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2023年7月1日土曜日

複雑な内戦の象徴:リビア内戦の両陣営で使われている謎の多連装ロケット砲


※  当記事は、2021年12月14日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。


著: ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ (編訳:Tarao Goo)

 2020年6月初旬、リビアの国民合意政府(GNA)に忠実な部隊が戦略上重要な都市であるタルフーナを占領し、リビア国民軍(LNA)が首都トリポリの攻略を目指して約14か月も展開してきた攻勢が正式に終了したことを世に知らしめました。[1]

 市内に散乱していた戦利品を取捨選択する過程で、GNAはこの時点で全く知られていなかった多くの多連装ロケット砲(MRL)に遭遇しました(下の画像)。

 タルフーナはリビア西部におけるLNAの大規模な補給地として機能しており、彼らがアラブ首長国連邦(UAE)からかなりの軍事支援を受けていたため、この地でも両者のつながりを簡単に構築することができました。それゆえに、謎のMRLについても起源を容易に特定することができたのです。[2]

 MRLのロケット弾ポッド自体は容易に特定することができました。それらはトルコのロケットサン社がUAEに納入した、巨大な「ジョバリア防衛システム(重多連装ロケット砲)」に搭載されているものと同じロケット弾ポッドだったからです。

 ただし、トラックとロケット弾ポッドを搭載する架台を特定することは、北朝鮮によるUAEへの武器輸出に関する予備知識がない限りは困難を極めます。実際、この架台については、1989年にUAEが購入した北朝鮮製240mm MRL「M-1989」で使用されていたものであることが容易に特定できました。[3]

 また、ロケット弾の発射機構を搭載していたトラックも注目に値するものでした。なぜならば、それは(「ACP90」とも呼ばれる)イタリアの「イヴェコ260/330.3」の装甲が強化された派生型だったからです。このトラックは北朝鮮で運用されていませんが、この事実は長くにわたって重火器を搭載するための適切な大型トラック産業を欠いていた同国が、外国から輸入した車両を活用することで(需要に)しばしば間に合わせていたことを意味します。

 このケースでは北朝鮮は専用のトラックを納入しなかったようであり、おそらくはUAE自身でMRLを搭載するのに適したプラットフォームの(それ専用に)改修を支援したものと考えられます。


 北朝鮮がどの程度のMRLをUAEに引き渡したのか、同様にUAEがそれをLNAに供与したのかが不明であることから、今でもUAE軍に多くの北朝鮮製MRLが存在する可能性があることは確実でしょう。

 しかし、今や北朝鮮の独特な240mmロケット弾をアメリカからの制裁を受けることなく入手できなくなったことは、おそらくUAEがどこかの時点で彼らから導入した全てのMRLをトルコ製122mmロケット弾を発射できるように改修し、その後にいくつかがリビアに輸送されてLNAで使用された可能性が高いことを意味しています。

 少なくとも2基のMRLは数個のロケット弾ポッドと一緒に、新しい所有者:LNAによってタルフーナで放棄されました。

LNAによって遺棄されたロケットサン社製122mmロケット弾ポッド(タルフーナにて)

 240mm MRLは北朝鮮で大量に導入され、後にイラン、ミャンマー、アンゴラへの輸出でも商業的な成功を収めました。

 北朝鮮に導入された時点では、これが既存のMRLの中で最も射程距離が長い重MRLであり、90kgの弾頭を最大で43km離れた目標に向けて発射することが可能でした。

 UAEが導入した派生型では、トラックは12本の発射管を備えています。つまり、4台のトラックからは目標に対して48発のロケット弾の集中砲火を浴びせることができることを意味しています。

UAE軍の演習でロケット弾を発射する北朝鮮製240mm MRL

 前述のとおり。素晴らしい能力があるにもかかわらず、UAEにおけるこのユニークな大口径MRLのキャリアが極めて短いものだったことが判明しています。

 UAEが同時期に調達した170mm自走砲「M-1989 "コクサン(または主体砲)"」と同様に、240mm MRLはすでに1990年代後半から2000年代前半の間に現役を退いて保管状態に入り、おそらく現在もUAEのどこかの倉庫で生き残っているものと思われます。[4]

 彼らの退役はUAEにおける大口径MRLの運用が(当面は)終了したことを意味していますが、それでもなお、ロケット弾で標的に徹底的な集中砲火を浴びせるという概念はUAE軍首脳部の心を響かせたことには違いありません。同国の新たなMRL戦力を導入する試みでは、トルコのロケットサン社と共同で世界最大のMRLシステムを設計することになりました。

 「ジョバリア重多連装ロケット砲」として知られているこのシステムは基本的に20発の122mmロケット弾入りロケット弾ポッドを12個を装備したものであり、合計で240発(300mmロケット弾の場合は16発)の122mmロケット弾を搭載する、搭載可能弾数の面では世界最大のMRLです(注:107mmまたは300mmロケット弾ポッドも搭載可能)。

 (状況証拠から察するに)UAEが調達したロケット弾ポッドの数は「ジョバリア」で使用するために必要な数をはるかに上回っていたことは間違いなく、それらが最終的に北朝鮮製MRLの再武装に使われたと推測できます。[5]
 UAEが供与したMRLがリビアにどの程度残っているかは不明ですが、依然として使用されっていることだけは確実です。なぜならば、タルフーナで少なくとも2基のMRLがGNA部隊に鹵獲された約1年半後にそのうちの1基がGNAの首都であるトリポリの近郊で再び目撃されたからです(下の画像)。[6]

