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2023年10月18日水曜日

翼を広げるシマハッカン:拡大するタイのUAV飛行隊


著:シュタイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 無人航空機(UAV)は、今や東南アジアにとって新しいものではありません。タイでは、すでに2001年の時点で陸軍がIAI「サーチャーMk. II」無人偵察機をイスラエルから調達して運用し続けているのです。

 この国ではその後の数十年にわたって(主にイスラエルから)さらなる種類のドローンの導入が続き、結果的に現在の陸海空軍で運用される無人兵器の拡充をもたらしました。

 その一方で、この中には数を増やしつつある自国で開発されたUAVや中国からライセンスを得て生産された機種も含まれています。それらの中でも最大かつ最も高性能な機種が中国・北京航空航天大学の「CY-9」をベースに開発した「D-アイズ04」で、最終的には陸軍の旧式化した「サーチャーMk.II」の後継となる可能性があります。[1]

 また、タイは、同大学が開発したより大型の攻撃能力も有する無人偵察機「TYW-1」にも関心を示しているとみられています。

 中国との協力によって、タイはこれまでに自国軍用の「DTI-1/1G」誘導式多連装ロケット砲を含む数多くの高度な最新兵器をライセンス生産するなど、他国とは実現不可能な取引を行ってきました(注:つまり、今後もこの傾向が続くことが自然ということ)。

 サイズと航続距離の(ほぼ)全てのカテゴリーでかなりの数のUAVが運用されているにもかかわらず、タイ軍の保有兵器にはいまだに無人戦闘航空機(UCAV)が欠けています。

 2019年には、タイの防衛技術研究所 (DTi) が「U-1 "スカイ・スカウト"」の攻撃機型である「U-1M "スカイ・スカウト-X"」を発表しました。この小型UCAVは射程6kmのタレス製「FF-LMM」誘導爆弾を2発搭載された状態で登場しましたが、この爆弾が大部分のUCAVよりも低い高度で飛行する 「U-1M "スカイ・スカウト-X"」から投下された場合、実際の射程距離はやや短いものとなるでしょう。

 この機種が実際にタイ軍の陸海空のいずれかの軍種で運用されることになるのか否かは、現時点では明らかになっていません。

 2021年12月、タイ海軍が4機の中高度長時間滞空(MALE)型UAVの導入を検討していることが公表されました。これについてはイスラエルの「ヘロンTP」や「ヘルメス900」、中国の「翼竜II」UCAVが有力な候補とみられていたものの、結果として2022年7月に「ヘルメス900」9機の発注が発表されました。[2][3]

 2022年6月にタイ国防省の代表団が「バイカル・テクノロジー」社を訪問したことは、タイが同社の「バイラクタルTB3」に対しても具体的な関心を示している可能性があります。[4]

 TB3は当初から海上での任務を念頭に置いて設計されたUCAVであり、今では専用の艦載機を持たないタイ海軍の空母「チャクリ・ナルエベト」からの運用も可能という利点があります。2021年に同空母の全長175mを有する飛行甲板から小型のVTOL型UAVを運用する実験を行っているため、海軍が無人機を将来的な艦載システムと考えていると推測することは至って自然なことです。[5]

北京航空航天大学の「CY-9」をベースに開発された「D-アイズ04」

(各機体の名前をクリックするとタイで運用されている当該UAVの画像を見ることができます)


無人偵察機 - 運用中 または  発注済み


VTOL型無人偵察機 - 運用中


無人標的機- 運用中


無人偵察機 - 試作


無人戦闘航空機 - 試作


VTOL型無人偵察機 - 試作

 既存のイスラエル製UAVや(主に中国の北京航空航天大学との協力を通じて)現在の能力をさらに拡大する態勢を整えている自国の高度な技術基盤のおかげで、タイにおけるUAV戦力の将来は明るいと言えるでしょう。

 将来的な「ヘルメス900」やMALE型UCAV、そして中国製大型UCAVのライセンス生産機の導入は(場合によってトルコからのUCAVの導入と組み合わせると)、タイは東南アジアにおける無人機戦力のトップに立つという素晴らしい偉業を成し遂げることを可能にするかもしれません。

タイの代表団メンバーが「バイカル・テクノロジー」のハルク・バイラクタルCEOから「バイラクタル・アクンジュ」UCAVの模型を贈呈された際の記念撮影(2022年6月)

