2021年9月17日金曜日

バルト諸国への拡大に向けて:ラトビアが「バイラクタルTB2」に興味を示す



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 最近、バイカル・テクノロジー社(以下、バイカル社と表記)はアルティス・パブリクス副首相兼国防相率いるラトビアの代表団が「バイラクルTB2(以下、TB2とも表記)」「アクンジュ」無人戦闘航空機(UCAV)の研究開発及び生産施設を公式訪問した後で注目を浴びました。

 将来的にロシアがバルト三国へ(軍事的な)干渉をする可能性に対して、ラトビアと残りのバルト諸国のエストニアとリトアニアは抑止力と実行可能な戦時能力の構築を続けています。

 シリアやリビア、ナゴルノ・カラバフ上空でTB2が収めた大成功によって、これらの国の低コストなUCAV戦力への関心が刺激させられたことは、おそらく少しも驚くべきものではないかもしれません。

 特にナゴルノ・カラバフでのTB2が収めた成功は、NATO加盟国からすると決して見過ごすことができないものでした。数週間のうちに、僅かな数のアゼルバイジャン軍のTB2がアルメニア軍の後方を遮断し、TB2はたった2機(1機は撃墜、もう1機は墜落)の損失があった一方で、合計で(93台のT-72戦車を含む)127台の装甲戦闘車両、147門の大砲、59門の多連装ロケット砲、22基の地対空ミサイル(SAM)システム、6基のレーダーシステム、184台の各種車両を破壊したことが確認されました(注:徘徊兵器「ハロップ」の戦果はこの数字には含まれていません)。[1]

 これらの結果は、さまざまなSAMとUAVに対抗するために特別に設計されたEW(電子戦)アセットに直面した際のTB2の生存性だけでなく、小規模なTB2飛行隊がハイテンポな作戦への投入の維持を可能にする素晴らしい稼働率を持っていることも証明しています。

 これらの成功をロシアやベラルーシといった国に対して再現できるかどうか疑問視するアナリストもいますが、TB2はすでにシリア、リビア、ナゴルノ・カラバフでの戦いで(特に味方のEWや電子支援手段と併用した際には)ほとんど損失を受けずに「S-300PS」「ブーク-M2」「トールM2」「パーンツィリ-S1」などのシステムとの戦いに成功していることから、そのような国々がかき集めたであろう統合防空システム(IADS)の多くを相手にできる能力があることを実証していると主張できます。

 「アフトバザ-M」「レペレント-1」「ボリソグレブスク-2」「グローザ-S」のようなロシアの最新型EWシステムはどれもが何らかの方法でUAVの運用を妨害することを目的としていますが、先述のSAMと同然のものにすぎませんでした。

 この事実は「バイラクタルTB2」のような無人機による作戦に対抗したり、著しく妨害する現代的なIADSの能力に深刻な疑問を投げかけています。

       

 アルメニアのIADSの性能は、当然ながら2020年の戦争後には、その実際の能力と現代性について調査の対象となっています。

 それにもかかわらず、「ブーク」や「トール」といった最新のSAMの入手だけでなく、さまざまなルートから入手した電子光学装備や多数のロシア製新型EWシステムへの長年にわたる投資は、ナゴルノ・カラバフを世界で最も防空密度の高い地域のひとつに変えました。

 まだいくつかの見地が欠けていますが、このIADSはあらゆる射程圏ごとに新旧のさまざまなシステムを組み込んでおり、最新の携帯式地対空ミサイル(MANPADS)、自走対空砲(SPAAG)、牽引式対空砲、レーダーやEWシステムに支えられています。

 アルメニアの「防空の傘」の全ての層が無人機の手によって完敗したという事実は、この概念の微調整や自慢の新システムで単に部隊を増強する必要性よりも、このような現代的な脅威に対するIADSの構造的な欠陥を示している可能性があります。

 無人機による偉業は当然ながらアルメニアを大いに落胆させ、アルメニアのニコル・パシニャン首相は、ロシアから入手したばかりの(「レペレント-1」と思われる)EWシステムの能力について厳しい批判の声を上げました – 「それは単に機能しませんでした」。[2]

 アルメニアは無人機のような空中の脅威に対処するために防空戦力の近代化に多額の資金を投入してきましたが、その効果のなさにはアルメニアの(SAMなどの)乗員だけでなく、それらを設計したロシアの企業も驚いたに違いありません。

 その上で、バイカル・ディフェンス社のハルク・バイラクタルCEOは、ロシアのEWシステムがTB2の運用を妨害する能力を持っていないことが証明されたと述べました:「ロシアの電子戦システムはたとえ1時間でもバイラクタルTB2の作戦を妨害することはできないでしょう。そして、トルコの無人機は常に空中にとどまることができるでしょう。」 [2]

2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で破壊されたアルメニア軍のEWシステム「レペレント-1」の焼け焦げた残骸。このシステムは前線のはるか後方からUAVの動きを妨害するように設計されていましたが、アゼルバイジャンの無人機によって少なくとも(アルメニアが保有する全量に相当する可能性がある)2基が撃破されてしまいました。

 ラトビアの小さくも大いに熟練して十分に装備された軍隊は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンが得た成功の多くを再現するのによく適しているように見えます。

 アゼルバイジャンと同様に、ラトビアも自走砲と長射程型の「スパイク」対戦車ミサイル(ATGM)の調達に多額の投資をしてきました。

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で決定的なゲームチェンジャーであることを証明したのは、まさしく「バイラクタルTB2」と大砲やATGM、MRLや精密誘導弾との相乗効果でした。

