2017年6月30日金曜日

再武装が進むシリア軍:ロシアが供与したBMP-2と2S9が到着した


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 今年初めにT-62MBMP-1をシリア軍に初めて引き渡した後にシリアから出てきた新たな画像は、より多くの種類のAFVが最近になってロシアの「シリア急行」に積載されてシリアへ送られたことを明らかにしました。今ではこれらの新たな供与は、ホムス東部でシリア軍のイスラミック・ステート(IS)に対する大躍進をもたらしています。新たに引き渡されたAFVはISへの反撃のために最終的に同地に配備される可能性が高いでしょう。

 大量の武器や車両の引渡しは、現在シリア各地で活動している多くの民兵組織のいくつかを編入した統一軍を創設する計画を含むシリア軍(SAA:Syrian Arab Army)の事実上の再建の一環です。このプロセスを背後で支える原動力は新たに設立された第5軍団であり、同軍団は過去6年の間にSAAの役割を奪ってきた、前述の民兵組織の増大する力に対抗する役割を果たします。

 SAAの復権におけるロシアの役割に従って、この新生の軍隊への訓練と装備を担当するのもまたロシアです。これによって、シリアはすぐに追加のT-72T-90、さらにはBMP-3でさえ受け取るものと思わせましたが(これらの全てが現時点におけるSAAの機甲戦力を構成するAFVより高度なものです)、今までの供与ではそのほとんどがロシア軍で既に運用されていない、もはや必要とされていない旧式の兵器でした。

 それにもかかわらず、これらの供与された車両と兵器の多くは、シリアの一部を支配するべく戦う多数の勢力に対する今日の作戦行動においてSAAにとって理想的に適合しています。小火器や大量のウラルGAZKamAZUAZのトラックとジープの供与に加えて、今までのところ、T-62MとBMP-1(P)、 M-1938(M-30)122mm榴弾砲がもたらされており、現在ではBMP-2歩兵戦闘車と2S9 120mm自走迫撃砲も加わりました。

 第5軍団に対する以前の供与では、BMP-1や第二次世界大戦時のM-30 122mm榴弾砲のような高度ではない装備だったことから、BMP-2と2S9といった装備の供与は関心を引きます。より高度な装備がシリアに到着しているという最近の事実は、ロシアが再軍備計画を成功と判断している証拠かもしれません。また、内戦がシリア政府に有利に展開し続けるにつれて、より高度な装備の供与を潜在的に強化する可能性もあるでしょう。


 内戦の画像や映像においてBMP-2の存在が相対的に稀にもかかわらず、シリアの戦場では間違いなく見知らぬAFVではありません。実際、シリアは80年代後半に導入した約100台にわたるBMP-2の残存車両を継続して運用しており、そのほとんどがダマスカス周辺で作戦を展開する共和国防衛隊に配備されています。

 1980年代から既に運用中のBMP-2に加え、タドムル近郊の作戦に参加するため、2015年に少数のBMP-2がT-72BとBMP-1と共にロシアから供与されました。これらのBMP-2のうち少なくとも1台、おそらくは2台がその後にタドムル付近で破壊されたようです。

 現在供与されている車両は、ダークグリーンの迷彩塗装によって既にシリアで運用されているBMP-2(注:デザートイエロー色)と簡単に識別することができますが、何よりもBMP-2 1984年型とそれ以降の派生型のみに存在する、砲塔に装備された対放射線防護用装甲がある点で可能です。シリアが80年代後半に受領したBMP-2は旧式の1980年型であり、そのような対放射線防護用装甲および他の漸進的な改良が欠けています。

 BMP-2は、1970年代に導入されて以来、SAAの主力IFVとして役立ってきたBMP-1の能力を大幅に向上させたものです。本来、ヨーロッパの平野で使用するために設計されたBMP-1の武装は、歩兵を支援するためには不十分であることだけでなく、重装甲のAFVを相手にする能力がないことがすぐにわかりました。さらに、BMP-1の薄い装甲や主砲が仰角をとれない点と移動中に正確に発射できない点が、同車を今日の紛争での使用においては痛ましいほど時代遅れなものにしています。

 BMP-1から学んだ教訓の多くを取り入れて、BMP-2はこれらの深刻な欠点のいくつかを取り除きました。最も明白なのは、2A28 73mm低圧砲を歩兵の支援と仰角を高くとることができるおかげで高所にある敵の位置を抑えることに非常に適した、速射可能な 2A42 30mm機関砲へ交換した点です。BMP-2には、BMP-1の扱いにくく、使用されることがほとんどなかった9M14 マリュートカとは対照的に、9M113コンクールス対戦車ミサイル(ATGM)の発射機が装備されています。


