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2023年3月1日水曜日

新たな輸出の成功:ナイジェリアがトルコの「OPV 76」哨戒艇を発注した


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 トルコ製兵器で国際市場で成功を収めているのは無人機だけではありません。トルコの武器産業は他の分野でも世界全体で高い評価を得ています。

 これらにはブルキナファソとトーゴによって最近調達された「MEMATT」地雷除去車のケースのように、あまり魅力的ではない(それでも非常に重要な)役割のおかげで国際的なアナリストによって全く注目を受けていないシステムも含まれています。[1] [2]

 最近、ナイジェリアがトルコの「ディアサン」造船所から2隻の76m級洋上哨戒艇(OPV):「OPV 76」を発注した事例のように、ほかのトルコ製兵器がより多くの注目を集めつつあります。現代の広い市場における厳しい競争を考慮すると、2隻のOPVの購入は「ディアサン」造船所にとって注目に値する成功と言えるでしょう。

 近年のナイジェリア海軍は、中国やアメリカ、イスラエル、そしてシンガポールといった国々から調達したOPV群から成る相当な規模の艦隊を運用していることで知られています。

 2021年から2030年までの艦隊再編プランの一環として最新型OPVを必要とするにあたり、ナイジェリアは最終的に「ディアサン」の「OPV 76」案を選定する前に、中国、オランダ、イスラエルの造船所が売り込んでいる艦船を検討していたようです。

 2隻のOPVはどちらも(「ギュルハン」造船所との合弁事業として)イスタンブールの「ディアサン」造船所で建造され、37か月以内にナイジェリア海軍に引き渡されるスケジュールとなっています。[3]

 このOPVは主にトルコで設計・開発されたセンサー類や兵装が搭載される予定です。

 さらに、「ディアサン」のCEOは、この取引にはナイジェリアへの技術と専門的知識(ノウハウ)の移転も含まれていることを明らかにしました。[3]

 すでにナイジェリア海軍は小型哨戒艇の設計・建造に熟練していることから、「ディアサン」からの技術移転によって将来的にはより大きな艦艇の建造計画に取りかかる可能性が考えられます。 [4]

 今や「ディアサン」造船所は、トルクメニスタン海軍と国境警備隊の主要なサプライヤーとなっています。同造船所は、今までトルクメニスタンに「デニズ・ハン」級コルベット1隻、「NTPB」哨戒艇10隻、「FAC 33」高速ミサイル艇6隻、「FIB 15」高速介入艇10隻、27m級揚陸艇1隻、「HSV41」測量船1隻、人員輸送用の双胴船1隻、2隻のタグボートを納入してきました。[5]

 海軍の増強はトルクメニスタンをカスピ海で相当に強力な海軍力を持つ国へと一変させましたが、特に重要なのは、この偉業が「ディアサン」造船所の尽力を通じて実現されたということでしょう。[5]

握手を交わすナイジェリア海軍のアワル・ガンボ提督とディアサン造船所のムラット・ゴルディCEO。「OPV 76」の模型に「SH-60 "シーホーク"」が搭載されている点に注目。実際には、このOPVのヘリ甲板はナイジェリア海軍によって数機が運用されている「AH109W」によって仕様される可能性が高いでしょう。

 「OPV 76」は、最低限の軍事力を行使する範囲内でさまざまな任務を遂行するために設計されました。この哨戒艇の全長は78.6mで、4基の「MAN」社製「18VP185」ディーゼルエンジンを搭載しているため、最大28ノット(約51.8km/h)の速さで航行することが可能です。 やや低速で航行した場合の航続距離は3000海里(5500km以上)となります。[6]

 顧客が選択した艦載兵装に左右されますが、この船は概ね40名の乗組員で運用されます。

 艦尾には「NHインダストリーズ」「NH90」ヘリコプターを搭載できるヘリ甲板が備えられていますが、格納庫は設けられていません。

 「ディアサン」によって販売されている標準仕様の「OPV 76」は、艦首に「レオナルド」社製76mmスーパーラピッド砲、上部構造物の後方に同社製「マーリン40」40mm機関砲 、2門の12.7mm重機関銃(HMG)装備型リモートウェポンステーション(RWS)、2門の12.7mmHMG、そして2門の「MBDA」製携帯式対空ミサイル(MANPADS)用2連装発射機、それと共に任務に必要とされるレーダーやセンサー類を備えていますが、ナイジェリアは発註した2隻に別の兵装を選択しました。

