2023年12月3日日曜日

知られざるUAV大国:ベラルーシの軍用無人機(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 2010年代初頭における国際的な無人航空機(UAV)市場の成長に駆り立てられたベラルーシは、幅広い種類のUAVの開発を進めてきました。しかしながら、ベラルーシは装甲戦闘車両(AFV)や地対空ミサイル(SAM)の輸出国として成功しているにもかかわらず、海外の顧客はこれまでUAVの調達先として同国を大きく避けています。

 現時点でベラルーシのUAVの運用が確認されている国はトルクメニスタンだけで、同国ではライセンス生産もしています。エジプト、エクアドル、ベトナムと、ベラルーシ製UAVに関する協力と将来的な生産についてさらなる取引が締結されましたが、今までのところ、これらのどの国もベラルーシ製UAVを実際に運用するための配備がなされるまでには至っていません。[1] [2]

 ベラルーシは精密誘導爆弾(PGM)を搭載した無人戦闘航空機(UCAV)から射程70kmの徘徊兵器、さらには「スカイミュール」と呼ばれる配送用UAVなど、さまざまな種類のUAVを売り込んでいますが、ドローン市場が飽和状態にあり、ベラルーシのUAVの大部分がまだ実証されていないシステムだという事実が、この国のドローンが国際的に認知されていない大きな要因と考えられます。

 それでも、トルコや中国のUCAVを(すでに非常に低価格であることが多いとはいえ)価格や政治的理由で調達できない国にとって、ベラルーシの無人機技術はいつの日か入手可能な選択肢となる可能性があります。

 ベラルーシは数多くの国産無人機と共にロシアから導入した数種類の無人機も配備しています。これらのUAVの大半は、2010年にベラルーシの無人機運用の拠点となった旧「MiG-29」の基地:ベリョザにある第927UAS訓練・応用センターで運用されています。

 当初の第927センターは(基地に住んでいた犬の「Technar」とともに)同基地に常駐していた旧「MiG-29」部隊の軍人だけで構成されていましたが、後に専門的な要員のみを採用することによって、より専門的な性格を帯びるようになりました。[3]

 第927センターが配備している主なUAVは、「ブセル(ロシアの「オルラン-10」のライセンス生産品)」とスーパーカム「S100」と「S350」で後者もロシアのものですが、同国で運用されている残りの機種をベラルーシで開発されたUAVが占めています。

 偵察手段の提供に加えて、もう一つの重要な任務としては、第336ロケット砲兵旅団の「BM-30 "スメルチ"」多連装ロケット砲(MRL)と「ポロネズ(-M)」誘導式MRLの目標捕捉が挙げられます。UAVをこれらのロケット砲兵システムと効率的に統合することで、目標に対する効果を最大限に高めることが可能です:つまり、UAVは現在の陸軍部隊が使用できる多くの兵器システムの戦力増強のような性質を有しているのです。

強化シェルター内の第927UAS訓練・応用センターの「ブセル(オルラン-10)」無人偵察機用地上管制ステーション(ベリョザ空軍基地にて)

 第927センターとベラルーシ全軍の部隊は偵察や目的探知用のUAVを配備している一方で、UCAVや徘徊兵器はまだありません。

 「ブレヴェストニク-MB」UCAVは、2年に1度の戦勝記念パレードに頻繁に登場しているものの、実際には軍の装備としてではなく自国の防衛産業の製品として展示されています。

 それでも、このような戦力を実際の運用に導入したいというベラルーシの意向は何度も表明されてきました。[3]

 想定されるタイプとしては、「ULA-70/1ULA-100/200 "グリフ-100 "」「ヤストレブ」、あるいは中国が開発した「ポロネズ(-M)」MRLと同様の方法でベラルーシで組み立てられる中国製大型UCAVだけでなく「アヴィアテック・システムズ」がすでに国内で組み立てている多数の中国製小型ドローンであると思われます。

 主翼に8発の「ULA-70/1ULA-100/200」誘導爆弾を搭載した「グリフ-100」UCAV:同機の手前に名称不明の誘導爆弾が展示されていることに注目 

 その他の国産武装無人機のほとんどが実用化される可能性は非常に低いと思われます。そうしたプロジェクトには、無人攻撃ヘリコプターの「バー」と)下の画像の)「ハンター」も含まれています。

