2023年4月4日火曜日

不都合な事実:アゼルバイジャンに武器を販売したイスラエルへのアメリカ連邦議会議員の姿勢

「ハロップ」の隣で撮影に応じるアゼルバイジャンのアリエフ大統領

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 イスラエルはアゼルバイジャンにとって武器・装備類の最大のサプライヤーであり、その規模は2016年から2020年までの期間におけるアゼルバイジャンの主要な武器輸入量の実に69%を占めています。[1] [2]

 この数字は2020年のナゴルノ・カラバフ戦争が終結後、さらに増加したと思われます。なぜならば、アゼルバイジャンがこの戦争でかなりの部分を消費してしまった備蓄分の弾薬を戦中と戦後に補充する必要があったからです。[3]

 トルコは頻繁にアゼルバイジャンに対する主要な軍需品の輸出国と思われていますが、2011年から2020年までのアゼルバイジャンの主要武器輸入量でトルコが占める割合は僅か2.9%でした。[4]

 アゼルバイジャンのアルメニアに対する目を見張るような勝利を確実にする上で決定的な役割を果たしたにもかかわらず、イスラエルによるアゼルバイジャンへの武器売却については、アメリカ議会上院にいる忠実なアルメニア支持者たちによって都合よく無視されてきたようです。

 これとは正反対に、アメリカ上院議員(ロバート・メネンデス氏)と下院議員(デイビッド・シシリーヌ氏、ガス・ビリラキス氏)は、トルコのアゼルバイジャンに対する軍事支援を積極的に批判しています。

 彼らの努力によって、トルコによる武装ドローンの輸出が武器輸出管理法(AECA)に違反しているかどうかを明らかにし、「危険で、不安定化要因であり、平和と人権にとっての脅威」であるかどうかも評価するために、同国はアメリカ政府による調査の対象となるでしょう。[5] [6] [7]

 なぜこれらの議員たちがナゴルノ・カラバフ掌握のためにアゼルバイジャン軍を支援したイスラエルの役割に対する調査の要求をしなかったのかという疑問については、おそらく、ビリラキス氏がアメリカ議会内のギリシャ・イスラエル同盟を創設した共同議長であり、シシリーニ氏のウェブサイトに掲載されている米・イスラエル関係に関するページが同国に対する氏の温かい感情を明確に表現しているという事実がその答えとなるでしょう。[8]

 そして、ロバート・メネンデス氏は「おそらく上院で最も熱心なイスラエル支持者である民主党議員」と呼ばれています。[9]

 (紛争の介入といった)暴力行為や武器輸出を独占している国は存在しないため、この問題からは政治的・(イスラエルへの)優遇措置的な匂いが感じられます。

 イスラエルによるアゼルバイジャンへの武器輸出には、徘徊兵器から長射程の「スパイク」対戦車ミサイル(ATGM)、ミサイルを搭載した哨戒艇(OPV)、さらには「LORA」弾道ミサイルまでのあらゆる武器が含まれています。[10]

 また、イスラエルはEU諸国から注文された兵器の荷受人として動くことで、OSCEからアゼルバイジャンに課せられた武器禁輸措置を回避するために同国を何度か手助けもしました。イスラエルが受け取った兵器は、後に外交特権の下で活動する「シルクウェイ・ウエスト航空(注:アゼルバイジャンの航空会社)」の「IL-76」や「ボーイング747」貨物機に積載されてアゼルバイジャンに空輸されたのです。[11]

 アゼルバイジャン軍において、UAVほどイスラエル製兵器の存在が明白になっている種類の兵器は無いでしょう。同国で運用されている20種類のUAVのうち、18種類(90%)がイスラエルのものであり、トルコ製は僅か2種類(10%)です。

 また、イスラエル製UAVの6種類は、弾頭を備えて標的に突入する徘徊兵器です。

 アゼルバイジャン国内(「アザド・システムズ」と呼ばれる合弁会社)で生産されているイスラエルのドローン5機種を別にしても、トルコの機種はアゼルバイジャンが保有するドローンの15%にしか過ぎません。

