2026年9月7日月曜日

成功への道?:インドネシアの旅客機プロジェクトとトルコ


著:シュタイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年2月10日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。また、情勢が変化しており記事と実際の状況が噛み合わないものにもなっていますが、その点はあくまでも当時の考察としてご承知ください

 航空分野におけるトルコの野心は、ステルス戦闘機「TF-X(カーン)」、高等ジェット練習機「ヒュルジェット」、そして「T625 「ギョクベイ」ヘリコプターといった先進的な航空機の開発に繋がっています。

 無人戦闘航空機(UCAV)の設計と製造においても同様に大きな進展が見られ、中でも特に注目されるのが「バイラクタル・アクンジュ」とMIUSこと「バイラクタル・クズルエルマ」戦闘機です。(たいていは短期間で行われている)こうした機体の研究開発・生産は驚くべきものであり、政府から支援を受けつつも細かく干渉されることなく、意欲的なエンジニアのチームがどのような成果を上げられるかを明確に示しています

 トルコの航空分野における野心は、軍用機の開発だけに留まっていません。2015年、同国はアメリカに拠点を置くシエラ・ネバダ・コーポレーションと協力し、「TRジェット」計画を立ち上げたことは皆さんの記憶に新しいのではないでしょうか。このプロジェクトからは、4種類の旅客機が誕生する予定でした。まずは短距離用の32席を備えたジェット機(「TRJ328」)とターボプロップ機(「TR328」)、そして中距離用の最大70席を誇るジェット機(「TRJ628」)とターボプロップ機(「TR628」)です。TRジェットについては、「TRJ328」を500機から1,000機販売することを目標としており、「TRJ628」についても同程度の販売数が見込まれていたようです。[1]

 これらの数値は非常に楽観的なものであり、結局のところ、トルコ政府にさらなる投資を説得するには不十分だったこともあり、この計画は2017年に中止になってしまいました。[1]

 これにより、トルコにおける民間航空産業の確立に向けた短期的な見通しに終止符が打たれたとはいえ、民間航空機の設計・生産に関するアンカラの遠大な野心そのものが終わりを告げたわけではありません。当時の報道によると、トルコは民間航空機製造分野へ参入する計画を継続はするものの、他国との別の投資案件を検討する形で進める見通しだったようです。その国の一つがウクライナであり、トルコは同国と旅客機の開発の可能性について、特に2015年と2020年に、度々協議を行ってきました(編訳者注:ご存じのとおり、ロシア・ウクライナ戦争の影響もあってこちらの投資案件は目に見えるような形での進行は見られない)。[2] [3]

 インドネシアは、トルコが航空宇宙分野で緊密な協力関係を築いてきたもう一つの国です。現在、PTディルガンタラ・インドネシア(PTDI)は19人乗りの「N219」と54人乗りの「N245」というターボプロップ旅客機の開発を進めています。トルコ航空宇宙産業(TUSAŞ)はすでに両機種の開発に関与しており、この協力をさらに深めることは、トルコとインドネシアの双方にとって大きな利益をもたらす可能性があります。[4]

 この記事では、「N219」及び「N245」プロジェクトへの関与を強化することで、トルコが国内の旅客機開発への意欲を再燃させようとしている背景について考察していきます。

 「N245」と特により小型の「N219」は、一見するとトルコが以前抱いていたジェット旅客機開発の野心から後退したように思えるかもしれませんが、両機種とも「TRジェット」に比べて財務リスクが低く、アフリカ、東南アジア、南米といったビジネスチャンスに富む海外市場で成功する可能性が高いと評価できます。

 トルコの民間ジェット機開発への野心は、アントノフ社との提携により、「An-178」及び「An-188」貨物機の共同開発・生産を通じて、いつでも復活させることが可能です。その可能性については、以前の記事で取り上げたとおりです。[5]

「N245」の素晴らしいイメージ図

 「N-219」と「N245」について詳しく説明する前に、これまでの航空分野におけるインドネシアの取り組みを振り返っておくことは理解する上で非常に重要です。1976年、インドネシアはスペインのCASA社から「C-212」輸送機の生産ライセンスを取得し、その後、「CN-235」輸送機の開発にも着手しました。

 「CN-235」は50席を備えた旅客機としても販売されたものの、その想定顧客を惹きつけることはできませんでした。それでも、IPTN(現PTDI)はこれに挫けず、「N250」と名付けられたターボプロップ式地域間輸送用旅客機の開発プログラムを推進したのです。最初の試作機は1995年に初飛行を行い、続いて1年後に乗客定員70名のロングバージョンが開発されました。[6]

 このプロジェクトは極めて有望視されていたものの、1997年のアジア通貨危機を受けて「N250」プロジェクトに関する全作業が中断され、設計の初期段階に入ったばかりだったIPTNの「N2130」ジェット旅客機計画も頓挫してしまったのです。

 2014年、インドネシアのジョコ・ウィドドは大統領就任するとすぐに、民間航空機の設計開発分野におけるインドネシアの取り組みを強化しようと模索しました。 [7]

 当初は、「N250」の改良型を開発することでプロジェクトを再開する方針だったようですが、その後、当時すでに進行中だった「N219」多目的機プロジェクトと、「CN-235」をベースにした座席数50のターボプロップ旅客機「N245」に注力することが決定されました。これらの設計に続き、「N270」と呼ばれる胴体延長型が開発される可能性があり、こちらは70名以上の乗客を収容できるようになる見込みとなっています。[8]

 ほぼ同時期に、インドネシア元大統領でありIPTNのCEOでもあったバハルディン・ユスフ・ハビビは、「N250」計画を「RegioProp R-80」という新名称で再始動させようとしたようですが、これは密かに断念されたようです。

1997年アジア通貨危機の犠牲者:「N-250」

 「N219」は、(最大積載時において)最大890km離れた目的地まで乗客や貨物を輸送するために設計された、19人乗りの双発多目的機です。[9]

 この航空機は、遠隔地の整備が不十分な滑走路からの運用を想定して設計されており、アフリカ、南米、インドネシアで想定される運用環境に最適と言えます。大型の側面貨物ドアとモジュール式貨物システムにより、同機は最大積載量2,300kgの旅客輸送か貨物輸送、あるいは旅客と貨物の混載任務に合わせて簡単に構成を変更することができるという特徴があります。[9]

 この飛行機は、「DHC-6  "ツイン・オッター"」「セスナ 408  "スカイクーリエ"」、そして将来登場するデサエル「ATL-100」の主要な競合機です。現在、チェコスロバキアのLet「L-410」、中国のハルビン「Y-12」、あるいは「セスナ208」を運航している航空会社にとって、現在試作の最終段階にある「N219」は特に注目すべき機体となることでしょう。これらの機種は、未舗装の滑走路でも運用できること、整備が容易であること、そして導入・運用コストが低いことが「N219」と共通している上にアフリカや南米全域で今でもよく見かけるからです。

