン空軍の「A-29B」でも採用されているものをベースにしたように見える迷彩パターンが施されています。この国々では運用する地域の特性や気候が全く異なっていますが、トルクメニスタン空軍は大半の機体にカラフルな塗装を施していることで知られています。この傾向は、今や「A-29B」や同様に新たに導入したばかりの「M-346」M-346「C-27J NG」にも引き継がれているようです。

 5機のA-29Bは青色で「01」,「02」,「03」,「04」,「05」とシリアルナンバーが付与されており、これらは2021年8月1日にトルクメンバシ国際空港を訪れたトルクメニスタンのグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領(当時)による視察ツアーの放送で初公開されました。

A-29B「青色の02」の視察を終えたグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領(当時)

 2019年6月、エンブラル社の「EMB314 "スーパーツカノ"」のデモンストレーション機「PT-ZTU」がトルクメニスタンでデモ飛行を実施しました。

 当時、トルクメニスタン空軍は再装備プログラムのために多数の西側製航空機の導入を検討していたことから、同機や「M-346」、「C-27」、そして「C-295」がそれぞれのメーカーによって同国に売り込むために持ち込まれたのです。

 持ち込まれた機種のうち、どうやら「C-295」だけは調達されていないようです。この機体の導入がまだ計画されているのか、あるいは最終的にイタリアの「C-27JNG」に敗れて頓挫したのかは不明のままです。



 「A-29B」と共にさまざまな種類の搭載兵装も数多く導入されました。これには、主翼内に搭載された「M3」12.7mm 重機関銃2門、70mmロケット弾用の発射ポッド、「BDU-33」訓練爆弾用「SUU-20」ディスペンサー、「Mk-82」500lb 無誘導爆弾、増槽、チャフ・フレア用ディスペンサーが含まれています。

 トルクメニスタン軍に就役した「A-29B」には、(精密誘導爆弾で)攻撃する前に自身の標的を発見・照準することを可能にする電子光学・赤外線センサー:FLIR装置も搭載されています。

 今のところ「A-29B」用のPGMはトルクメニスタンの保有兵器リストには存在していないようですが、将来的には導入されるかもしれません – それはトルコから得る可能性があります。なぜならば、同国は幅広い種類のPGMを製造しており、過去に数多くの兵器をトルクメニスタンに供給してきたからです。



 トルクメニスタンが保有する5機の「A-29B」は、マル市の北部に位置するマル-2空軍基地を拠点にしています。

同基地はマル市周辺に存在する3つの軍用飛行場のうちの1つです:もう1つのマル空軍基地・国際空港は「MiG-29」と「Su-25」の拠点であり、残りの1つは街の中にある、「Mi-17」や「Mi-24」によって使用されているヘリコプター基地です。

 トルクメニスタンではさらに2つの空軍基地に作戦機が恒久的に配備されており、ほかの2つの基地にはSu-25が分遣されています。

 さらにいくつかの空軍基地が運用可能な状態を維持しているため、必要に応じて作戦機を展開させることが可能となっています。アフガニスタンとの国境付近での治安情勢が悪化した場合、例えば、「A-29B」は現時点で2機の「Su-25」が配備されている南部のGalaýmor基地に配備されるかもしれません。

マル-2空軍基地で5機のEMB314「スーパーツカノ」が6機のSu-25と一緒に駐機しています。上に並んでいる退役したSu-17やMi-8ヘリコプター、La-17無人標的機にも注目。

上の画像を拡大図。5機のEMB314の形状がよりはっきりと示されています。

 隣接する多くの国々は老朽化した機体を使用し続けているためにひどく疲弊した空軍を抱えていますが、「A-29B」にM-346軽戦闘攻撃機、そして「C-27J」輸送機を導入したことはトルクメニスタン空軍をこの地域における現代的な空軍の中心に押し上げました。「A-29B」用PGMといった兵装のさらなる導入はこの地位を強化することに貢献し、トルクメニスタン空軍を必要と思われる種類の任務を遂行するための、比較的充実した装備を持つ空軍にさせるでしょう。

 トルクメニスタンの空軍力を増強する動きについては、「A-29B」が私たちが最後に目にするものとならないことは間違いないでしょう。例えばトルコから「バイラクタルTB2」の導入を通じて別方面の戦力の拡大を図ることも考えられないことはありません(注:その後、トルクメニスタンは実際にTB2を導入しました)。



[1] Delivery flight Turkmenistan Super Tucanos https://www.scramble.nl/military-news/delivery-flight-turkmenistan-super-tucanos
[2] Three more Super Tucanos for Turkmenistan https://www.scramble.nl/military-news/three-more-super-tucanos-for-turkmenistan
[3] Turkmenistan Tucanos! https://milavreachout.org/2021/05/28/turkmenistan-tucanos/

  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
    ります。


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