 2S9の供与も、以前にこの車両が、今まで自走迫撃砲を運用していなかったSAAに就役したことが無かったために注目に値します。2S9は、通常の砲弾では約8キロメートルの距離を、ロケット補助推進弾では12キロ以上の距離に砲弾を投射することができる後装式の2A60 120mm迫撃砲を装備しています。この自走砲のために誘導砲弾も開発されたものの、シリアに配備されている可能性は低いでしょう。

 SAAは砲撃支援のために数種類の牽引式野戦砲に加えて、2S1 122mm自走榴弾砲とBM-21 122mmMRLを大量に運用し続けていますが、2S9は仰角を高くとることができるため、現時点で政権軍がホムス東部で直面している山や尾根で防備を固めるISの陣地への攻撃には最適です。

 すぐに2S9が空中投下可能だということに気付く人もいるでしょうが、このような方法でデリゾールに送られる可能性はほとんどありません。2S9がSAAで運用に入るその種(自走迫撃砲)の最初のタイプであるため、おそらく乗員は最初にこの車両で訓練しなければならないでしょう。(注:完熟訓練)。もちろん、BMP-2も同様といえます(より少ない訓練で済むでしょうが)。結果として、彼らが最前線に姿を見せるまでにはある程度時間がかかるかもしれません。

 現在、政府軍が主にISに対して大躍進しているため、ロシアはシリア政府への支援を熱心に維持し続けると思われ、これまでに果てしなく続くように思われた紛争の中で投資をさらに強化していくでしょう。シリアにとって、これらの車両が現実に供与されることはそれが意味する傾向よりもはるかに重要の度合いが低い可能性があります(注:たとえ何であろうとロシアがシリアを支援することを意味しているため、その「流れ」はこうしたAFVの供与自体よりもさらに重要ということ)。

 基本的にSAAのストックを無限に補給することができ、経済的苦難にもかかわらず、SAAをまとまりのある軍隊としての回帰をもたらすため必要とされる金額を支払う意思がある同盟国のおかげで、SAAの最終的な勝利は将来の紛争の推移において全く予期しない紆余曲折をはばむものと思われます。  

 いかなる場合でも、現在の情勢の進展はシリアで争っている軍隊や勢力の間に戦略的均衡に作用することが確実であり、シリア内戦の最終的な結果に広範囲にわたって影響をもたらす可能性があるのです。

特別協力: Wael Al Hussaini(注:元記事への協力であり、本件編訳とは無関係です)。

 ※ この翻訳元の記事は、2017年6月15日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。  
       正確な表現などについては、元記事をご一読願います。  

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2017年6月16日金曜日

プローブ アンド ドローグ:失敗したリビアの空中給油システム導入計画







著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

リビアの空中給油システム導入計画は80年代後半にスタートして以来(関連する動きが)ほとんど伝えられていませんが、最終的に計画の放棄に至らせた数多くの挫折に悩まされていたようです。
それにもかかわらず、この野心的な計画は確実にその痕跡をリビア空軍に残しており、かつてこの計画で重要な役割を果たしていた機体は、現在の国内における治安状況がますます悪化している状況の中でも依然として飛行を続けています。

旧LAAF(リビア・アラブ空軍)は、5年以上前(注:2021年現在)から2つの空軍に分離して、それぞれがさまざまな種類の戦闘機やヘリコプターを運用しています。
統一政府がリビアの新政府として役割を果たすことになっていますが、国内の分裂はいくらかの勢力によって実質的に継続しています。ファイズ・サラージ(注:2021年現在はモハンマド・アル・メンフィ大統領)が率いる、トルコとカタールが支援している国際的に承認された国民合意政府(GNA)と、エジプト、ヨルダン、ロシア、アラブ首長国連邦から多大な支援を受けているハリーファ・ハフタル率いるリビア国民軍(LNA)リビアでは最強の勢力です。


両者は主に「イスラム国」などのイスラム過激派との戦いに目を向けていますが、双方の間での攻撃や空爆は増加し続けています。
これはムアンマル・カダフィ体制の崩壊後の混乱がもたらた不幸な結果です。これを引き起こした主な原因としては、リビアの各勢力の権力欲、リビアを不安定にしようとする国による外部からの影響...そして、カダフィ大佐の失脚には大きな役割を果たしたものの、リビアが機能する民主主義国家として発展を手助けするために不十分な支援しかしてこなかった国際的パートナーの役割不足が挙げられます。