 実際、ナイジェリアの「OPV 76」でトルコから調達していない艦載兵装は艦首にある76mm砲であり、同位置には代わりとして「マーリン40」40mm機関砲が搭載されています。後部上部構造の「マーリン40」があるべき位置には「アセルサン」製の「STOP」25mm RWSが装備され、MANPADS発射機も3門の同社製「STAMP」12.7mm RWSに置き換えられています。

 そして、前述の装備に加えて数門の手動式機関銃がナイジェリア向け「OPV 76」の兵装を構成しています。

 これらの装備の変更については、トルコは自国で必要とする防衛装備の国産化をますます進めてイタリアの76mm砲の国産コピーも製造するようになったため、トルコの造船所は輸出用の艦艇を売り込む際に、もはやその艦載兵装を外国製に依存する必要がなくなったことを意味します。[7]

 このOPVに装備されているほかの「アセルサン」製品には、「MAR-D 3D」3次元捜索レーダー、「アルペル LPI(低被探知性)」航海レーダー、「デニズ・ギョジュ-アフタポット」EO/IRセンサー・システムが含まれていることにも注目すべきでしょう。[8]

標準の兵装一式が装備された「OPV 76」のイメージ図

 「OPV 76」が就役した場合、これらは「P18N(注:056型コルベットの輸出型)」級OPV2隻、「ハミルトン」級OPV2隻、そしてOPVに転用された多数の小型高速攻撃艇を補完するでしょう。

 「OPV 76」と違って「P18N」級と「ハミルトン」級カッターにはヘリコプター用の格納庫がありますが、ナイジェリア海軍は作戦でOPVを展開させる際にヘリコプターを艦載用に割り当てることをめったにしません。

 領海内での作戦のために、ナイジェリア海軍は数隻の「シャルダグMk2」「シーイーグル」高速哨戒艇を運用しています。

 ナイジェリアは一般的に想定し得る海上の脅威(敵艦艇)に関しては全く直面していないため、対艦ミサイルを搭載していたあらゆる艦艇から撤去してしまいました。

NMS「ユニティ(F92)」はナイジェリアが2隻保有する中国製「P18N」級OPVの1隻。 ヘリ甲板への着艦を試みている「A109」ヘリコプターに注目。

 トルコがアフリカにおける拠点を拡大するにつれて、武器取引も比例して増加しつつあります。この国は幅広い種類の現代的で信頼性の高い兵器を手頃な価格で提供できるという独特の立場を徐々に構築してきており、ナイジェリアは今やその恩恵を享受しています。

 トルコにとって、ナイジェリアはすでにサハラ以南におけるアフリカ諸国で最大の貿易相手国であり、トルコは貿易と防衛産業面での協力をさらに促進することを目指しています。[9]

 2021年10月におけるエルドアン大統領のナイジェリア訪問では、両国間でエネルギー、鉱業、そして防衛の分野でいくつかの協定が結ばれました。これには、ナイジェリアが以前から大きな関心を示していた「バイラクタルTB2」UCAVの売却も含まれていたかもしれません。[10][11]

 「OPV 76」に関する取引は、単にトルコ側がナイジェリアへのOPVの売却の手配をしただけではありません。繰り返しますが、これはトルコの造船所が輸出用の艦艇を売り込む際に、もはや外国製の艦載兵装に依存する必要がなくなったことも証明しているのです。

 トルコの防衛産業が、レーダーや垂直発射システム(VLS)といった装備や大砲、対艦ミサイル、対空ミサイルを含むあらゆる種類の兵器類を生産できるようになる日が来るのはそう遠くはないでしょう。

 このペースでいけば、トルコの防衛産業は10~15年以内には必要とする兵器や装備品のほぼ全てを自給自足できるようになるかもしれません。トルコの自給自足へ向けた道のりは、現時点の世界で存在している同じ動きの中では間違いなく最速であり、韓国のペースよりも上回っています。

 現在トルコに兵器類を供給している国々が10年後には代わりにトルコから兵器を導入するかもしれません。それが実現した暁には、数十年に及ぶ防衛産業への投資の成果を世に示すことになるでしょう。


