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2023年4月1日土曜日

艦載機の有力候補:「バイラクタルTB3」がインドネシアへ?


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
 
 「バイカル・テクノロジー」社製UCAVを導入したいということを表明したインドネシアの意思は、いつの日か空母やLHD(強襲揚陸艦)からも運用できる、TB2の重量型として設計された「バイラクタルTB3」に関心を示すことに至るかもしれません。

 インドネシア海軍はすでに、「ディポヌゴロ」級コルベット「フランス・カイシエイポ」のヘリ甲板から国産UAV「LSU-02」離陸させる実験を行っています。この実験は艦艇からの離陸のみであって海軍艦艇にUAV運用能力があることを示すものではありませんが、この実験はインドネシアがVTOL型に加えて艦載型の固定翼式UAVの運用に興味を持っていることを明確に示しているように思われます。

 現在、インドネシア海軍は病院船として建造された2隻を含めて計6隻のLPD(ドック型輸送揚陸艦)を運用しています。LPDの3隻は、国営造船所である「PT PAL インドネシア」「マカッサル」級揚陸艦を設計した韓国の「大鮮造船所」と協力し、同揚陸艦の建造ライセンスを得て導入されたものです(注:最初の2隻は韓国で、残りの3隻は国内で建造されました)。2014年6月には、「PT PAL」はフィリピン海軍に2隻のLPDを納入する9200万ドルの契約に署名しました。[3]

 西側諸国における現代艦艇で標準とされるシステムの多くは搭載されずに納入されてはいますが、「マカッサル」級の約4500万ドル(約57億円)という低価格は、インドネシアやフィリピンなどの国にとって実際に経済的な面で入手可能な船であることを意味しています。

 現在、インドネシア海軍は今この先の10年で数隻のヘリコプター揚陸艦(LPH)を調達する意図があると考えられています。 2018年に「PT PAL」は、インドネシア海軍に売り込まれるLPHのベースとなる可能性が高い全長244mのLPHの設計案を公表しました。[4]

 トルコの232mを誇る「アナドル」級LHDと同様に、このLPHはヘリコプターや大型U(C)AVを飛行甲板やハンガーに移動できる大型の後部エレベーターを備えています。「バイラクタルTB3」は当初から空母やLPHからの配備を前提にして設計されているため、その設計の変更をほとんど要せずにインドネシアのLPHで運用可能と思われます。

 TB3は小型で翼が折りたたみ式のため、相当な数を対潜ヘリコプターや他のドローンと一緒に艦載できることから、 インドネシアに初の(無人機)空母をもたらす可能性を秘めていることは言うまでもありません。

インドネシアが構想している244メートル級LPHのイメージ図
 
 「バイラクタルTB3」は280kgのペイロードを搭載しつつ、最大で24時間の滞空が可能です。このペイロードは射程30km以上の「MAM-T」を含む最大で6発の「MAM」シリーズ誘導爆弾や敵のUAV・ヘリコプターを攻撃可能な「サングル」空対空ミサイル、海上捜索レーダー、あるいはそれらの組み合わせで成り立っています。[5] 

 これによって、TB3は敵艦との交戦や上陸作戦の支援、海上監視を行うことが可能となっているのです。

 インドネシアのLPH(LPDと同様に)は低価格が見込まれているため、TB3の導入と組み合わせた場合、これらがインドネシア海軍に全く新しい可能性を切り開く可能性があるでしょう。

  その意味では、ヘリ甲板からUAVを離陸させるだけでは、戦力投射能力を格段に向上させることができるLPHからの真のUCAV運用能力には遠く及びません。

「フランス・カイシエイポ」のヘリ甲板から「LSU-02」が発艦した直後のカット

 以前、タイが「HTMS チャクリ・ナルエベト」によってこの地域に空母をもたらすことを試みましたが、同艦の「AV-8S "ハリアー"」は資金不足のため後継機がないまま退役し、今では全長183mの無用の長物と化してしまいました。現在、タイ海軍は運用するのに十分な数のヘリコプターと無人偵察機を保有していないのにもかかわらず、同艦はヘリコプターと無人偵察機用空母としての役割を担っています。

