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2024年2月12日月曜日

忘れ去られた原点:トルコの 「ジェマル・トゥラル」装甲兵員輸送車

撮影:アルペル・アカクラタ氏

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ  in collaboration with アルペル・アカクラタ(編訳:Tarao Goo)

 近年のトルコの兵器産業は、さまざまな種類の装輪式や装軌式のAPC(装甲兵員輸送車)を国内外の顧客に売り込んでおり、その多くに遠隔操作式銃架(RWS)や電気式・ハイブリッド式を取り入れた駆動系などが備えられています。

 トルコ産のAPCがジョージア、バーレーン、フィリピン、オマーン、UAE、マレーシアで商業的成功を収めているのは、その高度な機能と実証済みの品質のおかげであることに疑う余地はありません。

 以前、私たちはこのブログでトルコ初(文字どおり国産)のAPCであり、ジョージアに採用された「ヌロル・マキナ」社「エジデル 6x6」を紹介しました。この「エジデル 6x6」自体は立派なAPCですが、厳密に言うと実際にはトルコで誕生した最初のAPCではありません。

 1960年代、トルコは少数の「M24 "チャーフィー"」軽戦車をAPCに改造することに着手しました。

 結果として完成した車両はその設計を命じたジェマル・トゥラル少将(後に大将に昇進)にちなんで命名され、「ジェネラル・ジェマル・トゥラル」APCと呼ばれました。数年以上にわたって運用されたとは考えにくい短命な運用歴の結果として、このAPCはトルコ国外ではほとんど知られていません。

 その捉えどころのなさはさておき、このAPCは何もせずにいれば単に旧式化していたであろう戦車を有益な新しい別種のAFVに転換するという興味深い試みそのものでしょう。

 トルコ軍は1950年代前半にアメリカから約250台の「M24 "チャーフィー"」軽戦車を購入したと伝えられています。[1]

 いくつかの国はさらに数十年にわたって現役の戦車として運用し続けましたが、トルコへのアメリカ製AFVの安定供給は「M24」を徐々に減らして長期保管状態にさせ、「M48 "パットン"」といった(少なくとも当時としては)最新の主力戦車に置き換えていくことを可能にさせました。

 その後、余剰となった一部の「M24」をAPCに転用することが決定されました。

 1960年代のトルコは大量のアメリカ製「M59」APCを運用しており、さらに多くの後継車両である「M113」APCの引き渡しさえも受けている過程にありました。[2]

 「第3のAPC」を導入するという決定は不思議に感じますが、より多くのAPCの確保という実際の運用上からの必要性があったというよりは、むしろ国産AFVの設計に関する経験を積む機会という動機づけられたのかもしれません。

 ちなみに、ノルウェーとチリによってアップグレードされた「M24」は1990年代まで現役を続け、ウルグアイはなんと2019年に最後の「M24」を退役させたばかりなのです! [3]

 APCに改造するために、「M24」から砲塔とその内部にある75mm砲が撤去され、車体後部に装甲キャビンが追加されました。結果として設けられた兵員用区画は、10人の兵員と2人の乗員の合計で12人が乗車するには十分な大きさだったと云われています。

 追加された箱型の装甲キャビンには、前方に「M2HB」12.7mm重機関銃をピントルマウントに装備した機関銃手用の席、そして後部に2つのハッチが設けられており、歩兵はそこから(1つか2つのハッチを通じて)降車する仕組みとなっていました。

 これらの改造によって本来の性能がどの程度変化したのかは不明ですが、M24本来の航続距離160km、速度56km/hについては、軽量化のおかげで向上したか、そうでなくとも維持されたと思われます。

 副武装として「M24」戦車時代から車体前方に装備されていた「M1919」7.62mm機関銃1丁はそのまま残されていたことから、「M2HB」重機関銃1門しかを装備していなかった「M113」よりも「ジェマル・トゥラル」の方が実は武装面で優れていたことになります。

 新たにサイドスカートや泥よけが装備されたことは、このAPCが本格的なAFVを製造するための真剣な取り組みでなかったとしても、それに劣らない設計がなされていたことを示しています。

 残念ながら、「ジェラル・トゥマル」APCの運用歴は極めて短いものであり、すでに70年代初頭には退役しています。もちろん、たくさんの使える「M113」があるので、この判断はむしろ当然なものでした。なぜならば、複数の同カテゴリーのAFVを同時に運用した場合、兵站、保守、運用が複雑になってしまうからです。

 幸いなことに、スクラップ処分から逃れた1台の「ジェラル・トゥマル」APCは今でもアンカラ近郊のエティメスグット戦車博物館に保存されています。


 このAPCの名前の由来となったジェマル・トゥラル少将は、1966年から1969年までトルコ軍の司令官を務めました。トルコ軍における機械化用兵の偉大な提唱者とも云われるジェラル・トゥマル少将は、トルコでのAFVの生産や改修に個人的な関心を寄せていたに違いありません。[4]

 トゥラル氏は政治でのキャリアを試みる前の1969年に退官しました。その後、1976年に駐韓国大使、1981年に駐パキスタン大使を務め、同年にイスタンブールでこの世を去りました。