限られた数の運用可能な機体を2つの空軍で分け合っているため、GNAとLNAの両方は比較的少ない労力で運用可能にできる機体や共食い整備に使用できる機体を分裂した国内で探し回りました。
以前に最後を迎える安息の地を見つけたと思われた航空機は、今では運用可能な状態に修復されて再利用されている場合が多く見受けられます。
リビアの大部分の空軍基地での機密装備の撮影に関する規則が緩いたためか、これらの機体の画像が定期的に流出しています。この特異な状況は、これまで多くの人に知られていなかったリビアの失敗した空中給油システムの導入計画を再検討するための理想的な映像をもたらしています。




リビアの広大な面積が、頻繁な着陸や目標に近い空軍基地に前進配備することなく、作戦機を長距離飛行させて目標に到達させることを可能にする空中給油機を貴重な資産にしました。カダフィ時代には、チャドやウガンダに展開しているリビア軍を支援するためか単なる報復として、リビア機がチャド、スーダン、さらにはタンザニアの目標を頻繁に攻撃していたため、その価値は特に真実性を帯びていたのです。

チャドにおけるリビアの暗闘は、チャド軍のみならず同国内の代理勢力やリビアと戦うイッセン・ハブレを支援するために展開したフランス軍と対峙したリビア空軍にとって決定的な時期とみることができます。
リビアの空軍基地はその大多数が北部に位置していたため、LAAFはリビア南部の人里離れた場所やチャド北部にさえも作戦機を前進配置させていました。
しかし、後にこの両方の場所がフランス空軍による空爆とチャド軍による地上からの襲撃に対して極端に脆弱だということが判明し、後者はチャド内のワディ・ドゥーン空軍基地を攻略したうえにリビア南部にあるメーテン・アル・スッラ基地を奇襲してリビア側に深刻な損失を与えました。

チャドで得た経験と世界的な流れへの関心が、リビアが空中給油機の導入を決定する決め手となった可能性があります(注:他国が空中給油機を使用し始めたことを見て、リビアも導入するという着想を得た可能性があるということ)。
1980年代半ばにはソ連のIL-78がすでに生産されていましたが、リビアはそれを導入する代わりに(イラクと同様に)空中給油計画の立ち上げに関する支援を受けるために欧米へ目を向けました。
この決定の理由は不明のままですが、単に当時のリビアにはIL-78の購入が(ソ連から)認められていなかったか、改修なしにこのソ連製空中給油機から給油を受けることができる航空機を運用していなかった可能性があります。



















1987年、リビアは自身の空中給油システムの導入計画を立ち上げるために、西ドイツ「インテック・テクニカル・トレード・ウント・ロジスティック(ITTL)」社と契約しました。[1] 
リビアは西側諸国の前に立ちはだかる宿敵であるにもかかわらず、軍事関連を含めたあらゆる種類の取引では西側の企業と契約することを問題にしませんでした。関連機器を送り出す西側の企業も、リビアの石油資源から利益を得ることに意欲的であったため、リビアのために働くことに問題はありませんでした。
興味深いことに、ITTLは独自の空中給油(IFR)用プローブの設計に引加えてフランスからIFR(空中給油)プローブを入手することを始め、後にそれらは少なくとも3機のMiG-23BNと1機のMiG-23UBに搭載されました。

MiG-23MSでの過酷な経験があったうえにMiG-23BNでまた同様の問題に直面しているにもかかわらず、MiG-23BNは頑丈さと兵装のペイロードのおかげでリビアでは貴重な戦力となりました。(注:MiG-23MSは質や能力が低くい上に飛行が難しかったため、結果として多くの機体やパイロットが失われました。LAAFにとってはこの事態はまさに悪夢そのものだったのです)。そのため、戦闘行動半径を拡大するためにIFR用のプローブを特別にMiG-23BN飛行隊に装備させるという決定がなされたことは当然のことでした。
MiG-23BNにIFR用プローブを追加することに加えて、LAAFはフランスから導入した16機のミラージュF.1AD(の残存機)も頼りにすることができました。このミラージュは間違いなくリビアが保有する戦闘機のなかで最も高性能な機体であり、既に空中給油能力が付与されていたのです。

同時に2機の航空機へ給油することを可能にするため、ITTLはLAAFが保有する1機のC-130の両翼の下に空中給油ポッドを搭載することによって、同機を空中給油機に改修する作業を進めたようです。
残念なことに、空中給油の際にMiG-23がC-130の比較的遅い飛行速度に適応することができなかったため、C-130がこの任務に不向きであることが判明しました。
ミラージュF.1ADはC-130からの空中給油が可能でしたが、この時点で、リビアはすでにより適した空中給油プラットフォームを自国で運用していることに気づきました...IL-76です。