 「N219」の価格は約600万ドル(6.9億円)となる見込みで、これに対し、「セスナ408」の貨物機型は685万ドル(7.8億円)、旅客機型は740万ドル(8.5億円)となっています。[10] [11]

 その性能と低価格な導入コストのおかげで、「N219」はすでにナイジェリア、中国、メキシコから関心を集めており、インドネシアの航空会社約10社が、計150機ほどの「N219」について取引意向書に署名しています。[12]

 これらはまだ確定注文には至っていないものの(「N219」の開発が完了すれば注文が入る可能性が高いでしょうが)、同機に対するビジネス上での関心の高さがはっきりと示されています。旅客機や貨物機としての運用に加え、通常の「N219」は兵員輸送や医療搬送(MEDEVAC)、空中監視、捜索救難活動(SAR)、スカイダイビング、その他の(軍事)用途にも活用可能ですが、なんと観光フライトに特化したフロート装備の水陸両用型も構想されています。[13]

 ただし、「N219」がトルコの航空会社から関心を集める可能性は低いでしょう。と言うのも、彼らが現在運航している国内線のいずれの便に就航させるには、機体があまりにも小さすぎるからです。この機種はトルコ国内の新規かつ小規模な路線に就航できる可能性はあるものの、そうした便が採算に合い、十分な需要が見込めるかどうかは疑問が残ります。

 現在運用中の機体を置き換えるため、トルコ陸軍や国家憲兵隊が少数の「N219」に関心を示している可能性はあるものの、トルコが「N219」プロジェクトに参加する目的は小型多目的機の国内需要を満たすことではなく、同機を輸出面で成功させるために必要な技術と専門知識を提供することにあるようです。

「N-219」の乗客用キャビン

「N-219」の貨物積載仕様(イメージ図)

 「N219」とは異なり、「N245」は新規に設計された機体ではなく、「CN-235」輸送機を全面的に改良し、新型エンジンやT字尾翼、ウィングレットを装備したものです。[14]

 また、この機種は54人乗りの旅客機という新たな役割に合わせて、貨物用後部ランプの撤去など、いくつかの変更がなされています。「CN-235」の設計改良に長年の経験を反映させた「N245」は、1980年代に航空会社向けに売り込まれた「CN-235」の旅客型とは全く異なる機体です。そもそも、後者は本質的に旅客輸送用に改造された貨物機にすぎませんでした。

 前述の改良が航空会社に「N245」の導入を納得させるのに十分かどうかは、同機の価格と運用コスト次第となるでしょう。また、同機は「ATR-72」や「ダッシュ8」といったライバルとの激しい競争に直面する可能性は避けられません。N245が市場に投入される頃には、このセグメントには、中国の西安「MA700」やロシアのイリューシン「Il-114-300」といった他の機種も加わることになるはずです。それでもなお、インドネシア市場での実績は、これらの航空機にとって初期段階から一定規模の経済をもたらし、最終的には世界市場における競争力を高めることになるのではないでしょうか。

 「N219」と同様に、「N245」もトルコの世界的な影響力を活用して、世界中の顧客、とりわけインドネシア独力では参入が難しいアフリカや南米の市場を開拓できる可能性が否定できません。

 現時点における「N245」プロジェクトは設計の最終段階にあり、今後数年のうちに試作機が製造される見込みです(編訳者注:このプロジェクトは2021年を最後に続報が途絶えていることから、事実上頓挫したものと思われる)。

 「N245」という名称は、インドネシアが独立を宣言した1945年に由来しています。ただし、インドネシアがオランダの植民地支配から正式に独立を達成するには1949年12月にまでかかりました。

 「N245」はトルコの航空会社からも関心を得られるかもしれません。この10年間で、トルコ全土に数多くの空港が建設され、これまでバスや遅い列車に頼っていた都市や地域へのアクセスが大幅に改善されました。ターキッシュ・エアラインズは現在、150~185席のエアバス「A319」、「A320」、「A321」、そして「ボーイング737」ジェット旅客機を用いており、これらの空港の多くを結んでいます。

 より安価な選択肢として、ターボプロップ機の「N-245」が挙げられます。この機体なら、最大54人の乗客を、1100km圏内の人気のない空港まで運ぶことが可能であり、「ターキッシュ・エアラインズ・リージョナル」という新ブランドの下で運航されることになるかもしれません。


 「TRジェット」も「N245」と同様にプロジェクトの進行を早めるため、既存の設計を最大限に活用することを模索しました。実際、「TR328」及び「TRJ328」は、それぞれドイツの「Do 328」と「Do 328JET」を改良した機種です。[15]

 PTDIの機種についても同じように名称を変更するはずなので、「N219」は「TR-219」に、「N245」は「TR-245」となるでしょう。

 トルコが国際情勢において果たす影響力が、同機の商業的成功に重要な要因となり得ると言えるのでないでしょうか。また、原産国(トルコまたはトゥルキエ)を明確に示す名称は、間違いなく有利に働くと考えられます。これらの航空機に対する強力な政治的な後ろ盾も、輸出販売を促進する重要な要因となるはずです。

テクノフェスト2021でムスタファ・バランク産業技術相とPTDIのエルフィエン・ゴエントロCEO(当時)が会話している様子 [16]

 2017年7月、PTDIはTUSAŞと「N245」及び「N219」の開発で協力する契約を締結したことを初めて発表しました。この契約に基づいて、両社が「N245」を共同で開発・生産・販売することになったのです。[17]

 TUSAŞは、「N245」を軍用輸送機からコスト効率に優れた民間旅客機へと改修する支援を実施するとのことです。2021年の報道によると、また、同社は「N219」の将来的な生産にも携わることになり、ハヴェルサンと「N219」シミュレーターの共同開発に関する基本合意書(MoU)を締結したとも伝えられています。[18] [19] [20]

 トルコ国内に「N219」や「N245」の組立ラインを設立する計画があるかどうかは不明ですが、国内の民間航空産業の確立や、トルコがこれら両機種を自国製として位置付ける上で、極めて重要となる可能性があります。


 トルコが「TRジェット」プロジェクトを通じて国産旅客機の製造を目指した取り組みは2017年に終止符が打たれたものの、同国が民間航空機の設計・製造という野心を復活させるための選択肢は依然として複数存在しています。当ブログでは、トルコがウクライナの航空プロジェクトに参画し、緊密に協力する可能性についてすでに取り上げています。

