2022年4月30日土曜日

ジェットの響きよもう一度:タリバン空軍がジェット機の再運用に向けて動き始めた(短編記事)



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 カブール国際空港(IAP)からのアルジャジーラのリポート映像は、ここ最近の「新アフガニスタン空軍(タリバン空軍)」が高速ジェット機の導入に向けた作業に取り組んでいる様子を放送しました。[1]

 この映像には、2010年代初頭からカブールIAPで保管状態にあった「L-39」練習機がエンジンテストを受けている様子を映し出していました。[2]

 アメリカが旧アフガニスタン空軍による「Mi-24」攻撃ヘリコプターと「L-39C」練習機の運用については全く役に立たないとみなしていました。特に「L-39」は過去数年間で一度も飛行したとは考えられていなかったにもかかわらず、両機種の双方が運用可能な状態に維持されていました。

 アフガニスタンが合計で26機の「L-39C」をチェコスロバキアから入手したのは1970年代後半のことであり、これらはアフガニスタン北部にあるマザーリシャリーフ空軍基地の第393訓練飛行連隊で運用に就きましたが、後にたった3機の「L-39」が1990年代の内戦とアメリカによる侵攻から無傷で生き残ったと考えられています。 [3]

 ロシアでのオーバーホール後、「新生アフガニスタン空軍」はさらに数年間はこれらの機体を飛ばし続けました。しかし、L-39はジェット機のパイロットを訓練するために使用されるというよりも、閲兵式のような式典に参加するために飛ばされていたようです。

 「L-39C」は両主翼の下に1つずつハードポイントを装備しており、それらには「UB-16」57mmロケット弾ポッドか最大で250kgまでの無誘導爆弾を搭載することが可能です。

 「L-39」が今や「新アフガニスタン空軍」で運用されている他の大半の機体と同様に、旧「新生アフガニスタン空軍」の要員によって飛行と整備が行われている可能性が高いということは、極めて道理にかなったものと思われます(注:タリバン側にこれらの整備や飛行をできる人材が存在しないため)。

 興味深いことに、タリバンは旧空軍時代に施されたラウンデルをしばらくの間は使用し続けているようです(注:当然ながら、将来的に変更される可能性はあります)。




 タリバン空軍は、数機の「A-29B」も稼働状態への回復を試みる可能性があるでしょう。
 
 これらは「L-39」よりもはるかに優れた能力を空軍にもたらしますが、タリバンによる旧空軍機の今後の再使用を阻止するためにアメリカ軍によって講じられた無力化措置の結果として、ほとんどの機体はコックピットに大きな損傷が生じたものと考えられています。



 タリバン軍は、数機の「An-32」輸送機を稼働状態に戻すことにも試みてきました。これらの機体はアメリカが「新生アフガニスタン空軍」に「C-27」の運用へ移行させようと推し進めた結果として2011年6月に正式に退役しましたが、肝心の「C-27」は支援整備の不足がまともな運用を阻んだため、この機の運用については財政面や運用面での大失敗に終わってしまいました。

 「C-27」は最終的に廃棄された一方で、「An-32」の多くは半稼働状態で残されていました。アルジャジーラの映像では、少なくとも5機の「An-32」と「An-26」が作業を受けている様子が確認できます。

 今後は、これらの機体が「新アフガニスタン空軍」の中核を形成することになると思われます。





 今回の映像には、数機の「UH-60」ヘリコプターの飛行作戦が依然として続けらえていることに加えて、アメリカ軍による無力化措置によって修理待ちであったり修理不能なレベルの損傷を受けた18機の「UH-60」が並んでいる様子も映し出されていました。

 後者は、ほかの「UH-60」の稼働状態を維持するためのスペアパーツの供給源となる可能性が高く、今後何年にもわたってタリバン空軍に安定したスペアパーツを提供することになるでしょう。



[1] https://www.facebook.com/watch/?ref=saved&v=1061986771321991
[2] https://twitter.com/HeshmatAlavi/status/1432425159047225353
[3] Wings over the Hindu Kush Air Forces, Aircraft and Air Warfare of Afghanistan, 1989-2001 https://www.helion.co.uk/military-history-books/wings-over-the-hindu-kush-air-forces-aircraft-and-air-warfare-of-afghanistan-1989-2001.php

※  当記事は、2021年12月9日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。




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2022年4月27日水曜日

自由主義諸国の盟友:スロバキアがウクライナへ「MiG-29」の供与を検討する


著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 スロバキアはNATO加盟国の中で最も小さな軍事力を持つ国の1つですが、それでもロシアの侵攻を阻止するために必要な種類の兵器をウクライナに供与するという重要な役割を担っています。

 供与された兵器には、12,000発の120mm迫撃砲弾、携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)や対戦車ミサイル(ATGM)のみならず、国内で一式しか存在しない「S-300PMU」地対空ミサイル(SAM)システムも含まれています。[1] [2] 

 このSAMは本質的にこの国で唯一敵機に通用する地上配備型の抑止力を構成していましたが、ウクライナの劣悪な防空戦力を増強するため、スロバキアはその貴重な戦力を自ら手放すことを受け入れたのです。

