2017年5月29日月曜日

DIYに走るリビア・ドーン:エリコンGDF艦載用機関砲がトラックに搭載された


著 Stijn Mitzer と Joost Oliemans (編訳:ぐう・たらお)

リビア軍(LNA)とリビア・ドーンは 一見して終わりの無い紛争に巻き込まれているが、双方ともに、互いに優位を得るために必要とされる最大限の火力を、自身の兵士たちに提供するための創造的な解決策の模索を強いられている。
リビアに存在する多くの武器庫は、現在リビアを支配するべく戦っている多くの勢力に目を見張るほどの量の高性能な武器を提供していたものの、スペアパーツの不足は、これらの兵器群の一部を稼動し続けさせるためにほとんどが共食い整備での対応となり、結局はこれらの一部だけしか運用されていないことを意味した。  

その状況は、リビアに課された同国で戦う軍隊(LNA)へのための軍用装備の取得を妨げる武器禁輸措置によって、悪化していくことになる。
武器禁輸措置自体は、大抵がほとんど効力が無い紙の上の文字にしかすぎないことから、LNAとリビア・ドーンは国外の支援者から依然としていくらかの軍用装備を受け取ってはいるものの、その武器の流れは双方に決定的な優位を得させるにはあまりにも小さいままである。

この状況は、各勢力にリビアの武器庫や航空基地で発見され得る高度な兵器を何でもかき集めさせるという結果をもたらした。
その 最も注目に値する結果として、本来はリビアのSu-24で使用されるKh-29空対地ミサイルがリビア・ドーンによって無誘導ロケットとして使用されたこととLNAによってAK-230艦載用機関砲がトラックに装備されたことが挙げられる。

LNAが艦載砲を装備した最初のトラックを完成させたのと同じ頃、同じようなプロジェクトがリビア・ドーンによって始められた。
リビア・ドーンは、兵器が保管されていた保管庫を占領した後に、かつてはリビア海軍のフリゲート、コルベットや高速攻撃艇に装備されていた多数の兵装を何とか入手した。
リビアは90年代に武器禁輸のせいでこれらの艦艇を修理できず、結局は全てスクラップとなった。

4隻のアサド級コルベットは90年代にスクラップにされた艦艇であり、その全てが僅か10年あまりしか運用されなかった。
これらの艦に装備されていたオットー・メララ 76mm砲エリコン GDF35mm機関砲、魚雷発射管、オトマート対艦ミサイルと関連する火器管制装置が全て保管された。



艦載用兵装が保管されていた巨大な保管庫には、幅広いソ連製兵装に加えて、オトマートMk.1/Mk.2やエグゾゼのような対艦ミサイルだけでなくオットー・メララ 76mm砲や35mm/40mm機関砲のような様々な種類の艦載砲が保管されていた。

この既に旧式であるソ連製兵装の多くは、未だに艦艇に搭載されているこれらの兵装が、運用を継続することを可能とするためのスペアパーツとして取り外された。
西側製の艦載砲は短い期間でほとんど使用されなかったため、依然として最良の状態を保っていたが、現在では明白な将来の使用が無いまま朽ち果てている。
カダフィ大佐のリビア海軍の調達計画には主にロシア製の艦船が含まれており、これは保管されていた西側製の兵装が搭載される可能性が無いことを意味し、彼らの運命は効果的に封印された。

しかし、2014年の後半に、リビア・ドーンはこれらの兵器をトラックに搭載するために保管庫から持ち出した。
これらの兵装に対する初期の改造は成功を証明し、より多くの艦載砲を地上用に転換する作業が開始された。







組み立て中のシステム(ヘッダー画像の車輌)は、90年代にスクラップになったイギリス製フリゲート「ダット・アサワリ」から取られた、双連のエリコンGDF 35mm艦載用機関砲を搭載した。
砲塔の半分は、照準や機関砲や弾薬へのアクセスを容易にするために切り取られた。
艦載砲の比較的大きい口径とトラックがそのような方法で使用されるように設計されていないという事実のために、長時間の射撃はおそらく不可能ではあるが、側面に向かっての射撃とは対照的に後方へ射撃するならば、その安定性は良く達成されるだろう。

