2023年7月9日日曜日

フォトレポート:リビア国民軍・ハフタル将軍最後の閲兵式


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当記事で紹介する画像は、2021年5月29日にベンガジのベニナ空軍基地で行われたリビア国民軍(LNA)の「尊厳作戦」開始7周年記念の閲兵式で撮影されたものです。

 ハリーファ・ハフタル将軍が率いる軍閥であるLNAは新たに樹立された国民統一政府(GNU)の一員として国民合意政府(GNA)の勢力と合流することになっていたにもかかわらず、トブルクに拠点を置く代表議会(HoR)は2021年9月に統一政府に対する不信任案を可決してしまいました。

 その後、ハフタル将軍は2021年12月のリビア大統領選挙への出馬を表明しましたが、情勢の悪化などで延期され2022年8月時点でも実施の見通しは立っていません

 昨年5月の閲兵式は、LNA(すなわちハフタル将軍)の強大さを国内外にアピールすることを目的に行われたものであることは言うまでもないでしょう。この閲兵式で、LNAはカダフィ時代のリビア軍から受け継いだり、革命後にロシア・UAE・ヨルダン・エジプトから供与された多種多様な装備を披露しました。[1]


パレード中の兵士や車両の画像はこちらで、パレード全体の映像はこちらで視聴可能です

9K31「ストレラ-1」 (NATOコード: SA-9「ガスキン」)地対空ミサイル(SAM)システム



1S91 "SURN" レーダーと2K12 "クーブ"  (NATOコード: SA-6 "ゲインフル") SAMシステム


ロシアから供与された「P-18 "スプーン・レストD」」レーダー。 同システムは当初アル・ジュフラ空軍基地に置かれてPMC「ワグネル」によって運用されていたものです。



「LRSVM "モラヴァ"」 多連装ロケット砲は 107mmと122mmのロケット弾ポッドを同時に装備可能なシステムです。 「モラヴァ」はUAEがセルビアから購入して、2020年にLNAに引き渡されました。


BM-21「グラード」122mm多連装砲はウラル-375D (旧型) と ウラル-4320 (新型) トラックに搭載された2種類が登場しました。


2S1「グヴォジカ」122mm自走榴弾砲


南アフリカ製「G5」榴弾砲は2020年にUAEがLNAに供与したものです。





1段目:「M-30」122mm榴弾砲 (2017年にロシアから引き渡し)。2段目:北朝鮮の122mm野砲。4段目: 「M-46」130mmカノン砲。これらはいずれもロシアから供与されたカマズ製「6x6」トラックに牽引されて登場しました。


「D-30」122mm榴弾砲


 2台のT-72M1戦車:前から2台目は2011年の革命前に「ゼネラルダイナミクスUK」社によって無線システムのアップグレードが図られた数少ないT-72のうちの1台です。


T-72 "ウラル"


ロシアから引き渡されたT-62MV: 少数のT-62MとT-62MVが2020年にLNAへ供与されました。


T-55A (前) とエジプトから供与されたT-55E (後ろ)


T-55A(左) とT-62 "1972年型" (右)


ZSU-23 "シルカ" 23mm自走対空砲


KMT-5M地雷原処理ローラー装備型のT-55とVT-55KS装甲回収車


MT-LBu汎用装軌装甲車(指揮通信車型)



ヨルダンから供与された「アル・マレード」装甲兵員輸送車と「アル・ワフェイシュ」歩兵機動車(IMV)


4台のGAZ「ティーグル-M」:PMC「ワグネル」が用いるためにリビアへ持ち込まれましたが、後にLNAに寄贈されました。 いずれもSGMB重機関銃で武装しています。


手前はUAEから供与されたMSPV「パンテーラT6」 IMV。その後に同国から得た数種類のIMVが続きました。UAEは2014年から2020年までの期間に少なくとも12種類のIMVをLNAに供与しています。


ジープ「ラングラー」 と形式不明のATV(全地形対応車)






 LNAのR-17「スカッドB」は支援車両と共に登場しましたが、メインステージの前でクレーン車が故障するという残念な事態が発生してしまいました。ちなみに、「スカッドB」は2022年3月の演習で実際に試射され、LNAの弾道ミサイル運用能力が誇示されました。


これらの複合艇 (RHIB) は2013年にフランスの軍用ボート企業「スィリンジャー」社へ発注したものです。


ミラージュF1AD戦闘爆撃機 (左)とミラージュF1ED戦闘機 (右):スペアパーツが欠乏しているため、これらのミラージュは軍事パレードなどの特別な日にしか飛ぶことができません。


