2022年9月10日土曜日

欧州の大国を目指して:ポーランドによるウクライナへの武器供与(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 ほとんどの国によるウクライナへの支援の規模は、ポーランドが提供した軍事支援の半分ですら下回っています。ポーランドのウクライナへの軍事支援には、これまでに230台以上の戦車、約110門の自走砲や多連装ロケット砲を含む300両以上の装甲戦闘車両(AFV)、その他の多岐にわたる種類の兵器が含まれていることを考えれば当然といえるかもしれません。

 また、ポーランドは各国によるウクライナへの武器供与の中継地点という重要な役割も担っています。なぜならば、西側諸国の軍事支援の大半は同国を経由してウクライナへ引き渡されるからです。

 ポーランドは武器供与の詳細をほとんど公表していないものの、極めて多くの種類の武器が現地で目撃されたり、(供与の感謝を込めた)ウクライナ当局によって報じられています。

 間違いなく最も重要なポーランドからの供与兵器は、約230台以上の「T-72M(R)」及び「T-72M1(R)」戦車です。

 スペインとドイツが「レオパルド2A4」10台と「レオパルド1A5」88台の供与を検討したものの最終的に見送ったのに対し、ポーランドは(北マケドニアと共に)4月に戦闘可能な状態の「T-72」戦車の大部分をウクライナに譲渡するのにほとんどためらいはなく、その後に現地で「コンタークト1」爆発反応装甲(ERA)が装着されて装甲防御力が強化されました(注:北マケドニアによる供与は7月)。

 供与された「T-72」の多くはポーランドで近代化改修を施されたものであり、新たな射撃統制装置や(夜間)照準器、そして通信システムが装備されたため、ウクライナの平原での有用性が大幅に高まったものとなっています。[1]
 
 さらに2022年7月には、ポーランドが「T-72M1」を大幅に改良した独自仕様の「PT-91」 をウクライナへ多数供与することを発表しました。[2] 

 ポーランドが供与した「T-72」の大部分(そしておそらく「PT-91」も)は2月24日以降にウクライナが失った250台以上の戦車をそのまま置き換えるのではなく、ロシアの占領下にあるウクライナ領土への将来的な攻勢をかけるために新たに設立された機械化旅団で使用するため、現時点では戦闘への投入が控えられています(注:すでに「T-72M/M1(R)」の損失事例が6月から徐々に確認されているため、完全に使用されていないわけではありません。しかし、9月上旬のハルキウなどに対する反抗作戦に投入された可能性があることは言うまでもないでしょう)。[3] 

 これらの部隊にはウクライナに供与されている戦車の大半が配属されており、ウクライナ軍の最高司令部に攻勢と防御作戦の両面で必要な戦略的予備力をもたらしているのが現状です。

 (もともと予備兵器扱いであった)「T-72」とは逆に、ポーランド陸軍が保有している「PT-91」は全量が同軍の現有部隊に配備されています。その結果としてウクライナに供与した後に生じるポーランドの戦力の不足分については、イギリス軍の「チャレンジャー2」戦車の国内配備とアメリカからの116台の「M1A1」戦車の引き渡しに加え、2022年4月に発注した250台の「M1A2 SEPv3」戦車によって埋め合わせる予定となっています。[4] 

 こうした戦車の導入は、韓国から最大1000台の「K2PL」戦車と672門の「K9」自走榴弾砲、アメリカからは最大500台の「M142 "HIMARS(高機動ロケット砲システム)"」を調達するという大規模な再軍備プログラムの一部です。[5] [6] 

 新しい兵器が常に流入することでポーランドはソ連時代の兵器をどんどん退役させ、それらをウクライナに譲渡することが可能となります。こうして、ポーランドは今後何年にもわたって「自由の兵器庫」としての地位を確実なものとするでしょう。

平原に展開するポーランド陸軍の「PT-91」戦車

 おそらく「T-72/PT-91」戦車や「BWP-1」歩兵戦闘車(IFV)よりもさらに重要なものは、AHS「クラブ」155mm自走榴弾砲のような長距離砲兵戦力の供与であることは言うまでもありません。

 ポーランドは2022年6月にこの新型自走砲18門を譲渡しており、さらにウクライナが発注した54門が来年に納入される予定です。[7] 

 AHS「クラブ」は、ラインメタル社の52口径155mm榴弾砲を搭載したイギリスの「AS-90M」の砲塔とポーランド製の「トパーズ」射撃統制システムを組み込んだ「K9 "サンダー"」自走砲のシャーシを統合させた自走榴弾砲で、30km(ロケットアシスト弾使用時は40km)の射程距離を誇ります。

