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2022年4月15日金曜日

眠ったままの将来性が目を覚ます日は来るか?:ウクライナとトルコが提携してアントノフ機を開発する



著:ステイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)

 航空宇宙分野におけるパイオニアとして、トルコは数多くの高度な有人・無人機を設計してきました。これらの大部分は、トルコ空軍や世界中の航空部隊のために開発されたものです。

 ただし、トルコはかつて国産旅客機「TRジェット」で民間航空市場に参入するという野心的な計画を進めていたものの、2017年にお蔵入りとなったことがありました。これによって、民間航空機の設計と生産に関する具体的な計画に終止符が打たれたように思われましたが、この分野におけるトルコの野心が裏で温存され続けてきたことは間違ないでしょう。

 トルコが世界最大の貨物機である「An-225 "ムリヤ"」2号機の完成に関心を示したことについて、私たちはすでに当ブログで紹介しました。[1]

 当記事では、トルコがほかにも数多く存在するウクライナの航空プロジェクトに関与し、緊密な協力を行っている動機を考察・解説していきます。

 これらのプロジェクトには「An-132」ターボプロップ輸送機、「An-178」中型輸送機、そして「An-188」戦略輸送機が含まれています。トルコはすでに2018年以降、「An-178」と「An-188」の共同生産に関心があることを頻繁に公言しており、ごく最近では2021年10月にその意思を表明しました。[2] [3] [4]

 今のトルコ空軍には、すでに運用されている「CN-235」や「C-130」、「A400M」以外の輸送機を加える必要性が全く無いと異論を唱える人もいるかもしれませんが、「アントノフ」社の設計機はトルコ軍の将来的な需要に応えるだけでなく、世界中への輸出も相当な成功を享受する可能性を秘めています。

 トルコの部品、技術、搭載機器を統合することによって良好な市場シェアを得たり、同国の世界的な影響力を利用して、アフリカ、ヨーロッパ、アジア、南アメリカで素晴らしい販売実績を達成するという利益を得ることができるかもしれません。

 トルコの関与は、「An-132」、「An-178」、「An-188」の設計を改良するだけでなく、この国の現代的な技術支援によって実際にこれらが量産に入るための刺激を与えるなどのブレークスルーをもたらすことができるでしょう。

 これらの航空機(の一部)をトルコで生産することについては、自国を(数多くある国家プロジェクトの中でも特に)電気自動車、無人航空機、高速鉄道といった先端革新技術の製造拠点に変えるというトルコ政府の長年にわたって目指している目標にうまく調和しているように見えます。[5] [6]

 最近のトルコの航空宇宙企業は、「トルコ航空宇宙産業(TAI)」の新型ジェット練習機「ヒュルジェット」やステルス戦闘機「TF-X」、そして「バイカル・テクノロジー」社の無人戦闘機「MIUS:バイラクタル・クズルエルマ」の開発の仕上げで多忙のため、どの国内企業も現時点で真の国産旅客機や輸送機の設計・開発を実施できそうにはありません。

 これは、そのようなプロジェクトが将来的にトルコ企業によって始動されないということを意味しません。「バイカル」社の空飛ぶ自動車「セゼリ」は、同社の将来における開発の方向性を見せているかも明らかでしょう。[7]

 「TAI」の場合、(国産機開発の一環として)すでに「「N-219」及び「N-245」ターボプロップ旅客機のプロジェクトで「PTディアガンタラ・ インドネシア(PTDI)」社に協力しています。[8]

  ジェット旅客機よりも競争の少ない市場セグメントに位置するこれらの機体は、トルコの影響力が高まっているアフリカで商業面での大成功を収める可能性がありますし、「PTDI」と「アントノフ」社とのプロジェクトの背後にある強力で政治的な後ろ盾も機体の輸出販売を推し進める大きな要因となるかもしれません。

 トルコによる「N-219」及び「N-245」のプロジェクトの関与で生じるだろう潜在的な恩恵については、当ブログで取り上げる予定です(注:本国版Oryxで公開済みですが、当日本語版での公開は未定です)。

 2015年に立ちあげられた「TRジェット」プロジェクトもそれらと同様に、既存の機体を最大限に活用することでプロジェクトのスピードアップとこの規模のプロジェクトに特有のリスクを抑え込もうとしました。

 「TRジェット」プロジェクトが頓挫したのは前述のとおりですが、最終段階では、短距離飛行用の32の乗客席を備えた「TRJ328」とそのターボプロップ型「TR328」、中距離飛行用の60〜70席の乗客席を備えた「TRJ628」とそのターボプロップ型「TR628」の4機種を製造することになっていました。[9]

