著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo) トゥアレグ紛争がイスラム過激派勢力の反乱を波及させ、遠くないうちに国土全体がアルカイダの支配下に置かれるという恐れが出てきた2012年以来、 マリはほぼ一貫して紛争状態に置かれています。
2013年初頭には、首都バマコへ向かうイスラム過激派の進軍を阻止してマリ北部を政府の統治下に戻すためにフランス軍が介入し、マリ共和国軍の支援を得ながら敵の進出を迅速に覆してアルカイダ(後のイスラム国)が撤退したキダル地方を除く国土の大部分を奪回するという成功を収めました。
近年のアルカイダやイスラム国はさらなる勢力圏の拡大を試みており、マリ軍や同国に展開したままの国連部隊への攻撃を数多く行っています。国連部隊の主な目的は、この地域における治安部隊が将来的にこれらの過激派組織という脅威と戦い、その供給路を遮断し、隠れ家の構築を防ぐといった対処を可能にするための訓練をすることにあります。
2012年にマリ北部で勃発した反乱に直面した際、マリ空軍(Armée De L'Air Du Mali)は敵の前進を阻むどころか友軍を支援することも完全に不可能であることが判明しました。
明らかにマリに展開する外国軍部隊の影響を受け、その後のマリ空軍は自国の安全保障問題により現実的なアプローチをとることを始めました。「MiG-21」戦闘機や「S-125」地対空ミサイル(SAM)といった旧式の残存戦力の大半を迅速に退役させたのです。[1]
それ以降のマリ空軍は2015年にブラジルから「A-29B "スーパーツカノ"」4機(2018年納入)、ロシアから「Mi-35M」攻撃ヘリ4機(2017年及び2021年納入)を導入するなどして、ゼロからの再建を進めています。
2019年には、マリはEUから寄贈された情報収集・警戒監視・偵察(ISR)用に特化された「セスナ208」の引き渡しを受けました。前方監視型赤外線装置(FLIR)が装備されているこの飛行機は、3機の「Mi-24D」攻撃ヘリコプター、2機の「H215 " シュペルピューマ"」輸送ヘリコプター、1機の「C-295W」輸送機と共に、マリ空軍の中核を担う機体と言えるでしょう。[2]
このようにして、小さな戦力ではあるものの、結果的にこの地域で最も近代的で有能な空軍が誕生したのです。
「A-29B」は幅広い種類の精密誘導兵器を搭載可能ですが、マリには導入されていません。その代わり、現存している3機はガンポッドや無誘導ロケット弾、そして無誘導爆弾で武装しています(注:「TZ-04C」は2020年に事故で失われました)。 [3]
この飛行機は胴体下部にFLIR装置を備え付けることも可能ですが、アメリカが供給に関する合意に消極的だったため、結果としてマリへ引き渡されることはなかったと思われます。[4]
おそらくは「A29B "スーパーツカノ"」の有効性を高めるための手段が存在しないことに刺激を受けたせいか、マリはトルコや中国から精密誘導爆弾(PGM)を搭載できる無人戦闘航空機(UCAV)の導入を視野に入れているとみられます。
2021年5月にアッシミ・ゴイタ大佐が10年ぶり3度目の軍事クーデターで政権を握った時点までこの交渉はまだ継続しているように見受けられましたが、彼の政権はロシアとの関係強化を選択して西側諸国との関係をさらに悪化させています。
アッシミ・ゴイタ大佐による権力奪取のほぼ直後に、マリはロシアから新たな兵器類を調達したり、寄贈を受けました。
特にマリ空軍は両国の関係改善による恩恵を受けるに至りました。1年前の調印された契約に基づいて2021年12月に納入された4機の「Mi-171Sh」に加えて2機の「Mi-24P」攻撃ヘリコプターが引き渡されたのです。[5]
2021年12月には、現地の治安部隊を訓練するためにロシアのPMC「ワグネル」も自身の「オルラン-10」無人偵察機と防空システムを伴ってマリに公式に展開しています。[6]
「ワグネル」は治安部隊の訓練のみならず、フランスを陥れるためにマリの旧フランス軍基地の近くに集団墓地を設けたことや、約300人のマリ市民が犠牲になった「ムラの大虐殺」に関与していたことが現在までに判明しています。[7] [8]
