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2021年12月19日日曜日

破滅した抑止力: ティグレ最後の弾道ミサイル装備


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 ティグレによるエチオピア・エリトリアとのミサイル戦争は、非国家主体が短距離弾道ミサイル(SRBM)と長距離誘導ロケット弾を鹵獲し、それを用いてエチオピアと全く別の国:エリトリアの首都を攻撃したという珍しい出来事でした。[1]

 現代史の中でも注目すべき出来事であったにもかかわらず、このミサイル戦争は国際的なメディアから全く注目されていませんでした。

 この攻撃を受けてすぐに、エチオピアとエリトリアの軍隊は自走式発射機とミサイルを迅速に破壊・奪還したらしいので、ティグレによるミサイル攻撃の脅威度は低下しました。

 ティグレ防衛軍(TDF)は、2020年11月にティグレ州にあるエチオピア国防軍(ENDF)の基地を制圧した後にENDFの弾道ミサイル・誘導ロケット弾発射システムを鹵獲・掌握しました。このシステムに関する十分な数の運用要員がティグレ側に離反したことが、ティグレ側の軍隊が発射機を元の所有者:ENDFに対して使用し始める機会を与えたようです。

 そして実際、ティグレ軍はそれをすぐに文字通り実施し、エチオピアの2つの空軍基地に弾道ミサイルを発射し、さらに3発をエリトリアがティグレ戦争に介入した報復として同国の首都に撃ち込みました。[2]

 最近公開されたティグレのミュージック・ビデオは、TDFの弾道ミサイル・誘導ロケット砲部隊の一部がこの中国製の発射装置と関連装備を発見して無力化するという、エチオピアとエリトリアによる大規模な取り組みから回避できたことを示しています。[3]

 2021年10月21日に公開されたこの動画では、迷彩服を着たティグレの若者たちがラップを披露している背景として1台の再装填車が映し出されています。

 この動画が撮影された正確な日付を独自に検証することはできませんが、同じ動画には今年8月下旬に鹵獲されたT-72UA1戦車が登場していることから、少なくとも2020年12月にほかの発射システムと再装填車が捕獲・破壊された後に撮影された動画であることだけは間違いありません。[4]

 しかし、公開された動画からは「M20」SRBMや「A200」誘導ロケット弾が存在した形跡を見つけることができませんでした。専用の輸送起立発射機(TEL)がなければ、再装填車は実質的に何の役にも立ちません。

エチオピア軍が奪還した直後に撮影された「A200」誘導ロケット弾8発を搭載したTEL

 「A200」誘導ロケット弾を8発か「M20」弾道ミサイルを2発搭載するこのトラックの後部にはクレーンが備えられているため、発射システムに次の射撃任務を開始することを可能にする迅速な装填能力を有しています。この再装填車の存在は、(弾薬を補充するための場所に戻る必要が生じる前の段階における)攻撃準備ができた発射機と合計して、各部隊の火力を「A200」ロケット弾16発か「M20」弾道ミサイル4発と実質的に2倍にさせる効果があります。


 2020年12月には、エチオピア軍がティグレ州にあるミサイル基地の1つを奪回しており、ここではいくつかの「M20」SBRMと、少なくとも4個の「A200」のキャニスターが発見されました。[1]

 持ち出すのに十分な時間や適した装備が無かったことから、ティグレ軍がこの地域から追い出された際に置き去りにされたものと思われます。また、この基地が奪回された時点までに全弾が発射し尽くされていなかったという事実は、その地域における全てのTELがすでに失われていたという可能性も示しています。


 「M20」SRBMと「A200」誘導ロケット弾発射システム用の再装填車も、少なくとも1台がこの基地でエチオピア軍に奪還されました(下の画像)。


 また、別の再装填車もティグレ軍が慌てて放棄したのとほぼ同時に奪還されました(下の画像)。

 面白いことに、「A200」ロケット弾キャニスターのうち少なくとも3つは空であり、どうやら発射機から撃ち出された後に再装填車に積み戻されたように見えます。これは、決して(キャニスターの投棄による)環境破壊からこの地域を守ろうとしたのではなく、ティグレ軍によってこのシステムが使用された痕跡を隠そうと試みたのかもしれません。