墜落する直前に撮影されたMiG-21bis「698番機」:名パイロットであるジャマル・ビン・アメル准将はこの事故で殉職しました。



閲兵式で展示飛行中のAS332L「スーパープーマ」(上段):これらは後に軍用の迷彩塗装が施されました(下段)。このヘリコプターはいずれも南アフリカからPMC「ランカスター6」によって入手されたものです。



会場をフライパスする3機のSu-24M戦闘爆撃機:もともとリビアでPMC「ワグネル」が使用するため、2020年に数機のMiG-29戦闘機と共にロシアから供与されたものです。

[1] Tracking Arms Transfers By The UAE, Russia, Jordan And Egypt To The Libyan National Army Since 2014 https://www.oryxspioenkop.com/2020/06/types-of-arms-and-equipment-supplied-to.html

※  当記事は、2022年8月27日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



2023年7月1日土曜日

複雑な内戦の象徴:リビア内戦の両陣営で使われている謎の多連装ロケット砲


※  当記事は、2021年12月14日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。


著: ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ (編訳:Tarao Goo)

 2020年6月初旬、リビアの国民合意政府(GNA)に忠実な部隊が戦略上重要な都市であるタルフーナを占領し、リビア国民軍(LNA)が首都トリポリの攻略を目指して約14か月も展開してきた攻勢が正式に終了したことを世に知らしめました。[1]

 市内に散乱していた戦利品を取捨選択する過程で、GNAはこの時点で全く知られていなかった多くの多連装ロケット砲(MRL)に遭遇しました(下の画像)。

 タルフーナはリビア西部におけるLNAの大規模な補給地として機能しており、彼らがアラブ首長国連邦(UAE)からかなりの軍事支援を受けていたため、この地でも両者のつながりを簡単に構築することができました。それゆえに、謎のMRLについても起源を容易に特定することができたのです。[2]

 MRLのロケット弾ポッド自体は容易に特定することができました。それらはトルコのロケットサン社がUAEに納入した、巨大な「ジョバリア防衛システム(重多連装ロケット砲)」に搭載されているものと同じロケット弾ポッドだったからです。

 ただし、トラックとロケット弾ポッドを搭載する架台を特定することは、北朝鮮によるUAEへの武器輸出に関する予備知識がない限りは困難を極めます。実際、この架台については、1989年にUAEが購入した北朝鮮製240mm MRL「M-1989」で使用されていたものであることが容易に特定できました。[3]

 また、ロケット弾の発射機構を搭載していたトラックも注目に値するものでした。なぜならば、それは(「ACP90」とも呼ばれる)イタリアの「イヴェコ260/330.3」の装甲が強化された派生型だったからです。このトラックは北朝鮮で運用されていませんが、この事実は長くにわたって重火器を搭載するための適切な大型トラック産業を欠いていた同国が、外国から輸入した車両を活用することで(需要に)しばしば間に合わせていたことを意味します。

 このケースでは北朝鮮は専用のトラックを納入しなかったようであり、おそらくはUAE自身でMRLを搭載するのに適したプラットフォームの(それ専用に)改修を支援したものと考えられます。


 北朝鮮がどの程度のMRLをUAEに引き渡したのか、同様にUAEがそれをLNAに供与したのかが不明であることから、今でもUAE軍に多くの北朝鮮製MRLが存在する可能性があることは確実でしょう。

 しかし、今や北朝鮮の独特な240mmロケット弾をアメリカからの制裁を受けることなく入手できなくなったことは、おそらくUAEがどこかの時点で彼らから導入した全てのMRLをトルコ製122mmロケット弾を発射できるように改修し、その後にいくつかがリビアに輸送されてLNAで使用された可能性が高いことを意味しています。

 少なくとも2基のMRLは数個のロケット弾ポッドと一緒に、新しい所有者:LNAによってタルフーナで放棄されました。

LNAによって遺棄されたロケットサン社製122mmロケット弾ポッド(タルフーナにて)

 240mm MRLは北朝鮮で大量に導入され、後にイラン、ミャンマー、アンゴラへの輸出でも商業的な成功を収めました。

 北朝鮮に導入された時点では、これが既存のMRLの中で最も射程距離が長い重MRLであり、90kgの弾頭を最大で43km離れた目標に向けて発射することが可能でした。

 UAEが導入した派生型では、トラックは12本の発射管を備えています。つまり、4台のトラックからは目標に対して48発のロケット弾の集中砲火を浴びせることができることを意味しています。