[1] Turkey to Export Unmanned Mine Clearing Equipment to Burkina Faso https://www.thedefensepost.com/2021/07/30/turkey-minesweepers-burkina-faso/
[2] Togo gets Turkish remote-controlled mine clearance vehicles https://defensehere.com/en/HaberDetay/togo-gets-turkish-remote-controlled-mine-clearance-vehicles/1
[3] Turkey’s Dearsan Shipyard to Build 2 OPVs for the Nigerian Navy https://www.navalnews.com/naval-news/2021/11/turkeys-dearsan-shipyard-to-build-2-opvs-for-the-nigerian-navy/
[4] Hull of Nigeria’s Seaward Defence Boat 3 (SDB III) comes together https://www.africanmilitaryblog.com/2020/05/hull-of-nigerias-seaward-defence-boat-3-sdb-iii-comes-together
[5] Small But Deadly - Turkish Fast Attack Craft In Service With Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/small-but-deadly-turkish-fast-attack.html
[6] Offshore Patrol Vessel OPV 76 http://www.dearsan.com/en/products/naval-vessels/offshore-patrol-vessel-opv76
[7] MKEK’nin 2023 Vizyonunda Hedef 76mm’den Sonra 127mm Deniz Topu’nu da Millileştirmek! https://www.defenceturkey.com/tr/icerik/mkek-nin-2023-vizyonunda-hedef-76mm-den-sonra-127mm-deniz-topu-nu-da-millilestirmek-4845
[8] https://twitter.com/BarbarosToprak2/status/1455952042283913220
[9] 'Turkey aims to boost cooperation in defense industry with Nigeria' https://www.aa.com.tr/en/africa/turkey-aims-to-boost-cooperation-in-defense-industry-with-nigeria/2396812
[10] Turkey, Nigeria determined to deepen cooperation: Erdoğan https://www.dailysabah.com/politics/diplomacy/turkey-nigeria-determined-to-deepen-cooperation-erdogan
[11] French media eyes Turkish drones during Erdoğan’s Africa trip https://www.dailysabah.com/business/defense/french-media-eyes-turkish-drones-during-erdogans-africa-trip

  です。意訳などにより、僅かに意味や言い回しを変更した箇所があります。



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2022年8月5日金曜日

知られざる艦艇の話:バングラデシュの「キャッスル」級哨戒艦



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2020年8月にベイルートで発生した壊滅的な大爆発の映像は、2.750トンの硝酸アンモニウムの保管に関する驚くべき無能と過失によって207人を死に至らせたことに加え、150億ドルを超える損害を生じさせたとして世界中に衝撃を与えました。

 また、この爆発事故によって、国連レバノン暫定軍の海上任務部隊の一員として地中海に派遣され、ベイルートに駐留(停泊)していたバングラデシュ海軍艦艇「BNS ビジョイ(上の画像)」も被災しました。近くにあった穀物倉庫が爆風の大半を受け止めたおかげで爆発による最も極度な影響から免れることはできましたが、それでも乗組員から21名の負傷者が生じ、「ビジョイ」自身も無事に帰国する前にトルコで修理を受けなければなかったのです。[1]

 「BNS ビジョイ(勝利)」は2011年初頭からバングラデシュ海軍で運用されている2隻の哨戒艦のうちの1隻です。両艦のキャリアは1980年代初頭のイギリスで始まり、「キャッスル」級哨戒艦として就役しました。

 この哨戒艦の主要な任務は、北海におけるパトロールと漁業保護の遂行にありました。また、この艦は緊急時の掃海作戦にも使用可能であり、最初から設けられてる兵員の収容スペースや広いヘリ甲板は、同艦をさらなる多数の補助任務にも完璧に適したものにしています。

 1982年のフォークランド戦争後、「キャッスル」級は3年ごとの交代制でフォークランド諸島の警戒任務に従事していました。

 これらは2000年代半ばまでに「リバー」級外洋哨戒艦「HMS クライド」に置き換えられることになり、「キャッスル」級の2隻は2005年と2007年にイギリス海軍から退役しました。

 当初、この2隻は2007年にパキスタン海上保安庁に売却される予定でしたが、取引が成立しなかったため、結果として2010年4月にバングラデシュ海軍へ売却されました。

 2010年5月以降、両艦は(イギリス北東部の)タインサイドにある「A&Pグループ タイン造船所」で大規模な改装を受けました。これにはエンジンのオーバーホール、新しいディーゼル発電機とデッキクレーンの搭載、乗組員の居住空間の徹底的なアップグレードが含まれており、一連の作業は2010年12月まで続きました。[2]

 2011年初頭にバングラデシュに到着した後、両艦は「BNS ダレシュワリ(同国を流れる川の名前)」と「BNS ビジョイ」として同国海軍に就役しました。[3]

       

 ほぼ間違いなく彼らのキャリアの中で最も興味深いものとして、新しい所有者の下で哨戒艦からミサイルコルベットに格上げされたことが挙げられます。

 バングラデシュで改修を受けた結果、「キャッスル」級は中国製の「C-704」対艦ミサイル4発とソ連の「AK-176」76mm砲の中国製コピー「H/PJ-26」で武装したイギリス起源の哨戒艦という世界でも類を見ない独特な艦となりました。