 4機種のうち「TRJ628 」と「TR628」だけが新規設計で、「TRJ328」と「TR328」は既存のドイツ製「ドルニエ328ジェット」と「ドルニエ328」を高度に発展させたものでした。

 「TRジェット」と同様の名称変更がアントノフ機にも適用される可能性があり、その場合、「An-132」は「TR-132」、「An-178」は「TRJ-178」、「An-188」は「TRJ-188」と呼称されることになります。

 (必ずしも好ましいものではありませんが)「アントノフ」社とその飛行機は世界の大部分でそのブランド認知力を誇っていますが、トルコが国際政治において地域大国に台頭したは、今後のさらなる商業的成功に重要な役割を果たす可能性があると言えます。

 その意味では、飛行機の原産国(トルコ)にちなんだ呼称は確かに有益なものとなるかもしれません。それでは、「TR-132」、「TR-J-178」、「TRJ-188」について詳しくチェックしていきましょう。


 「An-178」と「An-188」は主に軍事市場向けの機体ですが、「An-132」ターボプロップ輸送機は民間市場でも成功する可能性があります。

 「An-32」の改良型として設計された「An-132」は潜在的な顧客にとってより魅力的な機体にするべく、「An-24/26/32」ファミリーを商業的に成功させた頑丈さと飛行能力を維持しながら西側諸国の部品や技術を取り入れた機体です。

 また、同機は「プラット&ホイットニー」社製「PW150」ターボプロップエンジン2基を搭載しており、ロシア製の部品に代えて西側諸国製のコンポーネントを備えています。

 「An-132」プロジェクトは、生産ラインを国内に置くことで自国の航空産業を促進させるため、2015年にサウジアラビアに採用されたことで知られています。しかし、当初は80機の発注を公約し、後にサウジアラビア空軍で使用する6機の「An-132D」を実際に発注したにもかかわらず、成功が約束されたはずのプロジェクトは最終的に2019年にサウジアラビア自身によって棚上げされてしまいました。[10] 

 特にサウジアラビア空軍は、「An-132」プロジェクトが国軍の実際に必要とする条件を満たすものではなく、単に産業的な理由だけで進められているものと感じて反対していたのです。

 「アントノフ」社は以前にも、航空機の製造に関心を示す別のいくつかの国々に、同じ「航空機製造計画」を売り込んでいたことがあります。[10] 

 この計画の下では、同社が自社製航空機の改良型を開発・試験して、後でその機体に関する知的財産権をパートナー国に譲渡し、その国で生産ラインを立ち上げるということになっていました。イランはこのプランを採用した(サウジ以外で)唯一の国で「An-140」と「An-148」旅客機の国内生産しようとしましたが、制裁のおかげでプロジェクトは中止に追い込まれてしまったため、組み立てられた「IrAn-140」はごく少数に終わってしまいました。[11] 

 2019年にサウジアラビアとの契約が破綻した後、「An-132プロジェクト」は今や実質的に暗礁に乗り上げた状態となっています。「An-132」の試作機は2019年に最後の飛行を行い、耐空証明が失効した後にウクライナ当局によって登録されている航空機のリスト上から抹消されました。[10] 

 したがって、今の状況はトルコが介入して「An-132」プロジェクトを蘇らせるめったにない機会をもたらしています。トルコ製の部品や技術、ペイロードの統合とトルコの関与する度合いが強まることが予想されるにもかかわらず、おそらく「アントノフ」社によって以前に売り込まれたプランのいくつかの側面が取り入れられたものになるでしょう。



 「An-132」を旧世代機の単なる改良型として簡単に片付けるのは間違いです。なぜならば、この一連の推論は、現在の航空機市場で販売されているほぼ全ての輸送機に該当するからです。

 非常に人気のある「C-130J "スーパーハーキュリーズ "」は1950年代の設計を全面的に一新したものであり、「C-27J」と「C-295」はそれぞれ1970年代と1980年代の機体の高度な派生型です。「C-27J」と「C-295」は「An-132」のダイレクトな競争相手で、1990年代後半に発表されて以来、輸出市場で大きな成功を収めてきました。

 彼らの継続的な商業的な成功は、「An-132」のような航空機に大きな市場が実際にあることを証明していますが、このことは、「An-132」の見こみ客の多くが、すでに「C-27J」や「C-295」を運用していることも意味しています。

 そのため、「An-132」は進化したペイロードといった斬新な特徴を提示し、そして何よりも競合機よりも導入と運用コストを安くするなどして、その限界を改善しなければいけません。ただし、トルコによる強い政治的な後ろ盾が、友好国が航空機を調達に寄与する強力な要因となる可能性があります。

 「An-132」の設計はすでに「C-27J」や「C-295」の多くの特性を上回っており(以下の画像)、ほかの輸送機が運用できない未整備の滑走路から運用する能力を有しています。