 結果として生じた戦力の空白について、短期的にはスロバキアに配備されたアメリカ軍の「パトリオット」SAMシステムで補うことになりますが、長期的には失われた戦力を補うべく自国軍用のSAMを導入するか、そうでなければ完全に断念しなければならないでしょう。[3]

 現在、スロバキアは自国空軍の「MiG-29」戦闘機の全機をウクライナに供与することも検討しています。これはゼレンスキー大統領からの長きにわたる追加の戦闘機を求める声にようやく耳を傾けた動きと思われます。[4] [5] 

 ウクライナに追加の戦闘機を供与することで生じる実際のメリットについては(ゼレンスキー大統領が数多く求めている別の重火器群と同様に)議論の余地があるものの、ウクライナに「MiG-29」を引き渡すことが市民と軍の士気を高め、2月24日にロシアが侵攻を開始して以来、この国が最も声を上げてきた要望に応えることになるのは確実であることは言うまでもありません。

 スロバキア空軍は、同国中部に位置するスリアチ空軍基地で、単座の「MiG-29AS」戦闘機9機と復座の「MiG-29UBS」練習機2機を運用しています。領空警備における必要最小限の要件に応じるため、現時点では僅か5機の「MiG-29AS」と1機の「MiG-29UBS」だけが稼働状態にあると考えられており、空軍は2023年の単座12機、複座2機の「F-16V(ブロック70/72)」への更新を待ち望んでいる状態にあります。

 スロバキアが保有する全ての「MiG-29」は、2005年から2008年にかけて「RSK ミグ」社によってNATO規格に改修され、「MiG-29AS」と「MiG-29UBS」(注:SはスロバキアのSを意味します)と新た呼称されるようになりましたが、その戦闘能力自体は、1980年代後半にチェコスロバキアに初めて納入された時のレベルを維持しています。

  残念なことに、そのことは「MiG-29AS」が、2022年のロシアによる侵攻における戦闘にて(視覚的に確認されたもので)少なくとも4機の損失を出している、ウクライナ軍が保有している60機の「MiG-29 "製品9.13"」とその改良型である「MiG-29MU1」より性能が劣っていることを意味しています(注:スロバキア軍の「MiG-29AS」は「製品9.12」という初期型の規格です)。[6] [7]

 ウクライナはロシアの飛行機やヘリコプターから都市や地上部隊を防衛するために追加の戦闘機が必要だと断固として主張していますが、そうした任務については、移動式のSAMシステムの増強によってより適切に対処されることは間違いないでしょう。

 一般的な見方に反して、これまでにウクライナの戦闘機がロシア空軍の日常的な作戦を著しく阻害したことを示唆するような兆候はほとんど見られません。

 以前に、アメリカはウクライナに対する「MiG-29」の供与を引き受ける見込みがある国としてポーランドとブルガリアに目を向けていましたが、興味深いことに「MiG-29」はウクライナが提示したウィッシュリストには入っていませんでした。

 私たち筆者らが入手したウクライナ軍の要求を提示した文書では、望ましいとされる援助の中に、驚くべきことに真新しい「F-15EX」戦闘機、「F-15SE」戦闘爆撃機、「A-10 "サンダーボルトII"」対地攻撃機が含まれていたのです。

 「 F-15SE "サイレント・イーグル"」が単なる提案モデルで終わって実機が1機も製造されなかったことや、アメリカ空軍が「F-15EX "イーグルII" 」の最初の1機を受領したばかりであることを別にすれば、このような要求は、ウクライナ空軍の要員がこれらの機種を効果的に使用するための戦術を習得するどころか、機体の習熟自体に何ヶ月も要する事実すら完全に無視していることは明らかです。

スロバキアの「MiG-29」は魅力的なピクセル・パターンの制空迷彩が施されていることで知られています

 結局、ポーランドとブルガリアの「MiG-29」をウクライナに供与するという試みが実現することはありませんでした。おそらく、ATGMやMANPADSといった、よりシンプルな(そして政治的に安全な)携行型の兵器と比較した場合、 その供与が(政治的な)リスクが高すぎて厄介なものになると判断されたからでしょう。

 同様に、ポーランドはウクライナへの「MiG-29」の供与について、ウクライナが実際に必要とする防衛上のニーズを超えるものとみなしている可能性もあります。ロシアとの緊張が常に高くなっている中で、ポーランド空軍はMiG-29を譲渡することによって失われる防空戦力を担う代替機をすぐに見つけなければならないという事実もあったことから、この供与が実現しなかったのは決して驚くようなことではありません(注:ポーランドは保有する「MiG-29」全機をアメリカを介してウクライナへ供与する意向を表明しましたが、アメリカが難色を示したため、最終的に頓挫してしまったことは日本でもよく知られています)。

 同じ結果がスロバキアに影響を及ぼす可能性があります。同国は(少なくとも2023年まで)保有する全戦闘機を失った後でも自国の領空を防衛できるという保証が得られる場合に限って、ウクライナへの「MiG-29」の譲渡が可能だと以前から表明していましたからです。

 このような保証は、ポーランドやチェコ空軍がスロバキアの緊急発進待機任務(QRA)を引き継ぐか、NATO軍機を一時的にスロバキアに駐留させて領空警備の任務を遂行させることで実現できるかもしれません。

