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2026年4月25日土曜日

現代化への歩み寄り:セネガルの地域高速鉄道(TER)

TERの「コラディア・ポリバレント」:ナンバーから「B83500」系の車両と思われる。

著:シュタイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年1月25日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 アフリカの各国では、効率的な公共交通機関の必要性に対する認識がますます高まってきています。2018年にはモロッコ初の高速鉄道が開通したほか、さらに4つのアフリカ諸国がモロッコの後を追う見通しです。

 2021年、セネガルは首都ダカールと新たな国際空港を結ぶことを目的とした通勤鉄道「地域高速鉄道:Train Express Régional(TER)」の運行を開始し、公共交通の効率化で飛躍的な進展を遂げました。TERでは、最高速度160km/hを誇る仏アルストム社製の最新型車両が使用されています。

 TER最大の目的は、国内の経済活動の大部分が集中している首都とセネガル国内の他地域とのアクセスを向上させることにあります。

 TERの工事は2016年後半に開始され、フランスのエクアンス社とタレス社のグループが電化関連及び信号設備を担当し、鉄道自体の建設はエファージュ社とトルコのヤピ・メルケジ社が結成した共同企業体によって行われました。ちなみに、ヤピ・メルケジ社は、ダカールの国際会議センターブレーズ・ジャーニュ国際空港など、セネガルで数多くの建設プロジェクトに携わってきた実績を有しています。[1]

 この鉄道路線は全長55kmで14の駅が配置されており、1日あたりの乗客数の見込みは11万5000人です(ダカール都市圏の人口は約400万人と推定)。TERの第1区間は2021年12月に開通していますが、ブレーズ・ジャーニュ国際空港へと繋がる第2区間の完成は2023年末の予定となっています。このプロジェクトの総費用は推定13億ドル(約1400億円)と見込まれているようです。[2]

 ティエスおよびンブールへの路線延伸工事については、早ければ2024年に着工される予定です(編訳者注:2026年現在で着工は開始されていない)。

人目を引くダカール駅は1914年に建設されたものの、長年にわたり放置されていました。TER開通のおかげで、再びダカール市のターミナル駅としての役割を担っています。

 ディアムニアディオという新興都市は、TERの恩恵を受けている都市の一つです。この都市の整備は、セネガル政府が推進する経済活性化計画(セネガル新興計画)において重要な役割を果たしています。

 ディアムニアディオ経済特区のねらいは、ダカールへの人口集中を緩和しつつ、全長32kmの新高速道路とバス高速輸送システム(BRT)、そしてTERを活用して、ダカールへの迅速なアクセスを提供することにあります。TERの片道料金は3ドルですが、セネガルの人口の半数が貧困ライン以下の生活を送っていることを考えると、多くの人々にとって依然として法外な価格設定と言えるでしょう。


 TERはセネガル初の電化路線であると同時に、同国初の標準軌路線(1435mm)という特徴を持っています。というのも、この国における既存の鉄道網は(当然ながら)軌間1メートルのメーターゲージを採用しているからです(編訳者注:フランス語圏のアフリカではメーターゲージを採用している鉄道が多い)。

 アルストム製の列車が最高時速160kmで走行できる2本のTER路線に加えて、同路線の隣接部には貨物列車用のメーターゲージ路線も敷設されていますが、さらに同路線をもう1本増設するスペースも残されています。このことは、セネガルが貨物輸送用に既存の貨物列車をそのまま活用できることを意味しています。つまり、わざわざ新しい標準軌の車両を購入する必要がないというわけです。

 左側には2本の標準軌路線が、右側には貨物列車用のメーターゲージ路線と2本目の貨物線路用のスペースが見える。

 セネガル向けの「コラディア・ポリバレント」は、アルストム社が設計・製造した電気・ディーゼル両用車両(EDMU)です。[4] この列車は4両編成で、1等車と2等車に分かれており、最大収容人数は約400名となっています。[5]

 EDMUには充実した空調システムが搭載されている点は大いに注目すべき特徴と言えます。
なぜならば、これはサハラ以南のアフリカにおけるあらゆる公共交通機関にとって不可欠な設備でありながら、旧式列車の大半には備わっていないものだったからです。

 また、「コラディア・ポリバレント」は(主に欧州で製造される新世代の列車に一般的に見られる規格の)低床構造 を採用したことで、特に身体の不自由な乗客にとって、車内への乗り降りがより容易なものとなっています。