そのため、(事実上LAAFの一部である)リビア・アラブ・エア・カーゴ(LIBAC)のIl-76TD「5A-DNP」はITTLの技術者によって空中給油機に改造されました。
彼らの尽力にもかかわらず、西側でこの件が公に知られた際に、ITTLはリビアでの作業の打ち切りを余儀なくされました。
彼らの撤退はこの野心的な計画の終わりを最終的に告げた一方で、リビアは自身でこの計画を数年間は継続させたようです。結局は1990年代半ばにこれに関する全ての取り組みが終了したと考えられています。
興味深いことに、この計画の様子はフィルムに記録されており、オンラインで視聴することができます


ITTLがリビアの空中給油システム導入計画の作業を開始したのと同時期に、リビアはTu-22飛行隊を最大で36機のSu-24MKとそれを支援する6機のIL-78空中給油機へ更新するためにソ連と交渉に入りました。
このSu-24とIL-78の組み合わせはLAAFの長距離打撃能力としての機能を果たし、これまでこの任務で使用していたTu-22爆撃機を置き換えるものでした。
Tu-22はアル・ジュフラにある基地から長距離を飛行することができましたが、80年代後半には運用寿命が終わりに近づいたために、これらを更新する必要があったのです。

Su-24MKは、Tu-22に欠けていた精密打撃を可能にする多様な空対地ミサイルと誘導爆弾を装備することができました。
実際、リビアのTu-22がタンザニアの標的に対する爆撃ソーティを実施した際、乗員は標的を外しただけでなくそれがある国自体も外し、爆弾が国境を越えてブルンジに着弾したということがあったのです!(注:それくらい精密打撃能力などが欠如していたということ)[2]

リビアにとって不幸だったのは、支払いに関する意見の不一致と1992年から発動された国連の武器禁輸措置がLAAFに希望する量の航空機を受け取ることを妨げ、最終的には6機のSu-24MKと1機のIL-78だけがリビアにたどり着いたことです。(注:Su-24MKの代金について、ソ連はリビアに事前に50%の支払いを求めていましたが、リビアはそれを拒否したために取引は合意に達しなかったのです

1989年か1990年の運用開始以来、この唯一のIL-78が空中給油の任務に使用されたのかは不明のままですが、生涯のほとんどを貨物機として過ごしてきたにもかかわらず、依然として3基のUPAZ空中給油ポッドが装備されていることは確実です。
民間のジャマーヒリーヤ・エア・トランスポート(リビアン・エア・カーゴ)のロゴを付けたこのIL-78は2004年と2005年にかけてロシアのスタラヤ・ルーサの123ARZ修理工場で修理された後、2005年4月初めにモスクワにあるシェレメーチエヴォ国際空港(IAP)に着陸する姿が初めて目撃されました。




その生涯を通してほんの僅かしか目撃されていないこの飛行機は、リビア革命の終結後にはさらに見つけることが困難となってしまいました。
アル・ジュフラ基地に駐機されたままだったリビア唯一のIl-78について、2015年後半にミスラタ空軍基地に再び姿を現した際にこの不運な機体がミスラタを拠点とする空軍に再就役したことが確認される前には、既に現役を退いたものと考えられていました。

IL-78はその存在理由である高度な能力を出さないまま、貨物機としてその残された短い生涯を送り続けています。
新しい運用者に従って、英語とアラビア語で描かれたカダフィ時代のジャマーヒリーヤの文字が塗りつぶされ、新しいリビアの国旗がジャマーヒリーヤ・グリーン(カダフィ時代のリビアを象徴する緑色)の上に描かれました。
機種の窓には酷使された跡がありますが、正面の風防は交換されているようです(注:機首側面や下部の航法士席窓が劣化や損傷により透明度を失っています)。




リビア内戦で見える絶え間ない戦闘が続くにつれて、リビアとその資源を支配するべく争っている各勢力の武装を強化するために(今は使用されていない)軍事装備が運用可能な状態に戻されています。 
多国間にわたる作戦飛行を行う能力があるプロフェッショナルな空軍を支援することに特化した空中給油機部隊の夢は遠い昔に記憶から消えてしまっていますが、リビアの空にはまだこの機体のエンジンの残響がこだまし続いています。
この計画で重要な役割を果たした機体は、戦争の弱まることのない要求によって徐々に消耗されていくでしょう。





















[1] Libya’s Peculiar, Aerial-Refueling MiG-23s https://warisboring.com/libyas-peculiar-aerial-refueling-mig-23s/
[2] African MiGs Volume 2: Madagascar to Zimbabwe http://www.harpia-publishing.com/galleries/AfrM2/index.html


特別協力:トム・クーパー from ACIG (注:翻訳記事では協力を受けていません)
リビア空軍の詳細については、Helion & Company社の素晴らしいLibyan Air Warsシリーズをぜひご覧ください。