 この強みは、「An-132」をジャングル奥地にある人里離れた仮設滑走路への運航を継続させることが多い南アメリカやアフリカの民間貨物業者にとっても魅力的な選択肢にさせます。これらの大陸にあるいくつかの航空貨物運送事業者は、特に未舗装の滑走路での離着陸があることから「An-26」と「An-32」を使用し続けており、現時点でこれらを真の意味で代替する航空機は存在しません。

 「An-132」は民間市場で成功を収めるだけでなく、「C-27J/C-295」を調達する資金が不足していたり、あるいは「An-26/32」のより高度なタイプに置き換えたいという軍事方面の顧客を引きつける可能性があります。

  アフリカの場合、そのような国にモザンビーク、コンゴ民主共和国、スーダン、リビア、エチオピア、アンゴラ、赤道ギニア、ナイジェリアが含まれていますが、ペルー、エルサルバドル、コロンビアといった南アメリカの諸国も将来の運用者として見込まれます。

 より身近なところでは、ウクライナとイラクが「An-26/32」の後継機に「An-132」を選定するかもしれません。

 これらの国の大部分については1国につき僅か数機ずつの契約となると思われますが、航空貨物運送事業者に対する売却の可能性を合算すると、販売機数は早い段階で積み重なっていくでしょう。


「C-27J」及び「C-925」と比較した「An-132」 の各オプション時におけるペイロード図

 「An-132」は軍用貨物機や商業貨物機としての用途に加えて、かつて想定されたことがある空中消火、電子戦(EW)、医療後送(MEDEVAC)、さらにはガンシップや海上哨戒(MPA)を含む、広範な分野にわたる特殊任務を遂行することも可能です。

 EW機や(ジェット機ベースの)将来型MPAプロジェクトがすでに進行中であるトルコにとっては、前述の特殊任務の全てに必ずしも興味を示すわけではありませんが、それらのような派生型は一定の輸出先にとって依然として関心を引くかもしれません。

 2017年、ウクライナの「ウクルオボロンプロム」社とトルコの「ハヴェルサン」社は、サウジアラビアによって見込まれた要求を満たすために「An-132」のMPA及びISR型の開発に関する協定を既に締結していましたが、その後すぐにサウジアラビアが「An-132」プロジェクトを放棄したため、最終的には実現に至りませんでした。[12]



 トルコにとって最も興味を引くと思われる「An-132」の派生型は、間違いなく空中消火型の「An-132FF」でしょう。

 かつてトルコは約9機の「CL-215」と11機のPZL「M18」消防機から成る空中消火飛行隊を保有していましたが、その全機が過去数年間で退役しており、現在ではチャータされたロシアの「Be-200」水陸両用機や「Mi-17」、そして「Ka-32」ヘリコプターの飛行隊がその重要な任務を引き継いでいます。[13] 

 2021年にトルコで発生した大規模な山火事は、リースの航空機やヘリコプターに依存せずに独自の空中消火機を運用することの利点をこの国に再び認識させ、同年10月には、4機の空中消火機を調達することが公表されました。[14]

 トルコとウクライナで森林火災が増加しているため、「An-132FF」は、より多くの空中消火機の需要に応えることが可能です。

  もし、そのような調達が実現した場合 トルコ空軍による「An-132」の採用にもいっそう関心が高まるでしょう。というのも、同空軍は1990年代前半~後半から運用している約50機の「CN-235」飛行隊が今後の10年で更新が予定されているからです。

 ターボプロップ機である「An-132」の(商業的な)可能性があるにもかかわらず、トルコはこれまで「An-178」と「An-188」ジェット輸送機にだけ関心を公に示してきました。

 アントノフ「An-178」中型輸送機は「An-158」旅客機の貨物機版として設計されたものであり、飛行甲板、翼板、尾部、そして機内のシステムの多くが同一となっています。ただし、胴体は最大で16トンの貨物を搭載できるように新たに設計され、1,620km(5トンの貨物を搭載した場合は4,700km)を飛行する能力を有しています。

 両機は共にウクライナの「モトールシーチ」社が生産する「イウチェンコ・プロフレス」設計の「D-436」または「AI-28」エンジンを搭載しています。「モトールシーチ」社は2017年に中国にほぼ乗っ取られかけた結果、アメリカ政府がウクライナ政府に介入させ、安全保障上の理由からこの買収劇を頓挫させた過去があったことは以前に紹介しました。[15]

 ウクライナは、民間旅客機を生産するというトルコの計画を復活させるためのパートナーとしても言及されています。このことは、「An-178」との共通性からトルコが「An-158」にも興味を示す可能性を示唆しています。[3]

