著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
インドネシア国軍は東西5,150kmに及ぶ17,000もの群島の哨戒を担当しています。この目的のために、同国軍は大量の哨戒艇や哨戒機を運用して不法侵入や領海内で発生するあらゆる活動を監視しています。
とはいえ、島々の陸地の大きさは言うまでもなく、群島が存在する広大な領域が監視活動を困難なものにしています。これを効果的に実現する別の方法としては、MALE(中高度・長時間滞空型)UAVを大量に配備するという手段が挙げられます。
インドネシアはすでに2019年から6機の中国製「CH-4B」無人戦闘航空機(UCAV)を運用しており、最近ではトルコ製無人機の導入にも関心を示しています。[1] [2]
この国は00年代以降に数多くの小型UAVを設計・製造してきましたが、それらの中で「PUNA(無人航空機)ウルン」だけがインドネシア空軍で運用が開始されると思われます。それにもかかわらず、これらのドローンの設計・製造で得られた経験は、インドネシアにおけるUAVを設計するための小規模な技術基盤を生み出しました。
2016年になると、インドネシアの国営航空機製造企業「PTDI(PTディルガンダラ・インドネシア)」は「エラン・ヒタム(黒鷲)」と命名された国産UCAVの設計に着手しました。[3]
このモックアップは2019年12月に初公開され、開発は4つのフェーズ(またはブロック)に分けて進めるようになっています。[3] [4]
ブロック0はドローンの飛行性能のテスト用で、続くブロックLは国産のミッション・アビオニクスを組み込んだものとなり、そしてブロックDは情報収集・警戒監視・偵察(ISR)装置が搭載されることになっています。最終フェーズのブロックCには兵装運用能力が組み込まれる予定です。
最初と2番目のブロックでは降着装置はまだ固定式が装備されていますが、以降のブロックでは格納式となります。
「エラン・ヒタム」の全長は8.65mで全幅は16mです(ちなみに「CH-4B」は全長8.5mと全幅18m)。[3]
同機の設計仕様では、ペイロードが300kg、実用上昇限度が7,000m、約30時間の滞空性能、見通し距離(注:電波伝搬上の見通し距離≠視認可能範囲)で250kmの行動半径が要求されています。[3]
「エラン・ヒタム」の最大離陸重量は1,300kgと「CH-4B」に近いですが、 最高速度は235 km/hとはるかに低いものとなっています(「CH-4B」の最大速度は 330km/h)。ただし、滞空性能に関しては30時間と「CH-4B」の14時間を大幅に上回っています。[3]
「エラン・ヒタム」のモックアップ(2019年12月) |
当初、「エラン・ヒタム」は2020年初頭に飛行試験を開始することになっていましたが、その後のCovid-19によるパンデミックの影響で2021年後半に延期されました。
そして2021年12月2日、「エラン・ヒタム(ブロック0)」はついに最初の地上滑走試験を開始しました。[5]
今後、FLIR(前方監視型赤外線)装置を搭載したブロックの設計・製造が開始されると、このUAVは新たに発生した火災の発見や消防アセットの調整を手助けするという「バイラクタルTB2」と同様の手法で、国内で問題となっている森林火災の対策にも活用できる可能性があります。[6]
インドネシアで最も成功したUAVは「エラン・ヒタム」も設計したPTDI社の「ウルン」です。[7]
(現在はBRIN:国家イノベーション研究庁に統合・改組された)LAPAN:航空宇宙庁によって開発された「LSUシリーズ」といったほかのUAVは、インドネシア軍によって頻繁にテストされていますが、これまでに導入されたことはないようです。
興味深いことに、「LSU-02」はインドネシア海軍のコルベット「フランス・カイシエイポ(シグマ級)」に搭載されて試験されたことがあります。この試験で同機はヘリ甲板から発艦して地上の滑走路に着陸しました。[8]
「ウルン」 |
LAPANが開発した「LSUシリーズ」UAV |
運用可能なシステムとなるにはまだ何年もかかりますが、「エラン・ヒタム」は間違いなく見込みのある無人機と言うことができます。仮にこの機体の運用が開始されれば、インドネシアは東南アジア初の中国製「CH-4B」UCAVの運用国となるだけでなく、国産のMALE型U(C)AVを導入した最初の国となるでしょう。
とはいえ、野心的なインドネシアの航空プロジェクトは資金難で頻繁に停止の危機に直面しており、IPTN 「N-250」旅客機のような有望なプロジェクトもキャンセルに追い込まれました。
したがって、「エラン・ヒタム」を成功させるためには、まずは国際的に成功しているライバル機たちの中で自らの価値を証明しなければならないのです。
※ 日本語版補足:2022年9月下旬に「エラン・ヒタム」計画中止の情報が流れました
が、BRINによると中止ではなく、計画はUCAVという軍事用途から地上監視・気象観
測・マッピング・森林火災との監視といった非軍事的用途に用いる計画に変更された旨
のコメントがなされました。つまり、インドネシアの実用的な国産UCAV計画は事実上
頓挫してしまったようです。[9]
[1] Indonesian Air Force's fleet of CH-4 UAVs granted airworthiness approval https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesian-air-forces-fleet-of-ch-4-uavs-granted-airworthiness-approval
[2] Endonezya Ankara Büyükelçisi Dr. Lalu Muhammad Iqbal: Türkiye ile Endonezya arasındaki savunma iş birliği artacak https://www.savunmatr.com/ozel-haber/endonezya-ankara-buyukelcisi-dr-lalu-muhammad-iqbal-turkiye-ile-h15336.html
[3] PT Dirgantara Indonesia reveals new MALE UAV prototype https://world-defense.com/threads/pt-dirgantara-indonesia-reveals-new-male-uav-prototype.7481/
[4] Indonesia unveils prototype of indigenously developed strike-capable UAV https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesia-unveils-prototype-of-indigenously-developed-strike-capable-uav
[5] https://twitter.com/defenceview_id/status/1470381630460088324
[6] An Unmanned Firefighter: The Bayraktar TB2 Joins The Call https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/an-unmanned-firefighter-bayraktar-tb2.html
[7] UAV (Unmanned Aerial Vehicle) WULUNG https://www.indonesian-aerospace.com/techdev/index/set/uav
[8] LSU-02 LAPAN : UAV Pertama yang Take Off dari Kapal Perang TNI AL https://www.indomiliter.com/lsu-02-lapan-uav-pertama-yang-take-off-dari-kapal-perang-tni-al/
[9] BRIN Alihkan Proyek Drone “Elang Hitam” ke Versi Sipil, Kini Dikembangkan untuk Awasi Kebakaran Hutan