2022年8月5日金曜日

知られざる艦艇の話:バングラデシュの「キャッスル」級哨戒艦



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2020年8月にベイルートで発生した壊滅的な大爆発の映像は、2.750トンの硝酸アンモニウムの保管に関する驚くべき無能と過失によって207人を死に至らせたことに加え、150億ドルを超える損害を生じさせたとして世界中に衝撃を与えました。

 また、この爆発事故によって、国連レバノン暫定軍の海上任務部隊の一員として地中海に派遣され、ベイルートに駐留(停泊)していたバングラデシュ海軍艦艇「BNS ビジョイ(上の画像)」も被災しました。近くにあった穀物倉庫が爆風の大半を受け止めたおかげで爆発による最も極度な影響から免れることはできましたが、それでも乗組員から21名の負傷者が生じ、「ビジョイ」自身も無事に帰国する前にトルコで修理を受けなければなかったのです。[1]

 「BNS ビジョイ(勝利)」は2011年初頭からバングラデシュ海軍で運用されている2隻の哨戒艦のうちの1隻です。両艦のキャリアは1980年代初頭のイギリスで始まり、「キャッスル」級哨戒艦として就役しました。

 この哨戒艦の主要な任務は、北海におけるパトロールと漁業保護の遂行にありました。また、この艦は緊急時の掃海作戦にも使用可能であり、最初から設けられてる兵員の収容スペースや広いヘリ甲板は、同艦をさらなる多数の補助任務にも完璧に適したものにしています。

 1982年のフォークランド戦争後、「キャッスル」級は3年ごとの交代制でフォークランド諸島の警戒任務に従事していました。

 これらは2000年代半ばまでに「リバー」級外洋哨戒艦「HMS クライド」に置き換えられることになり、「キャッスル」級の2隻は2005年と2007年にイギリス海軍から退役しました。

 当初、この2隻は2007年にパキスタン海上保安庁に売却される予定でしたが、取引が成立しなかったため、結果として2010年4月にバングラデシュ海軍へ売却されました。

 2010年5月以降、両艦は(イギリス北東部の)タインサイドにある「A&Pグループ タイン造船所」で大規模な改装を受けました。これにはエンジンのオーバーホール、新しいディーゼル発電機とデッキクレーンの搭載、乗組員の居住空間の徹底的なアップグレードが含まれており、一連の作業は2010年12月まで続きました。[2]

 2011年初頭にバングラデシュに到着した後、両艦は「BNS ダレシュワリ(同国を流れる川の名前)」と「BNS ビジョイ」として同国海軍に就役しました。[3]

       

 ほぼ間違いなく彼らのキャリアの中で最も興味深いものとして、新しい所有者の下で哨戒艦からミサイルコルベットに格上げされたことが挙げられます。

 バングラデシュで改修を受けた結果、「キャッスル」級は中国製の「C-704」対艦ミサイル4発とソ連の「AK-176」76mm砲の中国製コピー「H/PJ-26」で武装したイギリス起源の哨戒艦という世界でも類を見ない独特な艦となりました。

 40mm機関砲1門(後に30mm機関砲に換装)と小型艇に対する近接防御用の7.62mm汎用機関銃(GPG)数門だけを装備していたイギリスでの就役当時のものを考慮すると、これらの新たな艦載兵装は以前のものから著しく向上したことは一目瞭然でしょう。

 新たに搭載された兵装については、艦橋後部に設置された2門の有人式20mm機関砲と、対空・対水上レーダーと火器管制レーダーで一段と強化されています。

爆発に巻き込まれた「BNS ビジョイ」から下船して歩く負傷兵たち(2020年8月4日)

 1993年にモザンビークに初めて派遣されてi以降、バングラデシュ海軍は国連の平和維持活動に定期的に参加しています。約30年間で、バングラデシュ海軍の5,000人以上の人員が、アフリカ、中東、南米、アジアにおける国連ミッションを完遂しました。[4]

 2010年には、海軍はフリゲート「BNS オスマン」と哨戒艦「BNS マドゥマティ」の2隻を国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の一員として派遣しました。

 「BNS ビジョイ」は2020年8月4日に文字どおりに爆発に巻き込まれるまでの間、地中海のパトロール、海上阻止、対空監視、そしてレバノン海軍要員の訓練を任務としていましたが、被災後はコルベット「BNS ショングラム(056級コルベットの輸出型)」がその任務を引き継ぎました。[5]

爆発直後に撮影された「BNS ビジョイ」内部の状況

 広いヘリ甲板を備えているにもかかわらず格納庫が存在しないためか、「キャッスル」級にはイギリス海軍もバングラデシュ海軍も作戦配備の際に艦載ヘリコプターを配属させたことがありません。その代わり、ヘリ甲板は複合艇(RHIB)の格納場所や訓練・娯楽エリアを兼ねて使用されており、窮屈な船内に欠けながらも大いに必要とされるスペースを提供しています。

