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2022年2月22日火曜日

イカサマだらけの偽旗:ウクライナ東部における偽旗作戦で失われた兵器類(一覧)


著:ステイン・ミッツアー in collaboration with Dan, Jakub Janovsky と COIN(編訳:Tarao Goo)

 ロシアと同国が支援する分離主義勢力(自称ドネツク人民共和国:DNRと自称ルガンスク人民共和国:LNR)の部隊はロシア軍によるウクライナ侵攻の口実をでっち上げるため、2022年2月中旬からウクライナ東部で数多くの偽旗作戦を実施し続けています。

 ロシアは長い間にわたって、自国や友邦を犠牲者として演じ、(例えば「MH17」撃墜事件の)責任を逃れ、混乱を引き起こし、戦争の口実を作り出すために、そのような偽旗作戦を実施してきました。

 典型的なロシアのやり方では、これらの作戦は、ほとんどのロシアによる情報戦に特有と思しき未熟な手法で行われているようです。[1]

 特にウクライナ東部での偽旗作戦には、「ウクライナの破壊工作員がロシアに潜入した」というものが含まれています。[2]

 (潜入作戦に参加したとされるウクライナ兵のヘルメットに装着されたアクションカム映像について)撮影された映像の位置情報から、ロシア領への侵入は分離主義勢力の支配地域から行われたことが判明し、公開から1時間以内にこの話はフェイクであると暴かれました。(注:位置情報は座標以外にも建物や地理的特性からも特定可能です。いわゆるジオロケート)。[3]

 ロシアはこの潜入の撃退の結果として殺害したとされる5人のウクライナ兵の遺体を見せる代わりに、ウクライナ軍の車両に見えるようによく考えられずに塗装された「BTR-70M」装甲兵員輸送車(APC)の残骸を公開しました。[4]

 皮肉なことに、ウクライナは「BTR-70M」を運用していないため、このような偽旗作戦にどの程度注意が払われているのか(または適当であること)をさらに示しています。

 その他の偽旗作戦には、自動車の爆破やロシアと分離主義勢力の当局が公表する数日前に撮影されたことを示すタイムスタンプが付された住民避難計画の動画すら含まれています。[5]

 これらの全作戦に共通する傾向としては、偽旗作戦がロシアを有利にするどころか、本格的な「のけ者国家」になる道へいっそう推し進めていると言えるでしょう。

 自軍の車両をウクライナのように見せてから、ひどいやらせの「挑発行動」に登場させた後に有り余るほどの証拠を残しながらその車両を爆破するというのは、まさに茶番でイカサマに満ちた「偽旗」を明らかにしていることに疑いの余地はありません。

(各装備名に続く数字をクリックすると、ロシアの偽旗作戦で破壊されたロシアまたは分離主義勢力の車両の画像が表示されます)


ロシアとドネツクまたはルガンスク州における分離主義勢力が「損失」した兵器・装備類

 
装甲戦闘車両(3台、そのうち破壊されたもの: 3台)

ソフトスキン車両 (2台, そのうち破壊されたもの: 2台)

最終更新日:2022年2月22日

[1] How GRU Sabotage and Assassination Operations in Czechia and Bulgaria Sought to Undermine Ukraine https://www.bellingcat.com/news/uk-and-europe/2021/04/26/how-gru-sabotage-and-assassination-operations-in-czechia-and-bulgaria-sought-to-undermine-ukraine/
[2] Russian border security eliminates five saboteurs infiltrating from Ukraine https://tass.com/emergencies/1407169
[3] https://twitter.com/EliotHiggins/status/1495775073906610180
[4] https://twitter.com/NotWoofers/status/1495890957048418316
[5] https://twitter.com/EliotHiggins/status/1494783522682425344

※  当記事は、2022年2月21日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
  ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
  があります。



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2022年1月18日火曜日

「ピース・キーパー」となるか?:ウクライナの「バイラクタルTB2」



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ウクライナ東部での紛争地域で分離主義勢力である自称「ドネツク人民共和国(DNR)」の榴弾砲をウクライナがドローン攻撃をしたことは、いくつかの国にドンバス戦争における無人戦闘航空機(UCAV)の使用について懸念を表明させるまでに至りました。[1]

 興味深いことに、懸念を表明したのはドイツやフランスであり、これらの国々にロシアは含まれていませんでした。[2] [3]

 2021年10月26日に実施されたこの攻撃以来、ウクライナとロシアの緊張はここ数年で最も高くなっており、ウクライナとの国境付近に大規模なロシア軍部隊の増強が依然として継続中のため、全面戦争が差し迫っている可能性について懸念を引き起こしています。[4]

 ウクライナは「バイラクタルTB2」を用いて分離主義勢力の「D-30」榴弾砲を無力化したことで、彼らを支援するモスクワへ警鐘を鳴らしたようです。

 ウクライナ東部の分離主義勢力は、現時点で高高度を飛行する「バイラクタルTB2」に効果的に対抗できる地対空ミサイル(SAM)システムを保有していません。

 過去にロシアはウクライナ東部に「トール-M1」「パーンツィリ-S1」、そして「ブーク-M1」を配備することでDNRの防空戦力を増強したことがありますが、これが2014年7月のマレーシア航空17便の撃墜という悲劇につながったため、これらの配備を繰り返す決定が軽視されることはないでしょう。[5]