 つまり、「HTMS チャクリ・ナルエベト」は野心が現実に負けた一例であり、必要なアセットがないままプラットホームが取得されてしまった状況を明らかにしているのです。

 このような観点から、共に安価なLPHと「バイラクタルTB3」を調達することは、より費用対効果が高く、リスクの少ない固定翼式洋上偵察・武装アセットを導入する方法であるといえます。もしTB3の成功が証明され、将来的にジェットエンジンを搭載した「バイラクタル・クズルエルマ」UCAVを導入して戦力を拡大するならば、可能な限り低い投資額と引き換えに、インドネシアが現代の海上戦力の最前線にとどまることを保証することになるでしょう。

「バイラクタル・クズルエルマ」無人戦闘攻撃機


[1] Indo Defence 2022: Baykar in talks with Indonesian government on Bayraktar TB2, Akinci UAVs https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indo-defence-2022-baykar-in-talks-with-indonesian-government-on-bayraktar-tb2-akinci-uavs
[2] https://i.postimg.cc/FR8hbv3T/854.png
[3] Philippine Navy Commissions New Ships in 118th Anniversary Celebration https://thediplomat.com/2016/06/philippine-navy-commissions-new-ships-in-118th-anniversary-celebration/
[4] https://i.postimg.cc/gkBHvBTn/776.jpg
[5] BAYRAKTAR TB3 https://baykartech.com/en/bayraktar-tb3/


※  当記事は、2022年11月8日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳    
 したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
 箇所があります。

 

2023年3月26日日曜日

新たな時代に備えて:日本が各国に供与した防衛装備品など(一覧)


著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ (編訳:Tarao Goo

 何十年も平和を維持するための努力を費やしてきた後に再び戦争の可能性に備えている日本は、自衛隊に初となる正真正銘の攻撃能力を導入することになったほか、台湾周辺の島々に長距離対艦ミサイルの配備もしました。

 冷戦以降も領土問題を外交的に解決することを望んでいたにもかかわらず、今の日本は、ますます威勢を強める中国と(日本の千島列島のうち最南端に位置する4つをいまだに占領している)ロシア、核保有国と化した北朝鮮に囲まれた状態にあるのです。

 軍事態勢を強化する試みの一環として、日本は中国の干渉に対するアジア諸国の戦力を支援を通じて高め、主にフィリピンやマレーシアといった国の海上監視能力の強化も目指しています。

 これまでの支援は非武装の哨戒機や練習機、非殺傷兵器の寄贈に限られていましたが、ようやく日本が海外に堂々と軍備を輸出できるようになった情勢を受け、この国はさらなる貢献の方策を模索して始めています。

 フィリピンは冷戦後に日本から大型装備の供与を受けた最初の国であり、2020年に全長96mの巡視船2隻と対空捜索レーダー数基を入手しています。その後も、日本はフィリピン沿岸警備隊がこれらの艦艇を運用し続けるための整備能力を強化するため、2億1,000万円を拠出しました。[1] 

 フィリピンは、すでに日本政府が建造資金を提供した全長44mの巡視船10隻と元海上自衛隊機である「ビーチクラフト・キングエア "TC-90"」双発機5機を受領しており、2023年または2024年には多数の「UH-1J」ヘリコプターも受け取る予定です。

 同様にベトナムも日本の援助の受領国であり、2016年と2018年に6隻の漁業取締船を供与されています。2021年9月、両国の軍事協力が徐々に強化されていく中で、彼らは日本がベトナムに防衛装備品や技術を供与する協定を締結しました。[2]

 日本の民間団体による取り組みも、太平洋の海洋安全保障に重要な貢献をしていることに注目すべきです。日本財団は太平洋の国々へ資金や巡視船さえも寄贈している組織の一つであり、2018年にはミクロな島国であるパラオに40m級の新型巡視船まで寄贈しています。[3]

