2021年5月20日木曜日

ガザ紛争:ハマスが保有する北朝鮮の武器


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)


 国際法上ではパレスチナの一部である東エルサレム近隣のシェイク・ジャラ地区で、イスラエル人入植者を優先してパレスチナ人住民を立ち退かせる決定がなされたことについて、2021年5月6日にエルサレムで抗議活動が勃発しました。

 イスラエル当局はこの抗議活動を厳しく取り締まって多数のパレスチナ人が負傷したことなどから、両陣営は武力衝突の寸前に直面しました。抗議がさらに多くの負傷者を出しながら続く中で、ハマスはイスラエルに対し最後通牒を突きつけ、5月10日までにエルサレムにある宗教的に敏感なアルアクサ・モスクから軍を撤退させることを要求しました。

 イスラエルを最後通牒に応じさせることができなかったため、ハマスは(過去数十年にわたって同様の多くの衝突が起きている)ガザ地区からイスラエルの入植地に向けてロケット弾攻撃を開始しました。

 ロケット弾による攻撃に対応して、イスラエルは同じ日から戦闘機や無人航空機(UAV)から投下される精密誘導弾や地上から発射される砲弾を使用して、ガザ地区内に存在する多数のハマス関連の標的を攻撃しました。

 これらの攻撃によって、数人のハマス高官のみならず多くの民間人を含む200人近くのパレスチナ人が死亡したと考えられています(その中には少なくとも58人の子供も含まれていると報じられています)。そして、イスラエル側では今までに10名の死傷者が報告されており、その大多数がハマスによるロケット弾攻撃によって死亡しました。[1]

 ハマスが使用する武器の選択は – その軍事部門であるエゼディン・アル・カッサム旅団を通じて用いられており – これまでのところは主に独自生産の無誘導ロケット弾の発射という方法が多用されているようです。今回では、それらを迎撃する任務を課されたイスラエルのアイアンドーム防空システムを飽和させて圧倒するために大規模かつ同時多発的な斉射が実施されています。

 暴力行為がさらにエスカレートするにつれ、ハマスは対戦車ミサイル(ATGM)や徘徊兵器を含むいくつかの(ロケット弾以外の)兵器システムも初公開しました。これらは双方ともにその使用が激化するにつれ、世間に広く知られるようになりました。


 特に、ハマスによるATGMの使用は過小評価できない脅威となっています。ATGMはイスラエル国防軍(IDF)で運用されているほとんどの車両の装甲を高い精度で貫通することができ、1発でも命中を成功させた場合は数日分のロケット弾攻撃よりも多くの死傷者をもたらす可能性があります。

 今回の戦闘でハマスは少なくとも2回ATGMを使用してガザの境界線沿いに展開していたIDFの車両を攻撃し、イスラエル兵1名の死亡と3名の負傷をもたらしました。[2]

 そのお返しとして、IDFはミサイルが発射される前にハマスのATGM部隊を抹殺することを決め、これまでに7つのATGM部隊が標的にされたと伝えられています。[3]


 ハマスは無誘導ロケット弾や携帯対戦車擲弾発射器(RPG)、さらには(一部、海外から密輸されたコンポーネントを使用してはいるものの)無人機の国産化にも成功していますが、ATGMの入手については膨大な武器密輸ネットワークとイランからの軍事援助に依存しています。

 近年にハマスが保有しているATGMのストックは、9M14「マリュートカ」、9M111「ファゴット」、9M113「コンクールス」、手強い9M133「コルネット」などのシステムで構成されており、これらはハマスが内戦で疲弊したリビアやイランからなんとか密輸して入手したものですが、少数の北朝鮮の「Bulsae-2(火の鳥)」も含まれてます(注:Bulsaeは日本語で直訳すると「火の鳥」ですが、最近の北朝鮮の武器カタログでは英語でPhoenixと表示されていたケースがあったため、単に「不死鳥」や「フェニックス」と表記することも可能です。ただし、この記事では従来の「火の鳥」を使用します)。

 これらのATGMは、同様に発見されにくい北朝鮮のF-7ロケット推進擲弾と一緒に使用されています(注:F-7も少数がガザ地区にも辿り着いたようです)。


 カッサム旅団は、スーダンからガザ地区までに及ぶ裏ルートのチャンネルや密輸業者の精巧なネットワークを通じて、イランから北朝鮮の武器を入手していたと考えられています。
これはおそらく、ほかの輸送手段と同様の方法で密輸されたものと推測されます:武器がスーダンに運ばれた後、陸路でエジプトに移送され、そこから地下トンネルを通ってガザ地区へ密輸されたのでしょう。