 現代的なSAMを保有していない分離主義勢力の部隊については、その不足分以上のものをロシア軍が電子戦(EW)装備でカバーしており、「クラスハ-2」「レペレント-1」を含む最先端のEWシステムをウクライナ東部に前身配置させています。[6]

 ただし、これらのシステムはナゴルノ・カラバフにおける戦闘でTB2の運用を妨害できないことを実証したため、同様にこれらがウクライナのいかなる地域を飛ぶTB2に深刻な危険をもたらすことを示唆する理由はほとんどありません。[7] [8]

 このことは、ウクライナによるTB2の使用が、全面戦争へと激化させる材料となるロシアの防空システムや戦闘機の大規模な投入によってしか阻止できないというきっかけとなる可能性を暗示しています。

 また、これはドンバス戦争におけるTB2の投入が、基本的にロシアによる紛争の深刻な激化という脅威の下での報復攻撃に制限されることも意味しています。この点を考慮すると、ウクライナによるTB2の使用が、実はロシア・ウクライナ間の戦争を安定化させる要素となる可能性があると主張することができます。

 榴弾砲への空爆では人命の損失をもたらさず、ウクライナ軍との砲撃戦に発展する事態を防ぎました。さらに、この空爆は分離主義勢力に対して、今後のいかなる挑発も「バイラクタルTB2」を再度使用する可能性があるという警告として機能し、今後の武力挑発の制限に大きく貢献してくれるかもしれません。

 ドローン攻撃による武力挑発に対する警告は、TB2のオペレーターが陣地に配備された3門の榴弾砲のうち1門だけを攻撃したという事実からも証明されています。この判断は、明らかに分離主義勢力に砲撃を中止させるための相応の警告と考えられます(注:警告でなければ、ウクライナは1門ではなく3門全部を破壊したでしょう)。

 ロシアとの全面戦争が始まることで引き起こされる人道面での大惨事は、ウクライナ側にTB2を(現時点では明らかに検討から外されている)分離主義勢力が支配する地域の奪還や保有する大砲を破壊するための試みといった報復攻撃以上での使用を思いとどまらせるには十分でしょう。

「MAM-C」誘導爆弾によって破壊される直前のDNR軍の「D-30」榴弾砲。空爆を受けなかった別の「D-30」が右下に映っていることに注目。

 ロシアは「このような武器(TB2など)がウクライナ軍に引き渡されることで、交戦ラインの状況が不安定になる可能性がある」旨を主張しています。[9]

 その一方で、トルコは、ウクライナの「バイラクタルTB2」がどのように使われようと責任を負わないという立場をとっています。

 ウクライナへのTB2納入に関するロシアの非難に対して、トルコのメヴリュット・チャヴシュオール外務大臣は「もし、とある国家が我々から(兵器を)購入すれば、それはもはやトルコの製品ではありません。それはトルコで製造されたかもしれませんが、ウクライナに属しています。トルコはこれ(使用)について非難することはできないのです」と反論しています。[10]

 トルコ南東部のクルド労働者党(PKK)部隊に使用されることを懸念したアメリカや欧州から武器調達を頻繁に阻止されてきたトルコが、他国に自国製兵器を配備できる・できないといった制限を課す可能性は低いと思われます。

 ロシアは歴史的に地域の不安定な状況を防ぐことに少しも配慮を示したことがありません。実際、ロシアはキプロス(注:キプロス共和国)に「S-300PMU-1」地対空ミサイル(SAM)システムを装備させようとした1990年代後半に、このキプロスにおけるS-300危機の中心にありました。

 トルコが「S-300」を引き渡さないよう嘆願したにもかかわらず、ロシアはキプロスへの売却については何ら干渉を受けることなく進めると繰り返し主張し、キプロスとトルコの間の緊張状態を戦争に差し迫った段階にまで高めてしまったのです(注:キプロス島は国際的に承認された「キプロス共和国」とトルコが支援する「北キプロス・トルコ共和国」の南北に分断されており、武力衝突が頻繁に繰り返されています)。[11]

 ロシアは「S-300」の引き渡しが地域のバランスを大幅に激変させるというトルコの懸念には屈服する意思が全く無いことを示し、最終的にキプロスが島へ「S-300」の配備に反対する決定をしてこの危機が回避されたのでした。

 それから約20年後の2018年、ロシアはイスラエルから「このような兵器の引き渡しは脆弱な地域をさらに不安定にする可能性がある」旨の抗議を受けたにもかかわらず、キプロスと同じ状況下でシリアに「S-300」を引き渡しました。[12]

キプロスに引き渡されるはずだった「S-300PMU-1」中隊は現在ギリシャのクレタ島に配備されています。このSAMはキプロス政府が自国への配備に反対したことを受け、最終的にこの島に行き着きました。

 2019年以降、ウクライナは空軍と海軍航空隊に少なくとも12機の「バイラクタルTB2」を配備していますが、2021年9月には、今後数年で24機のTB2を追加購入する計画であることを明らかにしました。[13][14]

 ウクライナは、有人戦闘機にかかるコストのほんの一部しかかからないUAVに自国軍の近代化を大きく委ねています。空軍の老朽化した作戦機を代替して現実的な抑止力を構築するには、武装したドローンの導入が唯一の現実的な方法と思われ、将来的には「バイラクタルTB2」の追加購入や新型の「アクンジュ」を導入することが予想されます。トルコは、まさにこの点でウクライナを支援する意向があるようです。