アゼルバイジャン陸軍で運用されている「LOLA」弾道ミサイル

  1. この一覧を作成した目的は、現時点でアゼルバイジャン軍が運用しているイスラエルの武器類をリスト化することにあります。
  2. 各武器類の名前をクリックすると、アゼルバイジャンで運用されている当該武器の画像を見ることができます。

小火器


装甲戦闘車両(AFV)


(対戦車) ミサイル


無人偵察機


徘徊兵器


自走砲


(無誘導型) 多連装ロケット砲


(誘導型) 多連装ロケット砲


弾道ミサイル
  • LORA [射程: 430km] [CEP: 10m]


地対空ミサイルシステム(SAM)


レーダー


艦艇

[1] Did Azerbaijan’s use of Israeli weapons make the war worse or better? https://www.jpost.com/international/did-azerbaijans-use-of-israeli-weapons-make-the-war-worse-or-better-662442
[2] Arms transfers to conflict zones: The case of Nagorno-Karabakh https://www.sipri.org/commentary/topical-backgrounder/2021/arms-transfers-conflict-zones-case-nagorno-karabakh
[3] Israel sending weapons to Azerbaijan as fight with Armenia rages on: Sources https://english.alarabiya.net/News/world/2020/10/01/Israel-sending-weapons-to-Azerbaijan-as-fight-with-Armenia-rages-on-Sources
[4] Arms transfers to conflict zones: The case of Nagorno-Karabakh https://www.sipri.org/commentary/topical-backgrounder/2021/arms-transfers-conflict-zones-case-nagorno-karabakh
[5] An Analyst’s Perspective: Cicilline and Bilirakis’ Turkish Drone Letter Rebuked https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/an-analysts-perspective-cicilline-and.html
[6] US Senators file amendments to hold Azerbaijan and Turkey accountable https://en.armradio.am/2021/11/04/us-senators-file-amendments-to-hold-azerbaijan-and-turkey-accountable/
[7] Top US senator introduces amendment to track US drone parts to Turkey https://www.middleeasteye.net/news/top-us-senator-introduces-legislation-track-us-drone-parts-turkey
[8] Foreign Affairs https://bilirakis.house.gov/issues/foreign-affairs
[9] Pro-Israel Senator Menendez Issues Rare Rebuke Over Gaza Media Offices Strike https://www.haaretz.com/us-news/.premium-pro-israel-senator-menendez-issues-rare-rebuke-over-gaza-media-offices-strike-1.9811952
[10] Azerbaijan’s Emerging Arsenal Of Deterrent https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/azerbaijans-emerging-arsenal-of.html
[11] Czech Weapons in Azerbaijan: How a Chassis Turned into a Howitzer https://www.investigace.eu/czech-weapons-in-azerbaijan-how-a-chassis-turned-into-a-howitzer/

  翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
    があります。



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2023年4月1日土曜日

艦載機の有力候補:「バイラクタルTB3」がインドネシアへ?


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
 
 「バイカル・テクノロジー」社製UCAVを導入したいということを表明したインドネシアの意思は、いつの日か空母やLHD(強襲揚陸艦)からも運用できる、TB2の重量型として設計された「バイラクタルTB3」に関心を示すことに至るかもしれません。

 インドネシア海軍はすでに、「ディポヌゴロ」級コルベット「フランス・カイシエイポ」のヘリ甲板から国産UAV「LSU-02」離陸させる実験を行っています。この実験は艦艇からの離陸のみであって海軍艦艇にUAV運用能力があることを示すものではありませんが、この実験はインドネシアがVTOL型に加えて艦載型の固定翼式UAVの運用に興味を持っていることを明確に示しているように思われます。

 現在、インドネシア海軍は病院船として建造された2隻を含めて計6隻のLPD(ドック型輸送揚陸艦)を運用しています。LPDの3隻は、国営造船所である「PT PAL インドネシア」「マカッサル」級揚陸艦を設計した韓国の「大鮮造船所」と協力し、同揚陸艦の建造ライセンスを得て導入されたものです(注:最初の2隻は韓国で、残りの3隻は国内で建造されました)。2014年6月には、「PT PAL」はフィリピン海軍に2隻のLPDを納入する9200万ドルの契約に署名しました。[3]