 そこではトルコから供与された「T-122 "サカリヤ" 」MRL用のロケット弾ポッドを搭載して運用され続けていますが、皮肉なことに、「T-122」にはUAEのMRLを再武装させたロケットサン社製の同じ122mmロケット弾ポッドが使用されています(注:「ジョバリア」と「T-122」のロケット弾ポッドが共通しているということ)。[7]

 同型のロケット弾ポットがさまざまな経路を経て内戦の両陣営で使用されることになったという事実は、現代の地政学が気まぐれな性格を持っていることを証明しています(注: LNA側は「UAEが北朝鮮から調達したMRLにトルコ製ロケット弾ポッドを搭載、その後に供与されたものを使用」、GNA側は「LNAから鹵獲したものにトルコから供与されたロケット弾ポッドを使用」)

トリポリ近郊で目撃された北朝鮮MRL(「T-122」用ロケット弾ポッド搭載型)

 トルコ製のロケット弾ポッドを搭載した北朝鮮のMRLがリビアへ送られ、トルコが支援する部隊に対して使用されたという実に奇妙な話はこれで終わりです。

 しばらく外交的に対立関係にあったトルコとUAEは数十年にわたる文化・軍事・経済的な協力を継続し、関係の正常化と回復を図ろうとしているため、将来的にトルコ製兵器が北朝鮮製MRLの運用者に使用されることは起こりえないでしょう。

 2021年11月下旬、トルコのエルドアン大統領とUAEの事実上の統治者であるアブダビ首長国のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン皇太子がアンカラで会談し、両国は技術やエネルギー分野などへの数十億ドルの投資に関する協力覚書に調印しました。[8]

 おそらく遠くない将来にトルコの兵器産業は再びUAEの重要なサプライヤーとなり、UAEの北朝鮮製MRLのケースと同様に高度な兵器類を提供するようになるでしょう。



[1] Disaster at Tarhuna: When Haftar Lost Another Stronghold In Crushing Defeat To The GNA https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/disaster-at-tarhuna-how-haftar-blew-yet.html
[2] Tracking Arms Transfers By The UAE, Russia, Jordan And Egypt To The Libyan National Army Since 2014 https://www.oryxspioenkop.com/2020/06/types-of-arms-and-equipment-supplied-to.html
[3] Inconvenient arms: North Korean weapons in the Middle East https://www.oryxspioenkop.com/2020/11/inconvenient-arms-north-korean-weapons.html
[4] Inconvenient arms: North Korean weapons in the Middle East https://www.oryxspioenkop.com/2020/11/inconvenient-arms-north-korean-weapons.html
[5] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[6] https://twitter.com/Oded121351/status/1427514232749404180
[7] https://twitter.com/Oded121351/status/1333049882299539460
[8] Turkey, UAE sign investment accords worth billions of dollars https://www.reuters.com/world/middle-east/turkey-hopes-uae-investment-deals-during-ankara-talks-2021-11-24/





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2022年5月3日火曜日

無人機による航空阻止:リビアにおける「バイラクタルTB2」UCAV



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争において、アゼルバイジャンがアルメニアに勝利するために極めて重要な役割を果たしたことでよく知られています。

  歴史上、1つの兵器システムだけで勝利した戦争はありませんでしたが、TB2なしでアゼルバイジャンがめざましい勝利を得ることができなかっただろうことに疑う余地はないでしょう。

 あまり知られていないのは、2019年から2020年にかけて国際的に承認されたリビア政府(GNA)を救い、UAEやエジプト、そしてロシアから多大なる支援を受けた「リビア国民軍(LNA)」のハリーファ・ハフタル将軍による敵対的な乗っ取りを阻止したTB2の功績です。[1]

 リビアにおけるTB2の取り組みが認知に欠けているのは、特にシリアやナゴルノ・カラバフでの空爆の映像が公開された数と比べた場合に、少しもTB2による空爆の模様が公開されていないことに原因があると思われます。

 もう1つの要因としては、メディアが6年以上続いたこの内戦にほとんど注目しなかったことも挙げられるでしょう。

 とはいえ、「バイラクタルTB2」は、UAEとロシアがリビアに配備したロシア製防空システム「パーンツィリS-1」のかなりの数を撃破したことで知名度を上げました。伝えられるところによれば、「パーンツィリS-1」は少なくとも15台がTB2によって撃破され、そのうち9台は72時間以内に喪失したとのことです。現時点で、報じられている15台の損失のうち9台は視覚的な証拠によって確認できています。[2] 

 LNAの作戦機もTB2の空爆を受ける側となり、リビア西部と中部の空軍基地に駐機していた貨物機と戦闘爆撃機がそれぞれ3機ずつ破壊されました。その結果として、前述の空軍基地から実施されるLNAの継続的な航空作戦は著しく危険なものとなり、主要なアル・ワティーヤ空軍基地での活動さえも停止に追い込まれてしまいました。[3] 

 事実上、アル・ワティーヤは2019年の夏から「バイラクタルTB2」によってロックダウンされていたのです。

 貨物機が地上で積載物を降ろすことが危険となったことは、最終的にLNAに物資のほとんどを陸路での輸送を余儀なくさせ、トリポリの部隊に物資を供給し続けることが極めて困難なものとなってしまいました。

 

 LNAにとってさらに悪いことに、「バイラクタルTB2」がリビア西部を通ってトリポリに向かう補給部隊の車列に放たれ、「パーンツィリS-1」に護衛されていても、彼らが頭上を飛ぶTB2の格好の餌食になったことが実証されました。

 実際、単に「パーンツィリS-1」が存在するだけで補給部隊が標的となる可能性が高まったように思われます。この防空システムは頭上の敵機(TB2)と交戦することは不可能同然であることに加え、GNAにその位置を特定するのに十分な通信・電波信号の情報をもたらしたからです。 

