2023年4月20日木曜日

燃え上がるスーダン:「2023年スーダン紛争」で失われた兵器類一覧


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ と  Elmustek

  1. この記事に掲載された一覧のねらいは、"(仮称)2023年スーダン危機" で生じた兵器類の損失を包括的に網羅することにあります。
  2. ほかの一覧と異なり、当一覧では損失した兵器類の所属がスーダン国軍と即応支援部隊(RSF)にあるかは区別していません。
  3. 鹵獲された兵器類や(撃破された)テクニカルは、当一覧には含まれていません。
  4. この一覧は、新たな損失が確認され次第に更新される予定です。
  5. この武力衝突で損失が確認された(民間機を含む)航空機の損失一覧については、こちらで詳しく集計しています。
  6. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、撃破や損傷を受けた当該兵器類の画像を見ることができます。


戦車 (21, このうち撃破: 21)


歩兵戦闘車 (7, このうち撃破: 7)


装甲兵員輸送車(7,このうち撃破:7)

歩兵機動車 (6, このうち撃破: 6)


自走砲(11,このうち撃破:11)


航空機(20, このうち撃破・墜落: 18, 損傷: 2)


無人戦闘航空機(2, このうち墜落: 2)

※  当記事は、2023年4月19日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳   
  したものです。

2023年4月12日水曜日

もう一つの脅威:ロシアの「イズデリエ305(LMUR)」空対地ミサイル


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ

 2022年のロシア・ウクライナ戦争におけるロシアの兵器で海外の人々に好印象を与えることができたものはほとんどありません。これは西側諸国のシンクタンクが数十年にわたってロシアの兵器を決してその期待に応えることができない水準にまで誇張してきた結果ですが、ロシアが特定の技術にタイムリーな投資をすることができなかったため、無人戦闘航空機(UCAV)や徘徊兵器などのシステムには後発組となってしまったことも事実です。

 ロシアは数多くの誘導兵器を開発してきたものの、ロシア空軍によって導入されたものはほとんどなく、彼らは主に1980年代の「Kh-25」「Kh-29」空対地ミサイルや無誘導爆弾までも主力として使い続けているのです。ロシアの最新鋭の精密誘導爆弾(PGM)でさえ、(特に西側のPGMと比較すると)その精度が不十分であることが確認されています。

 こうした傾向からの最初の逸脱が生じたのは、2022年6月に新型PGMがウクライナ兵を収容しているとされる小さな家を攻撃したことが目撃された際のことでした。[1]この攻撃で使用された空対地ミサイル(AGM)は、15km以上も離れた距離の目標を攻撃できる新開発のヘリコプター用の「イズデリエ305(LMUR)」であることがすぐに確認されました。

 「LMUR」はヘリコプターによって指示された目標を攻撃するタイプのミサイルで、ミサイル・シーカーが命中するまで目標を追尾し続けている間に発射した母機が移動可能であるほか、オペレーターがデータリンクを介してミサイルを目標に誘導する方式も採用したことで遠方から発射可能となっています(注:当初は慣性誘導で飛行して途中で目標が指示されるタイプであることから、途中でミサイルの目標を変更することも可能)。

 どちらの攻撃方法も、ロシア製の旧世代型ヘリコプター発射式対戦車ミサイル(ATGM)/AGMから著しく改善されています。というのも、旧世代型は目標に命中するまでの間はヘリコプターをホバリングさせなければならなかったために標的にされやすいという欠点があったからです(注:ヘリ自身の目標指示装置をミサイル命中まで目標に向け続ける必要があったため)。

 「イズデリエ305」の前身である「イズデリエ79」は2014年11月に最初の量産準備に入りましたが、ロシア国防省が発射機の発注を見落としていたため、このプロジェクトは2017年に契約が打ち切られるまで中途半端な状態で放置されてしまいました。[2]
ところが、この「LMUR」プロジェクトはコーカサスでの対テロ作戦用に「Mi-8MNP-2」攻撃ヘリコプター用の長距離AGMを求めていたロシア連邦保安庁(FSB)によって救われたのです。