 仮に「MIG-29」の供与が実現すれば、これらの機体はウクライナ西部にある空軍基地に駐留することになるでしょう。空軍基地周辺での分散配置と頻繁に移動させることは機体の生存率を大幅に向上させる可能性に寄与し、それによってロシアはウクライナ空軍の壊滅に向けて現在も取り組んでいる作戦の強化を余儀なくされるのです。

 ロシアは戦争が2ヶ月を経過しても依然として敵空軍の壊滅ができていないことを踏まえると、航空基地への攻撃を強化したところで、それが近いうちに成功する兆しはほとんどありません。

 敵機の撃墜や地上兵器の撃破という観点からすると、「MiG-29」の増加がもたらす具体的な貢献は大したことはないかもしれませんが、ロシア側が損失を防ぐために作戦を修正する必要が出てくるという事実だけでも、現地の戦況にかなりの影響を与えることができます。

 ロジスティックスと既存の知見の観点からすると、可能性があるスロバキアからの「MiG-29」の供与は、これまでのところ、ウクライナに航空戦力を引き渡す計画としては最も現実的なものと思われます。すでにパイロットは同機種の訓練も済んでおり、兵装や関連するインフラも共通であるため、ウクライナ空軍へのスムーズな移行が見込まれるという理由があるためです。

 これは少なからず真実と言えるでしょう。なぜならば、供与に関係する戦闘機はごく僅かの数にすぎないと予想されており、ウクライナ空軍への統合は容易なものの、戦局における潜在的な影響は限定的なものに限られるからです。

 その意味で、これらの戦闘機がもたらす象徴性や心強さは、実際の戦闘力をはるかに凌駕するかもしれません。

ウクライナへ向かう「S-300PMU」SAMシステム(2022年4月8日)

 スロバキアは、有意義な物的支援をするために、必ずしも相当規模の軍隊を有する大国である必要がないことをすでに実証しています。

 現段階でドイツやフランスといった主要なNATO諸国がウクライナに装甲戦闘車両や大砲などの重火器を提供するのを見合わせているため、スロバキアやポーランド、そしてチェコなどの中欧諸国がその不足を補ってウクライナの戦闘の維持に貢献しているのです(注:フランスは「カエサル」155mm自走榴弾砲の供与を表明しました)。

 スロバキアの「MiG-29AS」が近いうちにこの戦いに加わるかどうかはまだ不明ですが、仮に供与が実現しなかったとしても、スロバキアがヨーロッパの自由を大いに助けたという事実は変わらないでしょう(注:4月21日にアメリカ国防総省のジョン・カービー報道官はウクライナが同盟国から戦闘機の部品を供与された旨を公表しました。供与した国や数は伏せられていますが、それにスロバキアが含まれている可能性があることは言うまでもありません)。


[1] Slovakia to send artillery ammunition, fuel worth 11 mln euros to Ukraine https://www.reuters.com/world/europe/slovakia-send-military-material-worth-26-mln-euros-ukraine-media-2022-02-26/
[2] Slovakia sends its air defence system to Ukraine https://www.reuters.com/world/europe/slovakia-gives-s-300-air-defence-system-ukraine-prime-minister-2022-04-08/
[3] U.S. to place Patriot missile defense system in Slovakia to help with Ukraine swap https://www.npr.org/2022/04/08/1091711705/us-missile-defense-system-slovakia-ukraine
[4] Slovakia ready to donate MiG-29 fighter jets to Ukraine https://kafkadesk.org/2022/04/15/slovakia-ready-to-donate-mig-29-fighter-jets-to-ukraine/
[5] Slovakia in talks over possible transfer of MiG jets to Ukraine https://www.politico.eu/article/slovakia-mig-jets-to-ukraine-prime-minister-eduard-heger-bratislava/
[6] Guardians of the Ukraine: The Ukrainian Air Force Since 1992 https://books.google.com/books/about/Guardians_of_the_Ukraine.html
[7] List Of Aircraft Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine Slovakia in talks over possible transfer of MiG jets to Ukraine

※  当記事は、2022年4月19日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
  ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所      があります。

2022年4月24日日曜日

大惨事の果てに: ホストメリ(アントノフ)空港制圧作戦におけるロシア軍の失敗


著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 (この記事の執筆時点で)ロシアのウクライナ侵攻から6週間が経過した今、ロシア軍とその作戦計画に影響を及ぼす一連の問題が露呈したと言うことができます。

 ロシアは制裁緩和と引き換えにウクライナの将来的な地位について西側諸国と交渉する際に有利な立場に立つため、まずは開戦から数日以内にキーウを占領することを目指しました。しかし、その期限を1ヶ月も過ぎたところで、 彼らは獲得した領土は僅かで、軍隊はボロボロとなり、イメージも深刻なまでに悪化したことに突如として気づいたようです。経済についても、これまで課された中で最も重い制裁のもとで行き詰まりを見せていることについて知ったことも言うまでもありません。[1]
 