完成したシステムには、35mm機関砲のマズルブレーキが含まれていましたが、砲塔カバー全体が取り外された。
そのシステムが提供した最小限の防護は、明らかに(部分的な)砲塔カバーを装備したときに得られる隠密姓と状況認識の増加に対して評価をしなかったことを意味する。

驚くべきことに、4月初め(注:2015年)にリビアを走り抜けるリビア・ドーンに所属するトラックが、1門のオット・メララー 76mm砲と空のオット・メララー 76mm砲の砲塔と空の40mm ダルド近接防空システム(CIWS)の砲塔を運んだ。
これらの特定の兵器システムが、地上での使用のために改造されるであろう方法を推測することしかできないが、それは紛争の当事者が、長期間にわたる戦いのために準備を整えていることを明確に示しており、武器のストックを増大させるためにどんな苦労も惜しまないだろう。









特別協力:Joseph Dempsey (注:元記事への協力であり、本件編訳とは無関係です)。

 ※ この翻訳元の記事は、2015年4月20日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。  

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2017年5月22日月曜日

DIYに走るリビア軍:AK-230艦載用機関砲がトラックに搭載された


著 Stijn Mitzer と Joost Oliemans (編訳:ぐう・たらお)

ムアンマル・アル=カッザーフィーの支配下にあったリビアは、かつては大規模な武器庫だと考えられていた。
実際、備蓄されていた兵器の量は、リビア自身の需要をはるかに上回っていた。
これは、カッザーフィーに武器の一部を使用して西側と対立する世界中の様々なグループに供給したり、中東やアフリカの諸国に供与することを可能にした。
後者への武器の供与は、主に後でこれらの国々が、言うまでもなくカッザーフィーがリーダーとなるつもりの「アフリカ合衆国」という、彼のアイデアを支持することを期待した事実上の賄賂であった。 

リビアで発見された多くの武器庫は、現在リビアを支配すべく戦っている多くの軍隊に、高性能の武器への容易な入手の機会を与えている。
スペアパーツと技術要員が不足していることは、(備蓄や放置されていた)重装備が一部しか再運用に入っていないことを意味した。
リビアの国際的に承認された政府(現リビア政府)に課された武器禁輸措置は、リビア軍用に大量の新しい武器や予備部品を取得することを妨げている。
この間に、数多く存在する反政府勢力の1つ、リビア・ドーンがMENA地域(注:中東及び北アフリカ)のいくつかの国から武器を受け取っていたことが知られている。

この状況によって、リビア国軍(LNA)は兵士たちが必要とする量の火力を提供するために、創造的な解決策を求めるように強いられた。
そして、リビアの紛争では、長年に渡って多くのあからさまで奇妙な改造車輌の誕生が見られていたが、ベンガジのLNAはトラックに30mmの艦載用機関砲を搭載することによって、まったく新しいレベルの「コンクール」に挑戦した。





この限定生産された最初の「製品(上記参照)」は、最近(注:2014年当時)出荷されたカマーズ6x6トラックと、もとはソビエトの高速攻撃艇、掃海艇やフリゲート上で見られた、30mm機関砲が連装されたAK-230艦載機関砲を組み合わせたものである。
AK-230の本来の任務は、MR-104「ドラム・ティルト(注:Rys)」レーダーによる誘導を受けながら、飛来するミサイルと航空機を撃墜することであった。
機関砲や弾薬へのアクセスを容易にするために、トラックに搭載されたAK-230の砲塔カバーは取り外された。

2門の30mm NN-30機関砲は、各門につき500発の砲弾がベルトリンク方式で給弾される。
経験を積んだ乗員でさえも、2つの機関砲へ弾薬を再装填することに、非常に多くの時間を必要とする。

現在(注:2014年)、LNAはベンガジで、この都市を死守しようと防備しているリビア・ドーンと戦っている。
リビア・ドーンはベンガジの大部分を掌握していたが、リビア海軍の基地となっている港の占領を達したことは一度もなかった。

ベンガジの海軍基地は、コニ級フリゲート「アル・ハニ(艦番号212)」、ナヌチュカ級コルベット「ターリク・イブン・ズィヤード(艦番号416)」、そして残り少ないナチャ級海洋掃海艦の1隻と運用不能な状態のフォックストロット級潜水艦が拠点としていた。
しかし、アル・ハニは2~3年前にベンガジを去り(その後、反体制派に鹵獲され、現在はマルタのバレッタ港に係留されている)、ターリク・イブン・ズィヤードは砲撃を受け、その後に沈没した。