 中国の影響力に支配されることを阻止したり、密漁や違法操業への対処するかどうかを問わず、日本政府や民間からの寄贈は何らかの形で太平洋の海洋安全保障に寄与しているのです。


 2022年2月24日のロシアの侵攻を受けたウクライナに対する日本の支援の動きは、早くも2月25日にウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相から岸信夫防衛大臣(当時)宛の書簡から始まりました。[4]

 この書簡の中で、レズニコフ国防相はロシアからの侵攻の阻止を支援して欲しいと日本から「武器」を含む軍備の提供を要請しました。これを受けた岸防衛大臣は、日本が厳格な輸出規制に縛られながらも自国ができることを探すよう防衛省の各部署に指示したとのことです。こうして、1960代以降の政権によって定められた厳しいガイドラインの限度内でどのような種類の装備品を送ることができるのかを選定するという、日本政府にとって大変な挑戦が始まりました。
 
 まず、防衛省は自衛隊の不用装備品を開発途上国に譲渡できると定めた自衛隊法第116条の3第1項に着目したものの、当該条文は武器と弾薬の譲渡について明確に除外していることがネックとなりました。 [4]

 もう一つの障害となっていたのは、「紛争当事国」への(非殺傷型を含む)軍備の移転を禁止していることが明記されている、1967年に定められた「武器輸出三原則(注:現在の「防衛装備移転三原則」)というガイドラインの存在でした。[4]

 この原則で定義する「紛争当事国」とは、「武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国」を指します。ただし、「紛争当事国」と定義された具体的な国は朝鮮戦争時の北朝鮮と湾岸戦争のイラクだけしか存在しません。つまり、皮肉にも日本のガイドラインでウクライナは「紛争当事国」ではないため、日本は非殺傷型の防衛装備を供与する選択肢に進むことができたのです。[4]

 しかし、防衛省は「日本と安全保障面での協力関係がある国に対する救難、輸送、警戒、監視及び掃海に係る協力に関する防衛装備の海外移転」のみ限定する三原則上における「運用指針」の問題にも直面することになりました。[4]

 このおかげで、ヘルメットや防弾チョッキは日本の輸出貿易管理令で定める防衛装備品に該当することから、当時はウクライナへの譲渡が不可能だったわけです。

 これらの厳格な規制を回避するため、日本政府は自衛隊が用いている「88式鉄帽」について、民間市場でも同等のものが購入できることから、実質的には規制に該当する「軍用ヘルメット」ではないと宣言したのです – これが独創的な解釈と言えることは確かでしょう。[1] 
 
 ウクライナに対するヘルメットや防弾チョッキなどの非殺傷型の装備品を供与する上で生じる問題を解決するため、日本政府は「運用指針」そのものに変更を加えました。防衛装備移転三原則の運用指針に定める「防衛装備の海外移転を認め得る案件」に、「国際法違反の侵略を受けているウクライナに対して自衛隊法第116条の3の規定に基づき防衛大臣が譲渡する装備品等に含まれる防衛装備の海外移転」が追加されたのです。

この興味深くも、非常に骨の折れる官僚的な駆け引きの後、「88式鉄帽」6900個と「防弾チョッキ3型」1900着は、その他の衣服や人道支援物資と共に航空自衛隊の「KC-767」と「C-2」輸送機やアメリカ空軍の「C-17」輸送機で欧州へと空輸されるに至りました。

ウクライナで用いられている防弾チョッキ3型(改):日本がウクライナへ供与した装備類は現時点で非殺傷型のものばかりだったが、数年前まではこの程度の支援も考えられなかったことに注目すべきだろう(提供:とあるウクライナの予備兵 via 爆戦氏)

 ウクライナと日本の国境(海)に近い地域における出来事を考慮すると、今後もウクライナやアジア諸国が日本から寄贈される各種防衛装備の受け入れ先となる可能性は高いと思われます。

 絶え間ない現代化を続ける軍事組織を維持するため、将来的な寄贈対象には戦車やヘリコプター、さらには艦艇といった自衛隊の退役装備も含まれるかもしれません。なぜならば、これらも細心の注意を払って稼働(またはそれに準じた)状態が維持されているからです。