 規模は多少控えめかもしれませんが、ターボプロップ機の「N219」と「N245」も同様に成功を収める可能性があるでしょう。

 トルコの技術力と世界的な影響力にインドネシアの設計開発が融合すれば、両国が単独では成し得なかった「世界的な航空事業の成功」という成果をもたらす、まさにゴールデンコンビとなる可能性を秘めています。


 編訳者による追記:「N245」については2026年時点で続報が皆無である。プロジェクトが水面下で継続中か頓挫したものと思われる。「N219」については見込みより時期が遅れてはいるものの、今年後半にはインドネシア陸軍への最初の納入が行われる予定だ。また、PTDIはシンガポール国防省からも受注を見込んでいるとのことであり、少なからず一定の需要と納入は確約されている。
 なお、TUSAŞを含むトルコの関与については、絶望的となったと断言しても過言でもない状況となった。というのも、PTDIが2026年に入ってギリシャのSCYTALYSと覚書を締結したからだ。この覚書にはミッション統合管理システム(MIMS Airborne)をPTDI社のN219およびCN235航空機に統合することが含まれているとのことだ。ギリシャとトルコは宿敵同士であり、トルコが敵に塩を送るようなことは到底考えられない。

[1] Turkey terminates local jet program worth billions https://www.defensenews.com/air/2017/10/27/turkey-terminates-local-jet-program-worth-billions/
[2] Turkey to produce regional passenger aircraft with Ukraine https://www.dailysabah.com/business/2015/01/13/turkey-to-produce-regional-passenger-aircraft-with-ukraine
[3] Ukraine: Aviation firm Antonov aims to work with Turkey https://www.aa.com.tr/en/economy/ukraine-aviation-firm-antonov-aims-to-work-with-turkey/1965437
[4] Indonesian and Turkish aviation firms agree to collaborate on N245 commuter aircraft https://quwa.org/2017/07/11/indonesias-ptdi-turkish-aerospace-industries-will-collaborate-ptdis-cn-235-based-n245-commuter-aircraft/
[5] Untapped Potential: Turkey And Ukraine Join Forces To Develop Antonov Aircraft https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/untapped-potential-turkey-and-ukraine.html
[6] N250 Take Off https://youtu.be/uzt59BM7FXk
[7] Jokowi Hopes for Solution to Transportation Problems https://en.tempo.co/read/657847/jokowi-hopes-for-solution-to-transportation-problems
[8] Setelah N219, PT DI dan Lapan bakal bikin N245 dan N270 https://www.merdeka.com/uang/setelah-n219-pt-di-dan-lapan-bakal-bikin-n245-dan-n270.html
[9] N219 Nurtanio https://www.indonesian-aerospace.com/aircraft/detail/11_n219+nurtanio
[10] Aceh Government Purchases N219 Airplane, This Is The Price https://www.indonesian-aerospace.com/news/detail/878_aceh+government+purchases+n219+airplane%2C+this+is+the+price
[11] "Purchase planning handbook - turboprops table" https://infogram.com/bca-table-turboprops-1hxr4zx0x1eko6y?live
[12] Nigeria and Indonesia cement defence ties https://www.defenceweb.co.za/aerospace/aerospace-aerospace/nigeria-and-indonesia-cement-defence-ties/
[13] LAPAN and PTDI Develop Amphibious N219 Aircraft https://www.indonesian-aerospace.com/news/detail/908_lapan+and+ptdi+develop+amphibious+n219+aircraft
[14] https://i.postimg.cc/3wNnptRv/68.jpg
[15] Turkey terminates local jet program worth billions https://www.defensenews.com/air/2017/10/27/turkey-terminates-local-jet-program-worth-billions/
[16] https://twitter.com/officialptdi/status/1440520973275451403
[17] Indonesian and Turkish aviation firms agree to collaborate on N245 commuter aircraft https://quwa.org/2017/07/11/indonesias-ptdi-turkish-aerospace-industries-will-collaborate-ptdis-cn-235-based-n245-commuter-aircraft/
[18] Teknofest 2021: Indonesia strengthens aerospace cooperation with Turkey https://www.aa.com.tr/en/science-technology/teknofest-2021-indonesia-strengthens-aerospace-cooperation-with-turkey/2371374
[29] https://twitter.com/officialptdi/status/1440521718888497159
[20] PT Dirgantara Indonesia, Turkish Havelsan to develop simulator for N219 aircraft https://www.janes.com/defence-news/news-detail/pt-dirgantara-indonesia-turkish-havelsan-to-develop-simulator-for-n219-aircraft



 お知らせ2025年7月に上記本の改訂・分冊版である「The Armed Forces of North Korea Volume 1: Part 1: Korean People's Army Ground Forces Organisation, Strategy and Infantry」が発売されました。残りの巻も完成次第発売される予定です(記載情報は2025年現在のものにアップデート済み)。
 お知らせ2:2025年10月に「Volume 1: Part 2(陸軍AFV)」が発売されました。 
 
お知らせ3:2025年12月に「Volume 2(空軍)」が発売されました。
 お知らせ4:2026年2月に「Volume 3(海軍) 」が発売されました

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2026年8月11日火曜日

風変わりな公共交通システム:アシガバートのモノレール


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2023年9月6日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。また、情勢が変化しており記事と実際の状況が噛み合わないものにもなっていますが、その点はあくまでも当時の考察としてご承知ください。

 ソ連は数多くの構成共和国に建設された豪華な地下鉄でも広く知られています。ミンスク、タシュケント、モスクワ、バクーといった主要都市には、いずれも豪華に装飾された駅を持つ地下鉄路線があります。

 その一方で、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンといった構成共和国の首都については、都市自体の規模が小さすぎたため、莫大なコストを要する地下鉄の建設や運営は現実的ではありませんでした。これは現在の中央アジアにおける大半の都市にも当てはまります。多くの都市では、人々は依然としてバスやマルシュルートカ(小型の乗合バス)を利用して移動しているのです。

 この傾向の例外の一つが、トルクメニスタンの首都アシガバートです。アシガバートは、白い大理石で造られた建物の密度が世界で最も高いというユニークな特徴があり、「白い大理石の都市」という愛称で知られています。 [1]

 市内を縦横に結ぶ数多くの(黒色の車は通行禁止となっている)新高速道路に加え、アシガバートには、リヒテンシュタインの企業が建設した個性的なモノレールがあります。ただし、人口約100万人の市民にとって残念なことに、このモノレールはオリンピック村へ行くためだけのもので、それ以外の場所へはアクセスできません。

 トルコのポリメクス社によって設計されたオリンピック村の構想は、なんと総工費50億ドル(当時で約3,800億円)に上り、2010年代半ばに複数の多国籍建設企業によって建設されました。[2]