 少なくとも500台の戦車を含む3000以上の軍用車両や重装備を失ったロシアは、すでにほぼ掌握していたウクライナ南東部を除くドンバス地域のドネツク州とルガンスク州だけを、自称「人民共和国軍」部隊の支援を得て征服するという野望を修正せざるを余儀なくされたのです。[2]

 キーウへの攻勢について、ロシアは単にウクライナ軍を首都近郊の攻防戦で疲弊させ、その戦闘能力を低下させながら別の地域に部隊を進撃させるための陽動作戦にすぎず、キーウにおける作戦地域からの撤退は停戦協議を進めるための信頼醸成措置の一環だったと主張しています。しかし、これらは深刻な軍事的な敗北に対する単なる面子上の言い訳であることは、疑い深い人でなくとも指摘できることは一目瞭然でしょう。[3]

 キーウの北西10kmに位置するホストメリ空港(アントノフ国際空港)は、ロシアがキーウを外部と封鎖するプランの中で重要な役割を担っていたようです。

 この空港はアントノフ設計局の貨物輸送部門であるアントノフ航空の本拠地であり、特にロシア軍による襲撃を受けた際には世界最大の航空機である「An-225」が敷地内のハンガーに収容されていたことでその名が広く知れ渡りました。残念なことに、この荘厳な機体は避難が間に合わず、戦闘中に破壊されてしまいました。

 ロシアの計画では、その後のキーウの包囲と征服をするための後続部隊の拠点として活用するため、ホストメリ空港を迅速に占領することを必須としていたようです。その重要な役割にしたがって、ホストメリ空港は2月24日にロシア空挺軍部隊(VDV)によるヘリボーン作戦で大々的に制圧されてしまいました。

 2022年1月の時点で、ウクライナはウィリアム・ジョセフ・バーンズCIA長官からホストメリ空港が(ロシアの侵攻時における)主要な目標であることが伝えられていたものの、それでもロシアのヘリボーン作戦の速度はウクライナ軍に不意打ちを食らわせたようです。[4]
 
 襲撃の際、ベラルーシから投入された「Mi-35」「Ka-52」攻撃ヘリコプターが空港の防御力を弱体化させ、VDVの兵士たちを乗せた「Mi-8」輸送ヘリコプターが安全に着陸できるようにしました。

 この制圧作戦の過程で、1機の「Ka-52」が携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)の命中を受け、空港を囲む境界線の外側に緊急着陸して放棄されました。[5]

 結局のところ、ウクライナの防衛網はほとんどが無傷のままであり、VDVはいかなる有効な航空支援も受けることができなかったため、彼らはすぐにウクライナ軍による反撃に直面することになってしまいました。

もう二度と目にすることができない夢:破壊された「An-225 "ムリヤ"」

 VDV部隊がウクライナ軍と空港の支配権をめぐって争っていた中、ベラルーシから進撃してきたロシア軍の地上部隊はイヴァンキフ付近でウクライナの防衛線を突破することに成功してホストメリに向かって突進したものの、途中で何回かウクライナ軍による待ち伏せ攻撃に遭いました。それでも、ロシア軍は2月25日にホストメリ空港を完全に制圧することができました。 

 その後のロシア陸軍とVDVは、ホストメリ空港を前方基地にしてキーウ攻勢の開始に着手しました。ところが、この時点からロシアによるウクライナへの攻勢が停滞し始め、悪名高い64kmにもなる輸送車列が形成されたり、燃料不足で進撃の中断を余儀なくされた部隊が続出するまでに至りました。
 
 新たに到着したVDVとロシア陸軍の部隊は、ほかの場所での挫折に屈することなく、ホストメリ空港から近隣の町へ抜け出して(大虐殺で世界を震撼させた)ブチャとイルピンへの前進を試みたようです。

 しかし、両者の連携が不十分なまま進撃を開始したためにホストメリとブチャで待ち伏せ攻撃に遭遇し、結果として人員や装備に著しい損害がもたらされてしまいました。

 ロシア軍はウクライナを電光石火の勢いで簡単に制圧できるように準備していたようですが、気が付いてみると、今や自身が予想外の状況に置かれていました。 一見したところ、彼らは敵がどこに存在して、いかに戦うべきか見当もつかない状況にあったのです。

 ホストメリとブチャでの待ち伏せ攻撃は、彼らにかなりの犠牲者を出したばかりか、キーウへ向けてさらに前進する際に自身に何が起こるかを徹底的に認識させるものでした。

 その後の展開は、結果として極めて致命的なものになってしまいました。キーウ周辺の VDV とロシア陸軍は新たな事態に応じてそれに対処する方法を模索するどころか、 大部分が追加の補給物資と64kmにも及ぶ輸送車列が前進して(決して実現することがなかった)キーウ包囲を完成するのを待つだけの停滞した部隊と化してしまったからです。

 統率力の乏しさや欠如、物資の不足、連日の砲撃、相当の犠牲と低い士気に直面したVDVとロシア陸軍は、ウクライナ軍による砲撃や無人機の攻撃から身を守るため、道端に塹壕を掘って身を潜めること余儀なくされました。

