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2021年11月19日金曜日

ティグレ戦争:エチオピア軍のSu-27が爆撃機として投入された



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピア空軍(ETAF)は爆撃任務や近接航空支援(CAS)を実施するために、伝統的にソ連製のMiG-23BN飛行隊に依存していました。この頑丈な戦闘爆撃機は2020年11月に始まったティグレ戦争に相当の数が投入されており、今までのところ、2020年11月と12月に2機が失われています。[1]

 相当な数の爆弾を搭載できる能力がETAFによって評価されていますが、今や10数機かそれ未満の数しか残っていないMiG-23BNには現代的な精密誘導爆弾(PGM)を運用する能力が欠如しているため、これらによる標的を正確に攻撃するための選択肢は大幅に限られたものとなっています。

 その結果として生じる能力のギャップを軽減するため、エチオピアはイラン、中国、そしてUAEから3種類の無人戦闘航空機(UCAV)を導入したことが確認されていますが、精密打撃が必要な標的を攻撃するために、僅かに生き残っているSu-25TKを投入する可能性もあります。[2] [3] [4]

 したがって、ティグレの州都メケレへの数多くの空爆で最近目撃されたように、エチオピア空軍がSu-27戦闘機を爆撃機としての使用に引き続き専念していることは、なおさら驚くべきことです。

 当初、エチオピアは1990年代後半にロシアから8機のSu-27を購入しましたが、その後にロシアとウクライナから調達した機体を追加し、導入数は合計で17機となりました。[5]

 何度かの墜落事故により、現在のSu-27の機数はハラールメダ空港を拠点とする第5飛行隊によって運用されている約12機にまで減少しています。

 エチオピアはSu-27S、Su-27P、Su-27UBの各型を入手しましたが、どれもが誘導式の空対地兵器を運用する能力を備えていませんでした。Su-27を純粋に迎撃機として使用する目的だったため、空対地兵装に関する運用能力の制約はETAFにとっては問題ではありませんでした。実際、エチオピア・エリトリア国境紛争でSu-27はエリトリア軍のMiG-29を何機か撃墜するという戦果をもたらしています。

 純粋な迎撃機としての用途から、エチオピアのSu-27パイロットは無誘導爆弾を投下するための訓練を受けていないと考えられており、それは2021年10月にメケレ周辺にある多数の標的を空爆した際における酷い命中精度の原因に関係があると説明できるかもしれません。

 具体的な例として、メケレにある(現在はティグレ防衛軍の訓練場として使用されている)ENDFの北部司令部に対する爆撃を実施した際、Su-27が投下した爆弾は標的の建物だけでなく敷地全体からも外れ、1kmも離れた野原に着弾したことがあったのです。[6]

 メケレの空港に着陸するはずだった国連の飛行機は、この攻撃の結果として、着陸を中止せざるを得なくなりました。[7]

爆撃任務でメケレ上空を飛行中のエチオピアのSu-27

 2021年6月に放送されたエチオピア空軍のドキュメンタリー番組では、今や空対地任務を担う爆撃機として使用されているETAFのSu-27を初めて垣間見ることができました。[8]

 偶然とは思えないことに、この同時期にETAFのSu-27がティグレ州に近いバハルダール空軍基地に配備されているという最初の報告も明るみに出ました。[9] [10]

 この番組の映像では、ソ連製「OFAB-250」無誘導爆弾を4発搭載したSu-27UBが見られました。Su-27のパイロットは、MiG-23BNのパイロットから(ただでさえ悪い命中精度をさらに悪化させるであろう)ティグレ軍が持つ対空砲の最大射高を大きく超えて飛行しながら地上目標を攻撃する方法について、少なくともある程度の訓練を受けたものと考えられます。



 通常、Su-27飛行隊は首都アディスアベバ近郊にあるハラールメダ空軍基地を拠点としていますが、この紛争の間、空軍はMiG-23BN飛行隊の本拠地であるバハルダール空軍基地に2~4機のSu-27を定期的に分遣し続けています。[9] [10]