[1] Royal Thai Army developping D-Eyes 04 MALE UAV https://www.airrecognition.com/index.php/news/defense-aviation-news/2021/november/7852-royal-thai-army-developping-d-eyes-04-male-uav.html
[2] Thai Navy Seeking Long-Range Maritime Surveillance Drone https://www.thedefensepost.com/2021/12/30/thailand-maritime-surveillance-drone/
[3] Thailand to Buy Israeli-Made Hermes 900 Drones https://www.thedefensepost.com/2022/07/04/thailand-israel-hermes-drones/
[4] Royal Thai Embassy, Ankara https://www.facebook.com/rteankara/posts/pfbid02k
[5] Thai aircraft carrier tests VTOL drone MARCUS-B https://www.navalnews.com/naval-news/2022/01/thai-aircraft-carrier-tests-vtol-drone-marcus-b/

 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
 あります。



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2022年1月11日火曜日

草原の守護者:カザフスタンのUAV飛行隊(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 2021年11月、カザフスタンはトルコ航空宇宙産業(TAI)との間で3機の「アンカ」無人戦闘航空機(UCAV)を導入する契約を結んだことが公表されました。[1]

 これらの新規調達は、カザフスタン空軍が中国から4機の「翼竜Ⅰ」を導入した初の無人機戦力を獲得して以来、 約6年後の出来事となります。[2]

 カザフスタンは自国の武装ドローン計画を押し進めるために中国製UCAVをさらに購入するのではなく、2021年にトルコに目を向けたという結果になりました。カザフスタンにUAVを供給しているもう1つのサプライヤーはイスラエルですが、同国は(徘徊兵器以外の)UCAVを海外に輸出していないため、必然的にその候補から外れたようです。

 トルコ製TAI「アンカ」の導入は、カザフスタンがこのUCAVの調達を検討しているという長年続く憶測にようやく終止符を打ちました。すでに2018年には、カザフスタン航空産業(KAI)がTAIとカザフタンで「アンカ」UAVとTAI「ヒュルクシュ」高等練習機を生産する契約を結んだと報じられていました。[2]

 ところが、この合意は実現しなかったようであり、しばらくの間、最終的にはイスラエルがカザフスタンへ「翼竜Ⅰ」以外の中高度・長時間滞空(MALE)UAVを納入する契約を得るだろうと考えられていました[3] [4]。

 たった4機の「翼竜Ⅰ」の発注は、カザフスタンが無人機戦のドクトリン構築と訓練や、後でさらに多数導入する機種を決定するために調達されたことを示す可能性があります。
           
 カザフスタンはミャンマーに続いて、中国の隣国としては2番目に中国製UCAVを導入した国となりました。[5]
          
 中国が自国との国境付近でUCAVの運用に何らかの制限を課しているかどうかは不明ですが、納入された「翼竜Ⅰ」は中国との国境から約800km離れた、最近「バイラクタルTB2」の運用国になったキルギスに近いタラズに配備されています。[6]

 カザフスタンの「翼竜Ⅰ」は2017年の「祖国防衛の日」の軍事パレードで初公開され、この時には2機がアスタナ(現ヌルスルタン)の通りを行進しましたが、アゼルバイジャンやトルクメニスタン、そしてウクライナといった国で見られるようなパレード会場上空でのフライパスやトレーラーに搭載されて登場するのではなく、皮肉にもアメリカ製HMMWVに牽引される形で初披露されてしまいました。

 後に1機の「翼竜Ⅰ」が軍事・技術展示会「KADEX-2018」にも登場し、ここでは会場で展示されました。[7]

2017年にヌルスルタンで実施された軍事パレードに登場した2機の「翼竜Ⅰ」

 「翼竜Ⅰ」と共に、少なくとも2種類のイスラエル製偵察用UAVと少数のロシア製「オルラン-10E」ドローンが運用されています。

 エルビット・システムズ社製「スカイラークⅠ-LEX」は、2014年にカザフスタン軍が初めて運用を開始した無人偵察機です。この機種は、カザフスタンとエルビット・システムズ社の合弁事業を通じてカザフスタン国内でも生産されています。[8]

 しかし、この国の無人兵器に対する熱意は単に外国製の機体を組み立てるだけに終わらず、今やそれを超えて拡大しつつあります。すでにカザフスタンには新興のUAV研究開発機関が存在しており、これまでにいくつかのドローンが生み出されてきました。

 それらの中で最も見込みがある国産UAVが「シャガラ」であり、同機は2021年初頭に国家試験に合格しました。[9] [10]


無人偵察機 - 現役


無人戦闘航空機 - 現役

無人航空機 - 試作


 「翼竜Ⅰ」と一緒に「ブルーアロー7」空対地ミサイル(AGM)と「YZ-100」誘導爆弾もカザフスタンに導入されました。「翼竜Ⅰ」用の高度な兵装は調達されていないと考えられており、同機は機体の下にある前方監視型赤外線装置(FLIR)のみで各種任務を遂行します。

