著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
当記事は2021年に本国版「Oryx」(英語)に投稿されたものを翻訳した記事です。意訳などで僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります(本国版の記事はリンク切れです)。
トルコから公式に撤退してから約8年経過した今でも、クルド労働者党またはクルディスタン労働者党(PKK)はゲリラ戦を展開しており、イラク北部の山岳地帯からトルコに潜入しています。脅威を絶つことを決心したトルコ軍は、隠れ家や武器庫を無力化するためにPKKの勢力圏への攻勢を頻繁に実施してきました。
トルコ軍ヘリコプターによる襲撃や攻撃ヘリの脅威を食い止めるべく、PKKは独自に改造した各種の重機関銃(砲)を使って、ヘリコプターのみならず機体から降り立つ兵員も狙った攻撃をしています。
広い視野を得られ、迫りくる空中の脅威を遠くから発見することが可能な山間部の高い位置に備えられてきた場合が一般的だったこともあり、PKKの対空砲とその操作要員は過去数年間でトルコ軍のヘリコプターに対して小さな成果を上げてきました。
これらの成功の大半はヘリコプターの撃墜ではなく損傷を与える程度のものでしたが、PKKの支配地域への不時着に至るケースもありました。トルコのヘリボーンへの対抗や抑止には少しも成功していないものの、PKKの対空砲は依然として強力な脅威であり、真剣に対処する必要があります。
一般的にシリア軍やイラク軍から鹵獲した旧ソ連または中国製の兵器を原則としたPKKの対空砲に求められる主要な条件は、荒れた地面や山岳地帯を輸送するためにいくつかに分解できることです。その理由で、ありふれた(中国製コピーを含む)「DShK」12.7mm重機関銃と「KPV」及び「ZPU-1」14.5mm機関砲は特に人気が高く、その他にも数種類の対空砲が混在していることが判明しています。
ごく最近では、PKKは隣接する地下洞窟内の安全な場所から操作可能なリモート・ウェポン・ステーションを導入し始めています。このシステムを運用する部隊については、ほとんど知られていません。
これらの成功の大半はヘリコプターの撃墜ではなく損傷を与える程度のものでしたが、PKKの支配地域への不時着に至るケースもありました。トルコのヘリボーンへの対抗や抑止には少しも成功していないものの、PKKの対空砲は依然として強力な脅威であり、真剣に対処する必要があります。
一般的にシリア軍やイラク軍から鹵獲した旧ソ連または中国製の兵器を原則としたPKKの対空砲に求められる主要な条件は、荒れた地面や山岳地帯を輸送するためにいくつかに分解できることです。その理由で、ありふれた(中国製コピーを含む)「DShK」12.7mm重機関銃と「KPV」及び「ZPU-1」14.5mm機関砲は特に人気が高く、その他にも数種類の対空砲が混在していることが判明しています。
ごく最近では、PKKは隣接する地下洞窟内の安全な場所から操作可能なリモート・ウェポン・ステーションを導入し始めています。このシステムを運用する部隊については、ほとんど知られていません。
PKK内には「殉教者デラル・アメド防空部隊」と呼ばれる部隊が存在しますが、これまでのところ、その任務は潜入用パラモーターと自家製の爆弾で武装した攻撃用ドローンの運用に限定されているようです。したがって、対空砲は各作戦区域のPKK部隊によって運用されている可能性が高いと思われます。おそらく、トルコ軍のヘリコプターの飛来を別の区域に警告するための全域的な警報システムも備えているのでしょう。
対空砲が所定の場所に運び込まれて組み立てられた後は、使用する必要が生じるまで秘匿され続けるのが一般的な流れです。対空砲は頻繁に点検され、現地の状況下で確実に継続的な運用ができるように整備されていると思われます。
下の画像の「KPV」14.5mm機関砲は、秘匿された対空砲の典型的な様子を見せています。被発見率を下げるために木の下に配置され、布と木の枝で覆われているため、上空どころか地上の遠距離からでさえ視認することが不可能に近くなっています。[1]
この「KPV」は、ほとんどの重機関銃に施された改造の一部も披露しています- 特に注目すべきはマズルブレーキ、三脚、銃床、肩当てです。異彩を放つマズルブレーキは「KPV」に特有の強烈な反動を幾分和らげてくれるものの、命中精度をある程度維持するためには短いバースト射撃しかできません。さらに照準を合わせやすくするため、銃身のキャリングハンドルの後方に照星が追加されました(注:機関砲の後部には照門も追加されています)。
もう一つの簡易対空システムは、「ZSU-23-4 "シルカ"」自走対空砲(SPAAG)から取り外された「2A7/2A7M」機関砲をベースにしたものです。[1]
前述の「KPV」と同様に、この機関砲も新たにマズルブレーキ、照星、三脚が装着されました。その大口径ゆえに、「2A7」は反動が大きいおかげで単発かごく短い連射しかできません。このため、実質的には対空砲というよりは対物ライフルに近い性格となっています。
それでも、23mm砲弾はヘリコプターに対して非常に強力な損傷を与えます。つまり、砲手が「KPV」で同様の(あるいはそれ以上の)効果を得るよりも、目標に命中させるのに必要な弾数は大幅に少なくなるというわけです。
改造型「KPV」と同様に、この対空砲は2020年6月から9月にかけて実施されたトルコのクローイーグル・タイガー作戦の際に鹵獲されました。[1]
「KPV」がPKKによって対空砲として使えるように改造されたのに対し、「ZPU-1」は最初から軽量の対空砲として設計されたものです。