 40mm機関砲1門(後に30mm機関砲に換装)と小型艇に対する近接防御用の7.62mm汎用機関銃(GPG)数門だけを装備していたイギリスでの就役当時のものを考慮すると、これらの新たな艦載兵装は以前のものから著しく向上したことは一目瞭然でしょう。

 新たに搭載された兵装については、艦橋後部に設置された2門の有人式20mm機関砲と、対空・対水上レーダーと火器管制レーダーで一段と強化されています。

爆発に巻き込まれた「BNS ビジョイ」から下船して歩く負傷兵たち(2020年8月4日)

 1993年にモザンビークに初めて派遣されてi以降、バングラデシュ海軍は国連の平和維持活動に定期的に参加しています。約30年間で、バングラデシュ海軍の5,000人以上の人員が、アフリカ、中東、南米、アジアにおける国連ミッションを完遂しました。[4]

 2010年には、海軍はフリゲート「BNS オスマン」と哨戒艦「BNS マドゥマティ」の2隻を国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の一員として派遣しました。

 「BNS ビジョイ」は2020年8月4日に文字どおりに爆発に巻き込まれるまでの間、地中海のパトロール、海上阻止、対空監視、そしてレバノン海軍要員の訓練を任務としていましたが、被災後はコルベット「BNS ショングラム(056級コルベットの輸出型)」がその任務を引き継ぎました。[5]

爆発直後に撮影された「BNS ビジョイ」内部の状況

 広いヘリ甲板を備えているにもかかわらず格納庫が存在しないためか、「キャッスル」級にはイギリス海軍もバングラデシュ海軍も作戦配備の際に艦載ヘリコプターを配属させたことがありません。その代わり、ヘリ甲板は複合艇(RHIB)の格納場所や訓練・娯楽エリアを兼ねて使用されており、窮屈な船内に欠けながらも大いに必要とされるスペースを提供しています。

 将来的には、広大な甲板スペースをVTOL型UAV用に活用して「コルベット」の実質的な警戒範囲を大幅に拡大することが可能となるでしょう。この種のUAVはヘリコプターよりも運用コストが大幅に低いだけではなく、船内や甲板の空きスペースに置く専用の(コンテナなどの)小さな構造物に格納できるという付加価値も有しています。

消火訓練で放水中の「BNS ビジョイ」と「BNS ダレシュワリ」(2017年)

 バングラデシュ海軍は(改装された)中古艦艇の運用にかなり慣れている海軍として知られています。

 この2隻はかなりの艦齢にもかかわらず、地中海における国連のミッションへの派遣やバングラデシュの領海警備で、将来にわたってこの国の海軍で十分に役立つ見込みがあります。

 特に世界中のほかのコルベットと比較した場合、主に対空ミサイルや近接防御用火器(CIWS)といった現代的な武装面で乏しいかもしれませんが、現在進行中の大規模な軍の近代化・戦力向上事業「Forces Goal 2030」の後には上記の武装を導入した新型艦を目にする可能性があるでしょう。

 この事業で中国から「035」級潜水艦を導入したことを踏まえると、バングラデシュ海軍には期待すべき明るい未来が待っていることは間違いありません(注:「035」級はバングラデシュ初の潜水艦です)。



特別協力: Rahbar Al Haq (敬称略)

[1] Beirut blast-damaged BNS Bijoy returns home https://www.dhakatribune.com/bangladesh/2020/10/25/beirut-blast-damaged-bns-bijoy-returns-home
[2] A&P Tyne wins massive refit https://www.thenorthernecho.co.uk/news/8119098.p-tyne-wins-massive-refit/
[3] Bangladesh Secures 2 Used British OPVs https://www.defenseindustrydaily.com/Bangladesh-Secures-2-Used-British-OPVs-06369/
[4] Role of Bangladesh navy in UN peacekeeping mission https://m.theindependentbd.com/printversion/details/201462
[5] Bangladesh Navy corvette BNS Shongram en route to help in Lebanon https://www.navyrecognition.com/index.php/naval-news/naval-news-archive/2020/august/8858-bangladesh-navy-corvette-bns-shongram-en-route-to-help-in-lebanon.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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2022年7月29日金曜日

旧式艦+新型兵装:トルコ製RWSがアゼルバイジャンの旧式艦に装備された



著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 アゼルバイジャン海軍は、同国のほかの軍種やカスピ海に存在する他国の海軍と比較した場合、現代化の点で後れを取っています。

 その代わり、アゼルバイジャンは沿岸警備部隊の近代化に多額の資金を投じ、国境警備隊用の「スパイクNLOS」(射程25km)や「スパイクER」(射程8km)対戦車ミサイル(ATGM)を装備したイスラエルの「サール62」級哨戒艦(OPV)6隻と「シャルダグMk V」級高速哨戒艇6隻を導入しました。[1]