 ポリメクス社は、首都のハヤブサの形をした国際空港をはじめ、トルクメニスタンで数多くの大規模プロジェクトを設計・建設してきました実績があります。各会場間の利用者の移動のために、リヒテンシュタインとスイスに拠点を置くインタミン社が全長5.2キロメートルのモノレール路線を建設し、車両も供給しました。[3]

 アシガバートのモノレールは、「P30」という自動運転式の車両を採用しています。モーターや動力装置を搭載した制御車1両と客車3両の計4両で編成されており、各車両の最大定員は90名です。そして、2017年9月に開幕した第5回アジアインドア&マーシャルアーツゲームズより数か月早い5月に運行が開始されました。[4]

 8つの駅を循環する路線で運行されているアシガバート・モノレールの映像については、こちらで観ることができます

アシガバートの「P30」モノレール

 アシガバート・オリンピック村は、2017年の第5回アジアインドア&マーシャルアーツゲームズのために建設された多目的スポーツ施設です。(一度解体されて新築された)既存のオリンピックスタジアムを囲むように整備された公園内に位置するこの複合施設には、モノレールで結ばれた30の競技会場が設けられています。

 新オリンピックスタジアムの収容人数は6万人で、トルクメニスタン代表サッカーチームのホームスタジアムとしても機能しています。この複合施設には、ショッピングセンター、レストラン、ホテル、店舗、駐車場、そして当然ながらモノレールも併設されており、総工費は上述のとおり50億ドルに上りました。[2]


 アシガバートのオリンピック村の完成予想図(実際のものとは若干異なる点がある):2枚目の画像では、モノレール路線がはっきりと確認できる。

 モノレールの路線は全長5.2キロメートルの単線で、8つの駅と2つの跨線橋を備えているのが特徴です。路線はオリンピック村近くの車両基地から始まります。

 車両基地からは、オリンピック村を囲む全ての会場へ短時間でアクセスできます。現在、このモノレールが日常的に運行されているかどうかは不明であり、もしかするとイベント開催日のみに限定されている可能性が否定できません(メッカのアル・マシャアール・アル・ムガッダッサー地下鉄のように、ハッジ/大巡礼期間中の年間僅か7日間のみ運行されるのと同様です)。



 車両と駅に備えられた乗客用のインフォメーションシステム:この設計開発はトルコのアヴィテン社が担当した。

 いつの日か、アシガバートには、(首都の全市民のために)複数の路線と駅で市内各地を結ぶモノレールシステムが整備されることになるかもしれません。心配は無用です。これらの駅も、この記事の冒頭で触れたソ連時代の地下鉄駅と同様に、きっと豪華に装飾されることでしょう。


[1] Turkmenistan's Capital Named World's 'White-Marble' City https://www.rferl.org/a/turkmenistan-marble-record-architecture/24998685.html
[2] OLYMPIC COMPLEX IN THE CITY OF ASHGABAT IS SPARKLING https://turkey.tmembassy.gov.tm/en/news/1503
[3] Ashgabat Modern Public Transport and landmark at the Olympic site in Ashgabat https://www.intamintransportation.com/project/ashgabat/
[4] People Mover P30 https://www.intamintransportation.com/product/people-mover-p30/
[5] Ashgabat Olympic Complex - Monorail https://www.aviteng.com/en/monorail.html


 お知らせ2025年7月に上記本の改訂・分冊版である「The Armed Forces of North Korea Volume 1: Part 1: Korean People's Army Ground Forces Organisation, Strategy and Infantry」が発売されました。残りの巻も完成次第発売される予定です(記載情報は2025年現在のものにアップデート済み)。
 お知らせ2:2025年10月に「Volume 1: Part 2(陸軍AFV)」が発売されました。 
 
お知らせ3:2025年12月に「Volume 2(空軍)」が発売されました。
 お知らせ4:2026年2月に「Volume 3(海軍) 」が発売されました


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2026年8月3日月曜日

イスタンブールの ”肺" :アタテュルク国際空港国民公園


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年6月23日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 イスタンブールが多くの人の旅行先リストのトップに挙がるのは、何ら驚くことではありません。歴史的な名所から風情あるカフェやレストランまで、あらゆる趣向や予算に合わせた楽しみ方が見つかります。

 彼らは中心部に位置する数多くの観光名所を訪れる傾向が強いため、ほとんどの観光客はイスタンブール市民の日常生活を悩ませている2つの問題:交通渋滞と緑地の不足について知る機会はほとんどないでしょう。イスタンブールはヨーロッパで最も緑地の少ない都市であり、その総面積に占める割合はわずか2.2%に過ぎないのです(ちなみにヘルシンキの場合は40%)。実際、緑地がこれより少ない中東の都市はバグダッド、カイロ、ドバイ、リヤドくらいしかありません。[1] [2][3]

 2013年5月、イスタンブール大都市自治体が市内のタクシム・ゲジ公園を取り壊して(1940年まで同公園の敷地内にあった)オスマン帝国時代のハリル・パシャ砲兵兵舎のレプリカとショッピングモールを建設するという計画を発表した際、抗議活動が勃発し、やがて全国的な「2013年トルコ反政府運動」へと発展しました。この抗議活動の焦点は次第により多種多様な問題や懸念へと展開していったものの、抗議自体は、イスタンブール市民たちがこの都市に残っている僅かな緑地を戦わずに諦めるつもりはないことを示していたと言えます。

 逆に、アタテュルク国際空港国民公園のような新しい公園の建設に対しては、多くの野党から激しい反対の声が上がっています。


 1970年代以降、イスタンブールの人口は、郊外に建設された新しい工場が全国各地から労働者を呼び寄せたことで、急激に増加し始めました。

 人口が急増した結果、かつては郊外だった地域が急速にイスタンブール大都市圏に飲み込まれていったため、公営住宅の需要が高まったことは言うまでもないでしょう。イスタンブールの土地の大部分が超高密度の住宅地に割り当てられていたおかげで、公園や緑地の整備にはほとんど目が向けられませんでした。

 イスタンブールは緑豊かな森や公園に囲まれています。それにもかかわらず、そこを訪れるには長時間にわたる車での移動や、公共交通機関での乗り換えが何度も必要となっているのが実態です。

 イスタンブールを(少なくとも一部でも)市民に還元すべく、2019年にトルコ政府は(空港機能が新イスタンブール空港に移管された)旧イスタンブール・アタテュルク空港の敷地に広大な公園を整備する計画を発表しました。この公園整備計画は、1970年代以降のトルコにおける主要都市の大半に見られた無計画な都市開発の弊害の是正を目的とした、大規模な都市再生計画の一環として発案されました。[4][5]