 TERの開通に先立ち、セネガルは1987年にダカールとティエスを結ぶ通勤鉄道「Petit train de banlieue (PTB) 」の運行を開始しました。PTBは現在も運行されており、2010年代初頭にインドから導入した空調付きディーゼル気動車(DMU)が使用されています(編訳者注:PTBは2016年には廃止されたとのこと)。[6]

 新型の「コラディア・ポリヴァレント」EDMUに比べれば快適性はかなり劣るものの、それでも、これらの気動車(DMU)は今なおセネガルで最も近代的な列車の一つであり続けています。これは、この国が公共交通分野で成し遂げた進歩を明確に示している事例と言えるでしょう。

 ちなみに、セネガルでは首都ダカールにバス高速輸送システム(BRT)を導入する計画も立てられています。これは、首都の混雑した道路でスペースを奪い合い、大気汚染の源となっている小型バスに取って代わるものです。 [7]


 セネガルでは今でもよく見かける機関車牽引列車:PTBが運用しているDMUと同様に、これらの客車もインドから導入されたものだ。

 「地域高速鉄道(TER)」はセネガルをアフリカにおける公共交通の最先端に押し上げ、首都ダカールとその広大な郊外地域は今後数十年にわたる発展に向けて準備を整えています。TERの線路が通る場所には、新たな都市が次々と誕生していくことは、決してあり得ない話ではないでしょう。

 今後の延伸計画により、国内のさらに広範な地域をカバーする見込みのTERは、交通渋滞の緩和や大気汚染の削減を図りながら、セネガルの(経済的)成長を促進する上で極めて重要なアセットとなり得ます。他のアフリカ諸国の大半が同様の成果を望めるようになるのは、数年あるいは数十年先のことではないでしょうか。


 編訳者による補足:TERの第2区間( ダカール~ブレーズ・ディアニュ国際空港)は2025年12月にシステム統合試験が完了し、早ければ2026年前半に運行が開始される予定だ。[8]

[1] Senegal launches first stage of express railway line https://www.aa.com.tr/en/africa/senegal-launches-first-stage-of-express-railway-line/1364720
[2] Senegal's new commuter train makes first journey from capital Dakar https://www.reuters.com/markets/commodities/senegals-new-commuter-train-makes-first-journey-capital-dakar-2021-12-27/
[3] Senegal's new commuter train makes inaugural journey from Dakar https://youtu.be/nILd4I8Ec_0
[4] Alstom celebrates Coradia Polyvalent’s first journey in Senegal with APIX https://www.alstom.com/press-releases-news/2019/1/alstom-celebrates-coradia-polyvalents-first-journey-senegal-apix
[5] Alstom begins shipping Coradia Polyvalent regional trains for Senegal https://www.alstom.com/press-releases-news/2018/10/alstom-begins-shipping-coradia-polyvalent-regional-trains-senegal
[6] In a first, RCF to roll out AC metre gauge DMU for export http://archive.indianexpress.com/news/in-a-first-rcf-to-roll-out-ac-metre-gauge-dmu-for-export/768935/
[7] Senegal wants to introduce electric buses for public transport in the capital by 2025 https://www.africalogisticsmagazine.com/?q=en/content/senegal-wants-introduce-electric-buses-public-transport-capital-2025
※ 以下は編訳に際して参考とした資料である。
[8] TER Phase 2: Dakar–airport line completes system integration tests
https://railmarket.com/news/passenger-rail/44730-ter-phase-2-dakar-airport-line-completes-system-integration-tests?region=eu
[9] DAKAR https://www.urbanrail.net/af/dakar/dakar.htm
[10] 西アフリカ最大規模の経済特区整備計画が進むセネガル https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2018/aaefae0aaf919060.html
[11] アフリカ地域 在来鉄道を活用した都市交通改善に係る 情報収集・確認調査 ファイナルレポート 要約版 https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12375358.pdf
[12] アフリカ地域 在来鉄道を活用した都市交通改善に係る 情報収集・確認調査 ファイナルレポート https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12375366.pdf


 お知らせ2025年7月に上記本の改訂・分冊版である「The Armed Forces of North Korea Volume 1: Part 1: Korean People's Army Ground Forces Organisation, Strategy and Infantry」が発売されました。残りの巻も完成次第発売される予定です(記載情報は2025年現在のものにアップデート済み)。
 お知らせ2:2025年10月に「Volume 1: Part 2(陸軍AFV)」が発売されました。 
 