 最近のティグレ上空で爆撃任務に従事しているSu-27がハラールメダとバハルダールのどちらから出撃しているのかは不明のままですが、後者からの可能性が極めて高いと思われます。

 2020年11月、バハルダール基地は自身がティグレ軍によって発射された中国製の「M20」短距離弾道ミサイル(SRBM)の標的となったことに気づきました。このミサイル攻撃が物的損失をもたらしたか否かは不明ですが、ETAFにとって幸いなことに、この攻撃が繰り返されることはありませんでした。[11]

人目を引く機体の前でポーズをとるエチオピアのSu-27のパイロットたち(バハルダール基地にて)

 空対地任務でSu-27を使用し続けることについては、その目的を全く達成する可能性はないものの、2年目に突入しようとしているティグレ戦争に国際的な注目をさらに集めるかもしれません。

 Su-27を爆撃機として使用していることから判断すると、エチオピアがこれまでに入手したUCAVの数は彼らの需要に対して不十分なものと思われます。UAVの供給という、戦争という火に油を注ぐ行為が非倫理的と解釈される可能性はありますが、これらに精密誘導爆弾を搭載した場合は目的のターゲットに命中することはほぼ確実であり、不必要な民間人の犠牲を出すことを防ぐことができます。

 より多くのUCAVが導入されるまでSu-27は自身を真に必要としない紛争で戦い続けることになるかもしれませんが、敵を倒すためには利用可能な全てのリソースを活用することが求められます。



[1] List Of Aircraft Losses Of The Tigray War (2020-2021) https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/list-of-aircraft-losses-of-tigray-war.html
[2] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[3] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[4] UAE Combat Drones Break Cover In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/uae-combat-drones-break-cover-in.html
[5] Ethiopia - Sukhoi Su-27, Su-27UB, Su-27SK http://sukhoi.mariwoj.pl/
[6] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1451539227217440778
[7] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1451520179758899209
[8] አስደሳች ግድቡን የሚጠብቁት አስፈሪ ጀቶች ጀነራሉን አስደመሙት https://youtu.be/A_rxWbdY9fw
[9] https://twitter.com/Gerjon_/status/1409448673625452546
[10] https://twitter.com/Gerjon_/status/1413857153039876100
[11] Go Ballistic: Tigray’s Forgotten Missile War With Ethiopia and Eritrea https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/go-ballistic-tigrays-forgotten-missile.html

※  当記事は、2021年11月4日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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Tankovy Busters: エチオピアにおけるSu-25TK攻撃機

2021年11月6日土曜日

Tankovy Busters:エチオピアにおけるSu-25TK攻撃機

 

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 Su-25は、MANPADS(携帯型地対空ミサイル)や対空砲からの凄まじい攻撃に耐えながら幅広い種類の兵装を搭載する能力がある、頑丈な近接航空支援機としての名声を得ています。この機種は当初から限られた誘導兵器の運用を念頭に置いて設計されていましたが、ソ連の設計者が対戦車攻撃専用のSu-25Tを開発することで、やがてこの能力は拡大されていきました。

 当時としては多数の非常に高度な機能を備えていたものの、ソ連末期の登場は最終的にこの派生型の就役を妨げてしまいました。後にロシアは試作型のSu-25Tをチェチェン紛争に投入して一定の成果を上げましたが、最も興味深い実戦投入は北コーカサスの空ではなく、サハラ以南のアフリカの太陽の下で行われました。

 僅か2機のSu-25Tがエチオピアに輸出されたことは、今日でも多くの熟練した軍事アナリストに全く知られていないままです。この記事は事実関係を明らかにし、Su-25を無名の墓からサルベージすることを試みました。今回は、エチオピアのとらえどころのないSu-25TK「Tankovy Busters」の物語を紹介します。