 もう一つの異色な機体は、ハンガリーの「マグヌス」社製「フュージョン212」軽飛行機の機体をベースにした「MF-212」UCAVです。この巧妙な機体には有人型も存在し、共に「R-60-NT-T」空対空ミサイル(AAM)または「R-60-NT-L」レーザー誘導式空対地ミサイル(AGM)を最大で2発、あるいは無誘導爆弾を2発搭載可能となっています。

 有人機型でも非常に型破りですが、同型はナイジェリア陸軍から3機の発注を受けたと報じられました。[4]

「ハンター」ヘリコプター型UCAVは胴体に「PKT」7.62mm機関銃を装備しているほか、スタブ・ウイングに8発のS-8無誘導ロケット弾用ポッドを搭載可能:「ハンター」はまだビジネス面で成功を収めていない

「MF-212」UCAV (画像は有人型) は最大で2発の「R-60-NT-L-T/L」AAM/AGMか無誘導爆弾を搭載可能:無人型が発注される見込みはないようだ

 UCAVの能力を最大限に発揮させるために多種類の兵装も開発されており、これらには誘誘・非誘導爆弾のみならず妨害装置が含まれています。こうした開発品の中では、「UPAB-08」滑空(誘導)爆弾、「KAB-05」誘導爆弾、そしてまだ名称が公開されていない誘導爆弾が最も有望と思われます。

 興味深いことに、ベラルーシはUCAVから使用するための膨大な数の無誘導爆弾を開発したようです。このことは隣国ロシアの動向を反映しているかもしれません。実際、ロシア最大のUCAVとロイヤルウイングマンは「(O)FAB」無誘導爆弾や「RBK-500U」クラスター爆弾さえも搭載するように設定されており、UCAVとしては確かに驚くほど非効率な任務を想定されているのです。[5]


ベラルーシの防衛企業によって開発された誘導爆弾(上)と無誘導爆弾(下)

  1. この一覧は、ベラルーシの無人航空機及びその兵装を包括的に網羅することを目的としています。
  2. アポストロフィー内の部分は、他の呼称や非公式な呼称です。
  3. 一覧の合理化と不必要な混乱を避けるため、ここには軍用レベルの無人機のみを掲載しています。
  4. 各機及び兵装の名前をクリックすると、ベラルーシにおける当該装備の画像を見ることができます。

無人偵察機 - 運用中
無人偵察機 - 試作 / 未採用


無人戦闘航空機 - 試作 / 未採用


徘徊兵器 - 試作 / 未採用
ヘリコプター型UAV - 試作/ 未採用
垂直離着陸型UAV - 試作 / 未採用


外国で運用中のベラルーシ産UAV

[1] Belarus, Egypt sign $1m contract to make drones https://eng.belta.by/economics/view/belarus-egypt-sign-1m-contract-to-make-drones-128348-2020/
[2] Belarus, Ecuador to set up joint laboratory for unmanned systems https://www.suasnews.com/2013/12/belarus-ecuador-to-set-up-joint-laboratory-for-unmanned-systems/
[3] Белорусская беспилотная авиация: слабакам здесь не место https://sputnik.by/20201212/Belorusskaya-bespilotnaya-aviatsiya-slabakam-zdes-ne-mesto-1046373601.html
[4] https://twitter.com/Jakepor21/status/1579449289788780545
[5] Too Little, Too Late - A Guide To Russia’s Armed Drones https://www.oryxspioenkop.com/2022/10/too-little-too-late-guide-to-russias.html

風変わりな見た目が特徴の「サールィチ」徘徊兵器

※  当記事は、2022年10月30日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも
  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
  あります。


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2023年11月26日日曜日

コーカサスの風変わりなAFV:アルメニアの「BMP-1-ZU」


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 自国軍の戦闘力を向上させるというアルメニアの試みは、小型軽量な多連装ロケット砲から塹壕の安全な場所で発射可能な遠隔操作式の機関銃、さまざまな種類のドローン、さらには対戦車ミサイル(ATGM)の脅威から戦車を守る赤外線ダズラーまでのあらゆる装備の設計・生産という形で具現化されてきました。[1] [2]