複数の「M113」の前で行進している「ジェラル・トゥマル」APC。さらに後方の「M48 "パットン"」戦車と集合住宅に掲げられたムスタファ・ケマル・アタテュルクの肖像画にも注目。

 前述のとおり、1台の「ジェラル・トゥマル」APCがアンカラ近郊のエティメスグット戦車博物館で生き残っています。ここでは、訪問者にこれまでに大いに見落とされてきた過去に試みられたトルコの防衛プロジェクトを思い出させてくれますが、それらは今や非常に成功を収めているトルコの防衛産業が誕生する先駆けとなる存在でもあることを見落としてはならないでしょう。

 トルコのAPCやほかのAFVの設計がようやく軌道に乗るまでに、そこから数十年を要したことは周知のとおりです。これらのAFVは今やトルコのみならず多数の外国で運用されており、ジェマル・トゥラル氏が残念ながら夢にも思わなかったであろうキャリアを歩み始めています。

バーレーン陸軍で運用されているトルコの「オトカ」社製「アルマ 6x6」APC

[1] Based on data obtained by Alper Akkurt.
[2] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[3] M24 Chaffee in Uruguayan service https://tanks-encyclopedia.com/m24ur/
[4] Turkish APC based on the M24 tank https://www.secretprojects.co.uk/threads/turkish-apc-based-on-the-m24-tank.4591/

この記事の作成にあたり、 Arda Mevlutoglu氏と Secret Projects氏に感謝を申し上げます。

2024年2月8日木曜日

限られた予算内での近代化:ブルガリアによる兵器調達計画の概要


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 気がつくと、ブルガリアは自身が欧州連合加盟国内の最貧国として、厳しい経済状況に置かれていることに気づきました。

 この経済的苦境は、ブルガリアの軍を近代化する取り組みに多大な影響を及ぼしています。不足した予算がこの国の軍事力を現代(NATO)の水準に引き上げようとする試みを妨げており、その結果として、保有する兵器が1980年代のブルガリア軍と酷似したものとなっているのです。

 ディミタール・ストヤノフ元国防相によると、軍の近代化が遅れた結果、軍隊を現代的な水準に引き上げるために必要な予算の規模は、現時点で国内総生産(GDP)の約3~4%にまで達しています。[1]

 今のところ、そのような予算やリソースを国防分野に割り当てることが非現実的に思えますが、今後数年間でブルガリア軍はついに多くの新兵器システムを迎え入れる予定です。最も注目すべきものとしては、空軍は老朽化した「MiG-29」戦闘機と「Su-25」対地攻撃機の後継として16機の「F-16V ブロック70戦」闘機を受領し、海軍はドイツから2隻の「MMPV 90」級コルベットが引き渡されることが挙げられます。

 2023年、陸軍は4,000万ユーロ(約62億円)を上回る額の契約で国営企業のTEREMとイスラエルのエルビット社によって改修された44台の「T-72M/M1」戦車を受けとりました。[2]

 ブルガリア軍は、新たに導入するF-16の能力をさらに向上させるための対空捜索レーダーを含む、数多くの装備の調達事業を最優先事項としています。さらに、国防省は180台以上の「ストライカー」装甲兵員輸送車及び歩兵戦闘車、155mm自走砲、新型地対空ミサイルシステムの導入しようとしています。これらの購入資金については、最長で15年にわたる分割払いによって調達される予定です。[3]

 また、ブルガリアはトルコの「バイラクタルTB2」及び「アクンジュ」無人戦闘航空機の導入に関心を示していますが、これは現在の無人機戦力の不足を是正することを目的としています。

  1. 以下に列挙した一覧は、ブルガリア陸空軍によって調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステム、小火器、指揮車両、トラック、レーダー、弾薬は掲載されていません。
  3. 「将来的な数量」は、すでに運用されている同種装備と将来に調達される装備の両方を含めたものを示しています。
  4. この一覧は新しい兵器類の調達が報じられた場合に更新される予定です。


陸軍 - Sukhopŭtni Voĭski Na Bŭlgariya

歩兵戦闘車

特殊車両
  • 155mm自走砲の導入計画


空軍 - Voennovazdushni Sili

戦闘機

無人戦闘航空機

防空システム
  • 中・長距離地対空ミサイルシステムの導入計画


海軍 - Voennomorski Sili Na Republika Balgariya

フリゲート (将来的な数量: 2 または 3)
  • 2 または 3 「ウィーリンゲン」級フリゲートの近代化改修(新型兵装及び戦闘システムの搭載を含む)[2020年代半ばから後半の間に着手]

コルベット (将来的な数量: 2)

潜水艦 (将来的な数量: 2)
  • 2 中古潜水艦の導入計画 (2011年に最後の「プロジェクト633 "ロメオ"」級潜水艦が退役した後、空白となったブルガリアの潜水艦戦力を復活させるため))

沿岸防衛ミサイルシステム
  • 新型沿岸防衛ミサイルシステムの導入計画 (「4K51 "ルベージュ"」を更新するもの)


