2023年10月21日土曜日

カダフィ大佐の遺産:死後から1年も残存し続けた大規模な砲兵戦力


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2011年末の第一次リビア内戦の終結以降、親カダフィ派組織的による組織的な反乱の噂が絶えません。しかし、2012年から2014年に発生した数々の攻撃や自動車爆弾によるテロを除くと、組織化された抵抗運動が実際に起きることはありませんでした。

 その代わり、カダフィ大佐の次男であるセイフ・アルイスラム・カダフィは政治的手段によって(かつて父親が手にしていた)権力を奪回することを目指しており、2021年11月に同年12月に実施されるリビア大統領選挙の候補者として届け出ようとしたものの、拒否されてしまいました。ところが、この決定は1か月足らずで覆され、彼は2023年のある時点で実施される予定の選挙で大統領候補として復活することになったのです。[1][2]

 2012年8月にトリポリで起きた一連の自動車爆弾によるテロ攻撃がなければ、この状況は変わっていたかもしれません。この爆弾テロに関する捜査によって、当局はトリポリ近郊のタルフーナにある軍備保管施設を掌握している民兵組織にたどり着きました。[3]

 2011年の革命以降に彼らがこの施設を管理していることは、政府の樹立と反政府武装勢力の武装解除に追われていた当局には気づかれていなかったようです。

 この「カティーバ・アル・アウフィヤ(信者旅団)」と呼ばれる民兵組織は、反カダフィ勢力を装いながらずっとカダフィ体制への復帰を画策することに成功していました。実際、この民兵組織は内部で「殉教者ムアンマル・カダフィ旅団」と呼ばれていたのです ![3]

 この旅団が管理していた軍備保管施設は単なる倉庫ではなく、数百もの野砲や自走砲(SPG)、多連装ロケット砲(MRL)、さらには「スカッド」弾道ミサイル発射機でさえも保管されているという、この種の施設としてはアフリカ最大級のものでした。  

 自動車爆弾テロや2012年6月に起きたトリポリ国際空港の一時的な占拠さえなければ、この施設における「ムアンマル・カダフィ殉教者旅団」の活動は、クーデターを引き起こすのに必要な戦力を構築するのに十分過ぎるほどの間にわたって気付かれなかった可能性があります。なぜならば、この施設にアルジェリア・エジプト・モロッコに次ぐアフリカで4番目に規模の大きな砲兵装備が保管されていたからです!

 同施設にあったロケット砲の多くは(1990年代に外国企業が退去した後の)少なくとも20年間はほとんど整備されずに保管されていたものの、保管庫と布製カバーがその大部分を良好な状態で維持することを可能にしたようです。2011年のNATOが主導するリビア介入時に有志連合軍の航空機が同施設に属する46の保管庫のうち40を攻撃し、保管されていた大砲の一部が損傷を受けました。

 それでも「殉教者ムアンマル・カダフィ旅団」は既に多くの火砲を使用可能な状態に修復したほか、共食い整備用として他のシステムから予備部品を調達し、さらに多くの火砲を修理している段階までいっていたようです。

複合施設で遭遇した「スカッド」ミサイル発射機の1つ。車体のエンブレムは「砲とミサイルに指示を」と書かれており、1999年の革命30周年記念閲兵式のために特別に施されたものである。

 「タルフーナ複合施設」は、もともと1970年代後半か1980年代前半に軍用装備の保管・修理・整備施設として建設されたものです。

 1970年代、カダフィ大佐はリビアを「イスラムの兵器庫」にするために大規模な兵器の買い占めに乗り出しました。この野心的な取り組みの一環として、彼は自国の軍隊が必要とする量をはるかに超える量の軍備を調達したわけです。

 入手した兵器システムの多くはリビアに到着後すぐに保管庫に入れられ、一部は後に中東・南米・アフリカの友好国(もちろん北朝鮮にも)に寄贈されましたが、残りは最初に到着した保管庫から外に出ることはありませんでした。実際、2011年に反政府軍がソクナの巨大な戦車保管施設を制圧した際、部隊に支給すらされていない無数の「T-55」戦車・「MTU-55」架橋戦車・「BMP-1」歩兵戦闘車(IFV)・「BTR-60PB」装甲兵員輸送車(APC)に遭遇しています