 中でも注目すべきは、TB2がSu-25と地上発射型の誘導兵器などを追加目標に誘導することによって、自らが搭載する4発のMAM-L誘導爆弾を使い切った後もアルメニアの地上目標との交戦を継続したことです。



 完全に破壊される直前に「スパイク」ATGMのカメラで撮影されたこのアルメニア軍のT-72A戦車(上の画像)。このT-72はTB2に発見された大規模なAFV群の一部であり、その後にこれらは「スパイク」ATGMの助けによって一掃されました。



 アルメニアの「S-300PS」部隊はいくつかの陣地を運用していることに加えて、2020年10月中旬にカラバフとの国境近くの野原にひっそりと部隊を展開しました。しかし、その直後にTB2が地上発射型の精密誘導兵器をその位置に向けて誘導したため、この部隊は壊滅させられてしまいました(上の画像)。

 もちろん、これらの結果はアルメニアが戦場での制空権を得るために少しも戦いを試みようとしなかった状況で得られたものです。

 自前の戦闘機を保有していないため、バルト3国は自国の領空を守るためにNATOの領空警備任務に依存しています。平時にはそれで全く十分なものですが、戦時にはバルチック地域の防衛や(言うまでもなく)航空優勢を確保するためにも、より多くの航空機をバルチックに向ける必要があります。

 だからといって、バルト諸国が自分自身でその役割を何も果たすことができないというわけではありません。

 すでにバルト諸国で運用されている(スウェーデンの「RBS-70」やフランスの「ミストラル」、アメリカのFIM-92「スティンガー」、そしてポーランドの「グロム」を含む)大量のMANPADSに加えて、リトアニアは今やAIM-120空対空ミサイルを使用するノルウェーの「NASAMS-3」中長距離地対空ミサイル・システムも運用しています。エストニアは自国軍のために同システムを取得する用意ができており、ラトビアも同様の地上発射型の防空システムを必要としています。[3]

 今のところ環境が整っているバルチック航空監視ネットワークの一環として最新のレーダーシステムの広大なネットワークと組み合わせた場合、「NASAMS-3」のような最新のSAMはバルト海での航空優勢を達成しようとするロシアの試みを大いに困難なものにするでしょう。

 安価で、数が豊富で比較的探知されにくい「バイラクタルTB2」のような無人機は、ロシアやベラルーシを相手にした戦争の初期段階における攻撃能力を大幅に向上させることができる(同時にNATOの従来型航空戦力を別の任務に振り分けることも可能にする)一方で、それほど装備面での複雑さが少ない紛争(注:例えばSAMが登場しないなど)で生じる可能性がある容認できない損失を避けることもできます。

 もちろん、制空権を敵から徐々に獲得していくにつれて、TB2のような無人機は戦場の監視や敵の隊列を(彼らがどこへ移動しようが何ら支障なく)打撃するのにいっそう効果的な存在となります。



 いったん戦闘に使用されるならば、「バイラクタルTB2」はラトビア軍で使用されている「ペンギン C」 UAVや米国製のRQ-20A「ピューマ」といった従来のシステムと比較すると、(武器を搭載できるという明らかな利点を別として)数多くの著しい能力向上を誇ります。これは主に、非常に優れたEO/IRセンサー、大いに向上した航続距離、耐久性や実用上昇限度(最高高度)、そしてEWシステムに対する大幅な耐性に現れています。

 TB2のあまり知られていないコンポーネントに、バイカル社が独自に開発した「BSI-101」信号情報システム(注:リンク先カタログの30ページ)があります。この小型で高性能の無線受信機は無線周波数スペクトルの空中監視に使用でき、目視での識別をするよりもかなり早く敵のレーダーシステム(及びそれに付随するSAM)の位置を特定・識別することが可能です。同時に、このシステムは通信情報収集に使用できるため、位置特定と識別の任務を同時に遂行しながらオペレーターに敵の通信を傍受させることも可能となります。

 敵の拠点や兵員の集結が信号情報や(車両などの目標に対しては75km以上あると考えられている)長距離の探知距離を誇るEO/IRセンサーによって検知された後、これらの目標はラトビアが保有する重迫撃砲、23門の野砲、53台の自走砲(SPG)部隊によって攻撃される可能性があります。

 後者は実績のあるM109A5で構成されており、この自走砲はさまざまな種類の155mm砲弾を約23km(ロケットアシスト弾の場合は30km)の有効射程距離内に発射することができます。この距離は、(長射程の精密誘導ロケット弾と弾道ミサイルを除く)アゼルバイジャンが保有する大砲や小口径のMRL戦力の有効射程にほぼ匹敵するものです。

 ラトビアは1960年代のSPGを2000年代半ばに大規模にアップグレードしていたオーストリアと600万ユーロの契約をして、2017年に最初の35台のM109A5Öを10台の指揮車両と共に入手しました。[4]

 2021年には、さらに18台の「Pašgājējhaubice(自走榴弾砲) M109」を購入するという2回目の契約(200万ユーロ)が公表されたことから、ラトビアが保有するSPGの総数は53台となります。[5]

 M109A5Öは現在バルト諸国で使用されているSPGの中では最も現代的ではないタイプのSPGですが、これらの調達価格の安さと数の多さは、火力に関してラトビアに実力以上の力を発揮させることを可能にします。

 この点に関して、53台のM109は現在リトアニアとエストニアに配備されている16台のPzH-2000と18台のK9よりも非常に優れた火力支援能力を提供します。

 射程距離8kmの「GrW 86」120mm重迫撃砲や射程距離21kmの 「vz.53」100mm野砲といったラトビアの運用における追加装備は、目標に加えることができる総投射弾量のさらなる向上に大いに貢献するでしょう。

