2023年6月24日土曜日

シェフズ・スペシャル:2023年「プリゴジンの乱」で各陣営が喪失した兵器類(一覧)


著 ステイン・ミッツアー と ヤクブ・ヤノフスキ in collaboration with ヨースト・オリーマンズ, ケマル, ダン, アロハ と naalsio26

  1. この一覧は、写真や映像などによって証明可能な撃破または鹵獲された兵器類だけを掲載しています。したがって、実際に喪失した兵器類は、ここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。
  2. ロシア空軍のパイロットによって運営されているテレグラム・チャンネル「ファイター・ボンバー」も、ロシアの航空戦力損失の関する十分な資料とみなしています。
  3. ワグネルがロストフ・ナ・ドヌー北側で航空機やヘリコプターを鹵獲したと主張していますが、現時点では一覧には掲載されていません。
  4. この一覧には、民間車両や放棄された装備類は含まれません。
  5. 各兵器類の後に続く番号をクリックすると、損失した当該兵器類の画像などが表示されます。
  6. 日本語版での最終更新日:6月27日午後11時(同日午前4時30分ころの本国版のデータを反映

ロシア政府軍側[連邦軍など] (9, このうち撃破・墜落: 7,  鹵獲: 2)

航空機 (1, このうち墜落: 1)

ヘリコプター (6, このうち墜落: 6)

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両  (1, このうち鹵獲: 1)
  • 1 カマズ-435029「パトロール-A」: (1, 鹵獲)

歩兵機動車 (1, このうち鹵獲: 1)


ワグネル側 (5, このうち撃破: 5)

歩兵機動車 (1, このうち鹵獲: 1)


テクニカル (2, このうち撃破: 2)

各種車両 (2, このうち撃破: 2)



2023年6月23日金曜日

大きさが全てじゃない:ルクセンブルク軍の航空隊


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ルクセンブルク大公国は小規模ながら十分に装備された軍隊を有しており、2020年からはその中に航空部隊も含まれることになりました。ルクセンブルク軍の独立した軍種ではないにもかかわらず、この部隊は2020年に納入された唯一の現用機(1機の「A400M」)のおかげで世界で最も現代的な航空戦力を構成しています。

 この地味な偉業についてはともかく、近年のルクセンブルクはエアバス「H145M」ヘリコプター2機、エアバス「A330」空中給油・輸送機(MRTT)1機、エアロバイロメント「RQ-11 "レイブン" 」、「RQ-20 "プーマ"」、「RQ-21 "インテグレーター"」無人偵察機(UAV)を入手することを通じて航空戦力をさらに増強しています。また、救急搬送、戦術空輸、洋上監視用の航空機やヘリコプターの追加導入も近い将来に予定されているようです。[1]

 2001年に「A400M」軍用輸送機1機を調達したことで、ルクセンブルクは1968年に空中観測や連絡業務に使用していたパイパー「PA-18 "スーパーカブ" 」3機を退役させて以来、再び航空機を運用するようになりました。[2]

 「A400M」プログラムにおける開発遅延により、最終的にルクセンブルク軍がこの輸送機を受領できるようになるまでは、最後の航空機を退役させてから52年後の2020年10月までかかることになったのです!

 ルクセンブルクに引き渡された「A400M」は、ブリュッセル近郊のメルスブローク空軍基地を拠点とするベルギー空軍第15航空輸送団で共同運用されています。現在、ルクセンブルクのフィンデル国際空港に政府の(航空)拠点を設けることが検討されていますが、現時点のルクセンブルク軍には空港に専用のスペースがありません。[2]

 ルクセンブルクの「A400M」はベルギーに駐機しており、(2024年に納入予定の)「A330 MRTT」はオランダのアイントホーフェン空軍基地かドイツのケルン空港に駐機予定であるほか、ルクセンブルクの無人機は手や空気圧で射出されるため、(少なくとも救急搬送機や海上監視機を導入するまでは)空港に専用のスペースはほぼ必要ないと言って差し支えないでしょう。