 興味深いことに、アゼルバイジャン海軍はどの艦艇にも対艦ミサイル(AShM)を搭載しておらず、純粋に同国が有する排他的経済水域(EEZ)の哨戒部隊として運用されています。

 この国の海軍はコルベットや高速攻撃艇を運用するのではなく、数多く存在するソ連時代の哨戒艇、揚陸艦、掃海艇を活用しているほか、1960年代に建造された「ペチャ」級フリゲートの運用も続けていますが、艦載兵装については銃砲、魚雷、対潜装備しか搭載されていません。

 ごく最近になって、海軍は国境警備隊(SBS)から多数の艦の譲渡されることで戦力が増強されました。とはいえ、これらはソ連時代の「ステンカ」級哨戒艇や対空砲から機関銃まで装備していた大型のタグボートで構成されていたことから、譲渡された艦艇は海軍が保有する艦艇数を少なくとも2倍に増やしたものの、海軍に新たな戦力をもたらすようなことは少しもありませんでした。

 現時点でAShMを搭載できる艦艇を一切保有していないアゼルバイジャン海軍は、旧式化した艦艇の一部に重火器を搭載することによって戦闘能力の向上を図ろうと試みています。

 これまでのところ、この火力向上策には、「AK-230」2連装30mm機関砲塔を第二次世界大戦時代の「70K(61-Kの艦載型)」37mm機関砲といったほかの火砲に換装したことも含まれていますが、このような策が各艦艇の火力増強に全く寄与しなかったことは一目瞭然でしょう(注:後述のとおり、「MR-104」FCSレーダーで管制可能な「AK-230」近接防御システム(CIWS)をわざわざ手動操作式の旧式機関砲に置き換えることに意味を見出すことを理解すること自体が無理に近いでしょう)。

 これとは逆に、少なくとも1隻の「ステンカ」級にトルコの「アセルサン」社「SMASH」30mm遠隔操作式銃架(RWS)を搭載するという最近の近代化事業で、旧式艦艇により合理的なアップグレードが施されるようになり始めたようです。

艦首に「SMASH」RWSを装備した「ステンカ」級(G124)

 現在のアゼルバイジャン海軍は、イスラエル製OPVと哨戒艇が就役した後のSBSから得た「G122」から「G125」までの艦番号を付与された4隻の「ステンカ」級を運用していると考えられています。

 当初、「ステンカ」級には「MR-104」火器管制レーダーによって管制された「AK-230」2連装30mm機関砲が艦首と艦尾にそれぞれ1門ずつ搭載されていましたが、少なくとも数隻はどちらかの「AK-230」を「70K」30mm対空機関砲に換装されました。現代の水準における「70K」は本来の対空用途で少しも役立つことはできませんが、迎撃された相手国の艦艇の前方に向けて警告射撃を行うには理想的な火器です。

 現在までのところ、「G124」のみが「SMASH」RWSを装備されていることが知られています。興味深いことに、艦首の「AK-230」だけでなく後部の同機関砲塔も「SMASH」RWSに置き換えられています(上の画像では前部の「AK-230」のみが「SMASH」に換装されているため、段階的に「G124」の近代化を進めているか、または別の同型艇の後部に「SMASH」を装備した可能性があるからです)。

 当然ながら、使用されていないときの「SMASH」RWSは、波や風雨から保護するために防水カバーで覆われています。[2]

艦橋上部から見た艦首部の「SMASH」RWS
艦尾に搭載された「SMASH」RWS

 「SMASH」RWSは近年では世界で最も人気がある艦載用RWSであり、クロアチア、マレーシア、カタール、バングラデシュ、フィリピン、そしてアゼルバイジャンといった国々で導入されています。

 カタールは自国の(トルコ製)巡視船の大部分に装備させるためにこのRWSを調達してきた、世界最大の「SMASH」運用国です。

 同等の「アセルサン」製RWSの大口顧客はトルクメニスタンであり、28隻の艦艇に合計で38の「STOP」25mm RWSを装備しています。また、同国は世界初の「アセルサン」製「ギョクデニズ」35mm CIWS運用国でもあります。

 トルクメニスタンによって導入された海軍艦艇といった新型兵器に装備されたことに加え、「アセルサン」社はEO/IRセンサーやRWSを含む各種兵器システムを陸・海・空のさまざまな旧式プラットフォームにインテグレートすることによって、めざましい商業的な成功も収めています。

 最近の例では、ウクライナの「モトールシーチ」社と共同で同国と潜在的な輸出顧客向けに「Mi-8/17」と「Mi-24」攻撃ヘリコプターを近代化する契約を締結しており、これは「アセルサン」社がEO/IRセンサーを供給し、東側のヘリコプターに最新のトルコ製精密誘導兵器の運用能力をインテグレートするというものです(注:ロシアのウクライナ侵攻で実現はするかは不透明な状況)。[3]

 また、トルクメニスタンが保有する「BTR-80」装甲兵員輸送車の一部に同社製の「SARP(サープ)-DUAL」RWSを搭載してアップグレードを図ったも実例もあります。[4] [5]

現時点のカスピ海で最も強力な海軍艦艇であり、「STOP」25mm RWSや「ギョクデニズ」35mm CIWSを含む多数の「アセルサン」社製艦載兵装を搭載しているトルクメニスタンのコルベット「デニズ・ハン」

 「SMASH」RWSはデュアルフィード機能のおかげで毎分200発の射撃速度を誇る「Mk44 "ブッシュマスターⅡ"」30mm機関砲を備えています。機関砲の両側面には各1つの大型弾倉があり、合計で175発の砲弾を入れることができます。

 このRWSは完全にスタビライザーで安定化されているため、荒波の中でも移動する標的に対して正確な照準が可能となっていることが特徴です。

 「STAMP」12.7mm RWSや「STOP」25mm RWSで用いられている固定式の照準システムとは対照的に、「SMASH」は安定化された独立型EO/IRセンサーを搭載しているため、システム全体を旋回させることなく標的を追尾することができる利点が特徴的と言えるでしょう。

少なくとも5か国で運用されている「SMASH」RWSの旧バージョン

 現時点で、アゼルバイジャン海軍によってさらなる「SMASH」RWSが導入される計画が存在するのかは不明です。

 SBSから多数の艦艇が移管されたことは、この国の海軍がしばらくの間は現時点で運用している艦艇で間に合わせる必要があることを示している可能性があります。したがって、対艦ミサイルを搭載した艦船でますますあふれていくカスピ海で戦力を何らかの形で維持するために、アゼルバイジャン海軍は何度も艦艇の改修を余儀なくされるかもしれません。

 少なくとも4隻の「ステンカ級」哨戒艇が就役していることから、「SMASH」RWSがその価値を誇示する機会は十分にあることは確かでしょう。

艦首に「70K」37mm機関砲を装備した「ステンカ」級(G122)

 「アセルサン」社は自ら開発した製品で世界中で広幅広い成功を収めてきました。これはカスピ海も例外ではなく、今や2か国の海軍が同社の製品を装備した海軍艦艇でこの海を航海しています。

 アゼルバイジャンがいつの日か自国の海軍の近代化のためにトルコ製軍用艦艇の調達を選定したり、カザフスタンもトルコ製艦艇に投資する可能性があることを考えると、どうやらトルコ製の海軍用防衛装備品の見通しは明るいようです。

 もちろん、これらにも「アセルサン」社の製品が装備されることについて、疑う余地はないでしょう。

 「SMASH」RWSのような艦載兵装は実際に搭載された船よりも確かに目立つものではありませんが、中央アジアの国々で進められている軍の近代化を示す重要な指標であることには間違いありません。

標準装備である「AK-230」30mm機関砲を装備した「ステンカ」級(G124)

[1] INFOGRAPHICS OF COAST GUARD VESSELS #4: Azerbaijan and Colombia https://www.navalanalyses.com/2017/03/infographics-of-coast-guard-vessels-4.html
[2] https://i.postimg.cc/nrqg7HvB/69.jpg
[3] Aselsan to Supply EO Targeting Pods, AAMs for Modernization of Ukraine’s Mi-8 Helicopter Fleet https://en.defence-ua.com/news/aselsan_to_supply_eo_targeting_pods_aams_for_modernization_of_ukraines_mi_8_helicopter_fleet-2004.html
[4] https://postimg.cc/HJR0QxC3
[5] SARP-DUAL Remote Controlled Stabilized Weapon System https://www.aselsan.com.tr/en/capabilities/land-and-weapon-systems/remote-controlled-weapon-systems-land/sarpdual-remote-controlled-stabilized-weapon-system

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。




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2022年7月17日日曜日

ビッグ・ビジネスの予感:トルコが「F142」級フリゲート(案)を公開した



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ヨーロッパにおける海軍関連の各造船所は、それぞれが今後数十年を生き抜くにはあまりに規模が小さくなってしまった市場で受注を勝ち取るために激しい競争に直面していますが、トルコの場合は逆に好景気に沸いています。

 近年におけるトルコの造船所は、さまざまな種類の艦艇や、間違いなくそれとほぼ同じくらい重要な艦載兵装とレーダーシステムを世界中のほとんどの国が実際に手に届く価格で売り出しているため、過去10年間で著しい成功を収めているのです。

 トルコで最も商業的に成功している造船所としては、「ヨンジャ・オヌク」「STM」、そして「ディアサン」が挙げられます。後者の2社は、小型潜水艦から大型フリゲートまでのあらゆる艦艇(案)を売り出しており、そのうちの1つが今回の記事のテーマとなります。

 トルコの海軍分野における技術的な進歩は、同時にこの国の造船所のラインナップがこれまでになく大型で、さらには斬新な艦艇の設計案を含むまで着実に拡大していることも意味しています。

 2021年には、「アレス」造船所の「ULAQ(ウラク)」シリーズ、「セフィネ」造船所「NB57/RD09」「ディアサン」造船所「USV11/15」という3種類の武装無人水上艇(AUSV)が発表されました。[1] [2] [3]

 「ウラク」シリーズは対艦ミサイルや対潜兵装、さらには長射程の対戦車ミサイルで武装可能なUSVです。

 これらのUSVが大量にエーゲ海に導入された場合、近年における海軍戦力上のバランスをトルコの有利に変えたり、これまで有人艦艇によって遂行されてきた任務の多くを引き受けることになるかもしれません。その斬新性から、USVが最も注目を集めることは間違いないでしょう。

 とはいえ、新たな大型艦艇の設計案もトルコの防衛産業における能力の向上と現代化に向けた潮流が継続していることを示しています。

 これらの1つが、2021年後半に「ディアサン」造船所によって初公開された「F142」級大型フリゲートです。[4]

 このフリゲートは同造船所で設計されたものでは最大級の軍艦であり、全長142m、全幅18.5m、そして5,500tの排水量を誇ります。ちなみに、「ディアサン」がそれまでに設計した最大の艦艇は、全長が「わずか」92mで、排気量が1,600tでした。[5]



 「F142」級が有する最も強力な艦載兵装システムは、射程20kmの「VL MICA」艦対空ミサイル(SAM)を発射できる32セルもの垂直発射装置(VLS)です。

 また、魚雷発射管も2基搭載されているため、「F142」自身のソナーや搭載されている対潜(ASW)ヘリコプターで探知した潜水艦に魚雷を発射することが可能となっています。

 近接戦闘用には、「ラインメタル」社「ミレニアム」35mm近接防御火器システム(CIWS)が艦の前部・後部にそれぞれ1基ずつ、12.7mm重機関銃付き遠隔操作式銃架(RWS)2基、チャフ・デコイ発射システム6基が装備されています。

 そして、主砲はイタリアの76mmスーパーラピッド砲か国産の76mm艦載砲(注:前者のコピー)です。[6]

 驚くべきことに、「F142」級は16発もの対艦ミサイル(AShM)も装備しており、顧客の要求に応じて国産の「アトマジャ」AShMか他国製のAShMを選択することが可能と思われます。

 最大で16発が装備されたAShMの能力を制限することが考えられる唯一の要因は目標の探知能力であることから、適切なレーダーシステム等を搭載するためにかなりのスペースが用意されています。「F142」級の場合、これらは長距離で複数の目標をアクティブに探知・追尾するために設計された多数のレーダーと複数のEO/IRセンサーという形でもたらされています。

 また、防御的電子戦(EW)用として、イタリアの「エレトロニカ」社製の大がかりなEWシステムが搭載されています。


 「ディアサン」造船所は2010年から2014年にかけてトルコ海軍向けに16隻の「ツヅラ」級哨戒艇を建造した後、(「ギュルハン造船所」との合弁事業で)2010年代前半以降にトルクメニスタンから国境警備隊(沿岸警備隊)と海軍に装備させる艦艇の発注を数多く受けることに成功しました。

 これまでのところ、トルクメニスタンに引き渡された艦艇の数は29隻に達しており、この中には1隻のコルベット、10隻の哨戒艇や6隻の高速攻撃艇(FAC)が含まれています。

 2021年11月、「ディアサン」はイスラエル、オランダ、中国、シンガポールの造船所を打ち破って、ナイジェリア海軍に2隻の「OPV 76」級76m哨戒艇を納入する契約を獲得したことが明らかとなりました。[7]

 今までに「ディアサン」で実際に建造された最大の軍艦は、92mサイズの「デニズ・ハン(メーカー側呼称:C92級)」コルベットであり、トルクメニスタン海軍に「トルクメン」級コルベットとして導入が決定された2隻のうちの最初の艦です。

 「デニズ・ハン」はカスピ海で最も強力な武装を備えた艦艇の1隻であり、「オート・メラーラ(現レオナルオドS.p.A.)」社製の76mm艦載砲を1門、200kmの射程を誇る「オトマートMk 2 ブロックIV」AShMを8発、20kmの射程を持つ「VL MICA」艦対空ミサイルを16発、「ロケトサン」社製ASWロケット弾発射機を1門、「アセルサン」社製「ギョクデニズ」35mm CIWSを1門、25mm機関砲か12.7mm重機関銃を装着したRWSを4門装備しています。

 また、このコルベットには「F142」級と同じEW装置も装備されています。


 「ツヅラ」級哨戒艇はトルコ海軍での運用でその価値が実証されてきたものの、「F142」級はトルコの将来型フリゲートの入札に参加するには、設計案の登場があまりにも遅すぎました。この入札については、結果として2010年代半ばに「STM」が勝ち取りました。[8]

 結果として採用されたフリゲートは「イスタンブール」級と知られており、「F142」級と同様に16発の対艦ミサイルが搭載されることになっています(注:「イスタンブール」級は「イスティフ(İstif)」級と呼称される場合もありますが、メーカー側の呼称は「I」級フリゲートです)。

 1番艦にしてネームシップでもある「TCG イスタンブール(F-515)」は2021年1月に進水しており、2022年の初頭にはもう3隻の同型艦の建造に向けた入札が開始される予定となっています。[9]

 「ディアサン」が売り出している艦艇のほとんどは輸出向けに特化されたものです。ただし、「F142」級は特定の国からの要求を満たすように設計されたものではないようですが、このフリゲートに関心を持つ可能性のある国には、インドネシア、マレーシア、モロッコ、南米の多くの国が含まれています(注:このコルベットは特定の国からの発注を見越して特別に設計された艦ではないということ)。

 「STM」はすでに2021年12月下旬にコロンビアに「アダ」級コルベットをベースにした「CF3500」級フリゲートを売り込んでおり、トルコが南米の海軍市場に参入する下地を作りつつあるのです。[10]



 トルコの造船所は、この約10年の間で、ほぼ全ての種類の軍用艦艇において見事な数の設計を考案してきました。そして、各種艦艇と一緒に多数の最新の国産兵装システム、レーダーやセンサー類も設計・開発されてきました。

 その結果として、トルコの造船所は輸出用の艦艇を売り込む際に、もはやその艦載兵装を外国製に依存する必要性が限りなくゼロに近くなるでしょう。特に「ディアサン」造船所の場合、その恩恵を受ける対象は新たに公開されたUSVシリーズや33m級小型潜水艦だけでなく、「トルクメン」級コルベットや「F142」級フリゲートなど従来型の艦艇も含まれます。

 これらの艦艇や兵装システムが近いうちに、ヨーロッパ、南米、東南アジアといった全く新しい市場に手を伸ばすことについては、考えられないことではないと思われます。

「ディアサン」造船所の33m級小型潜水艦「L SUB 33」

この記事の作成にあたり、 Kemal氏に感謝を申し上げます。

[1] Turkey begins the mass-production of ULAQ armed USV https://navalpost.com/turkey-begins-the-mass-production-of-ulaq/
[2] Turkish Companies Team Up For New Armed USV Projects https://www.navalnews.com/naval-news/2021/07/turkish-companies-team-up-for-new-armed-usv-projects/
[3] Turkey’s Dearsan Shipyard unveils new combat USV https://www.navalnews.com/naval-news/2021/12/turkeys-dearsan-shipyard-unveils-new-combat-usv/
[4] Frigate F-142 http://www.dearsan.com/en/products/naval-vessels/frigate-f142
[5] Corvette C92 http://www.dearsan.com/en/products/naval-vessels/corvette-c92
[6] Turkey’s New 76mm Naval Gun to Enter Service in 2022 https://www.navalnews.com/naval-news/2021/12/turkeys-new-76mm-naval-gun-to-enter-service-in-2022/
[7] Maritime Success: Nigeria Orders Turkish OPV 76s https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/maritime-success-nigeria-orders-turkish.html
[8] I Class Frigate https://www.stm.com.tr/en/our-solutions/naval-engineering/i-class-frigate
[9] Turkey opens bidding for three new frigates https://www.dailysabah.com/business/defense/turkey-gears-up-to-build-3-new-domestic-warships
[10] STM, A Reliable Partner Of The World’s Navies, Presents Its Naval Projects And Tactical Mini UAV Systems At Expodefensa! https://www.stm.com.tr/en/media/news/stm-reliable-partner-worlds-navies-presents-its-naval-projects-and-tactical-mini-uav-systems-expodefensa-en

  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。