 これらの大部分については、 アルメニア軍が何十年にもわたって激しい紛争で戦っていたにもかかわらず全く注意を向けられなかったという事実と生産数が少なかったという結果として、無名のままとなってしまっていました。

 アルメニアは自国軍の現代化と戦力を拡大するための独自の解決策を考え出すことに創意工夫を凝らしているものの、機甲部隊の強化には比較的僅かな努力と資源しか費やしていません。

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアルメニアは44日間の戦闘で250台以上の戦車を失い、徘徊兵器・「スパイク」ATGM・UCAV(無人戦闘航空機)に直面した大規模な機甲戦の無益性が実証されましたが、それはアルメニアがこれまで力を入れてきた努力の結果だったとも言えるでしょう。[3]

 2020年の戦争でこうした戦略が大敗に終わってから 2 年以上も経過した現在でさえ、アルメニア軍は従来の作戦プランから全く脱却できていません。[3]

 実施された数少ない装甲戦闘車両(AFV)の能力向上プロジェクトの1つとして、「MT-LB」汎用装軌装甲車の大半にユーゴスラビア製の 「M55」20mm三連装対空機関砲、まれに「ZU-23」23mm対空機関砲、さらには「AZP S-60」57mm対空機関砲を搭載するという火力支援車への改修事業があります。

 その偏在性と現代の戦場では見当違いな存在だったため、対空機関砲を装備した「MT-LB」は2020年の戦争で少なくとも40台が失われました。この40台のうち、約12台が「バイラクタルTB2」に、2台が「スパイク-ER」ATGMに撃破され、残る26台が鹵獲されています(注:ナゴルノ・カラバフにおける対空戦闘での有効性は低かったとしても、対地攻撃で一定の効果を発揮することは世界各地の紛争で実証されています)。 [2]

 数多くのDIY的な近代化を試みる対象となったもう1種類のAFVが、おなじみの「BMP-1」歩兵戦闘車(IFV)です。航空機やヘリコプターから取り外したロケット弾ポッドや三連装の「9M14M "マリュートカ"」ATGM用発射機の搭載による「BMP-1」の戦闘能力を向上させる最初期の試みは、第一次ナゴルノ・カラバフ戦争(1991~1994年)で大いに活用され、1990年台後半か2000年代初頭のどこかの時点でアルメニアの技術者によってより複雑な近代化をもたらすことに至らせました。

 この記事で「BMP-1-ZU」と言及する改修型は、「ZU-23」と「ZSU-23」から取り外された2門の23mm機関砲を搭載するという改修を受けた多数の「BMP-1」を指します。

 イランとギリシャが 「BMP-1」の「2A28」73mm低圧砲を搭載した砲塔を装甲で覆われた「ZU-23」へと換装したのに対して、アルメニアの技術者は73mm砲の上へダイレクトに機関砲を搭載するという気の利いた方法を考案しましたが、砲の上にあるレールからのATGM発射能力を失うという唯一の代償も伴いました。

 この結果として生み出されたのが、IFVとレーダー未装備の自走対空砲(SPAAG)の機能を組み合わせた装甲戦闘車両でした。


 23mm機関砲はヘリコプターや低空飛行する航空機に対して一定の有効性を持つものの、2020年の戦争でアゼルバイジャンのUCAVや長距離ATGMを搭載した攻撃ヘリ、そして徘徊兵器の脅威に対処するには完全に不十分であることが判明したのが明らかとなっています。

 もちろん、「BMP-1-ZU」が改修されたのは、アルメニア軍にとっての空の脅威が無誘導爆弾や無誘導ロケット弾で武装した(「Su-25」などの)低空を飛行する航空機やヘリコプターしかなかった時代であることを覚えておくべきでしょう。

 また、23mm砲の仰角が低いため、「BMP-1-ZU」は(何とかして敵を射程内に入れた場合に)友軍への火力支援を実施するという副次的な役割も果たすことが可能となっています。

 IFVと対空自走砲を組み合わせるというアルメニアの解決策は素晴らしいものでしたが、「BMP-1」に対空機関砲を搭載するという単純な作業にしては、その運用方法が非常に面倒な解決策にもなってしまいました。なぜならば、砲塔内部から機関砲を操作する仕組みのため、砲手の作業負荷が大幅に増加してしまったからです。つまり、砲手は73mm低圧砲と「PKT」 7.62mm同軸機銃に加えて対空機関砲も操作する必要が生じたというわけです。