UAE軍の演習でロケット弾を発射する北朝鮮製240mm MRL

 前述のとおり。素晴らしい能力があるにもかかわらず、UAEにおけるこのユニークな大口径MRLのキャリアが極めて短いものだったことが判明しています。

 UAEが同時期に調達した170mm自走砲「M-1989 "コクサン(または主体砲)"」と同様に、240mm MRLはすでに1990年代後半から2000年代前半の間に現役を退いて保管状態に入り、おそらく現在もUAEのどこかの倉庫で生き残っているものと思われます。[4]

 彼らの退役はUAEにおける大口径MRLの運用が(当面は)終了したことを意味していますが、それでもなお、ロケット弾で標的に徹底的な集中砲火を浴びせるという概念はUAE軍首脳部の心を響かせたことには違いありません。同国の新たなMRL戦力を導入する試みでは、トルコのロケットサン社と共同で世界最大のMRLシステムを設計することになりました。

 「ジョバリア重多連装ロケット砲」として知られているこのシステムは基本的に20発の122mmロケット弾入りロケット弾ポッドを12個を装備したものであり、合計で240発(300mmロケット弾の場合は16発)の122mmロケット弾を搭載する、搭載可能弾数の面では世界最大のMRLです(注:107mmまたは300mmロケット弾ポッドも搭載可能)。

 (状況証拠から察するに)UAEが調達したロケット弾ポッドの数は「ジョバリア」で使用するために必要な数をはるかに上回っていたことは間違いなく、それらが最終的に北朝鮮製MRLの再武装に使われたと推測できます。[5]
 UAEが供与したMRLがリビアにどの程度残っているかは不明ですが、依然として使用されっていることだけは確実です。なぜならば、タルフーナで少なくとも2基のMRLがGNA部隊に鹵獲された約1年半後にそのうちの1基がGNAの首都であるトリポリの近郊で再び目撃されたからです(下の画像)。[6]

 そこではトルコから供与された「T-122 "サカリヤ" 」MRL用のロケット弾ポッドを搭載して運用され続けていますが、皮肉なことに、「T-122」にはUAEのMRLを再武装させたロケットサン社製の同じ122mmロケット弾ポッドが使用されています(注:「ジョバリア」と「T-122」のロケット弾ポッドが共通しているということ)。[7]

 同型のロケット弾ポットがさまざまな経路を経て内戦の両陣営で使用されることになったという事実は、現代の地政学が気まぐれな性格を持っていることを証明しています(注: LNA側は「UAEが北朝鮮から調達したMRLにトルコ製ロケット弾ポッドを搭載、その後に供与されたものを使用」、GNA側は「LNAから鹵獲したものにトルコから供与されたロケット弾ポッドを使用」)

トリポリ近郊で目撃された北朝鮮MRL(「T-122」用ロケット弾ポッド搭載型)

 トルコ製のロケット弾ポッドを搭載した北朝鮮のMRLがリビアへ送られ、トルコが支援する部隊に対して使用されたという実に奇妙な話はこれで終わりです。

 しばらく外交的に対立関係にあったトルコとUAEは数十年にわたる文化・軍事・経済的な協力を継続し、関係の正常化と回復を図ろうとしているため、将来的にトルコ製兵器が北朝鮮製MRLの運用者に使用されることは起こりえないでしょう。

 2021年11月下旬、トルコのエルドアン大統領とUAEの事実上の統治者であるアブダビ首長国のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン皇太子がアンカラで会談し、両国は技術やエネルギー分野などへの数十億ドルの投資に関する協力覚書に調印しました。[8]

