2016年10月30日日曜日

イランから:北朝鮮の73式軽機関銃がイラクでイスラム国との戦いに加わる


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2015年5月にOryxブログ本国版(英語)で投稿されたものを邦訳した記事です。

 イラクのイスラム国(IS)との戦いでは、イラクを自己の支配下に置くために戦う多数の勢力によって使用される(世界中のあらゆる供給元から入手した)多くの重・小火器が見られました。イラクでの戦いでは、これまでにイラン製の多連装ロケット発射機から第二次大戦当時の大砲まで、それらの全てが投入されたのです。

 戦いが2年目に突入する現在(注:本国版記事の執筆当時)ではより多くの武器を必要とするものの、その数が減少しつつあり、各勢力は戦いが今後数年間続くことに繋がるだろう武器の受領を地域的・国際的な支援者から試み続けています。そして、忘却の彼方に忘れ去られた武器が「再発見」されて使用されるに至っているケースもありました。

 その武器の一つである73式軽機関銃(LMG)は、輸出するために生産されたとは考えられていなかった極めて稀な装備と言えます。

 北朝鮮が設計・製造した兵器は過去と現在におけるイランの戦争影響を与えたものの、このLMGは激動の80年代を生き延びたとは考えられていませんでした。しかし、それらが生き残った多くの実例として、今日では人民動員隊(PMU/PMF)という統括組織の下でシーア派民兵がそれらを運用する姿が目撃されています。これは非常に驚くべきこととしか言いようがありませんイラン軍の装備に対する北朝鮮の影響は過去に相当あったわけですが、 とりわけイラクの戦場に出回る大量の他国製装備と比較すると、21世紀のイラクではまだ重要な役割を果たしていなかったからです。

 1980年代初頭、平壌とテヘランとの間で高いレベルの軍事協力がなされました。この間、北朝鮮は隣国イラクへ対抗するイランを援助するために幾らかの弾道ミサイルと大砲から小火器まで、それに飛行機さえも供給したことが知られています。後年の協力では主に北朝鮮が設計した多種類の弾道ミサイル、ミサイル艇、潜水艦をイランが生産できるように、北朝鮮からイランへの技術移転に焦点が当てられたようです。

 しかしながら、多数の北朝鮮製「Bulsae-2(注:北朝鮮側の呼称「火の鳥-2」)」対戦車ミサイルが、最近になってハマスの軍事部門であるエゼディン・アル・カッサム旅団とハマスを離脱したアル・ナセルサラディーン旅団の手によって突然姿を現しました。同ミサイルは「9K111 "ファゴット"(西側呼称:AT-4)」の派生型であり、スーダンからガザ地区にわたる密輸業者の精巧なネットワークと秘密のチャンネルを通じてイランによってガザ地区へ供給されたと信じられています。

 ハマスと北朝鮮の「火の鳥-2」対戦車ミサイルの詳細についてはこちらをご一読ください

 イラン・イラク戦争の写真では73式軽機関銃がイラン兵と共に写っているものが見られる

 73式LMGの大部分はソ連製「PK」機関銃をベースにしていますが、7.62x54R弾を装てんするための箱(注:ベルトリンク)と弾倉の双方を使用できる非常に特異な給弾機構を備えている点が世界的にも珍しい独特な特徴となっています。

 朝鮮人民軍のために大量生産され、今日でも使用されているこの軽機関銃の唯一記録された輸出例はイランだけしかありません(注:2024年現在ではシリア、イエメン、ウガンダ、ロシアで目撃されているが、シリアとイエメンはイランから流出したものと考えられている)。

73式軽機関銃を持つ民兵(左端)

 北朝鮮が設計した兵器が世界中の様々な紛争に姿を見せ続けるということは、今日でも極めて孤立した国家である北朝鮮の能力が海外の紛争にかなりの影響を及ぼしていることが明白となった証しと言えるでしょう。


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2016年10月22日土曜日

中東における北朝鮮の対戦車ミサイル





著 ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ (編訳:Tarao Goo)

弾道ミサイル計画でよく知られている北朝鮮は、その体制の維持を可能とする外貨の獲得を外交関係に依存してきました。特にエジプト、シリア、イラン、そしてミャンマーといった国への弾道ミサイルや核技術の輸出が頻繁に報じられており、国際的な監視者から大きな注目を集めています。
しかし、(通常兵器と戦略兵器の双方を世界中の国家へ引渡すこと自体は別として)北朝鮮の対戦車ミサイルがアメリカによってテロ組織と指定された者たちの手によって登場していおり、それは武器密売市場における北朝鮮による関与の拡大を示しています。


