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2025年10月17日金曜日

救世主となるか:ティグレ戦争に投入されたUAE空軍の武装ドローン

「翼竜-Ⅰ」UCAV(イメージ画像でティグレ戦争とは無関係)

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2021年11月に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです(本国版ではリンク切れ)。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 ここ数か月でエチオピア政府をめぐる情勢は驚くべき逆転劇を見せました。

 2021年10月初旬、エチオピア軍がティグライ人勢力に対して行った大規模な攻勢が壮大な失敗に終わった後、ティグレ防衛軍(TDF)は反攻を開始し、一時は首都アディスアベバの安全さえ脅かす事態に陥りました。ところが、高高度を飛行する(武装)無人機に対抗できる防空システムを全く保有していなかったTDFは、結果として衰えることなく続くドローン攻撃の圧力に屈し、2021年12月中旬にティグレ州の境界線まで撤退したのです。[1][2]

 エチオピアが保有する無人攻撃機(UCAV)については、少なくとも中国製「翼竜II」が9機、イラン製「モハジェル-6」が2機、そして多数製のUAE製VTOL型UCAVが確認されています。これらのUCAVを支援するため、2種類のイスラエル製の無人偵察機も運用されています。[3][4]

 エチオピアは2021年9月に中国から最初の3機の「翼竜-I」を受領し、その2か月後の11月にはUAEがさらに6機を配備しました。エチオピア側によるトルコ製UCAVの取得も報じられているが、未確認のままです(注:後日に「バイラクタルTB2」と「バイラクタル・アクンジュ」を導入した)。[5] [6]

 UAEによるエチオピア政府側へのUCAV配備については、2020年11月のティグレ戦争勃発当初から推測されてきました。[8]

 それにもかからず、2020年11月にティグレ州上空での作戦を遂行するため、複数のUAE軍の「翼竜」がエリトリアのアッサブ空軍基地から出撃したという繰り返し主張されている説は、いまだに証拠によって裏付けられたことがありません。ただし、そのような動きがなかったとは断言できません。ティグレの重装備に対する精密爆撃(弾道ミサイル発射機や大口径多連装ロケット砲など)が何度も行われましたが、その使用自体が彼らの動きを説明できるかもしれません。
 
 UAEが武装ドローンをエチオピアに送った最初の事例は、2021年夏に確認されました。当時、UAE製のVTOL型UCAVが、エチオピア・ティグレ州のマイチュー地区で運用されているのが確認されたのです。これらのUCAVは市販ドローンを改造したもので、120mm迫撃砲弾2発を搭載可能という特徴があります。ちなみに、以前にUAEがイエメンに投入したものと同型です。[9]

 しかし、無誘導の迫撃砲弾は「翼竜-I」や「モハジェル-6」が搭載する誘導弾に比べて精度が著しく低く、機動性を有する敵どころか静止目標に対しても限定的な効果しか及ぼさないことは言うまでもないでしょう。

 UAEによるアビー・アハメド政権への支援の質が大幅に向上したのが2021年11月のことで、この時点でUAEが少なくとも6機の「翼竜-Ⅰ」を自国の操縦要員と共にハラール・メダ空軍基地に配備しました。[6]

 エチオピア政府がティグレ人勢力の脅威に屈服する可能性があるとの情報が、UAE空軍のストックから「翼竜-Ⅰ」をエチオピアへ即時展開させた真の理由だった可能性があります。

2021年11月に撮影されたハラールメダ基地の「翼竜-Ⅰ」。画像はWim Zwijnenburgによるもの。

 急速に拡大するUCAV部隊の受け入れ体制を強化するため、エチオピア空軍は現在9機の「翼竜-Ⅰ」が配備されているハラールメダ空軍基地において、新たなインフラ整備を既に開始しています。[10]

 この整備では複数の格納庫が整備される予定であり、最終的にはハラールメダに配備されている武装ドローンの全機を収容する見込みです(注:2025年現在で新しい格納庫は滑走路東側に1棟建てられたのみである)。

 現時点の「翼竜-Ⅰ」は、基地内の格納庫や複数の強化シェルター(HAS)から運用されていると見られています。

最近の衛星画像が示すとおり、ハラールメダでは新たなインフラ建設が進んでいる。右下隅にある青い格納庫には一部の「翼竜-Ⅰ」が格納されているほか、右端には専用の地上管制局(GCS)が展開している。