 ティグレのヒップホップの舞台として使われている「M20」/「A200」用再装填車は、かつてエチオピア軍が誇った強大な弾道ミサイル・誘導ロケット砲部隊構成した装備で最後に残されたものかもしれません。

 今や本来の用途で役に立たなくなってしまったこの車両は、こういったより穏やかな役割での新たな使い道を見いだされたようです。

 TDFの抑止力は失われたかもしれませんが、最終的に彼らを打倒することを目的とした最近のENDFの攻勢に対するTDFの強い抵抗は、彼らが過小評価されるべき存在ではないことを示しています。そして、ティグレ戦争が予測不可能な形で展開し続けていく中で、彼らがさらなるサプライズを用意していることは間違いないでしょう。

特別協力: Saba Tsen'at Mah'derom.

[1] Go Ballistic: Tigray’s Forgotten Missile War With Ethiopia and Eritrea https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/go-ballistic-tigrays-forgotten-missile.html
[2] Ethiopia’s Tigray leader confirms firing missiles at Eritrea https://apnews.com/article/international-news-eritrea-ethiopia-asmara-kenya-33b9aea59b4c984562eaa86d8547c6dd
[3] Yaru Makaveli x Narry x Yada sads x Ruta x Frew x danay x donat - CYPHER WEYN 2 / Tigray Music https://youtu.be/0LPa4xIuBXo
[4] The Tigray Defence Forces - Documenting Its Heavy Weaponry https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-tigray-defence-forces-documenting.html

  事です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇
    所が存在する可能性があります。



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2021年11月2日火曜日

弾道を描け:忘れ去られたティグレの対エチオピア・エリトリア 「ミサイル戦争」


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ティグレ戦争の序盤である2020年11月、中国製の「M20」短距離弾道ミサイル(SRBM)がエチオピア北西部にあるバハルダール空軍基地のエプロンに着弾した際に、エチオピア国防軍(ENDF)が受けた衝撃は計り知れないものだったに違いありません。

 ティグレ防衛軍(TDF)がいくつかの弾道ミサイルシステムを鹵獲した後にバハルダールを標的にしたことは遅かれ早かれ発生する流れでしたが、ミサイルが着弾した際に示したとてつもない命中精度は基地の人々を驚かせたはずです。

 ほぼ同じ頃に、約450km離れたエリトリアの首都アスマラを何度かの大きな爆音と衝撃が揺り動かしました。この都市もバハルダールと同様にティグレ軍によるミサイル攻撃を受けたのです。

 エチオピアとエリトリアがどのようにして弾道ミサイル攻撃を受けたのかが、この記事のテーマとなります。

 軍事力を大幅に増強して長年の宿敵であるエリトリアに対して決定的な優位性を得ることを目指し、おそらくはスーダンやエジプトに対する抑止力も確立しようと試みていそうなエチオピアは、この地域の軍事バランスを最終的に自国に好都合なものに変えることを追い求めて、2010年代に野心的な軍の再装備プログラムに着手しました。

 その爆買いの中心となったのは、これまでエチオピアではまだ導入されていなかった分野の戦力: 短距離弾道ミサイルと長距離誘導ロケット弾でした。エチオピアと中国の温かい軍事的な関係を考慮すれば、エチオピアがそのような戦力の入手先として中国に目を向けたことは少しも驚くことではありません。

 中国はこのような兵器をエチオピアに提供する意思がある数少ない国の1つであることに加えて、短距離弾道ミサイル(SRBM)と誘導ロケット弾発射システムを1つのモジュールにまとめた2種類のシステムを製造しています。

 それらの1種(SRBMの「BP-12A」と誘導ロケット弾発射システムの「SY-400」を使用したもの)はすでにカタールによって導入されており、同国ではこれまでにこのシステムに関連する「BP-12A」だけが公開されています。

 それに直に競合するシステムは、「M20」SRBMと「A200」誘導ロケット弾発射システムを使用しており、(「ポロネーズ」の名で)ベラルーシとアゼルバイジャンに、そしてエチオピアに採用されています。ベラルーシはロケット弾の生産ラインを設立しており、「A300」の改良型が「ポロネーズM」として公開されています。