 おそらく遠くない将来にトルコの兵器産業は再びUAEの重要なサプライヤーとなり、UAEの北朝鮮製MRLのケースと同様に高度な兵器類を提供するようになるでしょう。



[1] Disaster at Tarhuna: When Haftar Lost Another Stronghold In Crushing Defeat To The GNA https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/disaster-at-tarhuna-how-haftar-blew-yet.html
[2] Tracking Arms Transfers By The UAE, Russia, Jordan And Egypt To The Libyan National Army Since 2014 https://www.oryxspioenkop.com/2020/06/types-of-arms-and-equipment-supplied-to.html
[3] Inconvenient arms: North Korean weapons in the Middle East https://www.oryxspioenkop.com/2020/11/inconvenient-arms-north-korean-weapons.html
[4] Inconvenient arms: North Korean weapons in the Middle East https://www.oryxspioenkop.com/2020/11/inconvenient-arms-north-korean-weapons.html
[5] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[6] https://twitter.com/Oded121351/status/1427514232749404180
[7] https://twitter.com/Oded121351/status/1333049882299539460
[8] Turkey, UAE sign investment accords worth billions of dollars https://www.reuters.com/world/middle-east/turkey-hopes-uae-investment-deals-during-ankara-talks-2021-11-24/





おすすめの記事

2023年6月24日土曜日

シェフズ・スペシャル:2023年「プリゴジンの乱」で各陣営が喪失した兵器類(一覧)


著 ステイン・ミッツアー と ヤクブ・ヤノフスキ in collaboration with ヨースト・オリーマンズ, ケマル, ダン, アロハ と naalsio26

  1. この一覧は、写真や映像などによって証明可能な撃破または鹵獲された兵器類だけを掲載しています。したがって、実際に喪失した兵器類は、ここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。
  2. ロシア空軍のパイロットによって運営されているテレグラム・チャンネル「ファイター・ボンバー」も、ロシアの航空戦力損失の関する十分な資料とみなしています。
  3. ワグネルがロストフ・ナ・ドヌー北側で航空機やヘリコプターを鹵獲したと主張していますが、現時点では一覧には掲載されていません。
  4. この一覧には、民間車両や放棄された装備類は含まれません。
  5. 各兵器類の後に続く番号をクリックすると、損失した当該兵器類の画像などが表示されます。
  6. 日本語版での最終更新日:6月27日午後11時(同日午前4時30分ころの本国版のデータを反映

ロシア政府軍側[連邦軍など] (9, このうち撃破・墜落: 7,  鹵獲: 2)

航空機 (1, このうち墜落: 1)

ヘリコプター (6, このうち墜落: 6)

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両  (1, このうち鹵獲: 1)
  • 1 カマズ-435029「パトロール-A」: (1, 鹵獲)

歩兵機動車 (1, このうち鹵獲: 1)


ワグネル側 (5, このうち撃破: 5)

歩兵機動車 (1, このうち鹵獲: 1)


テクニカル (2, このうち撃破: 2)

各種車両 (2, このうち撃破: 2)



2023年6月23日金曜日

大きさが全てじゃない:ルクセンブルク軍の航空隊


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ルクセンブルク大公国は小規模ながら十分に装備された軍隊を有しており、2020年からはその中に航空部隊も含まれることになりました。ルクセンブルク軍の独立した軍種ではないにもかかわらず、この部隊は2020年に納入された唯一の現用機(1機の「A400M」)のおかげで世界で最も現代的な航空戦力を構成しています。

 この地味な偉業についてはともかく、近年のルクセンブルクはエアバス「H145M」ヘリコプター2機、エアバス「A330」空中給油・輸送機(MRTT)1機、エアロバイロメント「RQ-11 "レイブン" 」、「RQ-20 "プーマ"」、「RQ-21 "インテグレーター"」無人偵察機(UAV)を入手することを通じて航空戦力をさらに増強しています。また、救急搬送、戦術空輸、洋上監視用の航空機やヘリコプターの追加導入も近い将来に予定されているようです。[1]

 2001年に「A400M」軍用輸送機1機を調達したことで、ルクセンブルクは1968年に空中観測や連絡業務に使用していたパイパー「PA-18 "スーパーカブ" 」3機を退役させて以来、再び航空機を運用するようになりました。[2]

 「A400M」プログラムにおける開発遅延により、最終的にルクセンブルク軍がこの輸送機を受領できるようになるまでは、最後の航空機を退役させてから52年後の2020年10月までかかることになったのです!

