2023年2月10日金曜日

21世紀の軍事大国へ:近年におけるポーランドの兵器調達リスト



著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ

 2022年のロシアによるウクライナ侵攻に直面したNATO諸国は、さらなる兵器の導入を通じた防衛態勢の強化に奔走しています。

 現代ヨーロッパ史上で前代未聞の軍備の大量調達に乗り出しているポーランドほど、この傾向に該当する国はないでしょう。ポーランドの場合は、これまでに韓国から「K2」戦車 1,000台、「K9」自走榴弾砲672台、「K239」多連装ロケット砲288台、アメリカから「M1 "エイブラムス"」戦車366台、「AH-64E "アパッチ・ガーディアン"」攻撃ヘリコプター92機の調達またはその計画が含まれています。

 その一方で、同国内の防衛企業は無人機や自走式対戦車ミサイルシステムといったシステムに加えて、約1,500台の歩兵戦闘車と数百台の自走砲をポーランド軍に供給する予定です。

 どうやら、ポーランドは従来からの武器供給源であるドイツから兵器を調達するのではなく、新たなサプライヤーとして韓国とアメリカを見出したようです。

 ウクライナへの軍事支援におけるドイツの対応の遅さと、ドイツが始めた「循環的交換」政策の下でウクライナに戦車を供給したことに対するポーランドへの補償の速度(またはその欠如)に対して、この国は一層苛立ちを強めています。[1]

 そもそも、ドイツの兵器メーカーにはポーランドからの発注を全て履行する能力がないのが実態であり、ポーランドが韓国を選んだ理由は好き嫌いの話だけではなく、単に妥当な期間内に発注した装備を受け取ることも必要だったからです。

 韓国を武器と装備の主要な供給国に選んだことについては、アメリカにおける兵器の生産ラインに過度な負担をかけないとする付加的なメリットもあります。もしそうでなければ、ポーランドによる膨大な発注の時点で生産ラインが辛うじて対処できるレベルになっていたため、ほかのNATO諸国や台湾は装備を受け取るため時期に悩むことになっていたかもしれません。

 韓国との協力で得られるもう一つのメリットは、韓国が将来の「K3」戦車と「K9A3」自走榴弾砲のプログラムにポーランドを含めたことが挙げられます。これについては、ポーランドの実績が考慮されて将来的に同国内でも生産される可能性があることを示唆しています。[2]

 ほかのNATO諸国による防衛力強化の試みを把握することは私たちに洞察に満ちた視点を与え、ポーランドの兵器発注の規模を大局的に俯瞰することに役立つでしょう。(Oryxの母国である)オランダは予算削減のため2004年に24門の「M270  "MRLS"」多連装ロケット砲(MRL)を退役させて売却したものの、2014年から2015年におけるドンバス戦争でMRLの圧倒的な使用例を目撃した後、この失った戦力の再導入を試みています。ただ、資金不足で調達の決定を下すのに2022年までかかってしまったため、2023年にようやく発注がなされるよう見通しです。

 しかし、ポーランドが韓国から288門の「K239」 MRLを発注したの一方で、オランダが18門以上のMRLを獲得する見込みはありません。同様に、ポーランドでは将来的約1,500台の戦車が運用されることと比較してみると、オランダ陸軍は現在運用中の18台を超える戦車の追加導入計画を(論理的に)つぶしてしまいました。

 ポーランドによる度重なる投資の結果は、最終的に同国軍をヨーロッパのどの陸軍よりも量と質の双方で優れた軍隊に変えることでしょう。実際、1,500台という現用戦車の数は、ドイツ・フランス・イギリスが運用する戦車の合計の2倍以上であるどころか、ヨーロッパの全NATO加盟国が配備している戦車の合計台数よりも多いのです。この大規模な基幹戦力を補完するために今後も兵器の導入が確実に続くことは、 ポーランドを21世紀の軍事大国の一つに浮上させる土台作りとなると言っても過言ではありません。