 当初、エチオピア空軍は「翼竜-Ⅰ」を純粋な偵察任務に投入し、後に「TL-2」空対地ミサイル(AGM)を調達して武装ドローンとしての運用を可能にした一方で、UAE機は当初から相当量の空対地兵装を投下していました。[11]

 これらの誘導弾については、特に各「翼竜-Ⅰ」が「ブルーアロー7」を2発しか搭載できないことを考慮すると、戦場に分散したティグレ人戦闘員の集団に対しては効果が低いものの、TDFの急速に減少する火力支援アセットは、同軍の通常戦による戦闘遂行能力及び進行中の攻勢支援能力に重大な影響を与えたに違いありません。

 ドローン攻撃が与える心理的効果と、戦闘員が頭上を飛ぶ武装ドローンを目視しながらも攻撃目標にできなかった事実は、TDFが攻勢を放棄してティグレ州へ撤退する決断にも影響を与えたと思われます。


ドローン攻撃で撃破されたTDFの「T-72B1」。戦車に命中したミサイルが内部で大規模な爆発を引き起こし、砲塔を吹き飛ばしたようだ。

 UAE空軍の「翼竜-Ⅰ」6機がエチオピアに配備されて僅か1か月後、UAEはティグレ州アラマタ地区における民間インフラへの空爆を実施しました。この空爆では町の病院と市場が攻撃され、42名の民間人が死亡し、少なくとも150名が負傷したことが確認されています。[12][13][14]

 アラマタにおける被害地域を詳細に分析した結果、中国製「ブルーアロー7」AGMの残骸が発見されました。これはUAEの「翼竜-Ⅰ」に標準装備されているものです。この残骸は着弾後も充分に残存していたため、リビアで発見された同ミサイルの残骸と比較対照・特定することができました。最も識別しやすい部品は尾部にあるロケットモーター用の排気ノズルで、あらゆる衝撃に耐えて残存するケースが多いようです。アラマタにおけるこのAGMの残骸は、こちらで確認できます。[15]

アラマタで発見された「ブルーアロー7」AGMの排気ノズル(左)とリビアで発見された同AGMの残骸(右)。

アラマタで発見された「ブルーアロー7」AGMの残骸。挿入されている画像はリビアで回収された同ミサイルの残骸を示している。

[1] Ethiopia's Tigray crisis: Citizens urged to defend Addis Ababa against rebels https://www.bbc.com/news/world-africa-59134431
[2] Tigrayan Forces Retreat in Ethiopia https://www.crisisgroup.org/africa/horn-africa/ethiopia/horn-s3-episode-5
[3] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[4] The Israel Connection - Ethiopia’s Other UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/the-israel-connection-ethiopias-other.html
[4] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[5] The UAE Joins The Tigray War: Emirati Wing Loong I UCAVs Deploy To Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/the-uae-joins-tigray-war-emirati-wing.html
[7] Ethiopia-Turkey pact fuels speculation about drone use in Tigray war https://www.theguardian.com/world/2021/nov/04/ethiopia-turkey-pact-fuels-speculation-about-drone-use-in-tigray-war
[8] Are Emirati Armed Drones Supporting Ethiopia from an Eritrean Air Base? https://www.bellingcat.com/news/rest-of-world/2020/11/19/are-emirati-armed-drones-supporting-ethiopia-from-an-eritrean-air-base/
[9] UAE Combat Drones Break Cover In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/uae-combat-drones-break-cover-in.html
[10] New Drone Infrastructure Emerges At Harar Meda Air Base https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/new-drone-infrastructure-emerges-at.html
[11] Ethiopia Acquires Chinese TL-2 Missiles For Its Wing Loong I UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/ethiopia-acquires-chinese-tl-2-missiles.html
[12] UAE Implicated In Lethal Drone Strikes In Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/uae-implicated-in-lethal-drone-strikes.html
[13] Daily Noon Briefing Highlights: Ethiopia https://www.unocha.org/story/daily-noon-briefing-highlights-ethiopia-34
[14] Ethiopia: Consecutive days airstrikes in Tigray’s Alamata kill 42 civilians, injure more than 150, cause massive destruction https://globenewsnet.com/news/ethiopia-consecutive-days-airstrikes-in-tigrays-alamata-kill-42-civilians-injure-more-than-150-cause-massive-destruction/
[15] ደብዳብ ድሮናትን ነፈርትን ከተማ ኣላማጣ https://youtu.be/CTgtrGqmXUg?t=204


 2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)

