2021年11月30日火曜日

ティグレ戦争:エチオピアにおけるUAEの戦闘ドローンが正体を現した



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピア政府のためにUAEの無人戦闘航空機(UCAV)が投入されているという情報については、2020年11月に反政府勢力であるティグレ州との武力衝突が始まって以来ずっと推測されてきました。

 多少の中国製「翼竜」UCAVがティグレ上空での戦闘任務に当たるためにエリトリアのアッサブ空軍基地から出撃していると頻繁に主張されていますが、2020年当時でも現在でもそのような実戦投入が確かな証拠によって裏付けされたことは一度もありません。

 しかし、紛争勃発から約1年が過ぎた頃になった今、ティグレ防衛軍(TDF)との戦いを支援するため、UAEの戦闘ドローンが実際にエチオピア軍(ENDF)に引き渡されたことを示す証拠がついに明らかとなりました。[1]

 ただし、この引き渡されたUCAVは以前からティグレ上空で活動していると主張されてきた「翼竜」ではなく、2発の120mm迫撃砲弾を搭載できる大型の垂直離着陸(VTOL)型機でした。

 これらの無誘導の迫撃砲弾は「翼竜」や他の中国製UCAVが搭載している誘導兵器に比べて命中精度が著しく低いため、固定化した防御線ではなく機動力と奇襲攻撃を力とする敵に対してはあまり役に立ちません。都市部ではその有効性がさらに低下することを踏まえると、巻き添え被害を避けるために民間人がいる地域にこれらのUCAVを投入しないように、その操縦員に大きな自制を余儀なくさせるでしょう。

 アラブ首長国連邦(UAE)は、アビー・アハメド首相率いるエチオピア政府の強固な支援者であることが証明されています。

 これまでのところ、この支援が具体的にどのようなものだったかについては、依然として議論の対象になっています。分かっているのは、大型の「IL-76」輸送機がUAEとエチオピア最大の空軍基地であるハラールメダの間を頻繁に往来していることです。[1]

 貨物の内容に関しては現時点で推測の域を出ませんが、それらにティグレ州での使用を目的とした軍用品が含まれていたことは、ほぼ間違いありません。

 これまでのUAEによるエチオピアへの武器輸送には、数多くの現代的なデザインの小火器を製造しているカラカル社製の銃火器が大量に含まれていたことが知られています。[2]

 エチオピアでも使用されているイスラエル製の「TAR-21」アサルトライフルと同様に、UAEから供給された武器は共和国防衛隊だけに支給されました。最近では、共和国防衛隊はエチオピアのよく訓練された部隊の1つとして、ティグレ戦争に積極的に加わるレベルまで任務が拡大しているようです。

       

 伝えられるところによれば、UAEが引き渡した戦闘ドローンの画像は、約4ヶ月前(2021年6月頃)にティグレ州のマイチュー地区で撮影されました。[3]

 (戦争の間にティグレ防衛軍と変身した)ティグレ軍が、この地域からエチオピア政府軍を追い出そうと何度にもわたる攻勢をかけた後、マイチューは今やティグレの確固たる支配下にあります。

 このドローンシステム自体はエチオピア軍のオペレーターと一緒に退却した可能性があります。現時点で彼らの航続距離はマイチュー周辺のティグレ軍を再び攻撃して苦しめるには不十分なものとなってしまいました。



 このUCAVのベースとなった正確なドローンの形式はまだ不明のままですが、イエメンでフーシ派に撃墜された2機のUCAVとデザインが同一です(下の2枚の画像)。当然のことながら、これらのUCAVは撃墜された当時、UAEの支援を受けた部隊によって運用されていました。

 地上に落下した後に撮影されたドローンの画像は、これが2発の迫撃砲弾を搭載するように改造された(もともと中国製と思われる)市販の大型VTOL機であることを明らかにしています。




 重い120mm迫撃砲弾を搭載するため、ドローンの両側面には飛行する際に砲弾を格納する2本の大きなチューブが取り付けられています。操縦員が適切な標的を発見した後、これらの迫撃砲弾は遠隔操作で投下され、実質的に無誘導爆弾のごとく標的に向かって急速に落下していく仕組みです。

 当然ながら、これは低高度から投下した場合でも非常に不正確な照準方法であり、ドローンの有効性を静止した標的や大規模な歩兵の集団への攻撃に限定させるものです。ただし、それらのようなシンプルな標的でも攻撃のために必要な精度を得るためには、低高度から砲弾を投下させる必要があります。

 この手法はUCAVを地上からの攻撃を受けやすくさせますが、エチオピアで撃墜されたと報じられたドローンはまだありません(下の画像はイエメンで撃墜された機体です)。



 アメリカからの政治的手段で紛争を解決するようにと強まる圧力に直面しているにもかかわらず、日常的にエチオピアにやって来るUAEの貨物便を見ると、その同盟国がエチオピアを見捨てようとしていないことは明らかです(余談ですが、政治的手法による解決というオプションについては、エチオピアとティグレの両陣営の双方が検討する意思を持っているようです)。

 興味深いことに、エチオピア政府の支援者には互いに対立する国も含まれています。実際、互いに敵対しているUAEとイランはエチオピアにUCAVやその他の武器を供給しているのです。

 これらがエチオピアへの武器の最後の引き渡しでないことだけは確実でしょう。決して確定的なものではありませんが、中国やトルコ製ドローンの配備についても何度も伝えられているため、この戦争には継続的な観察を要します(注:後に空軍が「翼竜Ⅰ」UCAVを導入したことが明らかとなりました)。



[1] https://twitter.com/Gerjon_/status/1435329547722018817
[2] Emirati Small Arms in Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/emirati-small-arms-in-ethiopia.html
[3] https://twitter.com/wammezz/status/1445034651085639688

特別協力: Wim ZwijnenburgVleckie(敬称略)

※  当記事は、2021年10月5日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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