 この説は2009年12月に発覚した事件によってさらに裏付けされています。このケースでは、北朝鮮の武器を積載したイリューシンIL-76貨物機がバンコクに着陸した直後にタイ当局によって武器が発見・押収されました。「石油掘削装置」と表示された貨物には、35トン分のロケット弾、携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)、爆薬、ロケット推進擲弾などの武器が含まれていたのです。[4]

 また、その数ヶ月前(2009年7月)にもUAEで同様の(武器を積載した)貨物が押収されています。[4]

これらを踏まえると、ほかにもこのような大量の「貨物」が誰にも気づかれずにハマスと(レバノンの)ヒズボラに転送された可能性があると信じられています。
 
 

 どうやら、この密輸構想における北朝鮮の役割は武器の製造に限定されているようですが、北朝鮮は輸出した武器の最終目的地を完全に把握していると推測することができます。

 しかし、このような武器取引について北朝鮮の体制が持つ唯一の関心はそれらがもたらす外貨であり、(制裁強化による)自暴自棄の度合いの高まりがハマスたちをこれまで以上に存在しそうもない顧客にせざるを得ない状況となっているため、(売却した武器を手にする相手が)誰になっても問題にはしないでしょう。

 もちろん、ハマスは平壌と重要な交友関係を持っていないことを踏まえると、このような難解な武器供給者の選択は驚くべきことかもしれません(ただし、後者はこの地域でのイスラエルの行動を一貫して非難していますが)。

 実際、イランは北朝鮮に装備の供給を請け負わせることで、自らのパレスチナへの関与を隠蔽しようとした可能性があります。そうすることで、問題の武器がハマスの部隊で運用されていることが露見しても、イランはもっともらしい否認をし続けることができるからです。

 北朝鮮自身も外国で使用されている自国の武器の起源が明らかになることを望んでいないため、頻繁に同等の外国製装備の名前(英語)を用いながら武器を販売しています。リビアでは、発射機に「PLA-017」、ミサイルに「PLA-197」と書かれた「火の鳥-2」が目撃されていますが、おそらくこれは中国由来の武器であると誤認させるための名称でしょう。

より多くの「火の鳥-2」のミサイルと発射機が(政治的対立の後にハマスから分離独立した)アル・ナセル・サラディーン旅団の保有兵器として登場しました。 

 カッサム旅団で使用されているもう1種類の北朝鮮製の弾薬はF-7ロケット推進擲弾であり、これはRPG-7用のソ連製PG-7を北朝鮮がコピーしたものです(注:F-7はハマスの現地生産型発射機にも適合している可能性があります)。F-7は弾頭の周りに赤いラインが引かれているため、ほかのPG-7のコピー弾と見分けることが容易です。

 この擲弾はシリアやエジプトを含む世界中でその姿が見られています。2017年に、エジプトはスエズ運河の付近を航行している北朝鮮の貨物船が違法な貨物を積載している可能性があるという米国の警告を受け、後にその船から30.000発のF-7弾を押収しました。困ったことに、このケースでは不正な貨物の目的地は押収した国:エジプトであることが判明したのです。[5]


 オリジナルの設計では、9M111有線誘導式ミサイルは半自動指令照準線一致誘導方式(SACLOS)を用いて標的に向かって飛行し、約460mmの均質圧延鋼装甲(RHA)を貫通することができます。また、アップグレードされたミサイルも一般的には同じ発射機から発射することが可能です。

北朝鮮は1980年代後半にソ連から9K111(AT-4)を入手したことが知られています。

 北朝鮮製のシステムはいくつかの重要な点でオリジナルと異なっています。特に注目するべき点として、オリジナルのミサイルが有線誘導式であったためにワイヤーが途中で切断されたり水上を飛行する際にショートしてしまうリスクがあったのに対し、「火の鳥-2」はレーザー誘導方式を採用しています。この誘導方式では、ミサイルの飛行経路を修正は単にオペレーターが照準器のレチクルと標的を重なるように維持すればよいだけなので、高い命中精度をもたらす可能性を秘めています。

 誘導方式以外では、一般的な「火の鳥-2」は射程距離の延長や弾頭の貫通力の向上、異なった運用モードを運用者に提供しませんが、北朝鮮ではさらにアップグレードされたミサイルが存在することが知られています(注:これは2016年に北朝鮮が試験したレーザー誘導式新型対戦車ミサイルを指すと思われます。これと同一のミサイルシステムが「Phoenix-4M」として武器輸出カタログに掲載されています。)また、北朝鮮は独自の形状をした専用の熱電池も製造しているようですが、これはシステムの品質には影響しないと思われます。