 ほかのケースでは、移動中に補給部隊の車列を護衛していた兵士がセルフィーしていたこともありましたが、これも作戦上の安全性に有益だったはずがなかったことは言うまでもないでしょう。[4]

 地上では、トルコはトリポリのGNA部隊を再編して同市の郊外を効果的に防衛できるようにし、最終的にはLNAに戦いを仕掛けることを可能にしました。

 UAEができなかったことですが、トルコは単に武器や装備を提供するだけでなく現地部隊の訓練も開始しました。この方法はかなりの効果をもたらし、今では対戦車ミサイル(ATGM)や対物ライフルで武装し、支援射撃や無人機の支援を受けたGNA軍は、今や通り道を敢然とLNAのキルゾーンに変えることができるようになりました。

 ハリーファ・ハフタル将軍たちが実際に敗北を喫したのは2020年6月でしたが、2019年5月にトルコの最初の支援が到着した時点で彼の運命が決したと言えます。

2020年7月、アル・ジュフラ空軍基地上空で「バイラクタルTB2」から投下された「MAM」誘導爆弾の直撃を受けた2機の「IL-76」貨物機の残骸。

 TB2によるドローン攻撃は、2019年から2020年半ばまで、LNA軍に大きな被害を加え続けました。

 同期間に、トルコ海軍の「G」級フリゲートもリビア領海内に展開していました。「G」級フリゲートが装備している「SM-1MR」艦対空ミサイルの射程距離の長さは、「ACV-30 "コルクート "」35mm自走対空砲(SPAAG)の配備と同様に、地上のGNA部隊にさらなる「防空の傘」を提供しました。

 「バイラクタルTB2」は対空砲が届かない高さを飛行するだけでこのような兵器からの攻撃を避けることができますが、「翼竜II」といった中国製UCAVはTB2よりもはるかに低い高度で運用されています(注:実用最大高度が低いためにトルコが配備した防空システムの有効射程から逃れられないということ)。

 「MIM-23 "ホーク "」SAM部隊と「GDF-003B」35mm 高射機関砲の配備と相まって、リビア西部における  UAEによる「翼竜Ⅰ」及び「翼竜Ⅱ」ドローンの運用が効果的に封じ込められました。

 2020年4月末頃にGNAがLNAをトリポリ直近から押し返すことに成功したことで、リビア西部からの混乱した撤退をもたらし、トリポリを占領して自称リビア大統領に就任するというハフタル将軍の長年の夢が絶たれたのです。

  それからまもなくして、 GNA軍は5月18日にアル・ワティーヤ基地を占領しました。[3]

 1か月も経たないうちの2020年6月5日、戦略的要衝に位置する(LNAの巨大な補給基地として機能していた)タルフーナの都市が占領され、リビア国民軍(LNA)が首都トリポリの攻略を目指して約14カ月も展開してきた攻勢が正式に終了したことを世に知らしめました。[5]

 1年足らずで「バイラクタルTB2」はLNA軍を追い出した一方で14機が撃墜されましたが、厳しい戦局を変えるにしては小さな代償で済んだと言えます。

 トルコにとって非常に効果的なドローンの使用は、全く新しい外交政策である「バイラクタル外交」を形づくるために、彼らの増大する外交発言力をさらに押し上げています。

 低い経済的・人道的なコストで政治的・軍事的な影響の最大化を追求した、規模が小さい介入を基本とする「バイラクタル外交」は、本質的に現代の紛争の特徴に比類なく適した新しいタイプの戦い方を構成しています。 

 それを担う無人機(TB2)は比較的安価なものですが、「バイラクタル外交」は実際には国家の運命を決めたと言えるほど効果的なものでした。なぜならば、「バイラクタルTB2」がなければ GNAはリビアで全滅していた可能性が十分にあり得たからです(注:仮にバイラクタル外交がリビアやナゴルノ・カラバフのように国家の運命を左右したとしても、この外交で使われるTB2は安価で発展性がある無人機であり、決して驚異的な武器ではありません)。



  1. リビアで「バイラクタルTB2」の手で破壊されたことが確認された目標の一覧は、以下のとおりです。
  2. このリストには、画像または動画による視覚的証拠で確認された、破壊された車両及び装備だけが掲載されています。
  3. 場合によっては、地上で撮影された映像だけで判定されている兵器類も掲載されています。 ただし、それらは武装ドローンの使用が現地の目撃者によって報告されているため、無根拠なものではありません。
  4. おそらく、その運用にできる限り注目されないようにするためか、TB2がリビアを空爆した映像は今までにほとんど公開されていません。
  5. したがって、TB2によって破壊された兵器などの数は、ここに記録されているよりもかなり多いと予想されます。
  6. この一覧は、より多くの映像等が入手可能になり次第、更新されます。
  7. 各装備名に続く数字をクリックすると、それぞれの破壊された車両や装備の画像が表示されます。
上の国籍マークが以下の一覧に示された破壊された兵器の運用主体です

                 
戦車(1)


装甲戦闘車両 (2)
  • 1 「アル・マレード」装甲兵員輸送車: (1)
  • 1 MSPV「パンテーラT6」 装甲兵員輸送車: (1)


多連装ロケット砲:MRL (6)


地対空ミサイルシステム (11)
  • 2 「2K12/SA-6 "クーブ "」: (1) (2)
  • 1 「パーンツィリ-S1」: (1)
  • 7 「パーンツィリ-S1」: (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)
  • 1 「パーンツィリ-S1」: (1)


