ラベル の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2023年10月28日土曜日

戦友から敵へ:エチオピアの中国製「AR2」多連装ロケット砲

 著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ編訳:Tarao Goo

 2010年代は、エチオピア国防軍(ENDF)にとって大きな変動の時期でした。 

 この10年以内に、冷戦時代の老朽化した兵器は徐々に退役し(場合によってはアップグレードされ)、より近代的な装備に置き換えられていったのです。これは単に旧式のシステムをそのまま代替する場合もありましたが、ENDFは大口径の多連装ロケット砲、誘導ロケット弾、短距離弾道ミサイル(SRBM)の導入を通じて全く新しい戦力を導入しようと試みました。

 新たに導入した兵器のいくつかは、ENDFの近代化への取り組みを誇示するために報道や武器展示会で大きく取り上げられるものもありましたが、強力な運用保全(OPSEC)規則に沿って、意図的にスポットライトから外された兵器もありました。おそらく、それらは無防備な敵に火力を解き放つことができるその日までサプライズとして秘匿されていたのかもしれません。

 その兵器の一つが「AR2」300mm 多連装ロケット砲(MRL)であり、その多くは2010年代後半にエチオピアが中国から購入したものです。

 「M20」SRBM・「A200」誘導ロケットシステムと共に「AR2」を導入したことは、ENDFに近隣諸国がかき集めることができた同種装備よりも明確な優位性をもたらしました。

 サハラ以南のアフリカで大口径MRLの導入が確認されている国は、多数の北朝鮮製「M-1989」240mm MRLを運用しているアンゴラ、現在イラン製システムと中国の「WS-1B」及び「WS-2」MRLを運用しているスーダン、そして「AR2」の競合システムで同様の300mmロケット弾を使用する「A100」MRLを調達したタンザニアだけです。

 2010年代にエチオピアに到着した後、「AR2」はエリトリアとの不安定な国境の近くにあるENDFの北部コマンドに配属されました。 

 当時はまだ予測できませんでしたが、これはエチオピアの最高司令部がすぐに後悔することになる決定でした。なぜならば、2020年11月にティグレ州で武力衝突が勃発すると、「AR2」はこの地域に点在するENDFの基地を制圧し始めた分離主義勢力の軍隊によって即座に鹵獲されてしまったからです。また、(おそらく彼ら自身がティグレ人であったと思われる)部隊の指揮官が、「AR2」とそれを運用する兵士を連れて直接分離主義勢力に直接加わった可能性もあります。

 経緯がどうであれ、結果的にティグレ防衛軍(TDF)は大口径のMRL、誘導ロケット弾、少なくとも射程距離が280kmもある弾道ミサイルを突如として掌握することに成功したのです。 

 「AR2」はすぐに元の持ち主に対して使用され、今やエチオピア軍は調達したばかりのシステムの破壊力を実感する側となってしまいました。

 この最初の衝撃を克服した後、ENDFは鹵獲されたシステムを発見・破壊するために貴重なリソースを割く必要があり、現在までに少なくとも1台の「AR2」と再装填用のロケット弾を積載した輸送車が後にティグレ中部のテケズで奪還・破壊されました。[1]

 残った別のシステムの運命については、現時点でも不明のままです。

 「AR2」は中国人民解放軍陸軍で大量に運用されている「PHL-03」MRLの輸出仕様です。
ソ連の「BM-30 "スメルチ"」の設計に基づいているため、「PHL-03」と「AR2」はロシアのものと同じ構成を維持しており、300mmロケット弾用の12本の発射管を万山(ワンシャン)製「WS2400」8x8重量級トラックに搭載しています。

 ただし、中国のロケット弾はソ連のものよりも射程距離が大幅に伸びており(130km対70km)、「AR2」にはGPS/北斗/グロナスを取り入れたデジタル式射撃統制システムも組み込まれています。ジャミングを受けない場合、このような誘導方式はMRLの命中精度を大幅に向上させることが可能なため、対砲兵戦や高価値の標的への攻撃に使用できる可能性をもたらすという点で本質的に新たなパラダイムを切り開きます。

 今までのところ、エチオピアとモロッコだけが「AR2」の輸出先として知られています。

 各発射機にロケット弾がない状態が長引かないように、「AR2」には12発の再装填用ロケット弾を積載した、専用の「8x8 WS2400」ベース及び「10x8(または10x10)WS2500」トランスポーターを伴っています。 

 「AR2」が現代のシステムに比べて大きな欠点となっているのは、単にロケット弾ポッド全体を一度に交換するのではなく、各発射管にロケット弾を一本ずつ装填しなければならないということです。これについては、前者の方が装填速度がはるかに速く、敵に次の斉射するまでの時間を短縮できるからです。


  全く皮肉なことに、ENDFが過去10年間に備蓄してきた高度な兵器の大半がかつての持ち主である自身に向けられているため、たとえ彼らがこの紛争で優位に立ったとしても、再び(鹵獲された兵器の)代替装備を探すことを余儀なくされるでしょう。