 機関砲弾は通常ならば「ZU-23」専用の40発入りの弾薬箱2個に収められているものですが、「BMP-1-ZU」では砲塔の周囲に沿って設けられたケースに入れられたベルトリンクから砲に装弾される方式になったため、弾詰まりが大幅に生じやすくなっています 。

 創意工夫の結果としてこの非常に巨大な車両が誕生したわけですが、その複雑さは堂々たるものである一方で驚くほど実用性に欠けるものでもありました。


 「BMP-1-ZU」は、(現在のアルメニアでアルツァフ共和国と呼ばれる)ナゴルノ・カラバフに配備されているアルメニア軍によって使用されていたようです。

 首都ステパナケルトで行われたアルツァフの戦勝記念パレードに参加する目的で、「BMP-1-ZU」は(アルメニア国旗に白い逆「く」の字状の模様が加わえられた)アルツァフの国旗と紋章で装飾されたことがありました。このマーキングはパレード後もしばらくの間は残っていましたが、2020年の戦争でアゼルバイジャンによって鹵獲された1台の「BMP-1-ZU」では消えている状況がはっきりと分かります(注:新たにデジタル・パターン状の迷彩塗装が施されるに伴って塗りつぶされたのかは不明)。

「BMP-1-ZU」は「ZSU-23」自走対空砲から取り外された2門の「2A7」23mm機関砲を搭載した派生型である

 アルメニアで依然として運用されている少数の火力増強型「BMP-1」は、ナゴルノ・カラバフをめぐる新たな紛争が機械化部隊による大規模な戦闘から成ると考えられていた過去を思い出させる存在として、今後も引き続いて運用される可能性が高いでしょう。

 この風変わりなAFVは次第に戦われる可能性が年々低くなった紛争のために考え出されたものですが、それでもアルメニアの技術者の創造力と海外から調達した装備に依存せずに独自の解決策を見出す能力を示しています。

 この種の創意工夫が、今後10年間におけるアルメニア軍の再建に重要な役割を果たすのではないでしょうか。


[1] Trench Warfare Revisited: Armenia’s Indigenous Remote-Controlled Armament https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/trench-warfare-revisited-armenias.html
[2] Shoot-And-Scoot: Armenia Designs New Lightweight MRL https://www.oryxspioenkop.com/2021/07/shoot-and-scoot-armenia-designs-new.html
[3] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した

2023年11月23日木曜日

新たなる抑止力: パキスタンの「ファター」多連装ロケット砲


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

2021年8月24日、パキスタンは新たに開発された「ファター-1」誘導式多連装ロケット砲(MRL)の発射実験に成功しました。[1]

 今回の試射(映像)は、2021年1月に実施された弾体の飛行試験の成功に続くものですが、現実的な状況下でその機能と精度を証明した今回の射撃は、このシステムが量産されてパキスタン軍に仲間入りする前の最終テストだったのかもしれません。

 「ファター-1」はこの種の兵器では初めてパキスタン軍に採用されたものであり、同軍の精密打撃能力を大幅に向上させるでしょう。これはパキスタン軍自身によっても再確認されており、「この兵器システムは、パキスタン陸軍に敵領土の奥深くにある目標との正確な交戦能力を与えるだろう」と言及されています。[2]

 「ファター-1」は140kmの射程距離で約30~50mのCEP(半数必中界)と推測されているため、誘導方式には慣性誘導とGPS誘導を採用している可能性があります。

 パキスタンと中国の緊密な軍事関係を考慮すると、このMRLの設計が中国由来と考えるのも無理はありません。それにもかかわらず、ロケット弾用のキャニスターと140kmという射程距離は現時点で市場に存在しているか開発中である既知の中国製システムとは一致していないことから、「ファター-1」はパキスタンの技術者によって(おそらく中国の協力を得て)開発された、「A-100」無誘導ロケット砲の発展型である可能性が十分に考えられます。

