2022年10月29日土曜日

大義に加わり、そしてNATOにも...:フィンランドによるウクライナへの軍事支援(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 フィンランドは世界で最も優れた教育システムと(この記事の執筆時点で)最もクールな首相(サナ・マリン)を持つ世界で最も幸せな国としてよく知られており、他国への援助を自慢する必要を感じていません。特に後者は、ウクライナに対するフィンランドの軍事支援の正確な分析を比較的困難なものにしています。

 判明しているのは、フィンランドが2月27日までにすでに軍事支援の第1陣の引き渡しを約束したことです。それ以来、軍事支援が少なくとも6回にわたってウクライナに送られました。[1]

 2023年1月までに、フィンランドからの軍事支援額は5.9億ユーロ(約873億円)以上に相当するものとなっています。[2]

 面白いことに、ウクライナ軍で使用されているフィンランドによって供与された兵器が最初に表に出たのは、2022年8月になってからのことでした。目撃された兵器は「KRH 85/92」120mm重迫撃砲と「ItK 61(ZU-23)」対空機関砲であり、フィンランド国防軍がストックしている予備兵器から調達されたものです。[3] [4]

 フィンランドは2月に約束した最初の2回に約束した軍事支援の内容を公表しており、それによって1500発の「66 Kes (M72) 」対戦車ロケット弾発射機と2500丁のアサルトライフルが2000個のヘルメットと2000着の防弾チョッキと共に供与されたことが明らかとなっています 。[5] [6]

 今の辞典で小火器や個人装備以外にどのような種類の兵器類がウクライナに引き渡されたのかは不明ですが、「2S5 "ギアツィント-S"」152mm自走榴弾砲(SPG)、牽引砲、無反動砲、小火器や手榴弾などが候補として考えられています。

 フィンランド軍はウクライナ軍でも使用されている膨大な数のソ連製兵器を運用し続けていますが、これらの兵器の大半は現用であるか、フィンランド国境で起こりうる紛争に備えた予備兵器として保管されているため、ウクライナへの供与に向けた取り組みを困難なものにしています。

 ウクライナは、フィンランドがロシアから導入した別のシステムから最も恩恵を受ける可能性があります。フィンランドは1990年代半ばから後半にかけて、ロシアの債務返済の一環としてロシアから「9K37M1 "ブーク-M1"(ITO 96)」地対空ミサイル(SAM)システムを受け取りましたが、後にノルウェーの「NASAMS II」に更新しました。[7]

 フィンランドにおける「ブーク-M1」の最後の使用は2015年で、その際にはシステムの「9M38」ミサイル1発が、2014年7月にウクライナの東部上空においてロシア軍の同システムによって撃墜されたマレーシア航空「MH17」便を襲ったミサイルの爆発効果を検証するために爆発させられたのです。[8]

 フィンランド国防軍の「ブーク-M1(ITO96)」は現役から退いているものの、予備軍で使用するために運用状態が維持されています。このSAMシステムが有する機動性と組み込まれたレーダーによる自律的な発射能力は、こんにちの電子戦や敵防空網制圧・破壊作戦(SEAD/DEAD)が激しく繰り広げられる戦闘状況においても有効な役割を果たすため、稼働状態での保管を合理的な選択とさせてくれます。

 もしフィンランドの「ブーク-M1」やそのミサイルがまだウクライナに届くことになっていないのであれば、これらの供与はフィンランドにとっては経済的な影響が極めて低い代わりに、ロシアがウクライナの空を完全に支配することを拒否し続ける上で大きな助けとなるかもしれません。

 ウクライナの戦争に自身のアセットを捧げることは、一部の国によって批准が保留されている同盟加入の準備を進めながら、さまざまなNATO加盟国によってなされた誓約と一致する自国の意思を示す良い手法でもあるでしょう。

フィンランド軍の「9K37M1 "ブーク-M1"(ITO 96)」SAMシステム

  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際にフィンランドがウクライナに供与した、あるいは提供を約束した軍事装備等の追跡調査を試みたものです。
  2. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されています)。
  3. フィンランドの武器供与の機密性により、この一覧は供与された武器の総量の最低限の指標としてのみ活用できます。
  4. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  5. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。

装甲兵員輸送車(APC)