 「アントノフ」社は主に軍用機市場の分野で活躍していますが、数種類の旅客機も設計・開発したことについて見落とされがちです。これにはターボプロップ式の「An-140」や「An-148/158」ジェット旅客機も含まれていますが、いずれも国際市場でほとんど成功を収めることができませんでした。

  1990年代にはかつてないほど高まった野心が「アントノフ」社は、民間旅客機である「An-180」「An-218」や、エアバス「A380」に対抗するために戦略輸送機「An-124」の旅客機版である「An-418」の開発を開始しましたが、残念ながら頓挫して無駄に終わりました。[16]

 その全てを費やした努力に対して、「An-148」とその胴体を延長した「An-158」は商業的に期待外れで終わりました。ウクライナとロシアにある僅か2つの航空会社だけが、今でも合計7機の「An-148」を運航し続けています。

 ウクライナとロシア以外の国に対する販売実績には、北朝鮮の「高麗航空」への「An-148」2機、キューバのフラッグキャリアである「クバーナ航空」への「An-158」6機が含まれていますが、後者の場合は多数の技術的問題で悩まされたため、2018年に全機が運用停止に追い込まれてしまいました。

 「An-178」に類似していることから、「An-158」はトルコの旅客機に対する野心を満たす理にかなった候補のように思えますが、同機は結局のところ、経済的に不可能と見なされて開発が中止された「TRジェット」プロジェクトの「TRJ628」と酷似しているものとなります。[17]

 「An-158」旅客機への投資は純利益でプラスをもたらす可能性は極めて低いですが、「An-178」はリスクと利益のバランスがやや魅力的です。

  既存の競合機に追いつく必要がある「An-132」とは対照的に、「An-178」はライバルの多くが登場する以前に中型輸送機市場への早期参入が可能となっています。ライバル機として、ブラジルの「エンブラル」製「KC-390」、将来に登場する予定であるロシアの「Il-276」とエアバス「A400M」の小型版(仮称「A200M」または「A410M」)が挙げられます。[18] 

 「An-178」の見こみ客には、イラク、アンゴラ、エチオピア、ナイジェリア、エジプト、インドネシア、パキスタン、ペルーが含まれています。

 新しいエンジンオプションを通じて最大離陸重量と燃料効率を向上させることができるため、「An-178」には将来的に成長する可能性も秘めていますが、実際のところ、航空機が商業的な成功を得るためには取得・運用コストが決定的な要因となります。

 機体をさらに「西側化」するためにトルコ製のコンポーネントをインテグレートすることで、輸出販売の見こみも高まるかもしれません。

 それにもかかわらず、「An-178」が輸出される可能性は「An-132」よりも低く、航空貨物運送事業者から広範な関心を持たれることは起こりえないと言えます。これは「An-178」の設計とは全く関係がなく、より小型か大型で、積載可能な量が増加した長距離飛行機に対する市場の需要によるものです。

 「An-178」を国際的な顧客にとってより魅力的なものにするため、「アントノフ」社は同機のさまざまな派生型を提案しています。[19] 

 これには空中給油型、MEDEVAC型、捜索救助型が含まれていますが、「An-148-301MP」MPA、「An-148-301ISR」、さらには「An-148-301AEW」空中早期警戒機がある同社の「An-148」発展計画を考慮すると、「An-178」にも他の派生型が提案されることも考えられないことではないようです。[20] 

 多岐にわたる派生型の具現化については、最終的にそのような特殊な派生型の対する関心の高さに左右されるでしょう。

 「An-178」に対する各国の関心の程度を予測することは、現時点で困難です。同機は「An-132/C-295/C-27J」と「C-130/IL-76」の間の微妙なギャップを埋める存在であることから、大部分の国は「An-178」で可能な任務を遂行するために、単にこれらの機種のどれかを選択するだけでしょう(注:中途半端な存在ということ)。

 ただし、現在「C-130」クラスの輸送機が不足している国や企業は、「An-178」を選定する可能性がもっとも高いと思われます。これまでにウクライナとペルーがそれぞれ3機と1機の「An-178」を発注していますが、現時点におけるペルーとの契約状況は定かではありません。[21]

 (「An-225」以外で)ほぼ間違いなくトルコが最も関心を示している航空機は、間違いなく「An-188」戦略輸送機のコンセプトでしょう。

 この「An-188」は、ソ連の「An-12」の後継機として1980年代後半に開発された「An-70」 プロップファン式中距離輸送機を発展・進化させたものです。

 1990年代初頭のソ連崩壊後、「An-70」はウクライナとロシアの共同所有の下でゆっくりと開発が継続されました。2014年のロシア・ウクライナ戦争が勃発した後、ロシアはウクライナから正式に「An-70」計画から追放されましたのは言うまでもないでしょう。