 ルクセンブルクの航空部隊は自身の基地を持っていないにもかかわらず、国の紋章をモチーフにした独自のラウンデルを用いています。このカラフルなラウンデルは、ルクセンブルク機として登録されているNATO諸国の「E-3A "セントリー"」AWACS17機にも施されています。

当然ながら、ルクセンブルクの「A400M」には同国のラウンデルが施されている
 
 2020年の納入以降、「A400M(CT-01)」はルクセンブルクによる欧州連合マリ訓練ミッション(EUTM)の支援で兵士と彼らの装備をマリへ輸送すために投入されたほか、ルクセンブルク軍がウクライナに寄贈した軍用品をポーランドへ移送するためにも使用されています。[3]

 内陸国であるルクセンブルクは長年にわたって軍の展開や人道援助を支援するための人員や物資の輸送手段を求めており、かつてはベルギーと共同でドック型輸送揚陸艦(LPD)を導入することすら検討されていたことはあまり知られていません。この計画については、相次ぐコストの増加とベルギーの国防費が削減されたことにより、結果として2003年に頓挫してしまいました。[4]

 海上輸送能力に対する関心が再び高まる可能性は低いと思われる一方で、ルクセンブルク軍は2016年にNATOの多国籍「A330 MRTT」飛行隊の創設メンバーとなり、毎年200時間の飛行を割り当てられています(この飛行隊の「A330 MRTT」はNATOの所有となっており、各機が年間の飛行時間を割り当てられた 6つの加盟国によって資金提供されています)。2020年、ルクセンブルクは既存の契約オプションを行使して9機目を導入するための資金を提供することによって、飛行時間をさらに1,000まで引き上げることを確実にしました。[5]

 空中給油が可能な高速ジェット機を所有していないにもかかわらず(ただし、同国の「A400M」は取り外し可能な給油プローブを備えていますが)、ルクセンブルクはNATOのMRTT飛行隊には3番目の規模で参加している国であり、自身に割り当てられた飛行時間を他の加盟国に提供することによって、NATOの活動に大きく貢献することを可能としています。

 ルクセンブルクは人口が65万人未満であり、明らかに大規模な常備軍を増強する見込みがないことことを考慮すれば、この国によるNATO共同プロジェクトへの資金援助の強化も可能と言えるでしょう。例えば、NATOの「E-3A "セントリー"」AWACS飛行隊の更新に伴う多額の資金を提供することが考えられます。これによって、NATO加盟国間のより公平な負担の分担が可能となり、この目的を達成するために自国の軍隊を増強する必要がなくなるというわけです。

 これまでのルクセンブルクは防衛費をGDPの2%に引き上げることに消極的でしたが、その代わりに2028年までに年間の防衛費をGDPの1%、つまり10億ユーロ(約1,440億円)近くに引き上げることを目標に設定しました。[6]

オランダのアイントホーフェン空軍基地にタッチダウンする「A330 MRTT」:ルクセンブルクはNATOの多国籍「330 MRTT」飛行隊の一部となる9機目の資金を提供した

 2020年までルクセンブルク軍には欠けていた戦力がありました...それは高度なヘリコプター部隊です。

 以前は警察に就役した「MD902 "エクスプローラー"」1機とルクセンブルク航空救難隊で使用されている「MD900」2機に依存していましたが、2018年にルクセンブルク国防省は監視任務や対テロ作戦用に、軍で使用する「H145M」2機を発注しました。ちなみに納入された2機は警察のマークを施されて運用されていることからも分かるとおり、警察が「H145M」を用いて執行活動を行うことも可能です。[7]

 戦術的空輸能力を獲得するため、将来的に大型ヘリコプターの導入の検討も想定されています。[1]