 TB2をこれらの砲兵システムと効率的に統合することで、目標への効果を最大限に高めることができます : つまり、TB2はラトビア軍が現時点で使用できる無数の兵器システムのためのちょっとした戦力倍増装置のような性質を持っているということです。



 アゼルバイジャンと同様にラトビアもイスラエルの「スパイク」ATGMを数多く運用しているユーザーであることから、両国の類似点は前述したことで終わることはありません。

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンのMi-17ヘリコプターから発射された超長距離の「スパイク-NLOS」を除外すれば、ラトビアはこの戦争でアゼルバイジャンによって投入されたものと全く同じ「スパイク」の派生型を配備しています。これには「スパイク-SR」、「スパイク-LR」、「スパイク-LR2」、「スパイク-ER2」が含まれており、これらのATGMは2018年に契約された1億800万ユーロ(約270億2,300万円)の取引によって調達されました。[6]

 これらの長射程型ATGMは、攻撃すべき標的の発見をほかのアセットに依存しています。射程距離が1,500mの「スパイク-SR」ではそれほど必要性がありませんが、「スパイク-ER2」の10kmという射程距離を最大限に活用するためには、補助的な照準システムが実質的に必要不可欠となるのです。

 現在、ラトビアは「スパイク」ATGMを1個の機械化歩兵旅団と戦闘支援大隊に配備しています。この部隊の機動性は英国のCVR(T)を中心に構築されており、これらの極めて重要な部隊の鍵となっています。軽装甲ながらも大いに軽快なこれらのAFVは、ヒット&ラン戦法に最適な存在です。近い将来、ラトビアは一部のCVR(T)に「スパイク」ATGMを装備させることも計画しています。[7]

 AFVとそれに搭乗している歩兵の両方が発見した敵車両を「スパイク」を使って攻撃することができるため、結果的にこの組み合わせは敵機甲部隊にもたらされる脅威になるだろうことは決して大げさに表現したものではありません。




 そのダイレクトな戦闘能力と戦力倍増装置としての長所の両方によって、TB2はラトビアに比較的低いコストで抑止力の拡大をもたらすことを可能にするかもしれません。

 リビア、シリア、ナゴルノ・カルバフにおける一連の現代的なロシアの防空・EWシステムに直面したTB2の繰り返される勝利を考慮すると、この抑止力はラトビアにとっても強力な戦時能力をもたらすことになるでしょう。

 TB2の用途については、平時にはラトビアの領海をパトロールして漁業の監視や海洋環境のモニタリングを行ったり、この国を頻繁に悩ませている山火事を検知するなど、日常的な任務にまで広げることができます。後者の役割では、TB2はすでにトルコで活用されています。

 十分な数のTB2を導入することは、ラトビアに最小限の装備で空中監視や空爆などでNATOの任務に参加することを可能にさせます。

 リトアニアとエストニアはラトビアと緊密に連携して自らの軍事力を拡大を切望していることから、これらの国の間でTB2の共同調達も考えられないことではありません。これによって、コストを節約しながらさらなる統合と情報共有を通じて戦闘能力を拡大できる可能性があります。



インフラストラクチャー

 従来型の作戦機部隊はほとんど保有していないため、現時点でラトビア空軍が使用している空軍基地はたった1つ:リエルヴァーレ基地だけです。

 NATOの作戦により適応するため、この基地は2014年に全面的に改装されており、将来的な拡張に備えた十分なスペースも設けられました。

 (4機のMi-17と数機のAn-2で構成されている)全ラトビア空軍機が駐留していることに加えて、リエルヴァーレ基地にはNATOの航空機(米国の「プレデター」「リーパー」UCAVなど)や地上部隊の定期的な配備もされています。

 敵のラトビアと交戦するための作戦計画にリエルヴァーデ空軍基地をターゲットにすることが含まれている可能性があるため、事前に準備されたハイウェイストリップ(代替滑走路)を使用することは、TB2が作戦飛行を実施するための場所の数を増やすための追加的な方法となる可能性があります。つまり、ラトビアの優れた道路システムは自国やNATO諸国に作戦機の運用に関する豊富な選択肢を提供してくれます。



将来的な可能性

 2021年5月には、バルト三国がMRLシステムの共同調達を通じて、火力支援能力をさらに拡大するというプランが発表されました。[10]

 すでに実証済みの確かな能力と(おそらくは)低い取得コストを考慮すると、アメリカ製のM270「MLRS」がその最有力な候補と思われています。

 しかし、「バイラクタルTB2」を導入する可能性は今や決して現実離れした事柄ではなくなっているため、もう一つの適切な選択肢は、おそらくいっそう費用対効果に優れたものとなるでしょう。

 トルコの「TRRG-230」230mm誘導ロケット弾は、「バイラクタルTB2」によってレーザー照射を受けた標的に命中することができます:レーザー誘導キットをロケット弾に装着することで他の誘導システムの必要性がなくなることから、システムの電子戦に関する耐性が高まると同時に命中精度が大幅に向上します。

 この素晴らしい能力向上弾は、すでにトルコと(2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でTRRG-230を成功裏に使用した)アゼルバイジャンが保有する装備のリストに存在しており、TB2の作戦能力を相当に向上させています。

 トルコのシステムを選択することの潜在的な利点は、単なるTB2と「TRRG-230」MRLとの相乗効果がもたらされる以上のものがあります。

 TRLG-230の自走発射台はモジュール化されているため、ロケット弾ポッドや発射管を交換するだけで、同じ発射台から122mmと300mmのロケット弾を発射することもできるのです。

