2020年2月22日土曜日
再武装が進むシリア軍: ロシアからT-62MV戦車とBRM-1(K)偵察車が到着した
著:スタイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)
2017年前半からT-62MとBMP-1、BMP-2、そして少なくとも1台の2S9自走迫撃砲がシリア軍に引き渡された後、シリアのイドリブ県から流出した新しい画像と映像はこれらの車両のより多くの派生型がロシアの「シリア急行」に載せられてシリア国内に送られたことを明らかにしました。
(内戦で疲弊した)シリア軍の再建におけるロシアの役割に従うと、「新しい軍隊」への装備と訓練を担当するのもロシアということになります。
これによってシリアは現時点でのシリア軍が保有する機甲戦力よりも遙かに高度なT-72B、T-90やBMP-3さえも追加分の装備として受け取れると信じる人もいましたが、今まで引き渡された装備のほとんどがロシア軍がもはや必要としなくなった大量の旧式兵器でした。
それにもかかわらず、これらの旧式兵器と車両の多くはシンプルな構造で運用も容易だったのでシリア軍に理想的に適していました。小火器と大量のウラル、GAZ、KamaZ、UAZ製トラックとジープの引き渡しに加えて、ほかの引き渡しではT-62M、BMP-1(P)と第二次世界大戦時代のM-1938(M-30)122mm 榴弾砲が含まれていました。また、2015年には少数のT-72、T-90、BMP-2が引き渡されました。
新しく引き渡されたT-62はシリア軍でも使用されているより現代的なT-72の派生型よりも劣っています。しかし、これらの旧式AFVの引き渡しはシリア軍の酷く枯渇した車両保管場所からすると今なお歓迎すべき追加となっています。T-62Mには T-90で見られる「シュトーラ」のようなアクティブ防護システムは装備されていませんが、同車の能力はT-55とそれ以前のT-62派生型よりも大幅に向上されています。BRM-1とBRM-1Kは攻撃・防御に関する能力の面では新しいものがほとんどありませんが、備えている偵察能力のために貴重な戦力(アセット)となる可能性が十分にあります。
T-62Mは1980年代前半までにより現代的な西側のカウンターパートによってひどく不利になったいくつかのT-62の古い派生型を共通の規格にアップグレードすることを目指した改修プログラムです。このプログラムは火力・防御力・機動力におけるT-62の欠点に対処することを目的としており、それまでに平均以下だった戦車の能力を大幅に改善しました。
T-62Mには強力な115mm砲の全潜在能力を活用するため、KTDレーザー測遠器を備えた「ヴォルナ」火器管制システムが搭載されました。また、この改良型はシリアに引き渡された可能性が低い砲発射式の9M117 (9K116-2)シェクスナ対戦車ミサイル(ATGM)の発射能力も得ました。この目的のために戦車長と砲手の双方が新しい照準システムを与えられ、夜間戦闘での有効性も大幅に向上しました。
装甲防御力の増強は砲塔前部と車体の前面装甲板の上下にBDD増加装甲を装着し、対戦車地雷に対する防御力の向上、そしてゴム製のサイドスカートと砲塔部分の耐放射線ライニングを追加することで達成されました。 T-62MVはBDD増加装甲を装着するかわりにコンタークト1爆発反応装甲(ERA)が砲塔、サイドスカートと車体の前面装甲板に装着されました。
結果として増加した重量は新型のV-55Uディーゼルエンジン(620馬力)を搭載することで対応しました。これらの全てに加えて、T-62Mには新しい砲安定装置、主砲用のサーマルスリーブ、新型の無線機、(砲塔の右側に)発煙弾発射機が装備されました。
T-62の1967年型や1972年型といったいくつかの派生型は一般的なT-62M規格に改修されましたが、1967年型にはDShK 12.7mm重機関銃が欠けているので双方の識別は容易にすることができます。興味深いことに、シリアはT-62M規格に改修された1967年型と1972年型の双方を供与されましたが、非改修の1972年型と今ではT-62MVも受け取っています。
(シリアへ送られる前にロシアで施されたロシアのH22-0-0鉄道輸送マーカーがまだ完全に残った状態の)少なくとも1台の非改修T-62の1972年型は既に2020年1月中旬にイドリブ県のバリシャ近郊で反政府軍によって捕獲されました。
鉄道輸送マーカーだけでなく、TSh-2B-41砲手用照準器を覆う防護カバーにも注目してください。これはシリア軍のT-72でよく見られる独自改修だからです。