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2023年12月10日日曜日

南シナ海に響く咆吼:インドネシアの「CH-4B」UCAV


著:シュタイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo

 インドネシア空軍は現在、自国領を守り、ますます自己顕示欲を強める中国に対抗するための質的な戦力の構築を目的とした再装備計画を推進しています。この計画には多目的戦闘機、空中給油機、新型攻撃ヘリコプターなどの導入も含まれていますが、インドネシア軍が無人戦闘航空機(UCAV)の導入・開発にも投資していることに注目すべきでしょう。

 UCAVについて、同国は今までに中国から6機の「CH-4B」を調達したことに加え、国産の「エラン・ヒタム(黒鷲)」の設計・開発プロジェクトも進めています。[1]

 UCAVの運用に対するインドネシアの関心が生じたのは2010年代半ばと考えられており、最終的に2017年に中国から4機の「翼竜Ⅰ」の発注に至らせました。[2]

 しかし、この契約はインドネシア企業が関与していないとの批判を受けた後の2018年初頭に突如としてキャンセルされ、2018年11月に調達事業を再スタートすることを余儀なくされたのです。

これを受けて、「トルコ航空宇宙産業(TAI)」「PTDI(PT ディルガンタラ・インドネシア)」と提携して「アンカ-S」を提案しましたが、最終的に「中国航天科技集団(CASC)」の「CH-4B」が勝者に選ばれて6機が発注されました。この取引にオフセット契約やインドネシア企業への技術移転も含まれているのか、仮に含まれているとすればどの程度なのかは不明です(注:2023年8月、インドネシアは12機の「アンカ-S」を導入することを公表しました)。[3]

 最初の2機は実証飛行のために2019年8月にインドネシアに到着し、同年10月の国軍記念日に実施された軍事パレードで一般公開されました。[4] [5]

 「CH-4B」は2019年9月に東ジャワで行われた陸海空軍の合同軍事演習で運用デビューを果たし、その際に偵察ミッションをこなしたり、「AR-1」空対地ミサイルを地上の模擬標的に向けて発射しました。[6]

 この演習以降におけるUCAVの運用は、主に戦闘ドクトリンの確立とオペレーターの訓練に向けられていたようです。[7]

 2021年8月、「CH-4B」はインドネシア当局によって正式に軍用の耐空証明を取得しました。[7]


 インドネシアの「CH-4B」は、西カリマンタン州ポンティアナック近郊にあるスパディオ空軍基地に拠点を置く第51飛行隊に所属しています。

 同飛行隊は2013年に導入された4機のイスラエル製「エアロスター」UASも運用している無人機部隊です。[8]

 インドネシアの「CH-4B」には、1,500kmを超える距離での運用を可能にさせる衛星通信装置(SATCOM)が装備されています。約1,500kmの航続距離があるため、(SATCOMを使用した場合の)「CH-4B」は西カリマンタン州の基地からインドネシアを形成する群島の大部分をカバーすることができます。

 スパディオ基地は、南シナ海に位置するインドネシアのリアウ諸島から数百キロメートル離れた場所にあります。現在、リアウ諸島の周辺地域はインドネシアと南シナ海にある他国の島の(一方的な)領有も主張している中国との間で領有権をめぐる論争が繰り広げられています。


 2021年8月には、胴体下部に詳細不明のセンサーポッドを搭載した1機の「CH-4B」が目撃されました。[9]

 このポッドの正確な用途はまだ不明ですが、現時点では通信中継ポッドまたは通信情報収集(COMINT)ポッドのいずれかと考えられています。

 この目撃時には、機体に「03」というシリアルナンバーが追加されていることや、大きな「TNI AUインドネシア国軍-空軍)」の文字が消されて非常に小さなマークに置き換えられていることも明らかとなりました(注:空軍の表記は胴体側面の後部に移動しており、文字も小さくなっています)。

 尾翼のインドネシア国旗はカラーのままですが、インドネシア空軍のラウンデル(国籍マーク)はより小型の低視認性タイプに変更されました。しかし、翼の下面に施されたラウンデルは従来のサイズを維持しているようです。


 さまざまなセンサーポッドや専用の電子情報収集(ELINT)またはCOMINTポッドを搭載することに加えて、インドネシアの「CH-4B」は主翼下に設けられた4基のハードポイントに数種類の兵装を装備することが可能です。

 これまでのところ、TNI-AUが「CH-4B」用に中国製「AR-1」及び「AR-2」空対地ミサイルを調達したことが確認されています。[10]