 Su-25TKの歴史や仕様について詳しく説明する前に、エチオピアがSu-25TKの導入を決定した背景を考察することは読者に慧眼な見識をもたらしてくれます。

 エチオピアは1990年代を通じてエリトリアとの間で数々の武力衝突や国境での小競り合いをしていましたが、未解決の国境紛争は1998年5月から2000年6月にかけて続いたエチオピア・エリトリア国境紛争を引き起こしました。

 エチオピア空軍(ETAF)はエリトリア軍のMiG-29をSu-27で迎撃したり、MiG-21bisやMiG-23BN戦闘爆撃機でエリトリア軍の陣地を空爆するなどして、この紛争に著しく関わりました。後者はKh-23M空対地ミサイルの使用が可能でしたが、ETAFは必要としている戦局の打開を可能とするため、より高度な兵器を探し求めていました。
 

 興味深いことに、エチオピアはウクライナやロシアから比較的低コストで入手可能で、かつ幅広い種類の誘導兵器を搭載できるMiG-27やSu-24を選ぶのではなく、ロシア空軍でストックされていた2機のSu-25T(シリアルナンバー:「2252」と不明)と2機のSu-25UB練習機(製シリアルナンバー:「2201」と「2202」)を調達しました。

 1999年の後半に発注されたこの中古機は、クビンカの第121航空機修理工場で整備された後、2000年1月にエチオピアに到着しました。これに伴って、これらの2機には新たに「Su-25TK(Tankovy Kommercheskiy)」という輸出用の名称が付与されました。

 実験的な機体であるSu-25Tは、エチオピアが指揮所や補給拠点といった高価値目標に対する夜間での精密打撃を実施できる能力を得るために導入されました。 そして、これらの機体は元MiG-23BNのパイロットたちが配属されている第4飛行中隊(または第4飛行小隊)に就役し、真っ先に先述の高価値目標に対する精密爆撃に従事しました。[1] [2]

 戦争における短い運用に続いて1機のSu-25Tが事故に巻き込まれて用廃となった後、残存する3機は僅か1年の運用から退いて、保管状態にされました。[1] [2] これは、Su-25Tの特殊なシステム維持に関連する多額のコストが生じたことと、1機がすぐに失われたことが同じくらい関係していた可能性があります。



 Su-25Tは完全に新造の機体を設計するのではなく、ベースとして復座型であるSu-25UBの機体を用いています。

 以前に後部座席が占めていたスペースは追加のアヴィオニクスを備え付けるために活用され、機首は「プリチャル」レーザー測距/目標指示装置を装備した「シクヴァル」電子光学照準システムを搭載するために拡大されました (「シクヴァル」はKa-50攻撃ヘリコプターにも搭載されています)。

 また、この機体には夜間作戦用として、「マーキュリー」航法ポッドを胴体の下に取り付けることが可能です。その夜間作戦能力がSu-25TKで当てにされていることは、ヘッダー画像で見られる独特なマーキング:「獲物を求めて戦場を観察する2つの全てを見通す眼」で目にすることができます。

 Su-25Tの最も素晴らしい特徴は、間違いなくその兵装にあります。

 胴体の下部に搭載された2連装の30mm機関砲に加えて、Su-25Tは対戦車任務用に16発の9K121/AT-16「ヴィクール」レーザー誘導式対戦車ミサイルを発射する能力を備えています。残念ながら「ヴィクール」がエチオピアに納入されたかどうかは不明ですが、入手可能な証拠は、「KAB-500Kr」テレビ誘導式爆弾、「Kh-29T」同誘導式対地ミサイル、「Kh-25ML」レーザー誘導式対地ミサイルに加えて、重量級の「S-25」無誘導ロケット弾、「KMGU」クラスター爆弾、各種の無誘導爆弾、そして「B-8」ロケット弾ポッドといった無誘導兵器が、エチオピアで運用されたSu-25TKの主要な兵装だったことを示唆しています。