ハマスの軍事部門である「エゼディン・アル・カッサム旅団」の戦闘員を映した画像は、彼が操作している9K111「ファゴット(西側呼称:AT-4)」の派生型が北朝鮮が運用しているBulsae-2(注:北朝鮮側の呼称「火の鳥-2」)であることを示しています。

カッサム旅団はスーダンからガザ地区までに及ぶ密輸業者と裏ルートの精巧なネットワークを介して、イラン経由で北朝鮮のミサイルを受け取っている可能性があります。
これは、おそらくほかの輸送で行なわれる方法と同じようなやり方で行わたものと考えられています。
例として、ポートスーダンでの武器引渡し後にエジプト経由でガザ地区へ陸路で運ばれる方法があります(これは紅海のスーダン沿岸でイスラエル海軍に拿捕された貨物船「Klos C」の件でも行われるはずでした)。

また、政治的対立によりハマスから分離独立したアル・ナセル・サラディーン旅団も多くの発射機とミサイルを保有していることが確認されました(下の写真)。

ほかの武器が対戦車ミサイルと一緒に引き渡されたかは不明ですが、北朝鮮はロケット推進擲弾(注:RPG-7)やMANPADS(携帯式地対空ミサイルシステム)の主要な生産者としてよく知られており、その幾らかは輸出されたとみられています。




この説のさらなる裏づけとして、2009年12月にバンコクに着陸したIL-76輸送機から北朝鮮製の武器の積み荷がタイ当局によって発見・押収された件が挙げられます。
石油掘削装置として表示された貨物には、35トン分に相当するロケット弾、携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)、爆薬、ロケット推進擲弾やその他の兵器類が含まれていました。

その数か月前(2009年7月)にも同様の積み荷がUAEで押収されたケースがありました。
摘発を受けて押収されたパターンもありますが、大量の積荷がハマスとヒズボラの双方へ発覚されれずに密輸されたものと信じられています。
北朝鮮が武器密輸業の筆頭にいることにより、武器の輸送方法と密輸ルートが絶え間なく進化しているのです。


北朝鮮の役割はあくまでもこのような武器システムの生産者であることであることに限られています。 
ただし、イランと北朝鮮のお互いが「聞くな、答えるな」という方針を維持していたとしても、北朝鮮が輸出したBulsae-2の宛先を熟知していることは容易に推測できます。
ただし、この取引での北朝鮮の唯一の関心は外貨なので使用する相手が問題になることはないようです。



















9M111有線式ミサイルは目標への指向方法として半自動指令照準線一致誘導方式(SACLOS)を採用しており、目標や種類によっては460mmの装甲を貫徹することができます。
9K111-1コンクールス・システムを用いる9M113ミサイルを含めた能力向上型は、9M111と9M113の双方に互換性を付与されたことによって同じ発射機(最初期の型を除く)を使用することが可能です。
北朝鮮は9K111を1988年にソ連から最初に受領し、2010年ころまでにロシアとの間で約4500システムの取引が継続されたといわれています。
ミサイルの互換性という性質により、9K111ファゴットだけでなく9K111-1コンクールスも引き渡された可能性も考えられるますが、それを明言することはできません。
9K111-1コンクールスについて北朝鮮側の名称は知られていませんが、既に知られているBulsae-3(火の鳥-3)はおそらくそれとは関係のないシステムと思われます。


北朝鮮製9K111「火の鳥-2」発射機は幾つかの点においてオリジナルと差異があり、最も顕著な点として、光学機器が大幅に変更されたことが挙げられます。
このシステムの発射機である、9P135の9Sh119照準装置(照準器の下半分)は「火の鳥-2」の照準器に似ていますが、ミサイルの自動追尾用スコープ(照準器の上半分)が、2つの独立した小さい光学機器と交換されています。

この改良が、オリジナルのアップグレード又はダウングレードになるのかは不明です。
近年、北朝鮮はシステムの品質に影響を及ぼさない独自のミサイルを製造しているようなので、今後も注視していく必要があります。
                                                 

 ※ この翻訳元の記事は、2014年7月に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。

2016年10月16日日曜日

北朝鮮のAK用ヘリカル式弾倉



 北朝鮮の軍備におけるいくつかの新たな動きについて、最近(注:2013年頃)放映されたプロパガンダ 映像の中で目にすることができます。

 その動きの一つが、AK-74のコピーである「88式小銃」の新型弾倉であると考えられています。この新型弾倉は著しい重量の増加や扱いにくさを生じさせますが、「ヘリカル式」を使用することによって、ほかの弾倉を持たずに多数の5.45 x 39 mm弾薬の携行を可能にします。