 こうして救われた「イズデリエ305」は、FSBの「Mi-8MNP-2」やロシア空軍の「Mi-28」及び「Ka-52」攻撃ヘリコプターから、「APU-305」単発発射機や「APU-L」2連装発射機を用いて発射することができるミサイルとなりました。また、以前に「バイカル」というコードネームで呼ばれた地対地型発射機の構想もありましたが実現はしていません。[2]

 LMURの大量導入は、その高額なコストによって阻まれることになる可能性が高いと思われます。2018年時点におけるロシア国防省向け「LMUR」ミサイル1発の価格は227,000ドル(約2,940万円)であり、同ミサイルの輸出型の価格がさらに高くなることは間違いないでしょう。[2]

 ウクライナでは、「LMUR」は主にウクライナ軍の装備や部隊を隠していると疑われる建物、浮橋やその近くにいるウクライナの車両に対して使用された状況が確認されています。
「LMUR」は高い命中精度を誇るものの、弾頭重量が25kgしかないため、倉庫のような大きな建築物にいるウクライナ兵を無力化するには極めてラッキーな命中弾が必要となるでしょう。[3]

 ロシア国防総省は2台の「HIMARS」が3階建てビルの2階で破壊されたとする証拠として「LMUR」のシーカーが捉えた映像も使用してます – トラック搭載型のロケット砲の隠れ家としては疑わしいものですが。[4]
  1. ロシアの「イズデリエ305(LMUR)」によって攻撃されたウクライナの兵器類の詳細について、以下の一覧を見ることができます。
  2. この一覧には、写真や映像によって証明可能な撃破または鹵獲された兵器類だけを掲載しています。したがって、実際に喪失した兵器類はここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。
  3. この一覧については、資料として使用可能な映像や動画等が追加され次第、更新されます。
  4. 各装備などの後の数字をクリックすると、当該装備などに対する攻撃映像や画像などを見ることができます)
  5. 2023年4月で当ミサイルによる戦果一覧の更新を終了しました(ウクライナ軍の損失一覧自体の更新は続きます)

装甲戦闘車(5)

車両 (2)

浮橋 (6)

建造物 (43)

[1] https://twitter.com/RALee85/status/1540608481232916480
[2] Is Russia Using Its New Advanced Anti-Armor Missile In Ukraine? https://www.thedrive.com/the-war-zone/is-russia-using-its-advanced-new-anti-armor-missile-in-ukraine
[3] https://twitter.com/RALee85/status/1552903607690960897
[4] https://twitter.com/Euan_MacDonald/status/1554095299991375872

特別協力: Rob Lee 氏

※  当記事は、2022年11月26日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
  箇所があります。



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2023年4月8日土曜日

アフリカに嵐を巻き起こせ: ニジェールが「バイラクタルTB2」を導入した


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)の商業的成功には際限がなく、このシステムの調達に関心を示す国の数は月ごとに増加しているようです。2021年10月下旬の時点で、TB2を調達した国は13カ国と報じられており、同年8月から3か国も増加しました。[1]

 TB2の製造・販売を手がける「バイカル・テクノロジー(以下、バイカル社と表記)」社は、ほかの大部分のUCAVメーカーが自社製システムの生産期間の全体を通じて達成したいと望む数よりも多くの取引を3か月で成功裏に締結したため、この商業的成功の重要性について、いくら強調してもし過ぎることはありません。

 それ自体もすでに素晴らしい偉業ですが、「バイカル」社が全く新しい市場に自社製品を浸透させることに成功したことも同じくらい素晴らしいことだと言ってもよいでしょう。その中で最も注目すべきはサハラ以南のアフリカ市場で、ナイジェリア、アンゴラ、ルワンダといった国々がTB2の導入を示唆したり、すでに発注済みの状態にあります。[2]