 彼らは(たいていは砲撃目標を捜索・観測する)民生ドローンや、夜戦で大きな犠牲をもたらす敵の特殊部隊(SOF)にますます苦しめられ始めましたが、 ロシアは自軍の兵士への(暗視装置を主とする)夜間装備にほとんど投資していなかったため、こうした攻撃に対する備えが十分にできていませんでした。

 この時点で、ロシア軍が市民に銃を向けたり、略奪を始めるための布石が出来上がっていたのです。

ブチャでウクライナ軍に待ち伏せされた攻撃を受けたロシア軍が遺棄した車列の残骸

 状況はVDVと大規模なロシア陸軍の部隊が駐留していたホストメリでも全く同じであり、彼らは絶え間ない砲撃のもとで、決して与えられることのなかったキーウ侵攻の命令を待っていたようです。


 その映像からは、この場所に駐留していたロシア軍が進撃命令も退却命令も出ずに身動きがとれなかったため、実質的にウクライナ軍の「格好の餌食」となっていたことが容易に推測できます。そのような状況を終わらせる命令は3月29日になってようやく出され、ホストメリにいたロシア軍はキーウ州からの撤退を開始したのでした。[3] 

 ウクライナ軍の砲弾が空港を襲う中で、持ち出すことができない損傷した兵器類は爆破処分されました。ホストメリ空港の場合、爆破処分された兵器の中にはVDVが保有する最新鋭の装甲戦闘車両である「BMD-4M」16台と「1L262E "Rtut-BM"」電子戦システム1基が含まれていました。

 それらの位置から、彼らが撤退の準備段階で撃破されたか、ロシア軍自身によって爆破処分されたかのどちらかであることがわかります。

 ウクライナ軍がホストメリ空港を奪回した後、そこで彼らは未開封のレーションパスポートキャッシュカード、さらには奪還できなかったウクライナの装甲車など、ロシア軍が慌てて撤退した証拠をあちこちで目にしました。[7] 


ホストメリ空港での大惨事の跡
  1. ホストメリ空港で撃破されたり、鹵獲されたロシア軍の兵器類の詳細な一覧を以下で見ることができます。
  2. この一覧には、ホストメリ空港の敷地内とその直近で撃破や放棄された車両や重装備のみを掲載しています。
  3. 実際にホストメリ空港周辺で撃破や鹵獲された兵器類の総数は、ここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。
  4. この一覧の「撃破」はロシア軍自身の手による爆破処分されたものも含めています。
  5. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、破壊や鹵獲された当該兵器類の画像を見ることができます。

装甲戦闘車両 (7, このうち撃破: 5, 奪回: 2)


歩兵戦闘車 (23, このうち撃破: 20, 損傷: 1, 奪回: 2)


装甲兵員輸送車(3, このうち撃破: 3)


牽引砲 (2, このうち鹵獲: 2)


対空砲 (1, このうち鹵獲: 1)


電子妨害・攪乱システム (1, このうち撃破: 1)


ヘリコプター (3, このうち墜落: 2, 損傷: 1)


トラックやジープ,各種車両 (67, このうち撃破: 64, 鹵獲: 2, 奪回: 1)
 
 
 ずたぼろで血まみれのホストメリ空港は、今やロシアの侵略軍に対抗するウクライナの闘争のモニュメントとして建っています。

 ゴリアテに対抗するダビデのように、ウクライナはロシアによるキーウ攻撃を阻止することに成功したものの、その過程で、悲しいことにウクライナが誇る「優しい巨人」が失われてしまいました。それでも、「敵や抑圧者から解放される」というウクライナの国や人々の夢のように、「An-225 "ムリーヤ "」は未完成の2号機が生き続けています。[8] 

 おそらくこの機体の組み立ては、この自由なウクライナの再建と同じように、いつか遠くないうちに達成されることでしょう。

トルコが完成に関心を寄せている(未完成)の「An-225」2号機 [8]

[1] Putin thought Russia's military could capture Kyiv in 2 days, but it still hasn't in 20 https://www.businessinsider.com/vladimir-putin-russian-forces-could-take-kyiv-ukraine-two-days
[2] Attack On Europe: Documenting Equipment Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/attack-on-europe-documenting-equipment.html
[3] Russia in retreat: Putin appears to admit defeat in the Battle for Kyiv https://www.atlanticcouncil.org/blogs/ukrainealert/russia-in-retreat-putin-appears-to-admit-defeat-in-the-battle-for-kyiv/
[4] Vladimir Putin’s 20-Year March to War in Ukraine—and How the West Mishandled It https://www.wsj.com/articles/vladimir-putins-20-year-march-to-war-in-ukraineand-how-the-west-mishandled-it-11648826461
[5] https://twitter.com/RALee85/status/1504790211011571714
[6] https://twitter.com/RALee85/status/1499643176998641664
[7] https://twitter.com/Militarylandnet/status/1510936820736999424
[8] Sky Giant: Turkey Mulls To Complete The Second Antonov An-225 Mriya https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/sky-giant-turkey-mulls-to-complete.html