航空機 (6)


各種車両 (44)

[1] Tracking Arms Transfers By The UAE, Russia, Jordan And Egypt To The Libyan National Army Since 2014 https://www.oryxspioenkop.com/2020/06/types-of-arms-and-equipment-supplied-to.html
[2] https://twitter.com/Archer83Able/status/1263253266416230400
[3] Al-Watiya - From A Libyan Super Base To Turkish Air Base https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/al-watiya-airbase-capture.html
[4] https://twitter.com/Acemal71/status/1261714776612356096
[5] Disaster at Tarhuna: When Haftar Lost Another Stronghold In Crushing Defeat To The GNA https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/disaster-at-tarhuna-how-haftar-blew-yet.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



2022年1月1日土曜日

【独占・長編記事】リビア国民軍への違法な武器移転に関する追跡調査(2014~)



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

※LNA(リビア国民軍)に供与された武器や装備類を包括的にまとめた一覧は、この記事の下の方にあります

 2014年にリビアで内戦が再開されて以来、ゆっくりと燃え上がる中で時には驚くほど激しい展開を見せる紛争は、この国の将来を不確かなものにしています。なぜならば、この内戦では複数の陣営が主導権を争い、国際的な支援者は好ましい結果を得るために多額の資金を投じることを躊躇していないからです。

(2011年2月から課している)国連による武器禁輸措置は双方が武器や装備の入手を阻止することを目的としていますが、外国の支援者によって露骨かつ一貫して無視されてきました。

 最近(注:2020年3月)公表された国連安全保障理事会の専門家パネルによる報告書は、禁輸措置が発動されてからの違反行為を記録化することを目的としており、主に航空機による武器・装備の国際的な輸送の分析に焦点を当てています。[1]

 結果として得られた資料は入念かつ詳細に記されていますが、この調査手法の欠点の証しにもなっています。全体的に十分な画像分析がなされていないため、無数の兵器システムや弾薬の引き渡しを記録できず、ほかのものを誤認しているなどのミスが散見されるものとなってしまいました。したがって、その結論はUAE、ロシア、ヨルダン、そしてエジプトなどの常習犯を完全に無視して、地域の外国勢力としてトルコを犠牲にするという、ひどく的外れなものでした。

 当記事は、その内容に反論することではなく(ただし、簡潔な反論はこちらにあります)、前述の当事者による2014年以降のLNA(リビア国民軍)への武器移転の実際の包括的な概要を提示することによって、国連安保理の報告書の対比資料として機能することを目的としています。

 この紛争の背景を考えてみることは読者に当記事を読み進めるうえでの見識をもたらすでしょうから、最近の展開を取り上げる前にこの内戦の経緯から説明していきます。

 (投票率が僅か18%だった)2014年のリビア議会選挙の結果に続いた政治的な内紛の後、リビアは事実上、2つの陣営に分断されてしまいました。[2]

 リビア東部では、トブルクに代議院(HoR)が設置され、HoRに忠実であるリビア国民軍(LNA)の司令官としてハリーファ・ハフタル将軍が任命されました。後にLNAは、UAE、ロシア、ヨルダン、エジプト(そして度合いは低いがフランス)から大幅な軍事的支援を受けることになりました。

 一方のリビア西部では、国民議会のメンバーが首都トリポリで独自の政府を樹立し、後に「国民救済政府」と知られるようになりました。一般的に「リビアの夜明け」と呼ばれる国民救済政府は、最終的に2016年1月に設立された国民統一政府(GNA)に政権を譲渡し、2016年3月にトリポリで正式に発足しました。

 国連が承認したファイズ・アル・シラージュ首相率いるGNAがリビアの新たな統治機関として機能することになっていましたが、HoRは2017年3月にGNAの承認を撤回し、GNAを打倒して自らがリビア唯一の合法的な政府を樹立することを宣言しました。[3]

 LNAとは異なり、「リビアの夜明け」と後のGNAは2019年の夏にGNAのためにトルコが軍事介入するまで、世界中からの政治的な支援だけでやりくりしなければなりませんでした。

 リビアが2つの敵対する陣営に別れた直後から、UAEとエジプト、そしてヨルダンは、LNAに大量の兵器類、車両、さらにはいくらかの航空機の供給さえも密かに開始しました。また、LNAのためにUAEが運用する中国製「翼竜」無人戦闘航空機(UCAV)を含む、より高度な装備も秘密裏にリビア国内に運び込まれ始めました。

 この目的のために、リビア東部のアル・カディム空軍基地は大規模な整備と改装が行われ、新しい航空機用シェルターと駐機場、弾薬庫、兵舎を得るだけでなく、MIM-23「ホーク」地対空ミサイル(SAM)の配備による「防空の傘」の恩恵を受けました。

 それにもかかわらず、有能な地上部隊を実際に訓練すのではなくLNAに大量の装備を与えるというこの戦略は、現場ではほとんど成果を上げていません。

 2019年までどこの国からもいかなる本格的な軍事支援を受けていなかったGNAに圧力を強める機会は有り余るほどあったものの、結果としてこの機会は実質的に無駄に終わり、両陣営が(イスラム国などの)過激派組織との戦いに重点を置いていた間、双方のパワーバランスはほとんど変化なく維持されました。

 LNA側に突破口を切り開こうとする努力がなかったわけではありませんが、紛争の進展に伴い悪名高いロシアのPMC「ワグナー」を展開させることを含め、外からの関与がエスカレートしていったにもかかわらず、結局は突破口にたどり着きませんでした。