 しかし、この動きはほとんど表面的なものでしかありませんでした。というのも、ロシアはすでに2013年の時点で国産機の開発に集中するため、このプロジェクトから手を引いていたからです。[22]

 1994年の初飛行から約20年が経過しても依然として当局から認証を受けていなかったため、「An-70」計画は2014年まで決して安泰なものではありませんでした。

 この20年間、同計画は資金不足とロシアとウクライナの内部対立に悩まされ続けていました。(後に「Y-20」の開発に進んだ)中国との短い仕事の後、ドイツとフランスが「C-160」を置き換える将来の大型機計画で「An-70」を評価し始めたため、1990年代後半にこの計画に突破口が切り開かれる可能性が浮上しました。[23]

 ドイツ国防省の評価によると、西側化された「An-70」は「エアバス」社が売り込んでいた「A400M」より技術的に優れており、価格も推定で30%も安いことが判明しました。[23]

 しかし、結局は実用的な理由から「A400M」が選定されて終わりました。

 それ以来、「An-70」を海外に売り込もうと試みた「アントノフ」社は、見こみ客を獲得するための多岐にわたる提案を行ってきました。

 これらには「An-70」を西側化した「An-77」、より強力なプロップファン・エンジンを搭載した「An-170」、4基のプロップファン・エンジンを2基のジェットエンジンに置き換えたアメリカ空軍向けの空中給油機「An-112KC」、2~4基の「イウチェンコ・プロフレス」製「D-18T」か米仏共同開発の「CFM56-5C4」ジェットエンジンを搭載した「An-70-118」・「An-70T-300」・「An-70T-400」、そして4基のジェットエンジン、西側製のコンポーネント、空中給油装置が装備された「An-70」の最新改良型である「An-188」が含まれていました。[24] [25]

 「An-70」の最も見こみのある派生型ということを別にしても、「An-188」は「An-70」計画を復活させるための唯一の現実的な選択肢でもあります。

 「An-77」プロジェクトでは「An-70」のロシア製コンポーネントを西側諸国のもので置き換えようとしたものの、西側には特定の部品を置き換える類似品が存在しなかったことから、これがすぐに実現不可能と判明しました。[26] 

 「An-70/77」の強力な「イウチェンコ・プロフレス」製「D-27」プロップファン・エンジンは同機特有のものであり、他国では簡単に製造できないロシアの部品をいくつか用いています(注:「ベリエフ」製「A-42」水陸両用機にも搭載されることになっていますが、現時点では「An-70」にしか搭載されていません)。

 2020年のインタビューでウクライナのオレグ・ウルスキー戦略産業大臣がこのプロジェクトを「袋路」と述べたことは、「An-77」が商業的な面で実現できないことををはっきりと示しています。[26]

 ウクライナ空軍は、今でも2015年に正式に就役した1機の「An-70」を運用し続けています。[27] 

おそらく最も実現が高いもの:「An/TR-188」

 「An-188」計画は、空中給油機能やウィングレット付き巨大な主翼、西側諸国製のコンポーネントを備え、4基のジェットエンジンを搭載した重量級の中型輸送機として、2015年のパリ航空ショーで初めて公表されました。[28] 

 「An-188」は、4基の「イウチェンコ・プロフレス」製「D-436」か(「An-178」にも搭載される)「AI-28」エンジン、もしくは西側向けのオプションとして4基の「CFMインターナショナル」製「LEAP」を搭載することができます。[28] 

 見落としてはいけないのは、この「An-188」が「C-130J-30」と「C-17」のギャップを埋めることを目的とした輸送機ということです。つまり、「エアバス」製「A400M」の直接的な競合機という立場にあるというわけです。

 「An-188」の広々とした貨物室には、装甲戦闘車(AFV)や無人航空機(UAV)、ヘリコプター、さらにはトルコが近く配備する無人水上艇(USV)を含む最大で40トンの貨物を搭載することができます(注:ただし、積載量は搭載するエンジンの種類に左右されます)。

 また、MEDEVAC仕様で展開した場合は2つのデッキに最大で300人または200人以上の負傷者を収容でき、兵員輸送仕様では130人以上の完全装備の空挺隊員を収容することも可能となっています。[29] 

 左右の主翼下に各1基ずつの空中給油ポッドを搭載した場合、同機は空中給油機としても活用できます。

 2018年5月、トルコとウクライナが「An-188」の共同生産について交渉中であることが公表されました。[28]

 この交渉は、両国が担当する作業の割り当てやライセンス契約、技術移転、他国への輸出の可能性を中心に展開されました。共同生産に関する契約を進めるために、トルコの当局者は、航空機をNATO加盟国の機体と互換性のあるものにする必要があると発言したと伝えられています。[28] 

