2023年2月15日水曜日

オリックスのハンドブック:イランがイエメンのフーシ派に供与した武器一覧(2015~)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 イエメンの反政府勢力であるフーシ派に武器や装備類を輸送するため、イランはオマーンとアラビア海、そして紅海を経由する密輸ルートのネットワークを構築しています。

 こうして輸送される密輸品に、小火器から巡航ミサイル、徘徊兵器、さらには弾道ミサイルに至るまでの多岐に渡る武器が含まれていることはよく知られています(注:フーシ派が保有する全ての自爆型無人機は技術的要因やその性格上、遠隔操作またはプログラム飛行型である可能性が極めて高いと考えられていますが、当記事では原文にしたがってそのまま「徘徊兵器」という表現を用いています)。

 海上封鎖が行われているにもかかわらず、これらがイエメンに届き続けている事実は、イランの武器密輸方法が高いレベルにあることを示していますが、武器密輸は往々にしてこの海域を航行する西側諸国やサウジアラビアの軍艦に阻止され、密輸品が押収されることも散見されます。

 これらの押収された密輸品(武器)の量は、西側諸国が戦乱の最中にあるウクライナに少なくともその一部を供与するのに十分と言える規模でした。[1]

  フーシ派向けにイラン起源の武器や装備類を積んだ船の大部分は、ソマリアが最終目的地となっています。こうした船はアラビア海や紅海に到着すると、武器や装備類を小型船に移し、それらはイエメン沿岸まで輸送されます。

 そして、ソマリアへ向かった後にイエメンへ向かう輸送路と、オマーン経由の陸路での輸送賂が残りの密輸ルートを占めています。

 また、イエメン国内で多数の兵器システムの改造や再生、無人機といったイランが供与した兵器に使いるコンポーネントの製造ラインの設置などについても、イランの技術者が極めて重要な役割を果たしたとみられています。

  1. このリストには、2015年のサウジアラビア主導による有志連合のイエメン介入後にイエメンのフーシ派に供給された、あるいはイエメンに向かう途中で阻止されたイラン起源の武器や装備類だけを掲載しています。
  2. このリストには、弾薬、照準器、ミサイルやドローン用の特定の部品、ケーブルなどの物品は含まれていません。
  3. アポストロフィーで囲まれた部分は、フーシ派が外国から供与された武器に付与した呼称を示しています。
  4. 名称の後に記した角括弧の年は、イエメンへの密輸が発覚した年を示しています。
  5. ジョシュア・クーンツ氏による「Iranian Arms Dashboard」でイエメンの各行政区域で目撃されたイラン製の武器が紹介されていますので、ぜひチェックしてみてください。
  6. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。


「ワエド」こと「シャヘド-136」は2022年9月にロシアがウクライナに投入したものと同型と見られています

弾道ミサイル


地上発射型巡航ミサイル (GLCM) ※以下のミサイルは「スーマール」とされていますが、大きさなど特徴に差異が多く見られることから、同ミサイルをベースに開発されたものと思われます。


徘徊兵器


無人戦闘航空機(UCAV)


無人偵察機


地対空ミサイルシステム


沿岸防衛システム
対艦誘導ロケット


誘導式ロケット弾


多連装ロケット砲


携帯式地対空ミサイルシステム (MANPADS)


対戦車ミサイル (ATGM)


迫撃砲


軽機関銃及び重機関銃


アサルトライフル及び短機関銃


[1] The Involuntary Ally: Iranian Arms In Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/09/the-involuntary-ally-iranian-arms-in.html

この記事の作成にあたり、ジョシュア・クーンツ氏に感謝を申し上げます

※  当記事は、2022年9月9日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ 
    ります。



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2023年2月12日日曜日

たくましい味方:トルコによるウクライナへの軍事支援(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ 

 (この記事の執筆時点で)ロシア・ウクライナの戦争が勃発から1年が迫る中、ウクライナの戦力増強だけでなく、数回にもわたる和平交渉の主催や黒海経由の穀物輸出に関する協定の交渉に関与するなど、トルコはNATO加盟国でありながらロシアと西側諸国をつなぐ唯一の存在として、自身が持つ独特な立場を活用しています。

