航空分野におけるトルコの野心は、ステルス戦闘機「TF-X(カーン)」、高等ジェット練習機「ヒュルジェット」、そして「T625 「ギョクベイ」ヘリコプターといった先進的な航空機の開発に繋がっています。
こと「バイラクタル・クズルエルマ」戦闘機です。(たいていは短期間で行われている)こうした機体の研究開発・生産は驚くべきものであり、政府から支援を受けつつも細かく干渉されることなく、意欲的なエンジニアのチームがどのような成果を上げられるかを明確に示しています
トルコの航空分野における野心は、軍用機の開発だけに留まっていません。2015年、同国はアメリカに拠点を置くシエラ・ネバダ・コーポレーションと協力し、「TRジェット」計画を立ち上げたことは皆さんの記憶に新しいのではないでしょうか。このプロジェクトからは、4種類の旅客機が誕生する予定でした。まずは短距離用の32席を備えたジェット機(「TRJ328」)とターボプロップ機(「TR328」)、そして中距離用の最大70席を誇るジェット機(「TRJ628」)とターボプロップ機(「TR628」)です。TRジェットについては、「TRJ328」を500機から1,000機販売することを目標としており、「TRJ628」についても同程度の販売数が見込まれていたようです。[1]
これらの数値は非常に楽観的なものであり、結局のところ、トルコ政府にさらなる投資を説得するには不十分だったこともあり、この計画は2017年に中止になってしまいました。[1]
これにより、トルコにおける民間航空産業の確立に向けた短期的な見通しに終止符が打たれたとはいえ、民間航空機の設計・生産に関するアンカラの遠大な野心そのものが終わりを告げたわけではありません。当時の報道によると、トルコは民間航空機製造分野へ参入する計画を継続はするものの、他国との別の投資案件を検討する形で進める見通しだったようです。その国の一つがウクライナであり、トルコは同国と旅客機の開発の可能性について、特に2015年と2020年に、度々協議を行ってきました(
編訳者注:ご存じのとおり、ロシア・ウクライナ戦争の影響もあってこちらの投資案件は目に見えるような形での進行は見られない)。[2] [3]
インドネシアは、トルコが航空宇宙分野で緊密な協力関係を築いてきたもう一つの国です。現在、PTディルガンタラ・インドネシア(PTDI)は19人乗りの「N219」と54人乗りの「N245」というターボプロップ旅客機の開発を進めています。トルコ航空宇宙産業(TUSAŞ)はすでに両機種の開発に関与しており、この協力をさらに深めることは、トルコとインドネシアの双方にとって大きな利益をもたらす可能性があります。[4]
この記事では、「N219」及び「N245」プロジェクトへの関与を強化することで、トルコが国内の旅客機開発への意欲を再燃させようとしている背景について考察していきます。
「N245」と特により小型の「N219」は、一見するとトルコが以前抱いていたジェット旅客機開発の野心から後退したように思えるかもしれませんが、両機種とも「TRジェット」に比べて財務リスクが低く、アフリカ、東南アジア、南米といったビジネスチャンスに富む海外市場で成功する可能性が高いと評価できます。
トルコの民間ジェット機開発への野心は、アントノフ社との提携により、「An-178」及び「An-188」貨物機の共同開発・生産を通じて、いつでも復活させることが可能です。
その可能性については、以前の記事で取り上げたとおりです。[5]
「N-219」と「N245」について詳しく説明する前に、これまでの航空分野におけるインドネシアの取り組みを振り返っておくことは理解する上で非常に重要です。1976年、インドネシアはスペインのCASA社から「C-212」輸送機の生産ライセンスを取得し、その後、「CN-235」輸送機の開発にも着手しました。
「CN-235」は50席を備えた旅客機としても販売されたものの、その想定顧客を惹きつけることはできませんでした。それでも、IPTN(現PTDI)はこれに挫けず、「N250」と名付けられたターボプロップ式地域間輸送用旅客機の開発プログラムを推進したのです。最初の試作機は1995年に初飛行を行い、続いて1年後に乗客定員70名の
ロングバージョンが開発されました。[6]
このプロジェクトは極めて有望視されていたものの、1997年のアジア通貨危機を受けて「N250」プロジェクトに関する全作業が中断され、設計の初期段階に入ったばかりだったIPTNの
「N2130」ジェット旅客機計画も頓挫してしまったのです。