   

 約10年間もビショフツでの保管状態が長引いた後、そのどこかの時点で彼らの再稼働が決定されました。

 これらの機体が現役にあったのは約1年のみだったため、それに続くオーバホール作業はDAVI(デジェン航空産業)の経験豊富な技術者でも困難だったことが判明したに違いありません。また、この時点でSu-25を整備していた数人の技術者はすでに引退して、再稼働に必要な(使える)専門知識がさらに少なくなっていた可能性があります。メンテナンスや修理に使用できるスペアパーツや専門知識が限られているため、Su-25TKに搭載されたシクヴァル照準システムといった特殊なシステムが特に悩みの種だったはずです。                                          

 それでも、2013年には復活したSu-25が初めて目撃され、3機全てががビショフツのエプロンに姿を見せました。

 その後、通常は1機だけがエプロンにいる様子が見えていましたが、2020年以降は衛星画像上で3機が一緒にいる姿が定期的に目撃されるようになりました。



 現在、エチオピアは着実に成長を遂げつつあるTPLF:ティグレ人民解放戦線(TDF:ティグレ防衛軍)との戦争に直面しており、これまでに政府軍はその進撃を阻止できていないため、この国は今や自らの運命を変えるための何かを必死に探しています

 現在、エチオピアで運用されている作戦機の中で精密誘導弾を使用可能な唯一の機種として知られているSu-25T(及びSu-25UB)は、すでに戦争に投入されていることが予想できます。その用途としては、例えば、TDFがエチオピア軍から鹵獲し、エチオピア空軍のMiG-23BN飛行隊の本拠地であるバハルダール空軍基地を攻撃した誘導ロケット弾・弾道ミサイルシステムを無力化することが挙げられます。

 不思議なことに、現在までの時点で、彼らの姿は前線に近い空軍基地を撮影した衛星画像では見えません。それでも、空軍のSu-27でさえ無誘導爆弾を搭載している様子が見られたので、Su-25がティグレ戦争で戦闘デビューは(分離した地域でまだ投入されていないのであれば)遅かれ早かれ実現するかもしれません。

3機のSu-25TKがビショフツ基地で多数のSu-27と一緒に駐機しています。

 事故に遭った1機の運命は、長きにわたって保管状態にあった仲間よりも華やかなものではありませんでした。

 2000年5月の事故から間もなくして、損傷した機体はビショフツ空軍基地の静かな片隅に引き下がり、その後はスペアパーツの供給源として使用されて今日でもその役割を続けているものと思われます。

 隣接するエプロンは空軍のグローブ「G120TP」練習機が使用しているため、機体が投棄された場所はこの上なく象徴的な場所でした。部品と尊厳を奪われたこの機体は、新たな役割として、将来のキャリアで直面するであろう危険をパイロット志望者たちに気付かせるという目的を見つけました。

  
 

 おそらくアフリカの空を優美に飾った最も興味深い航空機の1つだったものの、エチオピアのSu-25Tは購入に要したのとほぼ同じくらいの素早さでで退役してしまいました。引き渡されてすぐに1機が修復不可能なほどに損傷してSu-25TK飛行隊を実質的に半減させた事実が、おそらくはその不名誉なキャリアを短くするのに貢献したかもしれません。

 その後の退役でエチオピア空軍による誘導兵器を用いた作戦が終了したことを示しましたが、それはSu-25TKの再生だけでなく、現在も続いているティグレ戦争中にイランから「モハジェル-6」を入手した後で復活したことでしょう。

 ただし、この限定的な精密誘導能力の再導入が戦争の流れを変えるのに十分かどうかは不明ですが、その可能性はありそうにないようです。 

 したがって、「モハジェル-6」の調達後すぐにUCAVのさらなる入手が続く可能性があります。ただし、これらは20年前に導入したSu-25Tとは異なって安価で実用的であり、実験的な性質はより少ないものになりそうです。