 ウクライナは確実に日本政府へ追加の軍事支援を(得られる瞬間まで)求めてくることが予想されるため、結果として、日本政府が過去の政権によって定められた原則の範囲内に収めるようにする奮闘の中で、さらに官僚の頭を抱えさせることになるのは間違いありません。

  1. 以下の一覧では、日本政府から諸外国へ寄贈されたことが判明している軍用装備や重機を掲載しています。
  2. 個人から寄贈されたものについては、この一覧には含まれていません。
  3. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されています)。
  4. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  5. 各装備品類の名称をクリックすると、当該装備品類の画像などを見ることができます。

ヨーロッパ

ウクライナ


東南アジア

カンボジア

インドネシア

マレーシア


フィリピン

ベトナム


[1] Japan pledges 210M yen to PCG https://mb.com.ph/2022/06/11/japan-pledges-210m-yen-to-pcg/
[2] Japan, Vietnam sign defense transfer deal amid China worries https://apnews.com/article/technology-china-japan-tokyo-kamala-harris-9bf99b9422489050fcb0dde811741714
[3] Japan Patrol Vessel Donation to Help Palau Counter Maritime Threats https://www.nippon.com/en/features/c04802/
[4] 防弾チョッキ提供 ウクライナに武器輸出?https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/79571.html
以降は邦訳に際して参考とした資料となります。

※  当記事は、2023年3月22日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したも  
  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
    あります。また、編訳者の意向で大幅に加筆修正を加えたり、画像を差し替えています。

2023年3月18日土曜日

さらなる輸出市場の拡大:トルコがインドネシア向け哨戒艇の輸出に着手した



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 トルコが海軍の分野でほぼ自給自足の状態を成し遂げる方向に急速に進んでいることもあり、近頃では同国で設計された艦艇が世界中の海軍で運用されています。

 この野心的な努力の一環として、トルコの造船所では売り出す軍用艦艇のラインナップを常に拡大し続けているようです。2013年にトルコが現在海軍で仕様されている高速攻撃艇(FAC)を置き換える新型のFACの入札を開始した際に、30近くの国産で設計された案から選定できたことからも、同国での軍用艦の設計に関する流行の規模が決して誇張されたものではないことが証明されています。[1] [2]

 今やトルコは独自設計のヘリコプター搭載型強襲揚陸艦(LHD)からフリゲート、さらには小型潜水艦までも国内外の顧客に売り出しています。そのため、近い将来にトルコが世界最大の軍用艦艇の輸出国の1つになる可能性があることも考えられないことではありません。

 この素晴らしい偉業は少なからずとも防衛装備のほぼ全てを国産化することを意図しているトルコ政府のおかげで達成された産物です。そして、このことは、遠くないうちにトルコの造船所が輸出用の艦船を売り出す際に、艦載兵装を外国製に依存する必要がなくなることも意味します。

 20年ほど前のトルコは依然として自国の海軍のニーズを外国が設計した艦船に大きく依存しており、艦船を輸出すること自体が非現実的な夢物語だったことを考えると、今ではその状況が劇的に変化したことが一目瞭然でしょう。
 
 以前にパキスタン、カタール、UAE、インド、トルクメニスタン、ジョージア、ナイジェリア、エジプト、ウクライナに艦艇を輸出した後、今やトルコは東南アジアの新市場への進出に向けて動き出そうとしているようです。

 トルコの軍事関連メディア「サヴンマTR」のインタビューの中で、駐トルコのインドネシア大使であるラルー・ムハンマド・イクバル氏はトルコから軍用艦を調達することに関する交渉が始まったことを明らかにし、「トルコとの海軍システムに関する協力が相当な規模で増えるでしょう」と述べ、さらに「私たちは防衛産業との関係を向上させるためにより多くのことを行う必要があります...(中略)そのため、インドネシアがトルコから軍用艦を調達する可能性について、いくつかの交渉が始まったのです」とも述べました。[3]