2014年、インドネシアのジョコ・ウィドドは大統領就任するとすぐに、民間航空機の設計開発分野におけるインドネシアの取り組みを強化しようと模索しました。 [7]
当初は、「N250」の改良型を開発することでプロジェクトを再開する方針だったようですが、その後、当時すでに進行中だった「N219」多目的機プロジェクトと、「CN-235」をベースにした座席数50のターボプロップ旅客機「N245」に注力することが決定されました。これらの設計に続き、「N270」と呼ばれる胴体延長型が開発される可能性があり、こちらは70名以上の乗客を収容できるようになる見込みとなっています。[8]
ほぼ同時期に、インドネシア元大統領でありIPTNのCEOでもあったバハルディン・ユスフ・ハビビは、「N250」計画を「
RegioProp R-80」という新名称で再始動させようとしたようですが、これは密かに断念されたようです。
「N219」は、(最大積載時において)最大890km離れた目的地まで乗客や貨物を輸送するために設計された、19人乗りの双発多目的機です。[9]
この航空機は、遠隔地の整備が不十分な滑走路からの運用を想定して設計されており、アフリカ、南米、インドネシアで想定される運用環境に最適と言えます。大型の側面貨物ドアとモジュール式貨物システムにより、同機は最大積載量2,300kgの旅客輸送か貨物輸送、あるいは旅客と貨物の混載任務に合わせて簡単に構成を変更することができるという特徴があります。[9]
この飛行機は、
「DHC-6 "ツイン・オッター"」、
「セスナ 408 "スカイクーリエ"」、そして将来登場するデサエル
「ATL-100」の主要な競合機です。現在、チェコスロバキアのLet「L-410」、中国のハルビン「Y-12」、あるいは「セスナ208」を運航している航空会社にとって、現在試作の最終段階にある「N219」は特に注目すべき機体となることでしょう。これらの機種は、未舗装の滑走路でも運用できること、整備が容易であること、そして導入・運用コストが低いことが「N219」と共通している上にアフリカや南米全域で今でもよく見かけるからです。
「N219」の価格は約600万ドル(6.9億円)となる見込みで、これに対し、「セスナ408」の貨物機型は685万ドル(7.8億円)、旅客機型は740万ドル(8.5億円)となっています。[10] [11]
その性能と低価格な導入コストのおかげで、「N219」はすでにナイジェリア、中国、メキシコから関心を集めており、インドネシアの航空会社約10社が、計150機ほどの「N219」について取引意向書に署名しています。[12]
これらはまだ確定注文には至っていないものの(「N219」の開発が完了すれば注文が入る可能性が高いでしょうが)、同機に対するビジネス上での関心の高さがはっきりと示されています。旅客機や貨物機としての運用に加え、通常の「N219」は兵員輸送や医療搬送(MEDEVAC)、空中監視、捜索救難活動(SAR)、スカイダイビング、その他の(軍事)用途にも活用可能ですが、なんと観光フライトに特化した
フロート装備の水陸両用型も構想されています。[13]
ただし、「N219」がトルコの航空会社から関心を集める可能性は低いでしょう。と言うのも、彼らが現在運航している国内線のいずれの便に就航させるには、機体があまりにも小さすぎるからです。この機種はトルコ国内の新規かつ小規模な路線に就航できる可能性はあるものの、そうした便が採算に合い、十分な需要が見込めるかどうかは疑問が残ります。
現在運用中の機体を置き換えるため、トルコ陸軍や国家憲兵隊が少数の「N219」に関心を示している可能性はあるものの、トルコが「N219」プロジェクトに参加する目的は小型多目的機の国内需要を満たすことではなく、同機を輸出面で成功させるために必要な技術と専門知識を提供することにあるようです。
「N219」とは異なり、「N245」は新規に設計された機体ではなく、「CN-235」輸送機を全面的に改良し、新型エンジンやT字尾翼、ウィングレットを装備したものです。[14]
また、この機種は54人乗りの旅客機という新たな役割に合わせて、貨物用後部ランプの撤去など、
いくつかの変更がなされています。「CN-235」の設計改良に長年の経験を反映させた「N245」は、1980年代に航空会社向けに売り込まれた「CN-235」の旅客型とは全く異なる機体です。そもそも、後者は本質的に旅客輸送用に改造された貨物機にすぎませんでした。