 UCAVの普及は今日における戦争の単純な性質ですが、エチオピアの「Tankovy Busters」の武勇伝がすぐに忘れ去られないことを願っています。

[1] African MiGs Volume 1: Angola to Ivory Coast https://www.harpia-publishing.com/galleries/AfrM1/index.html
[2] Ethiopian-Eritrean Wars: Volume 2 Eritrean War of Independence 1988-1991 & Badme War 1998-2001 https://www.helion.co.uk/military-history-books/ethiopian-eritrean-wars-volume-2-eritrean-war-of-independence-1988-1991-and-badme-war-1998-2001.php?sid=7291642fc0c8fa0eb0c12b7d97c4502b

※  当記事は、2021年8月26日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所    があります。




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2021年11月2日火曜日

弾道を描け:忘れ去られたティグレの対エチオピア・エリトリア 「ミサイル戦争」


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ティグレ戦争の序盤である2020年11月、中国製の「M20」短距離弾道ミサイル(SRBM)がエチオピア北西部にあるバハルダール空軍基地のエプロンに着弾した際に、エチオピア国防軍(ENDF)が受けた衝撃は計り知れないものだったに違いありません。

 ティグレ防衛軍(TDF)がいくつかの弾道ミサイルシステムを鹵獲した後にバハルダールを標的にしたことは遅かれ早かれ発生する流れでしたが、ミサイルが着弾した際に示したとてつもない命中精度は基地の人々を驚かせたはずです。

 ほぼ同じ頃に、約450km離れたエリトリアの首都アスマラを何度かの大きな爆音と衝撃が揺り動かしました。この都市もバハルダールと同様にティグレ軍によるミサイル攻撃を受けたのです。

 エチオピアとエリトリアがどのようにして弾道ミサイル攻撃を受けたのかが、この記事のテーマとなります。

 軍事力を大幅に増強して長年の宿敵であるエリトリアに対して決定的な優位性を得ることを目指し、おそらくはスーダンやエジプトに対する抑止力も確立しようと試みていそうなエチオピアは、この地域の軍事バランスを最終的に自国に好都合なものに変えることを追い求めて、2010年代に野心的な軍の再装備プログラムに着手しました。

 その爆買いの中心となったのは、これまでエチオピアではまだ導入されていなかった分野の戦力: 短距離弾道ミサイルと長距離誘導ロケット弾でした。エチオピアと中国の温かい軍事的な関係を考慮すれば、エチオピアがそのような戦力の入手先として中国に目を向けたことは少しも驚くことではありません。

 中国はこのような兵器をエチオピアに提供する意思がある数少ない国の1つであることに加えて、短距離弾道ミサイル(SRBM)と誘導ロケット弾発射システムを1つのモジュールにまとめた2種類のシステムを製造しています。

 それらの1種(SRBMの「BP-12A」と誘導ロケット弾発射システムの「SY-400」を使用したもの)はすでにカタールによって導入されており、同国ではこれまでにこのシステムに関連する「BP-12A」だけが公開されています。

 それに直に競合するシステムは、「M20」SRBMと「A200」誘導ロケット弾発射システムを使用しており、(「ポロネーズ」の名で)ベラルーシとアゼルバイジャンに、そしてエチオピアに採用されています。ベラルーシはロケット弾の生産ラインを設立しており、「A300」の改良型が「ポロネーズM」として公開されています。

 これまでのところ、エチオピアだけが「M20」SRBMの運用者であることが確認されており、アゼルバイジャンは誘導ロケット弾発射システムを入手したのみで、ベラルーシはミサイルを公開したものの、まだ現役として採用されていない点が注目されます(注:「ポロネーズM」は2019年に受領が開始されたと報じられています)。

        