 今や差し迫った戦争の話題でもちきりですが、ウクライナ東部での紛争は平和的な手段のみによって現実的に対処できると考えます。しかし、より長期的な平和をもたらす紛争が実際に解決されるにはまだ何年も先のことになる可能性が高く、その間も挑発行為が間違いなく続くでしょう。

 ウクライナによるドローン攻撃の脅威は、分離主義勢力に大砲の使用を含む今後のいかなる武力挑発の実行を思いとどまらせる可能性がある一方で、東部の国境沿いに展開するロシア軍の存在は、ウクライナにTB2を用いた独自の挑発行為を行わせないようにする強い抑止力として機能しています。

 ウクライナとロシアは、本質的にウクライナ東部の状況に関して膠着状態にあります。

 ここ最近の緊張の高まりは戦争の脅威の激化に大いに貢献しており、平和的解決に向けた交渉をより興味深いものにしています。

 一部のアナリストや世界中の紛争ウォッチャーはウクライナ東部でナゴルノ・カラバフのシナリオが繰り返されることを想定しているかもしれませんが、ウクライナを飛ぶ「バイラクタルTB2」の存在は予想とは反対に平和の維持に大きく貢献する可能性があるのです。



[1] Перше застосування "Bayraktar" на Донбасі проти артилерії найманців https://youtu.be/XEY4qPO1ffU
[2] Ukraine Angers Russia by Buying Turkish Drones and Wants To Get Its Hands On More https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-12-03/ukraine-buys-more-armed-drones-from-turkey-than-disclosed-and-angers-russia
[3] Ukraine - Q&A - (28 Oct. 2021) https://www.diplomatie.gouv.fr/en/country-files/ukraine/news/article/ukraine-q-a-28-oct-2021
[4] Baptism By Fire - Ukraine’s Bayraktar TB2 See First Use https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/baptism-by-fire-ukraines-bayraktar-tb2.html
[5] Tor series surface-to-air missile systems in Ukraine https://armamentresearch.com/torsam-ukraine/
[6] Latest from the OSCE Special Monitoring Mission to Ukraine (SMM), based on information received as of 19:30, 10 August 2018 https://www.osce.org/special-monitoring-mission-to-ukraine/390236
[7] Aftermath: Lessons Of The Nagorno-Karabakh War Are Paraded Through The Streets Of Baku https://www.oryxspioenkop.com/2021/01/aftermath-lessons-of-nagorno-karabakh.html
[8] Russian Electronic Warfare Systems Cannot Beat Bayraktar UAVs: Baykar https://www.defenseworld.net/news/29086/Russian_Electronic_Warfare_Systems_Cannot_Beat_Bayraktar_UAVs__Baykar#.YMfJ-kxcKUl
[9] Turkish strike drone deliveries to Ukraine may destabilize Donbass situation — Kremlin https://tass.com/world/1354633
[10] Turkey Says Cannot Be Blamed for Ukraine’s Drone Use https://www.thedefensepost.com/2021/11/01/turkey-ukraine-drone-use/
[11] Cyprus bows to pressure and drops missile plan https://www.theguardian.com/world/1998/dec/30/cyprus
[12] Three Russian S-300PM battalion sets delivered to Syria free of charge — source https://tass.com/defense/1025020
[13] Black Sea Hunters: Bayraktar TB2s Join The Ukrainian Navy https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/black-sea-hunters-bayraktar-tb2s-in.html
[14] Ukraine to buy 24 more Turkish Bayraktar TB2 UCAVs https://www.dailysabah.com/business/defense/ukraine-to-buy-24-more-turkish-bayraktar-tb2-ucavs

※  当記事は、2022年1月7日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2022年1月15日土曜日

パフォーマンス・チェック:ウクライナの「バイラクタルTB2」



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ウクライナのトルコ製「バイラクタルTB2」の導入とその後の実戦投入は、ウクライナ東部の分離主義勢力と(DNR:ドネツク人民共和国とLPR:ルガンスク人民共和国に広範囲にわたる軍事支援を提供してきた)ロシアにとって重大な懸念事項となっています。

 ウクライナ東部の分離主義勢力部隊は、ロシアから供与されたかなりの数の対空砲や「9K33 "オーサ-AKM (NATOコード:SA-8)"」「9K35 "ストレラ-10 (SA-13)"」 を含む地対空ミサイルをを運用していますが、これらの大部分は高度約5kmの頭上を飛行する「バイラクタルTB2」のようなUCAVを標的とするための有効射程距離と高度に到達する能力を持っていません。

 しかし、分離主義勢力部隊の防空戦力は短距離SAMシステムだけで構成されていると考えるのは誤りであり、彼らが支配するウクライナ東部には防空戦力のギャップを埋め合わせをするための「クラスハ-2」「レペレント-1」といったロシアの電子戦(EW)システムが多数配備されています。

 ただし、アルメニア軍で運用されていたロシアの最新鋭のEWシステムでさえ、ナゴルノ・カラバフ上空の「バイラクタルTB2」との戦闘で成功を収めなかったことを考えると、現時点でこれらがウクライナ全域におけるTB2の運用に深刻な危険をもたらすことを示唆する理由はほとんどありません。[2] 