 将来的には、広大な甲板スペースをVTOL型UAV用に活用して「コルベット」の実質的な警戒範囲を大幅に拡大することが可能となるでしょう。この種のUAVはヘリコプターよりも運用コストが大幅に低いだけではなく、船内や甲板の空きスペースに置く専用の(コンテナなどの)小さな構造物に格納できるという付加価値も有しています。

消火訓練で放水中の「BNS ビジョイ」と「BNS ダレシュワリ」(2017年)

 バングラデシュ海軍は(改装された)中古艦艇の運用にかなり慣れている海軍として知られています。

 この2隻はかなりの艦齢にもかかわらず、地中海における国連のミッションへの派遣やバングラデシュの領海警備で、将来にわたってこの国の海軍で十分に役立つ見込みがあります。

 特に世界中のほかのコルベットと比較した場合、主に対空ミサイルや近接防御用火器(CIWS)といった現代的な武装面で乏しいかもしれませんが、現在進行中の大規模な軍の近代化・戦力向上事業「Forces Goal 2030」の後には上記の武装を導入した新型艦を目にする可能性があるでしょう。

 この事業で中国から「035」級潜水艦を導入したことを踏まえると、バングラデシュ海軍には期待すべき明るい未来が待っていることは間違いありません(注:「035」級はバングラデシュ初の潜水艦です)。



特別協力: Rahbar Al Haq (敬称略)

[1] Beirut blast-damaged BNS Bijoy returns home https://www.dhakatribune.com/bangladesh/2020/10/25/beirut-blast-damaged-bns-bijoy-returns-home
[2] A&P Tyne wins massive refit https://www.thenorthernecho.co.uk/news/8119098.p-tyne-wins-massive-refit/
[3] Bangladesh Secures 2 Used British OPVs https://www.defenseindustrydaily.com/Bangladesh-Secures-2-Used-British-OPVs-06369/
[4] Role of Bangladesh navy in UN peacekeeping mission https://m.theindependentbd.com/printversion/details/201462
[5] Bangladesh Navy corvette BNS Shongram en route to help in Lebanon https://www.navyrecognition.com/index.php/naval-news/naval-news-archive/2020/august/8858-bangladesh-navy-corvette-bns-shongram-en-route-to-help-in-lebanon.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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2022年8月1日月曜日

普及につれて増える犠牲:世界各地における中国製UAVの損失記録(一覧)



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 中国製の無人航空機(UAV)の品質については、今までに多くのことが書かれ、議論がなされてきました。

 中国のドローンにはアメリカのUAVを代替するコストパフォーマンスに優れた実績があるという主張がある一方で、イスラエル、アメリカ、そしてトルコの競合機種と比較した場合の墜落発生率の高さや信頼性の問題を指摘する意見もあります。

 これらの問題を抱えているにも関わらず、中国製UAVは現在のマーケットで非常に高い人気を維持し続けています。これは特に中国の武器販売には制約がほとんど存在せず、UAEのような国が中国製無人戦闘航空機(UCAV)をアメリカで生産されたドローンの運用が認められていない地域に投入することを可能にしているという事実によるものと思われます。さらに、中国のUAVは導入コストが明らかに低いことが、予算が限られた国にとって理想的な選択肢にしていると主張することもできます。

 逆に、いくつかの中国製UCAVの価格は、実際には西側諸国の競合機種に近いか、場合によってはそれを上回っているものがあります。

 ほんの一例を挙げると、海外の顧客が1機の「翼竜Ⅱ」UCAVを購入する際に要するコストは約1500万ドル(約17億円)とみられており、これはトルコの「バイラクタルTB2」の約3倍の価格に相当するものです。そのうえ、信頼性よりも低価格での購入を優先した場合、最終的には最初から信頼性の高いUAVを購入するよりも高いコストがかかる可能性すらあります。

 仮に「翼竜Ⅱ」とTB2の信頼性が全く同じだとすると、前者のコストはTB2の約3倍程度になってしまいます。しかし、「翼竜Ⅱ」の信頼性がTB2の半分しかないと仮定した場合は、損失分の交換コストも考慮すると実質的には6倍もの価格になってしまうのです。

 仮に「翼竜Ⅱ」の墜落率がTB2の2倍(15,000飛行時間に1回)だとすると、1時間あたり1,000ドル(約11.5万円)のコストを要することがわかります。その一方で、TB2の墜落率は30,000飛行時間に1回と報告されており、これは突き詰めていくと1飛行時間あたり約166ドル(約19,000円)のコストに相当します。[1]

 つまり、総所有コストは運用コストを考慮しない場合であっても、初期(取得)費用だけで終わらないのです。ヨルダンなどの国々は結果としてこの事実を身をもって知ることになり、同国は「CH-4B」UCAV飛行隊の全機を購入してから2年足らずで売りに出してしまいました。[2]

 イラクでの同型機も同じようなもので、導入した20機のうちの8機は僅か数年の間に墜落し、残りの12機はスペアパーツが不足しているために現在も格納庫で放置され続けています。[3] [4]