ラルー・ムハンマド・イクバル大使(左)とイスマイル・デミル防衛産業次官(右)

 インドネシアが最初に興味を示したトルコ艦艇は、「TAIS(タイス)」造船所が設計した「KPC 65(65m級大型哨戒艇)」でした(注:「タイス」側では「LPC 65」が制式な名称とされています)。[4]

 強力なパンチ力を秘めた全長65mという大きさの船が「哨戒艇」と分類されていることについて困惑する方もいるでしょうが、本質的な問題ではないので気にしないでください。

 この「パンチ力」は76mm砲1門、2連装35mm機関砲1門、「STAMP」12.7mm リモート・ウェポン・ステーション(RWS)2基、「ロケットサン」製対潜ロケット弾発射機1門、「アトマジャ」対艦ミサイル(AShM)8発で形成されています。

 当然ながら、艦載兵装は顧客の要望に応じて変更可能であるため、インドネシアでは「アトマジャ」から(同海軍が装備している)「エクゾゼ」に変更されるかもしれません。しかし、「ロケットサン」製の対潜ロケット弾発射機は、変更されずにそのまま搭載される兵装システムの1つとなるでしょう。

 インドネシア海軍は、1992年にドイツから購入した16隻の「カピタン・パチムラ(パルヒム)」級コルベットのうち14隻を対潜艦(ASW艦)として運用し続けています。ドイツ海軍は1991年の東西ドイツ統一時に東ドイツの人民海軍から「パルヒム」級を引き継いだものの、冷戦終結後はこれらの艦艇を運用する必要性がほとんどありませんでした。

 このような理由から一気に売却された「パルヒム」級コルベットは当時のインドネシア海軍が持つ哨戒・対潜能力を著しく強化しましたが、今やソナーや兵システムが旧式化したため、更新が必要な状態となっています...それが「KPC 65」を欲した一因なのでしょう。

 インドネシアは、海軍用にまずは2隻の「KPC 65」を購入することに関心を示していると考えられています。[4]

 ラルー・ムハンマド・イクバル大使は、「私たちは防衛産業においてさらに前進し、特に海軍システムに関する協力が著しく増えるでしょう。[中略] そして、両国間での開発や共同設計も行われることになるでしょう。」とも述べました。[3]

 これは、「KPC 65」がインドネシアの要求に基づいて設計が変更されたり、同国の造船所で建造されることを意味するのかどうかはまだ不明ですが、後者は確かに妥当なものと思われます。

 

「KPC 65」の後部には多くの兵装が搭載されていることを示しています。この画像では、左から順に2門の12.7mm RWS、対艦ミサイル、対潜ロケット弾発射機、そして2連装の35mm機関砲塔が見えます。このモデルには対艦ミサイルは2発しか搭載されていません。

 現在のインドネシア海軍(TNI-AL) は、20隻程度の高速攻撃艇(FAC)から成る相当な規模の艦隊を運用しています。これらのFACの大部分はその基準からしても軽武装であり、最も多いFACである「クルリット」級は対艦ミサイルを僅か2発しか搭載していません。

 インドネシアが保有するFACで最も高性能なのは「サンパリ(KCR 60M)」級であり、同クラスは中国の「C-705」対艦ミサイルを4発、主砲として40mmまたは57mm機関砲を1門、中国製「NG-18」30mm近接防御システム(CIWS)を1門、そして対空・水上目標に用いる近接防御用20mm機関砲 1 門を装備しています。

 インドネシアは現時点で数回のバッチに分けて合計18隻の「KCR 60M」を導入することを計画しており、これまでに5隻が進水しています。[5]

 新しいバッチは、初期バッチよりもある程度の能力向上が図られる予定です。

 当初は各艇に主砲として「BAEボフォース」製「Mk.3」57mm機関砲が搭載される計画でしたが、予算上の制約で最初の2隻は代わりに同社製の40mm機関砲が搭載されました。これらは最近になってロシア製の「AU-220M」57mm RWSに交換されましたが、将来的に登場するバッチの分には当初から想定されていた「Mk.3」57mm機関砲が装備される予定となっています。[6]