 新装備の継続的な流入はポーランドにソ連時代の兵器をますます退役させることを許すのみならず、それらをウクライナに譲渡することも可能にさせてくれます。このことはポーランドとNATO諸国の防衛を担保するだけでなく、この国がこの先何年にも渡って自由の武器庫としての地位を維持することを意味するのです。

  1. 以下に列挙した一覧は、ポーランド陸海空軍によって調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステム、小火器、指揮車両、トラック、レーダー、弾薬は掲載されていません。
  3. この一覧は新しい兵器類の調達が報じられた場合に更新される予定です。

陸軍 - Wojska Lądowe

戦車 (将来的な総数:最大で1,500)
  • 180 K2 [2022年から2025年にかけて引き渡し] (後日に「K2PL」規格に改修予定) 
  • 820 K2PL [2026年以降にポーランドで生産予定]
  • 116 M1A1 SA [2023] (後日に「SEPv3」規格に改修予定)
  • 28 M1A2 SEPv2 [2020] (訓練用のリース車両)
  • 250 M1A2 SEPv3 [2025年から2026年にかけて引き渡し] (この導入契約には26台の「M88A2」装甲回収車と17台の 「M1110」 架橋戦車も含まれている)

歩兵戦闘車  (将来的な総数:1,430+)

その他のAFV 

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両

火砲類及び多連装ロケット砲  (将来的な総数:自走砲=360[オプションで+460], MRL=383[オプションで+200], 自走迫撃砲=215)
防空システム

ヘリコプター

無人航空機



空軍 - Siły Powietrzne

戦闘機 (将来的な総数:124+)

無人戦闘航空機(UCAV)

早期警戒管制機

空中給油機

輸送機
  • 3 C-130H「ハーキュリーズ」 [2024年後半までに引き渡し予定] (2機の「C-130E」の代替及び運用中である2機の「C-130H」を補完するもの)
  •  5 新輸送機 [2032年以降に引き渡し予定]

高等練習機
ヘリコプター

偵察衛星


海軍- Marynarka Wojenna

フリゲート (将来的な総数:3)

潜水艦 (将来的な総数:3)
  •  「オルカ」計画 [大幅に遅延した潜水艦3隻の導入計画] (辛うじて運用中の「キロ」級潜水艦を代替予定)

掃海艇 (将来的な総数:6)
  • 3 「コモラン-2」級 [2020年代後半と2030年代前半に引き渡し予定] (すでに運用中または建造中の同型艦3隻を補完するもの)

情報収集艦 (将来的な総数:2)

ヘリコプター  (将来的な総数:12[オプションで+4])

[1] Flawed But Commendable: Germany’s Ringtausch Programme https://www.oryxspioenkop.com/2022/09/flawed-but-commendable-germanys.html
[2] Poland’s massive tank, artillery and jet deal with S. Korea comes in shadow of Ukraine war https://breakingdefense.com/2022/07/polands-massive-tank-artillery-and-jet-deal-with-s-korea-comes-in-shadow-of-ukraine-war/

※  当記事は、2022年11月10日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
  箇所があります。



おすすめの記事

2023年2月5日日曜日

モスクワ連合:ロシアに引き渡された武器と装備類(一覧)


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ

  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻でベラルーシとイランがウクライナに引き渡した軍事装備の追跡調査を試みたものです。
  2. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には供給国を示す国旗が表示されています)。
  3. 一部の武器供与については機密扱いであるため、寄贈や売却された武器などの数量はあくまでも最低限の数となっています。
  4. 個人で調達したものや、動員兵のために購入した市販の個人装備はこの一覧には含まれていません。
  5. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  6. 各兵器類の名称をクリックすると、ロシアで使用されている当該兵器類の画像を見ることができます(ロシアで使用されている画像が確認されていないものは、同型兵器の画像や出典が表示されます)。


無人戦闘航空機(UCAV)