 モジュール化はシステムの運用上の柔軟性を大いに高め、おそらくは目標を捕捉した直後に適切なロケット弾を選択できるようにし、リアルタイムで正確に調整された砲撃を実現させる可能性があります。

 これらの高度な機能は、M270とその軽量版であるHIMARSには備わっていないことがはっきりとしており、これらは227mmロケット弾かMGM-140「ATACMS」戦術弾道ミサイルだけを発射することに限定されています:後者がバルト諸国に購入されることは起こりそうにありません。



ラトビアの防衛産業との協力

 ラトビアの防衛産業はUAVと小型の哨戒艇の設計・製造で多忙を極めています。

 現在、ラトビアには一つの無人航空機のメーカーが存在しています:2009年に設立された「UAVファクトリー」社は、ラトビア軍や米国の特殊作戦軍(USSOCOM)を含む世界の50以上の顧客のために、2020年までにすでに300機の「ペンギン」UAVを生産したと報じられています。[9]

 さらに、同社はEO/IRセンサーを備えたISR(情報・偵察・監視)用機器、機体、エンジン、その他のUAVに関連するコンポーネントも生産しています。

 ラトビアの下儲け業者が外国企業と調印された主要な防衛事業に関与することは、将来の調達における必要事項であると述べられています。 [10]

 特にバイカル社との取引の場合、これはオーバーホールや修理を行うための現地でのメンテナンス施設の設立につながる可能性があります。

 そのうえ、トルコはオフセット契約で「UAVファクトリー」からEO/IR センサーを備えたISR機器を購入することができ、TB2のモジュール性は「UAVファクトリー」のような企業が独自の機器をUAVに統合することも可能にさせてくれます。

 全てにおいて、これらの動きはラトビアの防衛産業と技術基盤に著しい躍進をもたらすことになるでしょう。



 ラトビアは、21世紀の戦争の新しいパラダイムに入る準備ができているようです。このパラダイムでは、20世紀の機甲部隊は、機動性の高い地上部隊、ATGM、(誘導化された)砲兵戦力、そして(もちろん)UAVの相乗的な相互作用に取って代わられます。

 すでにスパイクATGMと53台の自走砲が運用に入っているのみならず、MRLシステムの導入も計画されており、そしてTB2UCAVを(バルト諸国が共同で)調達する可能性があることから、ラトビアはこの新ドクトリンの実現する道を順調に進めています。

 また、これらの技術を同じNATO加盟国から購入できるという事実も評価されており、他の供給者には欠けているかもしれない品質の保証と一定の追加的なセキュリティをカスタマーに提供します。この一例は、TB2がほぼ毎日ソフトウェアのアップデートと改良を受けているというバイカル社のハルク・バイラクタルCEOの声明によって証明されています。[11]

 しかし、このような漸進的な改善はTB2自体だけに限られたものではありません。

 INS/GPSの導入で「MAM-L」誘導爆弾の射程距離が7kmから14km以上へと飛躍的に延長され、「トール-M2」、9M337 「ソスナ-R」2K22M1「ツングースカ」などのロシアの防空システムをアウトレンジで攻撃できるようになりました。

 この点では、UAV関連の発展はそれ自体に対抗するために設計されたシステムを凌駕していると思われ、作戦上の適応においては過去に登場したどのシステムよりも柔軟性に富んでいることを示しています。

 「アクンジュ」と「バイラクタルTB3」という2つの新しいUCAVシステムだけでなく、バイカル社の「クズルエルマ」無人戦闘機プロジェクトも現時点で進行しているため、
同社の迅速なR&D(研究開発)と生産能力はライバル企業に対する優位性を高めながら、斬新な機能を備えたUCAVファミリーの売り出しを可能にするでしょう。

 これらのことは、このかつての自動車会社が世界の主要な無人機メーカーの一つとしての確固たる地位を確立する場を設け、やがてはバルト諸国の軍事力における決め手の役割を果たす可能性を示唆しています。

TB2の模型を手にして記念撮影するラトビアのアーティス・パブリクス国防相(左)とバイカル・テクノロジー社のハルク・バイラクタルCEO(右)

[1] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[2] Russian Electronic Warfare Systems Cannot Beat Bayraktar UAVs: Baykar https://www.defenseworld.net/news/29086/Russian_Electronic_Warfare_Systems_Cannot_Beat_Bayraktar_UAVs__Baykar#.YMfJ-kxcKUl
[3] Baltic Air Defence: Addressing a Critical Military Capability Gap https://icds.ee/en/baltic-air-defence-addressing-a-critical-military-capability-gap/
[4] First Latvian howitzers arrive from Austria https://eng.lsm.lv/article/society/defense/first-latvian-howitzers-arrive-from-austria.a252167/
[5] Latvia buys the second batch of American self-propelled howitzers M-109A5OE https://en.topwar.ru/183126-latvija-zakupaet-vtoruju-partiju-amerikanskih-samohodnyh-gaubic-m-109a5oe.html
[6] Latvia takes delivery of new Spike missile variants https://www.politicallore.com/latvia-takes-delivery-of-new-spike-missile-variants/21553
[7] Latvia to buy Israeli Spike guided missiles for CVR-T vehicles for €108 million https://www.thedefensepost.com/2018/02/12/latvia-israel-spike-missiles-vehicles/
[8] Baltic states mull joint artillery procurement https://www.lrt.lt/en/news-in-english/19/1417985/baltic-states-mull-joint-artillery-procurement
[9] https://uavfactory.com/en/company
[10] Ministry of Defence strengthens cooperation with domestic military industry https://labsoflatvia.com/en/news/ministry-of-defence-strengthens-cooperation-with-domestic-military-industry
[11] HALUK BAYRAKTAR İNGİLİZ DÜŞÜNCE KURULUŞU RUSI'NIN PANELİNDE KONUŞTU https://youtu.be/jKj-FOMQlNw?t=462

  ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なってい
  る箇所があります。



2021年9月10日金曜日

ティグレ防衛軍:重装備の記録(一覧)



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピア政府と北部のティグレ州との間で勃発した戦争は、エチオピアを混乱に陥れています。この武力紛争は2020年11月から熾烈を極めており、数千人が死亡、数百万人が避難を強いられいる状況にあります。

 エチオピア政府とティグレ人民解放戦線(TPLF)との間で何ヶ月にわたる緊張関係が続いていた後に、情勢が激化して戦争となったのです。

 1974年から1991年までエチオピアに存在していた共産主義・社会主義政権を打倒した後、TPLFは30年近くにわたってエチオピアの権力の中心にいました。エチオピアの人口の約5%しか占めていないにもかかわらず、ティグレ人の役人は政府を支配することができました。

 2014年から2016年にかけて反政府デモが相次いだ後、2018年にアビー・アハメド首相率いる新政権が発足しましたが、アビー首相はTPLFの権力を抑制しようと改革を強行し、ティグレ人を大いに動揺させました。

 それに応えて、ティグレ州は独自の地方選挙を実施して緊張が高まり、緊張は敵意をむき出しにする段階まで高まりました。

 この政治危機は2020年11月にTPLFの部隊がティグレ州のエチオピア軍基地を攻撃したことで、戦争に発展しました。

 おそらく一般的な予想に反して、ティグレの軍隊はかなり多くの戦車や大砲を運用しており、長距離誘導ロケット砲や弾道ミサイルも保有していました。そう、あなたが読んだとおり弾道ミサイルもあるのです。

 反乱軍によって弾道ミサイルが鹵獲されることは目新しいことではありませんが、彼らがそれを使用し始めることはあまり一般的ではありません。さらに稀なことはこれらが完全に別の国を対象として使用される場合ですが、それをまさにティグレ軍が行ったのです。

 弾道ミサイルはティグレ州にエリトリア軍が展開したことに対抗して発射されたと報じられており、ティグレ軍はエリトリアへの攻撃が差し迫っている可能性があると警告した数時間後に、その首都アスマラへ向けて少なくとも3発のミサイルを発射しました。[1]

 同じ頃、(名称がティグレ防衛軍:TDFとなった)ティグレ軍は、ティグレへのエチオピアによる空爆への報復として、バハルダールとゴンダールにあるエチオピア空軍基地に対しても中国製「M20」短距離弾道ミサイル(SRBM)を発射しました。[2]

 2021年9月の時点でTDFはエチオピアへの攻勢を押し続けており、地域をめぐる支配権が双方に行き交っているため、紛争の終わりは未だに見えてきません。

 明らかに自国の運命を変えようと試みて、エチオピアはイランから「モハジェル-6」無人戦闘航空機(UCAV)の調達を開始しました

 イラン、イスラエル中国製のUAV飛行隊が一見して阻止できないTDFの進撃を食い止めるのに十分かどうかは不確かであることから、軍事的な打開を確実なものとするため、近い将来にエチオピアがさらに無人機を導入する状況を目にするかもしれません。

エチオピア・TDFそれぞれの支配地域を示す紛争地域の地図は、ここで見ることができます。この地図は戦争の進行に合わせて更新されます。

        

  1. ティグレ防衛軍が運用していたことが確認された重装備の詳細な一覧は以下のとおりです。
  2. この一覧は入手可能な画像が追加されるに伴い、随時更新される予定です。
  3. この一覧には入手可能な画像や映像などの視覚的証拠で確認された装備だけを掲載しています。したがって、TDFが実際に鹵獲・運用している装備の量はここで紹介されているものよりも著しく多いはずです。
  4. ティグレ州はエチオピア軍が保有する重装備の大部分の本拠地となっており、その大半は2020年11月にティグレ軍の手に落ちましたが、大量の増備がエチオピア軍に奪回されたため、それらはこの一覧に加えることができませんでした。
  5. 全ての重装備が同時にTDFによって運用されているわけではなく、すでに戦闘で喪失したものもあります。
  6. 小火器や迫撃砲、トラックなどはこの一覧に含まれてはいません。
  7. 装備名の後に羅列してある数字をクリックすると、その装備の画像を見ることができます。
一覧の最終更新日:2021年11月19日(Oryx英語版での最終更新日は2021年11月17日)


戦車 (86)


弾道ミサイル発射機 (1)


ロケット砲・弾道ミサイル支援車両 (4)
  • 1 AR2 弾薬運搬装填車: (1)
  •  3 M20/A200 弾薬運搬装填車: (1) (2) (3)


携帯式地対空ミサイル (12)


対空砲 (27)


地対空ミサイルシステム (4陣地に13の発射機. 未使用)


レーダー (7)
  • 1 P-18「スプーン・レストD」: (1)
  • 2 ST86U/36D6「ティン・シールド」: (1) (2)
  • 1 SNR-75「ファン・ソング」 (S-75用): (1)
  • 3 SNR-125「ロー・ブロー」 (S-125用): (1) (2) (3)
 