 トルコはNATO加盟国の中で最もモスクワに友好的であり続けていますが、ロシア国内にある標的に対して使用しないという明確な条件を設けずにウクライナへ兵器類を供給している唯一のNATOの国でもあります。ウクライナはこうした運用の柔軟性を喜んで活用し、トルコ製の「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)を使用して、ロシアのクルスク州とベルゴロド州にある標的を何度も攻撃しているのです。[1] [2]

 しかし、トルコがウクライナの友好国の中で目立っているのは、その戦略的な寛大さが唯一の理由ではありません。なぜならば、同国による支援は全NATO加盟国の中でも最も包括的な軍事支援の一つとなっているからです。

 ウクライナに対するトルコの支援の強さについては、過去数年にわたってトルコの外交政策の決定を追いかけてきた人にとっては少しも驚くようなことではないでしょう。
 
 トルコは背後にロシアがいるハリーファ・ハフタル将軍のリビア国民軍(LNA)に対して国際的に承認された国民合意政府(GNA)の側に立って介入した唯一のNATO加盟国であり、最終的にLNAとPMC「ワグネル」を押し戻してGNAを確実視されていた敗北から救った過去があります。[3] [4]

 実際にその功績が評価されることはありませんでしたが、トルコの介入は、NATOの南側にロシアが確かな軍事的拠点を獲得することを妨げた唯一の要因だったと言えます。

 ただし、ロシアの利益にダイレクトに対抗するトルコの外交政策の決定が大きなリスクなしでなされているとは言っているわけではありません。すでにトルコはロシアの支援を受けたり、報復行為としてロシアが支援を拡大する可能性のある敵対勢力からの脅威に直面しているからです。

 なお、イスラエルはウクライナに軍事支援を行わない理由として、このような脅威を利用してきました(同時に、イスラエルはヨーロッパ諸国によるウクライナに対する同国製兵器の供与についても禁止しています)。[5]

 具体的には、イスラエルは自国製兵器によってロシア兵が殺害されることがシリアにおける同国の安全保障上の利益をロシアが害することに至る可能性を懸念しているようです。[6]

 イスラエルとは正反対に、トルコはリビアで(ロシア軍の非公然部隊として活動している)PMC「ワグネル」の陣地や兵士を空爆することに、少しの躊躇も見せませんでした。

 トルコは良好な対外関係を維持することに注力しているように見える一方で、自国や戦略的パートナーの利益が脅威に晒されたと感じれば、とっさに行動を開始するような一面も持っているようです。

 ウクライナへの行動について具体的に挙げると、トルコは2022年3月以降のウクライナ・ロシア間の仲裁に大々的に尽力したでけではなく、「バイラクタルTB2」UCAV約35機、「バイラクタル・ミニ」無人偵察機24機、「TRLG-230」誘導式多連装ロケット砲(MRL)、電子戦装備、BMC「キルピ」MRAP200台、迫撃砲、弾薬など多くの物品の引き渡しも実施しています。

 トルコは軍事支援の規模を公にするよりも、これらの引き渡しに関する発表を最小限に抑えることを選択しました。送られた兵器類については、その大半がウクライナで目撃されるか、ウクライナの情報源から私たちに報告されて初めて明らかになる場合を占めているのが実情です(この記事で取り上げた兵器のほとんどが該当します)。

 ちなみに、兵器類の大部分は寄贈されて残りは大幅に値引きされて販売されたとのことです。

ウクライナ軍のBMC「キルピ」MRAPの列:最大で200台がトルコから供与される予定

 ウクライナの窮状に対するトルコの援助は、その全てが政府によるものばかりではありません。

 リトアニア・ウクライナ・ポーランドの各国で行われた「バイラクタルTB2」5機を調達するためのクラウドファンディングが目標に成功した後に、メーカーの「バイカル・テクノロジー(バイカルテック)」社は同数のTB2をウクライナへ寄贈することを決定し、集められた3,200万ドル(約42.2億円)をウクライナの人道・防衛・復興プロジェクトに転用することが可能になったおかげで国際的な名声を得るに至りました。[7] [8] [9]

