著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ 「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)の商業的成功には際限がなく、このシステムの調達に関心を示す国の数は月ごとに増加しているようです。2021年10月下旬の時点で、TB2を調達した国は13カ国と報じられており、同年8月から3か国も増加しました。[1]
TB2の製造・販売を手がける
「バイカル・テクノロジー(以下、バイカル社と表記)」社は、ほかの大部分のUCAVメーカーが自社製システムの生産期間の全体を通じて達成したいと望む数よりも多くの取引を3か月で成功裏に締結したため、この商業的成功の重要性について、いくら強調してもし過ぎることはありません。
それ自体もすでに素晴らしい偉業ですが、「バイカル」社が全く新しい市場に自社製品を浸透させることに成功したことも同じくらい素晴らしいことだと言ってもよいでしょう。その中で最も注目すべきはサハラ以南のアフリカ市場で、ナイジェリア、アンゴラ、ルワンダといった国々がTB2の導入を示唆したり、すでに発注済みの状態にあります。[2]
「バイラクタルTB2」を調達したもう1つのアフリカの国は、ニジェールです。[3] [4]
ニジェールへの販売は、モロッコやリビアなど他のアフリカ諸国とすでに締結している取引に続いて成立しました(注:2023年現在は、
すでに作戦に投入されているようです)。このとき、「バイカル」社は、「翼竜」シリーズを生産する中国の「CAIG」社や「CH-3/4」シリーズで知られる「CASC」社だけでなく、トルコ企業との競争にも直面しました。[3]
「T129」については、機体に搭載されるターボシャフトエンジンである「LHTEC」製 「T800」の輸出許可にアメリカが難色を示したことが海外販売のネックとなっており、「アンカ」の輸出販売が不調なのは、UCAV市場における中国や「バイカル」社との激しい競争の結果がダイレクトな原因であることに疑う余地はありません。
「バイラクタルTB2」がリビア、シリア、そしてナゴルノ・カラバフで著しい成功を収めたことが、価格の安さと共にTB2の売却を推し進め、結果的に「アンカ」に不利益をもたらしていることは間違いないでしょう。
とはいえ、「TAI」はニジェールに若干数の
「ヒュルクシュ」練習機を売却することに成功し、同機初の輸出を記録するという偉業を成し遂げたことも注目すべき出来事と言えます。[6]
現在、ニジェールはチャド湖に沿った南東部の国境で反政府軍の脅威に直面しています。
この脅威は2000年代後半に
ボコ・ハラムによって引き起こされ、今はイスラム国・西アフリカ州(ISWA)が主体となっています。彼らがニジェールの前哨基地や民間人の居住地を頻繁に攻撃した結果、数千人もの民間人や兵士が殺害されました。[7]
ボコ・ハラムのテロ活動は2009年にナイジェリア北東部で勃発し、次第に行動範囲が近隣のチャド、カメルーン、ニジェールまでに急速に拡大していきました。治安部隊はこれまでにこうした脅威を封じ込めるのに苦労しており、機動性の高い武装勢力を追跡し、居場所を突き止め、無力化するのは困難であることが判明しています。
イスラム国部隊との戦闘の難しさは、ニジェールが彼らの小規模な集団や車両を発見し無力化できる適切な航空戦力が欠けていることによってさらに悪化しています。なぜならば、彼らは近くにある木の下に隠れるだけでほとんどの航空機からの発見から簡単に逃れることができるからです。
現在、ISWAと戦う諸国の中ではナイジェリアだけが、密集した草木に隠れた人や車両の熱源を検知できる前方監視型赤外線装置(FLIR)を搭載したUAVの大規模な飛行隊やその他のアセットを運用しています。
ニジェールはFLIRを搭載した航空機を数機保有しているものの、これらは非武装であるため、攻撃機やヘリコプターとの連携した運用は事実上不可能となっているのが現状です。