その古さにもかかわらず、T-62M(V)はコーカサス地方での数十年にわたる対テロ作戦の後にロシア軍から退役したばかりです。現役から解かれた後で、T-62は中部及び東部軍管区、特にブリヤート共和国に位置するロシアの大規模な兵器保管庫で既に保管されていた装備に加わり、そのほとんどが二度と運用される姿を見られることはないと示唆しています。
それにもかかわらず、全面戦争の場合に大量の戦車とほかの装甲戦闘車両(AFV)を復活させるロシアの能力をシミュレートする演習に参加するために、相当な数のT-62が作動状態にレストアされました。現在では文字通り数千のより現代的な戦車が保管状態にあるため、T-62を保管庫に戻す理由はほとんどありません(注:T-62より新しい戦車が十分に保管されているため、大量の旧式戦車を保管する必要性が薄いということ)。
そして、ロシアは戦闘作戦での高い損耗率に苦しむ同盟国と利害が一致しました(注:戦車が必要な国と戦車が多すぎてそれらを手放したい国がうまくマッチングできたということ)。
シリアに出現する前に、既に一部のT-62Mは(シリアへ輸送するために)港に向かっている途中の姿をロシア各地で目撃されていました。これらの車両は後に「シリア急行」に積載されてタルトゥース港へ輸送されました。 [1] [2]
ロシアから流出した画像ではT-62MVの第一次発送が2018年5月の時点で既に(シリアに送るための)準備がされていたことを示唆していますが [3]、T-62MVがシリアで存在していたことを示す最初の証拠は1台の同戦車が損傷してタハリール・アル・シャーム機構(HTS)に捕獲された2019年8月までには表面化しませんでした。
[4] この車両の最終的な運命は不明のままですが、(同じくロシアから流れてきた)MRO-A対戦車ロケットが命中した場合は修復不能レベルまで損傷を受けた可能性が十分にあり得ます(注:引用元の動画ではMRO-Aの射線上にT-62MVがいます)。
[5] 2019年11月の日付がある下の画像はシリアで砂漠迷彩の塗装を施されたT-62MV群を写したもので、これらは2019年9月にタルトゥース港で目撃された約40台の戦車群に含まれていた可能性があります。これらの戦車とは逆に、シリアで運用されている非再塗装の戦車の大半では今なおシリアへの輸送前にロシアで施されたH22-0-0鉄道輸送マーカーを見ることができます。
T-62MVに加えて少数のBRM-1K偵察車が2017年前半にロシアから供与され、(2017年3月にイスラミック・ステートから成功裏に奪還した)タドムル近郊での作戦に参加しました。
引き渡されたBRM-1とBRM-1Kは過去にシリア軍で運用されたことがない種類の車両だけに注目に値します。
BRM-1(K)はBMP-1と同じ2A28 73mm低圧砲を装備していますが、砲塔は広くなって位置が車体の後部にずらされており、BMP-2を連想させる姿になっています。(偵察車という)新しい役割に従って、同車にはBMP-1に搭載されていた自動装填装置と対戦車ミサイル発射機は装備されず、73mm砲用の弾薬も40発から20発に減らされました。その代わり、レーザー測遠器、航法装置や検出装置、地雷検知器、さらには追加の無線機や全天候観測装置も搭載されました。
敵に発見された場合は、6発の902V 81mm「Tucha」発煙弾発射機が一時的にBRM-1Kの位置を隠し、その場から逃れられるようにします。
また、BRM-1Kはおおよそ7km先にあるAFVや2km先の移動する人を検出できるPSNR-5K「トール・マイク」地上監視レーダーも装備しています。新しい装備の追加で新たに6名の操作要員の増加が必要となり、その結果として歩兵を収納する能力は偵察兵用の2名分まで減少しました。
シリアに送られた車両に本来の装備がどの程度装着されているのか、本来の用途で実際に使用されているのかは不明ですが、単に軽戦車として使用されているシナリオが最も可能性が高いようです。
シリアに引き渡されたBRM-1とBRM-1Kの数は不明ですが、既に3台がイドリブで敵勢力に捕獲されています。そのうちの2台はこの記事の前半で言及したロシア供与のT-62(1972年型)とともにバリシャへの襲撃の際に襲撃者の戦利品となりました。
捕獲された残りの(1台の)BRM-1Kと1台のBRM-1は今年の2月6日にHTSによって使用されました。皮肉なことにそれらは4人以上が後部の区画に窮屈に入れられたIFV(歩兵戦闘車)/APC(装甲兵員輸送車)としての使用でした。[6]
BRM-1(K)の脆弱な側面装甲をさらに強固なものにするため、同車には戦場に投入される前にHTSによってスラットアーマーが装備されました。このBRM-1(K)の操縦手が戦場に向けて出発した数分以内に車体後部右側のドアを破壊したことにも注目してください。