 合計で72門となるこの高度な自走砲はウクライナで運用されている中で最も多く存在する最新型モデルであることに間違いなく、少数の「PzH 2000」やフランスの「カエサル」、そしてスロバキアの「ズザナ2」と共に活用されるでしょう。

 同様に素晴らしい支援だったのは、ジャーナリストのスワヴォミール・シェラコフスキ氏と「アーミー・オブ・ドローンズ」が主催したポーランド国内における数々のウクライナ支援のクラウドファンディングであり、その度重なる努力によって「バイカル・テクノロジー」社から1機の「バイラクタルTB2(その後、同機は無償で提供され、集まった500万ドル:約6.8億円はウクライナ市民を支援する慈善事業に転用)」、「WBエレクトロニクス」社の「フライ・アイ」無人偵察機と徘徊兵器「ウォーメイト」がそれぞれ20機が調達されています。[8] 

 ポーランドの民間部門からの実質的な軍事支援はポーランド国民がウクライナの大義の下でしっかりと団結していることを示しており、いくつかの国全体が行った支援よりもはるかに大きなレベルで戦争の行方を方向付けることになるでしょう。

 現時点で今次戦争が収束する兆しが見えないため、ウクライナへのさらなる軍事支援が検討されていることに疑う余地はありません。今後の支援内容には、「BWP-1」IFV、地対空ミサイルシステム、自走砲、多連装ロケット砲、工兵用装備、「Mi-8/17」及び「Mi-24」ヘリコプターやドローンが含まれる可能性があります。

ウクライナによって強く求められている別のアセットとしては、現在ポーランドで運用されている「MiG-29」戦闘機が挙げられます。

 以前にポーランドが20機以上の「MiG-29」をウクライナへ寄贈する計画があったものの結局実現に至りませんでしたが、この戦争が長引くならば、アメリカ空軍の中古の「F-16」と引き換えに結果としてウクライナへ供与することになるかもしれません(2023年3月、ポーランドは「MiG-29」の供与を決定しました)。

 このような支援が実現するかどうかによって、ウクライナの最も強固な友好国というポーランドの確立された立場に影響を与えることはないでしょう(支援の有無を別としてもポーランドの立場は何も変わらないということ)。

「LPG WDSz」指揮車両はAHS「クラブ」自走榴弾砲と一緒にウクライナへ引き渡されました

  • 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際にポーランドがウクライナに供与した、あるいは提供を約束した軍事装備等の追跡調査を試みたものです。
  • 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されています)。
  • 一部の武器供与は機密事項であるため、この一覧は供与された武器の総量の最低限の指標としてのみ活用できます。
  • この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  • 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。


  • 戦闘機 [14]

    ヘリコプター [12]

    戦車[~330]

    歩兵戦闘車(IFV)[342+]
    •  142+ BWP-1 [2022年4月以降に供与]
    • 200 KTO「ロソマク」 [2023年7月から供与] (アメリカの資金援助でウクライナが調達)

    歩兵機動車 (IMV)

    指揮車両
    • LPG "WDSz" [2022年6月] (AHS「クラブ」自走砲部隊の指揮車両)

    自走砲[116+]

    多連装ロケット砲 (MRL)[20+]

    対空砲

    自走対空砲

    地対空ミサイルシステム(SAM)

    空対空ミサイル (AAM)[110]
    • 100 R-73 (「Su-27」及び「MiG-29」戦闘機用) [2022年2月]

    無人戦闘航空機 (UCAV)[1]

    無人偵察機[20+]

    徘徊兵器[37+]

    携帯式地対空ミサイルシステム (MANPADS)[260]

    トラック

    迫撃砲[100]


    小火器


    弾薬類

    個人装備[42,000]