 それどころか、UAEは投資をしたおかげで、移民収容センターに対する悲惨な攻撃のみならず26人の非武装の士官候補生を殺害したドローン攻撃への関与を含む、紛争当事者を取り巻くよくある議論の罠に引っかかってしまいました。[4] [5]

 結果的にUAEとロシアによる共同の取り組みは、LNAの旗の下に集まった寄せ集めの民兵たちがトリポリで勝利を収めるために必要となる適切な量と種類の支援を提供することに失敗しました。

 高度なロシアの防空システムでカバーされた下でロシアの砲撃支援を受け、UAEが運用するドローンが支援するロシアから供与された戦車などで構成される部隊は全てがUAEとロシアによって運用されています。理論上は見応えのある素晴らしい部隊ですが、実際には彼らが支援するLNAの兵士たちと同じくらいしか効果を発揮することができませんでした。

 非常に不規則で訓練を受けていないLNA兵士の根本的な欠点に対処しなかったことで、これらの乗数的戦力増強効果(フォースマルチプライヤー)の作用は大して影響を与えずに平凡に終わった結果は、イエメンにおけるUAEの一貫した戦略の欠如を反映したものと言えるでしょう(注:イエメンでの失敗を繰り返しているということ)。

 2019年夏に突如としてトルコがGNAのために介入した際には「バイラクタル外交」の効果でトリポリと西リビアの情勢はすぐに好転し、LNAはリビア西部における2大拠点であるアル・ワティーヤタルフーナを喪失しました。

 この新たな現実に直面したLNAの外国の支援者は、リビアの権力の座の確保が目の前にあったところから、突如としてLNAの支配地域に対するGNAの進撃を阻止するために奮闘しなければならなくなったのです(注:実際にタルフーナからトリポリまでは僅か60キロメートル程度しか離れていません)。

 UAEの次の行動方針が一体どのようなものになるのかは、すでにLNAがリビア西部から撤退した直後に明らかとなっていました。

左から:ハフタル将軍(LNA)、ムハンマド皇太子(UAE)、シシ大統領(エジプト)

 自分が知る最もベストな手法に固執するアブダビは、戦闘におけるLNAの無能さを補うために、PMCに紛争をさらにアウトソーシングする方法を模索し始めました。

 紛争における傭兵の度合いを増やすための土台は、2019年にLNAがトリポリ進軍に失敗した時点ですでに構築されていました。当時はロシアのワグネルの関与が著しく増加していたため、UAEは別の勢力に突破口を求め始めました。

 UAEの求めはエリック・プリンスに頼ることに至り、彼はクリスティアン・デュラントを介して2つの作戦を提案しましたが、いずれも最終的には実現しませんでした。 [6]

 ほかの傭兵にはチャド人、シリア人、スーダン人などの戦闘員が含まれていましたが、彼らの一部は「UAEで警備員として働かないか」という嘘の勧誘に引っかかり、結局その意に反してリビアに送り込まれてしまった人たちです。[7]

 こうして集められた傭兵たちは当然のことながら烏合の衆であり、UAEが求めていた攻勢の突破口を開くことができるどころか、単に防御陣地を維持するのに使えるだけという有様になるのは一目瞭然でした。

 リビアでの戦争をアウトソーシングできる勢力がほとんど存在しないことから、UAEは選択を迫られました。ワグネルへの支援を大幅に増やすことができますが、そうすることによってアメリカの最も信頼できる同盟国の1つとしての特恵的な立場を危険にさらされたり、場合によっては制裁を課されるという脅威に直面する可能性すらありました。あるいは、トリポリ攻勢の失敗を口実にしてリビアへの関与を徐々に縮小し、戦場ではなく交渉の席で打開策を実らせることができたかもしれません。

 アブダビは「行動する意思がないか、あるいは行動できない」アメリカ政府の態度に対する自信からか、大胆にも第1の選択に進んでワグネルへの支援を倍増させました。つまり、アメリカやNATOとの協調に専念してきたUAEの外交政策を大きく転換した動きの1つとして、アブダビは静かにロシアと提携を結んだということです。そうすることで、この動きは本質的にロシアに対してNATO諸国の南側に軍事拠点を築く自由を与えることを意味しました。

 その最初の影響については、UAEは残存していた自身の「パーンツィリ-S1」防空システムをLNAに(その後にワグネルにも)引き渡し、リビア東部のアル・カディム空軍基地をロシアのSu-24戦闘攻撃機に開放したことで、ほぼすぐに目立つものとなりました (ロシアは2019年11月に自軍の「パーンツィリ-S1」を使用してトリポリ付近を飛行する2機のMQ-9「リーパー」UAVを撃墜したことがあります。このうちの1機はイタリア軍機で、もう1機はアメリカ軍機でした)。[8]

 UAEがワグネルのリビア展開に直接的に資金を提供しているかどうかという質問が頻繁にありますが、そもそもUAEがリビアへ介入したことが彼らの展開をもたらしたので、全く関係ありません。

 もちろん、ワグネルへの高度なSAMシステムの引き渡しとリビアにおけるUAEの空軍基地へのSu-24の配備は、広大な地政学的ゲームにおけるいくつかの新たな動きがあることを完全に暗示しています。リビアは北アフリカにおけるUAEの野心のターニングポイントとなっているのです。

 興味深いことに、この一連の出来事は西欧やアメリカではほとんど無視されてきたようです。実際、トルコがロシアの「S-400」SAMシステムの導入を決定して厳しく罰せられた一方で、UAEがNATO諸国南側の玄関先である場所へ事実上のロシア軍を配備させ、装備を与え、資金を提供したことについては、今のところ何の結果も発生していません。それどころか、最近の事例ではUAEは2020年11月にF-35ステルス戦闘機を50機購入することにゴーサインが与えられたのです。