 これまでのところ、エチオピアだけが「M20」SRBMの運用者であることが確認されており、アゼルバイジャンは誘導ロケット弾発射システムを入手したのみで、ベラルーシはミサイルを公開したものの、まだ現役として採用されていない点が注目されます(注:「ポロネーズM」は2019年に受領が開始されたと報じられています)。

        

 「M20」SRBMは、現在のアフリカ大陸で運用されている弾道ミサイルの中では最も現代的ものです。このSRBMは400kgのHE弾頭を搭載して少なくとも280km以上の距離まで飛ばすことができるため、敵の基地や兵力の集結地点を狙うのに完璧に適しています。また、慣性誘導だけでなく「北斗」を用いた衛星誘導方式も組み込んでいる「M20」は、約30mの半数必中界(CEP)も誇ります。[1]

 「A200」誘導ロケット弾発射システムも同様にGPS誘導と慣性誘導方式を併用しているため、CEPは約30~50メートルであり、150kgの弾頭を200km先まで飛ばすことが可能です。[2]


 2020年11月にティグレ軍がENDFの北部コマンドへの強襲を開始すると、彼らは即座にエチオピア軍が持つ弾道ミサイル・誘導ロケット砲部隊の全体を掌握しました。その運用要員の多くがティグレ側に離反したようで、それがティグレ軍にこのシステムを元の所有者に対して使用を開始する機会を与えたようです。そして実際、ティグレ軍はそれをすぐに文字通り実施し、エチオピアの2つの空軍基地に弾道ミサイルを発射して、さらに3発をティグレ戦争に介入した報復としてエリトリアの首都に撃ち込みました。[3]

 これらの弾道ミサイル・ロケット弾攻撃のほとんどは発射映像や攻撃を受けた標的の画像が見当たらないために独自に検証することはできませんが、相当にきちんと記録されていた攻撃として2020年11月のバハルダール空軍基地への攻撃があります。[4]

 この攻撃が物的損害をもたらしたのかは不明ですが、エチオピア空軍は弾道ミサイル攻撃を予期して、すでに航空機を近くの対爆シェルター(HAS)に移動させていた可能性があります。確かなことは、「M20」の400kgの弾頭が、通常はエプロンに位置しているMiG-23BN戦闘爆撃機のかなりの部分を破壊した可能性があるということです。

2020年12月2日に撮影された、バハルダール空軍基地で「M20」弾道ミサイルが着弾した状況。

攻撃を受ける数か月前に撮影された、攻撃されたエプロンに展開している8機のMiG-23 (少なくとも別に2機がハンガー内にいます)。

 エチオピアにとって不幸なことに、国軍はティグレ軍によって鹵獲された後の発射機を発見・無力化に使える兵器システムを全く保有していませんでした。

 とはいえ、ティグレに配備された8x8の大型移動式発射機(TEL)と再装填車にとって最大の脅威は、上空で待ち伏せしている飛行機や武装ドローンではなく狭い道路や通路であり、すぐに少なくとも1台のTELを使い物にならなくさせました。

 どうやらティグレ防衛軍は重量級トラックを回収できる資機材を保有していなかったらしく、この車両は8発の「A200」誘導ロケット弾と一緒にその場に放置されてしまいました。



 その少し前の2020年12月には、エチオピア軍がティグレ州にあるミサイル基地の1つを奪回しており、ここではいくつかの「M20」SBRMと、少なくとも4個の空となった「A200」のキャニスターが発見されました。[5]

 持ち出すのに十分な時間や適した装備が無かったため、ティグレ軍がこの地域から追い出された際に置き去りにされたものと思われます。

 基地が奪回された時点までに全弾が発射し尽くされていなかったという事実は、その地域における全てのTELがすでに失われていたという可能性も示しています。



 また、TELと同じ車体をベースにした再装填車も、少なくとも1台が奪還されました。

 「A200」誘導ロケット弾を8発か「M20」弾道ミサイルを2発搭載するこのトラックの後部にはクレーンが備えられているため、発射システムに次の射撃任務を開始することを可能にする迅速な装填能力を有しています。