 「バイラクタルTB2」を調達したもう1つのアフリカの国は、ニジェールです。[3] [4]
 ニジェールへの販売は、モロッコやリビアなど他のアフリカ諸国とすでに締結している取引に続いて成立しました(注:2023年現在は、すでに作戦に投入されているようです)。このとき、「バイカル」社は、「翼竜」シリーズを生産する中国の「CAIG」社や「CH-3/4」シリーズで知られる「CASC」社だけでなく、トルコ企業との競争にも直面しました。[3]
 
 「トルコ航空宇宙産業(TAI)」「アンカ」UCAVをニジェールにも売り込んでおり、賢明に「T129」攻撃ヘリコプターと同UCAVの輸出契約を成立させようとしていたため、「TAI」が同国と取引をまとめる用意ができているように見えました。[3]

 しかし、現時点で「アンカ」を導入した外国は2020年に3機を調達したチュニジアのみに留まっているようです(注:2023年4月現在でカザフスタンマレーシアアルジェリアとチャドも契約を結ぶという商業的な成功を収めています)。[5]

 「T129」については、機体に搭載されるターボシャフトエンジンである「LHTEC」製 「T800」の輸出許可にアメリカが難色を示したことが海外販売のネックとなっており、「アンカ」の輸出販売が不調なのは、UCAV市場における中国や「バイカル」社との激しい競争の結果がダイレクトな原因であることに疑う余地はありません。

 「バイラクタルTB2」がリビア、シリア、そしてナゴルノ・カラバフで著しい成功を収めたことが、価格の安さと共にTB2の売却を推し進め、結果的に「アンカ」に不利益をもたらしていることは間違いないでしょう。

 とはいえ、「TAI」はニジェールに若干数の「ヒュルクシュ」練習機を売却することに成功し、同機初の輸出を記録するという偉業を成し遂げたことも注目すべき出来事と言えます。[6]

                   

 現在、ニジェールはチャド湖に沿った南東部の国境で反政府軍の脅威に直面しています。
 この脅威は2000年代後半にボコ・ハラムによって引き起こされ、今はイスラム国・西アフリカ州(ISWA)が主体となっています。彼らがニジェールの前哨基地や民間人の居住地を頻繁に攻撃した結果、数千人もの民間人や兵士が殺害されました。[7]

 ボコ・ハラムのテロ活動は2009年にナイジェリア北東部で勃発し、次第に行動範囲が近隣のチャド、カメルーン、ニジェールまでに急速に拡大していきました。治安部隊はこれまでにこうした脅威を封じ込めるのに苦労しており、機動性の高い武装勢力を追跡し、居場所を突き止め、無力化するのは困難であることが判明しています。

 イスラム国部隊との戦闘の難しさは、ニジェールが彼らの小規模な集団や車両を発見し無力化できる適切な航空戦力が欠けていることによってさらに悪化しています。なぜならば、彼らは近くにある木の下に隠れるだけでほとんどの航空機からの発見から簡単に逃れることができるからです。

 現在、ISWAと戦う諸国の中ではナイジェリアだけが、密集した草木に隠れた人や車両の熱源を検知できる前方監視型赤外線装置(FLIR)を搭載したUAVの大規模な飛行隊やその他のアセットを運用しています。

 ニジェールはFLIRを搭載した航空機を数機保有しているものの、これらは非武装であるため、攻撃機やヘリコプターとの連携した運用は事実上不可能となっているのが現状です。

 「バイラクタルTB2」のような無人戦闘航空機(UCAV)を導入することで、ニジェールは現在保有している作戦機の長所(この場合、高度なFLIR装置と兵装)を1つのシステムに統合することができます。また、TB2(と「アンカ」)は、アフリカのほとんどの攻撃機やヘリコプターに搭載されている無誘導爆弾やロケット弾ではなく、最大で4発の「MAM-L」「MAM-C」精密誘導爆弾を搭載することが可能です。