 これはトルコ空軍が求める必要条件であることに加え、輸出市場における同機の競争力を大幅に向上させることにもなります。

 現在、トルコ空軍は10機の「A400M」と16機の「C-130B/E」輸送機の飛行隊を運用しています。同国の「C-130」はもともと1960年代に製造された機体であることから、この10年先の終わり頃には後継機が必要と見込まれています。

 同時に、トルコの航空路線はここ数年で劇的に拡大しており、今ではリビアやほかのアフリカ各地へ頻繁にフライトを行っています。「A400M」のさらなる導入が実現するか不透明であるため、「An-188」はトルコの「C-130」の後継機としてますます魅力的な選択肢となっています。

 同様に、ウクライナ空軍も老朽化した「Il-76」の後継機として「An-188」を採用し、少なくとも6機以上の機体を導入する契約を結ぶ可能性があります。

 「An-188」の見こみがある輸出先には、インドネシア、アンゴラ、リビア、ナイジェリア、フィリピン、ルーマニア、サウジアラビア、カザフスタン、ウズベキスタン、パキスタン、ペルーなどの諸国が含まれています。

 また、この大型輸送機は、世界中の多くの航空貨物運送事業者で用いられている「Il-76」の後継機として、商用機市場からの需要にも応えることもできるかもしれません。しかし、「An-188」に対する商用機市場からの関心は不確かなものであり、空軍が主要な顧客となる可能性が高いと思われます。




 トルコは国際政治における新興国であり、困難なプロジェクトを実現させてきた確かな実績があります。

 全世界的な製造業の拠点化を目指して、トルコの企業は進歩的な技術をもたらすための革新的な計画に着手しており、2022年には初の国産電車「TOGG」製の「国家電気自動車」シリーズ、さらには電気トラクターの量産を開始する予定となっています。[30] [31] [32]

 これらの成果に続いて旅客機や貨物機の設計・生産も行うというトルコの願望は、自らを全世界的な製造拠点へと移行していく上での論理的な次のステップと言えるでしょう。

 トルコとウクライナの技術協力は、相互利益と手付かずの機会を活用する可能性に基づいています。互いに必要とする技術や専門知識・ノウハウを有していることが、両国を公平な立場に立たせているのです。

 トルコは、「ウクライナとトルコのドローン」としてまもなくウクライナで生産が開始される「バイラクタルTB2」UCAVといった高度な兵器の信頼できる供給源です。[33]

 そして、トルコは「バイラクタル・アクンジュ」UCAVや将来型無人戦闘機「ミウス(無人航空戦闘システム)」の動力源に用いるため、ウクライナのエンジン製造会社から恩恵を受けています。

 両国の軍の将来的な需要に応え、願わくは世界中に輸出できるようにするため、トルコとウクライナは「An-132」、「An-178」、「An-188」の共同開発・生産・販売を通じて科学技術分野における協力をさらに拡大・深化させていくかもしれません。

 トルコの技術・ノウハウ・世界的な影響力と「アントノフ」社が有する既存の機体と経験を合わせることは、どちらの国も単独では成し得なかったことを達成する最高の組み合わせと成就する可能性を秘めています。

トルコ政府が今後の国産航空機事業において現実的なアプローチで実現を試みることは確実です。この事実は2017年に「TRジェット」計画が中止されたことで浮き彫りとなりました。

 「アントノフ」社の既存の機体を利用することで、設計作業の大半を省略できることは、トルコにそれらの生産ラインを設置する可能性があることと同様に高く評価されることは間違いないでしょう。

 「バイラクタルTB2」が技術的側面において、まもなく「ウクライナ・トルコのもの」になるように、「An-132」、「An-178」、「An-188」も同様の道を辿ることになるかもしれません(注:ウクライナで生産されるTB2には同国産のエンジンが搭載される予定です)。[33]

今でも残存する未完成の「An-225」2番機。トルコのエルドアン大統領は2020年10月にこれを完成させるアイデアを提起しています。[1]