[1] The modernization of the Bulgarian army requires 3-4% of country's GDP https://bnr.bg/en/post/101783524/the-modernization-of-the-bulgarian-army-requires-3-4-of-country-s-gdp
[2] Bulgarian T-72 upgrade expected to be completed in 2023 https://www.janes.com/defence-news/news-detail/bulgarian-t-72-upgrade-expected-to-be-completed-in-2023
[3] Modernization program of the Bulgarian army is not financially secure: Defence Minister https://bnr.bg/en/post/101775374/modernization-program-of-the-bulgarian-army-is-not-financially-secure-defence-minister
[4]https://www.navalnews.com/naval-news/2023/08/bulgarias-first-modern-corvette-launched-by-local-shipyard/

※  当記事は、2023年8月14日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。


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2024年2月3日土曜日

赤い龍を抑止せよ:近年における台湾の兵器調達リスト


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 2023年の総予算が190億ドル(約2兆7千億円)である台湾は、拡大し続ける中国の軍事力のペースに追いつかなければならないという困難な課題に直面しています。そのため、台湾は空軍と海軍への投資を優先するとの戦略的決定を下しました。この決定は、両軍種がこの島国の防衛において果たす重要な役割について十分に認識されていることの証しです。

 陸軍は中国軍が自国領土に上陸した後にのみ交戦する方針を採用しているため、台湾軍の最大目的は、まずは中国の上陸作戦を抑止するための強固な抑止力を確立することにあります。

 台湾は中国に対する抑止力の構築に取り組んでいますが、小型潜水艦や高速攻撃艇(FAC)、そして沿岸防衛ミサイルシステム(CDS)の追加よりも、ドック型輸送揚陸艦(LPD)や外洋行動能力を持つ攻撃型潜水艦などの大型艦艇を優先する調達戦略を追求しているとして、絶え間ない批判にさらされています。

 台湾の安全保障における最大の脅威は中国による着上陸侵攻であると多くの人が認識しているものの、台北は中国が海上封鎖によって台湾を包囲して孤立させるという予定された戦略を実行する可能性を懸念しているのが実情です。

 戦時に台湾との連絡線を確保するためのアメリカ海軍の役割がこの島国に有利をもたらす主張もありますが、アメリカが1970年に南ベトナムを放棄したり、2011年のイラクに続いて最近ではアフガニスタンからも撤退した事例を考慮すると、台湾はアメリカ軍との協力に警戒感を持って接することになるかもしれません。

 これに加えて、両国が緊密な同盟関係にあるにもかかわらず、台湾はアメリカから兵器を制限なく調達することが認められていません。海外から兵器を調達する選択肢が限られていることから、台湾は兵器システムの大部分を独自開発することを選択し続けています(注:ただし、アメリカを含む国の防衛企業と提携する場合も散見されます)。

 しかしながら、台湾軍の即応性については大きな懸念が漂っています。最近、台湾は自国の全面戦争への備えが比較的不十分であることを認識しました。これらの問題に対処するため、台北はロシアによるウクライナ侵攻から学んだいくつかの教訓を実行に移し始めました。一例として、十分な数の弾薬を備蓄することの重要性が挙げられます。

 中国の急速な軍拡によって台湾の防衛上の利点の多くが損なわれているため、こうした教訓は極めて重要なものとなっています。これらの問題に対処することは、進化する脅威に直面する台湾が安全保障を維持するために極めて重要であることは言うまでもありません。

  1. 以下に列挙した一覧は、台湾陸空軍及び海巡署によって調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステムや排水量が100トン以下の艦艇などは掲載されていません。
  3. この一覧は新しい兵器類の調達が報じられた場合に更新される予定です
  4. 台湾軍の(現用)軍用車両や重火器の一覧はこちらで閲覧することができます。


中華民国陸軍

戦車
  • 108 M1A2T [納入中]
  • 460 M60A3の改修(新型エンジン及び射撃統制システムの装備)[2020年代後半に完了]
  • 450 CM-11の改修 (新型エンジン及び射撃統制システムの装備)[2020年代後半か2030年代前半に着手]

装甲戦闘車両

火砲

防空システム

徘徊兵器

兵器システム


中華民国空軍

戦闘機

高等訓練機 / 軽戦闘攻撃機

無人戦闘航空機

防空システム

兵器システム


中華民国海軍

強襲揚陸艦

ドック型輸送揚陸艦

水上艦艇

潜水艦

掃海艦

その他の艦艇

無人(戦闘)航空機

兵器システム


海巡署

巡防救難艦(ミサイルコルベット)

巡防救難艦
  • 2 「嘉義」級巡防救難艦 [2023年と 2024年に引き渡し] (2021年と2022年に就役した同型艦2隻を補完するもの)
  • 5 1,000トン級巡防救難艦 [2022年から2024年にかけて引き渡し] (2022年に就役した同型艦1隻を補完するもの)
  • 6 3,000トン級 外洋巡防救難艦 [2026年から2032年にかけて引き渡し]

航空機
  • 6-12 洋上監視機 [案]

ヘリコプター
  • 8 捜索救助及び環境監視用ヘリコプター [案]

特別協力:Taepodong

当記事は、2023年8月8日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。


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