1人の兵士が発射機全体を携行して仲間の部隊員がそれぞれ2本の発射管を持ち運ぶことを可能にさせる、このATGMシステムのコンパクトで持ち運びに便利なデザインがハマスに特に重宝されているようです(下の画像を参照)。


 これまで、北朝鮮は(体制の支配力の維持を手助けする)武器の販売を通じた外貨の供給を外交関係に依存してきました。その結果として、エジプト、シリア、イラン、ミャンマーなどの国への弾道ミサイルや核技術の輸出さえも頻繁に報じられており、国際的な監視者から大きな注目を集めています。

 しかし、(制裁などで)顧客層が狭くなるにつれて非国家主体との取引に対する不安も薄れてきており、もし北朝鮮が(おそらくイランを通じて)ハマスとの新たな取引関係を確保できるのであれば、ほぼ間違いなくそうするでしょう。

 ハマスにとって、北朝鮮製のATGMやRPG弾頭がもたらす恩恵はその在庫が続く限り続くでしょう。これらの武器が戦闘に関与する数が比較的少なく、ガザ地区での紛争状態が長期間継続する可能性が低いためです。
   

 武器の密輸ルートは絶えず進化しており、今やイランはいくつかの分野のATGMを生産しており、イエメンやイラクの代理勢力に輸出する準備をしています。これを踏まえると、次にガザ地区に到着するATGMやRPGのパッケージがイラン製のもので構成されている可能性が非常に高いと思われます。これには(9M133「コルネット」のコピーである)デフラヴィエ ATGMだけでなく、代理勢力の部隊用に特別に設計された(簡略化された)RPG-29のイラン製コピーも含まれます。

 イスラエルが運用している最新型の機甲戦力に脅威を与える可能性すらある高性能なイラン製システムの前では、ハマスが保有する北朝鮮製兵器は単なる歴史的な遺物のように見えるかもしれません。

 それにもかかわらず、彼らの存在は違法な武器がどのような方法で地球上を駆け巡っているのかを示す致命的な注意喚起として機能しますが、ときには予想外の場所に出現することもあります(注:そのためにはあらゆる紛争地域に登場する軍事装備を注視していく必要が不可欠です)。





※  この翻訳元の記事は、2021年5月18日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
 により、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読ください。


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2021年5月2日日曜日

タルフーナでの大災難: GNAへの完敗でハフタル将軍が別の拠点を失った


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ with MENA_ConflictCOIN_TR(編訳:Tarao Goo)

 2020年6月5日、リビアの国際的承認を受けた政府(GNA)に忠実な部隊がタルフーナを占領し、リビア国民軍(LNA)が首都トリポリの攻略を目指して約14カ月も展開してきた攻勢が正式に終了したことを世に知らしめました。

 トリポリの中心部から南西に約60キロ離れた場所にあるタルフーナはリビア北西部でハフタル将軍が持つ最後の拠点であり、巨大な補給基地としての役割を持っていたため、LNAにとっては最も重要な拠点でもありました。

 タルフーナがGNAに攻略された直後に、LNAによる何年にもわたる占領がこの都市の住民にとってどのような意味を持っていたのかかが明らかとなりました。この都市は2015年4月から民兵(キャニヤット)の支配下にあり、2019年4月にハリーファ・ハフタル率いるLNAに忠誠を誓った彼らは地元住民に恐怖政治を敷いていたのです。

 2015年にキャニヤット民兵が初めて同市を奪取して以来、現地住民からは合計338人の行方不明事件が報告されており、その圧倒的大多数が2019年4月から2020年6月の期間に発生しました。[1] [2]これらの人々の大半の運命は、タルフーナとその周辺で約30の集団墓地が発見された後に解明されたのです(そのいくつかには女性や子供の遺体も含まれていました)。[1]
 悲惨なことに、今でも新しい集団墓地が発見され続けています。[3]

 タルフーナ周辺で発見された多数の集団墓地に最も注目が向けられたことは当然ですが、これはLNAの武器や装備が大規模な損失が大いに見過ごされたことを意味しています(注:集団墓地がクローズアップされた結果、遺棄された武器に注目が集まらなかったこと)。

 もちろん、リビア内戦では広範囲にわたる武器の捕獲が見られましたが、タルフーナが特に興味を引かせるのは、過去数年間に外国の支援者(ロシア、UAE、ヨルダン、フランス、エジプト)によってLNAに供給された非常に多くの種類の武器や装備が再び明らかになったためです。それらの中には、(この記事の後半で証明されるとおり)以前にはLNAに供給されていたことが知られていなかった種類の装備も含まれていました。