 こうした兵器は1970年代にアメリカやイスラエルとの世界的な戦争に参加するために購入されたものの、その来るべき出番がやってくることはありませんでした。その代わりとして、カダフィ大佐による42年にわたる統治を終わらせようとする反政府軍に動員されてしまったのです。

 この複合施設に保管されているSPGやMRLの多くが最後に運転されたのは、1999年にトリポリで行われた革命30周年記念の閲兵式に参加した時でした。「アフリカ合衆国」の発足を目指す取り組みを強化するため、カダフィ大佐はリビアが壊滅的な打撃がもたらされた10年にわたる制裁の後でも依然として侮れない国であることを世界に示すべく、リビア軍が導入したほぼ全種類の兵器を紹介する壮大な閲兵式を組織しました。[3]

 ただし、これらの大部分はこの時点でも長期保管の状態にあったことから、閲兵式のためにわざわざ再稼働させる必要があったことは言うまでもないでしょう。

 自身の民衆に感銘を与えようとするカダフィ大佐の試みは、リビア空軍に引退した「Tu-22」爆撃機を再稼働させて閲兵式の会場上空を飛行するよう命じるまでに至りました。10年以上も飛行していなかったこともあって飛行中の機体は激しく振動しましたが、その酷さはトリポリのミティガ空軍基地に着陸後のパイロットは地面にキスをして本拠地であるジュフラ基地への再飛行を拒否するほどだったようです。その後、この「Tu-22」はミティガに放棄されてしまいました。[5]

 閲兵式に参加した火砲やMRLはタルフーナへ送り返されて即座に再び保管状態に入り、リビアの軍隊を実際よりも強く見せるという役目を終えました。

2011年の有志連合軍によって破壊される前のタルフーナ軍備保管複合施設:この施設は2016年から2017年にかけて撤去された

 「ムアンマル・カダフィ殉教者旅団」は複合施設にある一部の火砲を複合施設への入り口をカバーする固定式バンカーに変えようと試みたにもかかわらず、彼らの守りは最終的に敗れ、その場にいた民兵の殺害や逮捕に至りました。[3]

 「タルフーナ複合施設」から強制的に退去させられた後の旅団は事実上消滅し、こうしてジャマーヒリーヤの時代に回帰するという彼らの夢に終止符が打たれたのです。

複合施設の正面入り口をガードしていた「2S1 "グヴォズジーカ"」122mm自走榴弾砲と「ZU-23」を搭載したトヨタ製テクニカル
複合施設を防備していた「殉教者ムアンマル・カダフィ旅団」に用いられていたテクニカルと北朝鮮の「BM-11」120mm MRL
46棟の保管庫のうちの1棟で見つかった「パルマリア」155mm自走榴弾砲:保管庫の屋根が有志連合軍の空爆で崩落している点に注意
すでに保管庫の外へ移動されていた十数台以上の「パルマリア」:リビアで最も新しい(装軌式)自走砲として、これらのほぼ全てが「リビアの夜明け(後のGNA)」によってリビア国民軍(LNA)やイスラム国の戦いで再び使用されることになる


「2S1 "グヴォズジーカ"」122mm自走榴弾砲」:「2S1」は「パルマリア」と共に2011年のカダフィ政権軍で広く使用されていた唯一の自走砲だった

放置された4台の「2S3 "アカーツィヤ "」152mm自走砲:1990年代に大部分が退役した「2S3」は現在のリビアでも稀な存在となっている

「2S1」及び「2S3」中隊で用いられる「MT-LBu」指揮車両


チェコスロバキアの「SpGH "ダナ"」152mm自走榴弾砲 :これらは全てが1990年代に退役していた。理由は不明だが、リビアで最も高性能な自走砲であるにもかかわらず、どの勢力もDANAを運用可能な状態に戻そうとはしていない