「KRI トゥンバク」は主砲の位置に依然としてボフォース製40mm機関砲を装備しています
5隻目の「KCM 60M」である「KRI カパク(艦番号625)」はボフォース製「Mk.3」57mm機関砲を搭載しています。さらに、その後ろにはロシア製「AU-220M」57mm RWSを装備したばかりの「KRI サンパリ」と「KRI トゥンバク」も停泊しています。

 「タイス」造船所では、「KPC 65」に加えてトルコ初の国産ヘリコプター搭載型強襲揚陸艦(LHD)や複数のFAC、OPV、コルベット、フリゲート、揚陸艦や補給艦を含む広範囲にわたる種類の艦艇を売り出しています。

 「タイス」共同企業体には、(現在「TCG アナドル」 LHDを艤装中の)の「アナドル」造船所、「イスタンブール」造船所、「セデフ」造船所、「セフィネ」造船所、「セラ」造船所が参加しています。

 「タイス」造船所はトルコ海軍向けに数隻の大型揚陸艦や「バイラクタル」級戦車揚陸艦を建造した後に、インド向けに補給艦5隻、カタール向けに練習艦2隻と揚陸艦3隻を建造して輸出に成功しました。

 同造船所が売り出している艦艇のラインナップはここで見ることができます

「タイス」で最も先進的な見た目の「67m級高速ミサイル艇(GFMPB)」

「140m級多目的船フリゲート」は「タイス」が売り込んでいるものでは最大の水上戦闘艦です

 「タイス」造船所が「KPC 65」哨戒艇でインドネシアの市場に参入することができるとすれば、これがトルコとインドネシアの防衛協力の深化につながる可能性は十分にあり得ます。

 現在、両国は「現代型中戦車(MMWT)」プロジェクトで協力関係にあり、インドネシアはトルコ製UCAVの導入にも関心を示しています。[3]

 2021年、インドネシアは国軍を近代化するために1250億ドル(約14兆3,300億円)を投資する計画の概説をしました。同計画では、国内の防衛産業から装備類を調達することと、海外からの技術移転を確かなものとすることを優先としています。[7]

 「KPC 65」はこの計画に十分に適合しており、(「MMWT」プロジェクトで見られたように)おそらく最初のバッチはトルコで、残りはインドネシアで建造されるでしょう。

 将来的な両国の協力関係は、防衛産業の域を超越する可能性を秘めています。現在の状況はトルコのハイテク産業に、インドネシアが現在推し進めているいくつかのインフラ関連のプロジェクトに関与することを可能にする余地を残しているのです。

「FNSS」社と「PTピンダッド」社で協同開発された現代型中戦車(「カプランMT/ハリマウ)

[1] Turkish FAC-FIC Designs https://defencehub.live/threads/turkish-fac-fic-designs.558/
[2] Small But Deadly - Turkish Fast Attack Craft In Service With Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/small-but-deadly-turkish-fast-attack.html
[3] Endonezya Ankara Büyükelçisi Dr. Lalu Muhammad Iqbal: Türkiye ile Endonezya arasındaki savunma iş birliği artacak https://www.savunmatr.com/ozel-haber/endonezya-ankara-buyukelcisi-dr-lalu-muhammad-iqbal-turkiye-ile-h15336.html
[4] https://twitter.com/kimlikci_954/status/1459622498614616074
[5] Indonesia Launched Its 5th KCR-60M Fast Attack Craft https://www.navalnews.com/naval-news/2021/12/indonesia-launched-its-5th-kcr-60m-fast-attack-craft/
[6] https://twitter.com/Jatosint/status/1467457606637834245
[7] Indonesia reveals USD125 billion military modernisation plan https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesia-reveals-usd125-billion-military-modernisation-plan

  ものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所がありま
    す。



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2023年3月1日水曜日

新たな輸出の成功:ナイジェリアがトルコの「OPV 76」哨戒艇を発注した


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 トルコ製兵器で国際市場で成功を収めているのは無人機だけではありません。トルコの武器産業は他の分野でも世界全体で高い評価を得ています。