 以下に記した数字は捕獲された武器・弾薬に関する控え目な推定値です(実際の数字はもっと高いと考えられます)。
 少なくとも映像や画像に映し出された木箱のうちの454個については、その中身を確認することはできませんでした。資料として使用できる映像に記録されている量が少ないため、このリストに小火器は含まれていません。
 同様に、航空機やヘリコプターを含む遺棄された車両も含まれていません。


弾薬:

- 249 小火器用弾薬箱
- 139 重機関銃用弾薬箱
- 211 PG-9/15・OG-9/15 ammunition (BMP-1・SPG-9用)
- 2 RPG-32ロケット弾 (ナッシュシャブRPG用)
- 5 82mm砲弾
- 1 84mm砲弾 (カール・グスタフ無反動砲用)
- 3 106mm砲弾
- 32 100mm砲弾 (T-55戦車用)
- 8 07mm砲弾(63式放射砲用)
- 122 120mm砲弾
- 48 122mm砲弾 (D-30榴弾砲用)
- 177 122mmロケット弾(BM-21放射砲用)
- 18 152mm砲弾
- 35 詳細不明のロケット推進剤
- 6 MON-50 対人地雷
- 16 MON-100 対人地雷
- 18 OZM-72 対人地雷
- 12 TM-62 対戦車地雷
- 4 Type-72SP 対戦車地雷
- 4 TM-83 対戦車地雷
- 10 9M133「コルネット」対戦車ミサイル(ATGM)
- 3 FN-6 携帯式地対空ミサイル(MANPADS)


重装備:

- 3 ZPU-2 14.5mm対空機関砲
- 6 ZU-23 23mm対空機関砲
- 5 82-BM-37 82mm迫撃砲
- 2 M40 106mm無反動砲
- 2 D-30 122mm榴弾砲
- 1 北朝鮮製の122mm野砲
- 6 M-46 130mm野砲


車両:

- 56 T-55A戦車
- 3 T-55E戦車
- 17 T-62戦車(1972年型)
- 1 T-62M戦車
- 2 T-62MV戦車

- 1 T-72「ウラル」戦車
- 2 T-72M1戦車
- 2 EE-9「カスカベル」装甲車
- 23 BMP-1歩兵戦闘車

- 3 TOPAS(OT-62) 装甲兵員輸送車
- 2 Ratel 歩兵戦闘車
- 1 2S1「グヴォズジーカ」122mm自走榴弾砲
- 3 2S3「アカーツィア」152mm自走榴弾砲
- 9 パルマリア155mm 自走榴弾砲
- 1 M109 155mm自走榴弾砲
- 1 63式 107mm多連装ロケット砲
- 4 BM-21 122mm多連装ロケット砲
- 2 北朝鮮製の122mm多連装ロケット砲(UAEによって122mmロケット弾を使用できるように改修)
- 1 ニムル歩兵機動車(IMV)
- 5 KADDB アル・ワフェイシュ(Al-Wahsh)IMV
- 3 MSPV パンテーラT6 IMV
- 1 MSPV パンテーラF9 IMV
- 4 ストレイト・グループ/KrAZ クーガーIMV
- 3 ストレイト・グループ/KrAZ スパルタンIMV
- 2 (武装・装甲化された)フロントローダー
- 88 テクニカル(約75%が破壊されているか修復不可な状態の損傷を受けた状態).
- 3 HMMWV
- 1 イヴェコ トラッカー380
- 2 カマズ製トラック
- 6 トラック


ヘリコプター:

- 1 Mi-35
- 1 A109E
- 3 AW139

 捕獲された小火器用の弾薬箱の中身を合計すると、目でカウントできる数をはるかに超過してしまいますが、体積で計算すると7.62x39mm弾が約16万4千発、7.62x54mm弾が約10万9千発に相当します(ただし、その両方が混在している可能性もあります)。


 捕獲された弾薬の大半は捕獲者によってすぐに持ち去られてしまいました。テクニカルの荷台は文字通り弾薬箱であふれていますが、おそらく最も心配なことは、ケースから出された迫撃砲弾と各種砲弾がむき出しで積まれていることでしょう。


 隠されていたMON-50、MON-100、OZM-72対人地雷やTM-62、TM-83対戦車地雷がタルフーナのあらゆる場所で発見されました。これらの全てが、ワグネルが使用するためにロシアによって持ち込まれたものと考えられており、まだLNAが支配していた頃のトリポリ周辺にワグネルが設置したことですぐに悪名高いものとなりました。

 戦略的な主要道路やロシア兵がいる基地の周囲をカバーするように地雷を埋めることは軍事的観点からすると道理にかなう行為ですが、ワグネルはトリポリ周辺から撤退する直前に、その郊外の至る所に大量の地雷を仕掛けることに行き着きました。