 その間にも、死傷者が積み重なり続けて北部の地域の大半が混乱状態にあるため、エチオピアは苦しみ続けています。

「AR2」の前で中国人インストラクターと一緒に並ぶエチオピアの乗員(エチオピアにて)

 [1] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1352325064973189123

※  当記事は、2021年9月3日に「Oryx」本国版に投稿されたものを翻訳したもので。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。 

2021年12月10日金曜日

イスラエルとのコネクション:エチオピアが保有するイスラエル製無人機



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 今夏、エチオピアはイランから「モハジェル-6」無人戦闘航空機(UCAV)を入手したことで話題となりました

 歴史的にイスラエルとアラブ首長国連邦の緊密な盟友であるエチオピアがイランのシステムを選択したことは控えめに言っても注目すべきことですが、それは中国やトルコの現代的なUCAV以上にイランの「モハジェル-6」を真に好んだというよりも、進行中のティグレ戦争での運命を変えるためにUCAV能力を必死に求めていたことが動機となったのかもしれません。

 エチオピア側の理由はともかくとして、エチオピア国防軍(ENDF)が以前は無人航空機による偵察をイスラエル製UAVに全面的に依存していたため、「モハジェル-6」の導入を選択したことは特に印象的です。

 特にティグレ戦争では、イスラエルのUAVがイランの「モハジェル-6」の目標を探す任務を担うことを意味する可能性があります。その結果として、ティグレ戦争はイスラエルとイランのUAVが同じ側で一緒に運用された最初の武力紛争として歴史に残るかもしれません。

 エチオピアが自国軍用に入手したイスラエルの無人機が正確に何であるのかは、長い間謎のままでした。ドキュメンタリーやニュース映像に頻繁に登場する有人機とは対照的に、驚くべきことにエチオピアによってなされたUAVの入手と運用については全く知られていません。

 入手できる限られた情報は、エチオピア軍の無人機について、イスラエル製のUAVや中国から調達した(商用)UAVから構成されている多種多様な保有機と多数の失敗に終わった国内設計の無人機が混在していることを明らかにしています。


 間違いなく、エチオピアが入手した最新のイスラエル製UAVは公になっている画像の中では最も珍しいものとなっています。「エアロスター・タクティカルUAS」がエチオピアで撮影されたのはたった2回だけであり、そのうち1回はビショフツ空軍基地にあるデジェン航空工学産業(DAVI)の施設でデポレベルの整備を受けているときでした。

 その目撃事例と2020年に公開された2つの動画を除いて、このUAVのエチオピアでの運用歴についてはほとんど何も知られておらず、それが今も稼働状態にあるかどうかも不明です。



 エチオピアに導入されたもう一つのイスラエル製無人機はブルーバード・エアロシステムズ 「ワンダーB ミニ」UASです(注:この機体については、ブルーバード社のウェブサイトを確認した限りでは取り扱いが終了した模様であり、現在はその発展型・垂直離着陸型である「ワンダーB ミニ VTOL」に製造が以降した模様です。こちらについてはエチオピアへの輸出は確認されていません)。

 これらは、エチオピア初のUAV連隊を編成するために2011年に調達され、システムを維持するための必要なインフラとともにエチオピアに到着しました。[1] [2]

 興味深いことに、「ワンダーB」はUAV型と訓練用のRC型の両方が導入されました(後者にはカメラが搭載されていないので判別が可能です)。訓練用の機体についてはエチオピアでは「MDAV-1」として呼称されており、RC型が現地生産に入っている可能性を示唆しています。しかし、「エアロスター」と同様にその運用歴と現在の運用状況については全く知られていません。




 エチオピアの緊急の要事は、疑問の余地がある政治的に慎重な対応を求められている買い物をするようにせざるを得なかったようです。

 しかし、紛争の現実は、時折その当事者に選択の余地を与えないこともあります。その結果、エチオピアは気がついてみると自らがイスラエルとイランのUAVを同時に運用するという独特な立場になってしまいました。

 エチオピアがイランとの取引での政治的影響を感じるかどうかは現時点ではまだ不明ですが、イスラエル製装備のさらなる購入や支援を受けることを禁じることは、エチオピアの立場を悪化させるだけでしょう。

 同様にイスラエル製とイラン製のUAV飛行隊がTPLFの一見して阻止できない進撃を食い止めるのに十分かどうかは不確かであることから、近い将来にエチオピアが(国の運命を変えようとして)さらに無人機を導入する状況を目にするかもしれません(注:2021年11月の時点で空軍が中国から「翼竜Ⅰ」を、陸軍と思しき部隊がUAEからVTOL型UCAVを導入したことが確認されました)。



[1] https://www.scribd.com/presentation/326026725/COURSE-DEBRIEF-ppt
[2] Ethiopia buys unmanned aerial vehicles from BlueBird https://www.defenceweb.co.za/aerospace/aerospace-aerospace/ethiopia-buys-unmanned-aerial-vehicles-from-bluebird/

※  当記事は、2021年8月23日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。
 


おすすめの記事