[1] Ethiopia’s Tigray leader confirms firing missiles at Eritrea https://apnews.com/article/international-news-eritrea-ethiopia-asmara-kenya-33b9aea59b4c984562eaa86d8547c6dd
[2] Two missiles target Ethiopian airports as Tigray conflict widens https://edition.cnn.com/2020/11/14/africa/ethiopia-airport-tigray-intl/index.html

※  当記事は、2021年9月1日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳したも
 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が  
 あります


   
おすすめの記事

2021年9月7日火曜日

覆われたベールを上げる:パキスタンの中国製UCAV



著:ファルーク・バヒー in collaboration with ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 パキスタン軍に中国製の無人戦闘航空機(UCAV)が仲間入りしていることは以前からマスコミの憶測の対象となっていましたが、パキスタンの地にUCAVが存在することを確認できる地上画像はこれまでに公開されていないことから、憶測の度合いがさらに高まっています。

 パキスタンはこれまでに中国から納入されたUCAVの状況を大いに秘匿し続けていますが、オープンソースの調査を通じて大量の情報を見つけることができました。これは現在パキスタンの各軍で運用されている豊富な中国製のUCAVの存在を明らかにしています。

 全国各地にある飛行場の衛星画像でUCAVが発見されていることから、パキスタンが中国製UCAVの組立ラインを立ち上げたという噂が流れています。

 これまでのところ、そのような能力が確立されたことを提示する証拠はなく、現在確認できる証拠からは、パキスタンが近いうちに中国産UCAVを多数の国産システムで補完することを示唆しているように見えます。

 2021年8月、パキスタンがTAI「アンカ」UCAVの一部のコンポーネントを製造してトルコのシステムのさらなる開発に協力することが発表されました。それに伴って、トルコの技術を自国のUAVプログラムに吸収する下地作りがなされるかもしれません。[1]

翼竜 I - パキスタン空軍

 パキスタンで最初に確認された中国製UCAVの目撃は2016年のことであり、ミアンワリ空軍基地の付近に機体が墜落した際にメディアの注目を集め、墜落したUCAVの画像から、「翼竜Ⅰ」が実際にパキスタンに到着したことをすぐに確認することができました。[2]

 2017年と2018年には、ミアンワリ空軍基地を撮影した衛星画像で2機の「翼竜Ⅰ」が発見されました。これは、複数の無人機が評価試験中の状態にあるか、実際にはすでに就役している可能性が高いことを示しています。

 興味深いことに、2019年にはミアンワリ空軍基地の衛星画像で両機が見えなくなり、2年後の2021年2月に再登場するまでの間に何のニュースも発表されませんでした。

 公式な調達情報が公表されていないため、パキスタンのどの軍が「翼竜Ⅰ」を運用しているかは現時点でも不明のままです。とはいえ、パキスタン空軍(PAF)は後に「翼竜Ⅰ」の後継機である「翼竜II」も導入したことから、空軍がその最有力候補と考えられています。





翼竜II - パキスタン空軍

 2018年に、パキスタンが約48機の「翼竜II」をパキスタン航空コンプレックス(PAC)で共同生産する交渉を行っているとインドのメディアによって報じられました。[3]

 このニュースの真偽を確認するPAFからの公式なアナウンスはなく、1年後に判明した事実はそれが誤報であることを明らかにしました。

 しかし、これはPAFが実際に「翼竜II」の入手を思いとどまっていたことを全く意味しておらず、その事実はインドのメディアによって当初予想されていたよりも3年遅れて判明しました。2021年初頭に、PAFが中国航空工業集団(AVIC)に翼竜IIを発注したことが報じられたのです。

 かなりの数の発注があったと思われますが、今のところはパキスタンで「翼竜II」を共同生産する意向はないようです。

 その後の2021年7月には、(以前に「翼竜Ⅰ」を収容していた)ミアンワリ空軍基地で「翼竜Ⅱ」が目撃されました。

 パキスタンが受領した「翼竜Ⅱ」には、幅広い種類の空対地兵装に加えて合成開口レーダー(SAR)が装備されていると伝えられています。

 ミサイルと爆弾を搭載するためのハードポイントを6基備えた「翼竜Ⅱ」は、海軍が海上監視用にリースで運用している2機の「MQ-9B シーガーディアン」以外にUCAVを運用していないインドに対して、PAFに明確な優位性をもたらします。



CH-4B - パキスタン陸軍航空隊・海軍航空隊

 空軍がAVICから「翼竜シリーズUCAVを導入した一方で、陸軍航空隊は中国航天科技集団(CASC)から「CH-4B」UCAVを購入することを選択しました。

 伝えられるところによれば、陸軍航空隊が大量の「CH-4B」を発注して2021年初頭に第1陣の5機がパキスタンに到着したとのことです。

 後に少なくとも4機がバハーワルプール陸軍航空隊基地に配備され、その付近には同航空隊によってUAV専用の訓練空域が設定されました。[4]




 2020年にザファル・マフムード・アッバースィ海軍長官が離任の挨拶で「海軍は洋上任務用に武装UCAVを取得する」と述べたと報じられていたことから、海軍(PN)も武装ドローンの導入を進めていることが知られています。[5]

 そのUCAVは「CH-4B」であることが、この件に詳しい、事実を確認できる立場にある情報源によって明らかにされました。[6]

 これまでにPNの「CH-4B」は目撃されていませんが、2021年半ばにPNのトゥルバット基地でUAVに付随する迅速に展開可能な小型の格納庫が建設されたことは、PNがすでに稼働状態にある「CH-4B」を保有しているか、近い将来にそれらを受領する予定であることを示しています。