 カザフスタンの「翼竜Ⅰ」が「ブルーアロー7」を用いて模擬標的を攻撃した映像はここで視聴することができます。 [11]

 また、同国で運用される「翼竜Ⅰ」と「スカイラークⅠ-LEX」に関するドキュメンタリー番組ここで視聴することができます。[12]

 2017年にカザフスタンに納入された後の「翼竜Ⅰ」は、先述のとおりキルギスとの国境に近いタラズ空港を拠点にしています。

 かつてタラズ空港は約40機の「Mi-17」と18機の「Mi-26」を有する第157ヘリコプター連隊の本拠地でしたが、1990年代には同連隊の動きが縮小され始め、「翼竜Ⅰ」が配備される以前の時点でこの基地は民間用の空港にされてしまいました。

 現在、かつて「Mi-26」が使用していた場所には4つの格納庫が設けられています。このうちの1棟だけが「翼竜Ⅰ」の格納庫であり、残りの3棟は地上管制ステーション(GCS)や運用に必要な装備資機材や車両用として使われているようです。

2機の「翼竜Ⅰ」がタラズ空港にある格納庫の前で駐機している(2019年6月20日)

 もうすぐカザフスタンは、中国、イスラエル、そしてトルコから入手した数多くのUAVを運用する国となる予定です。

 これらの外国製を導入することに加えて、この国はイスラエル製UAVの国内での組み立てや国産無人UAVの設計・製造を通じて、自国の防衛産業を(UAV関連の事業に)関わらせる意図も持っています。

 2020年11月には、カザフスタンもトルコの「バイラクタルTB2」の導入に関心を寄せていると報じられています。[13]

 TB2の導入が本当に実現するかは不明ですが、カザフスタンが既存のUAV戦力をさらに拡大するための新たな方法を模索することは間違いないでしょう。

カザフスタン空軍向けのTAI「アンカ」初号機

[1] Kazakhstan buys 3 Turkish Aerospace-made Anka UCAVs: Report https://www.dailysabah.com/business/defense/kazakhstan-buys-3-turkish-aerospace-made-anka-ucavs-report
[2] Turkey to Develop UAVs with Kazakhstan https://www.uasvision.com/2018/05/29/turkey-to-develop-uavs-with-kazakhstan/
[3] Israeli UAVs Will Soon Be Manufactured In Kazakhstan https://caspiannews.com/news-detail/israeli-uavs-will-soon-be-manufactured-in-kazakhstan-2019-8-8-40/
[4] Israeli IAI Sold Two Heron MKII UAV To Kazakhstan https://www.globaldefensecorp.com/2021/01/29/israeli-iai-sold-two-heron-mkii-uav-to-kazakhstan/
[5] Chinese drones a killer eye in the sky in Myanmar https://asiatimes.com/2021/05/chinese-drones-a-killer-eye-in-the-sky-in-myanmar/
[6] Turkish Drones Are Conquering Central Asia: The Bayraktar TB2 Arrives To Kyrgyzstan https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/turkish-drones-are-conquering-central.html
[7] KADEX 2018: Kazakh Air and Air Defence Forces draw Wing Loong I MALE UAV https://www.armyrecognition.com/kadex_2018_news_official_show_daily/kadex_2018_kazakh_air_and_air_defence_forces_draw_wing_loong_i_male_uav.html
[8] Factory for production of SkyLark-1LEX UAVs opens in Kazakhstan https://www.israeldefense.co.il/en/node/49945
[9] Ұшу аппараттары І Ғылым https://youtu.be/bVN4SHRUgak
[10] Kazakhstan’s ‘Shagala’ Drone Completes Test Flights https://www.uasvision.com/2021/02/12/kazakhstans-shagala-drone-completes-test-flights/
[11] Қазақстандық армия ҰҰА қарқынды дамытуда / БПЛА: казахстанская армия развивает оружие будущего https://youtu.be/-Ji7SKRjwnM
[12] «AQSAÝYT». Қарулы Күштеріміздің қолданысындағы ұшқышсыз ұшу аппараттарының мүмкіндігі қандай? https://youtu.be/W9fEC7cjSOY
[13] Kazakhstan may ditch Chinese UAVs for Turkish Bayraktar TB2s, Russian media claims https://www.dailysabah.com/business/defense/kazakhstan-may-ditch-chinese-uavs-for-turkish-bayraktar-tb2s-russian-media-claims

  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した      箇所があります。 


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