 将来的にウクライナ東部の状況がエスカレートした場合、ロシアは「自国軍のSAM」をこの地域に配備する可能性があります。実際、2014年の時点でロシアはすでにウクライナ軍の「Su-24」と「Su-25」に頻繁に狙われていた分離主義勢力部隊へ「防空の傘」を提供するべく「パーンツィリ-S1」「トール-M1」「ブーク-M1」をウクライナ東部に配備したことがあります。[3]

 これらのSAMは先述の敵機をいくらか撃墜することに成功したものの、そのより高度な最新モデルは、シリア、リビア、ナゴルノ・カラバフにおいてTB2にほとんど無力であることが実証されました。

 したがって、ロシアが直面している課題は、現時点でウクライナ東部に配備されている防空・EWシステムではTB2の運用を阻止できないと思われることだけでなく、より最新のシステムでさえTB2などのUCAVに対抗することが同様に困難である可能性があるということです。

ロシアが供与した9K33/SA-8「オーサ-AKM」(2021年5月、ルガンスクでの軍事パレードにて)

ドネツクの9K35/SA-13「ストレラ-10」 (SA-13) :これも9K33と同様にロシアから供与された

 ロシアはこれ以上なく矛盾した2つの公的な立場をとり続けています。

 一方では、ウクライナへの「バイラクタルTB2」の納入がモスクワを憤激に至らせており、彼らに「このような武装(TB2)をウクライナ軍へ引き渡すことは、潜在的に最前線の状況を不安定にするかもしれない」と主張しています。[4]

 もう一方では、モスクワはTB2の成功を頻繁に軽視しようとしており、ウクライナ東部における分離主義者の支配地域に存在する防空システムでTB2に対抗できると主張しています。[5]

 ロシア国営放送のインタビューで、ロシア航空宇宙軍・対空ミサイル部隊の副司令官であるユーリ・ムラフキン大佐は「バイラクタル(TB2)は、平均的なスキルを持つオペレーターでさえも撃墜することが難しくないほどの速度と質量及び寸法上の特性を持っている」と「バイラクタルTB2」は防空システムにとって実際に撃墜するのが容易な標的であると述べ、彼はシリアとリビアに配備された「パーンツィリ-S1」が40機以上のTB2とTAI「アンカ」を撃墜したとも主張しました(リビアとシリアで喪失を裏付ける視覚的証拠があるTB2と「アンカ」は19機だけです)。[6]

 これに続けて、ムラフキン大佐は、TB2について「非常にお手軽な目標であり、パーンツィリにとって非常に魅力的なものだ」とも言い切りました。シリアとリビアで11基の「パーンツィリ-S1」が撃破されたことが目視で確認されたことの弁明で、ムラフキン大佐は単純にパーンツィリが作動状態になかったか、オペレーターなどの乗員が不在であったためだと説明しました。 [7]

 これは明らかに真実ではなく、このような発言は国内の視聴者を喜ばせることを目的としていると考えられます。[8]

 現実には、「パーンツィリ-S1」、「トール-M2」、そして「ブーク-M2」を含む自国製の防空システムの大部分と交戦できるTB2の能力を目の当たりにしたロシアは、TB2のようなUCAVに効果的に対抗するための新たな解決策を考え出す必要に迫られています(ただし、TB2による「ブーク-M2」の撃破は未だに視覚的に確認できていません)。[9]


バイラクタルTB2によって撃破されたロシア製地対空ミサイル(SAM) システム (37)

 ロシアでは、敵対国の兵器システムの出来栄えを軽視し、自国の軍事装備の成果を誇張するのが慣習となっています。

 2018年4月にアメリカ、フランス、イギリスがシリア軍によるドゥーマ市街への化学兵器攻撃の報復として一連の巡航ミサイル攻撃を行った際、ロシアはシリアの防空システムが飛来した103発の巡航ミサイルのうち71発の迎撃に成功したと主張しました。[10]

 それでも、明らかに戦果を誇示する機会があったにもかかわらず、撃墜したとされるミサイルの残骸は1発も公開されることはありませんでした。[10]

 アメリカは発射した全ミサイルが目標に命中したと断言した一方で、シリアの防空部隊が発射した40発のミサイルは全弾が無駄に終わったとの認識を示しました。興味深いことに、大半の地対空ミサイルは最後の巡航ミサイルが標的に着弾した後に発射されたとのことです。[11]

リビア国民合意政府の部隊が制圧したアル・ワティーヤ空軍基地で鹵獲されて移送中の「パーンツィリ-S1」。このシステムは後にトルコに引き渡され、徹底的に検査やテストされたことは確実と思われます。

 ほぼ間違いなくSAMよりも散々たるものだったのは、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争においてアルメニア側で使用されたロシア製電子戦(EW)システムの能力でした。アルメニアのニコル・パシニャン首相はロシアから導入したばかりの(「レペレント-1」と思しき)EWシステムについて、「それは単に機能しなかったのだ。」と厳しい批判の声を上げました 。

 このような事例に関して「使用されたシステムが旧バージョンだった」や「オペレーターの訓練が不十分だった」という(輸出された防空システムの損失を説明するロシア側の主張と同様の)反論があるかもしれませんが、実際のところ、アルメニアが使用したEWシステムは現在ロシアが売り込んでいる最新のシステムなのです。