戦闘工兵車両

自走砲

牽引砲

重迫撃砲

対空機関砲

弾薬

その他の装備品
  • 2,000 ヘルメット [2022年3月]
  • 2,000 防弾チョッキ [同上]
  • 70,000 レーション (MRE) [同上]

[1] List of foreign aid to Ukraine during the Russo-Ukrainian War https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_foreign_aid_to_Ukraine_during_the_Russo-Ukrainian_War
[2] Фінляндія надсилає Україні оборонну допомогу на понад 20 мільйонів євро https://yle.fi/novyny/3-12523507
[3] https://twitter.com/UAWeapons/status/1559259073031409666
[4] https://twitter.com/UAWeapons/status/1563190230609690631
[5] Marin: Finland sending arms to Ukraine, MPs to discuss Nato on Tuesday https://yle.fi/news/3-12337744
[6] Suomi lähettää aseita Ukrainalle – Pääministeri Marin: ”Päätös on historiallinen” https://www.hs.fi/politiikka/art-2000008647428.html
[7] The Finnish Investigation https://corporalfrisk.com/2016/10/03/the-finnish-investigation/
[8] Buk-raketten getest in Finland voor onderzoek MH17 https://nos.nl/artikel/2134754-buk-raketten-getest-in-finland-voor-onderzoek-mh17

※  当記事は、2022年9月5日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したもの

2022年10月21日金曜日

私をねらって:アルメニアのSAM型デコイ


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 アルメニアとアゼルバイジャンとの間で繰り広げられた2020年のナゴルノ・カラバフ戦争から得られる教訓があるとすれば、それは安価ながら非常に効果的な無人戦闘航空機(UCAV)の驚異的な効率性と、それらによってもたらされる猛攻撃を阻止するはずだった、新旧にわたる幅広い種類の防空システムの失敗を中心に展開されるに違いありません。

 アルメニアは差し迫った敗北を受け入れようとしなかったことで犠牲の大きい44日間の消耗戦を強いられ、約250台の戦車や(より悲劇的なことに)その多くがまだ10代後半から20代前半だった約5,000人の兵士と予備役兵を含む甚大な損失を受けました。[1]

 それでも、アルメニアの軍隊は無人機が主導する戦争の時代における自らの弱点を痛感することだけは見通していたはずであり、使用できる限られた資金でその改善を試みたことは確かです。

 これは主に、UAVの運用を何らかの形で妨害するためのロシア製電子戦(EW)システム、ハンターキラー・システムとして機能する可能性がある「トール-M2KM」 SAMの導入と、老朽化にもかかわらずアルメニア軍がナゴルノ・カラバフの広い範囲をカバーすることを可能にした、ヨルダンから入手した35台の「9K33 "オーサ-AK"」に現れています。

 しかし、アルメニアが痛い目に遭ったことが知られたように、前述のシステムは「バイラクタルTB2」や徘徊兵器が次々と自身を狙い撃ち始めた様子を、苦痛の中で待つ以外にほとんど何もすることができませんでした。

 アルメニアで使用された別の対UAV戦法としては、攻撃してきたドローンをおびき寄せてデコイを狙わせるために本物のSAMの近くにデコイのSAMを配置し、避けられない破壊から本物を守るというものがありました。

 1999年のNATOによるユーゴスラビア空爆の際には、この「Maskirovka」戦術は非常に効果的でしたが、2020年のナゴルノ・カラバフでアルメニアによって展開された数は、運用中のSAMシステムを標的にすることからアゼルバイジャン軍の注意をそらし、戦争の行方に実際に影響を与えるにはあまりにも少ないものでした。

 それでも、実際に使用されたデコイは詳細な迷彩パターンさえも施されており、SAMシステムの写実的な再現で優れていました。

                     

 「9K33 "オーサ"(NATO側呼称:SA-8 "ゲッコー")」はアルメニア軍(さらに言うと事実上アルメニア軍の一部であるアルツァフ国防軍)で最も多く保有しているSAMシステムだったため、アルメニアのデコイの大部分がこのSAMをベースにしたことは何ら驚くべきものではありません。

 「9K33」のデコイはアゼルバイジャンのドローンオペレーターを騙して攻撃させることに成功した事実が確認されている唯一のデコイでもあります。この事例は2020年9月30日に、当時まだアルメニアが支配していたナゴルノ・カラバフの小さな村である(アルメニアではNor Karmiravanと呼ばれている)Papravəndの近くにある「9K33」の拠点で発生しました。[2]