お知らせ3:2025年12月に「Volume 2(空軍)」が発売されました。
 お知らせ4:2026年2月に「Volume 3(海軍) 」が発売されました


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2025年12月14日日曜日

藁にもすがる思い:ティグレ戦争中に確認されたエチオピアへの武器移転(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年1月に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります(本国版の記事はリンク切れ)。

 エチオピアとアラブ首長国連邦、イランとの間に設けられた輸送網により、エチオピアは2021年現在進行中の紛争でティグレ防衛軍(TDF)を打ち負かすために必要な武器を全て備えることができています。

 2022年1月までに合計約140便の飛行があったにもかかわらず、窮地に立たされているエチオピア国防軍(ENDF)にどのような種類の武器や装備が届けられたかについては、ほとんど知られていません。[1]

 これは、ENDF全体に(兵士が装備の写真を撮ることを禁止するような)強力な作戦保全(OPSEC)の規則が徹底されていることが原因というわけではないようです。そもそも、ティグレ戦争勃発前のエチオピアは適切なOPSECの遵守が緩く、私たちのようなアナリストが歓迎していた事実があります。

 現在進行中のティグレ戦争の流れを変えるため、エチオピアは乏しいリソースの大半を世界各国からの無人攻撃機(UCAV)の入手に費やしています。これには、2021年8月に少なくとも2機の「モハジェル-6」を引き渡したイラン、2021年9月に3機の「翼竜I」を納入した中国、2021年11月にハラールメダ空軍基地に少なくとも6機の「翼竜I」を配備したアラブ首長国連邦が含まれます。[2] [3] [4]

 また、UAEが引き渡した複数のVTOL型UCAVもエチオピアで使用され続けています。[5]

 ただし、ENDFに引き渡された陸戦兵器については全く判明していません。この国が当初から保有している装甲戦闘車両(AFV)と牽引砲のストックは、戦闘の損失とティグレ軍に奪われた約100台の戦車と約70門の火砲を補うには十分だったようです。[6]

 これとは対照的に、Eティグレ軍がティグライ地方の基地を制圧した際に、ENDFは大口径多連装砲(MRL)と誘導ロケット弾や弾道ミサイルシステムのほとんどを失っています(編訳者注:「M20」弾道ミサイルシステムは戦後に少なくとも1門残存していることが確認されている)。[7] [8]

 したがって、エチオピアの失われた戦力を埋め合わせるために、大口径ロケット砲などの装備を提供することは十分ありえることだと思われます(編訳者注:2023年に中国から23門の「PCL-181」155mm自走榴弾砲を導入したが、ロケット砲類については未確認)。

  • この一覧は、ティグレ戦争中におけるエチオピアに引き渡された武器を網羅することが狙いです。
  • 各装備名の前に付されている国旗は、生産国よりも引き渡した国を示しています。
  • 各装備名をクリックすると当該兵器の画像を見ることができます。

無人攻撃機 (UCAV)

ミサイル・誘導爆弾 (UCAV用)

車両

[1] Iran Is Still Resupplying The Ethiopian Military https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/iran-is-still-resupplying-ethiopian.html
[2] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[3] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[4] The UAE Joins The Tigray War: Emirati Wing Loong I UCAVs Deploy To Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/the-uae-joins-tigray-war-emirati-wing.html
[5] UAE Combat Drones Break Cover In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/uae-combat-drones-break-cover-in.html
[6] The Tigray Defence Forces - Documenting Its Heavy Weaponry https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-tigray-defence-forces-documenting.html
[7] From Friend To Foe: Ethiopia’s Chinese AR2 MRLs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/from-friend-to-foe-ethiopias-chinese.html
[8] Go Ballistic: Tigray’s Forgotten Missile War With Ethiopia and Eritrea https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/go-ballistic-tigrays-forgotten-missile.html


 2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)

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2025年10月17日金曜日

救世主となるか:ティグレ戦争に投入されたUAE空軍の武装ドローン

「翼竜-Ⅰ」UCAV(イメージ画像でティグレ戦争とは無関係)

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2021年11月に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです(本国版ではリンク切れ)。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 ここ数か月でエチオピア政府をめぐる情勢は驚くべき逆転劇を見せました。