 緑地の整備や拡張するために活用可能なスペースが限られているため、新しい公園は、かつて工場やその他の大規模施設の跡地に建設されることが一般的です。


 アタテュルク国際空港国民公園は、アタテュルク空港の2本の滑走路のうち1本の滑走路とその周辺に建設される予定となっています。この滑走路自体は、2020年初頭にイスタンブールのパンデミック対応病院の拠点として選定されたため、すでに使用不能となっていました。

 アスファルトの滑走路や誘導路の代わりに13万2500本以上の木の植樹が計画されており、これが実現すれば都市の気温上昇を抑える効果も見込めます。

 もう1本の滑走路は、特定の貨物便やプライベートジェット便、(テクノフェストを含む)航空ショー、(現在もここに小規模な訓練基地と博物館を設置している)空軍が利用するために今後も使用される予定です。


 この公園の建設計画が激しい政治的障害に直面しなければ、それはもはやトルコとは言えないでしょう。

 最大野党であるCHP:共和人民党のであるケマル・クルチダルオール(当時)代表は、この公園建設計画を「国家への裏切り行為」と非難し、責任者を追及すると脅したほか、建設を請け負う予定の企業に対しても警告を加えました。 [6]

 CHPは、すでに全運航が新イスタンブール国際空港に移管されているにもかかわらず、旧空港が依然として稼働中であること、1本の滑走路と貨物専用エプロンが(例えば大地震の際に救援物資を空輸するためなどに)引き続き使用されること、そして以前にクルチダルオール氏が同空港に公園を建設する自身の計画を発表していたことを理由に、今回の計画に反対しています。[6]

 以上の論点を除けば、かつてイスタンブールの国際空港として機能していたおかげで、車や既存の地下鉄M1A号線を利用して容易にアクセスできるためのインフラがすでに整っていることから、この公園の立地自体は大きなメリットがあると言えるでしょう。




 公園や緑地は、都市の住みやすさを向上させます。アタテュルク国際空港国民公園は、イスタンブールの慌ただしい都会の生活から逃れる、心地よい憩いの場となるでしょう。

 反対の声がないわけではありませんが、いつの日にか疲れ果てた旅人やこの都市の住民の誰もが、この安らぎと静けさに満ちた空間、イスタンブールの「緑の肺」をきっと心から楽しむようになるのではないでしょうか。


 編訳者による追記:結局、アタテュルク国際空港国民公園の建設は進んで2025年11月1日に開園した。同公園を管轄する、トルコ環境・都市化・気候変動省(MoEUCC)によると、遊歩道やサイクリングロード、スポーツフィールド、展示エリア、人民図書館、公園、プール、社会施設を備えているほか、展示ホール、ワークショップ、4つの炊き出し所、4つのレストラン、4つの市場、4つの図書館が入居する2つの複合施設も建てられたとのことだ。
 また、16万5千人以上を同時に収容できる災害避難所にもなるのが大きな特徴となっている。[7][8][9]

 以下の画像は開園セレモニー後にエルドアン大統領が投稿した動画から抜粋したものである。







  植樹されてから時間が経過していないこともあり、現時点ではイメージより緑が少ない「よく整備された公園」以上の感想が出てこない。しかしながら、こうした事業は年月の経過を待たないと成果が見えてこないのも事実である。今後も状況を注視していきたい。

[1] Discover Istanbul : The green city https://www.petitfute.co.uk/istanbul-the-green-city
[2] A view into Istanbul’s “greenness”: Istanbul Metropolitan Municipality Solid Waste Data https://towardsdatascience.com/a-view-into-istanbuls-greenness-istanbul-metropolitan-municipality-525ba89bb82a
[3] % of public green space (parks and gardens) http://www.worldcitiescultureforum.com/data/of-public-green-space-parks-and-gardens
[4] Ataturk Airport from a Global Airport to a Beach Park https://www.cctinvestments.com/ataturk-airport-from-a-global-airport-to-a-beach-park/
[5] 10 new parks open as Turkey seeks to make cities greener https://www.dailysabah.com/turkey/10-new-parks-open-as-turkey-seeks-to-make-cities-greener/news
[6] Istanbul’s old airport set to get green makeover amid opposition https://www.dailysabah.com/turkey/istanbul/istanbuls-old-airport-set-to-get-green-makeover-amid-opposition
[7] Atatürk Havalimanı Millet Bahçesi bugün ziyarete açılıyor! https://turkinform.com.tr/ataturk-havalimani-millet-bahcesi-bugun-ziyarete-aciliyor
[8] Atatürk Havalimanı Millet Bahçesi bugün açılıyor https://www.trthaber.com/haber/gundem/ataturk-havalimani-millet-bahcesi-bugun-aciliyor-924543.html
[9] Atatürk Havalimanı Millet Bahçesi bugün açılıyor.


 お知らせ2025年7月に上記本の改訂・分冊版である「The Armed Forces of North Korea Volume 1: Part 1: Korean People's Army Ground Forces Organisation, Strategy and Infantry」が発売されました。残りの巻も完成次第発売される予定です(記載情報は2025年現在のものにアップデート済み)。
 お知らせ2:2025年10月に「Volume 1: Part 2(陸軍AFV)」が発売されました。 
 
お知らせ3:2025年12月に「Volume 2(空軍)」が発売されました。
 お知らせ4:2026年2月に「Volume 3(海軍) 」が発売されました

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2026年7月25日土曜日

深海の狩人:トルコの小型潜水艦


著:シュタイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年2月2日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 数発の魚雷を装備して素早い機動性を誇るこれらの深海の狩人たちは、その小型さゆえに侮ることはできません。2010年、北朝鮮の潜水艇が韓国海軍の浦項級コルベット「天安」を撃沈した事件は、この種の潜水艇がもたらす脅威を改めて示すものだったと言えます。

 「天安」のアクティブ・ソナーは前日からその海域に潜伏していた北朝鮮の潜水艇を探知できなかったため、逆に潜水艇が警戒を怠っていた標的に対して533mm魚雷1発を発射・命中させたのです。この悲劇を引き起こした潜水艇は誰にも気づかれることなく北の暗い海へと姿を消し、小型潜水艦の威力を痛感させる悲劇的な出来事にしたのでした。

 今日、小型潜水艦の設計や運用を続けている国は世界的に見てもごく少数です。通常の攻撃型潜水艦に比べ、設計が比較的容易で調達コストも低いものの、航続距離が短い上に軽武装の場合が多いことから、ほとんどの海洋国家にとってその導入は理にかなった選択とは言えません。

 小型潜水艦(潜水艇)の配備に適した海洋・地理を備えた国のみが、その運用に関心を示しているのが現状です。そうした国にはインドネシア、イランや北朝鮮などが含まれており、後者の2か国は多数の小型潜水艦を運用していることはよく知られています。その他に思い浮かぶのは、エーゲ海をめぐる紛争に巻き込まれているトルコとギリシャです。