 これらの地雷の設置は、意図的にGNAの動きを鈍らせ、地雷の除去に多大なリソースを転用させることを余儀なくさせるための目的があったようですが、これとは別に明らかにより悪質な目的を持っていた地雷もありました。その中には間違いなくそれを掴んだ子どもを殺害することを狙ったテディベア型のIEDも含まれていたのです(注:地雷というよりブービー・トラップである)。


 約175発のBM-21多連装ロケット砲(MRL)用の122mmロケット弾が保管庫で発見されました。ロケット弾を木箱に入れて安全に収納しておくのではなく、全てのロケット弾が山積みにして棄てられていました:基本的な安全対策すら無視されていることは明らかです。


 今回GNAの手に渡った重装備:T-62MとT-62MVは、それぞれがリビアで初めて捕獲された型の戦車となります。

 T-62MとT-62MVは過去1年にロシアからLNAに引き渡されたものであり、リビア内戦が始まる以前には双方ともにリビア軍の兵器庫には存在していませんでした。ロシアによってリビアに持ち込まれた武器や装備の大部分はワグネルの使用を意図したものでしたが、T-62はLNAに即座に供給されました。

 下の画像ではGNA兵士がかなり風変わりな見た目の銃を手にしていますが、これもLNAから鹵獲した中国製のDHI-UAV-D-1000JHV2という対ドローン用銃です。[4]


 リビアに戦車を持ち込んだ国はロシアだけではないことは、エジプトが供給したT-55Eが証明しています(下の画像)。

 リビアはかつてアフリカで2番目に大きな戦車部隊を編成していましたが、2011年にはスペアパーツもない状態となって大部分の戦車が運用不能な状態となってしまいました。このことは、2000両以上の戦車を国内各地のデポに保管している国が最終的には他国からの供給に頼らなければならないという、かなり奇妙な状況をもたらしました。

 少なくとも3台のT-55Eがタルフーナ周辺で捕獲されましたが、そのいくらか前には4台目のT-55E(ドイツのAEG製赤外線ライト付き)もトリポリの郊外で捕獲されています。[5]


 リビアが1970年代から980年代の間に受け取った大量の戦車も捕獲されました。捕獲された戦車群の大部分はT-55とT-62で構成されていたものの、少なくとも3台のより現代的なT-72も含まれていました。

 これらの多くが捕獲された時点で稼働状態にあったとは考えにくく、一部はすでにリビア西部で運用されている別のLNAの戦車を維持するためのスペアパーツの供給源として活用されていたのかもしれません。


 タルフーナのすぐ南にあるAFVの保管・修理施設でさらに多くの戦車や他の種類のAFVと出くわしました。 

 この施設は1990年代以降に車両の廃棄場という地味な役割に格下げされていましたが、2019年にLNAがこの基地を引き継いだ後、彼らは自軍のAFV群の稼働状態を維持するために現存する施設を喜んで有効活用したようです。


 (真下の画像に写っている2台のチェコスロバキア製OT-62 TOPASを含む)ここで捕獲されたAFVの大半はしばらくの間は運用状態にはなかったと思われますが、捕獲者が運転して持ち去ったT-55Aについては極めてまれな例外だったようです。


 2台のブラジル製EE-9「カスカベル」装甲車も捕獲されました。

 これらは1970年代後半にEE-11「ウルツ」装甲兵員輸送車と一緒にリビアへ引き渡されたものであり、2000年代初頭のどこかで退役する前にはチャドとリビア間の紛争で活躍する姿が見られました。

 2011年以降、リビアを支配するべく戦う複数の勢力がいくつかのEE-9をなんとか復活させており、これらは(共食い整備用の)他の車両から得られたスペアパーツの供給がある限り、確実に運用され続けるでしょう。

 23台ものBMP-1も捕獲されましたが、その時点で稼働状態にあったのはその中のごく少数であり、ほとんどのBMP-1は再稼働させるためにオーバーホールやスペアパーツを必要としていたようです。

 スペアパーツの供給源として使用できそうな数を考慮すると、これらのBMPの一部を再稼働させることはGNAの能力の範囲内にあるはずです。

 捕獲された2台の南アフリカ製ラーテルAPC(1台はラーテル60で、もう1台はラーテル20のようです)は、2011年の革命の際にリビアの反政府勢力に引き渡されたものの一部と思われます。どちらも酷使された痕跡がありますが、注目すべきはパンクしたタイヤを問題としていないように見えることです。

 ラーテル60は砲塔に直撃弾を受けたようですが、その後も依然として支援用途で運用されていたかもしれません。


 GNAは6門のM-46 130mm野砲と2門のD-30 122mm榴弾砲を含む9門の牽引砲にも遭遇しています。これらは全てが正常に使用できる状態にあったようで、すぐに鹵獲者に回収されてしまいました。


