著:シュタイン・ミッツアー "最も美しい海:まだ渡られていないものだ。最も美しい子供:まだ成長していないものだ。最も美しい日々:まだ過ごしていないものだ。そして、私があなたに伝えたかった最も美しい言葉は、まだ口にしていないものだ。(
ナーズム・ヒクメット) "
親愛なる皆様へ
私は、いつかこの別れの挨拶を"書く" ことを常にイメージしていました。ご存知のとおり、Oryxの旅は当初の目的とは異なる道をたどりました。Oryxが当初に意図していたのは、あるティーンエイジャーの退屈しのぎでした。当時の私はまだ17歳の高校生で、サッカーから離れたばかりだったこともあって自由な時間が大量に残っていたのです。
アラブの春、特にリビア革命とシリア革命への関心は、私にインターネットで最新情報を探し回ることで多くの時間を費やすようにさせました。シリア革命が長引く内戦に発展する中、私はツイッターのアカウントを作って、次々と明らかとなる出来事をより注意深くチェックすることに決めました。
私がフォローしたアカウントの一つが、自身のブログ「ブラウン・モーゼス」でシリア内戦を報じ始めたエリオット・ヒギンズのものでした。
ある日、彼にイタリアが改修した「T-72」戦車が戦争で使用されたことについて報じるつもりがあるかと尋ねた後、''平均的なXboxの所有者よりも兵器について何も知らない高校中退者'' がこうした記事を書けるのなら、おそらく私もできるるだろうと自分に言い聞かせたことを思い出します。 その日の夜、私はブログを立ち上げ、その名前を決め(オリックスは威厳のある動物、スピオエンコップはアフリカーンス語で "スパイの丘 "を意味し、そこから世界中の出来事を眺めることができるという意味)、シリアの「T-72」戦車に関する最初の記事をリリースしました。 (興味のある方は
こちらでご覧いただけます:日本語版は後日に公開予定です).
それは2013年2月16日のことでしたが、この10年後にOryxが退屈しのぎの解決策から私の時間とエネルギーの大部分を消費するプロジェクトへと変貌を遂げることになるとは、当時の私は少しも想像していませんでした。「T-72」の記事が僅か数時間で520の閲覧をカウントし、その月のブログ全体の総閲覧数が約3,500に達することに寄与した喜びは、今でも思い出すことができます。それから10年後に話を進めると、現時点におけるOryxの1日の閲覧数は平均で25万に達しています。
最初の記事から数か月後、私は(2017年まで注目していた)シリアについて書き続けましたが、より大きな挑戦に対する欲求は常に存在していました。私のモチベーションは挑戦することで高まります。私に最も困難な分析対象を提示してほしい...複雑な対象をマスターすると、私は次の課題を探し求めました。
最終的に、私は北朝鮮を分析することに最大の挑戦を見出しました。当時(2010年代初頭)における北朝鮮から公開される写真や映像の希少性は入手可能な映像コンテンツが氾濫する現在とは著しく対照的であったため、私は興味をそそられたのです。入手できる情報が限られている上に間違った情報も多いため、分析が最も難しい国であることは間違いありません。
一連の記事と最終的に出版した本を通じて、ヨーストと私は朝鮮人民軍を取り囲む謎を解き明かそうと試みました。この本の最後のページの執筆を終えたとき、私は北朝鮮という分析対象に満足感を抱きました。私たちは自身が持つ疑問に対する答えを解き明かしたのです。この挑戦が解決したことで、私は好奇心とモチベーションを維持できる別のテーマを探し始めました。
次の課題を見つけることは、以前より非常に難しいことに気づきました。しかし、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争、トルコ(の防衛産業)、ティグレ戦争は、結果として分析的な満足感と望むレベルの複雑さの両方を私に与えてくれるテーマとして登場しました。
これらは西側諸国のアナリストが全く関心を示さないトピックであったため、私の目にはより興味深いものとして映りました。主流のメディアとは対照的に、私たちは流行の記事や見出しを作る必要性に囚われることはありませんでした。その代わり、私たちはティグレ戦争、リビア内戦、イエメン内戦といった十分に報じられていない紛争に光を当てる機会だと考えたのです。
さまざまな国や紛争を継続的に探究することがOryxを私にとって新鮮なものにし続けたものの、それは同時に、私が探究しようと考えた対象をほぼ網羅したと感じる次元に到達してしまいました。この旅は満足のいくものでしたが、ようやく最終目的地に到着したようです。
2021年後半から、書くという行為が繰り返しに感じられるようになりました。まるで以前に全ての文章を書いたように思えるのです。私にとって、この現実が次に進む時が来たという明確な兆候となります。実際、私はすでに2022年の春までにOryxを終わらせようと考えていました。ところが、ロシアのウクライナ侵攻によって、さらに続けるための新たなエネルギーを注入されてしまったのです。
しかし、それから1年半後、私は輝きを失ってしまいました。軍事的なことに対する関心は色あせつつあり、全てに追いついていなければならないというプレッシャーが私を疲弊に追い込んでいるからです。普段の私は携帯電話を持ったまま眠りにつくのですが、目が覚めるとをその上で眠っていたことに気づきます。