 本物の9K33とほとんど識別できないレベルだったため、(運用システムの展開を模すために)護岸に配置された2つのデコイは、イスラエル製徘徊兵器:IAI「ハロップ」による攻撃を受けて完全に破壊されました。

 ただし、アルメニアにとって不幸なことに、拠点の周辺に配置されていた本物の運用システムの方も同じ運命を辿ってしまいました。これらは「9T217」ミサイル輸送車と一緒に、TB2とハロップによって即座に全滅させられてしまったのです

 この戦争でアルメニアは3台(うち2台が破壊、1台が鹵獲)の「9T217」ミサイル輸送車に加えて、少なくとも18台(うち16台が破壊、2台が鹵獲)の「9K33」システムを失ってしまいました。[1]




 興味深いことに、製造されたことが知られている僅かな「トール-M2KM」のデコイの場合、手の込んだ迷彩パターンは本当にデコイとしての本性を示していました。なぜならば、アルメニアの本物の「トール」システムは2019年に同国に到着した後、いかなる迷彩塗装も施されなかったからです。さらに、デコイは単にコンテナベースの発射システムだけであり、それを搭載しているはずのトラックは作られていませんでした。

 とはいえ、アゼルバイジャンのドローン操縦員が、追跡して無力化しなければならないSAMシステムの大きさや形状をどの程度把握していたかは不明であり、あまりにも熱心な彼らが「トール-M2KM」のデコイを本物と容易に間違えた可能性はあります(注:実際にこのデコイが破壊されたのかは不明です)。

 44日間の戦争中に破壊されたことが確認されている「トール-M2KM」は1基のみですが、これはアルメニア軍によって配備された数自体が少なかった可能性があるためで、必ずしもデコイが本物を守ったというわけではありません。[1]

左:2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で運用されたアルメニア軍の「トール-M2KM」
右:アルメニア軍によって施された軍用車用の一般的な迷彩パターンが特徴の精巧な「トール-M2KM」のデコイ

 僅かな数のデコイはナゴルノ・カラバフの戦略的な場所の各地に配置されるのではなく、それぞれが稼働中の9K33や「トール-M2KM」システムを装って既存のSAM部隊の拠点に配置されました。

 結果的として、この配置は本物の9K33「オーサ」の寿命を数分延ばすのに役立ったかもしれません。しかし、アゼルバイジャン軍に貴重な時間とリソースを費やして、近くにある本物のSAMの迎撃圏内を飛行しながら「システム」を追跡して掃討することを余儀なくさせるために、アルメニアがデコイをナゴルノ・カラバフ全域に独立した「システム」として配置した方が良かったことはほぼ間違いありません。

 もちろん、デコイの存在はTB2が「9K33」の拠点(あるいはその他のアルメニアのSAMサイト)の上空を旋回できたことに何の支障も与えることはできませんでした。下にある本物のSAMでさえレーダーの電源をオンにした状態で7~8発のミサイルを搭載していたものの、TB2の存在に気づかなかったからです。

 これは、TB2が撃墜される危険に直面することなく、全ての目標が破壊されるまでSAMシステム(とデコイ)を攻撃し続けることができることを意味しており、無人機主導の戦争の時代における9K33の陳腐化を再び痛感させました。



 アルメニアのデコイは戦争の行方を左右するにはあまりにも少ない数しか配備されていなかったかもしれませんが、敵味方の双方がそれの有効性を研究し、発生する可能性がある将来の戦争に教訓を活用することは間違いないでしょう。

 現代の電子光学装置は(航空戦を含む)戦いの手法を変えたかもしれませんが、デコイも同時に変化し続けています。新たな紛争では、敵からの識別をさらに困難にするため、例えば赤外線(熱)シグネチャー発生装置などを装備したより多くの数のデコイが配備される可能性があります。

 アゼルバイジャンは今やデコイの存在に気づいたため、例えば、SAM陣地の衛星画像を研究したり、ドローンの操縦員にデコイと本物のシステムを識別する訓練をしたりするなどして、事前にそれらを識別する方法を模索するでしょう。

 とはいえ、TB2用の「MAM-L」誘導爆弾の価格は比較的安いため、大量のデコイを配備することで、(見込まれる)将来の紛争に本当に大きな影響を与えることができるのかという疑問が生じます。