 これらのミサイルの射程距離は最大で8kmであり、「AR-1」は10kg弾頭を、「AR-2」は5kg弾頭を備えています。[11] [12]  

 「AR-1」は「CH-4B」の標準的な兵装であり、このUCAVを運用する全ての国が導入しています。「AR-2」は「AR-1」の軽量版であり、2連装または4連装発射機に装備できます。「CH-4B」の場合はハードポイントが4基あることを踏まえると、最大で16発の「AR-2」を搭載可能ということになります。

「CH-5」UCAVに搭載された「AR-1」(右)と「AR-2」(左)空対地ミサイル

 「CH-4B」の運用で得られた経験は、いつの日か、インドネシアに領域主権全体を防護・哨戒するための十分な力をもたらす、より大規模なUCAV飛行隊の導入に至らせるかもしれません。

 インドネシアでは現在、国産の中高度・長時間滞空(MALE)型UCAVプロジェクトを進めているほか、トルコ製UAVの導入にも関心を示していることから、この飛行隊がより多くの中国製ドローンで構成されることになるかどうかは定かではありません(注:2022年9月、国産の「エラン・ヒタム」UCAV計画はUCAVという軍事用途から地上監視・気象観測・マッピング・森林火災との監視といった非軍事的用途に用いる計画に変更された旨のコメントがなされました。つまり、インドネシアの実用的な国産UCAV計画は事実上頓挫してしまったようです)。[13]

 しかし、新型のUCAVは有人機が有する戦闘効力をますます再現することができるため、UCAVが将来のインドネシア軍で重要な役割を果たすことだけは確実でしょう。

国産の「エラン・ヒタム」UCAV

[1] An Eagle Takes Shape – Indonesia’s Elang Hitam MALE UCAV https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/an-eagle-takes-shape-indonesias-elang.html
[2] Indonesia acquires four Wing Loong I UAVs from China http://www.janes.com/article/78147/indonesia-acquires-four-wing-loong-i-uavs-from-china
[3] Turkish Aerospace Industries Offering Anka UAV to Indonesia http://aviationweek.com/awindefense/turkish-aerospace-offering-anka-uav-indonesia
[4] https://twitter.com/towersight/status/1171500495917088773
[5] Upacara Peringatan Ke-74 Hari Tentara Nasional Indonesia Tahun 2019 https://youtu.be/egYMHb8sDCk
[6] Indonesia tests CH-4B Cai Hong UCAV in latest combined military exercises https://www.asiapacificdefensejournal.com/2019/09/indonesia-tests-ch-4b-cai-hong-ucav-in.html
[7] Indonesian Air Force's fleet of CH-4 UAVs granted airworthiness approval https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesian-air-forces-fleet-of-ch-4-uavs-granted-airworthiness-approval
[8] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[9] https://twitter.com/RupprechtDeino/status/1432933641483608065
[10] Indonesian Air Force Receives First Batch of AR-2 Missiles for Its CH-4 UCAVs https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesia-receives-first-batch-of-chinese-made-ar-2-missiles-for-its-ch-4-uavs
[11] AR-1 https://www.globalsecurity.org/military/world/china/ar-1.htm
[12] AR-2 https://www.globalsecurity.org/military/world/china/ar-2.htm
[13] Endonezya Ankara Büyükelçisi Dr. Lalu Muhammad Iqbal: Türkiye ile Endonezya arasındaki savunma iş birliği artacak https://www.savunmatr.com/ozel-haber/endonezya-ankara-buyukelcisi-dr-lalu-muhammad-iqbal-turkiye-ile-h15336.html

※  この翻訳元の記事は、2022年1月14日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を 
  翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所      があります。



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2023年10月18日水曜日

翼を広げるシマハッカン:拡大するタイのUAV飛行隊


著:シュタイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 無人航空機(UAV)は、今や東南アジアにとって新しいものではありません。タイでは、すでに2001年の時点で陸軍がIAI「サーチャーMk. II」無人偵察機をイスラエルから調達して運用し続けているのです。

 この国ではその後の数十年にわたって(主にイスラエルから)さらなる種類のドローンの導入が続き、結果的に現在の陸海空軍で運用される無人兵器の拡充をもたらしました。

 その一方で、この中には数を増やしつつある自国で開発されたUAVや中国からライセンスを得て生産された機種も含まれています。それらの中でも最大かつ最も高性能な機種が中国・北京航空航天大学の「CY-9」をベースに開発した「D-アイズ04」で、最終的には陸軍の旧式化した「サーチャーMk.II」の後継となる可能性があります。[1]