 (少なくとも私たちにとっては)もっとも興味深い発見:1門の放棄された北朝鮮製の122mm野砲は明らかに相当前から使用できる状態ではありませんでした。この珍しい大砲は、かつての北朝鮮とリビアの親密な関係を思い出させてくれます。より詳しい情報は私たちの本「北朝鮮の軍隊」をご覧ください。


 1台のアメリカ製M109 155mm自走榴弾砲も発見されました。この自走榴弾砲がリビアに引き渡されたのはカダフィ政権が誕生する以前のことですが、同時期に引き渡されたされたM113 APCと違って、カダフィ大佐の軍隊はM109をほとんど使用しませんでした。

 この自走砲が再び使用される姿が見られたのは2011年の革命後になってからであり、2016年10月に「(GNAの前身である)リビアの夜明け運動」がシルテでイスラム国と戦った際に使用されたケースも含まれています(注:前述のとおり、革命前の使用例は確認されていません)。

 リビアにおけるこれらの深遠な自走砲の運用歴については、こちらをご覧ください


 リビアでM109とほぼ同じくらい珍しいのがソ連の2S3「アカーツィヤ」152mm自走榴弾砲で、1980年代前半に約50台がリビアに届きました。

 これらの全てが2011年の革命勃発前には保管状態にありましたが、おそらく、この小さな自走砲群の稼働状態を維持するためのスペアパーツが不足していたためだと思われます。それにもかかわらず、タルフーナでは少なくとも3台の稼働状態にあると思われる2S3がGNAに捕獲されました。


 リビアで最も多くある自走砲:イタリアのパルマリア 155mm自走榴弾砲がここでも登場したのは当然のことでしょう。この自走砲は9台がGNAに捕獲されました。

 2011年以後のリビアではパルマリアはその大多数が直射照準射撃で使用されており、特に知られているものでは、2016年に「リビアの夜明け運動」がシルテに籠城したイスラム国の戦闘員に対して使用した例があります。

 
 捕獲されたBM-21「グラード」多連装ロケット砲(MRL)がタルフーナの通りで並んでいます。トヨタのピックアップ・トラックに搭載された中国製の63式 107mm MRLも見えますが、吹き飛ばされたタイヤがLNAによる待避を妨げたようです。


 タルフーナで出くわした戦利品を取捨選択する過程で、GNAはこの時点で全く知られていなかった多くのMRLに遭遇しました。これに搭載されているロケット弾ポッドは、トルコのロケットサン社がUAEに納入して強大なジョバリアMRLに搭載されたものと同じタイプです。

 UAEへの北朝鮮の武器納入に関する予備知識が無い限りは、このTELに使用されているトラックと発射台の仕組みはいっそう謎に包まれたものになるでしょう。砲台の機構については、1989年にUAEが入手した北朝鮮製240mmMRLに使用されていたものと容易に判別することができます。[7]

 このトラックも特筆すべきものであり、(ACP90とも呼ばれる)イタリアのイヴェコ260/330.3の装甲を強化した派生型です。

 240mmMRLはUAEで必要とする以上の装備だったため、この発射機はある時点で122mmロケット弾を発射できるように改修されたようです。このMRLは後にLNAで使用するためにリビアに送られましたが、タルフーナでいくつかのロケットポッドと一緒に2台の自走発射機が失われました。UAEで運用されている北朝鮮製武器に関する詳しい情報は私たちのこの記事で読むことができます


 もちろん、リビアでの戦いに関する記事については、少なくとも1台のパーンツィリ-S1がバイラクタルTB2の手で破壊されていることに言及しなければ完全なものとは言えません。
 この「ストローラー(注:おそらく以前に運用していたUAEのオペレーターによって名付けられたニックネームと思われる)」は、5月20日に巨大な倉庫で隠れているときに狙われました。[8]

 (パーンツィリが)そこに存在していることを示唆する機密情報をGNAが受け取ったのか、あるいはTB2によって以前に倉庫に入っていく姿がキャッチされて、その後に標的にされたのかは不明です。興味深いことに、LNAは著しく損傷したパーンツィリ-S1をそこから待避させようとしませんでした。甚大な損傷を受けたものの、この「ストローラー」は後にGNAによって回収されました。


 いくつかの歩兵機動車(IMV)もGNAの手に落ちており、その全てがここ数年でUAEがLNAに供給したものです。

 画像の上から順に紹介すると、ストレイト・グループ/KrAZ スパルタン、ストレイト・グループ/KrAZ クーガー、MSPV パンテーラT6、MSPV パンテーラT9となっています。
L
 NAはこの種の装甲車のいくつかをDIY装甲を追加する改造を手がけており、大抵の場合は小火器による攻撃から守るためにホイールの周囲に追加装甲が施されています。しかし、タルフーナやその周辺で捕獲されたものに関しては、そのような改修を施されていませんでした。
 