「バイラクタルTB2」のような無人戦闘航空機(UCAV)を導入することで、ニジェールは現在保有している作戦機の長所(この場合、高度なFLIR装置と兵装)を1つのシステムに統合することができます。また、TB2(と「アンカ」)は、アフリカのほとんどの攻撃機やヘリコプターに搭載されている無誘導爆弾やロケット弾ではなく、最大で4発の
「MAM-L」か
「MAM-C」精密誘導爆弾を搭載することが可能です。
多くのアフリカ諸国は、高度な兵器を調達したものの、それらの運用について長期的に見ると財政面で持続不可能であることが判明した経験があるため、TB2の手頃な価格、信頼性、そして強力なアフターサポートはニジェールでも間違いなく評価されることでしょう。
現在の「Armée de l 'Air Nigérienne(ニジェール空軍)は、ロシア、ウクライナ、アメリカ、フランスから導入した固定翼機とヘリコプターで構成された、小さくもよく装備された飛行隊を運用しています。
過去10年間で、ニジェール空軍は、ニジェール南部のチャド湖岸において急増しつつあったイスラム国によるテロ攻撃に対処する能力を強化することを目的とした、適度な再軍備計画を立ちあげて推進してきました。
その計画の一環として、ニジェールは近接航空支援(CAS)機と攻撃ヘリコプターを保有することになり、
「キングエア350」ISR機を1機、
「セスナ208」を2機、そして
「DA42 MPP」を 2機といった多数の新型観測機も導入されました。後者の2機種はFLIR装置を搭載しているため、同国南東部のナイジェリアとの国境沿いでの監視任務に適しています。
ちなみに、2機の「セスナ208」は、ニジェール南東部上空の情報収集・警戒監視・偵察任務(ISR)を遂行するために、2015年に米国から供与されたものです。[8]
ただし、アフガニスタン、レバノン、イラクに引き渡された「AC-208 "コンバット・キャラバン"」とは異なって、ニジェールの「セスナ208」は武装を全く備えていません。
ニジェール空軍の対地攻撃能力は、
「Su-25」攻撃機2機、
「Mi-35P」攻撃ヘリ2機、「
Mi-171Sh」強襲ヘリ2機、
「SA342M "ガゼル"」攻撃ヘリ3機で構成されています。この空軍の攻撃機やヘリコプターはいずれも誘導兵器を装備していないものの、各種ロケット弾やガンポッドを装備することが可能です(注:ニジェールは誘導爆弾や空対地ミサイルを保有していません)。
同空軍がほかに保有する飛行機には、「C-130 "ハーキュリーズ" 」輸送機2機、
「ドルニエ228」輸送機、ハンバート「
テトラ」軽飛行機2機、
「ボーイング737」VIP輸送機が含まれています。
2013年には、はアメリカから、災害・戦傷救難活動仕様の「セスナ208 "キャラバン"」2機も供与されました。[8]
自身がいまだにUAVを運用していないにもかかわらず、フランス軍の
「MQ-9B "リーパー"」を首都ニアメに配備し、中央部のアガデス近郊にあるアメリカの極秘のドローン基地を提供することによって、ニジェールは今やサハラ以南のアフリカにおけるU(C)AV作戦の中心地となっています。
これらの国による作戦がニジェールに自身のUCAVの運用に体する関心を刺激し、それが南部国境の治安状況と組み合わさって、自国のUCAVアセットの導入を強く主張するに至らせたことは間違いないでしょう。
ニジェール空軍の固定翼機とヘリコプターは全てが首都ニアメのベース・アエリエンヌ101(BA101:第101空軍基地)を拠点としており、
ディオリ・アマニ国際空港と敷地を共有しているものの、軍専用の滑走路を有しています。
「BA101」はフランス空軍の輸送機やUCAVにも使用されていたほか、以前はアガデスに運用が移るまでは、ニジェールにおけるアメリカによるドローン運用の主要拠点として使用されていました。
ニジェール中部に位置するアガデス(BA201)も重要な空軍基地ですが、現在はここに常駐している航空機はありません。
公式な空軍基地という地位を得ていないにもかかわらず、ニジェール空軍は同国南東部にあるディファ飛行場へ定期的に機体を派遣し続けています。