 「M20」SRBMは、現在のアフリカ大陸で運用されている弾道ミサイルの中では最も現代的ものです。このSRBMは400kgのHE弾頭を搭載して少なくとも280km以上の距離まで飛ばすことができるため、敵の基地や兵力の集結地点を狙うのに完璧に適しています。また、慣性誘導だけでなく「北斗」を用いた衛星誘導方式も組み込んでいる「M20」は、約30mの半数必中界(CEP)も誇ります。[1]

 「A200」誘導ロケット弾発射システムも同様にGPS誘導と慣性誘導方式を併用しているため、CEPは約30~50メートルであり、150kgの弾頭を200km先まで飛ばすことが可能です。[2]


 2020年11月にティグレ軍がENDFの北部コマンドへの強襲を開始すると、彼らは即座にエチオピア軍が持つ弾道ミサイル・誘導ロケット砲部隊の全体を掌握しました。その運用要員の多くがティグレ側に離反したようで、それがティグレ軍にこのシステムを元の所有者に対して使用を開始する機会を与えたようです。そして実際、ティグレ軍はそれをすぐに文字通り実施し、エチオピアの2つの空軍基地に弾道ミサイルを発射して、さらに3発をティグレ戦争に介入した報復としてエリトリアの首都に撃ち込みました。[3]

 これらの弾道ミサイル・ロケット弾攻撃のほとんどは発射映像や攻撃を受けた標的の画像が見当たらないために独自に検証することはできませんが、相当にきちんと記録されていた攻撃として2020年11月のバハルダール空軍基地への攻撃があります。[4]

 この攻撃が物的損害をもたらしたのかは不明ですが、エチオピア空軍は弾道ミサイル攻撃を予期して、すでに航空機を近くの対爆シェルター(HAS)に移動させていた可能性があります。確かなことは、「M20」の400kgの弾頭が、通常はエプロンに位置しているMiG-23BN戦闘爆撃機のかなりの部分を破壊した可能性があるということです。

2020年12月2日に撮影された、バハルダール空軍基地で「M20」弾道ミサイルが着弾した状況。

攻撃を受ける数か月前に撮影された、攻撃されたエプロンに展開している8機のMiG-23 (少なくとも別に2機がハンガー内にいます)。

 エチオピアにとって不幸なことに、国軍はティグレ軍によって鹵獲された後の発射機を発見・無力化に使える兵器システムを全く保有していませんでした。

 とはいえ、ティグレに配備された8x8の大型移動式発射機(TEL)と再装填車にとって最大の脅威は、上空で待ち伏せしている飛行機や武装ドローンではなく狭い道路や通路であり、すぐに少なくとも1台のTELを使い物にならなくさせました。

 どうやらティグレ防衛軍は重量級トラックを回収できる資機材を保有していなかったらしく、この車両は8発の「A200」誘導ロケット弾と一緒にその場に放置されてしまいました。



 その少し前の2020年12月には、エチオピア軍がティグレ州にあるミサイル基地の1つを奪回しており、ここではいくつかの「M20」SBRMと、少なくとも4個の空となった「A200」のキャニスターが発見されました。[5]

 持ち出すのに十分な時間や適した装備が無かったため、ティグレ軍がこの地域から追い出された際に置き去りにされたものと思われます。

 基地が奪回された時点までに全弾が発射し尽くされていなかったという事実は、その地域における全てのTELがすでに失われていたという可能性も示しています。



 また、TELと同じ車体をベースにした再装填車も、少なくとも1台が奪還されました。

 「A200」誘導ロケット弾を8発か「M20」弾道ミサイルを2発搭載するこのトラックの後部にはクレーンが備えられているため、発射システムに次の射撃任務を開始することを可能にする迅速な装填能力を有しています。

 この再装填車の存在は、(弾薬を補充するための場所に戻る必要が生じる前の段階における)攻撃準備ができた発射機と合計して、各部隊の火力を「A200」ロケット弾16発か「M20」弾道ミサイル4発と実質的に2倍にさせます。