ナチャ級海洋掃海艦の1隻は、メンテナンス不足が原因で既に1年近く前に沈没していたが、それは後にカマーズ製及びスカニア製のトラックに搭載されるAK-230機関砲が取り外された後のことであった。
不運なナチャ級海洋掃海艦の残骸は下の画像で見ることができる。



両方のトラックはリビア軍の第339大隊で運用されている。
AK-230で武装したスカニア製トラックの前に見える文章は次のとおり:「参謀委員会-国軍K 309」。

これがテクニカルに搭載されたZU-23 23mm機関砲またはM1980 30mm機関砲よりも実用的であるかどうかは不確かではあるが、程度の差はあるものの、どちらもほぼ同じ発射レートと目標に対する効果を与えることができる。
しかし、AK-230の方が照準は遥かに困難である。



LNAに対する武器禁輸解除の見込みや停戦が無い限りは、より興味深い改造が続く紛争の中で必ず日の目を見るに違いない。

 ※ この翻訳元の記事は、2015年2月26日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。   

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2017年5月16日火曜日

Kh-29地対空誘導弾がリビアで無誘導ロケット弾として使用された



著 Stijn Mitzer と Joost Oliemans (編訳:ぐう・たらお)

リビアのトリポリから出回った一連の写真の中で、リビア・ドーン(注:親イスラーム過激派民兵組織)は現在、高度な精密誘導ミサイルを地対地用ロケット弾として使用しているようだ。使用されたミサイルは、スルト近くのガルダビヤ空軍基地付近にある兵器庫から奪われたものである。
そのミサイルはKh-29Tで、通常は標的に命中させるためにTV誘導が使用される。 Kh-29Tのリビアでの運用については、80年代後半にソ連から引き渡されたSu-24のみによって使用されただけである。

リビア内戦の早い段階で、 第1124飛行隊は飛行可能状態にあった2機のSu-24MKを、ラス・ラーヌーフ近郊にある国民解放軍(反政府軍)の拠点に対して飛ばし、僅かな作戦ソーティを実施させた。
これらの作戦の過程で、一機のSu-24MKが撃墜された。
唯一の運用状態にある1機のSu-24MKと飛行不能状態にあった2機のSu-24MKは、その後、ガルダビヤ航空基地に対するNATOの航空攻撃によって破壊された。

かつて、これらのSu-24で使用されていた兵装は、現在リビアが保有する他の飛行機がこれらを搭載することができなかったため、無用の長物となった。
この状況は、運用するべき機体が存在しないKAB-1500レーザー誘導爆弾、Kh-25、Kh-29L、Kh-29T空対地ミサイルを残した。


現在では、彼らの意図した役割(本来の用途)ではないにもかかわらず、この武器のいくつかを再び使用可能にする努力がされているように見える。
発射を写した画像にあるKh-29Tにはフィンがあるが、無誘導地対地用ロケットとしての、より安定した飛行を得るために前部と後部フィンのエルロンが取り外されている(注:画像をよく見るとはっきりわかる)。
これらのミサイルが新たな用途に使用された理由は、明らかに弾頭のサイズであり、これには320kgの重量級弾頭が搭載されている。
 

リビア・ドーンがミサイルの大量のストックを有し、既にいくつかの同様の発射が実施されていることから、このような高度なミサイルのより多くの発射を期待することができる。


Khaled Ben Alewa に感謝を申し上げます(注:元記事への協力であり、本件編訳とは無関係です)。
 
 ※ この翻訳元の記事は、2014年8月18日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。  

2017年5月5日金曜日

拡大するイランの勢力圏:イラクにおけるイラン製T-72 (1)


著 Stijn Mitzer と Joost Oliemans (編訳:ぐう・たらお)