前述の改良が航空会社に「N245」の導入を納得させるのに十分かどうかは、同機の価格と運用コスト次第となるでしょう。また、同機は「ATR-72」や「ダッシュ8」といったライバルとの激しい競争に直面する可能性は避けられません。N245が市場に投入される頃には、このセグメントには、中国の
西安「MA700」やロシアの
イリューシン「Il-114-300」といった他の機種も加わることになるはずです。それでもなお、インドネシア市場での実績は、これらの航空機にとって初期段階から一定規模の経済をもたらし、最終的には世界市場における競争力を高めることになるのではないでしょうか。
「N219」と同様に、「N245」もトルコの世界的な影響力を活用して、世界中の顧客、とりわけインドネシア独力では参入が難しいアフリカや南米の市場を開拓できる可能性が否定できません。
現時点における「N245」プロジェクトは設計の最終段階にあり、今後数年のうちに試作機が製造される見込みです(
編訳者注:このプロジェクトは2021年を最後に続報が途絶えていることから、事実上頓挫したものと思われる)。
「N245」という名称は、インドネシアが独立を宣言した1945年に由来しています。ただし、インドネシアがオランダの植民地支配から正式に独立を達成するには1949年12月にまでかかりました。
「N245」はトルコの航空会社からも関心を得られるかもしれません。この10年間で、トルコ全土に数多くの空港が建設され、これまでバスや遅い列車に頼っていた都市や地域へのアクセスが大幅に改善されました。ターキッシュ・エアラインズは現在、150~185席のエアバス「A319」、「A320」、「A321」、そして「ボーイング737」ジェット旅客機を用いており、これらの空港の多くを結んでいます。
より安価な選択肢として、ターボプロップ機の「N-245」が挙げられます。この機体なら、最大54人の乗客を、1100km圏内の人気のない空港まで運ぶことが可能であり、「ターキッシュ・エアラインズ・リージョナル」という新ブランドの下で運航されることになるかもしれません。
「TRジェット」も「N245」と同様にプロジェクトの進行を早めるため、既存の設計を最大限に活用することを模索しました。実際、「TR328」及び「TRJ328」は、それぞれドイツの「Do 328」と「Do 328JET」を改良した機種です。[15]
PTDIの機種についても同じように名称を変更するはずなので、「N219」は「TR-219」に、「N245」は「TR-245」となるでしょう。
トルコが国際情勢において果たす影響力が、同機の商業的成功に重要な要因となり得ると言えるのでないでしょうか。また、原産国(トルコまたはトゥルキエ)を明確に示す名称は、間違いなく有利に働くと考えられます。これらの航空機に対する強力な政治的な後ろ盾も、輸出販売を促進する重要な要因となるはずです。
2017年7月、PTDIはTUSAŞと「N245」及び「N219」の開発で協力する契約を締結したことを初めて発表しました。この契約に基づいて、両社が「N245」を共同で開発・生産・販売することになったのです。[17]
TUSAŞは、「N245」を軍用輸送機からコスト効率に優れた民間旅客機へと改修する支援を実施するとのことです。2021年の報道によると、また、同社は「N219」の将来的な生産にも携わることになり、ハヴェルサンと「N219」シミュレーターの共同開発に関する基本合意書(MoU)を締結したとも伝えられています。[18] [19] [20]
トルコ国内に「N219」や「N245」の組立ラインを設立する計画があるかどうかは不明ですが、国内の民間航空産業の確立や、トルコがこれら両機種を自国製として位置付ける上で、極めて重要となる可能性があります。
トルコが「TRジェット」プロジェクトを通じて国産旅客機の製造を目指した取り組みは2017年に終止符が打たれたものの、同国が民間航空機の設計・製造という野心を復活させるための選択肢は依然として複数存在しています。当ブログでは、
トルコがウクライナの航空プロジェクトに参画し、緊密に協力する可能性についてすでに取り上げています。
規模は多少控えめかもしれませんが、ターボプロップ機の「N219」と「N245」も同様に成功を収める可能性があるでしょう。
トルコの技術力と世界的な影響力にインドネシアの設計開発が融合すれば、両国が単独では成し得なかった「世界的な航空事業の成功」という成果をもたらす、まさにゴールデンコンビとなる可能性を秘めています。