 ※ この翻訳元の記事は、2017年6月3日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。  

2017年6月8日木曜日

希少なAFV:スーダンのAFV修理施設内部の光景


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 1956年にイギリスから独立して以来、様々な供給元の影響のために軍隊で使用されている装備の種類に関して言えば、スーダンは間違いなく最も興味を引く国の一つでしょう。

 そもそもスーダンはエジプトとイギリスによって訓練と装備を受けていましたが、それから大量のソ連製装備を受け取り始め、その後に中国の武器援助が続く道を選びました。近年はベラルーシ、ウクライナやロシアなどの国々から多数の兵器を購入しており、今やこれらの国々は中国やイランとともにスーダンに対する武器供給の主要国となっています。

 スーダンは既に挙げられた国に加えて、ドイツ、リビア、チェコスロバキア、フランス、アメリカ、サウジアラビア、東欧諸国、そしてもちろん北朝鮮といった国からも兵器の供給を受けたことがあります。こうした多様なAFV群を運用することはまさに兵站面での悪夢にほかならず、スーダンに存在する先述した国々のうちの幾つかから派遣された専門家がこれらを維持するために支援しているのです。
  
 この状況を改善するために、スーダンはAFV修理工場とエルシャヒード・イブラヒーム・シャムス・エル・ディーン複合体を設立しました(後者は幾つかの種類のAFVの製造にも関わっています)。このAFV修理工場は主力戦車、歩兵戦闘車(IFV)、装甲兵員輸送車(APC)の修理に特化しており、スーダン軍の管轄下にあります。これは、エルシャヒード・イブラヒーム・シャムス・エル・ディーン複合体がMIC(Military Industry Corporation)の一部である点とは反対です。

 このAFV修理工場はハルツーム(首都)の中心に位置しており、そのような施設を設けるにしては間違いなく興味深い場所と言えます。


 様々な荒廃状態にある多数のAFVが散乱している施設の現状を確認してみると、スーダン人の要員がいるだけではなく、いくらかの東欧の人間もソビエト時代のAFVの維持と分解整備を支援しています。

 この記事にある画像のほとんどはそのようなアドバイザーからのものであり、その多くはスーダン滞在中に彼らの作業を撮影したものです。このある人物は以前にはウガンダとイエメンで勤務しており、ここでも同様に人材育成の支援をしていたようです。


 著しく損傷した「T-72AV」はスーダンでは「アル・ズバイル-1(T-55-SH1)」としても知られており、破壊された「2A46」125mm砲の修理を待っているか、あるいは部品取り用として使用されているようです(下の画像)。

 これまでにスーダンは「T-72AV」を世界中の国から入手しており、その大半はアフリカに供給していたウクライナから(同国が最後にストックしていたものを)調達しました。

 スーダンの「T-72AV」購入は、南スーダンもその数年前に大量の「T-72AV」を購入していたために注目に値します。この取引はケニア経由で手配されたものであり、33台の「T-72AV」を積載した南スーダンへ向かう貨物船「ファイナ」が海賊によって乗っ取られたために、国際的な議論の原因となったからです。

 ウクライナのインストラクターが南スーダンの兵士に「T-72AV」を運用させる訓練の担当になった一方で、残りの「T-72AV」をスーダンに売ることは問題にならなかったように思われます。

 スーダンはSPLA-N(スーダン人民解放軍/運動)に対抗するため、同国南部にこれらの戦車をすぐに配備しました。

 この取引は、スーダン軍と南スーダン軍との間で新たな戦闘が発生しそうな出来事の間に、両軍が互いに同一の迷彩が施された「T-72AV」を配備するという特異な状況をもたらしており、それは戦場での混乱や場合によっては誤射に至ることが不可避なことは言うまでもありません。


 今でもなお新品状態にある非常に古いアルヴィス「サラディン」装輪装甲車は、施設のメンテナンスホールの外で再塗装を控えています(下の画像)。この装甲車がいかに旧式であるにしても、いくつかの国は運用し続けており、インドネシアでさえ残存している車両の改修を試みているほどです。

 スーダン軍が「サラディン」を運用し続けるのか、この残存している車輌をゲートガードとして展示するつもりなのかは判然としていません。


 結局、この「サラディン」装甲車は(変わった迷彩塗装を施されたおかげで)本来の無塗装の状態に対する被発見率を多少は低下させることができたようです(下の画像)。

 少なくとも2台の「サラディン」が新しい塗装を施されており、2台目(画像の2段目)は前部に深刻な損傷を受けていますが、再塗装によって悲惨な姿から受ける印象がさらに増してしまいました。