 ルクセンブルク軍で驚くほど優れているのは無人航空戦力であり、彼らは より大きないくつかの欧州諸国を上回る能力と数を誇る無人機部隊を運用しています。近年におけるこの部隊の戦力については、12機の「RQ-11 "レイブン"」、数量不明の「RQ-20 "ピューマ"」、4機の「RQ-21 "インテグレーター"」、そして「アトラス・プロ」手投げ式UAVで構成されています。[8] [9] [10]

 ルクセンブルクは、合成開口レーダー(SAR)及びEO/IRセンサーを搭載した「RQ-4D "フェニックス"」 高高度長時間滞空(HALE)型無人偵察機5機を飛行させているNATOの同盟地上監視プログラム(AGS)のメンバーでもあります。

 現在、ルクセンブルク軍はパートナー国と協力してさらなる航空監視プログラムに参加するか、その代わりに必要な航空機やUAV、そしてデータ解析能力を自身で導入するかを検討しているところです。[1]

 (ベルギーも調達した)アメリカの「MQ-9B "スカイガーディアン" 」やイスラエルのエルビット「ヘルメス 900」といった、多岐にわたる高度なペイロードを備えた(より大型の)無人偵察機の導入は、比較的少ない人的資源の投資で済むことに加えてNATOの能力向上に著しい貢献をすることも可能となるでしょう。

 ルクセンブルクのような小さな国では必然的に空域が狭いため、大型UAVを使った日常の運用や訓練は不可能ではないにしても、大きな支障となることが不可避です。この点の対応は、ベルギーなどのパートナー国と提携する可能性はルクセンブルクにとって特に魅力的な選択肢となるかもしれません。

 洋上監視機を導入した場合は入手した機体を内陸国以外の空軍基地に配置させることも必要となりるものの、アデン湾のような不安定な海域でルクセンブルクの旗を守り、地中海では欧州対外国境管理協力機関(Frontex)を支援することに導きます。



 より大型のUAVまたは洋上監視機を調達することで空中偵察能力を万全にできる一方で、ルクセンブルクは2018年に官民連携(PPP)で政府所有の通信衛星「GovSat-1」を打ち上げることによって宇宙にも進出しました。

 「GovSat-1」は、複数の政府特有のミッションのために高出力かつ操作可能なスポットビーム照射能力を備えた軍用の周波数(Xバンドおよび軍用Kaバンド)を用いる多目的衛星であり、ヨーロッパのみならず中東やアフリカもカバーしています。

 ルクセンブルク政府はこの新しい人工衛星で割り当てられるデータ容量の大半を事前に押さえており、残りの容量はほかの政府機関や団体といった顧客に提供されることになっています。

 ルクセンブルク国防省は、需要に応じて今後10年間で衛星コンステレーションを徐々に拡大させていく場合の利点を検証する予定です。[1]


 場所が空でも宇宙でも、種類も有人・無人だろうと、ルクセンブルク軍の航空部隊には最初に目にした以上の価値があることは間違いありません。

 この部隊は半世紀わたる休養状態から復活したばかりですが、今後10年間に計画されている目覚ましい規模の調達で急速に能力を拡大することになっています。 ルクセンブルクは空中監視/偵察、空中給油、輸送などの重要な分野に投資することで、さらなるNATOの支援を可能にするわけです。

 今後もこの投資が継続されるならば、この国は貴重なNATO加盟国として未来に羽ばたいていくでしょうし、真の能力の尺度として、献身は自身の規模に勝ることを実証することになるのです。