 多くのアフリカ諸国は、高度な兵器を調達したものの、それらの運用について長期的に見ると財政面で持続不可能であることが判明した経験があるため、TB2の手頃な価格、信頼性、そして強力なアフターサポートはニジェールでも間違いなく評価されることでしょう。


 現在の「Armée de l 'Air Nigérienne(ニジェール空軍)は、ロシア、ウクライナ、アメリカ、フランスから導入した固定翼機とヘリコプターで構成された、小さくもよく装備された飛行隊を運用しています。

 過去10年間で、ニジェール空軍は、ニジェール南部のチャド湖岸において急増しつつあったイスラム国によるテロ攻撃に対処する能力を強化することを目的とした、適度な再軍備計画を立ちあげて推進してきました。

 その計画の一環として、ニジェールは近接航空支援(CAS)機と攻撃ヘリコプターを保有することになり、「キングエア350」ISR機を1機、「セスナ208」を2機、そして「DA42 MPP」を 2機といった多数の新型観測機も導入されました。後者の2機種はFLIR装置を搭載しているため、同国南東部のナイジェリアとの国境沿いでの監視任務に適しています。

 ちなみに、2機の「セスナ208」は、ニジェール南東部上空の情報収集・警戒監視・偵察任務(ISR)を遂行するために、2015年に米国から供与されたものです。[8]

 ただし、アフガニスタン、レバノン、イラクに引き渡された「AC-208 "コンバット・キャラバン"」とは異なって、ニジェールの「セスナ208」は武装を全く備えていません。

 ニジェール空軍の対地攻撃能力は、「Su-25」攻撃機2機、「Mi-35P」攻撃ヘリ2機、「Mi-171Sh」強襲ヘリ2機、「SA342M "ガゼル"」攻撃ヘリ3機で構成されています。この空軍の攻撃機やヘリコプターはいずれも誘導兵器を装備していないものの、各種ロケット弾やガンポッドを装備することが可能です(注:ニジェールは誘導爆弾や空対地ミサイルを保有していません)。

 同空軍がほかに保有する飛行機には、「C-130 "ハーキュリーズ" 」輸送機2機、「ドルニエ228」輸送機、ハンバート「テトラ」軽飛行機2機、「ボーイング737」VIP輸送機が含まれています。

 2013年には、はアメリカから、災害・戦傷救難活動仕様の「セスナ208 "キャラバン"」2機も供与されました。[8]

ニジェールが2機保有する「DA42 MPP」観測機の1機。機種下部のFLIR装置に注目。

 自身がいまだにUAVを運用していないにもかかわらず、フランス軍の「MQ-9B "リーパー"」を首都ニアメに配備し、中央部のアガデス近郊にあるアメリカの極秘のドローン基地を提供することによって、ニジェールは今やサハラ以南のアフリカにおけるU(C)AV作戦の中心地となっています。

 これらの国による作戦がニジェールに自身のUCAVの運用に体する関心を刺激し、それが南部国境の治安状況と組み合わさって、自国のUCAVアセットの導入を強く主張するに至らせたことは間違いないでしょう。

ニジェールのアガデス近郊で緊急着陸したアメリカ陸軍の「MQ-1C "グレイ・イーグル"」(2021年1月)

 ニジェール空軍の固定翼機とヘリコプターは全てが首都ニアメのベース・アエリエンヌ101(BA101:第101空軍基地)を拠点としており、ディオリ・アマニ国際空港と敷地を共有しているものの、軍専用の滑走路を有しています。

 「BA101」はフランス空軍の輸送機やUCAVにも使用されていたほか、以前はアガデスに運用が移るまでは、ニジェールにおけるアメリカによるドローン運用の主要拠点として使用されていました。