 「フェレット」装輪装甲車はスーダンで運用されてきたもう一つのイギリス製の主要な装備であり、スーダン軍の兵士たちによって運用されていた最初のAFVの一つです(下の画像)。これも再塗装されているものの、砲塔の「M1919」軽機関銃が失われてしまいました。
 前部タイヤの一つに深い亀裂が入っていることから、 再塗装はもはや戦闘での使用を目的にしたものではない可能性があります(注:同一個体ではないものの、ゲートガードで使用されている車両が存在しているため)。

 下の2列の画像の上段には一見して退役したように見える中国製の「62式」軽戦車の列を見ることができますが、そのうちの少数は今でも現役に留まり続けています。



 「BMP-1」歩兵戦闘車は30mm機関砲を搭載した一人用砲塔「2A42 コブラ」への換装の改修を受け、本来ならば同車に搭載されている既存の73mm低圧砲を装備した「2A28 グロム」砲塔を置き換えています(下の画像)。この新型砲塔はベラルーシとスロバキアの共同開発であり、スーダンは運用しているある程度の「BTR-70」もこの砲塔に換装しています。
 画像の車両では、「PKT」7.62mm同軸機銃が欠落しているようです。

 スーダンに僅かしかない「BMP-2」歩兵戦闘車の一台を背景に見ることができます。これも少数のイランが設計した、同車のコピーである「ボラーク」装甲歩兵戦闘車(AICV)と一緒に運用されています。


 背景に「BMP-2」、中国製「WZ-551」装甲兵員輸送車(APC)、「59D式」戦車と2台のイラン製「サフィール74」・「タイプ-72z」・「T-72Z」または「シャブディズ」戦車といった他の車両が寄せ集められている中に、フランス製の「パナールM3」APCが見えます(下の画像)。  
 この「パナールM3」は20mm機関砲が取り外されており、いつか再び運用されることは見込めません。おそらくはフランス製「AML-90」も同じ運命に陥っているでしょう。


 スーダンは非常に多様なBTRの派生型を運用しているおり、その中でも「BTR-70」、ベラルーシによる改修型「BTR-70」、ウクライナによる改修型「BTR-70/80A」と「BTR-3」が含まれています。それに加えてスーダン軍は中国の「WZ-551」と「WZ-523」 APCの大量のストックも有しており、70年代初めに引き渡されたチェコスロバキア製「OT-64A」の残存しているものもあります。

 2番目の画像で、「BTR-80」の砲塔が車体に備え付ける状況を見ることができます。



 MICが「アミール2」偵察車として売り出しているソビエトの「BRDM-2」は、まだ新品同様の状態です(下の画像)。「BRDM-2」自体の設計は60年代前半のものですが、スーダン軍は2000年代にベラルーシから追加の車両を受領し続けていたとみられており、それらは既に同軍で運用されている「BRDM-2」群に加わりました。

 「アミール2」は近ごろUAEで開催された武器展示会「IDEX2017」でも展示されており、MICが国際市場向けに新造した「BRDM-2」を売り出すことを示唆しました。

 MICの分かりにくいマーケティング戦略にもかかわらず、「アミール2」は実際のところ「BRDM-2」の運用を続ける国に向けた同車のアップグレード案です。このアップグレードでは、「BRDM-2」本来の140hpを誇る「GAZ-41」エンジンを210hpのいすゞ製「6HH1」エンジンへの換装が見られ、機動性と燃費の向上を提案しています。

 いくつかのアフリカ諸国が老朽化している「BRDM-2」の運用を続けていますが、これらの国のいずれかが同車のアップグレードに関心を持つということは考えにくいでしょう。


 修理施設のメンテナンスホールに3台の「WZ-551」があります(下の画像)。このAPCは以前にMICによって「シャリーフ2」として売り出されていたものであり、MICが単に同車を輸出製品の一覧に記載していただけで実際に売り出していたのかは不明だが、画像の車両はスーダンでオーバーホールを受けている可能性を示唆しています。

 スーダンに納入された別の中国製AFVである「WZ-523」が今や「シャリーフ2」として売り出されていることが、余計な混乱を招いています。

 しかし、この件についてはMICが「WZ-551」と「WZ-523」の両方をオーバーホールできる可能性を意味しているかもしれません。


 スーダン軍は主にベラルーシ、ウクライナやロシアからストックされている中古AFVを入手していますが、限られた数のウクライナの「BTR-3」に加えてロシアの「BTR-80A」も保有しており、そのうちの一台を下の画像で見ることができます。 また、その背景に一台の「BRDM-2(またはアミール2)」、「BMP-1」と「T-72AV」も見ることができる。