 「バイラクタル・アクンジュ」TAI「アクスングル」といったUCAVはそれぞれ24発と12発の「MAM-L」を搭載することが可能であり、この数はいくらかのSAMサイトをレーダーやデコイと一緒に破壊するのに十分なものです。

 アルメニアや同等の脅威に直面している世界中の国々がTB2のようなドローンにうまく対抗できる手段を不足させている限り、デコイを大量に配備したとしても、敵側に弾薬を買い込ませるだけで少しも効果をもたらさないでしょう。

 アゼルバイジャンのような国にとっては、まさにそのような行為を阻害するものはほとんどなく、効果的なデコイのコストや両国が利用できるアセットの格差を考慮すると、破壊されたデコイは結果的にアゼルバイジャン側の純然たる戦果となるかもしれません。

 もちろん、彼らが破壊を免れたとしたら、戦いの結果に関係なく自身の任務は失敗に終わったということでしょう:それがデコイの一生涯を懸けた役割だからです。


[1] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[2] https://twitter.com/azyakancokkacan/status/1340051552774598657

※  当記事は2021年4月28日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもの 
 です。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

2022年10月18日火曜日

トルクメニスタンの風変わりなUCAV:中国製「WJ-600A/D」


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トルクメニスタンは中国から購入した多数の無人戦闘航空機(UCAV)を運用しています。ナイジェリア、アルジェリア、ミャンマー、そしてパキスタンにも輸出された「CH-3A」を別とすれば、トルクメニスタン空軍はまだ世界中のどこの国でも導入されていない独特なドローンも調達しました。それが今回のテーマである「WJ-600A/D」です。

 この型破りなUCAVは、ロケット補助推進離陸(RATO)で発進し、任務を終えた後にパラシュートで着地・回収されるという世界でも数少ない武装ドローンの1つです。

 ほぼ間違いなく「WJ-600A/D」は見た目からするとUCAVというよりも巡航ミサイルにしか見えませんが、同機は世界中に存在するUCAVの大半が用いているターボプロップエンジンの代わりにターボファンエンジンを搭載することによって、従来型のUCAVよりも著しい高速性能を持つことに成功しています。

 「CH-3A」の速度がたった200km/h程度であることと比較すると、「WJ-600A/D」はこのエンジンのおかげで最大で700km/hという素晴らしい速度を誇ります。とはいえ、約3〜5時間の滞空性能は、約12時間の滞空性能を誇る「CH-3A」をはるかに下回っています。[1]

 その結果としてもたらされる航続距離は従来型機とそれほど違わないものとなりましたが、UCAVは頻繁に戦場の上空をパトロールや攻撃可能な標的を索敵するために飛び回り続けるため、確かに「WJ-600A/D」はやや独特でニッチなニーズを満たした機体と言うことができます。

 「WJ-600A/D」はCASIC (中国航天科工集团有限公司)「HW-600 "スカイホーク"(WJ-600)」の発展型であり、偵察任務と対地攻撃任務の双方を実施できる能力を有しています。

 トルクメニスタンがパレードで公開した機体では見られませんでしたが、このUCAVには胴体下部にFLIR(前方監視型赤外線装置)が搭載されています。

 このUCAVに採用されたデザインを考慮すると、探知されることを避けるために速度と小型巡航ミサイルのような低RCS(レーダー反射断面積)を活用し、敵地の奥深くで攻撃任務を行うことに重点を置いたものに見えます。

 UCAVの「CH」シリーズと「翼竜」シリーズをそれぞれ開発しているCASCとCAIGの成功のおかげで、CASICはほとんど影に隠れた存在のままとなっています。トルクメニスタンへの「WJ-600A/D」の販売がCASIが成功した唯一知られている輸出実績ですが、最終的に何機を販売できたのかは知られていません。

 2018年、CASICはジェットエンジンを搭載した「WJ-700」UCAVを発表しました。同機は「WJ-600A/D」の高速性能と低RCSをより従来型機的なデザインに組み合わせたものであり、素晴らしいペイロードを誇っています。



 「WJ-600A/D」は最大で2発の「CM-502KG」空対地ミサイル(AGM)で武装させることができます。このミサイルは「AR-1B/AR-2」の長射程及び高威力化を図った発展型であり、11kgの弾頭と最大有効射程が25kmの性能を有しています。