 2021年10月初旬、エチオピア軍がティグライ人勢力に対して行った大規模な攻勢が壮大な失敗に終わった後、ティグレ防衛軍(TDF)は反攻を開始し、一時は首都アディスアベバの安全さえ脅かす事態に陥りました。ところが、高高度を飛行する(武装)無人機に対抗できる防空システムを全く保有していなかったTDFは、結果として衰えることなく続くドローン攻撃の圧力に屈し、2021年12月中旬にティグレ州の境界線まで撤退したのです。[1][2]

 エチオピアが保有する無人攻撃機(UCAV)については、少なくとも中国製「翼竜II」が9機、イラン製「モハジェル-6」が2機、そして多数製のUAE製VTOL型UCAVが確認されています。これらのUCAVを支援するため、2種類のイスラエル製の無人偵察機も運用されています。[3][4]

 エチオピアは2021年9月に中国から最初の3機の「翼竜-I」を受領し、その2か月後の11月にはUAEがさらに6機を配備しました。エチオピア側によるトルコ製UCAVの取得も報じられているが、未確認のままです(注:後日に「バイラクタルTB2」と「バイラクタル・アクンジュ」を導入した)。[5] [6]

 UAEによるエチオピア政府側へのUCAV配備については、2020年11月のティグレ戦争勃発当初から推測されてきました。[8]

 それにもかからず、2020年11月にティグレ州上空での作戦を遂行するため、複数のUAE軍の「翼竜」がエリトリアのアッサブ空軍基地から出撃したという繰り返し主張されている説は、いまだに証拠によって裏付けられたことがありません。ただし、そのような動きがなかったとは断言できません。ティグレの重装備に対する精密爆撃(弾道ミサイル発射機や大口径多連装ロケット砲など)が何度も行われましたが、その使用自体が彼らの動きを説明できるかもしれません。
 
 UAEが武装ドローンをエチオピアに送った最初の事例は、2021年夏に確認されました。当時、UAE製のVTOL型UCAVが、エチオピア・ティグレ州のマイチュー地区で運用されているのが確認されたのです。これらのUCAVは市販ドローンを改造したもので、120mm迫撃砲弾2発を搭載可能という特徴があります。ちなみに、以前にUAEがイエメンに投入したものと同型です。[9]

 しかし、無誘導の迫撃砲弾は「翼竜-I」や「モハジェル-6」が搭載する誘導弾に比べて精度が著しく低く、機動性を有する敵どころか静止目標に対しても限定的な効果しか及ぼさないことは言うまでもないでしょう。

 UAEによるアビー・アハメド政権への支援の質が大幅に向上したのが2021年11月のことで、この時点でUAEが少なくとも6機の「翼竜-Ⅰ」を自国の操縦要員と共にハラール・メダ空軍基地に配備しました。[6]

 エチオピア政府がティグレ人勢力の脅威に屈服する可能性があるとの情報が、UAE空軍のストックから「翼竜-Ⅰ」をエチオピアへ即時展開させた真の理由だった可能性があります。

2021年11月に撮影されたハラールメダ基地の「翼竜-Ⅰ」。画像はWim Zwijnenburgによるもの。

 急速に拡大するUCAV部隊の受け入れ体制を強化するため、エチオピア空軍は現在9機の「翼竜-Ⅰ」が配備されているハラールメダ空軍基地において、新たなインフラ整備を既に開始しています。[10]

 この整備では複数の格納庫が整備される予定であり、最終的にはハラールメダに配備されている武装ドローンの全機を収容する見込みです(注:2025年現在で新しい格納庫は滑走路東側に1棟建てられたのみである)。

 現時点の「翼竜-Ⅰ」は、基地内の格納庫や複数の強化シェルター(HAS)から運用されていると見られています。

最近の衛星画像が示すとおり、ハラールメダでは新たなインフラ建設が進んでいる。右下隅にある青い格納庫には一部の「翼竜-Ⅰ」が格納されているほか、右端には専用の地上管制局(GCS)が展開している。

 当初、エチオピア空軍は「翼竜-Ⅰ」を純粋な偵察任務に投入し、後に「TL-2」空対地ミサイル(AGM)を調達して武装ドローンとしての運用を可能にした一方で、UAE機は当初から相当量の空対地兵装を投下していました。[11]