 (少なくともリビアで)より目立つタイプの車両はLNAに大量のIMVが引き渡される前から存在しています。捕獲された3台のHMMMVは、2012年に米国が新生リビア軍に納入した約200台のパッケージに含まれていたものです。[9]

 2014年以降、各勢力は自己が保有する限られた数の運用可能なHMMMVを最大限に活用することを試み、中にはEE-9装甲車から取り外した90mm砲でアップグレードしたことさえありました。[10]


 タルフーナの周辺では、(実際にはもっと多いと思われますが)最低でも9台のトラックが放棄されたか破壊された状態で発見されており、その中にはロシアがLNAに引き渡した1台のカマズ 6x6 トラックが含まれています。

 また、2台のフロントローダー(1台は装甲板付き)も捕獲されました。2枚目の写真では、カマズ製トラックのすぐ後ろに損傷したヨルダンのKADDB アル・ワフェイシュIMVがいることにも注意してください。


 GNA軍がタルフーナに向かう途中でアブー・アイシャとその地方空港に到達した際には、彼らはかつてこの場所で行われていた全く知られていない航空活動の名残だけでなく、この地域から撤退する直前のLNAによって(間違いなくGNAによる捕獲を防ぐために)燃やされた数十台の車両にも遭遇しました。

 しかし、焼け焦げた残骸をよく調べてみると、ほとんどのテクニカルは燃やされる以前からすでに(大きな)損傷があったことが明らかとなりました。このことから、この格納庫は戦場で損傷した車両の保管場所として使われていた可能性があります。


 多くの人に知られていませんが、アブー・アイシャ空港(通称ファム・モルガ)は、かつてリビア・イタリア先進技術会社(LIATEC)という前途有望な航空産業の舞台でした。
 LIATECはリビア国内におけるA109とAW139ヘリコプターの生産組み立てラインとメンテナンスセンターを立ち上げるためにイタリアとリビアの合弁事業で設立された会社です。[11]

 この施設は2010年4月にオープンしたものの、2011年の革命前にごく少数のヘリコプターがここで組み立てられただけであり、革命に続く国内の不安定化が国産航空産業の有望な原動力となるはずだったこの事業に終止符を打ちました。


 LNAは格納庫にあった車両をGNAに捕獲されることを防ぐために燃やしたようですが、その隣にある別の格納庫にあったMi-24V/Mi-35攻撃ヘリコプターは完全に無傷の状態で残されていました。

 この約2週間前にワティーヤ空軍基地で無傷で捕獲されたMi-24Vと同様に、この機体も技術的問題がLNAの支配下にある空軍基地への飛行を妨げたようです。

 
 この時点でGNA部隊はMi-35をトリポリかミスラタの空軍基地に移動させ、そこで機体を修理して(装備がひどく枯渇している)GNA空軍に運用を押しつけるか、あるいはこのヘリコプターを車の後ろに繋いでドライブするか、という「困難な」選択に直面しました。結果として、GNAの戦闘員たちは喜んで2番目の選択肢を選んだようです。

 彼らの運転技術はその常識の欠落と見合うレベルだったため、ヘリコプターを木に衝突させるまでに長い時間はかかりませんでした(この衝突で右側のスタブ・ウイングの一部が脱落してしまいました)。

 損傷したヘリコプターは後にトリポリのミティガ空軍基地に移送されましたが、その途中でまた衝突事故に遭いました...この時の相手は橋でした


 かつてアブー・アイシャで行われていた作業のホコリにまみれた痕跡:2011年の革命が勃発した時点では、ここには完成した2機のAW139(1機はリビア空軍機でもう1機はリビア内務省所属機)と組み立て中だった1機のAW139がありました。しかし、革命後はLIATECのけるこれ以上の作業は全てストップしてしまいました。

 また、(LIATECで組み立てられたもう一つの機種である)A109Eも1機が空港の敷地内で廃棄された状態で発見されました。

 ヘリコプター以外でこの空港に残存する保有機リストを占めていたのは10機の航空機(うち7機が農薬散布機)でした。


 2020年6月6日には、GNA軍はバニワリドの支配権も得ました。これは、LNAが放棄したこの街を無血でGNA側に移行させることに長老評議会が合意したためです。

 この地方空港はリビア西部のLNA部隊に物資や装備を輸送するために使われていましたが、バイラクタルTB2がリビアの戦場に投入されたおかげでワティーヤ空軍基地での飛行作戦がほぼ不可能になった後は、ここの重要性が必然的に高まりました。[12] [13]