2022年8月、マリ空軍はロシアから「Su-25」対地攻撃機1機、「L-39C」ジェット練習機・軽攻撃機6機、「Mi-24P」攻撃ヘリコプター2機、「Mi-8T」輸送ヘリコプター1機、そしてスペインから「C-295W」輸送機1機の引き渡しを受け、さらに強化されました(ただし、「Su-25」は
10月4日に墜落事故で失われてしましました。代わりに納入された機体も2023年9月に撃墜され、
保有機がゼロとなりました)。
「Su-25」と「L-39」の引き渡しについては、マリの近隣諸国の大部分がトルコから「バイラクタルTB2」UCAVを導入、またはその予定であることが要因となった可能性があります。実際、ニジェール、ブルキナファソ、トーゴ、ナイジェリアがすでに同UCAVを運用中か発注していますし、結果としてマリには2022年12月に3機のTB2が納入されました。[9]
自国の軍隊の需要を満たせるほどのUCAVを生産できないロシアは、マリ空軍にUCAVや関連技術を提供することができないというわけです。
「Su-25」と「Mi-24P」は、マリ軍のパイロットが十分に熟練するまで「ワグネル」によって運用される可能性がないわけではありません。しかしながら、厳しいパイロットの訓練で「Su-25」や「L-39」が欠いている誘導兵器の運用能力や高度な照準システム、そして危険なサヘル地域で必要とされる生存能力をカバーすることは不可能と言わざるを得ません。
政治的影響力を受けているかどうかは別として、減少しつつある軍備の蓄えを補う兵器類をロシアからまだ購入できるかもしれません。しかし、購入国はロシアの武器が21世紀の戦いに通用しないという現実に遅かれ早かれ直面することを余儀なくされるでしょう(2023ン年1月20日、マリ大統領府は新たに「Su-25」攻撃機1機、「L-39C」練習機5機、「Mi-8」汎用ヘリコプター2機が空軍に引き渡されたことを公表しました)[10]。
- このリストは、マリ空軍で運用されている航空機の総合的なデータ化を目的としたものです。
- 現時点で運用されていない機体はこのリストには含まれていません。
- このリストは、新たな飛行機やヘリコプターの導入に関する発表や発覚に伴って随時更新されます。
マリ空軍の運用兵器一覧
無人戦闘航空機(9)
対地攻撃機及び練習機(18)
1 Su-25: (1, TZ-25C,墜落) [2023年]- 15 L-39C: (1, TZ-10C) (2, TZ-11C) (3, TZ-12C) (4, TZ-13C) (5, TZ-14C) (6, TZ-15C) (7, TZ-18C) (8, TZ-19C) (9, TZ-30C) (10, TZ-32C) (11, TZ-34C) (12, TZ-36C) (13, 機体番号不明) (14, 機体番号不明) (15, 機体番号不明) [2022年と 2023年]
- 3 A-29B「スーパーツカノ」: (1, TZ-01C) (2, TZ-02C) (3, TZ-03C) [2018]
攻撃兼輸送ヘリコプター (16)- 4 Mi-35M: (1, TZ-11H) (2, TZ-12H) (3, TZ-13H) (4, TZ-14H) [2017 及び 2021] (FLIR装置を装備)
- 3 Mi-24D: (1, TZ-01H) (2, TZ-02H) (3, TZ-03H) [2009 及び 2012]
- 4 Mi-24P: (1, TZ-04H) (2, TZ-05H) (3, TZ-06H) (4, TZ-07H) [2022] (2022年4月のモプティ飛行場への攻撃で1機が損傷) (「ワグナー」によって運用されている可能性あり)
- 4 Mi-171Sh: (1, TZ-41H) (2, TZ-42H) (3, TZ-43H) (4, TZ-44H) [2021]
- 1 Mi-8MT: (1, TZ-98H)
輸送兼汎用ヘリコプター (4)
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