 それでも、この出来事はアメリカが同盟国への対応に一貫性があるかどうかについて深刻な疑問を投げかけています。

        

 UAEは「行動する意思がないか、あるいは行動できない」アメリカ政府の態度に自信を抱いていましたが、2020年12月にユセフ・アル・オタイバ駐米大使によってなされた数々のコメントによって、その自信がさらに強調されました。[9]

 UAEによるリビアの関与についてアメリカ上院議員から批判を受けて、同大使は明らかに虚偽の発言をしましたのです。以下の発言には、(客観的に見ても)信じられないほど利口としか言いようのない風評を否定することも含まれていました。
 
 2021年の時点で、UAEは米露双方の作戦機を同時に自国の空軍基地に配備させている世界で唯一の国です。Su-24とMiG-29は公式にはワグネルが運用していることになっていますが、彼らがロシア軍の非公式な部隊として機能していることは今や公然の秘密です。

 これは装備だけを見ても明らかなことです。なぜならば、(ロシアが引き渡した)MiG-29、Su-24、「パーンツィリ-S1」などの高度な装備をリビア国内で現実的に運用できる陣営がほかに存在しないからです。もちろん、ロシア空軍の「IL-76」や「Tu-154」がLNAの空軍基地にほぼ定期的に離発着している事実だけでも、事実上ロシア政府の関与があることを強く示唆しているはずです。



 引き渡された武器や装備の大部分は最終的にLNAの手に渡ったものが目撃されたり、GNAに鹵獲された後に撮影されることになるのが常です。ただし、UAEは幅広い国々から武器を調達する傾向があるため、結果としてLNAやイエメンの傀儡部隊に使用させるための武器の入手に関する情報が長い間にわたって安定的に流れています。

 著者が入手した情報のいくつかには秘匿すべき情報源から得たものがありますが、空港のグランドスタッフが武器や弾薬を満載してUAEに向かう輸送機や内部を撮影したというようなシンプルなものもあります。

 これらの航空機の貨物の大多数にはUAE軍では使用されていない兵器類の弾薬が含まれているため、最終的にはほとんど全ての弾薬がリビアやイエメンで使用されていると考えても差し支えないでしょう(注:下の画像の貨物にはUAE行きのT-55用戦車砲弾と記載されていますが、当然ながらUAEはT-55を運用していません)。

 この慣行は、その過程においていくつかの西欧諸国も関与させています。なぜならば、制裁措置が課されているリビアやイエメンに行き着くことが明らかな兵器類が自国の港や空港を経由して運ばれていくにもかかわらず、その行き先を調査することには驚くほど全く関心を示していないようだからです。

行き先:アブダビ、積載物:T-55用100mm榴弾、数:20発

 別の事例では、リビアに供給された弾薬の木箱に記載された文字を消す消すことについて、UAEが無能すぎたか、あるいは単に無頓着だったことを示しました。[10]

 UAEが関与した痕跡が(一見して)絵筆で容易に塗り隠すことができたという事実は、同国のリビアにおける冒険的行為に対する考えの甘さを物語っています。

 ペイントで隠された貨物の詳細項目ほど自身が「違法な武器取引き」であることを認めるものはありませんが、少なくともUAEに僅かな程度の「もっともらしい否認」をもたらしてくれることは間違いないでしょう。



 同様に無能だったのは、リビア内戦の成り行きを激変させるためにエリック・プリンスによって考え出された数々の企てでした。

 2007年に17人の民間人を殺害した「ニソール広場の虐殺」を含むイラクで深刻な人権侵害を犯したことでその悪名を世に知らしめたPMC「ブラックウォーター(現在はアカデミに改称)」社の創設者であるエリック・プリンスの取り組みには、UAEのビン・ザイード・ムハンマド皇太子の支援によって支援された、構想が不十分に練られていない民間軍事事業を立ちあげることが含まれていました。[11]

 このような事業プロジェクトの1つから「オーパス」が誕生し、プリンスの同僚であるデュラントと彼が経営する「ランカスター6」社によって担当されました。

 プロジェクト「オーパス」はUAEが探し求めていたリビアで突破口を開くためのものでしたが、その中身は非現実的で壮大なものでした。これは空中機動作戦を中心とした小規模な傭兵部隊を要するものであったため、結果としてデュラントは南アフリカからAS332L「シュペルピューマ」輸送ヘリを3機、ヨルダンからMD530FFを6機、AH-1F「コブラ」攻撃ヘリを3機購入することに行き着きました。[11]

 しかし、AH-1とMD530の取引については国連の制裁(そして米国の法律)を履行するつもりの厄介なヨルダンによって最終的に失敗に終わり、GNAの支援者による武器輸送を追跡する任務を負った海上部隊など、ありとあらゆる支援作戦を含んだワイルドな計画は阻止されてしまいました。[11]

 当時、こうした貨物(や積載した船)は一般的にトルコ海軍のフリゲートに守られており、彼らは軽機関銃程度の武装しかないRHIB(複合艇)で対決するつもりでしたが、この計画の段階ではその事実はごまかされました(注:デュラントが当初からこの不都合な事実を知っていていたのか、単に無知だったのかは不明です)。

 おそらくさらに衝撃的だったのは、デュラントがハフタル将軍に彼らのチームが殺害を申し出た10人のリビア人のリストを提示したことでしょう。リストにはヨーロッパの市民やリビアに住んでいない人々が含まれていました。しかも親ハフタル派である数人の人物さえもリストに載っていたという事実は、デュラントの取り組みがいかに情報不足で見当違いであったのかを示しています。[12]