イスラミック・ステート(IS)の戦闘員に対するイラクでの戦闘は、イラク軍とぺシュメルガによって戦われるだけではなく、イランからの大規模な支援を受けた、増加しつつあるシーア派民兵による戦闘もある。
イラクでの「レバノンのヒズボラ運動」に相当するカタイブ・ヒズボラは、間違いなく、現在のイラクに存在するすべてのシーア派民兵の中で、最も強力かつ影響力のある組織である。
これは、主にイランの資金援助や軍事援助、そして現地にいるイラン人顧問の存在のによるものである。

イランは、これらの民兵に、AM-5012.7mm対物ライフルやナシル・40mmグレネードランチャー、107mm多連装ロケット発射機(MRL)を搭載したサフィール・ジープや無反動砲、さらにはHM-20・122mmMRLまで何でも供給した。
これらの武器は全てイランで製造されたものである。
提供される兵器の量と種類は、民兵組織の規模に左右されている。

しかし、イラクに民兵が運用するイラン製戦車が存在するという噂は、今まで未確認であった。 
これらの噂は、イラン西側の国境付近を走る、無限軌道付きの車輌を搭載したトランスポーターが目撃されるたびに、世界中を早々と駆け巡った。
現在、イラクのISとの戦いに加わり、ティクリートの町から戦闘員を追放するために忙しく動くイラン製戦車についての写真による証拠が最終的に明らかにされた。


上の画像のイラン製T-72Sを見ると、155個のコンタークト1爆発反応装甲(ERA)の取り付けを可能にする留め具の存在によって、イラクのT-72 'ウラル'及びT-72M1と明確に区別できるが、この例では驚いたことにERAが皆無である。
また、この車輌(T-72S)には、発煙弾発射機がT-72M1で見られるような砲塔前部には無く、その代わりに同側面に装備されている。

このT-72Sは、最近のイラク-ロシア間で結ばれた、詳細が明らかにされていない武器取引の一部であった可能性があると論じることができたが、戦車に塗装されたイランの迷彩パターンはこの戦車の真の起源について疑う余地はないことを示している。
比較のために、パレード中のイラン製T-72S(ERA装着型)の画像を下に掲載した。
 
ティクリートの近くで撮影されたT-72Sが、イラン人によって乗り込まれたカタイブ・ヒズボラの兵器の一部であるのか、それとも実際はイラク軍で運用されているのかどうかは、現時点で不明である。
カタイブ・ヒズボラは、イラク軍によって置き去りにされた、たった1両のM1エイブラムスを運用していることが知られており、つまり、ティクリートのような町で近接戦闘を戦い抜くために不可欠な重火力の支援が不足している。
イランが、イラン軍か革命防衛隊のストックから出された、一定限度の量のT-72を供給していることは、この観点から見れば完全に筋が通っている。
内戦の最終経過でどんな影響があっても、中東やその他の地域における紛争へのイランの影響が過小評価されないことは確かである。

現在、イランはイラクから、シリア、イエメン、さらにはリビアに至るまで、多数の中東諸国に対して軍需産業を利用して影響を与えているが、その勢力圏を拡大する意図は今までより明確になっており、今後の中東政策を立案する際には、イランが過小評価されることはないと確信している。

 ※ この翻訳元の記事は、2015年3月13日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。   

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拡大するイランの勢力圏:イラクにおけるイラン製T-72 (2)

拡大するイランの勢力圏:イラクにおけるイラン製T-72 (2)



著 Stijn Mitzer と Joost Oliemans (編訳:ぐう・たらお)

イラクにおけるイランの戦車の存在をはっきりとさせた、さらに多くの証拠写真が明らかとなった。
新しく公開された画像は、ティクリートの南にあるサーマッラーの町に到着する間に、ティクリート付近で目撃されたものと同じT-72Sと思われる戦車を写している。
イラクにおけるイラン製T-72S戦車の目撃例が初めて確認されてから、ちょうど1日後に新画像が届いた。

T-72Sはバドル軍団(注:イラクのシーア派政党、イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)の軍事部門)のトップ:ハーディ・アル=アミーリーの側近であるカッセム・アル=アラジ(写真中央の人物)によって視察されている。
どこがイスラミック・ステートとの戦いでイラクを助けたのかと尋ねられたとき 、カッセム・アル=アラジ以前に「私たちはISISとの戦いにおいて、アメリカではなくイランからの支援を望んでいる」とした上で、イランについて「私たちの軍隊への支援に大きな役割を果たす」と述べた。
 
