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2025年6月6日金曜日

沿ドニエストルの戦争:1992年のトランスニストリア戦争で各陣営が喪失した兵器類(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 この記事は、2023年3月20日にOryx「本国版」(英語)に投稿されたものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所が存在する可能性があります。

 トランスニストリア(沿ドニエストル)の存在は、ソ連邦崩壊後の1992年にモルドバがルーマニアの一部になることを恐れたロシアの支援を受けた分離主義勢力とモルドバの間で起こった短期間の戦争に起因しています。

 この戦争については、当時のモルドバ・ソビエト社会主義共和国に駐留していたロシアの第14軍がトランスニストリアに代わって介入し、新たに独立したモルドバ共和国の軍を打ち破ったことで終結しました。

 勃発した同じ年に武力紛争が終結したにもかかわらず、沿ドニエストルの状況は依然として複雑なままとなっています。この未承認国家はロシア連邦への加盟を望む一方で、経済生産の面ではモルドバへの僅かな商品の輸出に大きく依存し続けていることがそれを浮き彫りにしています。

 トランスニストリアの人々はソ連崩壊前から戦争の準備を始めており、すでに1990年夏には数多くの自衛民兵組織を設立していましたが、 1991年になるとこれらの組織が統合されて「ドニエストル警備隊」と呼ばれる統合戦闘部隊が発足しました。

 同じ頃、数百人ものロシア人コサックがこの地方に到着しました。その後に彼らはトランスニストリア人たちと一緒に第14軍の武器庫を襲い、武装を開始したのです。こうした出来事の一例として、トランスニストリア市民の群衆が射撃訓練から戻ってきた第14軍の部隊を塞いだ後に包囲に成功し、その過程で「T-64BV」戦車10台と「BTR-70」APC10台の捕獲した出来事が挙げられます。[1]

 1992年6月、モルドバ政府によると依然として自国領と主張する地域にモルドバ人が入った後、ベンデル市とその近郊で市街戦が勃発しました。

 沿ドニエストル側が以前に第14軍から奪った数台の「T-64BV」を投入したことで「T-64」最初の実戦デビューが記録されましたが、2台の「T-64」はモルドバが制圧したベンデルの一部への前進を試みた際に「MT-12」100mm対戦車砲によって即座に破壊され、さらに4台が損傷または鹵獲されてしまいました。

 ちなみに、この紛争ではモルドバ側の「BM-27 "ウラガン"」多連装ロケット砲や「MiG-29」戦闘機など、入手したばかりの兵器の運用を市民がマスターするのに苦労したために、DIY式の装甲戦闘車両が広範囲にわたって使用されたことは大きく注目すべきでしょう。

  1. 以下の一覧では、トランスニストリア戦争で撃破や損傷、鹵獲された各陣営の兵器を掲載しています。
  2. この一覧は、視覚的証拠に基づいて撃破や損傷、鹵獲されたと確認できたものだけを掲載しています。したがって、実際の損失はここに記されたものより多いと思われます。
  3. この一覧の対象に、トラック類は含まれていません。
  4. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、撃破や鹵獲された当該兵器類の画像を見ることができます。

沿ドニエストル (10, このうち撃破: 5, 損傷: 4, 鹵獲: 1)

戦車(6, このうち撃破: 2, 損傷: 3, 鹵獲: 1)

装甲戦闘車両(1, このうち損傷: 1)
  • 1 GMZ-3 地雷敷設車(AFVに転用したもの): (1, 損傷)

急造の装甲戦闘車両 (2, このうち撃破: 2)
  • 1 PTS水陸両用輸送車ベースの移動トーチカ: (1, 撃破)
  • 1 カマズ製ガントラック(「 ZU-23」対空機関砲搭載型): (1, 損傷)

歩兵戦闘車(1, このうち撃破: 1)


モルドバ (9, このうち撃破: 7, 鹵獲: 2)

装甲戦闘車両(3, このうち撃破: 1)

装甲兵員輸送車 (2, このうち撃破: 1, 鹵獲 1)

牽引砲 (1, このうち鹵獲: 1)

対空砲(3, このうち撃破: 3)

[1] Боевое применение танка Т-64БВ в боях за г. Бендеры http://btvt.info/5library/t64benderi1992.htm