 より興味深いことに、画像には退役したM60の列(注:画像左)が見えますが、そのうちのごく一部は依然としてスーダン軍で運用状態にあると考えられています。


 下の画像で見える教場は、スーダン軍で運用されている様々なロシアのAPCとIFVの武装で満たされています。

 左には「BRDM-2」、「BTR-70」と「BTR-80」用である「PKT」7.62mm同軸機銃付きの「KPV」14.5mm重機関銃2門があり、右には「BTR-80A」と「BMP-2」用の「2A42/2A72」30mm機関砲2門を見ることができます。また、「BTR-80A」の砲手の訓練用に設けられた完全な同IFVの砲塔モジュールが後ろに見えることにも注目するべきでしょう。

 壁に掲げられたロシアの国旗は、スーダンの乗員の訓練におけるロシアの影響を疑う余地は無いことを暗示しています。


 ※  この翻訳元の記事は、2017年5月31日に「Oryx」本国版(英語)に投稿されたもの
   を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる

2017年6月1日木曜日

新たな脅威?:イスラミック・ステートが放つ自爆ドローン


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当記事は、2017年4月25日に「Oryx」ブログ本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります(注:本国版の記事はリンク切れで閲覧不可)。   
 
 モスルでの戦いは旧市街地での最も困難な争奪が依然として続いており、イスラミック・ステート(IS)支配下の最大都市を巡る激しい戦闘が7ヶ月目に突入しています。

 イラク軍との戦闘で、ISは多くのAFVや特殊部隊と航空支援を備えたより強力な相手に直面すると、都市の狭い通りでのVBIED(車両運搬式即席爆発装置)の大規模な使用を含む、この組織にとって既に特徴となった戦術を採用しました。

 モスルの戦いでは、(実績のある武器や戦術の使用とは別に)都市環境とISの戦い方に完全に適合した幾つかの「Made in Islamic State」の兵器システムが初公開されました。 ほぼ間違いなく最も適した好事例は新型の対戦車ロケット及び兵器化されたドローンの配備です。イラク軍が堅固に防備を固めたISから今までに都市の大部分を奪回したものの、この双方は使用が増加するにつれて広く公開されています。

 モスルからリリースされたISの最新動画の公開は、武器製造と都市における無人航空機及び無人車両に関するISの成果をより細かく披露しています。クルアーンの第29章の第69節を参照して名づけられた動画「我ら自らその手を引いて正しい道を歩ませよう」では、以前には見られなかった幾つかの兵器システムの組み立てと配備を映し出されていました。RPG、無反動砲、自家製対戦車ロケットランチャーの生産はすでに著しい発展を遂げているものの、 自爆型UAVと思われるものの実戦デビューはなおさらそうであり、これは都市部におけるイラク軍に対する、「自殺ドローン(人命が関与していないという意味での、やや不適当な名前)」として一般的によく知られています。

 この脅威は潜在力があるにもかかわらず、この動画では少ししか放送されていません。ただし、自殺ドローンの実戦デビューは、この新しいIS製武器の現時点における欠点を明らかにしています。  


 自爆型UAVは比較的新しいコンセプトであり、人間のオペレーターによるものか自律的に選択された目標を打撃する前に、この自爆機を標的空域へ飛行させることがです。この方法には事前に設定された標的に命中するようにプログラミングされた、従来の巡航ミサイルや誘導ロケットに比べていくつかの利点があります。
 
 もし、自爆型UAVが適切な目標を発見できなかった場合、自爆させるか(場合によっては)基地に戻ることさえできるため、運用において一層の柔軟性をもたらすでしょう。

 シリアにおいて、ISは自爆型UAVを主にデリゾールの包囲された市街地にいる政府軍に対して何度か投入したと以前に報告されています。しかし、問題になっているこのUAVが、単発のPG-7ロケット程のペイロードで政府側の地域に自ら突入することになっているのか、その代わりに実際にはこれらを投下するように設計されているのかは不明のままです。しかし、後者の方がより可能性が高いように思われます。

 運用可能な自爆型UAVを配備したのは、ISが最初ではありません。事実、このような兵器は既にアゼルバイジャン、イエメン、イスラエル、米国が紛争で使用しており、後者はシリアにも配備しています。このような「カミカゼドローン」のもう一つの運用国は北朝鮮であり、現時点ではこの種の兵器に関して最大の運用者と推測されています。

 もちろん、ISによって使用されている粗雑に組み立てられた奇妙な機械は、プロ級の兵器を生産する国々で使用されている現代的な兵器にはほとんど匹敵せず、その脅威に対処するには比較的困難ですが、テロリストを都市の外へ排除しようとしているイラク軍への絶え間ない妨害を大幅に増大させる可能性を有しています。

