2025年9月12日金曜日

藁にもすがる思い:ティグレ戦争中に確認されたエチオピアへの武器移転(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年1月に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります(本国版の記事はリンク切れ)。

 エチオピアとアラブ首長国連邦、イランとの間に設けられた輸送網により、エチオピアは2021年現在進行中の紛争でティグレ防衛軍(TDF)を打ち負かすために必要な武器を全て備えることができています。

 2022年1月までに合計約140便の飛行があったにもかかわらず、窮地に立たされているエチオピア国防軍(ENDF)にどのような種類の武器や装備が届けられたかについては、ほとんど知られていません。[1]

 これは、ENDF全体に(兵士が装備の写真を撮ることを禁止するような)強力な作戦保全(OPSEC)の規則が徹底されていることが原因というわけではないようです。そもそも、ティグレ戦争勃発前のエチオピアは適切なOPSECの遵守が緩く、私たちのようなアナリストが歓迎していた事実があります。

 現在進行中のティグレ戦争の流れを変えるため、エチオピアは乏しいリソースの大半を世界各国からの無人攻撃機(UCAV)の入手に費やしています。これには、2021年8月に少なくとも2機の「モハジェル-6」を引き渡したイラン、2021年9月に3機の「翼竜I」を納入した中国、2021年11月にハラールメダ空軍基地に少なくとも6機の「翼竜I」を配備したアラブ首長国連邦が含まれます。[2] [3] [4]

 また、UAEが引き渡した複数のVTOL型UCAVもエチオピアで使用され続けています。[5]

 ただし、ENDFに引き渡された陸戦兵器については全く判明していません。この国が当初から保有している装甲戦闘車両(AFV)と牽引砲のストックは、戦闘の損失とティグレ軍に奪われた約100台の戦車と約70門の火砲を補うには十分だったようです。[6]

 これとは対照的に、Eティグレ軍がティグライ地方の基地を制圧した際に、ENDFは大口径多連装砲(MRL)と誘導ロケット弾や弾道ミサイルシステムのほとんどを失っています(編訳者注:「M20」弾道ミサイルシステムは戦後に少なくとも1門残存していることが確認されている)。[7] [8]

 したがって、エチオピアの失われた戦力を埋め合わせるために、大口径ロケット砲などの装備を提供することは十分ありえることだと思われます(編訳者注:2023年に中国から23門の「PCL-181」155mm自走榴弾砲を導入したが、ロケット砲類については未確認)。

  • この一覧は、ティグレ戦争中におけるエチオピアに引き渡された武器を網羅することが狙いです。
  • 各装備名の前に付されている国旗は、生産国よりも引き渡した国を示しています。
  • 各装備名をクリックすると当該兵器の画像を見ることができます。

無人攻撃機 (UCAV)

ミサイル・誘導爆弾 (UCAV用)

車両

[1] Iran Is Still Resupplying The Ethiopian Military https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/iran-is-still-resupplying-ethiopian.html
[2] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[3] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[4] The UAE Joins The Tigray War: Emirati Wing Loong I UCAVs Deploy To Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/the-uae-joins-tigray-war-emirati-wing.html
[5] UAE Combat Drones Break Cover In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/uae-combat-drones-break-cover-in.html
[6] The Tigray Defence Forces - Documenting Its Heavy Weaponry https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-tigray-defence-forces-documenting.html
[7] From Friend To Foe: Ethiopia’s Chinese AR2 MRLs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/from-friend-to-foe-ethiopias-chinese.html
[8] Go Ballistic: Tigray’s Forgotten Missile War With Ethiopia and Eritrea https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/go-ballistic-tigrays-forgotten-missile.html


 2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)

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2025年9月6日土曜日

医療外交:COVID-19対策でアフリカに寄贈されたアメリカの野戦病院を衛星画像で見よう


著 ファルーク・バヒー in collaboration with シュタイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年2月11日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックが世界中の国々で猛威を振るっています。(この記事の執筆時点で)全世界でのCOVID-19による死者は約700万人に上っていますが、要請検査の実施率や死因の特定困難を踏まえると、実際の犠牲者はさらに多いと思われます。そして、COVID-19はパンデミックとの闘いで他国を支援しようとする世界の大国間での覇権をめぐる争いも勃発させました。アフリカのパンデミック対策では中国とアメリカが中心的な役割を果たし、この大陸に大量の支援を提供しています。その支援の大部分は移動式野戦病院であり、アフリカ諸国はこれによって、最も被害の深刻な地域に最最高水準の病院を迅速に展開する能力を獲得したのです。