2025年4月19日土曜日

【復刻記事】アサド政権への支援の規模が明らかに:ロシアの諜報施設「ツェントル-S」が制圧された


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2014年10月6日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」と「ベリングキャット」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります(注:Oryxでは削除されていますが、記録のためベリングキャットから翻訳しました)。

 2014年10月5日、自由シリア軍は、ロシアのオスナズGRU電子偵察局の特殊部隊オスナズとシリア情報機関の一つが共同で運用している「ツェントル-S(Центр С - المركز س)」SIGINT(信号情報収集)施設を占領しました(編訳者注:ここでリンクが張られていた動画はアカウント停止のため視聴不可)。 ハッラ近郊に位置するこの施設はシリア国内で活動する全ての反政府勢力の無線通信を傍受・解読する役目を担っていたため、アサド政権にとって極めて重要な施設でした。ここでロシアによって収集された情報が、一連の空爆による反政府勢力リーダーの殺害に(少なくとも)部分的に関係している可能性が高いと思われます。

 公開された動画の3:08では 、「5月31日に調査局から出された、テロ集団の全無線通信を盗聴・録音せよという命令は、第一センターの司令官ナズィル・ファッダ准将の署名入りだ。」と読み上げられています。

 この施設は最近になってシリアとイランに中東の状況認識を提供するため、ロシアによって改修・拡張されました。1月から2月中旬にかけて行われた改修後は、イスラエルとヨルダンの全域、そしてサウジアラビアの大部分をカバーしたと伝えられています[1]。

 報道によれば、この改修はイランの懸念に対する反応だったようです。この施設がシリア内戦に注力しすぎているため、イスラエルへの諜報活動がおろそかになっているというわけです。こうして新しい資機材と追加要員が基地に配備されたわけですが、鹵獲時には固定式かつ使い古されたようなアンテナ類しか残されていないなかったため[2][3]、より現代的な資機材とロシア人要員の撤収は数日から数週間前に行われたことは間違いないでしょう。

 この施設が正式に「ツェントル-S(SはシリアのSかスペシャルのSと思われる)」と命名されていたかどうかは不明ですが、ほかにもロシアとシリアのシギント施設が少なくとももう1か所あることが知られています。下の画像にあるのは、この「ツェントル-S2」という施設の開設10周年を記念した勲章です。


 「ツェントル-S」のロシア側運用者は、ロシア軍内の無線・電子諜報活動を担当していたGRUのオスナズでした。この部隊についてはあまり知られていませんが、ロゴを下の画像で見ることができます:それぞれ、「Части особого назначения(特殊任務部隊、つまりオスナズ)」と「Военная радиоэлектронная разведк(軍事電子情報収集)」と書かれています。



 占領された施設内の壁には、ロシアによる中東への関与をあらためて強調するさまざまな写真が掲示されていました。そこにはイスラエル軍の基地や部隊の配置が記された地図さえあったのです。ほかの写真には、この施設で働くロシア人要員の姿だけでなく、ロシア国防相顧問のリュボフ・コンドラチェフナ・クデーリナ氏の訪問も紹介されていました(注:クデリーナ氏は経済・財政担当の副国防相)。


「Совместная обработка информации российскими и сирийскими офицерами/معالجة مشتركة للمعلومات بين الضباط السوريين والروس( ロシアとシリアの将校による共同での情報処理/分析」と書かれている。

 下の画像は、「Начальники Центра-С(ツェントル-S センター長)」と書かれたコーナーを映したものです。赤い罫線で囲まれた6行の文字列には、歴代センター長の階級・氏名・在任期間が記されています。6人全員の階級は「Полковник(大佐)」のようすが、苗字は判読できません。

「Начальники Центра-С(ツェントル-S センター長)」

 下の画像には、「Визит советника МО РФ Куделиной Л.И. в Центр/زيارة مستشار وزارة الدفاع الروسية كوديلني لي للمركز"(ロシア連邦国防相顧問のクデーリナL.I.氏がセンターを訪問)」と書かれていますが、彼女はKudelina L.K.です。ここでは名前をミスして表記したものと思われます。


「Визит советника МО РФ Куделиной Л.И. в Центр/زيارة مستشار وزارة الدفاع الروسية كوديلني لي للمركز"(ロシア連邦国防相顧問のクデーリナL.I.氏がセンターを訪問)