 この形式の弾倉を採用した銃として、代表的なものはキャリコM100があります。

 このヘリカル式弾倉について、 当初は金正恩の警護員だけが使用する例を除いては確認されていませんでしたが、2016年11月に特殊作戦大隊の兵士が携行しているが明らかになったほか、2017年4月の閲兵式からは特殊作戦軍などの兵士が同銃を携行して行進する姿が大々的に公開されましたこともあり、軍に普及していることを示唆しています。

 公開された写真では、それぞれの警護員が弾倉を一本だけ携行しているように見えますが(大容量であることを考慮すれば驚くようなことではないですが)、下のような別の映像では、各員が2本の予備弾倉を携帯している姿が見えます。この種類の弾倉は、2010年もしくはそれより前から運用されているものと思われます。


 北朝鮮の88式小銃は、標準的な30発入りの弾倉と(木製や合成樹脂の銃床を除いては)横向きか上向きの折曲式銃床(写真参照)の組み合わせが一般的です。

 ヘリカル式弾倉については前述のとおり、キャリコM100などで既に存在していることから、北朝鮮のものも同様だと思われますが、2つの注目すべき違いが両者を区別します。まず、最も明白なのはこの弾倉が既存のものよりも大きい、より強力なライフルのために開発された点です。既存のヘリカル式弾倉は、一般的に7.62 x 25、9 x 17SR (.380 ACP)、9 x 18、9 x 19 mm弾といった拳銃弾を使用するために設計開発されています。2つ目は、ほかのヘリカル式弾倉は一般的にその火器自体と一緒に開発されましたが、北朝鮮のこの場合は既存の銃のために製造された点です。
 
 上向きの折曲銃床は、典型的な横向きか下向きの折曲銃床では不可能と思われる弾倉挿入時の銃床の折りたたみを可能にさせました。

 ロシアと中国の双方ではAKタイプの武器用のヘリカル式弾倉の噂がある一方、それを証明するものは今日まで何も出ていません(注:ロシアのBIZONがあります)。

  
 後から製作された設計とヘリカル式弾倉特有の複雑さ(標準的な取り外し易い箱型弾倉と比較して)は弾倉自体が弾薬の容量を大幅に増加させるものの、武器に誤動作と不発を誘発させる可能性を示唆しています。

 ほかの口径の銃用に似たような弾倉が開発されているのか、ヘリカル式弾倉が朝鮮人民軍にどの程度装備されているかは不明である(前述のとおり、2017年の閲兵式以降では登場する閲兵縦隊の大半がこの弾倉を装備しているため、かなり普及が進んでいるものと推測されます。
 



弾倉の仕様
 

以下の仕様は、既存のヘリカル式弾倉との比較だけではなく、既知の値に基づいて推定されたもので、これらは現時点における著者の「最良の推測」によるものです。

   弾薬の口径: 5.45 x 39 mm
   装弾数: 100発または150 発
   重量: 約2 kg
   全長: 約370 mm
   直径: 約85 mm




















※ この記事は、2014年2月に投稿されたものです。  
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが大きく異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。




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ご挨拶

当ブログは独自の綿密な軍事分析で著名な、「Oryx Blog」の日本語版です。
この度、執筆者であるスタイン・ミッツァー氏及びヨースト・オリーマンズ氏の熱望により、日本語版の開設となりました。
日本語版ブログ及びツイッターアカウントに関しての管理・編訳は、私ことTarao Gooが担当します。
記事については、英語版の編訳となります。古いものもありますが編訳の価値があると判断したものは順次に編訳していく予定です。
コメント欄も設ける予定ですので、ご意見がありましたら是非投稿をお願いいたします。
当ブログは、主に、
  1. シリアやISなどの中東方面 
  2. リビア・スーダンなどの北アフリカ方方面 
  3. 北朝鮮 
の軍事情勢を分析した記事を扱います。
他の日本語文献には無いような濃密な記事を掲載する予定ですので、ご期待ください。
最後に、当ブログ執筆者は北朝鮮の軍事についてまとめた本:North Korea’s Armed Forces: On the path of Songunを執筆しており、2018年度中の発売を目指して作業を進めております。今まで全く知られていなかった情報もあり、豊富な写真やアートワークが掲載される予定です(編訳者も一部制作に関与させていただいています)。
同本は日本語版も出す方向です。どうぞご期待下さい。