  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
  あります。


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2022年4月21日木曜日

「ネプチューン」怒りの一撃:旗艦「モスクワ」の最期


著:ヨースト・オリーマンズ と ステイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo

 ロシアによるウクライナ侵攻が軍事的にも経済的にも純然たる大失敗であったことは、現時点で全く否定することはできません。

 首都キーウとウクライナ東部を包囲・掌握し、西側諸国をウクライナの将来的な地位に関する交渉のテーブルにつかせることを目的とした迅速な作戦は、今やロシアが自らの国力を維持できる状態ではない、東部における血みどろの消耗戦と化したことは一目瞭然です。

 ロシアによる攻撃は、自国軍の指揮・戦術・装備に関する多くの問題を露わにするという、この先何年にもわたって分析されるであろう大惨事を招いてしまいました。
 
 犠牲が大きく非常に見苦しい最近の事件で、ロシア海軍の黒海艦隊はその旗艦である「スラヴァ」級誘導ロケット巡洋艦「モスクワ」を依然として詳細不明の要因によって失い、世界を震撼させました。

 現在最も有力視されているシナリオは、(ウクライナ国防省が発表したとおり)この巡洋艦に海岸から発射された「RK-360MT "ネプチューン"」対艦ミサイル(AShM)2発が命中して搭載されている弾薬類の誘爆を阻止できなかったことから、次第に艦の破壊が進んで最終的に沈没したというものです(注:「モスクワ」が対艦ミサイル2発の直撃を受けたことはアメリカ国防総省の高官が認めたと報じられています)。

 上記とは別の要因として、詳細不明の原因によって弾薬の爆発が引き起こされたという説がロシア当局によって主張されています。[1]

 「モスクワ」の乗組員のほとんどは艦が被弾後しばらくして安全に避難したようであり、ロシア国営メディアは「モスクワ」は修理のためにセヴァストポリ港に戻りつつあると報じていますが、これは単に事態が進行中であることを隠蔽しているにすぎません(注:後にロシア国防省は「モスクワ」沈没を認めました。乗組員もかなりの数の犠牲になったと推測されています)。

 ウクライナにとっては「モスクワ」の沈没は驚異的な偉業であり、士気を大きく向上させるものです。「モスクワ」は反ロシアのスローガン「Русский военный корабль, иди нахуй (ロシア軍艦、くたばれ)!を生み出すきっかけとなった、(以前にウクライナが撃沈したという誤情報を出した)プロジェクト22160級コルベット「ワシーリー・ブイコフ」と共にスネーク島(ズミイヌイ島)の掌握に重要な役割を果たしたことが知られています。

 それにもかかわらず、一般的に考えられているのとは逆に、「モスクワ」の喪失がウクライナ戦争に及ぼす実際の軍事的な影響はほとんどありません。

 この巡洋艦が装備している射程550kmを誇る「P-500」対艦ミサイル16発と射程90kmの「S-300F(S-300Pの海軍版)」地対空ミサイル64発は確かにスペック上では非常に強力に見えますが、主敵のはずのウクライナ海軍は港に引きこもったままであり、空軍はこの地域で「S-300F」を有効活用できるような高度で運用されていないからです。

在りし日のロケット巡洋艦「モスクワ」の威容

 「モスクワ」の撃沈に貢献したと云われているウクライナのアセットの1つが、「バイラクタルTB2」無人航空戦闘機(UCAV)です。

 すでにロシア国防省は(2022年3月に受け取った追加の16機を含めた)ウクライナの保有数よりも多くのTB2を撃墜したと主張していますが、ロシアの非公式情報は、「モスクワ」の乗組員に向かってくる2発の対艦ミサイルよりも無人機へ注意を集中させるための陽動としてウクライナのTB2が投入されたと指摘しています。[2]

 確かに説得力のある説にはなっていますが、そのシナリオが誤りであることはほぼ間違いありません。

 「モスクワ」のような軍艦に装備されている対空レーダーとそのオペレーターは僅か1つの目標よりも多くのものを検知・追尾する能力があるだけでなく、実際に稼働している限り、事実上自動的にそうすることができます。したがって、仮に対空レーダーが実際に無人機を追尾していたのであれば、彼らの状況認識力は不意に攻撃される状態よりも高いレベルにあったということになります。

 もし、本当に沈没が2発の対艦ミサイルの直撃を受けたことで生じたのであれば、単に「モスクワ」のレーダーがミサイルを検知できなかったり(あるいは検知が遅れてしまった)、装備されている6門の「AK-630」近接防空システム(CIWS)では艦を防御しきれなかったという可能性が極めて高いと思われます。

 この意味で、これまでの報道において、(命中ではなく)発射されたと思われる対艦ミサイルの総数が明確に言及されていないことに留意する必要があるでしょう。つまり、「モスクワ」の防空能力が綿密な計画によって実施されたミサイルの飽和攻撃に対処しきれなかったというシナリオもあり得ないわけではないのです。

沈む少し前の「モスクワ」

 多くの軍事アナリストたちは、一般に先進的と考えられているロシア軍装備の非有効性に依然として困惑していますが、実際のところ、ロシア軍のハードウェアが現代の戦場で有効に機能できないことが実証されるという傾向が以前から続いています。