「Рабочий визит начальника ГУ МВС ВС РФ( ロシア連邦軍国際軍事協力総局長が訪問)」

 下の地図に記されている「情報源」は、電波の発信源を示しているようです。

「Объекты、и источники северного военного округа ВС Израиля(イスラエル軍北部軍の基地と情報源)」

「Карта радиоэлектронной обстановки (電波環境図)」

[1] http://www.washingtontimes.com/news/2012/feb/29/russia-upgrades-radar-station-syria-aid-iran/
[2] http://youtu.be/RiQWr4SfVx0 ※アカウント停止のため視聴不可
[3] http://youtu.be/pEYrbcWpjH8?t=4s

特別協力: PFC_JokerMark Anthony(敬称略)

改訂・分冊版が2025年に発売予定です(英語版)

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2025年3月29日土曜日

草原の守護者:カザフスタンの軍用車両・重火器(一覧)


著: トーマス・ナハトラブ, シュタイン・ミッツァー, Buschlaid と ヤン・ケルダイク

 この記事は2023年8月21日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。

 ソ連から軍備を継承することになった時点で、カザフスタンは自身が幸運な立場にあることに気付きました。この結果は、まさに棚からぼた餅しか言いようがありません。

 1980年代後半にドイツ駐留ソ連軍(西部軍集団)の撤退がなければ、カザフスタンの手元には核兵器搭載可能な相当数の「Tu-95」爆撃機と大陸間弾道ミサイル(ICBM)が残されていたかもしれませんが、通常兵器は著しく不足していました。

 ところが、かつて東ヨーロッパ格好に駐留していた大量の部隊がカザフ・ソビエト社会主義共和国に移動された結果として、カザフスタンは新たに樹立された国家の需要をはるかに上回る膨大な軍備を受け継ぐことになったわけです。カザフスタンにとっても、自国の「Tu-95」を引き渡す見返りとして通常兵器をロシアと交換できたことから、こうした装備の不足に対処するのは比較的容易なことでした。

 こうした要因で、カザフスタン陸軍が過去数十年にわたって比較的最小限の装備しか調達してこなかったことは間違いありません。

 その代わり、この国はソ連時代の装甲戦闘車両(AFV)の改修計画を推進すると同時に、主にロシアから少数のより近代的なAFVを調達しています。さらに、カザフスタンは国産AFVの生産能力を構築するための取り組みを開始しており、この事業で「マローダー」 MRAPと「ムボンベ」装甲兵員輸送車を国内生産するための契約を南アフリカ及びイスラエルと締結しました。

 明らかに、カザフスタンは既存のAFV群の有効性を最大限に活用し、可能な限り長く運用することを優先しているようです。しかしながら、カザフスタンでのAFVを近代化させるという試みのスピードは著しく遅いものとなっています。この国では約10年前から「T-72」戦車の近代化を進めていますが、改修を担当する(外国の)企業を最終決定する段階には至っていません。

 すぐに従来型の軍事的脅威に直面することはないものの、カザフスタンが保有するAFV群は、今後何年にもわたって草原(ステップ)を守る準備が整っているように思われます。

  1. この一覧は、現在のカザフスタン陸軍で使用されている全種類のAFVをリストアップ化を試みたものです。
  2. この一覧には、画像・映像などで存在が確認されたものだけを掲載しています。
  3. レーダーやトラック、ジープ類はこの一覧には含まれていません。
  4. カザフスタンで披露された近代化計画や、国内で生産されたものの陸軍に採用されてないものは含まれていません。
  5. カザフスタンが保有する無人機については、こちらで紹介しています。
  6. 各兵器の名前をクリックするとカザフスタンで運用中の当該兵器の画像を見ることができます。

戦車

装甲戦闘車両

歩兵戦闘車

装甲兵員輸送車

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両

歩兵機動車

装甲トラック

テクニカル・戦術車両

指揮車両など

地対空ミサイルシステム(固定式)

携帯式・移動式地対空ミサイルシステム

[1] Esoteric Armour: Ukrainian T-72UMG Tanks In Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/esoteric-armour-turkmenistans-t-72umg.html
[2] Russia, Redux: Turkmenistan Acquires The Typhoon MRAP https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/russia-redux-turkmenistan-acquires.html

改訂・分冊版が2025年に発売予定です

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