 エーゲ海には潜水艦にとって天然の隠れ家となる島々が点在しているため、この海域は「サブマリナーの楽園」と呼ぶにふさわしいものとなっています。トルコ海軍がエーゲ海に小型潜水艦隊を配備すれば、ギリシャによる対潜戦(ASW)は著しく困難になり、エーゲ海と地中海の一部は、かつてないほど危険な海域と化すでしょう。

 この理屈はギリシャ海軍にも当てはまります。この国は現在、ドイツからさらに「214型」潜水艦を購入する資金が不足しているため、より安価な選択肢として、40年以上使用している「209型」潜水艦の一部を小型の潜水艦に置き換えることを検討している可能性があるからです。

 トルコの小型潜水艦の設計開発も、国際市場で成功を収めるための絶好のポジションにあるようです。すでにトルコのUCAVAUSVの成功によって実証されているように、トルコの防衛企業は、さらなる市場への参入と制覇を見据えているのです。[1] [2]

 AUSV市場と同様に、トルコの造船所が小型潜水艦を海外に売り込む場合、入札競争に直面する可能性は比較的低いと思われます。現時点で小型潜水艦を輸出している国は北朝鮮と中国のみですが、北朝鮮は兵器の供給源としては、(ごく一部の国を除けば)世界の国々から除外されてしまいます。中国はこれまで、自国の潜水艦の海外販売においてほとんど成果を上げていません。これらの状況を踏まえると、トルコが近い将来に小型潜水艦市場で独占的な地位を確立する可能性も決してあり得ない話ではないわけです。[3]

Artwork by HI Sutton.

 トルコが有する2種の小型潜水艦(案)には、両タイプとも小型潜水艦に分類される一方で直接の競合関係にはないという、さらなる利点があります。STM社が開発した「STM500」は、攻撃型潜水艦の多くの能力を低コストで実現しており、その点が高く評価された結果、すでに最初の海外顧客を獲得しました。そして、ディアサン造船所が開発した「L Sub 33」は、ミゼット潜水艦に近いという違った特性を備えているのです。[4]

 トルコによるエーゲ海への小型潜水艦配備が「ゲームチェンジャー」になると主張する意見もあるようですが、むしろ「マーケットチェンジャー」と表現する方が適切だと言えるのではないでしょうか。これまで現代的な潜水艦を購入する資金がなかった国々も、今や世界的な影響力を拡大しつつある政治的中立国であるトルコから、手頃な価格でそれらを購入できるようになったからです。

 この「現代的な(小型)潜水艦」には「STM500」や「L Sub 33」だけでなく、非大気依存推進(AIP)システムを搭載した全長60メートルの国産攻撃型潜水艦「TS1700」も含まれる予定となっています。この設計自体はドイツ・トルコ共同開発の「214TN型」潜水艦が持つ多くの特徴を備えており、現在韓国とドイツが輸出向けに売り込んでいる「209型」及び「214型」の直接的な競合相手として位置づけられています。[5]

 今やトルコが、大型攻撃型潜水艦、異なるクラスの小型潜水艦2種に加え、浸透作戦用の超小型潜水艦を輸出できるようになったという事実は、ドイツやフランス、韓国といった国々の不利益と引き換えに、潜水艦市場に大きな波紋を呼ぶ可能性があるでしょう。

 今後10年以内にトルコ製潜水艦を導入する可能性のある国には、インドネシア、ウクライナ、パキスタン、カタール、トルクメニスタン、フィリピンなどが挙げられます。

 かつては調達コストが安いという理由で中古潜水艦を購入せざるを得なかった国々でさえ、今では新造艦を調達できるようになりました。なぜならば、前述の新型艦がようやく財政的に手の届く範囲に来たからです。こうした国には、ポーランド、ルーマニア、ブルガリア、コロンビア、ペルー、エクアドル、チリなどが含まれます。

 ほんの数年前まではトルコがドイツの潜水艦に依存していたにもかかわらず、現在ではトルコ製の潜水艦が欧州の数か国の海軍で使用されるという構想は、決して荒唐無稽な話ではなくなっているのです。

STM500の決定デザイン

 STM社の「STM500」は、現在販売されている小型潜水艦の中で最も先進的な設計であり、AIPシステム、(計8発の魚雷を搭載可能な)4基の魚雷発射管、射程220km前後の「アトマジャ」対艦巡航ミサイル、機雷敷設能力、そして自律型無人潜水機(AUV)や特殊部隊を展開する能力といった大型攻撃型潜水艦が持つ多くの性能も備えています。[6]

 運用については、国産設計の海軍戦闘管理システムによって制御されます。18人の乗組員で、(AIPシステムを使用すれば)最大4000海里(7,408キロメートル)の航続距離と最大30日間の作戦活動が可能です。これは、ドイツの「212型」のような大型攻撃型潜水艦の約半分に相当します。

 すでにSTMは、潜水艦の設計・建造・改修の分野で豊富な実績を有しています。現在、同社はトルコ海軍向けに214TN型「レイース」級潜水艦を建造しているほか、同海軍が保有する旧式の「209型」の改修も手掛けているのです。[7]

 同社の事業は、トルコ海軍の潜水艦だけでなく、パキスタン海軍の「アゴスタ90B」級潜水艦も対象としています。2016年、STMはパキスタン海軍が保有する「アゴスタ90B」級潜水艦2隻の近代化改修契約を3億5000万ドルで獲得しました。皮肉なことに、40年以上前にこれらの艦を建造したフランス企業を差し置いて落札したのでした。[8]

 「STM500」の設計はすでに完了しており、2022年に最初の1隻が建造される予定です。発注元は非公開ですが、ウクライナ、とりわけパキスタンが有力な候補とみられています(編訳者注:2026年に完成予定で発注国はいまだ公表されていない)。[4]

 トルコ海軍が小型潜水艦の導入を検討しているか否かは現時点では判然としません。海軍の潜水艦隊は現在、計6隻の「214TN」級潜水艦のうち、最初の1隻の引き渡しを受けている最中です(編訳者注:2026年現在で2隻が就役、1隻が艤装中である)。

 これらが就役した後、トルコは完全国産の攻撃型潜水艦「MILDEN」級の建造に着手する予定です。また、将来を見据えてエーゲ海での運用を目的として数隻の小型潜水艦を導入し、地中海での作成に従事する「214TN」級の負担軽減を図る可能性があります(編訳者注:「MILDEN」級の建造は2025年1月に開始された)。

MILDEN級

MILDEN級潜水艦(IDEF2025にて撮影)