 ニジェール中部に位置するアガデス(BA201)も重要な空軍基地ですが、現在はここに常駐している航空機はありません。

 公式な空軍基地という地位を得ていないにもかかわらず、ニジェール空軍は同国南東部にあるディファ飛行場へ定期的に機体を派遣し続けています。


 公式な空軍基地という地位を得ていないにもかかわらず、ニジェール空軍は同国南東部にあるディファ飛行場へ定期的に機体を派遣し続けています。

 ニジェール政府は南東部の国境沿いにおける治安状況を考慮し、ディファ近郊に空軍基地を設けるすることを公表していますが、これがディファ飛行場(下の画像)を拡張するのか、近くに全く新しい基地を建設するのかについては、現時点では不明です。[9]

 ディファ飛行場の1800mある滑走路は「バイラクタルTB2」を配備するには十分な長さであり、敷地自体も将来的な拡張にも十分なスペースがあります同同飛行場には2016年の時点ですでに3つの格納庫が建てられており、それらは同時に数機のTB2を格納に十分な大きさを誇っています。


ディファに駐機駐機している2機の「Mi-35P」攻撃ヘリコプターと災害・戦傷救難活動仕様の「セスナ 208」。

 ニジェール空軍がディファ飛行場を使用していることに反応して、ISWAの戦闘員は過去数年間にわたって何度もこの飛行場を標的にテロ攻撃をしかけてきました。

 この飛行場に詰めている人々にとっては幸いなことに、これらの攻撃の大半は、単発の122mmロケット弾を極めて簡易な発射装置から撃ち込む程度のもので占められていました。そのような即席の発射装置から撃ち込んだ場合の命中精度は極めてお粗末なものであり、こうした散発的な攻撃による被害はなかったと思われます。[10]

 それにもかかわらず、ニジェール軍は滑走路の周辺に防御陣地を点在的に設けて、空港周辺におけるプレゼンスを大幅に強めました。

ディファ飛行場に対して122mmロケット弾による攻撃を準備中のイスラム国戦闘員(2019年3月14日)。 [10]

 装甲・砲兵戦力といった火力の観点から見ると、ニジェール軍はそれらをほとんど備えていませんし、本格的な多連装ロケット砲(MRL)や比較的新しい大砲も運用していないことが特徴となっています。数多くある「63式」107mmMRL(射程8km)と「D-30」122mm榴弾砲(射程15km)が、陸軍唯一の長距離火力支援アセットです。

 チャドやナイジェリアとは逆に、ニジェール軍はもっぱらフランスの「AML-20/60/90」装甲車や中国の「WZ-551」「WZ-523」装甲兵員輸送車といった装輪式のAFVを用いています。

 それらとは別に、最近ではフランスのACMAT製「バスティオン」歩兵機動車(IMV)や南アフリカの耐地雷・伏撃防護車両(MRAP)を導入しています。2021年11月には、ニジェールがトルコから装甲車を調達することが公表されました。[6]

 十分な数の現代的な防護車両が不足していることが、効果的なパトロールを実施したり、ISWA部隊が攻撃地点からの逃走や全く別の国へ逃げ込む機会を得る前に追跡する軍の能力を妨げているのが実情です。

 MRAPやその他の装甲車両の数が限られているため、地上部隊は即席爆発装置(IED)や待ち伏せ攻撃に脆弱であり、それに加えて最新の照準装置が欠けていることから、植物が密集した作戦地域における状況認識が全くできません。

 地上部隊の支援や独自に目標を捜索することに航空機を用いることで、ニジェール軍は無防備な地上部隊だけに依存することなくISAW部隊に戦いを仕掛けることが可能となるのです。


 ニジェール空軍が現在保有する主要な対地攻撃戦力は、2013年にウクライナから調達した2機の「Su-25」攻撃機です。この攻撃機は100kg爆弾、250kg爆弾、「UB-32」57mmや「S-8」80mmロケット弾、あるいはこれらの兵装を組み合わせたものを最大で4400kgも搭載できるという相当なペイロードを誇っていますが、ニジェール南東部の植物が密集する地域では、目標の位置を特定するという厳しい難題に直面していると思われます。