 「WJ-600A/D」には別の兵装もインテグレートできる可能性はありますが、トルクメニスタンが「CM-502KG」以外の兵装を導入したか否かは現時点では不明です。より小型の「AR-1」はトルクメニスタンで運用されている「CH-3A」のみならず「WJ-600A/D」にも搭載できることは言うまでもないでしょう。




 トルクメニスタンで運用されている、補助推進ロケットを用いたもう1つの中国製UAVは「S300」シリーズ無人標的機です(注:似た名前の「S-300」地対空ミサイルシステムと混同しないでください)。

 「S300」は2010年代半ばに同じサプライヤー(中国)から調達した「FM-90」「KS-1A」「FD-2000」地対空ミサイルシステムの標的用として、「ASN-9」と共に大量に導入されました。

 トルクメニスタンにおける運用では、「S300」と「ASN-9」はいまだに僅かに運用が続けられているソ連時代の「La-17」無人標的機の後継機種として活用されているようです。ちなみに、「La-17」もRATOブースターで発射される方式の無人機でした(ブースターは前述の無人機と異なり、両主翼の付け根に装備されていました)。

トルクメニスタンの防空演習で発射される直前の「S300」

「WJ-600A/D」が射出された瞬間

 当初、トルクメニスタンは中国製の「WJ-600A/D」と「CH-3A」やベラルーシの「ブセル-MB2」を当てにして武装UAVの戦力を構築していましたが、最近ではイスラエルやトルコにも目を向けてUCAVを追加購入し始めています。[2] [3]

 トルコとの取引については、UAVの運用を念頭に置いて特別に設計された、この地域では初となる空軍基地の建設も含まれていました。[2]

 これらの調達のおかげで同国が中国製のUCAVをさらに導入することについて、当分の間は起こりそうにないことは間違いないと思われます。

 それでも、「WJ-600A/D」は現在の世の中に存在している最も独特な戦闘ドローンの1つとして今後も運用され続け、トルクメニスタンに多くの国々には真似できない特殊な戦力をもたらすことでしょう。



[1] CASIC WJ-600 Reconnaissance Strike UAV https://www.militarydrones.org.cn/casic-wj-600-uav-price-china-manufacturer-procurement-portal-p00172p1.html
[2] Turkmenistan Parades Newly-Acquired Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/turkmenistan-parades-newly-acquired.html
[3] Turkmenistan’s Parade Analysis: What’s New? https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/turkmenistans-parade-analysis-whats-new.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



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2022年10月16日日曜日

(徐々に減りつつある)不名誉の誇示:ベルギーからウクライナに供与された武器類(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ


 多くのNATO加盟国が重火器の供与を求めるウクライナの呼びかけにきちんと応じた一方で、そうしない国々にとって、ゼレンスキー大統領の窮状は数十年にわたる防衛費の削減が何をもたらしたのかを容赦なく突きつけるものとなりました。

 2022年3月に自国のストックから送る重火器が存在しないという厳しい結果に追い込まれたベルギーほど、この言葉が当てはまる国はありません。この驚異的な「偉業」は長年にわたる慢性的な資金不足の結果によるもので、ベルギー陸軍は携帯型地対空ミサイルシステム(MANPADS)を運用するための費用さえも払えなくなり、もはや陸軍全体があらゆる形態の地上配備型防空システムが維持できなくなってしまっていたのです。

 その後、ベルギーは軍への追加支出を発表しましたが、この緊急対策によって実際に効果が現れるまでには何年もかかるでしょう。

 ベルギーが安全保障を他のNATO加盟国やNATO自体にフリーライドしている姿勢については、2014年に当時のエリオ・ディルポ首相が2024年までに自国のGDPの2%を防衛支出に充てる意向を宣言し、後の2022年にデ・クロー首相が同様の宣言をしたものの、その達成時期が11年遅れの2035年となった事実が最もよく示しているのではないでしょうか(注:先延ばしでフリーライドできる年月を稼ごうという方針かもしれないということ)。[1]

 近年にやや増加した後でもベルギーの防衛予算はNATO加盟国の中でも最低のレベルの支出国の1つにとどまっており、その規模は2020年と2021年に数年ぶりにかろうじてGDPの1%を上回った程度でしかありません。[2]

 残念ながらロシア・ウクライナ戦争の早期終結は現時点ではあり得ませんが、(仮に実現した場合は)ベルギー政府にとって防衛予算をGDPの2%以下に抑えるための絶好の機会となる可能性があると容易に想像できるでしょう。