 ディアサン社が設計した小型潜水艦は、スウェーデンの「A26」級潜水艦を彷彿とさせる独特の艦首が特徴的です。「L Sub 33」は、ナイジェリアやトルクメニスタンにおける数多くの水上戦闘艦で既に大きな成功を収めているディアサン造船所が設計した初の潜水艦であることも記しておきます。[9] [10]

 これらの国は「L Sub 33」の潜在的な顧客でもあり、トルクメニスタンによる潜水艦の導入は、この10年以内に実現する可能性が高いでしょう。実際、「L Sub 33」が、トルクメニスタン海軍が求める小型潜水艦の要件を満たすために特別に設計されたものである可能性も、決して非現実的だとは言い切れません。

 この小型潜水艦の全長は33.6メートルで、「STM500」よりもかなり小型となっています。
AIPシステムは搭載していないものの、この艦は隠密性の高い浸透任務に適した設計となっており、1600海里(2963.2キロメートル)という航続距離と水中スラスターがその強力な武器となります。小型であることに伴い、搭載兵装は533mm魚雷2発と沈底機雷6発のみです。[11]

 「L Sub 33」の乗員は6~8名で、さらに8名の特殊部隊を乗せることが可能で。特殊部隊員は魚雷発射管の下にある潜水準備室を通じて潜水艦への出入りを行うようです。こうした能力を備える「L Sub 33」は、本質的に「ハンター・キラー型潜水艦」と「浸透型潜水艦」の機能を一つに融合させた設計となっています。

L Sub 33の最終デザイン

 ディアサン社が手掛けたもう1つの小型潜水艦の設計案は、「多目的SEAL潜水艦」の仮称で呼ばれており、フロッグマンや特殊部隊を敵の海域の奥深くに潜入させることを目的に特別に設計されたものです。

 全長19.2メートルのこの流線型の船は航続距離が約100海里(185.2キロメートル)あり、2名の乗員に加え、8名のフロッグマンや特殊部隊員を乗せることが可能です。[11]

 ディアサンの他の艦艇設計と同様に「多目的SEAL潜水艦」も輸出専用に設計されたものと思われますが、将来的には、トルコ海軍が求める特殊部隊とその装備を輸送するためのステルス性のある輸送艇としての要件を満たす可能性も否定できません。

 ちなみに、ディアサン社はこれら2種類の小型潜水艦に加え、600kgのペイロードと50海里(92.6キロメートル)の航続距離を持つ全長6.5メートルのAUVも開発しています。[11]


多目的SEAL潜水艦


小型潜水艦 - ハンターキラー
  • STM500 [STM] (6発の「アクヤ」533mm魚雷、「アトマジャ」AShMs または 機雷で武装可 )
  • L SUB 33 [ディアサン] (2発の「アクヤ」533mm魚雷 または 6発の沈底機雷で武装可)

小型潜水艦 - 浸透・潜入作戦用

L SUB 33の透視図(初期デザイン)


[1] An International Export Success: Global Demand For The Bayraktar TB2 Reaches All Time High https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/an-international-export-success-global.html
[2] The Market Leader: Turkey’s Indigenous Unmanned Surface Vessels (USVs) https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/the-market-leader-turkeys-indigenous.html
[3] CSIC_MS200 http://www.hisutton.com/CSIC_MS200.html
[4] https://twitter.com/TayfunOzberk/status/1460217754670313481
[5] Submarine TS1700 https://www.stm.com.tr/en/our-solutions/naval-engineering/submarine-ts1700
[6] IDEF 2021: Turkish industry unveils three new submarine designs https://www.navalnews.com/naval-news/2021/08/idef-2021-turkish-industry-unveils-three-new-submarine-designs/
[7] Turkish Navy Type 209-1200 AY Class Submarine Modernization Project https://www.stm.com.tr/en/our-solutions/naval-engineering/turkish-navy-type-209-1200-ay-class-submarine-modernization-project
[8] Despite French Sanctions, Turkey Making Progress in Pak's Agosta 90B Sub Upgrade https://www.defenseworld.net/news/26416/Despite_French_Sanctions__Turkey_Making_Progress_in_Pak_s_Agosta_90B_Sub_Upgrade
[9] Maritime Success: Nigeria Orders Turkish OPV 76s https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/maritime-success-nigeria-orders-turkish.html
[10] Bigger Business: Turkey Unveils F142 Frigate Design https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/bigger-business-turkey-unveils-f142.html
[11] L Sub 33 http://www.dearsan.com/pdfler/DEARSAN%2033m%20LSUB.pdf


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2026年7月16日木曜日

そして近代へ:イスタンブールの都市史を形づくった通勤列車


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2023年9月6日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 わが国を世界で最も繁栄し、文明化された国々の水準にまで引き上げよう (ムスタファ・ケマル・アタテュルク)


 イスタンブールの大陸間を結ぶマルマライ線は、現代のシルクロードとして称賛されています。ボスポラス海峡の下を走るトンネルを通じてイスタンブールのヨーロッパ側とアジア側を結ぶマルマライ線は現代技術の賜物であり、多数の駅を網羅し、地下鉄やトラム、バス高速輸送システム(BRT)などの他の交通機関との接続を実現することで、イスタンブール全域の交通網を劇的に改善したのです。全長76.6kmの路線には43の駅があり、そのうち14駅がイスタンブールのヨーロッパ側に位置しています(編訳者注:ボスポラス海峡横断地下鉄整備事業について、日本政府は円借款を1999年より供与したほか、海底を横断するトンネル建設については、大成建設がトルコ企業との協力のもと取り組んだ。しかし、トルコ側はトンネルの追加工事費用を大成建設に今も未払いのままであることも記してしておく

 あまり知られていないことですが、マルマライ線はイスタンブールの都市公共交通における最初の革命ではありません。1955年12月、トルコ初の電化鉄道として開通したイスタンブール・ハルカリ線が初の革命と言えます。同路線は、ヨーロッパで最も早く電化された25kV交流路線の一つにしてトルコ初の通勤路線でもありました。技術的な詳細については割愛しますが、25kV交流電化は、高速鉄道や通勤路線のような利用頻度の高い路線に最適なものです。それまで25kV交流電化は広く普及していなかったものの、その後、世界中で急速に普及しました。

 トルコ国鉄(TCDD – Türkiye Cumhuriyeti Devlet Demiryolları)は、フランスのアルストム社が設計した「E8000」系電車(EMU)28編成を購入し、イスタンブール・ハルカリ線での運行に投入しました。[1]

 これらの車両はフランスのアルストム、デ・ディートリッヒ・フェロヴィエール、ジュモン社によって製造されたものです。「E8000」系は当時としてはかなり近代的な車両で、丸みを帯びた前面形状を採用し、電子設備は車体の下部に配置されているという特徴がありました。その頑丈さにより、1970年代のイスタンブールにおける急速な人口増加に伴う過酷な使用にも耐えることができたのです。