 もともと「Su-25」はヨーロッパの平原を横断する機甲部隊を攻撃するために設計されたため、パイロットからすると、上空に響き渡るエンジン音を聞くとすぐに木の下に隠れてしまうことが多い反政府軍の小規模な部隊や車両を追跡することは非常に困難を極めます。
安価な攻撃機として多くのアフリカ諸国が「Su-25」を導入していますが、これらの国々は頻繁にその効果的な実戦への投入に苦労しているようです。

 実際に攻撃に用いられた際に、「Su-25」が投下した爆弾の命中精度があまりに低いことが判明したため、導入したアフリカ諸国は作戦飛行を全くさせていないのかもしれません。

 アンゴラとコートジボワールだけが「Su-25」をある程度有効に使うことができましたが、後者は車両や歩兵のような機動性を有する目標ではなく、ほとんどが建物や強固な陣地に対して用いられました。

80mmロケット弾用の「B-8」ロケット弾ポッドを装備した、ニジェール空軍の「Su-25」。

 地上の反政府軍との戦闘で「Su-25」より少しは効果的なのが、今は「Mi-35P」が2機、「Mi-171Sh」が2機、「SA342M "ガゼル"」が3機で構成されているニジェールの攻撃ヘリコプター飛行隊でしょう。これらの全機が近年に導入されたものであり、特に「Mi-171Sh」は6門のロケット弾ポッドとガンポッドという重装備に加え、歩兵も輸送可能な畏敬されるアセットとなっています。

 しかし、現時点でどのヘリコプターにも誘導兵器が装備されていないことに加え、FLIR装置も欠いていることは、これらの機体が基本的に格好の目標に対する攻撃にしか使えないことを意味します。

 この意味で、高価な近接航空支援機や攻撃ヘリを数多く調達しても、これらを効果的なプラットフォームに変えることができる誘導兵器や照準システム抜きで導入した場合、それらを運用する軍隊の実際の能力を向上させる可能性はほとんどありません。

 ニジェールは「Su-25」や攻撃ヘリの目標位置を特定するのにを手助けする複数のISR機を運用していますが、このようなアフリカの小規模な空軍にとって、複数の航空アセット間の相乗効果の実現にいまで手に届かないことが一般的です。こういった欠点はあるものの、ニジェール空軍の「Su-25」、「Mi-35P」、「SA342M」はISWAとの戦いに何度も投入されています。

ロケット弾ポッドとガンポッドを装備した「Mi-171Sh」は2機が2020年にロシアから470万ドル(約5.7億円)で調達されました。 [11]
ニジェールが3機保有する「SA342M "ガゼル"」の1機。 機体右側面に20mm機関砲が装備されています。

 アフリカ諸国の空軍が「DA42 MPP」のような捜索能力(特にFLIR装置)と精密誘導兵器の運用能力を一体化した機種を導入することについて、彼らの考え次第と主張することもできますが、これは言うほど簡単なことではないことが実証されています。

 一例を挙げて見ると、マリやブルキナファソは「A-29B "スーパーツカノ" 」を導入していますが、単に非常に高価格のためか米国が輸出を許可しなかったために、FLIRや誘導兵器の運用能力を装備しない状態で引き渡されたのです。実際、マリは「A-29B」の調達が認められたものの、同機に付随するFLIRシステムの購入は阻まれてしまいました。[12]

 (カリダス「B-250」とTAI「ヒュルクシュ」を別とすると)選択可能な代替手段がほとんどないことから、この状況は本質的に、あるアフリカの国がPGMの運用能力を持つ航空戦力を入手するために、中国の腕にまっすぐ押し込まれてしまうことに至らせる可能性を生じさせているのです。