 2台目の再装填車は、ティグレ軍が慌てて放棄したのとほぼ同時に奪還されました。

 面白いことに、「A200」ロケット弾キャニスターのうち少なくとも3つは空であり、どうやら発射機から撃ち出された後に再装填車に積み戻されたように見えます。これは、決して(キャニスターの投棄による)環境破壊からこの地域を守ろうとしたのではなく、ティグレ軍によってこのシステムが使用された痕跡を隠そうと試みたのかもしれません。

 もちろん、この努力は後に無駄であることがわかりました。ティグレ軍が弾薬と一緒に車両も放棄してしまったからです。

 エチオピアの新たな内戦における過酷な状況下では、高度な装備を維持することが困難なことから、残りの発射機や再装填車も、この時点で同様の運命にさらされた可能性が高いとみられています。

 ティグレ戦争の結果、エチオピアはサハラ以南のアフリカで最強の誘導ロケット弾と弾道ミサイル部隊を持つ国からボロボロで機能しない抑止力の残骸を持つ国となってしまいました。かつてはエチオピア軍の誇りだったこれらのアセットについて、おそらく紛争が猛威を振るっている間か武力衝突が終結した直後に、この国は再導入を追い求める可能性があるでしょう。

 トルコから「バイラクタルTB2」を購入する可能性があるという噂を考慮すると、エチオピアはTB2との相乗効果によって威力が増加する別のトルコ製システムにも目を向けたくなるかもしれません。そのようなシステムには「TRLG-230」「T-300」 MRL、「ボラ」戦術弾道ミサイルが含まれており、特に前者はTB2との協力で得られたメリットが十分に証明されています。

[1] 国产A200远程制导火箭武器射程200公里火力猛 http://mil.news.sina.com.cn/2010-11-19/1424619881.html
[2] Multiple launch rocket systems “Polonez”/missile system “Polonez-M” https://ztem.by/en/catalog/mlrs/
[3] Ethiopia’s Tigray leader confirms firing missiles at Eritrea https://apnews.com/article/international-news-eritrea-ethiopia-asmara-kenya-33b9aea59b4c984562eaa86d8547c6dd
[4] https://twitter.com/wammezz/status/1339370865096572930
[5] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1343979723207049217

※  当記事は、2021年9月15日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2021年9月10日金曜日

ティグレ防衛軍:重装備の記録(一覧)



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピア政府と北部のティグレ州との間で勃発した戦争は、エチオピアを混乱に陥れています。この武力紛争は2020年11月から熾烈を極めており、数千人が死亡、数百万人が避難を強いられいる状況にあります。

 エチオピア政府とティグレ人民解放戦線(TPLF)との間で何ヶ月にわたる緊張関係が続いていた後に、情勢が激化して戦争となったのです。

 1974年から1991年までエチオピアに存在していた共産主義・社会主義政権を打倒した後、TPLFは30年近くにわたってエチオピアの権力の中心にいました。エチオピアの人口の約5%しか占めていないにもかかわらず、ティグレ人の役人は政府を支配することができました。

 2014年から2016年にかけて反政府デモが相次いだ後、2018年にアビー・アハメド首相率いる新政権が発足しましたが、アビー首相はTPLFの権力を抑制しようと改革を強行し、ティグレ人を大いに動揺させました。

 それに応えて、ティグレ州は独自の地方選挙を実施して緊張が高まり、緊張は敵意をむき出しにする段階まで高まりました。

 この政治危機は2020年11月にTPLFの部隊がティグレ州のエチオピア軍基地を攻撃したことで、戦争に発展しました。

 おそらく一般的な予想に反して、ティグレの軍隊はかなり多くの戦車や大砲を運用しており、長距離誘導ロケット砲や弾道ミサイルも保有していました。そう、あなたが読んだとおり弾道ミサイルもあるのです。