 この再装填車の存在は、(弾薬を補充するための場所に戻る必要が生じる前の段階における)攻撃準備ができた発射機と合計して、各部隊の火力を「A200」ロケット弾16発か「M20」弾道ミサイル4発と実質的に2倍にさせます。



 2台目の再装填車は、ティグレ軍が慌てて放棄したのとほぼ同時に奪還されました。

 面白いことに、「A200」ロケット弾キャニスターのうち少なくとも3つは空であり、どうやら発射機から撃ち出された後に再装填車に積み戻されたように見えます。これは、決して(キャニスターの投棄による)環境破壊からこの地域を守ろうとしたのではなく、ティグレ軍によってこのシステムが使用された痕跡を隠そうと試みたのかもしれません。

 もちろん、この努力は後に無駄であることがわかりました。ティグレ軍が弾薬と一緒に車両も放棄してしまったからです。

 エチオピアの新たな内戦における過酷な状況下では、高度な装備を維持することが困難なことから、残りの発射機や再装填車も、この時点で同様の運命にさらされた可能性が高いとみられています。

 ティグレ戦争の結果、エチオピアはサハラ以南のアフリカで最強の誘導ロケット弾と弾道ミサイル部隊を持つ国からボロボロで機能しない抑止力の残骸を持つ国となってしまいました。かつてはエチオピア軍の誇りだったこれらのアセットについて、おそらく紛争が猛威を振るっている間か武力衝突が終結した直後に、この国は再導入を追い求める可能性があるでしょう。

 トルコから「バイラクタルTB2」を購入する可能性があるという噂を考慮すると、エチオピアはTB2との相乗効果によって威力が増加する別のトルコ製システムにも目を向けたくなるかもしれません。そのようなシステムには「TRLG-230」「T-300」 MRL、「ボラ」戦術弾道ミサイルが含まれており、特に前者はTB2との協力で得られたメリットが十分に証明されています。

[1] 国产A200远程制导火箭武器射程200公里火力猛 http://mil.news.sina.com.cn/2010-11-19/1424619881.html
[2] Multiple launch rocket systems “Polonez”/missile system “Polonez-M” https://ztem.by/en/catalog/mlrs/
[3] Ethiopia’s Tigray leader confirms firing missiles at Eritrea https://apnews.com/article/international-news-eritrea-ethiopia-asmara-kenya-33b9aea59b4c984562eaa86d8547c6dd
[4] https://twitter.com/wammezz/status/1339370865096572930
[5] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1343979723207049217

※  当記事は、2021年9月15日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2021年10月22日金曜日

カラバフの覇者:「バイラクタルTB2」



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ in collaboration with Jakub Janovsky, Dan, COIN(編訳:Tarao Goo

Şimşek gibi atıldık bir semte yedi koldan - 稲妻のごとく、我々は七方向から攻撃した(ヤフヤー・ケマル・ベヤトル著「アキンジラー」から)

 今や「四十四日間戦争」として知られている悪しき戦いが勃発してから1年が経過しました。このコーカサスでの戦闘の結果は現状を驚くほどに覆し、当然ながら世界中のアナリストや歴史マニアの注目を集めてきた戦史における重要な分岐点を記録したと言っても過言ではないでしょう。

 短くも熾烈を極めた戦いの過程で、一握りのアゼルバイジャンの「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)がアルメニア軍の基盤を実質的に破壊し、これまでに(92台のT-72戦車を含む)126台の装甲戦闘車両(AFV)、147門の大砲、60門の多連装ロケット発射機(MRL)、22基の地対空ミサイルシステム(SAM)、6基のレーダーシステム、186台の車両など、合計で549の地上目標の破壊が確認されています。

 さまざまな要因の組み合わせがアゼルバイジャン軍の圧倒的な大成功を実現させた究極的な原因ですが、この新たに導入されたテクノロジーの一部が一連の戦いの中核であったことを否定できません。

 両国間の武力衝突が停止してからの数ヶ月で、一部のオブザーバーたちはおそらく装備が不足していたアルメニア軍の不備によってTB2の並外れた有効性を釈明しようと試みました。