[1] Luxembourg Defence Guidelines for 2025 and Beyond https://defense.gouvernement.lu/dam-assets/la-defense/luxembourg-defence-guidelines-for-2025-and-beyond.pdf
[2] Luxembourg Army Aviation http://www.aeroflight.co.uk/waf/lux/army/lux-army-home.htm
[3] https://twitter.com/Francois_Bausch/status/1590708549407342598
[4] Navire de transport stratégique belgo-luxembourgeois (NTBL) [belgian-luxembourg strategic transport vessel Command, Logistic Support & Transport (CLST) https://www.globalsecurity.org/military/world/europe/clst-h.htm
[5] Multi Role Tanker Transport Capability https://english.defensie.nl/topics/international-cooperation/other-countries/multi-role-tanker-transport-capability
[6] Luxembourg to double defence spending by 2028 https://www.luxtimes.lu/en/luxembourg/luxembourg-to-increase-defence-spending-by-2028-62b5739cde135b9236c55bc6
[7] Polizeihubschrauber offiziell vorgestellt https://www.wort.lu/de/lokales/polizeihubschrauber-offiziell-vorgestellt
[8] Matériel - UAV https://www.armee.lu/materiel/uav
[9] https://twitter.com/ArmyLuxembourg/status/1576878178286850049
[10] SIPRI - Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php

※  この記事は、2022年12月2日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した 
  ものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所がありま
    す。

2023年6月18日日曜日

スロヴァク人の決心:スロバキアによるウクライナへの軍事支援(一覧)


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ

  1. 以下に列挙した一覧は、2022年からのロシアによるウクライナ侵攻の最中にスロバキアがウクライナに供与した、あるいは提供を約束した軍事装備等の追跡調査を試みたものです。
  2. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されており、末尾には供与された月などが記載されています)。
  3. 一部の武器供与については機密扱いであるため、寄贈された武器などの数量はあくまでも最低限の数となっています。
  4. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  5. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。
  6. この一覧は、追加の軍事支援が表明されたり、判明したりした場合に更新される予定です(数の増減や名称の変更なども含みます)。
  7. 「*」は ウクライナまたはEU加盟国がスロバキア企業から調達したものを指します。
  8. 「** 」はドイツの循環的交換政策で引き渡したスロバキアのストック品を指します。

戦闘機 (13)

多目的・汎用ヘリコプター (5)

地対空ミサイルシステム (1個中隊分 と 発射機2台)

レーダー (4)

自走砲 (24)

歩兵戦闘車(30)
  • 30 BVP-1** [2022年11月] (ドイツの「循環的交換政策」を通じて15台の「レオパルト1A4」戦車と引き換えにスロバキアのストック品から供与)

工兵・戦闘支援装備 (2)

携帯式地対空ミサイルシステム (MANPADS) (100)
  • 100 形式不明のMANPADS [2022年]

対戦車ミサイル
  • ''形式不明の対戦車ミサイル'' [2022年2月と3月]

小火器
  • ''形式不明の小火器'' [2022年初頭]

空対空ミサイル

空対地兵装

弾薬類
  • 5V55R 地対空ミサイル (「S-300PMU」用) [2022年4月]
  • 52 3M9ME 地対空ミサイル (「2K12M2 "クーブ-M2"」用) [予定]
  • 148 3M9M3E 地対空ミサイル (同上) [予定]
  • 486 ''防空ミサイル'' (MANPADS用) [2022年]
  • M107 155mm砲弾 (自走砲用) [2022年6月・現在も供与中]
  • 122mm 砲弾 (同上) [予定]
  • 152mm 砲弾 (同上) [同上]
  •  数千 122mmロケット弾 (「BM-21 "グラード"」用) [2022年初頭]
  • 12.000 120mm迫撃砲弾 [同上]
  • 57mm 機関砲弾 (「AZP S-60」対空機関砲用) [2022年5月以前]
  • S-8 80mm無誘導ロケット弾 (「MiG-29」用) [2023年3月と4月]

被服及び個人装備
  • 防寒服 [2023年初頭]

その他の装備品
  • MiG-29 戦闘機用の予備部品 [2023年3月と4月]
  •  地上支援機材(「MiG-29」用) [同上]
  •  2,000,000リットル 航空燃料 [2022年初頭]
  • 10,000,000リットル ディーゼル燃料 [同上]

※ この記事は2022年4月11日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳した 
 ものです。