 興味深いことに、これは全体の話の半分にすぎないようです。ウクライナ政府筋の情報によると、同国は「バイカルテック」からさらに15機の「バイラクタルTB2」を無償で受け取り、さらに別の15機も同社の製造コストのみを負担する価格で販売されたとのことでした。

 また、「バイカルテック」は24機の「バイラクタル・ミニ」無人偵察機もウクライナに寄贈しています。この機種はウクライナに引き渡された他の(小型)UAVとは異なって電子妨害に強い特徴を有していることから、妨害電波が飛び交うウクライナの戦場において大いに歓迎されるものと言えるでしょう。

「バイカル・テクノロジー」のハルク・バイラクタルCEOとウクライナ軍総司令官であるヴァレリー・ザルジュニー大将が「アクンジュ」の模型を手に記念撮影している様子

 これまでに報じられていなかったトルコによる武器供与には、その精密誘導ロケット弾のおかげで高い殺傷力を誇る(数量不明の)「TRGL-230」230mm誘導式多連装ロケット砲(MRL)があります。

 (ペイロード上の関係で)最大で4つの目標しか攻撃できないものの、24時間以上の滞空時間と(車両などの目標に対しては75km以上と考えられている)長い探知距離を誇るEO/IRセンサーによって多くの目標を探知するTB2との共同作戦で、「TRLG-230」は(70km圏内にいる)TB2が指示した目標を連続して正確に撃破することが可能です。

 「バイラクタルTB2」が目標を攻撃している様子を映す映像が少ないことについて、TB2が全機撃墜された(あるいはもっと不可思議なことに、存在する全映像は最初の数日間に記録されたもので、後で徐々に流出していった)と説明しようとする人もいますが、ウクライナのTB2は戦場での脅威が進化するにつれて長距離偵察や電子戦、そしてスタンドオフ兵器での攻撃を含む数多くの新たな役割に投入されています。ただし、後者に関する詳細は依然として情報不足のままです。

「バイラクタルTB2」が指示した目標を打撃できる「TRLG-230」230mm誘導式多連装ロケット砲(MRL):トルコは数量不明の同MRLをウクライナに供与した

 トルコにはウクライナ軍に非常に適したアセットが他にも豊富に存在します。

 すでに、この国はUCAVや誘導式MRLに加えて考えられる限りのあらゆる兵器システムを輸出しており、この中には「T-122」122mm MRLや「TRG-300」300mm MRLのみならず、射程15kmの「ヒサール-A+」対空ミサイルシステム(SAM)、射程25kmの「ヒサール-O」SAM、「コルクート」35mm自走対空砲など、徘徊兵器の脅威に対抗するのに理想的な防空システムも含まれています。

 NATOはソ連時代の兵器を調達するために(まだ保有している)加盟国を探し続けていますが、こうした調達先が徐々に枯渇していけば、より高度な兵器を(ウクライナに代わって)トルコから調達する方向へ転換するかもしれません。なぜならば、トルコはウクライナに高度な兵器を供給することについては、仮にそれがロシア国内の攻撃目標に使用できるものであっても特に問題がないことを実証したからです。

 その一方で、ウクライナも数年以内にトルコに発注した「アダ」級コルベット2隻のうち1隻を受け取る予定です。「F211 "ヘトマン・イヴァン・マゼーパ"」は2022年10月2日に正式に進水し、ウクライナ海軍に引き渡しできるまでトルコで就役の準備を続けることになっています。[10]

 黒海におけるロシア海軍のプレゼンスは当面の間にわたって新型艦の使用を妨げるかもしれませんが、トルコはウクライナのより差し迫った問題に対処するための取り組みを継続して実施しています。