この支援には明らかにイランのT-72S戦車の譲渡も含まれており、少なくとも1台はバドル軍団の戦闘員から護衛されたイラク陸軍の戦車運搬車でサーマッラーに入った。


しかし、最初に信じられていたこととは反対に、戦車は、現在イラクで戦う、多くのシーア派民兵組織で最も影響力のあるカタイブ・ヒズボラやバドル軍団ではなく、イラク軍によって運用されている。バドル軍団内のカッセム・アル=アラジに近い情報筋は、「バドルには機械化部隊はない。 戦車はイラクのISF(イラク治安部隊)によって運用されているが、運用者はバドルの支持者かもしれない」と言った。

T-72Sは、イラクの古いT-72ウラルとT-72M1よりも先進的であるため、イラクの要員がイランでT-72Sの訓練を受けたことは妥当であると思われ、再び両国間の強い絆が示された。


Green lemon に感謝を申し上げます(注:元記事への協力であり、本件編訳とは無関係です)。

 ※ この翻訳元の記事は、2015年3月13日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。     

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2017年4月10日月曜日

また一つの敗北: 主要な兵器集積所がイスラミック・ステートの手に落ちた


著 Stijn Mitzer と Joost Oliemans (編訳:ぐう・たらお)

シリア内戦における最大規模の武器の捕獲となったデリゾールのアイヤッシュ兵器庫を攻略してわずか1年あまりで、イスラミック・ステート(IS)は再びデリゾールの補給基地から捕獲された大量の弾薬を入手した。
今回の捕獲は、前述のアイヤッシュ兵器庫や第121連隊基地、第93旅団基地、マヒーン武器庫の攻略といった、膨大な量の武器や弾薬の所有者の交換という主要な事例のリストに加えられた。
マヒーンのほかは全てISの手に落ちた(注:マヒーンは政府軍に奪還された)。
これらのデポはそれぞれ、攻略者にかつての所有者に対して直ちに使用できる多様な兵器、車両と弾薬を提供し、シリアを制圧するべく戦う他の勢力に大打撃を与えた。

ISによって公開されたデリゾールに対する攻撃での戦闘員を映すプロパガンダ・ビデオが、今回のデポを攻略したことを公表する唯一の映像であった。
ビデオ「علىأبوابالملاحم - 叙事詩の扉(戦い)」では、2017年2月にISが成功した、政府側の支配地域を二つに分離することに奮闘する詳細な様子が映し出されている。
これは、空軍基地と第137旅団が現時点で完全に分離されていることを意味し、双方への供給をさらに複雑にすると共に空軍基地の脆弱性を大幅に増加させている。
脅威が増大するにもかかわらず、ISがどちらの基地も攻略することはありそうもないであろう。
最大300万発にわたる小火器の弾薬を含めた相当の数の弾薬を捕獲することで、ISは生存のための戦いを確実に延長できるようになるであろう。

下に捕獲した兵器や弾薬等の一覧があるが、これは捕獲された弾薬の推定量であり、実際の数はより多いと考えられている。
このうち、少なくとも652箱の内容は特定できなかった。
また、 小火器は少量の捕獲であったことから下の数には含まれていない。

弾薬:

- 3,320,600発の7.62x39, 7.62x54R, 12.7mm及び14.5mm弾

- 2,310発の85mm砲弾

- 693発の100mm砲弾

- 13発の125mm砲弾

- 120発の120mm砲弾

- 68発の122mmロケット弾

- 15個のTM-62対戦車地雷

車輌:

- 1両のT-72M1(TURMS-T)

- 3両のT-72M1

- 1両のAMB-S

- 1両のタトラ148

- 1両のUAZ-469

- 5台の自動車

小火器用弾薬ケースのそれぞれの正確な中身を査定することは不可能であるが、その総量は7.62x39mm弾の約332万発分か、それよりわずかに少量の12.7mm弾や14.5mm弾といった、より大きな口径の弾薬のものに相当すると思われる。
弾種には関係なく、まさにとてつもない量の小火器用弾薬が実際に捕獲された。