バイラクタルTB2に対して使用されたが効果を発揮しなかった電子妨害・攪乱システム

ヴォロネジでロシア兵たちがEWによる「バイラクタルTB2」との戦闘を想定した訓練で説明を受けている

 現代戦の現実に順応できていないロシアとアナリストの双方は、最新の防空・EWシステムに直面した「バイラクタルTB2」の成果と潜在力を頻繁に軽視しようと試みています。

 しかし、そのようなUCAVによってもたらされる脅威は非常に現実的なものです:シリア、リビア、そしてナゴルノ・カラバフでの作戦は、最新の防空システムが「UCAVに対抗できるのか、またはその任務を大幅に妨害できるのか」という深刻な疑問を世に投げかけています。

 同じシナリオがウクライナ東部で展開される可能性は決してあり得ないことではありません。高性能の防空システムや戦闘機をこの地域に大規模に投入することだけが、現在発生している戦力バランスの著しい転換の逆転に大いに貢献することでしょう。

 忘れがちですが、ウクライナと分離主義勢力の武力衝突は現在も続いています。冷静な判断によって、この紛争が(最近噂されている)ロシアとの大規模な戦争に発展しないことを祈るばかりです。



[1] Latest from the OSCE Special Monitoring Mission to Ukraine (SMM), based on information received as of 19:30, 10 August 2018 https://www.osce.org/special-monitoring-mission-to-ukraine/390236
[2] Aftermath: Lessons Of The Nagorno-Karabakh War Are Paraded Through The Streets Of Baku https://www.oryxspioenkop.com/2021/01/aftermath-lessons-of-nagorno-karabakh.html
[3] Russian 96K6 Pantsir-S1 air defence system in Ukraine https://armamentresearch.com/russian-96k6-pantsir-s1-air-defence-system-in-ukraine/
[4] Turkish strike drone deliveries to Ukraine may destabilize Donbass situation — Kremlin https://tass.com/world/1354633
[5] Drones Could Tip Balance In Ukraine War — For Russia https://www.forbes.com/sites/davidhambling/2021/12/02/how-drones-could-tip-balance-in-ukraine-russia-conflict/
[6] Russian Pantsir Systems Shot down 40 Turkish Drones over Syrian, Libya https://www.defenseworld.net/news/31022/Russian_Pantsir_Systems_Shot_down_40_Turkish_Drones_over_Syrian__Libya
[7] VIDEO: This is how the Russian anti-aircraft system Pántsir-S works against drones https://marketresearchtelecast.com/video-this-is-how-the-russian-anti-aircraft-system-pantsir-s-works-against-drones/230858/
[8] Here are just two examples of Pantsir-S1s being struck while their radar is active: https://twitter.com/RALee85/status/1263104642315104256 and https://twitter.com/clashreport/status/1234952336319143938
[9] https://twitter.com/clashreport/status/1234933018978111492
[10] Russia: Syria air defence intercepted 71 missiles https://www.aljazeera.com/news/2018/4/14/russia-syria-air-defence-intercepted-71-missiles
[11] Allies dispute Russian and Syrian claims of shot-down missiles https://www.theguardian.com/world/2018/apr/14/allies-dispute-russian-and-syrian-claims-of-shot-down-missiles
[12] Russian Electronic Warfare Systems Cannot Beat Bayraktar UAVs: Baykar https://www.defenseworld.net/news/29086/Russian_Electronic_Warfare_Systems_Cannot_Beat_Bayraktar_UAVs__Baykar

※  当記事は、2021年12月29日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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バルト諸国でのビジネス:ラトビアが「バイラクタルTB2」に興味を示す

2021年10月29日金曜日

火の洗礼:ウクライナの「バイラクタルTB2」が実戦デビューした



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2021年10月26日にアップロードされた動画は、武力紛争を観察する人々にとっては、あまりにも見慣れた光景:「バイラクタルTB2」が地上の無防備な敵を攻撃している状況を映し出しています。[1]

 TB2によって実施された過去のドローン攻撃との違いは、今回の攻撃がウクライナ東部で行われたことです。2019年にウクライナにTB2が引き渡されてされて以来、東部で最初に実施された攻撃です。

 ドローンの攻撃目標は特に目新しいものではありませんでした:分離主義勢力の部隊によって運用されている1門の「D-30」122mm榴弾砲です。この榴弾砲の破壊に成功したことで、ナゴルノ・カラバフ、シリアに続き、現在のウクライナでTB2によって破壊された「D-30」が56門となったことを記録しました。

 伝えられるところによれば、今回のドローン攻撃はその日の早い時点でドネツク州のHranitne村が「D-30榴弾砲」で砲撃されたことに対応したものでした。

 興味深いことに、TB2は陣地に配置された3門の「D-30」榴弾砲のうち1門しか攻撃していません。この事実ではっきりと判断できることは、ウクライナがこの地域にあるドネツク人民共和国(DNR)の砲兵部隊のストックを破壊・減少させるための本格的な試みを講じたというよりも、分離主義勢力の軍隊へミンスク合意に違反しないようになされた均衡を保った警告であるということです。

 同様に興味深いのはこの攻撃に使用された爆弾の種類であり、より一般的に使用されている「MAM-L」ではなく「MAM-C」だったたようです。「バイラクタルTB2」は最大で4発の「MAM-L」または「MAM-C」で武装可能です。