チェコスロバキア製「RM-70」MRL:「DANA」と同様に1990年までにはほぼ全てが退役していた

 現役へ復帰させる試みはなされていませんが、「RM-70」のうち少なくとも1台はタルフーナでAPCに改造され、もう1台は即席のSAM/ロケット砲として使用されました。

この「RM-70」のドアに施されたインシグニアには「勝利か死か」の文字が書かれている

「RM-70」は40発分の発射管を装備しており、さらに40発の122mmロケット弾を再装填用として搭載することができた。

北朝鮮の「BM-11」MRL:リビアの「BM-11」のほとんどはポリサリオ戦線やスーダンなどの他国軍へ寄贈されたものの、リビアでも数台が運用され続けている。

2台の「BM-11」の隣には中国製「63式」100mm MRL(ありふれた「63式」107mm MRLと混同しないように注意)が停まっている(画像の左):興味深いことに、中央の「BM-11」は給水車に改造されている

牽引される「M-46」野砲の背後には、中国製の「63式」130mm MRLが破壊された保管庫の外に投棄されている:「63式」はリビアで非常に不評であり、使用された機会は極めて限られたものだったが、「ムアンマル・カダフィ殉教者旅団」は、そのうちの数基を修復しようと試みた


見渡す限り「M-46」130mm野砲が並んでいる:この射程距離は「D-30」122mm榴弾砲より圧倒的に凌駕していたものの(27km対15km)、リビア軍は1990年代を通して「M-46」と北朝鮮の152mm野砲の両方を保管していた


数台の「スカッド」移動式発射機(ミサイルなし)もこの施設に存在していた

1969年のカダフィによるクーデター直前に、リビア軍は少数の「M109」155mm自走榴弾砲をアメリカから引き渡された:これらも46棟ある保管庫の1棟で遭遇した


リビア政府軍に持ち去られる戦利品たち:タルフーナ複合施設の発見と占領はカダフィ支持者が抱いたクーデターへの希望に終止符を打ったが、それは撮影された兵器たちの本格的な運用の始まりを告げたに過ぎなかった - 実際、その大半は今日まで使われ続けている。

[1] Libya election commission says Saif Gaddafi ineligible to run
[2] Libyan court reinstates Saif Gaddafi as presidential candidate https://www.aljazeera.com/news/2021/12/2/libya-court-reinstates-gaddafis-son-as-presidential-candidate
[3] Libya seizes tanks from pro-Gaddafi militia https://www.bbc.com/news/world-africa-19364536
[4] LIBYA. Military parade https://youtu.be/TIGehN-6JgU

※  当記事は、2023年1月3日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
  ります。



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2023年10月18日水曜日

翼を広げるシマハッカン:拡大するタイのUAV飛行隊


著:シュタイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 無人航空機(UAV)は、今や東南アジアにとって新しいものではありません。タイでは、すでに2001年の時点で陸軍がIAI「サーチャーMk. II」無人偵察機をイスラエルから調達して運用し続けているのです。

 この国ではその後の数十年にわたって(主にイスラエルから)さらなる種類のドローンの導入が続き、結果的に現在の陸海空軍で運用される無人兵器の拡充をもたらしました。

 その一方で、この中には数を増やしつつある自国で開発されたUAVや中国からライセンスを得て生産された機種も含まれています。それらの中でも最大かつ最も高性能な機種が中国・北京航空航天大学の「CY-9」をベースに開発した「D-アイズ04」で、最終的には陸軍の旧式化した「サーチャーMk.II」の後継となる可能性があります。[1]

 また、タイは、同大学が開発したより大型の攻撃能力も有する無人偵察機「TYW-1」にも関心を示しているとみられています。

 中国との協力によって、タイはこれまでに自国軍用の「DTI-1/1G」誘導式多連装ロケット砲を含む数多くの高度な最新兵器をライセンス生産するなど、他国とは実現不可能な取引を行ってきました(注:つまり、今後もこの傾向が続くことが自然ということ)。