徘徊兵器

戦車

装甲戦闘車両

歩兵戦闘車

歩兵機動車

トラック


弾薬類

兵器の部品など

個人装備

特別協力:UAWeapons

※ この記事は2022年11月28日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも

2023年2月3日金曜日

最後の中国製無人機:トルクメニスタンの「CH-3A」UCAV



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 中国製無人戦闘機(UCAV)の商業的成功については、中東、中央アジア、北アフリカの国々がこれまでになく大量の「翼竜」や「CH」シリーズUCAVを導入したことから、かつてはその快進撃を止めることができないだろうと思われていました。

 しかし、この素晴らしい販売実績の理由は、明らかに中国製UCAVが好まれていたということではなかったようです。それどころか、ここ10年の前半はUCAV市場にはほとんど競争がありませんでした。特にUCAVの導入を検討している国がアメリカから武器を調達できる余裕を持っていなかった場合は選択肢自体が事実上中国に限られていたのです。

 ただし、米国と密接な関係にある国でさえ、大抵は武装型「MQ-1 "プレデター "」や「MQ-9 "リーパー"」の購入が禁じられていたり、(トルコの場合のように)特定の地域には展開させないという約束の下でしか入手できませんでした。

 ロシアといったほかの主要な武器生産国はいまだにUCAVの量産や実用化に至っておらず、イスラエルは武装ドローンの輸出販売をしていません。

 競争市場では、生産者が互いに競争することによって販売価格が押し下げられる効果が生じます。

 UCAVの主要生産国としてトルコが出現したことは、ほぼ間違いなく中国を犠牲にする形で武装ドローン市場を一変させました。ただし、UCAV生産国としてのトルコの台頭は、2010年代初頭のトルクメニスタンが必要としていたUCAVのニーズに対応するにはあまりにも遅すぎましたのは周知のとおりでしょう。

 当時は中国からUCAVを調達する以外に選択する余地がほとんど無い状況に迫られていたため、トルクメニスタン空軍はまさにその現状に従って「CASC」「CASIC」「CH-3A」「WJ-600A/D」UCAVを大量に発注しました。[1]

 これらは2016年に実施された独立25周年記念日の軍事パレードで盛大なファンファーレと共に披露されたものの、調達数やその後のトルクメニスタンでの運用に関する情報はほとんど知られていません。

 トルクメニスタンの「CH-3A」で判明していることは、2011年にイタリアから購入した3機の「セレックスES(現レオナルドS.p.A.)」社「ファルコXN」無人偵察機と共に、アク・テペ・ベズメイン空軍基地を拠点としていることです。[2]

 「CH-3A」は左右の主翼にハードポイントを各1基ずつ備えているため、最大で8kmの射程を持つ「AR-1」空対地ミサイル(ASM)を2発搭載するのが標準的な武装となっています。

 また、このUCAVの巡航速度は 200km/hであり、12時間程度の滞空性能を誇ります。現代の基準からすると物足りませんが、それでもジェットエンジンを搭載した「WJ-600A/D」の3〜5時間という滞空時間を上回っています。[4]

アク・テペ・ベズメイン空軍基地で、中国製「FD-2000」及び「KS-1」地対空ミサイルシステムの前を自転車に乗って通過するグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領。「CH-3A」が「KS-1A」の右に置かれている様子は注目すべきことであり、これが2016年の軍事パレードに登場して以降に公開された同UCAV唯一の資料です。

 トルクメニスタンが追加の「CH-3A」、「CH-4B」、あるいは「翼竜」UCAVを導入する代わりに「バイラクタルTB2」を調達するという決定は、「バイカル・テクノロジー」社にとってさらなる注目すべき成功の1つです。[5]

 トルクメニスタンはTB2を導入した5番目の国であり、同機はこれまでに28カ国以上に販売されました。[6]

 武装ドローンの調達における世界的変化は、中国とアメリカという伝統的なサプライヤーを犠牲にしながら表面化しはじめています。このことは一度は停滞した市場を競合する他社から奪取できることを証明しており、この偉業はトルクメニスタンの「CH-3A」と「バイラクタルTB2」によって象徴されているのです。

主翼に「AR-1」空対地ミサイルを搭載した状態で軍事パレードに登場した「CH-3A」

  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。



おすすめの記