 これらの非常に機動性が高いスマート爆弾は、この地域の分離主義勢力が運用する防空システムの射程距離のはるか外側である15km以上離れた位置からピンポイントで目標に命中させることができます。

 「MAM」シリーズ誘導爆弾が誇る15km以上の射程距離は破壊した「D-30」榴弾砲のウクライナの最前線からの距離(13km)よりも上回っていたこともあり、この榴弾砲を攻撃するためにTB2は分離主義勢力が支配する空域に入ることを必要としませんでした。

「MAM-C」誘導爆弾が命中した直後の哀れな運命に遭った「D-30」榴弾砲

 ドローン攻撃は、DNRが現時点で支配している地域にある(ドイツの共産主義者エルンスト・テールマンにちなんでテルマノボと呼ばれていた) Boykivskeの集落付近で行われました。

 今回の空爆では、DNR側からTB2を撃墜しようとする試みは一切なかったようです。

 ウクライナ東部の分離主義勢力の軍隊はかなりの数の対空砲や地対空ミサイル(SAM)システム:特筆すべきものとしては9K35「ストレラ-10(NATOコード:SA-13)」を運用していますが、これらのほとんどは、高度約5kmの頭上を飛行する「バイラクタルTB2」のようなUCAVを標的とするための交戦能力が欠けてます。

 しかし、分離主義勢力の軍隊の防空戦力は短距離SAMシステムだけで構成されていると考えるのは誤りであり、現在、分離独立派が支配するウクライナ東部にはロシアの電子戦(EW)システムが多数配備されています。

 ただし、アルメニア軍で運用されていたロシアの最新鋭のEWシステムでさえ、ナゴルノ・カラバフ上空の「バイラクタルTB2」との戦闘で成功を収めなかったことを考えると、これらがTB2の運用に深刻な危険をもたらすことを示唆する理由はほとんどありません。

 将来的に状況がエスカレートした場合や、ウクライナが分離独立勢力の標的を攻撃するためにTB2を使い続けた場合、ロシア軍は独自のSAMシステムをこの地域に配備する可能性があります。実際、2014年の時点でロシアはすでに「パーンツィリ-S1」「トール-M1」と「ブーク-M1」をウクライナ東部に配備したことがあり、後者はSu-25攻撃機を含む数機のウクライナ空軍機を撃墜しました。

 ロシアの防空システムが東ウクライナに配備されたことについては、ロシアの「ブーク-M1」がマレーシア航空17便を撃墜し、乗客・乗員298名が死亡した結果をもたらした後で国際的な悪評を得ました。

今回のドローン攻撃はDNR支配領域の13km内側の地点で行われました [3]

 現在、ウクライナは空軍と海軍に均等に分けられた12機から構成される「バイラクタルTB2」飛行隊を運用しています。[4]

 2021年9月には、同国が今後の数年間でさらに24機のTB2を入手し、最終的には合計で54機を導入する予定であることが明らかになりました。[5]

 また、ウクライナは無人機自体を調達するだけでなく、国内に訓練・メンテナンスセンターを設立するための契約もバイカル・ディフェンス社と結びました。[6]

 TB2の導入は、1991年の創設以来でウクライナ軍にとって最も重要な新装備の追加であり、経済的かつ現実的な実戦能力をこの国にもたらすことは間違いありません。



 今回の空爆は、ウクライナが示す新たな規範の最初の兆候となる可能性があります。これは、将来的にDNRとルガンスク人民共和国(LPR)の目標への(報復的な)ドローン攻撃への下地作りをし、必要に応じてミンスク合意を「バイラクタルTB2」で遵守させるというものです。

 「バイラクタルTB2」が未だに真の脅威に満ちた環境に直面していないという主張もありますが、TB2のようなUCAVに対抗するために特別に設計された多数のSAMや電子戦システムの中で「トール-M2」「ブーク-M2」や「パーンツィリ-S1」を無力化した今までの経験は、リビアやナゴルノ・カラバフで記録された成功がいつの日かウクライナ東部でも繰り返される可能性があることを暗示しています。

 ウクライナの東部でほとんど休止状態にある紛争がエスカレートすることはその可能性からもかけ離れていますが、この国でのTB2の活躍はきっと並外れたものになるでしょう。

 将来的な武力侵攻の有無に関係なく、TB2はキル・リストに新たな刻みを加えることができるのです。



[1] Перше застосування "Bayraktar" на Донбасі проти артилерії найманців https://youtu.be/XEY4qPO1ffU
[2] https://twitter.com/oryxspioenkop/status/1453043861115256839
[3] https://twitter.com/rexiro3/status/1453042688140394507
[4] Black Sea Hunters: Bayraktar TB2s Join The Ukrainian Navy https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/black-sea-hunters-bayraktar-tb2s-in.html
[5] Ukraine to buy 24 more Turkish Bayraktar TB2 UCAVs https://www.dailysabah.com/business/defense/ukraine-to-buy-24-more-turkish-bayraktar-tb2-ucavs
[6] UAV magnate Baykar to build centers for Turkish drones in Ukraine https://www.dailysabah.com/business/defense/uav-magnate-baykar-to-build-centers-for-turkish-drones-in-ukraine

※  当記事は、2021年10月28日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿されたものを翻訳した
 記事です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている 
 箇所が存在する可能性があります。