私は全ての死と破壊にうんざりしています。爆弾でバラバラになった人々の遺体や、武力紛争のおかげで死んでしまった新生児を抱きかかえる両親を映すビデオを見続けてきたこの10年間は、本当に苦しいものでした。それでも、Oryxが私にもたらしてくれた機会や、ヨーストやケマルとの一生涯にわたる友情に大きな喜びを感じています。
シンクタンクでのポストを得たり、Oryxを富をもたらす民間諜報機関に変身させるといった選択肢があることも知っていますが、私にとってこうした道を歩むことは魅力的ではありません。私には、そのような団体や機関の目標と一致しない道徳的指針が内在されているのだと思います。
Oryxを通じて経済的な利益を得る可能性があったにもかかわらず、私は意図的にそれを追求しないことを選びました。私にとって、(支援サイトである)
Patreonで得た全収入を慈善団体に寄付するという行為が、唯一可能な行動のように思えたのです。戦争や自然災害が続く中で、より多くの必要とされる事柄を考慮せずにお金を持ち続けることを正当化するのは困難を極めます。
私をお金に誘惑されません...特にそれが紛争と関連しているときはなおさらです。私にとっての真の財産とは、家族、健康、そして人生の些細なことに幸福を見出すことにあります。
森林の散策や友人たちと一緒に過ごす時間は、私に本物の豊かさを感じさせてくれます。若いときにこの教訓を学ぶのは極めて貴重なことです。
私にとっての真の成功と幸福は、人気や知名度、そして本の出版に全く左右されないということに長年をかけて気づきました。今までの成果にはそれぞれに意義はあるものの、本当の意味での誇りを私にもたらしてはいません。私にとっての最も重要な功績は、若いうちに幸せの本質を理解し、大切な人たちに誇りをもたらしたことです。
Oryxは、真の幸福が名声や経歴上の功績、そして富で得られるものではないことを私に教えてくれました。主要なテレビ局に取り上げられ、ジョン・マケインやデイビッド・ペトレイアスといった大物に認められたり、私たちのデータが情報当局に利用されるなど、Oryxは世間で認知度を上げてきました。それでも、当時のガールフレンドに贈った本にメッセージを書けたことが私の最も誇らしい瞬間として残り続けています。本当の幸せがどのようなものか、彼女が見せてくれたのです。これに勝るものは決して存在しないでしょう。心から感謝しています。
この10年間を振り返ってみますと、Oryxは他の人たちが独自の分析と執筆の旅に出るきっかけになってきました。これからもそうあり続けることを願ってやみません。防衛や国際関係の分野で教育を一切受けずに17歳でスタートしたOryxは、同じような道を選ぶ人々に大きなチャンスが待っていることを示す証拠と言えるでしょう。
さらに私に刺激を与えたのは、長年にわたって楽しんできたツイッター上における読者との交流でした。ある時点で膨大なメッセージの数に圧倒されたこともあり、私からの返信を得ることができなかった方も多いでしょう。この場を借りてお詫び申し上げます。
また、私は長年にわたってOryxにさまざまな立場で支援を提供してくださった全ての方々(特に
ヤクブ)に心から御礼を申し上げます。
「バック・ダニー」と「ビグルス」の漫画本を買ったことで子供時代の興味が刺激されて始まったものが、あらゆる合理的な制約をはるかに超越した趣味に発展しました。かつては情報機関への就職を熟考したこともありましたが、その話が実現することはありませんでした。
最後に、私は(ここ1、2年で恒例となった)リスト作成という作業の原点と、その時代ごとの変遷について説明しなければならないと感じていますので、ここに記しておきます。
私たちはチ-ム内部における分析に活用する目的で、2013年からリスト作りを開始しました。北朝鮮の装甲戦闘車両(AFV)の数と種類とバリエーションは難題となり、私たちに効率的な分析をする前にカタログ化するよう促しました。
この最初のリストがそれ以降に続くリストの下地となったわけですが、イスラム国がイラクとシリアで鹵獲した膨大な量の武器や装備を示すことを目的とした「損失リスト」の編集に着手したのは、2014年の夏になってからのことでした。
作成プロセスが比較的容易なものであったことから、(おそらくOryxがその名を残すことになる主な要因となるであろう)リストが急増していったのです。こうしたリスト群が評判を呼び、(ややジョーク的ですが)
「リストのリスト」と称する記事をリリースすることによって、私自身がOryxでリストを作成するという行為を完全に受け入れていることに気づきました。
ここで白状しますが、私は事前に計画を立てることが嫌いで、日常生活でリストを作ることはありません。ごめんなさい!
10月1日に別れを告げるにあたって、お気に入りの歌手である坂本九の歌の中で私が最も愛する「上を向いて歩こう」の一節を皆さんに捧げます。
Happiness lies beyond the clouds
Happiness lies up above the sky
追記:一応ここではっきりさせておきますが、私は「プヤラ・ビール」からスポンサードを受けているわけではありません – 近くにあるスーパーマーケットで2本目が半額になるキャンペーンがあったので購入しただけです。結局のところ、私のオランダ精神は変わっていません。
※ この記事は
2023年8月15日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
です。また、
本国版の記事の大部分を翻訳するまで当日本語版の活動は続きます。おすすめの記事