 ルクセンブルクに引き渡された「A400M」は、ブリュッセル近郊のメルスブローク空軍基地を拠点とするベルギー空軍第15航空輸送団で共同運用されています。現在、ルクセンブルクのフィンデル国際空港に政府の(航空)拠点を設けることが検討されていますが、現時点のルクセンブルク軍には空港に専用のスペースがありません。[2]

 ルクセンブルクの「A400M」はベルギーに駐機しており、(2024年に納入予定の)「A330 MRTT」はオランダのアイントホーフェン空軍基地かドイツのケルン空港に駐機予定であるほか、ルクセンブルクの無人機は手や空気圧で射出されるため、(少なくとも救急搬送機や海上監視機を導入するまでは)空港に専用のスペースはほぼ必要ないと言って差し支えないでしょう。

 ルクセンブルクの航空部隊は自身の基地を持っていないにもかかわらず、国の紋章をモチーフにした独自のラウンデルを用いています。このカラフルなラウンデルは、ルクセンブルク機として登録されているNATO諸国の「E-3A "セントリー"」AWACS17機にも施されています。

当然ながら、ルクセンブルクの「A400M」には同国のラウンデルが施されている
 
 2020年の納入以降、「A400M(CT-01)」はルクセンブルクによる欧州連合マリ訓練ミッション(EUTM)の支援で兵士と彼らの装備をマリへ輸送すために投入されたほか、ルクセンブルク軍がウクライナに寄贈した軍用品をポーランドへ移送するためにも使用されています。[3]

 内陸国であるルクセンブルクは長年にわたって軍の展開や人道援助を支援するための人員や物資の輸送手段を求めており、かつてはベルギーと共同でドック型輸送揚陸艦(LPD)を導入することすら検討されていたことはあまり知られていません。この計画については、相次ぐコストの増加とベルギーの国防費が削減されたことにより、結果として2003年に頓挫してしまいました。[4]

 海上輸送能力に対する関心が再び高まる可能性は低いと思われる一方で、ルクセンブルク軍は2016年にNATOの多国籍「A330 MRTT」飛行隊の創設メンバーとなり、毎年200時間の飛行を割り当てられています(この飛行隊の「A330 MRTT」はNATOの所有となっており、各機が年間の飛行時間を割り当てられた 6つの加盟国によって資金提供されています)。2020年、ルクセンブルクは既存の契約オプションを行使して9機目を導入するための資金を提供することによって、飛行時間をさらに1,000まで引き上げることを確実にしました。[5]

 空中給油が可能な高速ジェット機を所有していないにもかかわらず(ただし、同国の「A400M」は取り外し可能な給油プローブを備えていますが)、ルクセンブルクはNATOのMRTT飛行隊には3番目の規模で参加している国であり、自身に割り当てられた飛行時間を他の加盟国に提供することによって、NATOの活動に大きく貢献することを可能としています。

 ルクセンブルクは人口が65万人未満であり、明らかに大規模な常備軍を増強する見込みがないことことを考慮すれば、この国によるNATO共同プロジェクトへの資金援助の強化も可能と言えるでしょう。例えば、NATOの「E-3A "セントリー"」AWACS飛行隊の更新に伴う多額の資金を提供することが考えられます。これによって、NATO加盟国間のより公平な負担の分担が可能となり、この目的を達成するために自国の軍隊を増強する必要がなくなるというわけです。

 これまでのルクセンブルクは防衛費をGDPの2%に引き上げることに消極的でしたが、その代わりに2028年までに年間の防衛費をGDPの1%、つまり10億ユーロ(約1,440億円)近くに引き上げることを目標に設定しました。[6]

オランダのアイントホーフェン空軍基地にタッチダウンする「A330 MRTT」:ルクセンブルクはNATOの多国籍「330 MRTT」飛行隊の一部となる9機目の資金を提供した

 2020年までルクセンブルク軍には欠けていた戦力がありました...それは高度なヘリコプター部隊です。

 以前は警察に就役した「MD902 "エクスプローラー"」1機とルクセンブルク航空救難隊で使用されている「MD900」2機に依存していましたが、2018年にルクセンブルク国防省は監視任務や対テロ作戦用に、軍で使用する「H145M」2機を発注しました。ちなみに納入された2機は警察のマークを施されて運用されていることからも分かるとおり、警察が「H145M」を用いて執行活動を行うことも可能です。[7]

 戦術的空輸能力を獲得するため、将来的に大型ヘリコプターの導入の検討も想定されています。[1]


 ルクセンブルク軍で驚くほど優れているのは無人航空戦力であり、彼らは より大きないくつかの欧州諸国を上回る能力と数を誇る無人機部隊を運用しています。近年におけるこの部隊の戦力については、12機の「RQ-11 "レイブン"」、数量不明の「RQ-20 "ピューマ"」、4機の「RQ-21 "インテグレーター"」、そして「アトラス・プロ」手投げ式UAVで構成されています。[8] [9] [10]