    [1] MSPO 2021: Modernized T-72M1R main battle tank on display https://www.armyrecognition.com/mspo_2021_news_official_show_daily/mspo_2021_modernized_t-72m1r_main_battle_tank_on_display.html
    [2] Poland has transferred to Ukraine a batch of PT-91 Twardy main battle tanks. https://www.ukrinform.net/rubric-ato/3536351-poland-delivers-batch-of-pt91-twardy-tanks-to-ukraine.html
    [3] Attack On Europe: Documenting Ukrainian Equipment Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/attack-on-europe-documenting-ukrainian.html
    [4] Poland Buys 116 Used M1A1 Abrams Tanks From US https://www.thedefensepost.com/2022/07/18/poland-m1a1-abrams-tank-us/
    [5] Poland purchases 1,000 K2 tanks, 672 K9 howitzers https://mil.in.ua/en/news/poland-purchases-1-000-k2-tanks-672-k9-howitzers/
    [6] Poland eyes 500 American rocket launchers to boost its artillery forces https://www.defensenews.com/global/europe/2022/05/27/poland-eyes-500-us-himars-launchers-to-boost-its-artillery-forces/
    [7] Poland Sells Its Krab Howitzers to Ukraine: A Record-Breaking Contract https://defence24.com/industry/poland-sells-its-krab-howitzers-to-ukraine-a-record-breaking-contract
    [8] Українські захисники отримають 20 дронів-розвідників Fly Eye від Армії дронів http://www.vin.gov.ua/news/ostanni-novyny/48941-ukrainski-zakhysnyky-otrymaiut-20-droniv-rozvidnykiv-fly-eye-vid-armii-droniv

    ※  当記事は、2021年8月28日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳した
     ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
     があります。



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    2022年9月8日木曜日

    アシガバートの「ス-パーツカノ」: トルクメニスタンが「A-29B」攻撃機を公開した



    著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

     トルクメニスタンは様々な種類の新型戦闘機や輸送機の導入による空軍の近代化を目的として、野心的な再装備プログラムに乗り出しています。その新型機には、イタリアから発注した「M-346FA」軽戦闘攻撃機や「C-27J NG」輸送機が含まれています。

     導入が見込まれていたもう一つの導入機が、これまでに世界中の15カ国以上で購入されたブラジルの「A-29B "スーパーツカノ"」ターボプロップ軽攻撃機です。トルクメニスタンは人気の高い攻撃機の獲得を視野に入れていると以前から噂されており、2019年の短期間に1機の「スーパーツカノ」が同国で試験されたことがありました。

     5機のA-29Bの導入は、トルクメニスタンがアフガニスタンと接している長さ804kmの東部国境沿いにおける治安状況の悪化に直面していることに伴ったものです。

     アメリカがアフガニスタンから撤退した後、この地域の諸国は国境を守ることを急いでいますが、トルクメニスタンはすでに2010年代の初頭から軍の戦力向上に重点を置いた投資を行っていました。

     国内外の脅威に対処するために現代的な装備のストックを大幅に増やして訓練を強化したことを別として、その成果は、中国から数種類の無人戦闘航空機(UCAV)を導入したり、既存の「Su-25」飛行隊の大半をオーバーホールすることでも実現しました。

     アフガニスタンの状況が近い将来にどのように展開し続けるのかを予測することについて、まだ今の時点では困難ですが(注:この記事の執筆はカブール陥落の前に執筆されたものです)、紛争がトルクメニスタン自体を台無しにする恐れがある場合に備えて大規模な国境防御部隊が待機しているなど、トルクメニスタンは現時点で国境沿いにおける紛争が激化する可能性に対処するための最善の準備をしていると言えるかもしれません。

     最も注目すべきこととしては、トルクメニスタン軍は対反乱作戦(COIN)戦術に重点を置いていることと、この地域では数少ない地上目標に対して最新の精密誘導爆弾(PGM)を使用する能力を持つ国の一つであるということがあります。

     さまざまなガンポッド、無誘導ロケット弾、汎用爆弾を使用できることに加えて、「A-29B」は幅広い種類のPGMを搭載することが可能なので、同機はこの分野におけるトルクメニスタンの将来の戦力をさらに強化することに貢献するでしょう。


     トルクメニスタンに到着する前の2021年5月から6月にかけて、カーボベルデ、スペイン領カナリア諸島、ポルトガル、マルタ、そしてトルコを経由して同国へ向かった際の5機が広範囲にわたって撮影されました。[1] [2]

     トルクメニスタンに属する機体であることを示すラウンデルやマークは注意深くテープで隠されていました。しかし、マルタ島のルア空港に立ち寄った際に「A-29B」の尾翼にトルクメニスタン空軍のラウンデルがあることを、大型レンズ付きのデジタルカメラで「武装」した航空機スポッターによって明らかにされてしまいました。[3]

     これらの5機は、フィリピン空軍の「A-29B」でも採用されているものをベースにしたように見える迷彩パターンが施されています。この国々では運用する地域の特性や気候が全く異なっていますが、トルクメニスタン空軍は大半の機体にカラフルな塗装を施していることで知られています。この傾向は、今や「A-29B」や同様に新たに導入したばかりの「M-346」M-346「C-27J NG」にも引き継がれているようです。