シリアのBMP-1では(燃料タンクとしての機能もある)後部ドアを開放したままで運用することが一般的ですが、BRM-1(K)の後部区画の狭さではドアの開放は4人、あるいは6人の兵士さえも乗車させるためには必須の条件となります(注:ドアを開放しないと4~6人が乗車できないということ)。
3台目のBRM-1(k)はおそらく2019年8月下旬に捕獲された砂漠迷彩のBRM-1Kであると思われ、新たに調和した迷彩塗装を施された同車は2020年2月11日のナイラブに対する反攻作戦の際に初めて目撃されました。
このBRM-1Kも上の画像の車両ように改修され、側面にスラットアーマーが装備されました。特に興味深いことは、このBRM-1Kには砲塔前部に2つの正体不明の装備が装着されて改修されたことで、そのうちの1つはATGMの発射レールに酷似しています。皮肉なことに、この車両は運用している戦闘員によって「BMB(アラビア語では『P』の文字と発音が存在しません)」と呼ばれています。
また、下の画像トルコから引き渡されたM113にも注目してください。BRM-1Kと似た塗装が施されています。
シリアにとって、追加のT-62M(V)とBRM-1(K)の引き渡しはそれが意味する現在の傾向(注:ロシアの支援とほかの武器供与)よりもあまり重要ではない可能性があります。
シリア軍の備蓄を無制限に補充し、(疲弊した軍隊を)まとまった戦闘部隊として再建することができる同盟国:ロシアの存在によって、イドリブにおける政府軍の最終的な勝利は(将来の内戦の過程で)予期せぬ出来事が起きないかぎりは確実と思われます。
Dan、 Morant Mathieu、calibreobscura.comのCalibre Obscura の協力に感謝を申し上げます。
[1] #PutinAtWar: Soviet Tanks Reactivated in Russia’s East https://medium.com/dfrlab/putinatwar-soviet-tanks-reactivated-in-russias-east-a81a111051a1
[2] Russia has dug out another trainload of T-62M and T-62MV tanks from their depots. This time near Ulan-Ude https://russia.liveuamap.com/en/2019/27-may-russia-has-dug-out-another-trainload-of-t62m-and-t62mv
[3] https://twitter.com/MathieuMorant/status/1193848312283185152
[4] https://twitter.com/calibreobscura/status/1167187591843733505 and https://twitter.com/CalibreObscura/status/1166616999801315329
[5] https://twitter.com/obretix/status/1185924505413308423
[6] https://twitter.com/Danspiun/status/1225539780118827009
※ この翻訳元の記事は、2020年2月9日に投稿されたものです。当記事は意訳など
により、本来のものと意味や言い回しが異なったり、割愛している箇所があります。
正確な表現などについては、元記事をご一読願います。
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2020年2月1日土曜日
忘れられた軍隊:沿ドニエストルの小さなタンクバスター
著:ステイン・ミッツァー(編訳:Tarao goo)
トランスニストリア、公式には沿ドニエストル・モルドバ共和国(PMR)と呼ばれているこの国は、1990年に沿ドニエストル・ソビエト社会主義共和国として独立を主張して続く1992年にモルドバから離脱して以来、隠れた存在であり続けている東ヨーロッパの分離独立国家です。
1992年に武力紛争が終結したにもかかわらず、沿ドニエストルの情勢は非常に複雑です。この離脱国家は(平和維持活動で軍隊を残留し続けている)ロシア連邦への加入を希望している一方で、わずかな生産物の輸出をモルドバに大いに依存し続けており、それが経済産出量となっているためです。それにもかかわらず、沿ドニエストルは独自の陸軍だけでなく空軍すら保有する事実上の国家として機能しています。
注目すべき発展は沿ドニエストル独自の軍需産業で見ることができます。そこではモルドバ内戦中に非常に活発的となり、モルドバ軍に対して使用する装甲兵員輸送車(APC)や複数の多連装ロケット弾発射機(MRL)を含むさまざまなDIY兵器を生産していました。停戦後、この軍需産業はこれまでに旧ソ連製兵器のストックを置き換えることができなかった沿ドニエストル軍の運用状況を維持する上で重要な役割を果たそうとしました。