 ウクライナでの戦争はこの秘密を広く世間に晒していますが、これを初めて真に世に知らしめた最初の紛争は、2020年に勃発したナゴルノ・カラバフをめぐる「44日間戦争」でした。この戦争で、ロシアの最新の電子戦システムと防空システムの大部分がUCAVと小型の徘徊兵器に対してほとんど対処できなかったことが証明されたのです。[3] [4]

 つまり、最新型の対艦ミサイルによる攻撃に直面した場合、ロシア海軍の艦船に搭載されたレーダーや対空ミサイルシステムの有効性がそれらと異なることを示す根拠は何もありません。

 「モスクワ」を撃沈に至らせたと云われる新型地対艦ミサイル「RK-360MT "ネプチューン"」は、ウクライナ国産ですが、基本的にソ連の「Kh-35」をベースにしたものです。

 こうした対艦ミサイルには、攻撃が成功する可能性を高めると共に適時の探知を困難にする、さまざまな技術が取り入られています。その1つは、ミサイルが海面から僅か数メート高度高度を飛行しながら(レーダー波が目標に検知されるのを避けるために)終末段階まで慣性航法を用いることから、 敵艦がレーダーでそれを探知して正確に迎撃することが非常に困難であることです。

 現代の対艦ミサイルには、ほかにも多くの秘策を有していると考えられています。「ネプチューン」がそのような能力を備えているかどうかは不明ですが、現代の対艦ミサイルの大分部は、命中のタイミングを正確に調整できるように飛行経路をプログラミングし、同時に複数の方向から攻撃して防御側を圧倒することが可能です。

 このようなミサイルを撃墜することは非常に困難かもしれませんが、「Kh-35」と「ネプチューン」は亜音速で飛行する比較的軽量級の対艦ミサイルであり、「ネプチューン」の最大射程は280キロメートルであることも同時に強調しなければなりません。

「モスクワ」は「ネプチューン」が想定していた目標よりもはるかに巨大なだけでなく、現代の戦闘群が活発な戦闘地域で警戒状態にあることを考慮すると、対艦ミサイルの攻撃を完全に防ぐことはできないにしても、少なくとも命中で引き起こされるであろう損傷を最小限に抑えることはできたはずです。

 確かに、「モスクワ」はウクライナが依然として支配している沿岸地域から100km未満の海域で作戦に従事していたと考えられるので、それが「ネプチューン」の格好の標的にしたに違いありません。[5] 

 結果として、巨大な巡航ミサイルと豊富な弾薬類を備えた「モスクワ」の重武装は最初のミサイル直撃後に制御不能の火災を引き起こし、それが艦自体の終焉をもたらした可能性があります。

 ところで、著者はTB2の話が全くの誤りとは言っていません。実際、ロシア国防省は「モスクワ」が沈む前日に、黒海上で「バイラクタルTB2」と交戦するロシアのフリゲート「アドミラル・エッセン」を撮影したとされる映像をリリースしました。[6] 

 また、今まで報じられていない別の事例では、ウクライナ海軍がロシア海軍の艦船に対して1機のTB2を投入し、「MAM-L」誘導爆弾を敵艦に命中させたものの、(弾頭重量が軽いため)ほとんど損害を与えることができなかったというものがあります。

 TB2のより適切な使用例としては、黒海にいる敵艦の位置を把握し、その位置を沿岸防衛ミサイルシステム(CDS)などの地上配備型アセットに中継することが挙げられます。実際、TB2に装備されたWESCAM製「MX-15D」 FLIRシステムは、天候が良ければ少なくとも100km先にいる「モスクワ」程度の大きさの目標を発見することが可能です。

 攻撃当時の気象条件のおかげでその検知可能な距離が狭まったことで、TB2は「モスクワ」が誇る「S-300F」防空システムの射程圏内を飛行せざるを得なくなった可能性があります。

 高度な艦対空ミサイルシステムの交戦圏内に入ることについて、多くの人は特にTB2のようなアセットが確実に撃墜されることを意味すると思い込むでしょうが、実際には必ずしもそのとおりにはなりません。

 特にウクライナ海軍の場合、保有するTB2はクリミアに配備されているロシアの「S-400」の射程圏内で多くの任務を遂行しているため、それを踏まえるとこの恐るべき防空システムはどうやら戦果を挙げることがあまりできていないようだからです。

ウクライナ海軍に属する「バイラクタルTB2」の1機。胴体下部の「WESCAM」製「MX-15D」FLIR装置に注目。

 CDSはウクライナ軍にとって比較的新しい戦力であり、同国は射程距離280kmの対艦巡航ミサイル「RK-360MT "ネプチューン"」の導入を通じてその戦力の構築に重点的に取り組んできました。

 ウクライナにとって不運なことに、最初の「ネプチューン」CDS複合体の導入はちょうど2022年4月に予定されていましたが、 2月に開始された戦争とロシアによるウクライナの軍事産業に対する激しい無力化措置によって、その導入は当然ながら困難となってしまいました(同時に導入の必要性も生じたことは言うまでもないでしょう)。

 しかし、「ネプチューン」のような極めて重要なアセットを実際に無力化するための取り組みはあまり徹底されていないように見受けられます。 ロシア国防省の傲慢さが真の脅威を特定し、それに対処することを阻んでいるようです。