 また、イラン製の徘徊兵器という脅威と戦うために「バイカルテック」が「バイラクタルTB2」に「スングル」赤外線誘導式携帯型地対空ミサイルシステム(MANPADS)をインテグレートしてウクライナを支援することを模索している旨の報道も、トルコが(仮にロシアとの関係が損なわれたとしても)ウクライナ防衛に賛意を示す信頼できる味方としての地位を際立たせることに貢献していることは言うまでもないでしょう。[11]

ウクライナが発注した「F211 "ヘトマン・イヴァン・マゼーパ"」:2022年10月にトルコで進水した

  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の最中にトルコがウクライナに引き渡した軍事装備等の追跡調査を試みたものです。
  2. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています。
  3. 一部の武器供与については機密扱いであるため、寄贈された武器などの数量はあくまでも最低限の数となっています。
  4. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  5. * はウクライナがトルコの防衛企業から調達したものです。
  6. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。

無人戦闘航空機 (UCAV)
  •  30+ バイラクタルTB2 [2022年3月以降に引き渡し] (半分は「バイカル」による寄贈で、残りの半分は半額で販売)
  •  5 バイラクタルTB2 [2022年6月以降に引き渡し] (リトアニア、ウクライナ、そしてポーランド国民によって調達資金がクラウドファインディングされたものだが、これを受けた「バイカル」で無償供与することを決め、集まった3,200万ドルを人道支援などに転用)

無人偵察機

(誘導式) 多連装ロケット砲


自走砲

電子戦装備

  •  地上ベースの電子戦装備 [2022年夏に引き渡し]
  •  航空機用電子戦装備 (「バイラクタルTB2」用) [同上] (「バイカルテック」による寄贈)

装甲兵員輸送車 (APC)
  • ''装甲兵員輸送車'' [予定]

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両

歩兵機動車

迫撃砲

小火器

弾薬

  •  100,000 155mm砲弾 [供与予定]
  • M483A1 155mmクラスター砲弾 [2023年8月以前に引き渡し]
  •  「MAM-L」誘導爆弾 (「バイラクタルTB2」用) [2022年3月以降に引き渡し]
  •  「MAM-C」誘導爆弾 (同上) [同上]

個人装備

その他の装備品類


[1] https://twitter.com/UAWeapons/status/1519305213831782400
[2] https://twitter.com/UAWeapons/status/1520045425625030656
[3] Al-Watiya - From A Libyan Super Base To Turkish Air Base https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/al-watiya-airbase-capture.html
[4] Tracking Arms Transfers By The UAE, Russia, Jordan And Egypt To The Libyan National Army Since 2014 https://www.oryxspioenkop.com/2020/06/types-of-arms-and-equipment-supplied-to.html
[5] Vetoing Victory - Israel Is Blocking (Military) Aid To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/06/vetoing-victory-israel-is-blocking.html
[6] Israel refused US request to transfer anti-tank missiles to Ukraine — report https://www.timesofisrael.com/israel-refused-us-request-to-transfer-anti-tank-missiles-to-ukraine-report/
[7] Go-Fund Ukraine: Baykar Tech Donates TB2 For Ukraine After Lithuanian Crowdfunder https://www.oryxspioenkop.com/2022/06/go-fund-ukraine-lithuania-raises-funds.html
[8] A Ukrainian TV host crowdfunded $20 million to buy Bayraktar drones. The company making them refused the money and said it'd donate the aircraft instead https://www.businessinsider.com/bayraktar-firm-refuses-20m-says-will-donate-drones-to-ukraine-2022-6?international
[9] Baykar to donate another drone to Ukraine after Polish crowdfunding campaign https://www.aerotime.aero/articles/31748-baykar-to-donate-drone-to-ukraine-after-polish-fundraiser
[10] Turkish shipyard launches Ukraine’s 1st MILGEM corvette https://www.navalnews.com/naval-news/2022/10/turkish-shipyard-launches-hetman-ivan-mazepa/
[11] Turkish drone maker Baykar ‘to counter kamikaze threat in Ukraine’ https://www.dailysabah.com/business/defense/turkish-drone-maker-baykar-to-counter-kamikaze-threat-in-ukraine

※  当記事は、2022年11月21日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したも
 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
 あります。



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