 反乱軍によって弾道ミサイルが鹵獲されることは目新しいことではありませんが、彼らがそれを使用し始めることはあまり一般的ではありません。さらに稀なことはこれらが完全に別の国を対象として使用される場合ですが、それをまさにティグレ軍が行ったのです。

 弾道ミサイルはティグレ州にエリトリア軍が展開したことに対抗して発射されたと報じられており、ティグレ軍はエリトリアへの攻撃が差し迫っている可能性があると警告した数時間後に、その首都アスマラへ向けて少なくとも3発のミサイルを発射しました。[1]

 同じ頃、(名称がティグレ防衛軍:TDFとなった)ティグレ軍は、ティグレへのエチオピアによる空爆への報復として、バハルダールとゴンダールにあるエチオピア空軍基地に対しても中国製「M20」短距離弾道ミサイル(SRBM)を発射しました。[2]

 2021年9月の時点でTDFはエチオピアへの攻勢を押し続けており、地域をめぐる支配権が双方に行き交っているため、紛争の終わりは未だに見えてきません。

 明らかに自国の運命を変えようと試みて、エチオピアはイランから「モハジェル-6」無人戦闘航空機(UCAV)の調達を開始しました

 イラン、イスラエル中国製のUAV飛行隊が一見して阻止できないTDFの進撃を食い止めるのに十分かどうかは不確かであることから、軍事的な打開を確実なものとするため、近い将来にエチオピアがさらに無人機を導入する状況を目にするかもしれません。

エチオピア・TDFそれぞれの支配地域を示す紛争地域の地図は、ここで見ることができます。この地図は戦争の進行に合わせて更新されます。

        

  1. ティグレ防衛軍が運用していたことが確認された重装備の詳細な一覧は以下のとおりです。
  2. この一覧は入手可能な画像が追加されるに伴い、随時更新される予定です。
  3. この一覧には入手可能な画像や映像などの視覚的証拠で確認された装備だけを掲載しています。したがって、TDFが実際に鹵獲・運用している装備の量はここで紹介されているものよりも著しく多いはずです。
  4. ティグレ州はエチオピア軍が保有する重装備の大部分の本拠地となっており、その大半は2020年11月にティグレ軍の手に落ちましたが、大量の増備がエチオピア軍に奪回されたため、それらはこの一覧に加えることができませんでした。
  5. 全ての重装備が同時にTDFによって運用されているわけではなく、すでに戦闘で喪失したものもあります。
  6. 小火器や迫撃砲、トラックなどはこの一覧に含まれてはいません。
  7. 装備名の後に羅列してある数字をクリックすると、その装備の画像を見ることができます。
一覧の最終更新日:2021年11月19日(Oryx英語版での最終更新日は2021年11月17日)


戦車 (86)


弾道ミサイル発射機 (1)


ロケット砲・弾道ミサイル支援車両 (4)
  • 1 AR2 弾薬運搬装填車: (1)
  •  3 M20/A200 弾薬運搬装填車: (1) (2) (3)


携帯式地対空ミサイル (12)


対空砲 (27)


地対空ミサイルシステム (4陣地に13の発射機. 未使用)


レーダー (7)
  • 1 P-18「スプーン・レストD」: (1)
  • 2 ST86U/36D6「ティン・シールド」: (1) (2)
  • 1 SNR-75「ファン・ソング」 (S-75用): (1)
  • 3 SNR-125「ロー・ブロー」 (S-125用): (1) (2) (3)
 
[1] Ethiopia’s Tigray leader confirms firing missiles at Eritrea https://apnews.com/article/international-news-eritrea-ethiopia-asmara-kenya-33b9aea59b4c984562eaa86d8547c6dd
[2] Two missiles target Ethiopian airports as Tigray conflict widens https://edition.cnn.com/2020/11/14/africa/ethiopia-airport-tigray-intl/index.html

※  当記事は、2021年9月1日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳したも
 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が  
 あります


   
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