 1979年以降、「E8000」系はアルストム社が設計し国内のTÜVASAŞ(トゥバサシュ)が製造した「E14000」系の導入で更新され始め、続く2010年には、(トルコと韓国の合弁企業である)ユーロテム社によって設計・製造された「E23000」系が導入されました。[2]

 「E23000」系は、2014年にマルマライ線の建設のためにイスタンブール・ハルカリ線が廃止されるまで、さらに4年間同線で運行されました。マルマライ線は、ビザンチン時代の遺跡が発見されたことにより4年の遅れが生じたものの、2019年に本格運行が開始されたことは周知のとおりです。

 ちなみに、マルマライ線は、イスタンブールのハルカリ線と1969年に電化されたアジア側のハイダルパシャ・ゲブゼ線を結んでいます。


イエディクレ駅を通過する2両編成の「E8000」系 EMU:1956年4月撮影

 「E8000」系と共に、同じ仏アルストム社が設計・製造した「E4000」系電気機関車3両も導入されました。[3] [4]

 「E4000」系はトルコで初めて就役した電気機関車として知られています。1955年までは、全旅客列車と貨物列車が環境汚染の原因である蒸気機関車によって牽引されていたのです。この電気機関車は、ハルカリ駅で特急列車や貨物列車を引き継いでイスタンブールへの最終区間を走行することを目的として導入されたものであり、沿線の地域における大気汚染の低減に大きく貢献しました。[4]

 「E4000」系が運行された全長28kmのイスタンブール・ハルカリ線は平坦な路線であったため、往復の短い区間では高速走行は必要とさていなかったようです。その結果、この機関車の設計は比較的シンプルなものとなり、変圧器から直接給電される単相交流モーターを採用していましたが、この技術はすぐに時代遅れとなってしまいました。1957年までに直流式電機機関車の製造は終了し、それ以降、「E4000」系は技術的に時代遅れとなってしまったわけです。[3]

 この機関車は仏ポール・アルザン社によって設計されたものであり、その美しい独特なデザインは長く人びとの記憶にとどまり続けています。

「E4000」系電気機関車

 「E8000」系は、2両の動力車と1両の中間客車で構成されていました。駆動ユニット自体は、Cユニットにのみ荷物室が設けられている点を除くと全てが同じです。「E8000」系は最大3両まで連結可能で、合計で9両編成となることが可能という特徴を有していました。

 国内で製造された中間車を追加することで、この電車が4両編成に延長された時期もありました。しかし、重量の増加により、当初から低かった「E8000」系の加速性能がさらに低下したおかげで、この仕様はすぐに廃れたようです。 [2]

 イスタンブールのアジア側にあるハイダルパシャ・ゲブゼ線で短期間使用されたことを除けば、この電車は56年にわたる運用期間中、一貫してイスタンブール・ハルカリ線で運行されていました。


 1970年代以降、イスタンブールの人口は、郊外に建設された新しい工場が全国各地から労働者を呼び寄せたことで、急激に増加し始めました。人口が急増した結果、かつては郊外だった地域が急速にイスタンブール大都市圏に飲み込まれていったため、公共交通の需要が高まったことは言うまでもないでしょう。


これに加え、「E8000」系では編成が最大でも9両という点が問題となりました。列車が過密状態になり、乗客が乗り降りすするために車外に身を乗り出さなければならないような事態も時折発生したのです。


 1970年代までに、トルコの蒸気機関車のほとんどは電気機関車やディーゼル機関車に取って代わられたものの、「E4000」系イスタンブール・ハルカリ線でのみ運行され続けました。

 信頼性が低下し続け、より現代的な機関車がすでに容易に入手可能となっていたため、これらの旧式機関車は1990年代末に引退させることが決定されました。[3]

 引退後、これらの機関車はハルカリ車両基地の使われなくなった線路に放置され、2010年代半ばまでそこにありました。その後、姿が見かけなくなりましたが、同所にマルマライ線の「E32000」系電車用の新車両基地を建設されたことを踏まえると、おそらくは解体されたものと思われます。[3]


 「E4000」系は3両と台数が少ない上に整備を要する交流モーターを搭載していたため、運用の継続は非現実的と判断された一方、「E8000」系は1990年代初頭以降、少なくともあと20年は運行が続けられる予定でした。

 これらの電車はヴィンテージ風の白ベージュと赤の塗装は、窓の下に赤いストライプが入った、よりモダンな外観の白と青の塗装に塗り替えられました。しかしながら、内外装にはそれ以外の改造や改良が一切加えられず、2011年に引退するまで、1950年代当時のままの状態で運行され続けたことは特筆に値するでしょう。

 「E8000」系の大部分はスクラップとなりましたが、今日でも僅か4編成が生き残っています。


 マルマライ線のより現代的で快適な「E32000」系への更新に伴って「E8000」系が段階的に廃止されたことは、イスタンブール・ハルカリ線を日常的に利用する乗客にとって間違いなく喜ばしいことでした。「E8000」系が、イスタンブール・ハルカリ線に初めて導入された当時の斬新さを思い起こさせる存在として記憶されることを願うばかりです。

 現在のマルマライ線と同様に、イスタンブール・ハルカリ線も当時としては画期的なものであり、ヨーロッパの他の多くの都市に先駆けて、イスタンブールの公共交通機関を飛躍的に改善したことも忘れてはいけません。

 マルマライ線はこの偉業をさらに上回るものであり、2022年後半にハルカリからイスタンブール空港行きのM11号線への接続が実現すれば、イスタンブールの公共交通機関の魅力と利便性はさらに高まるでしょう。


[1] E8000 http://www.trainsofturkey.com/pmwiki.php/MUs/E8000
[2] E14000 http://www.trainsofturkey.com/pmwiki.php/MUs/E14000
[3] BB 4 000 Alsthom https://users.metu.edu.tr/tonuk/E40003/4000/
[4] E4001 to E4003 http://www.trainsofturkey.com/index.php/Traction/E4000


 お知らせ2025年7月に上記本の改訂・分冊版である「The Armed Forces of North Korea Volume 1: Part 1: Korean People's Army Ground Forces Organisation, Strategy and Infantry」が発売されました。残りの巻も完成次第発売される予定です(記載情報は2025年現在のものにアップデート済み)。
 お知らせ2:2025年10月に「Volume 1: Part 2(陸軍AFV)」が発売されました。 
 お知らせ3:2025年12月に「Volume 2(空軍)」が発売されました。
 お知らせ4:2026年2月に「Volume 3(海軍) 」が発売されました


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