 これらは洋上監視用のSARレーダーを搭載しているとみられており、現在この任務で使用されている「P-3 オライオン」を補完することになるでしょう。



 軍事アナリストからすると、パキスタンがこれまで中国製UCAVの入手をいかにしてうまく秘匿してきたのかは非常に見応えのあるものでしたが、それを見つけるために苦心したOSINT研究者の努力も同様に素晴らしいものでした。

 将来的には、この中国製UCAV飛行隊はトルコの支援を受けて開発された独自設計のUCAVで補完される予定ですが、それが実現した際にパキスタンがそれをいかなる形式であれ公式に表明しそうにはありません。

 おそらく10年後には、私たちは衛星画像の中にこれらを探し出すことになり、それはOPSECとOSINTの間の活発なゲーム(攻防戦)が決して退屈にならないことを保障するでしょう。

※今回の記事は @detresfa_氏の協力を得て制作されました。

[1] IDEF 2021: Pakistan's NESCOM to manufacture parts for Anka UAV https://www.janes.com/defence-news/news-detail/idef-2021-pakistans-nescom-to-manufacture-parts-for-anka-uav
[2] Chinese-Made Drone Crashes In Pakistan https://www.popsci.com/chinese-made-drone-crashes-in-pakistan/
[3] Chinese Wing Loong II drones sold to Pakistan https://www.armyrecognition.com/october_2018_global_defense_security_army_news_industry/chinese_wing_loong_ii_drones_sold_to_pakistan.html
[4] Pakistan Takes Delivery of CH-4 Drones from China https://quwa.org/2021/01/23/pakistan-takes-delivery-of-ch-4-drones-from-china-2/
[5] Admiral Zafar Mahmood Abbasi (R) Speech | Pak Nav https://youtu.be/4veP2J6aDTY
[6] Haha like we're going to reveal our sources ;) ※つまり秘密ということです



※  この翻訳元の記事は、2021年9月5日に投稿されたものです。邦訳版は意訳など 
  により、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所がある場合があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読ください。


おすすめの記事

無人機戦の新たな章:「バイラクタル・アクンジュ」が就役した

2021年9月5日日曜日

私たちの本「朝鮮民主主義人民共和国の陸海空軍」が発売されました


著:Tarao Goo(Oryx-ジャパン管理者兼編訳者)

 はじめに
 今年9月3日に、私たちOryxが執筆した朝鮮人民軍に関する本「North Korea’s Armed Forces: On the path of Songun」の邦訳版「朝鮮民主主義人民共和国の陸海空軍」が発売されました。

 この原書は構想・制作に約5,6年を要した北朝鮮の軍隊と装備を題材にした本ですが、当ブログの閲覧者を含む多くの方は、この本や著者について全く知らないと思われます。
 そこで、今回は宣伝を兼ねてこの本や著者について紹介いたします。



 著者はどのような人で何をしている人ですか
 ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズはアムステルダムを拠点に活動するオランダ人軍事アナリスト・ブロガー・ジャーナリストで、紛争の詳細に関する研究や公開情報を分析するオープンソース・インテリジェンス(OSINT)への注力、そして時には無名の軍事史について調査し、人々と共有することに専念しています。

 この2人の著者(以下Oryxと表記)は「Bellingcat」を代表とする調査報道のウェブサイトや軍事情報では著名な「Janes」に記事を寄稿した過去があり、今ではアメリカに拠点を置く北朝鮮専門のニュースサイトである「NK News」に記事を寄稿する一方で、2014年1月からOryxブログで北朝鮮・中東・アフリカ・東欧・中央アジア・未承認国家・テロ組織などに関する軍事・紛争をテーマにした独自の記事を投稿し続けています。

 Oryxブログについては、2016年秋に日本語版(当Oryx-ジャパン)が、2020年秋にはトルコ語版(ツイッターアカウントのみ)が開設され、この種の媒体としては珍しい国際的な広がりを見せています。

 Oryxの独自調査では客観的な分析を行い、他のメディアでは触れられそうにないストーリーを明らかにしています(より広い層の読者に迎合するためにテーマの詳細や正確さを犠牲にすることはありません)。

 Oryxは特に現代の紛争に関する追跡調査に長けており、この数年では「イスラム国が鹵獲したイラクシリア軍の兵器リビア国民軍が外国から得た兵器の一覧」などの視覚的証拠に基づく紛争当事者の保有装備に関する調査や数のカウントが大きく注目されています。

 もちろん、過去から現代に至る多くの紛争の経緯や知られざる一面、現代的な兵器やその現況について詳細に執筆した記事も多く存在しています(特にイスラム国が独自に設立した装甲戦闘車両用の工廠に関する記事は追跡調査能力が遺憾なく発揮されています)。

 追跡調査によってOryxが世界的に大きく注目されたのは2020年のナゴルノ・カラバフ戦争であり、彼らは戦争が勃発したその日から当事国であるアルメニアとアゼルバイジャンが喪失した装備名・数とその原因について分析し、一覧にした画像付きリストを公開しました(この一覧は2021年8月時点でも更新されており、追跡調査の対象であり続けています)。

 そのカウントした数や記事はSNSのみならず「CSIS」など著名なシンクタンクや「星条旗新聞」「ウォール・ストリート・ジャーナル」などのメディアに引用・取り上げられました。

 最近ではタリバンによって喪失した旧アフガニスタン政府軍部隊の装備航空機を一覧化したものが脚光を浴び、「ウォール・ストリート・ジャーナル」「ニューズウィーク」で取り上げられています(後者ではステイン・ミッツアーがインタビューを受けました)。