 これらの誘導弾については、特に各「翼竜-Ⅰ」が「ブルーアロー7」を2発しか搭載できないことを考慮すると、戦場に分散したティグレ人戦闘員の集団に対しては効果が低いものの、TDFの急速に減少する火力支援アセットは、同軍の通常戦による戦闘遂行能力及び進行中の攻勢支援能力に重大な影響を与えたに違いありません。

 ドローン攻撃が与える心理的効果と、戦闘員が頭上を飛ぶ武装ドローンを目視しながらも攻撃目標にできなかった事実は、TDFが攻勢を放棄してティグレ州へ撤退する決断にも影響を与えたと思われます。


ドローン攻撃で撃破されたTDFの「T-72B1」。戦車に命中したミサイルが内部で大規模な爆発を引き起こし、砲塔を吹き飛ばしたようだ。

 UAE空軍の「翼竜-Ⅰ」6機がエチオピアに配備されて僅か1か月後、UAEはティグレ州アラマタ地区における民間インフラへの空爆を実施しました。この空爆では町の病院と市場が攻撃され、42名の民間人が死亡し、少なくとも150名が負傷したことが確認されています。[12][13][14]

 アラマタにおける被害地域を詳細に分析した結果、中国製「ブルーアロー7」AGMの残骸が発見されました。これはUAEの「翼竜-Ⅰ」に標準装備されているものです。この残骸は着弾後も充分に残存していたため、リビアで発見された同ミサイルの残骸と比較対照・特定することができました。最も識別しやすい部品は尾部にあるロケットモーター用の排気ノズルで、あらゆる衝撃に耐えて残存するケースが多いようです。アラマタにおけるこのAGMの残骸は、こちらで確認できます。[15]

アラマタで発見された「ブルーアロー7」AGMの排気ノズル(左)とリビアで発見された同AGMの残骸(右)。

アラマタで発見された「ブルーアロー7」AGMの残骸。挿入されている画像はリビアで回収された同ミサイルの残骸を示している。

[1] Ethiopia's Tigray crisis: Citizens urged to defend Addis Ababa against rebels https://www.bbc.com/news/world-africa-59134431
[2] Tigrayan Forces Retreat in Ethiopia https://www.crisisgroup.org/africa/horn-africa/ethiopia/horn-s3-episode-5
[3] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[4] The Israel Connection - Ethiopia’s Other UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/the-israel-connection-ethiopias-other.html
[4] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[5] The UAE Joins The Tigray War: Emirati Wing Loong I UCAVs Deploy To Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/the-uae-joins-tigray-war-emirati-wing.html
[7] Ethiopia-Turkey pact fuels speculation about drone use in Tigray war https://www.theguardian.com/world/2021/nov/04/ethiopia-turkey-pact-fuels-speculation-about-drone-use-in-tigray-war
[8] Are Emirati Armed Drones Supporting Ethiopia from an Eritrean Air Base? https://www.bellingcat.com/news/rest-of-world/2020/11/19/are-emirati-armed-drones-supporting-ethiopia-from-an-eritrean-air-base/
[9] UAE Combat Drones Break Cover In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/uae-combat-drones-break-cover-in.html
[10] New Drone Infrastructure Emerges At Harar Meda Air Base https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/new-drone-infrastructure-emerges-at.html
[11] Ethiopia Acquires Chinese TL-2 Missiles For Its Wing Loong I UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/ethiopia-acquires-chinese-tl-2-missiles.html
[12] UAE Implicated In Lethal Drone Strikes In Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/uae-implicated-in-lethal-drone-strikes.html
[13] Daily Noon Briefing Highlights: Ethiopia https://www.unocha.org/story/daily-noon-briefing-highlights-ethiopia-34
[14] Ethiopia: Consecutive days airstrikes in Tigray’s Alamata kill 42 civilians, injure more than 150, cause massive destruction https://globenewsnet.com/news/ethiopia-consecutive-days-airstrikes-in-tigrays-alamata-kill-42-civilians-injure-more-than-150-cause-massive-destruction/
[15] ደብዳብ ድሮናትን ነፈርትን ከተማ ኣላማጣ https://youtu.be/CTgtrGqmXUg?t=204


 2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)