 2020年、米アフリカ軍司令部(AFRICOM)は、中国がとても及ぶことができない規模の野戦病院の寄贈することによって、アフリカにおけるCOVID-19との戦いの取り組みを開始しました。収容能力が30床から35床、または40床の規模を誇る負圧設備を備えた軍用規格の野戦病院は、通常は1か国につき1セットが寄贈されましたが、一部には2セットを提供された国もあります。北アフリカのアルジェリアからアフリカ大陸の最南端にある南アフリカまで、合計15か国のアフリカ諸国が、アメリカの戦略の一環として野戦病院を受け取ることにしました。

 ところで、アメリカがアフリカに大規模な野戦病院を寄贈したのは今回が初めてではありません。過去には、ルワンダ、セネガル、ガーナ、ウガンダなどが、2019年にアメリカが実施した「アフリカ平和維持早期対応パートナーシップ(APRRP)」の一環として、最初に野戦病院を受け取っています。同プログラムは、アフリカ諸国が必要に応じて災害に適切な対応ができるよう、医療能力の向上を支援することを目的としたものでした。2019年のプログラムで受け取った野戦病院については、2020年と2021年に同一の国が新たに受け取った野戦病院と共に、COVID-19対策に活用されています。


 南アフリカは、アメリカから野戦病院を最初に受け取った国でした。この40床の収容能力を有する病院は、この国で最も被害の甚大な都市の一つであるマフィケングにある総合病院の隣に展開されました。



 アンゴラは提供された40床の野戦病院を沿岸の町であるソヨに展開しました。



 ブルキナファソは40床の野戦病院を受け取り、首都ワガドゥグーの「殉教者の記念碑」の隣に展開させました。



 ジブチも40床の野戦病院を受け取り、首都ジブチ市の保健省の近くに展開させました。



 ガーナは30床の野戦病院を受け取り、首都アクラのサッカースタジアムに展開させました。



ニジェールは40床の野戦病院を受け取り、首都ニアメーの第3駐屯地に展開させました。



 ナイジェリアは40床の野戦病院を受け取り、首都アブジャにある総合病院の隣に展開させました。



 チュニジアは30床の野戦病院2セットを受け取り、そのうち1セットは首都チュニスにある総合病院の隣に展開されました。



 ウガンダは2019年のAPRRPプログラムの下で2セットの野戦病院を受け取りました。そのうち1セットについては、後に首都カンパラ近郊のウガンダ人民防衛軍(UPDF)司令部に展開されました。



 セネガルはAPRRプログラムの一環として受け取った野戦病院をトゥーバ市に展開させました。



 ルワンダは2019年のAPRRプログラムに基づいて受け取った野戦病院を、首都キガリの基地に展開させました。



 このほか、アルジェリアは2021年に35床の野戦病院を受け取りました。衛星画像によると、この野戦病院はブリーダ市の軍用保管施設に1か月未満の期間で展開され、その後別の場所へ再配置されたか、あるいは保管状態に入った可能性があります。アメリカから野戦病院を受け取った他の国にはケニア、エチオピア、モーリタニアが含まれます。このうちモロッコについては、2022年初頭に野戦病院を受け取る予定です。


 アメリカが野戦病院を寄贈しただけでなく(医療などに伴って)必要とされる技能などの訓練と専門家を提供したことは、同国が依然としてアフリカ大陸に極めて大きな関心を持ち続けており、この関心を具体的な援助で証明するための手段を有していることを示しています。このことは、(例えばフランスのような)アフリカに歴史的な関心を抱いてきた別の国々がパンデミック期間中に全く存在感を示さなかった時期と重なっている点にも注目するべきではないでしょうか。


改訂・分冊版が2025年に発売予定です(英語版)

 2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)