「ZPU-1」は通常であれば二輪式の砲架で移動しますが、ラバや人力で輸送できるように数個のコンポーネント(重量80kg)に分解することが可能となっています。「KPV」と同様の砲弾を約2km先まで発射可能な最大射程、容易な操作性と専用の対空照準器、そして大容量の弾倉はPKKに重宝されているに違いありません。
下の画像の個体は2021年4月と5月に実施されたクローライトニング・クローサンダーボルト作戦でトルコ軍に鹵獲されたものですが、砲と砲架の大部分が錆で覆われています。これは、おそらく全ての対空砲が適切な手入れをされていたわけではないことを示しています。
より近年における発明品は、「DShK」12.7mm機関銃(またはその中国の派生型である「54式」や「W85」)をベースにした一連のリモート・ウェポン・ステーション(RWS)です。こうしたRWSの主な利点は、砲手が敵に晒されるリスクを冒さずに安全な洞窟から操作できることにあります。
欠点としては、状況認識の大幅な低下と弾倉が空になるごとに人力で再装填する必要があることが挙げられます – どのヘリコプターも交戦圏内の飛行時間が短いことを考慮すると、後者は想像以上に問題とはならないかもしれません(注:交戦時間自体が短いため)。
前述の対空砲と同様に、「DShK」RWSも山の谷間を進む歩兵を標的にする副次的な役目を担っています。
クローライトニング・クローサンダーボルト作戦の際に、少なくとも3基のRWSがトルコ軍に鹵獲されました。どれもが地下洞窟の付近に配置されていたようです。[2]
これらは近くにいる敵兵への強力な抑止効果をもたらす一方で、その存在はトルコ軍にPKKが潜む洞窟が本当に近くにあることを即座に警告するデメリットも生じてしまいます。
作戦機やUCAVから投下される精密誘導弾や火砲によってさらに強化されたトルコ軍の数的・戦術的優位を考慮すれば、後に彼らの洞窟が全滅するのはほぼ確実と言ってもいいでしょう。[3]
これらは近くにいる敵兵への強力な抑止効果をもたらす一方で、その存在はトルコ軍にPKKが潜む洞窟が本当に近くにあることを即座に警告するデメリットも生じてしまいます。
作戦機やUCAVから投下される精密誘導弾や火砲によってさらに強化されたトルコ軍の数的・戦術的優位を考慮すれば、後に彼らの洞窟が全滅するのはほぼ確実と言ってもいいでしょう。[3]
前述の多用途兵器システムの開発に多大な努力を注いでいる一方で、PKKが保有している中で最も恐れられている兵器は、いまだに携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)であり続けています。明らかに、システムの複雑性と精密な電子機器が搭載されているおかげで、MANPADSが積極的に使用されたケースはほとんどなく、過去には使用前にトルコ軍に鹵獲されたものもありました。
PKKにとって最も注目すべき成功例は、2016年5月に「9K38 "イグラ"(NATOコード:SA-18 "グロウス")」MANPADSでトルコ軍の「AH-1W "スーパーコブラ"」攻撃ヘリコプターを撃墜したことです。[4]
この撃墜はMANPADSがもたらす深刻な脅威を際立たせましたが、これ以降に撃墜に成功したことはありません。
トルコ軍のヘリコプターがイラク北部で自在に飛び回るのを阻止するため、自由に使用可能な(ATGMを含む)手段を何でも活用しようとしているPKKの試みが紛れもなく機知に富んでいるものの、同時に、トルコ軍のヘリボーン作戦に直面した彼らが対処しなければならない全体的な欠点を象徴しています。
相応の武器なしに、利用可能なアセットと革新的な能力の双方で優勢な敵に対抗できる希望はほとんど残されていません。それでも、PPKのDIY式対空砲の脅威は強力と言えます。なぜならば、ローテクゆえに対抗することが困難だからです。
トルコ側には、対空銃座に対して何らかの対抗策を実行に移せるかどうかが注目されます。例えば、無人機に作戦予定区域内の稜線をスキャンして不審な形状や動きの有無を確認させることが挙げられます。
武器や通貨の流入不足だけでなく、近年におけるPKKの対空砲の消耗率は、彼らが対抗するトルコの装備に損耗をはるかに上回っている可能性があります。新たな重機関銃を入手するよりも早く重機関銃を失った場合、トルコが実行可能な対抗策を考え出す前に、重機関銃の配備と運用上の有効性が低下することも否定できません。
[1] Northern Iraq PKK-Weapon Caches of Operation ‘Claw Tiger’ https://silahreport.com/2020/08/27/northern-iraq-pkk-weapon-caches-of-operation-claw-tiger-miles-check-this/
[2] Claw-Lightning and Claw-Thunderbolt: Turkey Engages PKK In Iraq https://www.oryxspioenkop.com/2021/04/claw-lightning-and-claw-thunderbolt.html
[3] https://twitter.com/COIN_V2/status/1389131420614991874
[4] Video appears to show Kurdish militants shooting down Turkish military helicopter https://www.washingtonpost.com/video/world/video-appears-to-show-kurdish-militants-shooting-down-turkish-military-helicopter/2016/05/14/d64e96e2-19f6-11e6-971a-dadf9ab18869_video.html
ヘッダー画像:Abdullah Ağar、特別協力:COIN_V2(敬称略)
おすすめの記事