 2000年代以降のベルギー政府は陸軍の重火器を徐々に整理することに努め、その結果として2008年に最後の「M109」自走榴弾砲が、2014年には残存していた「レオパルト1A5BE 」戦車が退役しました。

 ほかの大多数の国とは逆に、ベルギーは適切な買い手が見つかるまでの保管費用の負担を避けるため、退役した装備を防衛企業にほぼスクラップ同然の価格で早急に売却する方針を選びました。この対象には戦車や大砲などの重火器だけでなく「ミラン」対戦車ミサイル(ATGM)までもが含まれており、第三者に売却されてしまいました。

 こうした痛ましい結果、ロシアが2022年2月にウクライナへの侵攻を開始した時点におけるベルギーの兵器貯蔵庫はほとんど空になっていたのです。

 軍とは対照的に空っぽでなかったのは、ベルギーの防衛企業「OIP・ランド・システムズ」社と「フランダース・テクニカル・サプライ(FTS)」社のデポでした。そのため、2022年4月にベルギー政府は数年前に「FTS」社に売却した「M109A4BE」の一部を買い戻すことを試みました。[3]

「M109A4BE」は、2005年から2007年にかけて改良を受けた「M109A2/A3」 自走榴弾砲の近代化改修型です。2008年に近代化改修事業が成功裏に終了した直後にベルギーは全装軌式AFVの段階的な退役を決定したことに伴って64台の「M109A4BE」もすぐに退役させられたため、この近代化改修は実質的に膨大な税金の無駄遣いに終わってしまいました。[4]

 信じがたいことに「M109」は完全にリファビッシュと改修を受けたばかりだったにもかかわらず、ベルギー政府は後で残存しているこの自走砲を(予備部品を含めて)1台15,000ユーロ(約200万円)という破格の値段で「FTS」社に売却したのです。[5]

 2022年4月にベルギー政府が(2016年にインドネシアに売却されずに残った)28台の「M109」の一部を買い戻そうとした際、「FTS」社は自走砲1台につき、ベルギー政府が数年前に売却した価格の10倍以上の販売価格を提示したとのことです。[5]

 ベルギー政府が文字通り深刻な税金の無駄遣いのショックを克服しようと精一杯だった間に、イギリスが間に入ってベルギーに提示された価格と同じ値段で「M109」を買い取ってしまいました。[6]

 ウクライナ軍が「M109A4BE」のような砲兵戦力を緊急に要していたことを考慮すると、10倍という法外な対価を支払うのを嫌ったと言う理由で契約を結ばなかったベルギー政府の危機感の欠如は、実に情けないとしか言いようがありません。

 2022年5月にベルギー政府が「FTS」社と「M109」の価格について最終交渉を試みたところ、同社から自走砲はすでに別の相手に売却されたと告げられましたが、後にその相手がイギリスであることが判明したのです。[6]

 結局、ベルギー政府は「M109」の代わりに「OIPランドシズテムズ」社から「AIFV」「M113」装甲兵員輸送車など他に必要なAFVを調達し、リュディヴィーヌ・ドゥドンデ国防相は(取引は決裂したものの)「最も肝心なことは、今やウクライナがベルギーの"M109"を得たことです」と言い張りました。 [7]

 この一連の出来事全体については、実質的な支援よりも象徴的な言動や終わりなき予算の議論に関心を向けるベルギー政治の象徴と言い表せるかもしれません。

 今でも「OIPランドシステムズ」社と「FTS」社が売り込んでいるAFV:左奥から「ゲパルト」自走対空砲、「M109A4BE」自走榴弾砲、「レオパルト1A5BE」戦車、「SK-105」軽戦車、「AMX-13」軽戦車、「M113」装甲兵員輸送車、「AIFV-B」装甲兵員輸送車

 ベルギーが自国内の余っているストック品からウクライナに提供した物は数千丁の「FNハースタル」「FNC」アサルトライフルで、ベルギー陸軍で「SCAR」に更新された後に廃棄処分にされるはずだったものです。このライフルは5000丁が少数の「F2000」アサルトライフルと一緒にウクライナに送られました。また、ベルギーはウクライナの地に出現した少数の「SCAR-L」の調達元であるとも考えられています。

 アサルトライフル以外に引き渡された武器としては、200発の「M72 "LAW"」 使い捨て対戦車ロケット弾と100万ユーロ(約1.37億円)相当する量の「ミラン」ATGMが含まれています。[8]