 しかし、過去のシリアとリビア、そしてナゴルノ・カラバフでの戦闘で、TB2は現代諸国が集めた統合防空システム(IADS)の多くを相手にできる能力を示しており、「アフトバザ-M」「レペレント-1」「ボリソグレブスク-2」、そして「グローザ-S」のような電子戦(EW)システムを併用した場合でさえも、「S-300PS」「ブク-M2」「トール-M2」「パーンツィリ-S1」といったSAMとの戦闘に勝利しています。

 最も先進的な国の空軍でさえ敵の空域で任務を遂行することを完全に拒否するように設計されたこれらのシステムに直面したTB2の性能は、(SAMやEWシステムの)オペレーターだけでなく、製造したロシア企業にも衝撃を与えたに違いありません。

 比較的軽量で安価な無人機が先述のような防空システムを回避するだけでなく積極的に捜索して破壊できた一方で、その見返りとして僅かしか損失を被らなかったという事実は戦争を遂行する面での新たな方法を示しており、少なくとも3つの紛争で十分に試行された今となっては、流れを元に戻すことはできません。



 「バイラクタルTB2」はナゴルノ・カラバフ戦争で戦車の隊列やSAM陣地を攻撃しただけでなく、2020年10月にアゼルバイジャンの都市ギャンジャとバルダを攻撃し、それぞれ26人と27人の民間人を死に至らせたアルメニア軍のR-17「スカッド-B」弾道ミサイル発射機とBM-30「スメルチ」MRLの発見、追跡、破壊にも成功しました。

 TB2はSIGINTか(車両などの目標に対して75kmの探知距離を持つ)長射程のEO/IRセンサーを通じて「スカッド-B」を検知すると、直ちに徘徊兵器をその展開位置に誘導しました。その結果、少なくとも2基の「スカッド-B」の移動式発射機(TEL)が破壊され、アゼルバイジャンの都市への弾道ミサイル攻撃の脅威が減りました。

 特に注目すべきは、TB2がこれらの任務を遂行するためにナゴルノ・カラバフの空域に入る必要すらなしに,味方の領域の安全な距離から標的を観測していたという事実です。

アルメニアの国境を僅かに越えてミサイルの発射準備をしている「スカッド-B」。彼らの知らないうちに、自らがアゼルバイジャンの領空を飛行する「バイラクタルTB2」によって監視されていました。

 別の注目すべきケースとして、バルダへのロケット弾攻撃をもたらした2基のBM-30「スメルチ」重MRLの破壊があります。BM-30はナゴルノ・カルバフの奥深くにある準備された拠点に静かに配置され、河川敷から近くの平原まで自走し、再装填のために戻る前にそこで破壊的なロケット弾を発射しました。

 10月30日には、これらの重MRLの1つが致命的な斉射後に発見されました。TB2はこれを即座に攻撃するのではなく、そのまま拠点に戻るBM-30を追跡したところ、そこで別のBM-30と再装填車(または弾薬)を発見したのです。

 その直後にこれらは攻撃され、2基の発射機が破壊されてバルダに住むより多くの民間人の命を守った可能性をもたらすという結果に終わりました。



 振り返ってみると、TB2の役割は単なるハンターキラーではなく、最終的には戦場を完全に支配する存在ですらありました。

 世界で最も防空密度の濃い地域の1つを飛行しながら、どんな地上目標がいる位置にも忍び寄ってそのあらゆる動きを追跡する能力があるTB2は、文字どおり、地上目標の直上で円を描きながら、友軍のほかのアセットにその目標への攻撃を指示することができました。

 戦争中におけるTB2の風評は、(10月19日に発生した)墜落がまるで戦争での主要な戦いで勝利を収めたかのようにアルメニアによって扱われるようになり、
その墜落を祝うために国際的なジャーナリスト向けの記者会見が開かれるほどでした。

 この無人機から発見されたいくつかのコンポーネントに基づいて、海外に在住しているアルメニアの移民は「バイラクタルTB2」に使用されている部品の供給を停止させるべく、国際的な企業に圧力をかけるためにあらゆる努力を払いました。