 これらにはブルキナファソとトーゴによって最近調達された「MEMATT」地雷除去車のケースのように、あまり魅力的ではない(それでも非常に重要な)役割のおかげで国際的なアナリストによって全く注目を受けていないシステムも含まれています。[1] [2]

 最近、ナイジェリアがトルコの「ディアサン」造船所から2隻の76m級洋上哨戒艇(OPV):「OPV 76」を発注した事例のように、ほかのトルコ製兵器がより多くの注目を集めつつあります。現代の広い市場における厳しい競争を考慮すると、2隻のOPVの購入は「ディアサン」造船所にとって注目に値する成功と言えるでしょう。

 近年のナイジェリア海軍は、中国やアメリカ、イスラエル、そしてシンガポールといった国々から調達したOPV群から成る相当な規模の艦隊を運用していることで知られています。

 2021年から2030年までの艦隊再編プランの一環として最新型OPVを必要とするにあたり、ナイジェリアは最終的に「ディアサン」の「OPV 76」案を選定する前に、中国、オランダ、イスラエルの造船所が売り込んでいる艦船を検討していたようです。

 2隻のOPVはどちらも(「ギュルハン」造船所との合弁事業として)イスタンブールの「ディアサン」造船所で建造され、37か月以内にナイジェリア海軍に引き渡されるスケジュールとなっています。[3]

 このOPVは主にトルコで設計・開発されたセンサー類や兵装が搭載される予定です。

 さらに、「ディアサン」のCEOは、この取引にはナイジェリアへの技術と専門的知識(ノウハウ)の移転も含まれていることを明らかにしました。[3]

 すでにナイジェリア海軍は小型哨戒艇の設計・建造に熟練していることから、「ディアサン」からの技術移転によって将来的にはより大きな艦艇の建造計画に取りかかる可能性が考えられます。 [4]

 今や「ディアサン」造船所は、トルクメニスタン海軍と国境警備隊の主要なサプライヤーとなっています。同造船所は、今までトルクメニスタンに「デニズ・ハン」級コルベット1隻、「NTPB」哨戒艇10隻、「FAC 33」高速ミサイル艇6隻、「FIB 15」高速介入艇10隻、27m級揚陸艇1隻、「HSV41」測量船1隻、人員輸送用の双胴船1隻、2隻のタグボートを納入してきました。[5]

 海軍の増強はトルクメニスタンをカスピ海で相当に強力な海軍力を持つ国へと一変させましたが、特に重要なのは、この偉業が「ディアサン」造船所の尽力を通じて実現されたということでしょう。[5]

握手を交わすナイジェリア海軍のアワル・ガンボ提督とディアサン造船所のムラット・ゴルディCEO。「OPV 76」の模型に「SH-60 "シーホーク"」が搭載されている点に注目。実際には、このOPVのヘリ甲板はナイジェリア海軍によって数機が運用されている「AH109W」によって仕様される可能性が高いでしょう。

 「OPV 76」は、最低限の軍事力を行使する範囲内でさまざまな任務を遂行するために設計されました。この哨戒艇の全長は78.6mで、4基の「MAN」社製「18VP185」ディーゼルエンジンを搭載しているため、最大28ノット(約51.8km/h)の速さで航行することが可能です。 やや低速で航行した場合の航続距離は3000海里(5500km以上)となります。[6]

 顧客が選択した艦載兵装に左右されますが、この船は概ね40名の乗組員で運用されます。

 艦尾には「NHインダストリーズ」「NH90」ヘリコプターを搭載できるヘリ甲板が備えられていますが、格納庫は設けられていません。

 「ディアサン」によって販売されている標準仕様の「OPV 76」は、艦首に「レオナルド」社製76mmスーパーラピッド砲、上部構造物の後方に同社製「マーリン40」40mm機関砲 、2門の12.7mm重機関銃(HMG)装備型リモートウェポンステーション(RWS)、2門の12.7mmHMG、そして2門の「MBDA」製携帯式対空ミサイル(MANPADS)用2連装発射機、それと共に任務に必要とされるレーダーやセンサー類を備えていますが、ナイジェリアは発註した2隻に別の兵装を選択しました。