 サイズと航続距離の(ほぼ)全てのカテゴリーでかなりの数のUAVが運用されているにもかかわらず、タイ軍の保有兵器にはいまだに無人戦闘航空機(UCAV)が欠けています。

 2019年には、タイの防衛技術研究所 (DTi) が「U-1 "スカイ・スカウト"」の攻撃機型である「U-1M "スカイ・スカウト-X"」を発表しました。この小型UCAVは射程6kmのタレス製「FF-LMM」誘導爆弾を2発搭載された状態で登場しましたが、この爆弾が大部分のUCAVよりも低い高度で飛行する 「U-1M "スカイ・スカウト-X"」から投下された場合、実際の射程距離はやや短いものとなるでしょう。

 この機種が実際にタイ軍の陸海空のいずれかの軍種で運用されることになるのか否かは、現時点では明らかになっていません。

 2021年12月、タイ海軍が4機の中高度長時間滞空(MALE)型UAVの導入を検討していることが公表されました。これについてはイスラエルの「ヘロンTP」や「ヘルメス900」、中国の「翼竜II」UCAVが有力な候補とみられていたものの、結果として2022年7月に「ヘルメス900」9機の発注が発表されました。[2][3]

 2022年6月にタイ国防省の代表団が「バイカル・テクノロジー」社を訪問したことは、タイが同社の「バイラクタルTB3」に対しても具体的な関心を示している可能性があります。[4]

 TB3は当初から海上での任務を念頭に置いて設計されたUCAVであり、今では専用の艦載機を持たないタイ海軍の空母「チャクリ・ナルエベト」からの運用も可能という利点があります。2021年に同空母の全長175mを有する飛行甲板から小型のVTOL型UAVを運用する実験を行っているため、海軍が無人機を将来的な艦載システムと考えていると推測することは至って自然なことです。[5]

北京航空航天大学の「CY-9」をベースに開発された「D-アイズ04」

(各機体の名前をクリックするとタイで運用されている当該UAVの画像を見ることができます)


無人偵察機 - 運用中 または  発注済み


VTOL型無人偵察機 - 運用中


無人標的機- 運用中


無人偵察機 - 試作


無人戦闘航空機 - 試作


VTOL型無人偵察機 - 試作

 既存のイスラエル製UAVや(主に中国の北京航空航天大学との協力を通じて)現在の能力をさらに拡大する態勢を整えている自国の高度な技術基盤のおかげで、タイにおけるUAV戦力の将来は明るいと言えるでしょう。

 将来的な「ヘルメス900」やMALE型UCAV、そして中国製大型UCAVのライセンス生産機の導入は(場合によってトルコからのUCAVの導入と組み合わせると)、タイは東南アジアにおける無人機戦力のトップに立つという素晴らしい偉業を成し遂げることを可能にするかもしれません。

タイの代表団メンバーが「バイカル・テクノロジー」のハルク・バイラクタルCEOから「バイラクタル・アクンジュ」UCAVの模型を贈呈された際の記念撮影(2022年6月)

[1] Royal Thai Army developping D-Eyes 04 MALE UAV https://www.airrecognition.com/index.php/news/defense-aviation-news/2021/november/7852-royal-thai-army-developping-d-eyes-04-male-uav.html
[2] Thai Navy Seeking Long-Range Maritime Surveillance Drone https://www.thedefensepost.com/2021/12/30/thailand-maritime-surveillance-drone/
[3] Thailand to Buy Israeli-Made Hermes 900 Drones https://www.thedefensepost.com/2022/07/04/thailand-israel-hermes-drones/
[4] Royal Thai Embassy, Ankara https://www.facebook.com/rteankara/posts/pfbid02k
[5] Thai aircraft carrier tests VTOL drone MARCUS-B https://www.navalnews.com/naval-news/2022/01/thai-aircraft-carrier-tests-vtol-drone-marcus-b/

 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
 あります。



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