     5機のA-29Bは青色で「01」,「02」,「03」,「04」,「05」とシリアルナンバーが付与されており、これらは2021年8月1日にトルクメンバシ国際空港を訪れたトルクメニスタンのグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領(当時)による視察ツアーの放送で初公開されました。

    A-29B「青色の02」の視察を終えたグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領(当時)

     2019年6月、エンブラル社の「EMB314 "スーパーツカノ"」のデモンストレーション機「PT-ZTU」がトルクメニスタンでデモ飛行を実施しました。

     当時、トルクメニスタン空軍は再装備プログラムのために多数の西側製航空機の導入を検討していたことから、同機や「M-346」、「C-27」、そして「C-295」がそれぞれのメーカーによって同国に売り込むために持ち込まれたのです。

     持ち込まれた機種のうち、どうやら「C-295」だけは調達されていないようです。この機体の導入がまだ計画されているのか、あるいは最終的にイタリアの「C-27JNG」に敗れて頓挫したのかは不明のままです。



     「A-29B」と共にさまざまな種類の搭載兵装も数多く導入されました。これには、主翼内に搭載された「M3」12.7mm 重機関銃2門、70mmロケット弾用の発射ポッド、「BDU-33」訓練爆弾用「SUU-20」ディスペンサー、「Mk-82」500lb 無誘導爆弾、増槽、チャフ・フレア用ディスペンサーが含まれています。

     トルクメニスタン軍に就役した「A-29B」には、(精密誘導爆弾で)攻撃する前に自身の標的を発見・照準することを可能にする電子光学・赤外線センサー:FLIR装置も搭載されています。

     今のところ「A-29B」用のPGMはトルクメニスタンの保有兵器リストには存在していないようですが、将来的には導入されるかもしれません – それはトルコから得る可能性があります。なぜならば、同国は幅広い種類のPGMを製造しており、過去に数多くの兵器をトルクメニスタンに供給してきたからです。



     トルクメニスタンが保有する5機の「A-29B」は、マル市の北部に位置するマル-2空軍基地を拠点にしています。

    同基地はマル市周辺に存在する3つの軍用飛行場のうちの1つです:もう1つのマル空軍基地・国際空港は「MiG-29」と「Su-25」の拠点であり、残りの1つは街の中にある、「Mi-17」や「Mi-24」によって使用されているヘリコプター基地です。

     トルクメニスタンではさらに2つの空軍基地に作戦機が恒久的に配備されており、ほかの2つの基地にはSu-25が分遣されています。

     さらにいくつかの空軍基地が運用可能な状態を維持しているため、必要に応じて作戦機を展開させることが可能となっています。アフガニスタンとの国境付近での治安情勢が悪化した場合、例えば、「A-29B」は現時点で2機の「Su-25」が配備されている南部のGalaýmor基地に配備されるかもしれません。

    マル-2空軍基地で5機のEMB314「スーパーツカノ」が6機のSu-25と一緒に駐機しています。上に並んでいる退役したSu-17やMi-8ヘリコプター、La-17無人標的機にも注目。

    上の画像を拡大図。5機のEMB314の形状がよりはっきりと示されています。

     隣接する多くの国々は老朽化した機体を使用し続けているためにひどく疲弊した空軍を抱えていますが、「A-29B」にM-346軽戦闘攻撃機、そして「C-27J」輸送機を導入したことはトルクメニスタン空軍をこの地域における現代的な空軍の中心に押し上げました。「A-29B」用PGMといった兵装のさらなる導入はこの地位を強化することに貢献し、トルクメニスタン空軍を必要と思われる種類の任務を遂行するための、比較的充実した装備を持つ空軍にさせるでしょう。

     トルクメニスタンの空軍力を増強する動きについては、「A-29B」が私たちが最後に目にするものとならないことは間違いないでしょう。例えばトルコから「バイラクタルTB2」の導入を通じて別方面の戦力の拡大を図ることも考えられないことはありません(注:その後、トルクメニスタンは実際にTB2を導入しました)。



    [1] Delivery flight Turkmenistan Super Tucanos https://www.scramble.nl/military-news/delivery-flight-turkmenistan-super-tucanos
    [2] Three more Super Tucanos for Turkmenistan https://www.scramble.nl/military-news/three-more-super-tucanos-for-turkmenistan
    [3] Turkmenistan Tucanos! https://milavreachout.org/2021/05/28/turkmenistan-tucanos/

      です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
        ります。


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