 ISによる「自殺ドローン」と思われる生産は、2017年3月にISからの文書のリークで初めて示唆されました。これらの文書は、 空対地ミサイルとして使用される20kgの爆薬を積載することが可能な多目的UAVの開発及び製造のための許可と財政支援を受けるため、チュニジアのドローン開発者であるアブ・ユスラ・アル・チュニジによる要求が詳細に記載されていました。

 ISの文書の要約(日本語訳)は以下のとおりです。

イスラミック・ステ-ト
ハラブ州
中央兵員局

(概要)

氏名: アブ・ユスラ・アルチュニジ 
年齢: 47
専門:飛行機及び航空学の分野で多少の知識を有し、動力用電気と電子工学を専攻。

関係者に対し、アバビル計画を提示する。
これは多目的UAVであり、以下の用途を含む。

1- 直径30kmにわたる地域の偵察
2- 20kg以上のペイロードを有する空対地ミサイルとして使用可能
3- 夜間または日中に1機以上のUAVを使用することで、敵の注意をそらすことに使用可能
4- 敵機の妨害

このプロジェクトには、以下の者から構成されるチームを必要とする:
- 電気機械の技術者
- ファイバーグラスの専門家
- CNCでの作業方法を知るAutoCADのエキスパート
- 金属工

このプロジェクトには約5,000USドルがかかり、完了に3ヶ月を要する。私が研究開発の部門で働いていたときに携わっていた試作機の写真を示す。

 このプロジェクトは原因不明の理由でストップしたようです。アブ・ユスラ・アル・チュニジが、彼のアバビル計画を継続するために許可と財政支援を受けたのかは不明ですが、 ISが公開した最新の動画で見られるドローンが、実際にアバビルである可能性は低いと思われます。

 彼はシリアのハラブ州(アレッポ県)におけるドローン開発の許可と財政支援だけではなく20kg以上の爆発物を想定したペイロードも要求したものの、これはモスルで見られたドローンに搭載するには重すぎたと見受けられます。


 ISが公開した動画では、ドローンの飛行(動画の8分43秒付近) は僅かに映されているだけですが、操作に関する興味深い詳細な描写を見せています。(ところどころダクトテープで結合された)金属フレームをベースにしたこのドローンは、ISによって生産された最大のものです。

 これまでに、ISは主にクアッドコプター、スカイウォーカーや様々な旧来のドローンが使用されてきました。彼らは何度か兵器化されたスカイウォーカーを披露しましたが、そのような改造型(自爆型)は作戦上使用されないと考えられます。

 リリースされた映像では、コントローラーを手にしたドローンのオペレーターが左側に立っている状況が映し出されていました。ただし、彼はドローンの離陸担当だっただけで、後にこのラジコンが内蔵カメラによって同機の飛行経路の画面を見る別のオペレーターへ引き継がれた可能性に注意する必要があります。

 この動画では、中身が半分ほど入った燃料タンク(注:機体中央部の透明なタンク)が見える、ドローンのはっきりとした姿が映し出されたにもかかわらず、搭載しているべき物体を見ることはできません。それが当時非武装であったのか、もしかすると搭載物がエンジンの付近に取り付けられていたことを意味するのかどうか、そのために発見するのが困難であるのかは不確かです。

 ドローンからの画面は、同機がM1エイブラムス戦車を含むイラク陸軍の車両と兵士の集結ポイントに向かって降下する前に、時速約110kmの速度でそれまでに約10分飛行した旨を表示しています。

 興味深いことに、この映像はドローンが突入する直前にカットされています。それは搭載された爆薬が起爆したことを暗示している一方で、実際には、もっぱら最後の瞬間に機体を急転換させたか、何も搭載しない状態で単純に墜落した可能性もあります。後者の場合、このドローンの目的は使用可能な兵器を実際に戦闘員に与えたというより、運用試験やプロパガンダでの使用を目的としてしていたのかもしれません。


 今日の世界で見られるドローンの急増によって、爆発物の輸送プラットホームとして無人航空機(UAV) を使用して西側の地域を攻撃するという状況が、真剣に受け止められるべき脅威となっています。

(自作ドローンの)粗雑で明らかに急造である特徴は、ISのような勢力のための遠隔制御兵器がどんどん開発され易いこの時代において、このような非対称戦術から軍隊を防護することがますます困難になるだろうという事実を和らげることにはなりません。


 自爆型UAVでイラク軍を攻撃するこの試みは成功する可能性が低いですが、その手法がいつか世界中における同様の紛争で幅広く効果的に使用される戦術となる可能性があるという脅威が増大しています。

 イラクにおけるISの時代は徐々に終わりが近づいていますが、シリアではより多くの驚きが待ち受けているのは確実であり、この紛争は予測不可能な方法で展開を継続し、将来戦われる戦争の手法が彼らの強い影響を受けることは間違いないでしょう。


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