 現在では、ティグレ戦争で苦戦しているエチオピアが最近になってイランのUAVを導入したという事実を状況証拠などから指摘し、海外で話題となっています。そして対抗勢力であるティグレ防衛軍が保有する装備エチオピア軍が喪失した航空機を視覚的証拠から明らかにし初めています。

 これからのOryxブログは無人機にスポットライトを当てた記事が投稿される予定です。 また、数年前から工作船や日本人拉致事件を含む北朝鮮のスパイ活動をテーマにした本を制作中であり、北朝鮮の軍事的動向への注視も継続しています。


 
 この本に掲載される情報は何ですか
  1. 北朝鮮の軍隊が保有する装備
  2. 北朝鮮が独自に改修・開発した装備
  3. 北朝鮮と外国の軍事協力
  4. その他、同軍隊に関する基本的な情報
  5. 組織形態や運用ドクトリンなど


 この本は既存の書籍と何が違いますか
  1. 現時点で北朝鮮軍が保有する装備について、最新かつ正確な情報が掲載されています 今までも朝鮮人民軍やその兵器に注目した資料は存在しましたが、秘密主義に満ちた金正日時代に執筆されたものが大半であり、情報が不完全でした。また、北朝鮮の軍事に対する注目は核・弾道ミサイル・特殊部隊に集中され、通常兵器は旧式のソ連製や中国製が占めているということもあり、特に詳細に分析されたものは極めて限られていました。
  2. 北朝鮮が保有する独自型の兵器について詳細に分析して公開したは初めての本です (例えば、主力戦車を「T-62の改良型」と簡単に終わらせてはいません。細かな派生型も網羅しています。)
  3. 軍事マニアの間で長年にわたり議論の対象となっていた未確認情報を解決しています 北朝鮮がT-72戦車やMi-24ハインドを保有している、といった噂に対して明確な回答を記載した本はこの本が初めてです(逆に言えば噂に終止符を打ちました)。
  4. 今まで誰も知らなかった情報や既存の資料やインターネットでは決して得られない情報・画像が掲載されています(当然、ネットで検索しても出てこない情報で溢れています)
  5. 世界で初めてイラスト化された装備が多数あります


 この本を執筆した目的・意図は何ですか(著者による解説)
 「『North Korea’s Armed Forces: On the path of Songun』は、北朝鮮ウォッチャーのインテリジェンス・コミュニティにおける混沌とした状況に秩序と一貫性をもたらすことを試みるだけではなく、今までに語られることが無かった兵器システムや近代化プログラムについての情報を大量に提供することによって、北朝鮮の脅威は殆ど存在しないという大いに蔓延している考え方が誤りであることを証明する本です

 北朝鮮の軍隊は朝鮮戦争における決定的ではない停戦から冷戦を通じて現代に至るまでの最も重要な出来事をマッピングしてきました。そして、(私たちは)大量の独自設計の兵器を調査することによって、朝鮮人民軍各軍の現状について特に重点を置きました。

 この本では朝鮮人民軍の多くのプロジェクトや戦術が明らかにされるだけでなく、南北間の命を懸けた突発的な武力衝突と2010年の天安艦沈没や延坪島砲撃などの大惨事に関する今までに無い証拠に新たな光が投げ掛けられるでしょう。

 さらに、朝鮮人民軍各軍の保有装備について最新かつ包括的なリストが含まれており、海軍および航空戦力の数的評価を提供します。
 
 最近導入されたステルス・ミサイル艇、弾道ミサイル潜水艦や主力戦車の系譜から、ほとんど無視されてきた独自の航空機産業まで、事実上すべての独自の兵器システムが広範にわたって論じられています。

 この独占的な本は、70以上の詳細な色つきのアートワークと徹底的な研究と分析を経て作られたさまざまな地図と同様に多くのユニークな画像付きで、その多くは今まで一般の人々には全く見ることがなかったものとなります。
 
 衛星映像の精査、北朝鮮の宣伝放送のチェックとアメリカ国防総省からの情報を慎重に調査することを通じて、朝鮮人民軍各軍の進歩を明らかにしました。

 この本にはほぼ全ての「隠者王国(注:17~19世紀の朝鮮に付けられた名前と閉鎖的な北朝鮮を掛け合わせている)」に関する軍事的功績が含まれており、通常戦と非対称戦の両方における北朝鮮の能力の正確なイメージを提供します。

 この本は特に北朝鮮の軍事力に関心を持っている人や、矛盾した主張とこの閉鎖的な国家についての現在のインテリジェンスを構成する誤った情報の『地雷原』によって提起された多くの疑問に対する答えを探す人のために書かれました。」



 基本的な情報について(人名の敬称略)
  1. 発売日:2021年9月3日(原書は2020年9月24日)
  2. 著者:ステイン・ミッツアー & ヨースト・オリーマンズ
  3. 日本語版監修:宮永忠将
  4. 翻訳:村西野安・平田光夫
  5. 編集:スケールアヴィエーション編集部
  6. 企画・編集:株式会社アートボックス
  7. デザイン:海老原剛志
  8. イラストレーター(兵士):Adam Hook
  9. イラストレーター(陸上装備):David Bocquelet
  10. イラストレーター(航空機):トム・クーパー
  11. イラストレーター(艦船):Anderson Subtil
  12. 言語:日本語
  13. サイズ:A4サイズ
  14. ページ数:240ページ
  15. 収録画像数(カラー):429枚
  16. 収録画像数(モノクロ):29枚
  17. 収録イラスト数:68点
  18. 価格:5200円(原書は6100円)
  19. 出版社:株式会社 大日本絵画(原書はイギリスのHelion&Company社