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2021年7月30日金曜日

あの世からの帰還:ウクライナの「トール」地対空ミサイルシステム

著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ウクライナはロシアによる東部地域への干渉という常に存在する脅威に立ち向かうために軍事力の増強を継続しており、財政支援が大幅に増加したおかげで、疲弊した保管状態の装備を徐々に再起動させることができました。
 
 その結果、トルコからの「バイラクタルTB2」UCAVや「アダ級」コルベットなどの導入だけでなく、多数の国産兵器の導入や以前から運用されている装備の改修も行われました。
 
 これらの導入によって、ウクライナは多くの問題を抱えていた軍の戦闘即応性について、ロシアとの能力差を急速に縮め、実際にいくつかの分野で敵を上回るくらいまでに回復させることができました。

 これらの偉業は少なからずウクライナの軍産複合体のおかげによるものです。彼らは数十年にわたってウクライナの余剰となった装備を改良し、海外に販売することに専念してきましたが、今では2014年のロシア・ウクライナ戦争以前にウクライナ軍が退役させた、さまざまな兵器の修復に焦点を移しています。

 しかしながら、慢性的な資金不足はウクライナ軍にT-80主力戦車(MBT)や 2S7「ピオン」203mm自走カノン砲といった敬われてきた装備の退役を余儀なくさせており、現役の旧式化した装備を代替する新しい装備の導入は遠い夢となっているのです。

 一見すると、ウクライナの防空部隊の状況もほかの部隊とほとんど変わりがありませんでした。わずか10年の間に、ウクライナ陸軍と空軍はS-125S-200S-300V2K12「クーブ」9K330「トール」地対空システム(SAM)の全ての退役を強いられ、S-300PTといったシステムもある程度の数が保管庫行きとなってしまいました。

 (S-300Vの場合は退役したばかりでしたが)これらのSAMの多くは外国への売却を期待して比較的良好な状態で保管されていたことから、ウクライナが自国軍をより強化するため、これらのシステムに目を向けたのは何ら驚くことではありません。

 これらのSAMの年式と2K12や9K330などの運用経験がある現役軍人が少ないことを考えると、それらの改修は確かに簡単なものではありませんでした。さらに、レーダーシステムなどの関連装備やミサイルも十分な数がまだ使用可能な状態であれば、それらもオーバーホールをすることも必要不可欠です。

 全ての事柄を検討してみると、ウクライナは1個の9K330連隊、2個の2K12連隊、2個のS-125連隊、1個のS-300V1旅団を復活させる可能性があります。[1]

 3つのS-200サイトの復活も想定されていましたが、活動停止中の2013年にサイトのインフラに深刻な損傷が生じたことが判明しました。この影響が現在でもS-200の現役復帰を妨げているようです。[1]

       

 「トール」系SAMの中でも最も古いタイプである9K330「トール」(NATO側呼称:SA-15)は、もともと1970年代後半に巡航ミサイルのようなレーダー反射断面積(RCS)の小さい高速で低空を飛行する目標と交戦するために開発されました。

 このSAMの運用が開始されたのは1986年で、9K330システムの9M330ミサイルは最大12kmの範囲を飛行する目標を撃破する能力があり、地上部隊に敵機に対する機動性の高い防空手段を提供します。

 9K330のレーダーに対する電子妨害を受けた際の敵機や巡航ミサイルへの照準を可能にするために、目標追尾・ミサイル誘導用レーダーのすぐ右側に電子光学式追跡装置が装備されています。

 また、「トール」は同世代のSAMのようにミサイル(8発)を発射機の外側ではなく、その内部に垂直に格納した世界で最初のSAMでした。これによって砲弾の破片に対する防御力が強化され、より大きなミサイルを搭載することを可能にしました。

 その後、継続的な改良と技術の進歩は「トールM1」と「トールM2」という派生型をもたらしました。

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争では「トール(-M2KM)」が初めて武力紛争で活躍しましたが、アルメニアによって運用されていた数少ないシステムは、頭上を飛び回るUAVの脅威に(全く)効果的に対抗できないことが証明されました。



 2017年に再登場する前に、ウクライナの9K330「トール」は過去に一度しか目撃されていません:それは2001年8月に行われたウクライナ独立10周年記念の軍事パレードでのことでした。[2]

 軍事パレードに参加した9K330は合計6台であり、この数はおそらくウクライナが保有する9K330の全量とみられています。

 ウクライナでの現役時代では、9K330はポーランドとの国境近くのヤーヴォリウに駐留する第257親衛高射砲連隊で運用されました。

 おそらくこのような少数のシステムの運用には多額の費用が伴ったため、6台の全てが2000年代初頭に段階的に退役させられてしまいました。 [3]

2001年のキエフでの軍事パレードに登場した9K330(6台のうち3台)
軍事パレードの訓練に参加中の復活から間もない9K330(上の車両と同一のもの)

 2000年代初頭に退役した後、9K330は長期間にわたる保管状態に置かれ、現役への復帰あるいは海外への売却を待ち続けていました。

 最終的には2010年代半ばのどこかで9K330を再起動させることが決定され、その後、それらはラドスミル地区のホロドク(ゴロドク)という町にある軍の保管庫に移送されました。

 この地では、2018年6月に契約軍人が最低でも一台の9K330のオーバーホールを危機的状況に晒しました。この軍人は貴金属を売却するために電子基板を分解してしまったのです。[4]