 アルメニアがトルコに(アゼルバイジャンへの)代替品を引き渡すことを生じさせるのに十分な数のTB2を撃墜することができなかったため、この動きがナゴルノ・カルバフにおける戦争の行方に何の影響も与えなかったこと(さらに「バイカル・テクノロジー」社のような企業が持っていそうなスペアパーツのストックを無視していることも)を別としても、同じ分野の幅広い製品の納入をいとわない、数多くの企業がまだあります。

 結局、アルメニアの移民がTB2に焦点を合わせたことは、最終的に彼らの目標とは逆効果で終わったしまったとさえ主張できたかもしれません。なぜならば、TB2の背後にある設計思想と安価で入手しやすいという理由でいくつかの外国製コンポーネントが主に使用されていることを全く理解できなかった彼らの抗議は少ししか達成できなかったようであり、トルコは防衛製品のさらにいくつかの分野で自給自足できるようにするために、国産の代替部品の研究と生産を加速させたからです。

 カナダのWESCAM社がTB2の目であった(現在はアセルサン社の「CATS」FLIRがこれを代替している)前方監視型赤外線装置(FLIRシステム)の納入を禁止されたことは、この戦略によって生じたおそらく最も重要な不売措置でしたが、これも道徳的な観点からするとかなり疑わしいものが感じられます。

 このようなシステムの販売停止はムスリムであるシリアやリビアの兵士が標的となった紛争では一度も検討されなかったことですが、アルメニアのキリスト教人口はより共感できる集合点だったようです。

 同様に、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアルメニアの敗北をもたらした中でも重要な役割を果たした、最近納入されたばかりのイスラエル製無人機や弾道ミサイルなどの兵器が使用されたことについて、なぜアルメニアの移民たちが一度も調査を求めなかったのかと問う人もいるかもしれません。武器売買の倫理は明らかにケースバイケースで検討されており、客観的な視点よりも地政学的に都合の良い立場が優先されています。

 アルメニアのニコル・パシニャン首相はアルツァフ軍による「1ダース以上」にも及ぶTB2の撃墜を熱心に主張しましたが、実際には2機だけが戦争中に喪失したことが確認されています(1機は墜落、もう1機はおそらく撃墜されたと推測されています)。[1]

 しかし、たとえアルメニア軍が1ダース以上のTB2の撃墜に成功したとしても、これらの兵器システムは容易に入れ替え可能なため、戦争の結果に影響を与えることはなかったでしょう(注:比較的低コストかつ予備機の補充が容易なので、いくら撃墜してもきりが無いということ)。

 歴史上、これまで1つの兵器システムだけで勝利した戦争はありませんでしたが、「バイラクタルTB2」が戦争中のアゼルバイジャンで最も重要なアセットであり、それなしで際だった勝利が得られなかったことを疑う余地はありません。



  1. ナゴルノ・カラバフ上空を飛ぶ「バイラクタルTB2」によって撃破・破壊されたことが確認されている549の地上目標については、下のリストに表示しています。
  2.  このリストには、画像や映像による視覚的な証拠に基づいて確認された、撃破・破壊された車両や装備のみを掲載しています。したがって、実際に撃破された装備の数が、ここに記録されているよりも多いことは間違いないでしょう。
  3. 兵員、弾薬庫や軍事施設に対する戦果については、このリストに含まれていません。
  4. 各装備名に続く数字をクリックすると、それぞれの破壊された車両や装備の画像が表示されます。

戦車 (92)


歩兵戦闘車 (14)


牽引砲 (130)


自走砲(17)


多連装ロケット砲 (60)


弾道ミサイル (2)
  • 1 ZSU-23-4「シルカ」23mm自走対空砲: (1)


地対空ミサイルシステム (24)


レーダー (6)
  • 2 P-18「スプーン・レストD」: (1) (2)
  • 1 1S32 「パット・ハンド」 (2K11/SA-4 「クルーグ」用): (1)
  • 1 1S91 SURN (2K12/SA-6「クーブ」用): (1)
  • 1 ST86U/36D6「ティン・シールド」(S-300用): (1)
  • 1 19J6 (S-300用): (1)


電子妨害・攪乱システム (1)
  • 1 R-330P「Piramida-I」: (1)


その他の車両(187)
 記事です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている