ラベル バルト の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル バルト の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2022年7月11日月曜日

真の友人とは:リトアニアによるウクライナへの軍事支援(一覧)


 ポーランドから230台以上の「T-72」戦車、アメリカから126門の「M777」榴弾砲、オランダから「ハープーン」対艦ミサイル(ASHM)が供与される一方で、より多くの国が各自の方法で貢献しているにもかかわらず、ウクライナへの職規模な装備の供与が見落とされがちとなっています。[1] 

 そのうちの1国がリトアニアです。同国はウクライナに自国がストックしている軍備を供与することの加え、地元のジャーナリストでテレビキャスターでもあるアンドリウス・タピナス氏によって立ち上げられたクラウドファンディングなどの注目すべきキャンペーンがいくつも展開されています。
 
 タピナス氏の尽力とリトアニア国民の寛大な支援によって、「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)を購入のために約600万ユーロ(約8.5億円)を集めることに成功しました(これを受けて、製造元の「バイカル・テクノロジー」社は同UCAVを無償で寄贈することを決めました)。この実績は、2014年からウクライナ軍に(衣服や車両、ドローンといった)非致死性の軍備を提供するリトアニアの慈善組織「Blue/Yellow」のために、すでに同国の市民によって集められた2300万ユーロ(約3.2億円)に加わる偉業です。[2][3]                           
 タピナス氏がTB2調達のために集めた数百万ドルは、大型のVTOL型UAV4機(注:エストニア・「Threod Systems」社の「EOS C VTOL」無人偵察機)や対ドローン銃、TB2用の兵装などウクライナ軍向けの別の広範にわたる物品に費やされることになりました。

 民間と同様に、リトアニア軍もウクライナに対する貴重な支援の源となっています。エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国がほかのNATO加盟国よりも運用している兵器の数が著しく少ないことを考慮すると、彼らによるウクライナ軍の戦闘力を維持させる取り組みは見事なものと言えます。

 2022年4月下旬にはリトアニアから寄贈された軍事援助は1億ユーロ(約142億円)に達し、追加の物資輸送も行われていると報じられています。[4] [5]
 
 リトアニア軍はさまざまな種類の対戦車兵器や弾薬、手榴弾、小銃、車両、通信機器などに加えて、少なくとも20台の「M113」装甲兵員輸送車(APC)、120mm重迫撃砲、多数の「FIM-92 "スティンガー"」携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)もウクライナへ引き渡してきました。今後、「M113」APCが追加供与される可能性は高いようです。

 リトアニア陸軍は第二次世界大戦時代の「M101」105mm榴弾砲を予備兵器として最大で54門保有していますが、(「D-30」122mm榴弾砲などの15kmに比べると)僅か11kmという射程距離の短さを考えると(アウトレンジされてしまうために)ウクライナで使用するには適していないと思われます。

タピナス氏がクラウドファンディングで集めた資金で調達した6機のエストニア製「EOS C VTOL」UAVのうちの1機。これらはリトアニアの死の女神にちなんで「Magyla(マギラ)」と命名されました。

  1. 以下の一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の直前と最中にリトアニアがウクライナに供与したか、または供与を約束した軍事装備の追跡調査を試みたものです。
  2. 以下の項目は、兵器類の種類ごとに分類されています(名前の前にある旗は当該装備の原産国を示すものです)。また、一部の武器供与に伴う機密性のため、供与された武器の数はあくまでも最低限の数が判明しているものを表示しています。
  3. このリストは、さらなる軍事支援の表明や判明に伴い更新される予定です。 
  4.  各兵器などの名前をクリックすると、当該兵器類の画像が表示されます。画像が無い場合は供与について公式に言及した情報源が表示されます。

ヘリコプター

  • 2 Mi-8 汎用ヘリコプター [2023年8月以前に供与]

無人戦闘航空機(UCAV)

徘徊兵器

無人偵察機

地対空ミサイルシステム (SAM)発射機 

携帯式地対空ミサイルシステム (MANPADS)

対空機関砲

牽引砲

自走迫撃砲

重迫撃砲

装甲戦闘車両 (AFV)

非装甲戦闘車両

レーダー

対ドローン銃

小火器(弾薬と共に供与)※全てが形式不明

弾薬
  • 155mm砲弾(「PzH2000」自走砲用) [2022年12月以降に供与]
  •  4,500,000 小火器用弾薬 [2023年8月]
  • 数千 RPG用弾頭 [予定]

その他の装備品


[1] Answering The Call: Heavy Weaponry Supplied To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/answering-call-heavy-weaponry-supplied.html
[2] Go-Fund Ukraine: Baykar Tech Donates TB2 For Ukraine After Lithuanian Crowdfunder https://www.oryxspioenkop.com/2022/06/go-fund-ukraine-lithuania-raises-funds.html
[3] Let your money fight https://blue-yellow.lt/en#about-us
[4] JAV inicijuotame pasitarime dalyvavęs A. Anušauskas: esame pasiryžę visokeriopai prisidėti prie ilgalaikio Ukrainos ginkluotųjų pajėgų stiprinimo https://kam.lt/lt/naujienos_874/aktualijos_875
[5] https://twitter.com/a_anusauskas/status/1534218840493768704

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



おすすめの記事

2022年6月22日水曜日

リーダー・オブ・ザ・パックス:リトアニアの「ヴィルカス」歩兵戦闘車


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 西ヨーロッパ諸国の大部分が安全を保障するための具体的な軍事力の必要性にやっと気づいたように見える中、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト諸国は2014年初頭のロシアによるクリミア併合以来、バルト地域へのロシアの侵略に対処する準備をする必要性をすでに悟っています。

 その情勢に応じて、バルト各国は自国軍の規模や態勢を飛躍的に拡大させてきました。当初は軍と予備役に装備させる小火器、対戦車ミサイル(ATGM)と携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)の調達が大部分を占めていたものの、後にさらなる投資のおかげで防空・対艦ミサイルシステム、長距離砲や数百台の装甲戦闘車両(AFV)導入の道が開かれました。

 ラトビアがイギリスとオーストリアから中古の「CVR(T)」AFV約200台と「M109」155mm自走砲(SPG)53台を調達し、エストニアはオランダから「CV9035NL」歩兵戦闘車(IFV)44台、ノルウェー「CV9030N」IFV37台、韓国の「K9 "サンダー"」155mm SPG18台を機械化部隊に装備させています。

 その一方で、リトアニアは2015年以降、91台の「ボクサー」IFVと18台の「PzH2000」SPGを導入するためにドイツを頼りにしました。それどころか、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始後、リトアニア国防省はさらに120台のIFV型とAPC型などを合わせて合計211台の「ボクサー」を導入する意向を明らかにしたのです。[1]

 フランスから「カエサル」6x6型155mmSPGとアメリカから「M270」MLRSシステム、そしてトルコから「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)の調達計画は、アメリカからの200台の統合軽戦闘車(「JLTV」)や大量のMANPADSと(「ジャベリン」)ATGM、ノルウェーから高度な「NASAMS-3」SAMを2セットの調達と共に、リトアニアが現実的な戦闘能力とこの地域におけるロシアに干渉に対する強い抑止力を構築する道を着実に歩み続けていることを示しています。[2] [3] [4] 

 リトアニアは人口が約275万人であるにもかかわらず、地上部隊へのタイムリーな投資をした結果、NATOのいくつかの大国を質的にも量的にも凌駕する戦力を持つことになるでしょう。
 
 リトアニア陸軍の中核は同国で「ヴィルカス(狼)」と呼ばれている「ボクサー」IFVです。リトアニアが導入した「ボクサー」IFVは、完全に安定化された「Mk44 "ブッシュマスターII"」30mm機関砲と「スパイク-LR」ATGMを2発、そして7.62mm同軸機銃を装備したイスラエル製の「サムソンMkII」無人砲塔が搭載されています。

 「サムソンMkII」は高度な照準システムを備えているため、昼夜を問わず正確な照準が可能です。砲塔の左右に各4発の発煙弾発射機も備えられていますが、これがIFVの位置を一時的に隠すために用いられることは言うまでもないでしょう。 

「スパイク-LR」を放つ「ヴィルカス」

 「ヴィルカス」の最も強力な武装にして、必殺パンチとなり得るのが「スパイク-LR」ATGMです。射程4km(「スパイク-LR2」は5.5km)を誇る「スパイク-LR」の優れた対装甲貫通力は、「ヴィルカス」に敵戦車の有効射程圏外でも敵機甲戦力と交戦して撃破することを可能にさせます。

 「ヴィルカス」が近距離で敵AFVと遭遇した場合、主砲たる「Mk44 "ブッシュマスターII"」30mm機関砲 は徹甲弾(AP弾)を装備していれば強力な切り札となり得ます。

 エストニアの「CV9035NL」に搭載された35mm機関砲の威力には劣るものの、30mmAP弾は何度もMBTに有効であることを実証しています。実際、ウクライナ軍の「BTR-3」あるいは「BTR-4」IFVが30mm機関砲の連射でロシア軍の「T-72」戦車の側面装甲を貫通したり、照準装置を破壊して無力化に成功した実例をご存じの方も多いのではないでしょうか。[5] [6] [7] 


 「サムソンMkⅡ」が採用されるまで、さまざまな種類の砲塔が検討されました。その中には、ドイツが「ボクサー」IFV型に選定した「プーマ」IFV用の「RCT30 "ランス"」無人砲塔も含まれています。

 その一方で、オランダはAPC型「ボクサー」の火力向上用として、30mm砲機関砲1門と7.62mm同軸機銃、さらに「スパイク」ATGM2発を搭載した「EOS R400S-Mk2」デュアル式RWSをトライアル中です

 「R400S」と同様に「MkⅡ」は(少なくともドイツのIFV型「ボクサー」の「ランス」と比べると)低いシルエットであることに加えて車体内部に埋め込まれていないため、車内に占める専用のスペースが大幅にカットされています。


 最初の契約で調達された「ボクサー」91台(約3億8560万ユーロ=約546億円)には運転訓練仕様の2台も含まれており、最初の「ヴィルカス」IFVは、2019年7月初旬に「アイアンウルフ」機械化歩兵旅団に属する「アルギルダス大公」機械化歩兵大隊に正式に引き渡されました。[9] [10]

 そして、2022年2月にはリトアニアがドイツから120台の「ボクサー」を追加調達し、翌2023年から2024年にかけて納入される予定であることが発表されました。この第2陣には、「ヴィルカス」IFV30台と1基の12.7mm RWSを装備したAPC型「ボクサー」90台で構成される予定です。[11] 

 これらのAFVは、リトアニアの200台以上にもなる「M113」APCを少なくとも部分的に置き換える可能性があるかもしれません。更新されずに残る「M113」もいつか「ボクサー」あるいは(もしかすると)装軌式APCで置き換えられるのかは、現時点では判然としません。

 しかし、2022年6月に初めて発表された装軌型「ボクサー」は、(コンポーネントなどで)装輪型との高い共通性があることから、リトアニアにとって魅力的な次の選択肢となる可能性があるでしょう。[12]

リトアニア軍で運用中の運転訓練型「ボクサー」

 リトアニアの「ボクサー」APCと「ヴィルカス」IFVに対する相当規模の投資は、同国が国防に極めて真剣であることを示すほんの1例にすぎません。これらのプラットフォームにより、リトアニア陸軍は近い将来に想定される安全保障上の脅威に対処する準備ができているようです。

 「ボクサー」のプラットフォームの高い汎用性は、リトアニアがこのAFVへより依存させるかもしれません。例えば戦闘被害修理モジュールなどの調達は賢明な投資であり、同時に陸軍全体の統一性を高めることになるでしょう。

 仮に本当に「ボクサー」に専念するのであれば、120mm迫撃砲モジュールや、同じプラットフォームをベースにした未来的な外観の「スカイレンジャー30」SPAAGといった全く新しいシステムも揃えることすら可能であることは火を見るより明らかです。

 自身の安全保障態勢の構築に多大な投資を行い、装備の導入計画に真剣に取り組む国であれば、それを制約する上限は事実上存在しないのです。


[1] Lithuania launches talks to buy more than 120 Boxer military vehicles https://www.defensenews.com/land/2022/04/21/lithuania-launches-talks-to-buy-more-than-120-boxer-military-vehicles/
[2] La Lituanie va acheter 18 canons Caesar à Nexter https://www.lesechos.fr/industrie-services/air-defense/la-lituanie-va-acheter-18-canons-caesar-a-nexter-1412947
[3] https://www.defensenews.com/global/europe/2022/01/12/lithuania-accelerates-rocket-artillery-buy-amid-russian-military-buildup/
[4] Lithuania plans to buy multiple launch systems from US https://www.delfi.lt/en/politics/lithuania-plans-to-buy-multiple-launch-systems-from-us.d?id=89403651
[5] https://twitter.com/RALee85/status/1505464350164848643
[6] https://twitter.com/Osinttechnical/status/1512061253019185152
[7] https://twitter.com/RALee85/status/1503443368650682369
[8] https://i.postimg.cc/YqHjQ7xL/159267048-4175123882505935-9223333389964861122-n.jpg
[9] First Vilkas Infantry Fighting Vehicles officially handed over to Lithuania Vilkas Infantry Fighting vehicles delivered for training https://kariuomene.lt/en/newsevents/vilkas-infantry-fighting-vehicles-delivered-for-training/17971
[10] https://www.armyrecognition.com/july_2019_global_defense_security_army_news_industry/first_vilkas_infantry_fighting_vehicles_officially_handed_over_to_lithuania.html
[11] Lithuania launches talks to buy more than 120 Boxer military vehicles https://www.defensenews.com/land/2022/04/21/lithuania-launches-talks-to-buy-more-than-120-boxer-military-vehicles/
[12] https://twitter.com/JonHawkes275/status/1536646438616178688

 ※  この記事は、2022年6月14日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。



おすすめの記事

2022年6月4日土曜日

類稀なる偉業:リトアニアのジャーナリストが呼びかけたウクライナ用「バイラクタルTB2」調達クラウドファンディングの成功を受けてバイカル社がTB2を寄贈した


著:ヨースト・オリーマンズ と ステイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo

 ロシアによるウクライナへの侵略が始まってから100日が経過しました。

 目的は達成されるどころか投入された軍隊は反撃に遭い、攻め込まれた国は荒廃し、破壊の規模が絶えずエスカレートしていることから、この自称「特別軍事作戦」は決して戦うべきではなかった戦争 – ウクライナのみならず、ロシアどころかヨーロッパ全体の将来をも決する戦争にますます深入りする様相を呈しています。

 ロシア軍は今や自身が戦争の全く新たな局面に入ったことを悟っています。その局面でロシアの目標がはるかに限定的で現実的な性格を帯びてきたので運命を左右するサイコロが振り直されたわけですが、現代的な兵器のストックが枯渇する一方で、ウクライナはNATO諸国から供給されたより高度な兵器を投入し始めています。[1]

 20世紀に戦力を蓄えた最大級の侵略軍=ロシア軍に直面したウクライナの軍人と市民の驚異的な強靱力は称賛に値するものですが、継続的な抵抗のため、ウクライナは資金や軍事面で同盟国による支援にますます依存するようになってきています。

 しかし、民間の分野でもウクライナの窮状に対する支援は相当なものであり、外国人義勇兵や寄付、さらにはクラウドファンディングで得た装備品も提供などが、ウクライナの作戦に多大な影響を与えています。

 このような取り組みに、つい先日にあった現代戦で初となる異例の出来事を追加することができます:クラウドファンディングによって無人戦闘航空機(UCAV)が一国へ寄贈されることになったのです。

 5月25日、リトアニアのジャーナリストであるアンドリウス・タピナス氏が主催したキャンペーンで、トルコ製UCAV:「バイラクタルTB2」を購入できるように500万ユーロ(約7億円)を集めるべくリトアニア国民に支援を募りました。

 驚くべきことに、この目標額は早くも5月30日に到達し、その後も世界中から寄付が寄せられて最終的には590万15207ユーロ(約8.3億円)に達しました。これは目標とする兵器システムを購入するには十分な金額であり、資金にも余裕が生じました。[2] 

 しかし、TB2を製造するトルコの大手ハイテク企業「バイカル・テクノロジー」社との契約の場で、同社はこのUCAVをリトアニアに無償で譲渡することを公表し、同時に集まった資金をウクライナへの人道支援に充てるべきだと提案しました。

 後に、タピナス氏自身は440万ユーロ(約6.2億円)がウクライナへの人道支援・防衛あるいは復興プロジェクトに使われ、残りの150万ユーロ(約2.1億円)はTB2用の兵装に充てられることが決定されたことを公表しました。[3]

リトアニアのTB2と一緒に記念撮影をする同国のビリウス・セメシュカ副国防副相(中央)と「バイカル・テクノロジー」社のハルク・バイラクタルCEO(左)とセルチュク・バイラクタルCTO(右)

 TB2は、同機が実質的に戦場を支配した一連の武力紛争の過程を経て、現在販売されている戦闘システムの中で最も費用対効果の高いシステムの1つとして高い評価を得てきました。[4] 

 ただし、「バイラクタルTB2」はシリア、リビア、ナゴルノ・カラバフの上空で紛争の流れを本質的に変える能力を発揮しましたが、現代の大規模紛争におけるその性能はこれまで実証されておらず、論争の対象となっていました。[5] [6] [7] 

 トルコは今次戦争以前からウクライナの最も強力な支援国の1つであり、ウクライナ空軍と海軍に約18機のTB2システムを納入していたため、大国との大規模戦における同機の評価はすぐに一変しました。[8] [9] 

 TB2の威力と卓越した能力はロシアによる侵攻後も継続して発揮され、同機をウクライナの抵抗の象徴へと至らせました。ここ数週間だけでも、TB2はロシアやベラルーシ領のみならず有名なスネーク島とその付近で果敢な襲撃を何度も行っています。

 戦争の勃発はさらなるUCAVを迅速に納入することを最優先なものとし、トルコは3月に16機以上のTB2と「バイラクタル・ミニ」を送って再び重装備の納入で主導権を握ることになったのです。[10] 

 TB2の実質的なコストは500万ユーロという価格よりもいくらか高くなる可能性がありますが、さらなる納入のための真のボトルネックとなるのはほぼ間違いなく生産量の増強と思われます。

 TB2はUCAV市場で今までで(おそらく)最大の成功を収めており、少なくとも20の国がこのシステムを運用または購入したことが確認されています。[11] 

 これが戦争勃発時における「バイカル」社の迅速な対応の背景にあると思われ、自社の在庫か多くの輸出先から流用されたであろう製品を大量に供給したのでしょう。

 このことは、今後の納入については同型機を運用する国が譲渡する(自国の納入を遅らせる)意思を持っているか、「バイカル社」の非常に速い製造スピードに左右されることも意味しています。

 より多くの「バイラクタルTB2」UCAVがヨーロッパの防衛に多く携わることは確実です。
ちょうど昨年にリトアニアの隣国であるラトビアもTB2に関心を示しており、ポーランドとアルバニアの双方がTB2を調達するための予算を計上し、前者は今年後半に24機のうちの最初の1機を受領する予定となっています。[11] [12] 

 さらに、クラウドファンディングで購入されるTB2の納入を協議するためのトルコへの代表団を率いたリトアニアのビリウス・セメシュカ副国防副相は、(6機のTB2で構成される)システムを導入する可能性も協議されたと述べました。[13] 

 このことは、特に見込まれるラトビアのTB2調達と連動して、この地域におけるロシアの侵略に対するバルト諸国の抑止力が形成されることを意味するかもしれません。
 
 ウクライナにもたらされた被害や現代で最も破滅的な戦争の1つを継続するコストを踏まえると、590万ユーロはバケツの僅か一滴にすぎないかもしれません。しかし、今回の取り組みには、戦いに投入されゆく単なる1機の戦闘システムの以上の価値があることを忘れてはいけないでしょう。

 これは、それ自体が無関心で残酷に見える世界でむき出しの侵略に対して人々が団結し、より良い方向へ変化をもたらす能力がまだあることを示しているのです。どちらかというと、今回の出来事はウクライナが孤立した存在ではないことを再び示していると言えるのではないでしょうか。


[1] Answering The Call: Heavy Weaponry Supplied To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/answering-call-heavy-weaponry-supplied.html
[2] https://twitter.com/AndriusTapinas/status/1531575225552355328
[3] https://twitter.com/AndriusTapinas/status/1532313492073619457
[4] A Monument Of Victory: The Bayraktar TB2 Kill List https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/a-monument-of-victory-bayraktar-tb2.html
[5] The Idlib Turkey Shoot: The Destruction and Capture of Vehicles and Equipment by Turkish and Rebel Forces https://www.oryxspioenkop.com/2020/02/the-idlib-turkey-shoot-destruction-and.html
[6] An Unmanned Interdictor: Bayraktar TB2s Over Libya https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/an-unmanned-interdictor-bayraktar-tb2s.html
[7] The Conqueror of Karabakh: The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-conqueror-of-karabakh-bayraktar-tb2.html
[8] The Fate Of Nations: Turkish Support To Ukraine’s Plight https://www.oryxspioenkop.com/2022/03/the-fate-of-nations-turkish-support-to.html
[9] Defending Ukraine - Listing Russian Military Equipment Destroyed By Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/defending-ukraine-listing-russian-army.html
[10] New Bayraktar UAVs Spotted In Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/new-bayraktar-uavs-spotted-in-ukraine.html
[11] An International Export Success: Global Demand For The Bayraktar TB2 Reaches All Time High https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/an-international-export-success-global.html
[12] Business In The Baltics: Latvia Expresses Interest In The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/business-in-baltics-latvia-expresses.html
[13] Lithuania and Turkey sign agreement on Bayraktar drones purchase https://www.lrt.lt/en/news-in-english/19/1708436/lithuania-and-turkey-sign-agreement-on-bayraktar-drones-purchase

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



おすすめの記事

2021年9月17日金曜日

バルト諸国への拡大に向けて:ラトビアが「バイラクタルTB2」に興味を示す



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 最近、バイカル・テクノロジー社(以下、バイカル社と表記)はアルティス・パブリクス副首相兼国防相率いるラトビアの代表団が「バイラクルTB2(以下、TB2とも表記)」「アクンジュ」無人戦闘航空機(UCAV)の研究開発及び生産施設を公式訪問した後で注目を浴びました。

 将来的にロシアがバルト三国へ(軍事的な)干渉をする可能性に対して、ラトビアと残りのバルト諸国のエストニアとリトアニアは抑止力と実行可能な戦時能力の構築を続けています。

 シリアやリビア、ナゴルノ・カラバフ上空でTB2が収めた大成功によって、これらの国の低コストなUCAV戦力への関心が刺激させられたことは、おそらく少しも驚くべきものではないかもしれません。

 特にナゴルノ・カラバフでのTB2が収めた成功は、NATO加盟国からすると決して見過ごすことができないものでした。数週間のうちに、僅かな数のアゼルバイジャン軍のTB2がアルメニア軍の後方を遮断し、TB2はたった2機(1機は撃墜、もう1機は墜落)の損失があった一方で、合計で(93台のT-72戦車を含む)127台の装甲戦闘車両、147門の大砲、59門の多連装ロケット砲、22基の地対空ミサイル(SAM)システム、6基のレーダーシステム、184台の各種車両を破壊したことが確認されました(注:徘徊兵器「ハロップ」の戦果はこの数字には含まれていません)。[1]

 これらの結果は、さまざまなSAMとUAVに対抗するために特別に設計されたEW(電子戦)アセットに直面した際のTB2の生存性だけでなく、小規模なTB2飛行隊がハイテンポな作戦への投入の維持を可能にする素晴らしい稼働率を持っていることも証明しています。

 これらの成功をロシアやベラルーシといった国に対して再現できるかどうか疑問視するアナリストもいますが、TB2はすでにシリア、リビア、ナゴルノ・カラバフでの戦いで(特に味方のEWや電子支援手段と併用した際には)ほとんど損失を受けずに「S-300PS」「ブーク-M2」「トールM2」「パーンツィリ-S1」などのシステムとの戦いに成功していることから、そのような国々がかき集めたであろう統合防空システム(IADS)の多くを相手にできる能力があることを実証していると主張できます。

 「アフトバザ-M」「レペレント-1」「ボリソグレブスク-2」「グローザ-S」のようなロシアの最新型EWシステムはどれもが何らかの方法でUAVの運用を妨害することを目的としていますが、先述のSAMと同然のものにすぎませんでした。

 この事実は「バイラクタルTB2」のような無人機による作戦に対抗したり、著しく妨害する現代的なIADSの能力に深刻な疑問を投げかけています。

       

 アルメニアのIADSの性能は、当然ながら2020年の戦争後には、その実際の能力と現代性について調査の対象となっています。

 それにもかかわらず、「ブーク」や「トール」といった最新のSAMの入手だけでなく、さまざまなルートから入手した電子光学装備や多数のロシア製新型EWシステムへの長年にわたる投資は、ナゴルノ・カラバフを世界で最も防空密度の高い地域のひとつに変えました。

 まだいくつかの見地が欠けていますが、このIADSはあらゆる射程圏ごとに新旧のさまざまなシステムを組み込んでおり、最新の携帯式地対空ミサイル(MANPADS)、自走対空砲(SPAAG)、牽引式対空砲、レーダーやEWシステムに支えられています。

 アルメニアの「防空の傘」の全ての層が無人機の手によって完敗したという事実は、この概念の微調整や自慢の新システムで単に部隊を増強する必要性よりも、このような現代的な脅威に対するIADSの構造的な欠陥を示している可能性があります。

 無人機による偉業は当然ながらアルメニアを大いに落胆させ、アルメニアのニコル・パシニャン首相は、ロシアから入手したばかりの(「レペレント-1」と思われる)EWシステムの能力について厳しい批判の声を上げました – 「それは単に機能しませんでした」。[2]

 アルメニアは無人機のような空中の脅威に対処するために防空戦力の近代化に多額の資金を投入してきましたが、その効果のなさにはアルメニアの(SAMなどの)乗員だけでなく、それらを設計したロシアの企業も驚いたに違いありません。

 その上で、バイカル・ディフェンス社のハルク・バイラクタルCEOは、ロシアのEWシステムがTB2の運用を妨害する能力を持っていないことが証明されたと述べました:「ロシアの電子戦システムはたとえ1時間でもバイラクタルTB2の作戦を妨害することはできないでしょう。そして、トルコの無人機は常に空中にとどまることができるでしょう。」 [2]

2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で破壊されたアルメニア軍のEWシステム「レペレント-1」の焼け焦げた残骸。このシステムは前線のはるか後方からUAVの動きを妨害するように設計されていましたが、アゼルバイジャンの無人機によって少なくとも(アルメニアが保有する全量に相当する可能性がある)2基が撃破されてしまいました。

 ラトビアの小さくも大いに熟練して十分に装備された軍隊は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンが得た成功の多くを再現するのによく適しているように見えます。

 アゼルバイジャンと同様に、ラトビアも自走砲と長射程型の「スパイク」対戦車ミサイル(ATGM)の調達に多額の投資をしてきました。

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で決定的なゲームチェンジャーであることを証明したのは、まさしく「バイラクタルTB2」と大砲やATGM、MRLや精密誘導弾との相乗効果でした。

 中でも注目すべきは、TB2がSu-25と地上発射型の誘導兵器などを追加目標に誘導することによって、自らが搭載する4発のMAM-L誘導爆弾を使い切った後もアルメニアの地上目標との交戦を継続したことです。



 完全に破壊される直前に「スパイク」ATGMのカメラで撮影されたこのアルメニア軍のT-72A戦車(上の画像)。このT-72はTB2に発見された大規模なAFV群の一部であり、その後にこれらは「スパイク」ATGMの助けによって一掃されました。



 アルメニアの「S-300PS」部隊はいくつかの陣地を運用していることに加えて、2020年10月中旬にカラバフとの国境近くの野原にひっそりと部隊を展開しました。しかし、その直後にTB2が地上発射型の精密誘導兵器をその位置に向けて誘導したため、この部隊は壊滅させられてしまいました(上の画像)。

 もちろん、これらの結果はアルメニアが戦場での制空権を得るために少しも戦いを試みようとしなかった状況で得られたものです。

 自前の戦闘機を保有していないため、バルト3国は自国の領空を守るためにNATOの領空警備任務に依存しています。平時にはそれで全く十分なものですが、戦時にはバルチック地域の防衛や(言うまでもなく)航空優勢を確保するためにも、より多くの航空機をバルチックに向ける必要があります。

 だからといって、バルト諸国が自分自身でその役割を何も果たすことができないというわけではありません。

 すでにバルト諸国で運用されている(スウェーデンの「RBS-70」やフランスの「ミストラル」、アメリカのFIM-92「スティンガー」、そしてポーランドの「グロム」を含む)大量のMANPADSに加えて、リトアニアは今やAIM-120空対空ミサイルを使用するノルウェーの「NASAMS-3」中長距離地対空ミサイル・システムも運用しています。エストニアは自国軍のために同システムを取得する用意ができており、ラトビアも同様の地上発射型の防空システムを必要としています。[3]

 今のところ環境が整っているバルチック航空監視ネットワークの一環として最新のレーダーシステムの広大なネットワークと組み合わせた場合、「NASAMS-3」のような最新のSAMはバルト海での航空優勢を達成しようとするロシアの試みを大いに困難なものにするでしょう。

 安価で、数が豊富で比較的探知されにくい「バイラクタルTB2」のような無人機は、ロシアやベラルーシを相手にした戦争の初期段階における攻撃能力を大幅に向上させることができる(同時にNATOの従来型航空戦力を別の任務に振り分けることも可能にする)一方で、それほど装備面での複雑さが少ない紛争(注:例えばSAMが登場しないなど)で生じる可能性がある容認できない損失を避けることもできます。

 もちろん、制空権を敵から徐々に獲得していくにつれて、TB2のような無人機は戦場の監視や敵の隊列を(彼らがどこへ移動しようが何ら支障なく)打撃するのにいっそう効果的な存在となります。



 いったん戦闘に使用されるならば、「バイラクタルTB2」はラトビア軍で使用されている「ペンギン C」 UAVや米国製のRQ-20A「ピューマ」といった従来のシステムと比較すると、(武器を搭載できるという明らかな利点を別として)数多くの著しい能力向上を誇ります。これは主に、非常に優れたEO/IRセンサー、大いに向上した航続距離、耐久性や実用上昇限度(最高高度)、そしてEWシステムに対する大幅な耐性に現れています。

 TB2のあまり知られていないコンポーネントに、バイカル社が独自に開発した「BSI-101」信号情報システム(注:リンク先カタログの30ページ)があります。この小型で高性能の無線受信機は無線周波数スペクトルの空中監視に使用でき、目視での識別をするよりもかなり早く敵のレーダーシステム(及びそれに付随するSAM)の位置を特定・識別することが可能です。同時に、このシステムは通信情報収集に使用できるため、位置特定と識別の任務を同時に遂行しながらオペレーターに敵の通信を傍受させることも可能となります。

 敵の拠点や兵員の集結が信号情報や(車両などの目標に対しては75km以上あると考えられている)長距離の探知距離を誇るEO/IRセンサーによって検知された後、これらの目標はラトビアが保有する重迫撃砲、23門の野砲、53台の自走砲(SPG)部隊によって攻撃される可能性があります。

 後者は実績のあるM109A5で構成されており、この自走砲はさまざまな種類の155mm砲弾を約23km(ロケットアシスト弾の場合は30km)の有効射程距離内に発射することができます。この距離は、(長射程の精密誘導ロケット弾と弾道ミサイルを除く)アゼルバイジャンが保有する大砲や小口径のMRL戦力の有効射程にほぼ匹敵するものです。

 ラトビアは1960年代のSPGを2000年代半ばに大規模にアップグレードしていたオーストリアと600万ユーロの契約をして、2017年に最初の35台のM109A5Öを10台の指揮車両と共に入手しました。[4]

 2021年には、さらに18台の「Pašgājējhaubice(自走榴弾砲) M109」を購入するという2回目の契約(200万ユーロ)が公表されたことから、ラトビアが保有するSPGの総数は53台となります。[5]

 M109A5Öは現在バルト諸国で使用されているSPGの中では最も現代的ではないタイプのSPGですが、これらの調達価格の安さと数の多さは、火力に関してラトビアに実力以上の力を発揮させることを可能にします。

 この点に関して、53台のM109は現在リトアニアとエストニアに配備されている16台のPzH-2000と18台のK9よりも非常に優れた火力支援能力を提供します。

 射程距離8kmの「GrW 86」120mm重迫撃砲や射程距離21kmの 「vz.53」100mm野砲といったラトビアの運用における追加装備は、目標に加えることができる総投射弾量のさらなる向上に大いに貢献するでしょう。

 TB2をこれらの砲兵システムと効率的に統合することで、目標への効果を最大限に高めることができます : つまり、TB2はラトビア軍が現時点で使用できる無数の兵器システムのためのちょっとした戦力倍増装置のような性質を持っているということです。



 アゼルバイジャンと同様にラトビアもイスラエルの「スパイク」ATGMを数多く運用しているユーザーであることから、両国の類似点は前述したことで終わることはありません。

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンのMi-17ヘリコプターから発射された超長距離の「スパイク-NLOS」を除外すれば、ラトビアはこの戦争でアゼルバイジャンによって投入されたものと全く同じ「スパイク」の派生型を配備しています。これには「スパイク-SR」、「スパイク-LR」、「スパイク-LR2」、「スパイク-ER2」が含まれており、これらのATGMは2018年に契約された1億800万ユーロ(約270億2,300万円)の取引によって調達されました。[6]

 これらの長射程型ATGMは、攻撃すべき標的の発見をほかのアセットに依存しています。射程距離が1,500mの「スパイク-SR」ではそれほど必要性がありませんが、「スパイク-ER2」の10kmという射程距離を最大限に活用するためには、補助的な照準システムが実質的に必要不可欠となるのです。

 現在、ラトビアは「スパイク」ATGMを1個の機械化歩兵旅団と戦闘支援大隊に配備しています。この部隊の機動性は英国のCVR(T)を中心に構築されており、これらの極めて重要な部隊の鍵となっています。軽装甲ながらも大いに軽快なこれらのAFVは、ヒット&ラン戦法に最適な存在です。近い将来、ラトビアは一部のCVR(T)に「スパイク」ATGMを装備させることも計画しています。[7]

 AFVとそれに搭乗している歩兵の両方が発見した敵車両を「スパイク」を使って攻撃することができるため、結果的にこの組み合わせは敵機甲部隊にもたらされる脅威になるだろうことは決して大げさに表現したものではありません。




 そのダイレクトな戦闘能力と戦力倍増装置としての長所の両方によって、TB2はラトビアに比較的低いコストで抑止力の拡大をもたらすことを可能にするかもしれません。

 リビア、シリア、ナゴルノ・カルバフにおける一連の現代的なロシアの防空・EWシステムに直面したTB2の繰り返される勝利を考慮すると、この抑止力はラトビアにとっても強力な戦時能力をもたらすことになるでしょう。

 TB2の用途については、平時にはラトビアの領海をパトロールして漁業の監視や海洋環境のモニタリングを行ったり、この国を頻繁に悩ませている山火事を検知するなど、日常的な任務にまで広げることができます。後者の役割では、TB2はすでにトルコで活用されています。

 十分な数のTB2を導入することは、ラトビアに最小限の装備で空中監視や空爆などでNATOの任務に参加することを可能にさせます。

 リトアニアとエストニアはラトビアと緊密に連携して自らの軍事力を拡大を切望していることから、これらの国の間でTB2の共同調達も考えられないことではありません。これによって、コストを節約しながらさらなる統合と情報共有を通じて戦闘能力を拡大できる可能性があります。



インフラストラクチャー

 従来型の作戦機部隊はほとんど保有していないため、現時点でラトビア空軍が使用している空軍基地はたった1つ:リエルヴァーレ基地だけです。

 NATOの作戦により適応するため、この基地は2014年に全面的に改装されており、将来的な拡張に備えた十分なスペースも設けられました。

 (4機のMi-17と数機のAn-2で構成されている)全ラトビア空軍機が駐留していることに加えて、リエルヴァーレ基地にはNATOの航空機(米国の「プレデター」「リーパー」UCAVなど)や地上部隊の定期的な配備もされています。

 敵のラトビアと交戦するための作戦計画にリエルヴァーデ空軍基地をターゲットにすることが含まれている可能性があるため、事前に準備されたハイウェイストリップ(代替滑走路)を使用することは、TB2が作戦飛行を実施するための場所の数を増やすための追加的な方法となる可能性があります。つまり、ラトビアの優れた道路システムは自国やNATO諸国に作戦機の運用に関する豊富な選択肢を提供してくれます。



将来的な可能性

 2021年5月には、バルト三国がMRLシステムの共同調達を通じて、火力支援能力をさらに拡大するというプランが発表されました。[10]

 すでに実証済みの確かな能力と(おそらくは)低い取得コストを考慮すると、アメリカ製のM270「MLRS」がその最有力な候補と思われています。

 しかし、「バイラクタルTB2」を導入する可能性は今や決して現実離れした事柄ではなくなっているため、もう一つの適切な選択肢は、おそらくいっそう費用対効果に優れたものとなるでしょう。

 トルコの「TRRG-230」230mm誘導ロケット弾は、「バイラクタルTB2」によってレーザー照射を受けた標的に命中することができます:レーザー誘導キットをロケット弾に装着することで他の誘導システムの必要性がなくなることから、システムの電子戦に関する耐性が高まると同時に命中精度が大幅に向上します。

 この素晴らしい能力向上弾は、すでにトルコと(2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でTRRG-230を成功裏に使用した)アゼルバイジャンが保有する装備のリストに存在しており、TB2の作戦能力を相当に向上させています。

 トルコのシステムを選択することの潜在的な利点は、単なるTB2と「TRRG-230」MRLとの相乗効果がもたらされる以上のものがあります。

 TRLG-230の自走発射台はモジュール化されているため、ロケット弾ポッドや発射管を交換するだけで、同じ発射台から122mmと300mmのロケット弾を発射することもできるのです。

 モジュール化はシステムの運用上の柔軟性を大いに高め、おそらくは目標を捕捉した直後に適切なロケット弾を選択できるようにし、リアルタイムで正確に調整された砲撃を実現させる可能性があります。

 これらの高度な機能は、M270とその軽量版であるHIMARSには備わっていないことがはっきりとしており、これらは227mmロケット弾かMGM-140「ATACMS」戦術弾道ミサイルだけを発射することに限定されています:後者がバルト諸国に購入されることは起こりそうにありません。



ラトビアの防衛産業との協力

 ラトビアの防衛産業はUAVと小型の哨戒艇の設計・製造で多忙を極めています。

 現在、ラトビアには一つの無人航空機のメーカーが存在しています:2009年に設立された「UAVファクトリー」社は、ラトビア軍や米国の特殊作戦軍(USSOCOM)を含む世界の50以上の顧客のために、2020年までにすでに300機の「ペンギン」UAVを生産したと報じられています。[9]

 さらに、同社はEO/IRセンサーを備えたISR(情報・偵察・監視)用機器、機体、エンジン、その他のUAVに関連するコンポーネントも生産しています。

 ラトビアの下儲け業者が外国企業と調印された主要な防衛事業に関与することは、将来の調達における必要事項であると述べられています。 [10]

 特にバイカル社との取引の場合、これはオーバーホールや修理を行うための現地でのメンテナンス施設の設立につながる可能性があります。

 そのうえ、トルコはオフセット契約で「UAVファクトリー」からEO/IR センサーを備えたISR機器を購入することができ、TB2のモジュール性は「UAVファクトリー」のような企業が独自の機器をUAVに統合することも可能にさせてくれます。

 全てにおいて、これらの動きはラトビアの防衛産業と技術基盤に著しい躍進をもたらすことになるでしょう。



 ラトビアは、21世紀の戦争の新しいパラダイムに入る準備ができているようです。このパラダイムでは、20世紀の機甲部隊は、機動性の高い地上部隊、ATGM、(誘導化された)砲兵戦力、そして(もちろん)UAVの相乗的な相互作用に取って代わられます。

 すでにスパイクATGMと53台の自走砲が運用に入っているのみならず、MRLシステムの導入も計画されており、そしてTB2UCAVを(バルト諸国が共同で)調達する可能性があることから、ラトビアはこの新ドクトリンの実現する道を順調に進めています。

 また、これらの技術を同じNATO加盟国から購入できるという事実も評価されており、他の供給者には欠けているかもしれない品質の保証と一定の追加的なセキュリティをカスタマーに提供します。この一例は、TB2がほぼ毎日ソフトウェアのアップデートと改良を受けているというバイカル社のハルク・バイラクタルCEOの声明によって証明されています。[11]

 しかし、このような漸進的な改善はTB2自体だけに限られたものではありません。

 INS/GPSの導入で「MAM-L」誘導爆弾の射程距離が7kmから14km以上へと飛躍的に延長され、「トール-M2」、9M337 「ソスナ-R」2K22M1「ツングースカ」などのロシアの防空システムをアウトレンジで攻撃できるようになりました。

 この点では、UAV関連の発展はそれ自体に対抗するために設計されたシステムを凌駕していると思われ、作戦上の適応においては過去に登場したどのシステムよりも柔軟性に富んでいることを示しています。

 「アクンジュ」と「バイラクタルTB3」という2つの新しいUCAVシステムだけでなく、バイカル社の「クズルエルマ」無人戦闘機プロジェクトも現時点で進行しているため、
同社の迅速なR&D(研究開発)と生産能力はライバル企業に対する優位性を高めながら、斬新な機能を備えたUCAVファミリーの売り出しを可能にするでしょう。

 これらのことは、このかつての自動車会社が世界の主要な無人機メーカーの一つとしての確固たる地位を確立する場を設け、やがてはバルト諸国の軍事力における決め手の役割を果たす可能性を示唆しています。

TB2の模型を手にして記念撮影するラトビアのアーティス・パブリクス国防相(左)とバイカル・テクノロジー社のハルク・バイラクタルCEO(右)

[1] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[2] Russian Electronic Warfare Systems Cannot Beat Bayraktar UAVs: Baykar https://www.defenseworld.net/news/29086/Russian_Electronic_Warfare_Systems_Cannot_Beat_Bayraktar_UAVs__Baykar#.YMfJ-kxcKUl
[3] Baltic Air Defence: Addressing a Critical Military Capability Gap https://icds.ee/en/baltic-air-defence-addressing-a-critical-military-capability-gap/
[4] First Latvian howitzers arrive from Austria https://eng.lsm.lv/article/society/defense/first-latvian-howitzers-arrive-from-austria.a252167/
[5] Latvia buys the second batch of American self-propelled howitzers M-109A5OE https://en.topwar.ru/183126-latvija-zakupaet-vtoruju-partiju-amerikanskih-samohodnyh-gaubic-m-109a5oe.html
[6] Latvia takes delivery of new Spike missile variants https://www.politicallore.com/latvia-takes-delivery-of-new-spike-missile-variants/21553
[7] Latvia to buy Israeli Spike guided missiles for CVR-T vehicles for €108 million https://www.thedefensepost.com/2018/02/12/latvia-israel-spike-missiles-vehicles/
[8] Baltic states mull joint artillery procurement https://www.lrt.lt/en/news-in-english/19/1417985/baltic-states-mull-joint-artillery-procurement
[9] https://uavfactory.com/en/company
[10] Ministry of Defence strengthens cooperation with domestic military industry https://labsoflatvia.com/en/news/ministry-of-defence-strengthens-cooperation-with-domestic-military-industry
[11] HALUK BAYRAKTAR İNGİLİZ DÜŞÜNCE KURULUŞU RUSI'NIN PANELİNDE KONUŞTU https://youtu.be/jKj-FOMQlNw?t=462

  ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なってい
  る箇所があります。