 西側諸国における現代艦艇で標準とされるシステムの多くは搭載されずに納入されてはいますが、「マカッサル」級の約4500万ドル(約57億円)という低価格は、インドネシアやフィリピンなどの国にとって実際に経済的な面で入手可能な船であることを意味しています。

 現在、インドネシア海軍は今この先の10年で数隻のヘリコプター揚陸艦(LPH)を調達する意図があると考えられています。 2018年に「PT PAL」は、インドネシア海軍に売り込まれるLPHのベースとなる可能性が高い全長244mのLPHの設計案を公表しました。[4]

 トルコの232mを誇る「アナドル」級LHDと同様に、このLPHはヘリコプターや大型U(C)AVを飛行甲板やハンガーに移動できる大型の後部エレベーターを備えています。「バイラクタルTB3」は当初から空母やLPHからの配備を前提にして設計されているため、その設計の変更をほとんど要せずにインドネシアのLPHで運用可能と思われます。

 TB3は小型で翼が折りたたみ式のため、相当な数を対潜ヘリコプターや他のドローンと一緒に艦載できることから、 インドネシアに初の(無人機)空母をもたらす可能性を秘めていることは言うまでもありません。

インドネシアが構想している244メートル級LPHのイメージ図
 
 「バイラクタルTB3」は280kgのペイロードを搭載しつつ、最大で24時間の滞空が可能です。このペイロードは射程30km以上の「MAM-T」を含む最大で6発の「MAM」シリーズ誘導爆弾や敵のUAV・ヘリコプターを攻撃可能な「サングル」空対空ミサイル、海上捜索レーダー、あるいはそれらの組み合わせで成り立っています。[5] 

 これによって、TB3は敵艦との交戦や上陸作戦の支援、海上監視を行うことが可能となっているのです。

 インドネシアのLPH(LPDと同様に)は低価格が見込まれているため、TB3の導入と組み合わせた場合、これらがインドネシア海軍に全く新しい可能性を切り開く可能性があるでしょう。

  その意味では、ヘリ甲板からUAVを離陸させるだけでは、戦力投射能力を格段に向上させることができるLPHからの真のUCAV運用能力には遠く及びません。

「フランス・カイシエイポ」のヘリ甲板から「LSU-02」が発艦した直後のカット

 以前、タイが「HTMS チャクリ・ナルエベト」によってこの地域に空母をもたらすことを試みましたが、同艦の「AV-8S "ハリアー"」は資金不足のため後継機がないまま退役し、今では全長183mの無用の長物と化してしまいました。現在、タイ海軍は運用するのに十分な数のヘリコプターと無人偵察機を保有していないのにもかかわらず、同艦はヘリコプターと無人偵察機用空母としての役割を担っています。

 つまり、「HTMS チャクリ・ナルエベト」は野心が現実に負けた一例であり、必要なアセットがないままプラットホームが取得されてしまった状況を明らかにしているのです。

 このような観点から、共に安価なLPHと「バイラクタルTB3」を調達することは、より費用対効果が高く、リスクの少ない固定翼式洋上偵察・武装アセットを導入する方法であるといえます。もしTB3の成功が証明され、将来的にジェットエンジンを搭載した「バイラクタル・クズルエルマ」UCAVを導入して戦力を拡大するならば、可能な限り低い投資額と引き換えに、インドネシアが現代の海上戦力の最前線にとどまることを保証することになるでしょう。

「バイラクタル・クズルエルマ」無人戦闘攻撃機


[1] Indo Defence 2022: Baykar in talks with Indonesian government on Bayraktar TB2, Akinci UAVs https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indo-defence-2022-baykar-in-talks-with-indonesian-government-on-bayraktar-tb2-akinci-uavs
[2] https://i.postimg.cc/FR8hbv3T/854.png
[3] Philippine Navy Commissions New Ships in 118th Anniversary Celebration https://thediplomat.com/2016/06/philippine-navy-commissions-new-ships-in-118th-anniversary-celebration/
[4] https://i.postimg.cc/gkBHvBTn/776.jpg
[5] BAYRAKTAR TB3 https://baykartech.com/en/bayraktar-tb3/


※  当記事は、2022年11月8日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳    
 したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
 箇所があります。