 しかし、適切な装備が欠けていることが「オーパス」を中止させるには至りませんでした。2019年半ばに傭兵部隊がベンガジに到着した後、デュラントらはヨルダンのAH-1やMD530の代替機として南アフリカから調達した3機のヘリコプターを加えることに成功しました。そのヘリコプターは非武装のSA341「ガゼル」であり、ガンシップとして使用するためにはリビアで改造する必要がありましたが、仮にそうしても攻撃能力はAH-1やMD530が持つごく僅かな程度しかありませんでした(注:実際に改造されたかは不明)。

 傭兵たちが持ってきたのが、ハフタル将軍が8000万ドル(約91億円)を支払って調達を約束された9機の攻撃ヘリではなく3機の非武装ヘリであることを知った将軍は激怒して彼らを脅しました。[11]

 結局、傭兵たちはリビアに到着後から僅か数日で2隻の複合艇に乗ってマルタに逃亡してしまいました。皮肉にも、彼らが使用した複合艇はGNA支配下のリビアに海上封鎖を課すために活用を想定していたはずのものでした。

 このようにして、その厚かましさと潜在的意義において、計画案の傲慢さと愚かさだけが超越した事件は終わりを告げたのです。

 クリスティアン・デュラントはその後、「私たちは制裁に違反していません:私たちは軍事的なサービスを提供していません。私たちは銃も扱っておらず、傭兵でもないのです」と主張する声明を発表しましたが、私たち著者はデュラントが2019年3月にジョージアの「トビリシ航空機製造(TAM)」からSu-25攻撃機を獲得するための入札を含む、軍用機の調達をさらに数回試みたことを示す情報や写真を入手しています。[13]

 もちろん、国際的に承認されているリビア政府を転覆させようとした彼の役割を立証するには、すでにいくつかの調査報告書で提示されている証拠で十分ですが、行った先々で証拠を残していく彼の傾向は国連の調査官が彼の不法行為の全貌を明らかにするのに必ず役立つに違いありません。

 有罪となった場合、デュラントは祖国のオーストラリアで海外への渡航禁止令、全資産の凍結、そして最大で10年の懲役刑を受ける可能性があります。

 最終的にSu-25の調達は実現しませんでしたが、これらの全機が紛争地帯に行き着くことに疑いの余地がないことを考慮すると、仮に実現して持ち込まれた場合は複数の制裁措置に違反することになったでしょう。

2019年3月、ジョージアのトビリシにあるTAM社の工場ホールの一角で同社のCEOヴァジャ・トルディア氏(左)と握手を交わすクリスティアン・デュラント氏(右)。

 エリック・プリンスとクリスティアン・デュラントがリビア内戦の推移に与えた影響はハリーファ・ハフタル将軍の血圧を一時的に急上昇させた程度に過ぎなかったようですが、ほかの国々はLNAの軍事組織としての無能さを補うために、(増え続けていく)装備類の供与を始めました。

これらの供与品は、陸(エジプト経由)・海・空を通ってリビアに届きました。空輸では、UAEとロシアの両国が主にチャーターしたIL-76とロシア空軍のIL-76、UAE空軍のC-17A「グローブマスターIII」輸送機を用いて航空輸送を維持しました。多くの便は、リビアとの国境近くにあるエジプト西部のシディ・バラニ空軍基地やリビアのアル・カディム空軍基地に着陸しました。
  1. 供給された武器、車両、弾薬、装備品に関する包括的なリストは以下のとおりです。
  2. このリストには、LNAに大量に供給された「(装甲強化型)トヨタ・ピックアップ」トラックや、リビアに装備類を引き渡すために用いられても通常はリビアで使用されていない輸送機は含まれていません。
  3. 供与されたAFVは追跡調査が容易ですが、弾薬のような物品の場合はそれを突き止めることが困難であるため、このリストには少数しか掲載されていません。
  4. 各装備類の名称の後に記された年号はそれらが最初にリビアで視認された年です。しかし、多くの場合はそれが実際に実際に供与された年を意味しません。
  5. 装備類がLNA以外の勢力で運用されている場合は、実際の運用者を太字で追記しています。
  6. 各装備類のサプライヤーについては、各項目の左端にある小さな旗で示しています(右の凡例を参照)。ただし、プロジェクト「オーパス」の過程で得た(または失敗した)ものについては、担当した「ランカスター6」社の所在地であるUAEの旗を使用しています。
  7. 出所が不明な装備類については、サプライヤーを示す旗はクエスチョンマークのもので表示されています。
  8. 各装備名をクリックすると、リビアで使用されている当該装備の画像が表示されます。


戦車


装甲戦闘車両
  • BRDM-2 [2017] [UAEがウクライナから調達]


装甲兵員輸送車


耐地雷・伏撃防護車両(MRAP)


歩兵機動車


迫撃砲(自走式を含む)


牽引砲


多連装ロケット砲


対戦車ミサイル


対空砲


地対空ミサイルシステム
  • S-125(SA-3) [2020] (UAEがベラルーシから調達)
  • 「パーンツィリ-S1」 [2019] (当初はUAEがLNAのために運用していたが、現在はLNAとワグネルが運用)
  • MIM-23「ホーク」 [2019] (リビア東部のアル・カディム空軍基地の防空用としてUAEが2019年後半に配備 )
  • MIM-104「パトリオット」 [2020] (リビア東部のアル・カディム空軍基地の防空用としてUAEが2020年1月に配備したが、アメリカの圧力を受けて撤収)
  • 「パーンツィリ-S1M」 [2019] (ワグネルが運用しており、2019年11月にアメリカ軍とイタリア軍のMQ-9「リ-パー」UAV2機を撃墜 )


