著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
2010年代は、エチオピア国防軍(ENDF)にとって大きな変動の時期でした。
この10年以内に、冷戦時代の老朽化した兵器は徐々に退役し(場合によってはアップグレードされ)、より近代的な装備に置き換えられていったのです。これは単に旧式のシステムをそのまま代替する場合もありましたが、ENDFは大口径の多連装ロケット砲、誘導ロケット弾、短距離弾道ミサイル(SRBM)の導入を通じて全く新しい戦力を導入しようと試みました。
新たに導入した兵器のいくつかは、ENDFの近代化への取り組みを誇示するために報道や武器展示会で大きく取り上げられるものもありましたが、強力な運用保全(OPSEC)規則に沿って、意図的にスポットライトから外された兵器もありました。おそらく、それらは無防備な敵に火力を解き放つことができるその日までサプライズとして秘匿されていたのかもしれません。
その兵器の一つが「AR2」300mm 多連装ロケット砲(MRL)であり、その多くは2010年代後半にエチオピアが中国から購入したものです。
「M20」SRBM・「A200」誘導ロケットシステムと共に「AR2」を導入したことは、ENDFに近隣諸国がかき集めることができた同種装備よりも明確な優位性をもたらしました。
サハラ以南のアフリカで大口径MRLの導入が確認されている国は、多数の北朝鮮製「M-1989」240mm MRLを運用しているアンゴラ、現在イラン製システムと中国の「WS-1B」及び「WS-2」MRLを運用しているスーダン、そして「AR2」の競合システムで同様の300mmロケット弾を使用する「A100」MRLを調達したタンザニアだけです。
2010年代にエチオピアに到着した後、「AR2」はエリトリアとの不安定な国境の近くにあるENDFの北部コマンドに配属されました。
当時はまだ予測できませんでしたが、これはエチオピアの最高司令部がすぐに後悔することになる決定でした。なぜならば、2020年11月にティグレ州で武力衝突が勃発すると、「AR2」はこの地域に点在するENDFの基地を制圧し始めた分離主義勢力の軍隊によって即座に鹵獲されてしまったからです。また、(おそらく彼ら自身がティグレ人であったと思われる)部隊の指揮官が、「AR2」とそれを運用する兵士を連れて直接分離主義勢力に直接加わった可能性もあります。
経緯がどうであれ、結果的にティグレ防衛軍(TDF)は大口径のMRL、誘導ロケット弾、少なくとも射程距離が280kmもある弾道ミサイルを突如として掌握することに成功したのです。
「AR2」はすぐに元の持ち主に対して使用され、今やエチオピア軍は調達したばかりのシステムの破壊力を実感する側となってしまいました。
この最初の衝撃を克服した後、ENDFは鹵獲されたシステムを発見・破壊するために貴重なリソースを割く必要があり、現在までに少なくとも1台の「AR2」と再装填用のロケット弾を積載した輸送車が後にティグレ中部のテケズで奪還・破壊されました。[1]
残った別のシステムの運命については、現時点でも不明のままです。
「AR2」は中国人民解放軍陸軍で大量に運用されている「PHL-03」MRLの輸出仕様です。
ソ連の「BM-30 "スメルチ"」の設計に基づいているため、「PHL-03」と「AR2」はロシアのものと同じ構成を維持しており、300mmロケット弾用の12本の発射管を万山(ワンシャン)製「WS2400」8x8重量級トラックに搭載しています。
ただし、中国のロケット弾はソ連のものよりも射程距離が大幅に伸びており(130km対70km)、「AR2」にはGPS/北斗/グロナスを取り入れたデジタル式射撃統制システムも組み込まれています。ジャミングを受けない場合、このような誘導方式はMRLの命中精度を大幅に向上させることが可能なため、対砲兵戦や高価値の標的への攻撃に使用できる可能性をもたらすという点で本質的に新たなパラダイムを切り開きます。
今までのところ、エチオピアとモロッコだけが「AR2」の輸出先として知られています。
各発射機にロケット弾がない状態が長引かないように、「AR2」には12発の再装填用ロケット弾を積載した、専用の「8x8 WS2400」ベース及び「10x8(または10x10)WS2500」トランスポーターを伴っています。
「AR2」が現代のシステムに比べて大きな欠点となっているのは、単にロケット弾ポッド全体を一度に交換するのではなく、各発射管にロケット弾を一本ずつ装填しなければならないということです。これについては、前者の方が装填速度がはるかに速く、敵に次の斉射するまでの時間を短縮できるからです。
全く皮肉なことに、ENDFが過去10年間に備蓄してきた高度な兵器の大半がかつての持ち主である自身に向けられているため、たとえ彼らがこの紛争で優位に立ったとしても、再び(鹵獲された兵器の)代替装備を探すことを余儀なくされるでしょう。
その間にも、死傷者が積み重なり続けて北部の地域の大半が混乱状態にあるため、エチオピアは苦しみ続けています。
「AR2」の前で中国人インストラクターと一緒に並ぶエチオピアの乗員(エチオピアにて) |
[1] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1352325064973189123
※ 当記事は、2021年9月3日に「Oryx」本国版に投稿されたものを翻訳したもので。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。
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