 パキスタンは通常または核弾頭を搭載できる弾道ミサイルや巡航ミサイルを数多く開発・導入してきましたが、「ファター-1」の開発は同国陸軍の通常戦力を強化するための理にかなった次の措置と言えます。敵の部隊や基地に集中砲火を浴びせるための無誘導型MRLシステムが大量に運用されている一方で、指揮所や要塞化された陣地のようなより小さな標的を狙うには、まったく異なるアプローチが必要となるからです。

 「ファター-1」の140kmという射程距離は、世界中で運用されている(大抵は最低でも200km以上の射程距離がある)同世代のMRLシステムをはるかに下回っていますが、それでもインドの誘導型MRLシステムの射程距離をはるかに上回っています。

 インド陸軍が現在運用している「ピナカ」MRLは、最大で75kmの射程距離を持つ誘導ロケット弾を発射する能力があります。このMRLでは最大射程距離が95km以上に達する発展型が開発中とも言われていますが、それでも「ファター-1」の射程距離には全く及びません。[3][4]

 一旦就役すれば、「ファター-1」はパキスタン陸軍の作戦上の柔軟性を高めることに貢献するでしょう。同国陸軍では大量の大口径の無誘導型MRLと短距離弾道ミサイル(SRBM)が運用されていますが、「ファター-1」は能力的に両システムの中間に位置しています。

 これまでパキスタン軍は長距離に位置する小さな標的を攻撃するために無誘導ロケット弾の一斉射撃や巡航ミサイル、そして弾道ミサイルに完全に依存していました。しかし、この方法では得られる効果が少なく、同時に非経済的であることを想像するのは難しいことではないでしょう。

パキスタンの「A-100」MRL。「ファター-1」には誘導装置が組み込まれているため、無誘導のMRLシステムよりもはるかに高い命中精度をもたらします。

「ハトフ-2(アブダリ)」のような戦術兵器システム・短距離弾道ミサイルは「ファター-1」に比べて弾頭重量が大きいものの、命中精度が低いのが特徴です。この2つのシステムがパキスタン陸軍に存在することで、作戦上の柔軟性が大幅に向上します。

 将来的に開発が見込まれるものとしては、「ファター」のロケット弾をU(C)AVが照準した標的に命中させることできる精密誘導弾に変えるためのレーザー誘導キットを導入することが考えられます。この種のキットはすでにトルコとアゼルバイジャンの「TRG-230」MRLに導入されており、UAVとMRLの両方の能力を大幅に向上させています。

 まさにこの種の(UAVによる)偵察と精密誘導弾の相乗効果がナゴルノ・カラバフ戦争でゲームチェンジャーとなったことを証明しており、アゼルバイジャン軍はアルメニアの標的に何が直撃するのか気づかれることなく攻撃することができたのです。


 「ファター-1」の導入は、パキスタンの従来型ロケット砲部隊の一部がすぐにインドの全MRLを高精度でアウトレンジできるようになることを意味します。このことは、この地域における通常戦力のバランスをすでにパキスタンの有利になるように著しく覆していますが、パキスタンは「ファター」シリーズの開発の継続を通じてその射程距離を伸ばすことでその地位をさらに固めることができるでしょう。

 実際、パキスタンでは少なくとも200km以上の射程距離を備えている可能性がある、新システムの開発がすでに本格化している兆候がいくつか存在しているようです。

 編訳者注:2023年7月下旬にイスタンブールで開催された武器展示会「IDEX2023」で、出展したメーカーのGIDS社が「ファター-1」と「ファター-2」を展示しました。前者については上述のスペックどおりですが、後者については詳細不明です。[5]


特別協力: ファルーク・バヒー氏

[1] https://twitter.com/OfficialDGISPR/status/1430132439859580929
[2] Pakistan conducts successful test of 'indigenously developed' Fatah-1 guided MLRS: ISPR https://www.dawn.com/news/1642376
[3] No request for the development of Extended range Pinaka MRLs https://idrw.org/no-request-for-the-development-of-extended-range-pinaka-mrls-sources/
[4] India tests enhanced version of rocket used by Pinaka MRL
[5]IDEF 2023: GIDS Pakistan Presents Various Equipment Including FATAH Guided Multi Launch Rocket System
https://www.armyrecognition.com/defense_news_august_2023_global_security_army_industry/idef_2023_gids_pakistan_presents_various_equipment_including_fatah_guided_multi_launch_rocket_system.html

※  当記事は、2021年9月8日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ 
    ります。



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