 その後、盗難された部品は発見されて、再び9K330に取り付けられました。



 そのわずか1年前の2017年8月には、オーバーホールされた最初の9K330がすでにキエフで開催された展示会で展示されていました。

 その月末の2017年8月24日、OSCE特別監視団はドネツク州のウクライナ支配下にあるKasyanivka村付近で(伝えられるところによれば)2台の9K330を含む5基のSAMを確認しましたが、これはオーバーホール後初の運用配備だった可能性があります。[4]

 これらの存在が確認されたのは、ウクライナ東部で「トール」が最初に目撃されてから約3年半後のことでした(その時点で、親露派分離主義勢力を支援するためにルガンスク地域に配備されたロシアの「トールM1」が目撃されていたのです)[5]。  



 2017年8月にウクライナがドンバスに9K330を配備したという報道があったにもかかわらず、よみがえった9K330の検証がヘルソン州のヤホルリク・ミサイル発射場でようやく実施されたのは2019年2月のことでした。[6]

 この実射訓練では、S-125、2K12、9K330や改良されたZSU-23-4M-A自走対空砲といったオーバーホールされた防空システムがウクライナ軍への正式な就役を前にその性能をテストされました。




 9K330のオーバーホールは、さまざまな種類のSAMやレーダーシステムのオーバーホールを専門とするリビィウ無線機修理工場NPPエアロテクニカ-MLTによって国内で実施されました。[6]

 システムを運用可能な状態に戻すことに加えて、限られた数の改良が行われました。その中で最も注目すべきものとしては、情報の処理と表示をするための新アルゴリズムの実装が挙げられます。[3]

 将来的な改良には、搭載されているアナログ式無線・電子機器を(オペレーターの手元にある機器を効果的に活用する能力を大幅に向上させる)デジタル式に更新することが含まれる可能性があります。



 6台の9K330「トール」SAMの復活については確かにそれ自体がゲームチェンジャーとなる能力を持つことにはなりませんが、多数のSAMを含む大量の復活させられた装備が再運用に入ることは、ウクライナ軍全体の能力向上に貢献します。

 さらに、これらのシステムのオーバーホールで得られた貴重な経験は今後のより高い近代化計画に活用される可能性があり、それは9K37「ブーク」9K22「ツングースカ」といった別のシステムにも適用されるかもしれません。


 しかし、9K330は防空能力をダイレクトに拡大する以上に、OPFOR(仮想的部隊)を用いた訓練で敵防空システムの代表的な装備として使用され得るという点でも重要な価値を持っています。

 敵の防空戦力を知ることは、それに対抗する手段を見つけるためには必要不可欠なものであり、9K330のようなシステムへのアクセスはウクライナのみならず戦場でそれらに遭遇する可能性のある全ての当事者にとっても関心を引くものです。

 例えば、トルコとウクライナの間にある(バイカル・ディフェンス社ウクルスペツエクスポルト社との間で立ちあげられた「ブラックシー・シールド」などの)既存の共同事業を考慮すると、無人機の運用の改善を目的としたOPFOR訓練センターの設立も考えられないことではありません:2020年のナゴルノ・カラバフ戦争の間に「バイラクタルTB2」最大の敵としてもてはやされたのは、結局のところ同じ(ただし、より進化した派生型ですが)SAMの「トール-M2KM」だったのです。

 トータルで考えた場合、両国は ZSU-23、2K22「ツングースカ」、(リビアで捕獲されてトルコへ引き渡された)96K6「パーンツィリ-S1」9K35「ストレラ-10」9K33「オーサ」、9K330「トール」、2K12「クーブ」、S-125「ペチョーラ」、9K37「ブク」機動防空システム、S-300V1、S-300PTS-300PS、(トルコが導入した)S-400を含む、将来の紛争で交戦する可能性があるほぼ全てのロシア製防空システムを保有しているため、互恵的協力が持つ将来性はまさに無限大です。

 ウクライナがこのような立場にあることを考えると、たった6台のSAMの復活は誰もが想像したよりもはるかに重要な出来事となる可能性があり、この国の駆け出しのUAV戦力を近隣諸国の追随を許さない脅威に変えることを手助けするものになるかもしれません。



[1] На Украине планируются к возвращению в строй шесть типов зенитных ракетных систем https://www.belvpo.com/93234.html/
[2] Техника ПВО Украины 24 августа 2001г. на параде в честь 10-й годовщины независимости Украины, улица Крещатик, г.Киев http://pvo.guns.ru/other/ukraine/index332.htm
[3] “Тор” та “Куб” повертаються до бойового складу ЗСУ https://mil.in.ua/uk/tor-ta-kub-povertayutsya-do-bojovogo-s/
[4] На Житомирщині затримали контрактника, який викрав дорогоцінні елементи із ЗРК “Тор”. ФОТО https://novynarnia.com/2018/06/28/na-zhitomirshhini-zatrimali-kontraktnika-zsu-yakiy-vikrav-dorogotsinni-elementi-iz-zrk-tor-foto/
[5] Tor series surface-to-air missile systems in Ukraine https://armamentresearch.com/torsam-ukraine/[6] Завершальний етап випробувань зенітних ракетних комплексів протиповітряної оборони https://youtu.be/pxPb4gLqzGs
     
 ※  この翻訳元の記事は、2021年5月19日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
   により、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。
      正確な表現などについては、元記事をご一読ください。


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