この状況を改善するために国内で多くの動きがありましたが、程なくして沿ドニエストルは少なくとも(その時点で)軍が使用できる装甲戦闘車両(AFV)の寄せ集めを埋め合わせるために独自のAFVの製造を始めました。私達は既に以前の記事で「BTRG-127 'バンブルビー'APC」と「プリボール-2」多連装ロケット砲を取り上げていますが、今回紹介する車両はその珍しさと可愛らしい姿でそれらの一群に歓迎すべき追加となります。
滅多にお目にかかれないソ連のGT-MU軽多目的装甲車がベースである「小さなタンクバスター」は、小さくて軽快なプラットホーム車両とSPG-9 73mm無反動砲(RCL)を組み合わせたものです。そして、この組み合わせは不用心な敵に対する待ち伏せや車両や要塞化された構造物、集結した敵歩兵に対する火力支援任務に理想的に適した移動プラットホームを形成します。
2018年11月にT-64BV戦車や対戦車砲、重迫撃砲と共に火力演習に参加した状況から、少なくとも3台が運用状態にあることが確認されています。
今日の世界ではGT-MUが登場することは極めて珍しいので、このキャッチしにくい車両の存在自体を知る人は殆どいません。
それにもかかわらず、同車はSPR-1移動式電波妨害システムを含むいくつかの高度に特化された派生型のプラットホームとしても使われました。SPR-1は電波妨害によって迫撃砲や野砲から発射された砲弾の近接信管を電波妨害によって無力化するシステムで、ソ連、チェコスロバキア、ハンガリー、シリア、東ドイツで運用されましたが、東ドイツではたった2台だけしか入手していません。小火器や砲弾の破片から上手く防護されているため(注:装甲自体は同じため)、同車は偽装網がかぶせられていると通常のGT-MUと判別が難しくなり得ることでその悪名をとどろかせています。
GT-MUがどのようにして沿ドニエストルの手に入ったのかは過去にこの地域に駐留していたソ連地上軍第14軍の装備編成から知ることができます。ソ連崩壊後、軍を形成していた多くの兵員と装備は駐留していた地に新しくできた国家に属するようになりました。沿ドニエストルが支配地にある武器貯蔵庫を掌握した時点で歩兵戦闘車両や(自走式を含む)野砲は殆ど残されていませんでしたが、大量の特殊車両を引き継ぐことができました。
このような経緯で沿ドニエストル軍は突然として明確な用途が定まっていない大量のGT-MUの所有者となったのです。しかし、GT-MUは当初から多目的プラットホームとして設計されていたため、沿ドニエストルは同車のいくつかを砲兵・MRL部隊の指揮観測車に転換し、残りを砲兵の牽引車や今では即席の対戦車車両として採用しています。
結果として得られた車両は沿ドニエストルの軍需産業によって大量生産された他のDIY装備群よりは間違いなく革新的ではありませんが、「タンクバスター」の武装は同国のもっともらしい唯一の宿敵が運用しているAFVに対処するには十分でしょう。
その理由は簡単で、(数年前に戦車を退役させた)モルドバ軍が実戦に招集できるAFVはSPG-9の73mm HEAT弾に対する防御力が貧弱な軽装甲車両:BMD-1 IFVしかないからです。
「小さなタンクバスター」の上部に取り付けられたSPG-9は同砲の両側にある2つのハッチから一名の乗員が操作をします。もちろん、装填も可能です。実際のところ、妥当な射撃速度を持続させるために車内の兵員用区画から操作する装填装置が必要になります。
「小さなタンクバスター」の上部に取り付けられたSPG-9は同砲の両側にある2つのハッチから一名の乗員が操作をします。もちろん、装填も可能です。実際のところ、妥当な射撃速度を持続させるために車内の兵員用区画から操作する装填装置が必要になります。
確かにこの対戦車型GT-MUは現代の対戦車車両よりも性能は劣っています。それにもかかわらず「可能性を秘めた小さなタンクバスター」は全くコストをかけずに沿ドニエストル軍の火力を増強する面白い試みであり、自称「共和国」が分離独立国家しての地位を存続させるために必要な措置の一環と言えるでしょう。
※ この記事は、2020年1月24日に本国版「Oryx」で投稿された記事を翻訳したもので
※ この記事は、2020年1月24日に本国版「Oryx」で投稿された記事を翻訳したもので
す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なったり、割愛してい
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