 IL-76のような大型輸送機の運用に適応させるため、バニワリドの滑走路は2020年初頭から半ばにかけて3000メートルに延長されました。LNAにとっては不幸なことに、滑走路が完成してからわずか1ヶ月後にリビア西部からの撤退を余儀なくされたたため、滑走路を少しも活用できなかったようです。

 滑走路が完成した直後にリビア西部からの撤退が突然始まったため、ワグネルにとって滑走路の延長作業の完了は絶好のタイミングでした。ほとんどの傭兵はセブハや中央リビアのアル・ジュフラに向けて延々と車列を組んで退却していきましたが、ほかの傭兵は重装備とともにバニワリドに押し寄せてリビア西部から飛行機で脱出していったからです。

 この中には、UAEがワグネルに提供した数台のパーンツィリ-S1とその支援車両も含まれていました。[14]


 バニワリドには11機のチェコスロバキア製 L-410多目的機も残されていました(注:これらは1983年に二機渡された19機の一部です)。[15]

 スペアパーツが尽きてバニワリドに放棄される前には、これらの機体は軽輸送機や高等訓練機として使用されていました。

 砂漠の環境のような乾燥した気候での駐機は機体を腐食から保護することに役立ちましたが、2003年にリビアへの武器禁輸措置が解除された後も、この飛行隊を復活させる試みは何も行われませんでした。


 約80台の戦車を含む125台のAFVと多数の航空機やヘリコプターがGNAに捕獲されたことで、タルフーナ攻略の重要性は「LNAの重要な戦略拠点が失われたこと」よりも「大規模な武器の捕獲」にあったと誤解されやすいかもしれません。

 現実には、捕獲された装備の大半は、それらを単なる射撃訓練の標的に追いやっている新しい戦闘方法「バイラクタル外交」が開拓されている紛争でさらに役立つために修理やスペアパーツを必要としています。

 GNAのLNA支配地域への前身を阻止するために初めて守勢に入ることを余儀なくされたこともあり、リビア全土の統治するというハフタル将軍の狙いがこれまで以上に遠のいたように見えます。

 実際、紛争の次の犠牲者は別のパーンツィリ-S1や戦略的拠点の喪失ではなく、ハリーファ・ハフタル自身である可能性もあります。

 何十億ドルもの資金、最先端の兵器システム、人材をリビアに投入してきたLNAの国外支援者たちは、ついにその投資に対する真の成果を見せることを彼らに要求するかもしれません。

    この記事の作成に協力した Monitoring 氏に感謝を申し上げます。

[1] New mass graves in Libya’s Tarhuna demand accountability https://reliefweb.int/report/libya/new-mass-graves-libya-s-tarhuna-demand-accountability
[2] Libya: Militia Terrorized Town, Leaving Mass Graves https://www.hrw.org/news/2021/01/07/libya-militia-terrorized-town-leaving-mass-graves
[3] 4 bodies exhumed from new mass grave in Libya’s Tarhuna https://www.aa.com.tr/en/middle-east/4-bodies-exhumed-from-new-mass-grave-in-libya-s-tarhuna/2104277
[4] https://www.dahuasecurity.com/asset/upload/uploads/soft/20181122/DHI-UAV-D-1000JHV2-datasheet.pdf
[5] https://twitter.com/egyptdefreview/status/1265754498879893506
[7] Inconvenient arms: North Korean weapons in the Middle East https://www.oryxspioenkop.com/2020/11/inconvenient-arms-north-korean-weapons.html
[8] https://twitter.com/Acemal71/status/1268978594996531201
[9] Libyan army has taken delivery of 200 HMMWV Humvees from United States 3007131 https://www.armyrecognition.com/july_2013_news_defence_security_industry_military/libyan_army_has_taken_delivery_of_200_hmmwv_humvees_from_united_states_3007131.html
[10] https://i.postimg.cc/QMfftBhv/D3j-Wl-YIXs-AAWINX.jpg
[11] Finmeccanica and AgustaWestland JV in Libya; EUR 80 million Contract Signed for Ten A109 Power Helicopters http://www.defense-aerospace.com/article-view/release/65905/libya-buys-10-agusta-109s,-forms-jvc-(jan-18).html
[12] https://twitter.com/markito0171/status/1119659732141264896
[13] https://twitter.com/TvFebruary/status/1146855987145584641
[14] https://twitter.com/aldin_ww/status/1265755271579734016
[15] Libyan Air Wars Part 2 1985-1986 https://www.helion.co.uk/military-history-books/libyan-air-wars-part-2-1985-1986.php


※  この記事は、2021年3月15日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した 
  ものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所がありま
    す。



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