 ほかの国の例を挙げると、アルジェリアでは数ヶ月の間に3機の「CH-4B」を墜落で失い、ナイジェリアとモロッコ、そしてトルクメニスタンの3カ国は以前に中国製のUCAVを調達したものの、後にトルコ製のUCAVを購入しました。[5]

 彼らの不完全な運用記録は、中国メーカーによって提供されたアフターサービスが不十分であることを示唆しています。

       

 それにもかかわらず、トルクメニスタンのような国が(中国製)UAVの損失を公表することはありそうもないため、中国製ドローンの損失の正確な概要を提示することは困難を極めます。

 同様に、サウジアラビアの砂漠地帯に墜落したドローンは、民間人が残骸を撮影する機会を得るよりずっと前に撤去された可能性があり、これは多くの損失が発見されずに済むことが多いことを意味します。

 1つの注目すべき事例として、2019年か2020年にリビアのどこかで墜落したUAEの「翼竜Ⅰ」の残骸が2021年8月になってようやく発見されたことがあります。これも全くの偶然の出来事でした。[6]

 あえて言うならば、UAVの損失は、激しい紛争地帯であっても記録することが難しいことで悪名高いのです(注:上記の理由に加えてUAV自体が無人で機数も多く存在ため。これに伴ってファクトチェックも困難度が上がります)。

  1. この一覧は、中国製の無人航空機(UAV)の損失を(世界中の運用国と共に)可能な限りリスト化することを目的としています。
  2. この一覧は、視覚的に損失が確認されたか、公的に損失が認められたものだけを掲載しています。
  3. したがって、実際に損失したUAVの実数はここに記録されているものよりは著しく多いと思われます。
  4. この一覧は、新たな墜落や撃墜が確認された場合に更新されます(最終更新は2022年2月22日)。


喪失機の種類と数
  • CH-4B UCAV: 23
  • 翼竜II UCAV: 8
  • 翼竜Ⅰ UCAV: 6
  • スカイ-09P: 3
  • UV10CAM: 2
  •  CL-4: 2
  •  CL-11: 2
  • DB-2: 2
  • スカイ-02A: 1
  • CH-3A UCAV: 1
  • CH-92A: 1
  •  BZK-005: 1
  •  ASN-209: 1
  •  シー・キャバリー「SD-60」: 1


喪失機の運用国と機数 
  • サウジアラビア: 17
  • アラブ首長国連邦: 12
  • イラク: 8
  • 北朝鮮: 5
  • リビア: 4
  • アルジェリア: 3
  •  スーダン: 2
  • 中国: 2
  • エチオピア: 1
  • ナイジェリア: 1
  • ミャンマー: 1
  • エジプト: 1
  • パキスタン: 1


喪失場所 (国)と機数
  • リビア: 19
  •  イエメン: 18
  •  イラク: 14
  •  韓国: 5
  • アルジェリア: 3
  • スーダン: 3
  • 中国: 1
  • ミャンマー: 1
  • ナイジェリア: 1
  • エジプト: 1
  • パキスタン: 1
  • カンボジア: 1
(機体名の後に続く番号をクリックすると墜落した当該機体の画像が表示されます。国旗は墜落した国を表示しています。)


UAE (12機喪失)


サウジアラビア (17機喪失)


イラク (8機喪失)


北朝鮮 (5機喪失)


リビア (4機喪失)


アルジェリア (3機喪失)


スーダン (2機喪失)


エチオピア(1機喪失)


ミャンマー (1機喪失)


ナイジェリア (1機喪失)


エジプト(1機喪失)


パキスタン (1機喪失)


中国 (2機喪失)



[1] HALUK BAYRAKTAR İNGİLİZ DÜŞÜNCE KURULUŞU RUSI'NIN PANELİNDE KONUŞTU https://youtu.be/jKj-FOMQlNw
[2] Jordan Sells Off Chinese UAVs https://www.uasvision.com/2019/06/06/jordan-sells-off-chinese-uavs/
[3] OPERATION INHERENT RESOLVE LEAD INSPECTOR GENERAL REPORT TO THE UNITED STATES CONGRESS https://media.defense.gov/2021/May/04/2002633829/-1/-1/1/LEAD%20INSPECTOR%20GENERAL%20FOR%20OPERATION%20INHERENT%20RESOLVE.PDF
[4] Iraq’s Air Force Is At A Crossroads https://www.forbes.com/sites/pauliddon/2021/05/11/iraqs-air-force-is-at-a-crossroads
[5] Chinese CH-4B Drones Keep Crashing In Algeria For Technical Fault https://www.globaldefensecorp.com/2021/03/11/chinese-ch-4b-drones-keep-crashing-in-algeria-for-technical-fault/
[6] عاجل| العثور على حطام طائرة بدون طيار جنوب مدينة بني وليد https://www.lj-bc.net/2021/08/138928.html

特別協力: Lost Armour(敬称略)

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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