 ベルギーはウクライナへの軍事援助の総額について(現時点における供与した武器の著しく下落した時価ではなく、小売価格を抜け目なく踏まえることで)約7700万ユーロ(約105億円)だと表明しているものの、実際の援助の規模はヨーロッパの中で最低レベルです。[9]

 戦車や重火器の不足は深刻ですが、ベルギー軍の地上部隊は430台のイヴェコ「LMV」歩兵機動車(IMV)と218台の「ディンゴ2」 MRAPを保有していますが、「LMV」は2023年以降にオシュコシュ製「JTLV」に置き換えられ、「ディンゴ2」も同様に今後数年で更新される予定となっています。

 そのような流れを考慮すると、これらの装甲車両を1台もウクライナへ供与しないという決定は非常に驚くべきこととしか言いようがありません。仮に供与したならば、少なくともベルギーがウクライナの窮状を救うために積極的な支援をしているという対外イメージを向上させることができたことは間違いないでしょう(注:2023年2月初旬にベルギー政府は80台の「LMV」を供与することを表明しました)。

 対照的に、オランダとフランスはウクライナへの軍事援助のために現役装備のストックから兵器類を引き上げることを選択し、フランスは保有する「カエサル」SPGのほぼ4分の1をウクライナに寄贈しているのです。[10]

  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際にベルギーがウクライナに供与した、あるいは提供を約束した軍事装備の追跡調査を試みたものです。
  2. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されています)。
  3. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  4. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。

装甲兵員輸送車
  • 40 M113(RWS搭載型) [2023年9月から供与] (オランダとルクセンブルクとの協力で供与)

歩兵機動車

対戦車ミサイル (ATGM)

  • 100万ユーロ相当 MBDA「ミラン」 [2022年5月 または 6月]
  • 少数 RK-2S「バリヤー」 [2022年11月] (ベルギーのCMIグループが調達)

重迫撃砲

無人航空機

無人潜水艇

(無誘導)対戦車兵器

小火器

弾薬
  • ''小火器用の弾薬'' [2022年]
  • 1,500,000 12.7mm機関銃弾 [同上]
  •  3,240万ユーロ(約48.6億円)相当の105mm砲弾 [予定]

その他の装備品類

[1] https://twitter.com/Stoonbrace/status/1538488541226868737
[2] Belgium's defence budget should increase to 2% by 2035, says De Croo https://www.brusselstimes.com/225723/nato-belgiums-defence-budget-should-increase-to-2-by-2035-says-de-croo
[3] Belgium to send new weapons to Ukraine, including anti-tank guided missiles https://www.vrt.be/vrtnws/en/2022/04/22/belgium-to-deliver-new-weapons-to-ukraine-including-anti-tank-g/
[4] Mondelinge vraag inzake de M109 Houwitser https://www.karolien-grosemans.be/mondelinge-vraag-inzake-de-m109-houwitser
[5] Belgium will not send howitzers to Ukraine due to unreasonable prices https://www.brusselstimes.com/231363/belgium-will-not-send-howitzers-to-ukraine-due-to-unreasonable-prices
[6] Britain redeemed Belgian M109 ACSs from a private company for Ukraine https://mil.in.ua/en/news/britain-redeemed-belgian-m109-acss-from-a-private-company-for-ukraine/
[7] La Défense n'a pu récupérer ses anciens obusiers, qui semblent bien partis vers l'Ukraine https://www.dhnet.be/actu/belgique/2022/06/01/la-defense-na-pu-recuperer-ses-anciens-obusiers-qui-semblent-bien-partis-vers-lukraine
[8] België levert antitankraketten aan Oekraïne https://www.tijd.be/dossiers/oorlog-in-oekraine/belgie-levert-antitankraketten-aan-oekraine/10382587.html
[9] Belgium made a decision to hand over artillery to Ukraine – the media https://mil.in.ua/en/news/belgium-made-a-decision-to-hand-over-artillery-to-ukraine-the-media/
[10] Arms For Ukraine: French Weapons Deliveries To Kyiv https://www.oryxspioenkop.com/2022/07/arms-for-ukraine-french-weapon.html
[11] ヘッダー画像の出典: The Firearm Blog

※  当記事は、2022年8月20日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも
  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
  あります。



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