[1] Sky Giant: Turkey Mulls To Complete The Second Antonov An-225 Mriya https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/sky-giant-turkey-mulls-to-complete.html
[2] Turkey, Ukraine advance An-188 co-production talks https://www.defensenews.com/global/europe/2018/07/27/turkey-ukraine-advance-an-188-co-production-talks/
[3] Ukraine: Aviation firm Antonov aims to work with Turkey https://www.aa.com.tr/en/economy/ukraine-aviation-firm-antonov-aims-to-work-with-turkey/1965437
[4] Ukraine, Turkey develop plans to join forces in Antonov aircraft production, - Kuleba https://112.international/society/ukraine-turkey-develop-plans-to-join-forces-in-antonov-aircraft-production-kuleba-66301.html
[5] The Market Leader: Turkey’s Indigenous Unmanned Surface Vessels (USVs) https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/the-market-leader-turkeys-indigenous.html
[6] Turkey to start manufacturing 1st indigenous electric train locomotive in 2022 https://www.aa.com.tr/en/economy/turkey-to-start-manufacturing-1st-indigenous-electric-train-locomotive-in-2022/2386599
[7] Cezeri Flying Car https://www.baykartech.com/en/fighting-car/
[8] https://twitter.com/officialptdi/status/1440521718888497159
[9] Turkey terminates local jet program worth billions https://www.defensenews.com/air/2017/10/27/turkey-terminates-local-jet-program-worth-billions/
[10] Taqnia An-132: the curious tale of Saudi Antonovs https://www.aerotime.aero/28590-Taqnia-An-132-the-curious-tale-of-Saudi-Antonovs
[11] ANALYSIS: How Iran's aerospace dream began and ended with the licence-built IrAn-140 https://www.flightglobal.com/analysis-how-irans-aerospace-dream-began-and-ended-with-the-licence-built-iran-140/115133.article
[12] Antonov An-132 Advances with First Flight and New Partner https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2017-05-23/antonov-132-advances-first-flight-and-new-partner
[13] An Unmanned Firefighter: The Bayraktar TB2 Joins The Call https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/an-unmanned-firefighter-bayraktar-tb2.html
[14] Turkey to buy 4 firefighting planes following summer wildfires https://www.hurriyetdailynews.com/turkey-to-buy-4-firefighting-planes-following-summer-wildfires-168605
[15] Pandora Papers: How A U.S. Law Firm Attemped To Sell A Defence Giant To China https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/pandora-papers-how-us-law-firm-attemped.html
[16] Post-Soviet wide-body Neverland. Part 2: Superjumbos https://www.aerotime.aero/26412-post-soviet-wide-body-neverland-part-2-superjumbos
[17] https://twitter.com/AlexLuck9/status/1469338085242519552
[18] Turkey terminates local jet program worth billions https://www.defensenews.com/air/2017/10/27/turkey-terminates-local-jet-program-worth-billions/
[19] AN-178 Medium transport aircraft https://www.antonov.com/en/file/hADqQn7lEwEJs?inline=1
[20] Innovations https://www.antonov.com/en/innovations
[21] Spetstechnoexport gives its version on Peruvian An-178 delays https://www.aviacionline.com/2021/12/spetstechnoexport-gives-its-version-on-peruvian-an-178-delays/
[22] Самолетостроение как разменная монета https://zn.ua/internal/samoletostroenie-kak-razmennaya-moneta-_.html
[23] An-70's uncertain future http://www.aeronautics.ru/news/news002/news094.htm
[24] Ан-70: строить нельзя закрыть программу http://www.kr-media.ru/upload/iblock/af8/af8695008c15e9482af9f980e150f60f.pdf
[25] Paris Air Show 2015: Antonov reveals An-188 strategic transport aircraft http://www.janes.com/article/52287/paris-air-show-2015-antonov-reveals-an-188-strategic-transport-aircraft
[26] Вице-премьер Уруский: "Воздушный старт" может стать для Украины национальной идеей https://interfax.com.ua/news/interview/675352.html
[27] An-70 military transport aircraft enters Ukrainian Armed Forces service https://www.kyivpost.com/article/content/war-against-ukraine/an-70-military-transport-aircraft-enters-ukrainian-armed-forces-service-377854.html
[28] Turkey, Ukraine negotiate industry participation in An-188 co-production https://www.defensenews.com/global/europe/2018/05/11/turkey-ukraine-negotiate-industry-participation-in-an-188-co-production/
[29] Antonov An-188 Military Transport Aircraft https://www.airforce-technology.com/projects/antonov-188-military-transport-aircraft/
[30] Turkey to start manufacturing 1st indigenous electric train locomotive in 2022 https://www.aa.com.tr/en/economy/turkey-to-start-manufacturing-1st-indigenous-electric-train-locomotive-in-2022/2386599
[31] Minister Varank: TOGG will start mass production at the end of 2022 https://www.bazaartimes.com/minister-varank-togg-will-start-mass-production-at-the-end-of-2022/
[32] Elektrikli traktör için ön siparişler alındı https://www.trthaber.com/haber/ekonomi/elektrikli-traktor-icin-on-siparisler-alindi-562507.html
[33] Ukraine deepens defence ties with Turkey amid standoff with Russia https://www.middleeasteye.net/news/turkey-deepens-defense-ties-ukraine-drone-trade

  ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
  があります。



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2022年2月28日月曜日

ウクライナ防衛戦に投入:「バイラクタルTB2」UCAVによって被害を受けたロシア軍の兵器・装備類(一覧)


著:ステイン・ミッツアー in collaboration with ケマル, ダンヤクブ・ヤノフスキ (翻訳:Tarao Goo)

  1. 当記事は、2022年2月27日に当ブログの本国版である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです(翻訳者は一覧の精査には関与していません)
  2. ここでは、ウクライナ軍の「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)によって撃破または無力化されたことが確認されたロシア軍の兵器・装備類の一覧を以下で見ることができます。
  3. この一覧は、写真や映像によって証明可能な撃破または鹵獲された兵器類だけを掲載しています。
  4. 場合によっては、地上で撮影された映像等のみで確認されたものも含まれています。これらのケースでは、武装したドローンに攻撃されたことが現地での目撃者によって報告されたことを根拠としています。
  5. おそらくTB2の運用に可能な限り関心が向かないようにするためか、ウクライナにおけるTB2の映像はほとんど公開されていません。したがって、実際にTB2によって撃破された装備の数が、ここに記録されているよりも多い可能性が高いと思われます。
  6. この一覧については、資料として使用可能な映像や動画等が追加され次第、更新されます。
  7. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、破壊や鹵獲された当該兵器類の画像を見ることができます。
  8. この一覧の最終更新日:9月6日午後10時55分(本国版は9月6日午前4時

戦車(4)

  • 2 T-72B3: (1) (2)
  • 1 形式不明のT-72: (1)
  • 1 形式不明の戦車: (1)


装甲戦闘車両(8)
  •  3 BMD-2 歩兵戦闘車: (1) (2) (3)
  •  2 MT-LB 汎用軽装甲牽引車(「ZU-23」対空機関砲搭載型): (1) (2)
  •  3 形式不明のAFV:  (1) (2) (3)
  • 1 R-149MA1 統合指揮通信車: (1)


牽引砲 (6)
  • 1 2B11/2S12A 120mm重迫撃砲 : (1)
  •  5 12A65「ムスタ-B」 152mm榴弾砲: (1) (2) (3) (4) (5)


自走砲(1)
  • 1 2S3「アカーツィヤ」152mm自走榴弾砲: (1)


多連装ロケット砲(2)
  • 1 2B17「トルナード-G」122mm MRL : (1)
  • 1 BM-27「ウラガン」220mm MRL: (1)


対空砲 (2)
  • 2 ZU-23 23mm対空機関砲 :  (1) (2)


地対空ミサイルシステム(15)
  • 1 9K35「ストレラ-10」: (1)
  • 1 9A310M1 TELAR (「ブーク-M1-2」用レーダー付き自走発射機): (1)
  • 1 9A39M1 TEL (「ブーク-M1-2」用自走発射機): (1)
  • 4 9A310M2 TELAR (「ブーク-M2」用レーダー付き自走発射機): (1) (2) (3) (4)
  •  1 9A39M2 TEL (「ブーク-M2」用自走発射機): (1) 
  •  4 9A331 TLAR(「9K331 "トールM1" 用レーダー付き自走発射機): (1) (2, スネーク島にて) (3 と 4) ※3と4はT-62M戦車の可能性あり
  •  2 9A332 TLAR(「9K332 "トールM2" 用レーダー付き自走発射機): (1) (2, スネーク島にて)
  •  1 96K6「パーンツィリ-S1」: (1)


ヘリコプター(10


艦艇 (6)


軍用物資補給列車(2)
  •  2 燃料タンク車牽引編成: (1) (2)


トラック、ジープ、その他車両 (29)
  • 1 GAZ-66: (1)
  •  4 カマズ製トラック「6x6」型: (1) (2) (3 と 4) (5)
  •  4 カマズ-6350「8x8」型(野砲牽引車): (1) (2) (3) (4)
  •  1 カマズ-5350(「EOV-3523」バックホー搭載型): (1)
  •  5 ウラル-4320: (1 と 2) (3) (4) (5)
  • 1 ウラル-4320( 「KS-3574M3」または「KS-3574M」クレーン搭載型): (1)
  • 1 ウラル-43206: (1)
  • 1 形式不明の車両: (1)
  •  2 形式不明のトラック: (1) (2)
  •  8 形式不明の補給トラック: (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7 と 8)


指揮車両 (3)


通信車両(1)
  • 1 形式不明の通信車両: (1)


その他 (5)

 
※私たちOryxが執筆した北朝鮮軍隊・兵器に関する本が2020年9月に発売されており、翌年の2021年9月に大日本絵画社様からも邦訳版がされ、現在好評発売中です。ぜひお買い求めください👇



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