 中国は、戦争状態にある国にすら、そのような兵器を輸出することを少しも問題にしていないことが知られています。[13]

 とはいえ、サハラ以南のアフリカ諸国の多くは、これまで中国製UCAVの調達を控えてきました。おそらく、墜落・事故発生率の高さ、信頼性の問題、そして依然として高額な導入コストが理由と思われます(注:「翼竜II」1機だけで約1500万ドル:約15億円に近い価格です)。


 「バイラクタルTB2」は、現代戦の概念に革命をもたらしました。その手頃な価格と信頼性、そして政治的な制約なしに入手可能というメリットのおかげでこの革命は今ではアフリカにも到達する見込みとなっています。

 ニジェールによる「バイラクタルTB2」の導入は、彼らにイスラム国との戦いを効果的な方法で仕掛けたり、現時点でアメリカやフランスがニジェール国内から実施しているのと同じドローン作戦を、実際に同国の水準から見ても手頃な価格で遂行することが可能になります。

 ニジェールやナイジェリアに続いて、チャドやカメルーンといった国々もUCAVの獲得に向けて動き始めようという意欲を持つことは考えられないことではないでしょう。これらの国々でのTB2の商業的成功や、後者がすでに運用している中国製UCAVではなくトルコ製UCAVの調達に関心を示していることを考えると、これらの国々にとってTB2は今や当然の選択のように思えるかもしれません。

 アンゴラやルワンダといった別のアフリカ諸国もトルコ製ドローンを買い求めていると報じられている現在、TB2の商業的成功は今や際限がないように見えます。

 TB2は戦場で圧倒的な結果をもたらし、 21世紀に求められていた能力:信頼性と手頃な価格を兼ね備えることに成功した(ほぼ間違いなく)最初のUCAVであるため、商業的成功の拡大は実戦におけるシステムを分析した人々にとって全く驚くべきことではないのです。


[1] https://twitter.com/BaykarTech/status/1453383196624793606
[2] An International Export Success: Global Demand For The Bayraktar TB2 Reaches All Time High https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/an-international-export-success-global.html
[3] Battle between Turkey's TAI and Baykar plays out in Niamey https://www.africaintelligence.com/central-and-west-africa_business/2021/10/04/battle-between-turkey-s-tai-and-baykar-plays-out-in-niamey,109695781-art
[4] TUSAŞ’tan Nijer’e HÜRKUŞ İhracatı https://www.savunmasanayist.com/tusastan-nijere-hurkus-ihracati/
[5] Tunisia Signs $80 Million Deal for Three Turkish Anka-S Combat Drones https://www.thedefensepost.com/2020/12/17/tunisia-buys-anka-s-drones/
[6] Niger becomes first foreign customer of Turkey’s Hurkus aircraft https://www.defensenews.com/air/2021/11/19/niger-becomes-first-foreign-customer-of-turkeys-hurkus-aircraft/
[7] Niger: Surging atrocities by armed Islamist groups https://reliefweb.int/report/niger/niger-surging-atrocities-armed-islamist-groups
[8] Niger C-208 Program Reaches 10,000hr Flying Hours Without Incident https://ne.usembassy.gov/niger-c-208-program-reaches-10000hr-flying-hours-without-incident/
[9] Niger to construct new air base in Diffa http://www.wadr.org/news.php?uin=WN0908215998
[10] https://twitter.com/AnalystMick/status/1109159221332004867
[11] Niger receives Mi-171Sh helicopters https://www.defenceweb.co.za/aerospace/military-helicopters/niger-receives-mi-171sh-helicopters/
[12] Mali receives Super Tucanos https://www.defenceweb.co.za/aerospace/aerospace-aerospace/mali-receives-super-tucanos/
[13] Tigray War: Chinese-Made Armed Drones Spotted Over Mekelle https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/tigray-war-chinese-made-armed-drones.html

  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
    あります。



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