莫大な量の85mmUBR-365P 徹甲弾も武器庫で発見された。
確かに印象的な光景ではあるが、これらの弾薬はISにとって完全に役に立たない。
D-44 85mm対戦車砲は現在のところ、シリア軍が保有する兵器の中でこの砲弾を発射することができる唯一の砲であるが、今日の戦場ではごく少数だけが運用されている。
実際、D-44は非常に稀な存在であり、ISはこの対戦車砲を現時点でたった1門だけ保有しているとみられている。











別の2つの部屋には、少なくとも693発の100mm戦車砲弾が保管されていた。
ここでは、これらの砲弾を使用するT-55戦車が少ししか運用されていないことから、この量はデリゾールにおけるISの需要をはるかに上回っている。
したがって、これらの少なくとも一部はラッカに移送され、さらに他地域のISの部隊へ分配される可能性が極めて高い。




「2015年5月5日」と記載されたイランの弾薬箱の存在は、その日付がデリゾール包囲の直前にさかのぼる点で注目に値する。
これらの枠箱はシリア空軍のIl-76の1機に搭載された可能性が高く、同機は、これらの航空機が飛行場に着陸することがまだ可能であったときに頻繁にデリゾールを訪れていた。
この「訪問」は、ISが滑走路の南東側に極めて接近したために不可能となっており、これは耐爆型航空機用掩体に駐機中の2機のL-39が破壊されたことによって、痛々しいほど明らかになった事実である。 













弾薬の大部分は、トラックや車に迅速に積み込まれ、シリア各地に点在するISの部隊に配分された可能性が高い。
これらの備蓄を事前に標的とすることは、この事態が発生することを防ぐことができるであろうし、ストックを補充し続けるISの能力も制限することができる。
それにもかかわらず、そのようなオペレーションがシリア空軍またはロシア空軍のいずれかによって何度も繰り返し実施されたということはなく、この内戦では、空軍と政府軍側の兵士によるこのようなデポの迅速な退避や妨害の欠如と相まって、結果的に対立勢力にとって大きな恩恵をもたらすことがあった。












ISはまた、デリゾール市内の政府勢力に向けられた二つの空中投下物資を捕獲したが、そのうちの一つはISが到着する前に、すでに中身が空になっていたと思われる。
しかし、捕獲されたデポのうちの一つで、これらの枠箱からの弾薬と後で出会う可能性が非常に高い(注:既に運ばれた弾薬が、占領されたデポに貯蔵されている可能性が高いということ)。
以下の画像の二つのパレットを含むいくつかの空中投下物資は、今までに知られている限り、ISの支配地域に着陸した後は最終的に彼らの手に落ちた。

決して理想的な状態ではないが、空中投下は2015年5月にデリゾールが完全に包囲された後、その状況下で物資を都市とその住民に供給するための唯一の方法である。
国連とロシア空軍は共にデリゾールでの政府の支配地区に住む、飢えた人々への人道的援助物資の投下に積極的に参加しているが、シリア空軍のIl-76は主に都市で孤立して残り続ける政府軍に兵器、弾薬、そして燃料を供給することを目的として活動している。









大量の弾薬を捕獲することに加えて、今回のデポ攻略はISに4台のT-72M1をもたらし、彼らが現在デリゾール周辺で運用しているT-72部隊の規模を倍以上にした。
この鹵獲した兵器には、イタリアのTURMS-T(Tank Universal Reconfiguration Modular System T-series)射撃管制装置を装備した一台のT-72M1も含まれていた。
つまり、 これがISに捕獲された最初のT-72 TURMS-Tということになる。
興味深いことに、これらのT-72M1のうち2台は、TPN-1-49砲手用サイトの周りに保護カバーを備えている。
この改修は、シリアの疲弊したT-72部隊に残っている車輌に徐々に適用されている。






1台のチェコスロバキア製AMB-S多目的装甲車(注:BWP-1 AMB-S装甲救急車) も捕獲されており、これは、アイヤッシュ兵器庫の近くで捕獲された2台のBREM-2装甲回収車と同様にVBIED(Vehicle Borne IED/車両運搬式即席爆発装置)として使用される可能性が高い。

この記事はMENA_Conflictと共同して執筆されました(原文)。

 ※ この翻訳元の記事は、2017年3月27日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。   

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