 また、タイは、同大学が開発したより大型の攻撃能力も有する無人偵察機「TYW-1」にも関心を示しているとみられています。

 中国との協力によって、タイはこれまでに自国軍用の「DTI-1/1G」誘導式多連装ロケット砲を含む数多くの高度な最新兵器をライセンス生産するなど、他国とは実現不可能な取引を行ってきました(注:つまり、今後もこの傾向が続くことが自然ということ)。

 サイズと航続距離の(ほぼ)全てのカテゴリーでかなりの数のUAVが運用されているにもかかわらず、タイ軍の保有兵器にはいまだに無人戦闘航空機(UCAV)が欠けています。

 2019年には、タイの防衛技術研究所 (DTi) が「U-1 "スカイ・スカウト"」の攻撃機型である「U-1M "スカイ・スカウト-X"」を発表しました。この小型UCAVは射程6kmのタレス製「FF-LMM」誘導爆弾を2発搭載された状態で登場しましたが、この爆弾が大部分のUCAVよりも低い高度で飛行する 「U-1M "スカイ・スカウト-X"」から投下された場合、実際の射程距離はやや短いものとなるでしょう。

 この機種が実際にタイ軍の陸海空のいずれかの軍種で運用されることになるのか否かは、現時点では明らかになっていません。

 2021年12月、タイ海軍が4機の中高度長時間滞空(MALE)型UAVの導入を検討していることが公表されました。これについてはイスラエルの「ヘロンTP」や「ヘルメス900」、中国の「翼竜II」UCAVが有力な候補とみられていたものの、結果として2022年7月に「ヘルメス900」9機の発注が発表されました。[2][3]

 2022年6月にタイ国防省の代表団が「バイカル・テクノロジー」社を訪問したことは、タイが同社の「バイラクタルTB3」に対しても具体的な関心を示している可能性があります。[4]

 TB3は当初から海上での任務を念頭に置いて設計されたUCAVであり、今では専用の艦載機を持たないタイ海軍の空母「チャクリ・ナルエベト」からの運用も可能という利点があります。2021年に同空母の全長175mを有する飛行甲板から小型のVTOL型UAVを運用する実験を行っているため、海軍が無人機を将来的な艦載システムと考えていると推測することは至って自然なことです。[5]

北京航空航天大学の「CY-9」をベースに開発された「D-アイズ04」

(各機体の名前をクリックするとタイで運用されている当該UAVの画像を見ることができます)


無人偵察機 - 運用中 または  発注済み


VTOL型無人偵察機 - 運用中


無人標的機- 運用中


無人偵察機 - 試作


無人戦闘航空機 - 試作


VTOL型無人偵察機 - 試作

 既存のイスラエル製UAVや(主に中国の北京航空航天大学との協力を通じて)現在の能力をさらに拡大する態勢を整えている自国の高度な技術基盤のおかげで、タイにおけるUAV戦力の将来は明るいと言えるでしょう。

 将来的な「ヘルメス900」やMALE型UCAV、そして中国製大型UCAVのライセンス生産機の導入は(場合によってトルコからのUCAVの導入と組み合わせると)、タイは東南アジアにおける無人機戦力のトップに立つという素晴らしい偉業を成し遂げることを可能にするかもしれません。

タイの代表団メンバーが「バイカル・テクノロジー」のハルク・バイラクタルCEOから「バイラクタル・アクンジュ」UCAVの模型を贈呈された際の記念撮影(2022年6月)

[1] Royal Thai Army developping D-Eyes 04 MALE UAV https://www.airrecognition.com/index.php/news/defense-aviation-news/2021/november/7852-royal-thai-army-developping-d-eyes-04-male-uav.html
[2] Thai Navy Seeking Long-Range Maritime Surveillance Drone https://www.thedefensepost.com/2021/12/30/thailand-maritime-surveillance-drone/
[3] Thailand to Buy Israeli-Made Hermes 900 Drones https://www.thedefensepost.com/2022/07/04/thailand-israel-hermes-drones/
[4] Royal Thai Embassy, Ankara https://www.facebook.com/rteankara/posts/pfbid02k
[5] Thai aircraft carrier tests VTOL drone MARCUS-B https://www.navalnews.com/naval-news/2022/01/thai-aircraft-carrier-tests-vtol-drone-marcus-b/

 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
 あります。



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