 例えば、開戦初日に(信じられないことに、ウクライナが隠す試みをしなかった)TB2の地上管制ステーション(GCS)に打撃を与えるのではなく、それを無視したことによってロシアが初日にウクライナのUCAV戦力を麻痺させることができたにもかかわらず、 ウクライナにGCSを安全に移動して秘匿することを許してしまったのです。
 
 「ネプチューン」について、ウクライナは僅かなシステムとミサイルから構成された試作型を有する1個中隊しか運用していませんが、まもなく運用が開始される予定だった最初の量産型「ネプチューン」大隊のために、すでに完成していたもの全てで増強していたのかもしれません。

 この中に対水上捜索レーダー(ウクライナ版「モノリート」)が含まれているかどうかは不明です:単に初回生産分のシステムを新品の車体に急いで組み込み、既存の「ネプチューン」中隊に配属された可能性が考えられます。

 ただし、もしそのようなレーダーがまだ使用可能な状態になかった場合、現場の空域を飛んでいたと報じられているTB2は索敵任務が与えられていた可能性があり、(事実であれば)沿岸部の海上目標を探知するのに非常に有効な手法であったことが実証されたことになります。

「ネプチューン」CDS複合体の発射試験の状況

 早ければ(ウクライナ時間の)4月13日に発生したと思われる事件の直後、「モスクワ」はセヴァストポリ港に向けて曳航されているとの情報がソーシャルメディア上に流れました。

 この情報は後にロシア当局によって追認され、当局は火災がきっかけで搭載されていた弾薬が誘爆し、乗組員が完全に避難していたとされる「モスクワ」が深刻な被害を受けたと公表しました。[7]

 その翌日、ロシア国防省は、この曳航中だった巡洋艦が荒天のためにバランスを失って沈没したことを明らかにしました。

 また、「モスクワ」が沈没する直前に54人のロシアの乗組員をトルコの船が救助したという情報も流れてきました。[8] 

 巡洋艦「モスクワ」の乗組員が510人であったことを考えると、沈没の原因がミサイル攻撃か火災にあったのかにしても、この事件で失われた人命は極めて深刻なものであったことは間違いないでしょう(注:4月17日にロシア国防省はイェブメノフ・ロシア海軍総司令官が「モスクワ」の元乗組員を閲兵する動画を公開しましたが、明らかに人数が少ないため、乗組員に死傷者や行方不明者が多いことを暗示しています)。

 しかし、仮にロシア国防省が公表したシナリオが真実であったとすれば、そのたった1日後にウクライナの対艦ミサイルの製造と修理を手がけるキエフの工場を攻撃したと公表したことについては、明らかに偶然にしては不可解なものがあります。[9]

 ロシアが隣国を征服しようとした破滅的な物語は、攻撃を見守る人々だけでなく、ロシア自身をも驚かせたに違いありません。なぜならば、かつて世界で最も強力な軍隊の1つと信じられていたロシア軍の最大の敵は、NATOではなくロシア政府そのものであることが判明したからです。

 無能や腐敗、そして現実を完全に否定することが深く組み込まれた統治手法は、他国を無益な戦争に引きずり込むことに加担しただけでなく、有用な戦闘部隊としてのロシア軍自体を崩壊させたように見受けられます。

 この意味で、巡洋艦モスクワの沈没は一見したところ1つの出来事にすぎませんが、はるかに大きな問題が噴出する兆候であると言えるでしょう。

 「モスクワ」撃沈でウクライナが直接的に軍事面での恩恵を得ることは少ないかもしれませんが(それでも、ウクライナ軍が享受できる士気の向上をもたらした最も有益な出来事の1つであったことは云うまでもありません)、前述の問題がこの戦争を軍事的に勝利しようとするロシアの試みを邪魔し続けることは間違いないと思われます。

 ロシアの政治的及び軍事的指導者が最終的にこうした深刻な問題にある程度対処することができるかどうかは不明ですが、それを実行する能力の有無がロシアの残虐な戦争の結果を決する唯一にして最大の決定要因となるでしょう。


[1] Cruiser Moskva retains buoyancy, explosions of ammunition stopped — Defense Ministry https://tass.com/politics/1437605
[2] https://twitter.com/RALee85/status/1514398732611211271
[3] The Conqueror of Karabakh: The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-conqueror-of-karabakh-bayraktar-tb2.html
[4] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[5] Satellite Image Pinpoints Russian Cruiser Moskva As She Burned https://www.navalnews.com/naval-news/2022/04/satellite-image-pinpoints-russian-cruiser-moskva-as-she-burned/
[6] https://twitter.com/RALee85/status/1514401183900831756
[7] Fire breaks out onboard Moskva missile cruiser, crew evacuated — defense ministry https://tass.com/emergencies/1437443
[8] Ukraine braces for revenge attacks from Russia after Moskva sinking https://www.theguardian.com/world/2022/apr/15/ukraine-braces-revenge-attacks-russia-moskva-sinking
[9] Ukraine says fighting rages in Mariupol, blasts rattle Kyiv https://www.reuters.com/world/europe/powerful-explosions-heard-kyiv-after-russian-warship-sinks-2022-04-15/

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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