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2025年9月6日土曜日

医療外交:COVID-19対策でアフリカに寄贈されたアメリカの野戦病院を衛星画像で見よう


著 ファルーク・バヒー in collaboration with シュタイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年2月11日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックが世界中の国々で猛威を振るっています。(この記事の執筆時点で)全世界でのCOVID-19による死者は約700万人に上っていますが、要請検査の実施率や死因の特定困難を踏まえると、実際の犠牲者はさらに多いと思われます。そして、COVID-19はパンデミックとの闘いで他国を支援しようとする世界の大国間での覇権をめぐる争いも勃発させました。アフリカのパンデミック対策では中国とアメリカが中心的な役割を果たし、この大陸に大量の支援を提供しています。その支援の大部分は移動式野戦病院であり、アフリカ諸国はこれによって、最も被害の深刻な地域に最最高水準の病院を迅速に展開する能力を獲得したのです。

 2020年、米アフリカ軍司令部(AFRICOM)は、中国がとても及ぶことができない規模の野戦病院の寄贈することによって、アフリカにおけるCOVID-19との戦いの取り組みを開始しました。収容能力が30床から35床、または40床の規模を誇る負圧設備を備えた軍用規格の野戦病院は、通常は1か国につき1セットが寄贈されましたが、一部には2セットを提供された国もあります。北アフリカのアルジェリアからアフリカ大陸の最南端にある南アフリカまで、合計15か国のアフリカ諸国が、アメリカの戦略の一環として野戦病院を受け取ることにしました。

 ところで、アメリカがアフリカに大規模な野戦病院を寄贈したのは今回が初めてではありません。過去には、ルワンダ、セネガル、ガーナ、ウガンダなどが、2019年にアメリカが実施した「アフリカ平和維持早期対応パートナーシップ(APRRP)」の一環として、最初に野戦病院を受け取っています。同プログラムは、アフリカ諸国が必要に応じて災害に適切な対応ができるよう、医療能力の向上を支援することを目的としたものでした。2019年のプログラムで受け取った野戦病院については、2020年と2021年に同一の国が新たに受け取った野戦病院と共に、COVID-19対策に活用されています。


 南アフリカは、アメリカから野戦病院を最初に受け取った国でした。この40床の収容能力を有する病院は、この国で最も被害の甚大な都市の一つであるマフィケングにある総合病院の隣に展開されました。



 アンゴラは提供された40床の野戦病院を沿岸の町であるソヨに展開しました。



 ブルキナファソは40床の野戦病院を受け取り、首都ワガドゥグーの「殉教者の記念碑」の隣に展開させました。



 ジブチも40床の野戦病院を受け取り、首都ジブチ市の保健省の近くに展開させました。



 ガーナは30床の野戦病院を受け取り、首都アクラのサッカースタジアムに展開させました。



ニジェールは40床の野戦病院を受け取り、首都ニアメーの第3駐屯地に展開させました。



 ナイジェリアは40床の野戦病院を受け取り、首都アブジャにある総合病院の隣に展開させました。



 チュニジアは30床の野戦病院2セットを受け取り、そのうち1セットは首都チュニスにある総合病院の隣に展開されました。



 ウガンダは2019年のAPRRPプログラムの下で2セットの野戦病院を受け取りました。そのうち1セットについては、後に首都カンパラ近郊のウガンダ人民防衛軍(UPDF)司令部に展開されました。



 セネガルはAPRRプログラムの一環として受け取った野戦病院をトゥーバ市に展開させました。



 ルワンダは2019年のAPRRプログラムに基づいて受け取った野戦病院を、首都キガリの基地に展開させました。



 このほか、アルジェリアは2021年に35床の野戦病院を受け取りました。衛星画像によると、この野戦病院はブリーダ市の軍用保管施設に1か月未満の期間で展開され、その後別の場所へ再配置されたか、あるいは保管状態に入った可能性があります。アメリカから野戦病院を受け取った他の国にはケニア、エチオピア、モーリタニアが含まれます。このうちモロッコについては、2022年初頭に野戦病院を受け取る予定です。


 アメリカが野戦病院を寄贈しただけでなく(医療などに伴って)必要とされる技能などの訓練と専門家を提供したことは、同国が依然としてアフリカ大陸に極めて大きな関心を持ち続けており、この関心を具体的な援助で証明するための手段を有していることを示しています。このことは、(例えばフランスのような)アフリカに歴史的な関心を抱いてきた別の国々がパンデミック期間中に全く存在感を示さなかった時期と重なっている点にも注目するべきではないでしょうか。


改訂・分冊版が2025年に発売予定です(英語版)

 2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)