 ルクセンブルクは、合成開口レーダー(SAR)及びEO/IRセンサーを搭載した「RQ-4D "フェニックス"」 高高度長時間滞空(HALE)型無人偵察機5機を飛行させているNATOの同盟地上監視プログラム(AGS)のメンバーでもあります。

 現在、ルクセンブルク軍はパートナー国と協力してさらなる航空監視プログラムに参加するか、その代わりに必要な航空機やUAV、そしてデータ解析能力を自身で導入するかを検討しているところです。[1]

 (ベルギーも調達した)アメリカの「MQ-9B "スカイガーディアン" 」やイスラエルのエルビット「ヘルメス 900」といった、多岐にわたる高度なペイロードを備えた(より大型の)無人偵察機の導入は、比較的少ない人的資源の投資で済むことに加えてNATOの能力向上に著しい貢献をすることも可能となるでしょう。

 ルクセンブルクのような小さな国では必然的に空域が狭いため、大型UAVを使った日常の運用や訓練は不可能ではないにしても、大きな支障となることが不可避です。この点の対応は、ベルギーなどのパートナー国と提携する可能性はルクセンブルクにとって特に魅力的な選択肢となるかもしれません。

 洋上監視機を導入した場合は入手した機体を内陸国以外の空軍基地に配置させることも必要となりるものの、アデン湾のような不安定な海域でルクセンブルクの旗を守り、地中海では欧州対外国境管理協力機関(Frontex)を支援することに導きます。



 より大型のUAVまたは洋上監視機を調達することで空中偵察能力を万全にできる一方で、ルクセンブルクは2018年に官民連携(PPP)で政府所有の通信衛星「GovSat-1」を打ち上げることによって宇宙にも進出しました。

 「GovSat-1」は、複数の政府特有のミッションのために高出力かつ操作可能なスポットビーム照射能力を備えた軍用の周波数(Xバンドおよび軍用Kaバンド)を用いる多目的衛星であり、ヨーロッパのみならず中東やアフリカもカバーしています。

 ルクセンブルク政府はこの新しい人工衛星で割り当てられるデータ容量の大半を事前に押さえており、残りの容量はほかの政府機関や団体といった顧客に提供されることになっています。

 ルクセンブルク国防省は、需要に応じて今後10年間で衛星コンステレーションを徐々に拡大させていく場合の利点を検証する予定です。[1]


 場所が空でも宇宙でも、種類も有人・無人だろうと、ルクセンブルク軍の航空部隊には最初に目にした以上の価値があることは間違いありません。

 この部隊は半世紀わたる休養状態から復活したばかりですが、今後10年間に計画されている目覚ましい規模の調達で急速に能力を拡大することになっています。 ルクセンブルクは空中監視/偵察、空中給油、輸送などの重要な分野に投資することで、さらなるNATOの支援を可能にするわけです。

 今後もこの投資が継続されるならば、この国は貴重なNATO加盟国として未来に羽ばたいていくでしょうし、真の能力の尺度として、献身は自身の規模に勝ることを実証することになるのです。


[1] Luxembourg Defence Guidelines for 2025 and Beyond https://defense.gouvernement.lu/dam-assets/la-defense/luxembourg-defence-guidelines-for-2025-and-beyond.pdf
[2] Luxembourg Army Aviation http://www.aeroflight.co.uk/waf/lux/army/lux-army-home.htm
[3] https://twitter.com/Francois_Bausch/status/1590708549407342598
[4] Navire de transport stratégique belgo-luxembourgeois (NTBL) [belgian-luxembourg strategic transport vessel Command, Logistic Support & Transport (CLST) https://www.globalsecurity.org/military/world/europe/clst-h.htm
[5] Multi Role Tanker Transport Capability https://english.defensie.nl/topics/international-cooperation/other-countries/multi-role-tanker-transport-capability
[6] Luxembourg to double defence spending by 2028 https://www.luxtimes.lu/en/luxembourg/luxembourg-to-increase-defence-spending-by-2028-62b5739cde135b9236c55bc6
[7] Polizeihubschrauber offiziell vorgestellt https://www.wort.lu/de/lokales/polizeihubschrauber-offiziell-vorgestellt
[8] Matériel - UAV https://www.armee.lu/materiel/uav
[9] https://twitter.com/ArmyLuxembourg/status/1576878178286850049
[10] SIPRI - Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php

※  この記事は、2022年12月2日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した 
  ものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所がありま
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