レーダー・電子妨害装置


無人航空機


ヘリコプター


戦闘機・攻撃機


ISR(情報収集・警戒監視・偵察)機
  • PC-6 ISR [2019] (偵察・情報収集用としてランカスター6が運用 )


輸送機・VIP専用機


艦艇


トラック・ジープ、各種車両


小火器


弾薬類


その他の装備品など


入手過程にある装備類


入手に失敗した装備類

 これらは確かに理論上では見応えのあるリストですが、掲載されているどの兵器もLNAとその支援国が切実に探し求めていた突破口を切り開くことには成功しませんでした。

 GNAがシルトの手前で進撃を止めた後に戦線のバランスは急速に膠着状態に逆戻りしましたが、リビアの内戦をおそらくもっとも特徴づけているこの状態が紛争の政治的解決を実現するための新たな呼びかけに至らせることになったのです。

 双方による協調した取り組みは、2021年3月16日にGNAが暫定国民統一政府(GNU)に正式に政権を譲渡したことで結実しました。そして、長年の内戦を終結させ、2021年12月に予定されている選挙を実施するための複雑なプロセスが開始されました。

 しかし、国内に多く存在する勢力は過去数年間に築き上げた権力や影響力の放棄を嫌っていると思われます。それに加えて、依然として外国がこの根付いた紛争に深く関与していることから、GNUがリビアに安定を回復する上でどれほどの成功を収めることになるのかは現時点では不明です。また、リビアの紛争当事者に対する国際的な支援の意味合いは、すでにリビア内戦の範囲をはるかに超越したものと化しています。

 トランプ政権時代の政策を急速に覆そうとするバイデン政権が誕生したことで、この紛争における外国の当事者は、過去の自身の行動による結果のために、新たな政治的エスカレーションのリスクを冒すことになるでしょう(注:バイデン政権がリビア介入でUAEに制裁を課す可能性すらあるということ)。

 UAEにとって、これまでに何度もアメリカ軍と衝突したことのあるワグネルを公然と支援していることが今や明るみとなったという事実は、自身がアメリカに対して強く出過ぎてしまったことを意味しているかもしれません(注:ワグネルとアメリカ軍の戦闘については、特に2018年のシリアにおける「カシャムの戦い」が有名)。

 伝統的な同盟国にして現在も地域で最も影響力のある国家からの恩恵を失うことは、劇的な結果をもたらす可能性があります。少なくとも、それにはバイデン大統領が就任する数時間前に確保した50機のF-35の調達への悪影響が含まれることは誰でも容易に想像できるはずです。

 今のところ、UAEはリビアでの冒険的行動に費やすコストを価値あるものと見なしている可能性があります。しかし、現在の地政学的情勢は予測不可能で不安定なものであることから、単なる金銭的コスト以上のものが危機に瀕するという現実にUAEはすぐに直面することになるかもしれません。

[1] Letter dated 8 March 2021 from the Panel of Experts on Libya established pursuant to resolution 1973 (2011) addressed to the President of the Security Council https://undocs.org/Home/Mobile?FinalSymbol=S%2F2021%2F229&Language=E&DeviceType=Mobile
[2] Libyans mourn rights activist amid turmoil https://www.aljazeera.com/news/2014/6/26/libyans-mourn-rights-activist-amid-turmoil
[3] Libya’s eastern parliament quits UN peace deal with Tripoli https://english.alarabiya.net/News/north-africa/2017/03/08/Libya-s-eastern-parliament-quits-UN-peace-deal-with-Tripoli
[4] Libya migrant attack: UN investigators suspect foreign jet bombed centre https://www.bbc.com/news/world-africa-50302602
[5] UAE implicated in lethal drone strike in Libya https://www.bbc.com/news/world-africa-53917791
[6] The fighter pilot, the mercenary boss, and the warlord: a modern Libyan war story | Four Corners https://youtu.be/yVc7cHG0ATs
[7] Recruited as Security Guards in the UAE, Deceived into Working in Conflict-Ridden Libya Instead https://www.hrw.org/news/2020/11/01/recruited-security-guards-uae-deceived-working-conflict-ridden-libya-instead
[8] Lead Inspector General for East Africa And North And West Africa Counterterrorism Operations I Quarterly Report to the United States Congress | July 1, 2020 - September 30, 2020 https://www.dodig.mil/Reports/Lead-Inspector-General-Reports/Article/2427451/lead-inspector-general-for-east-africa-and-north-and-west-africa-counterterrori/ (page 40)
[9] https://twitter.com/UAEEmbassyUS/status/1334547777293078528
[10] Chinese GP6 guided artillery projectiles in Libya https://armamentresearch.com/chinese-gp6-guided-artillery-projectiles-in-libya/
[11] Erik Prince and the Failed Plot to Arm a Warlord in Libya https://theintercept.com/2021/02/26/erik-prince-jordan-libya-weapons-opus/
[12] Mission Implausible: The Harebrained (Alleged) Erik Prince-linked Operation in Libya https://libyamatters.substack.com/p/mission-implausible-the-harebrained?r=e0mx3
[13] The fighter pilot, the mercenary boss, and the warlord: a modern Libyan war story | Four Corners https://youtu.be/yVc7cHG0ATs?t=2446
[14] 緊張高まるリビア紛争Ⅰ-トルコ、ロシアの軍事介入(翻訳における参考資料)

特別協力: Calibre Obscura(敬称略)

※  当記事は、2021年3月23日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも
 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
 あります。