 実際、ナイジェリアの「OPV 76」でトルコから調達していない艦載兵装は艦首にある76mm砲であり、同位置には代わりとして「マーリン40」40mm機関砲が搭載されています。後部上部構造の「マーリン40」があるべき位置には「アセルサン」製の「STOP」25mm RWSが装備され、MANPADS発射機も3門の同社製「STAMP」12.7mm RWSに置き換えられています。

 そして、前述の装備に加えて数門の手動式機関銃がナイジェリア向け「OPV 76」の兵装を構成しています。

 これらの装備の変更については、トルコは自国で必要とする防衛装備の国産化をますます進めてイタリアの76mm砲の国産コピーも製造するようになったため、トルコの造船所は輸出用の艦艇を売り込む際に、もはやその艦載兵装を外国製に依存する必要がなくなったことを意味します。[7]

 このOPVに装備されているほかの「アセルサン」製品には、「MAR-D 3D」3次元捜索レーダー、「アルペル LPI(低被探知性)」航海レーダー、「デニズ・ギョジュ-アフタポット」EO/IRセンサー・システムが含まれていることにも注目すべきでしょう。[8]

標準の兵装一式が装備された「OPV 76」のイメージ図

 「OPV 76」が就役した場合、これらは「P18N(注:056型コルベットの輸出型)」級OPV2隻、「ハミルトン」級OPV2隻、そしてOPVに転用された多数の小型高速攻撃艇を補完するでしょう。

 「OPV 76」と違って「P18N」級と「ハミルトン」級カッターにはヘリコプター用の格納庫がありますが、ナイジェリア海軍は作戦でOPVを展開させる際にヘリコプターを艦載用に割り当てることをめったにしません。

 領海内での作戦のために、ナイジェリア海軍は数隻の「シャルダグMk2」「シーイーグル」高速哨戒艇を運用しています。

 ナイジェリアは一般的に想定し得る海上の脅威(敵艦艇)に関しては全く直面していないため、対艦ミサイルを搭載していたあらゆる艦艇から撤去してしまいました。

NMS「ユニティ(F92)」はナイジェリアが2隻保有する中国製「P18N」級OPVの1隻。 ヘリ甲板への着艦を試みている「A109」ヘリコプターに注目。

 トルコがアフリカにおける拠点を拡大するにつれて、武器取引も比例して増加しつつあります。この国は幅広い種類の現代的で信頼性の高い兵器を手頃な価格で提供できるという独特の立場を徐々に構築してきており、ナイジェリアは今やその恩恵を享受しています。

 トルコにとって、ナイジェリアはすでにサハラ以南におけるアフリカ諸国で最大の貿易相手国であり、トルコは貿易と防衛産業面での協力をさらに促進することを目指しています。[9]

 2021年10月におけるエルドアン大統領のナイジェリア訪問では、両国間でエネルギー、鉱業、そして防衛の分野でいくつかの協定が結ばれました。これには、ナイジェリアが以前から大きな関心を示していた「バイラクタルTB2」UCAVの売却も含まれていたかもしれません。[10][11]

 「OPV 76」に関する取引は、単にトルコ側がナイジェリアへのOPVの売却の手配をしただけではありません。繰り返しますが、これはトルコの造船所が輸出用の艦艇を売り込む際に、もはや外国製の艦載兵装に依存する必要がなくなったことも証明しているのです。

 トルコの防衛産業が、レーダーや垂直発射システム(VLS)といった装備や大砲、対艦ミサイル、対空ミサイルを含むあらゆる種類の兵器類を生産できるようになる日が来るのはそう遠くはないでしょう。

 このペースでいけば、トルコの防衛産業は10~15年以内には必要とする兵器や装備品のほぼ全てを自給自足できるようになるかもしれません。トルコの自給自足へ向けた道のりは、現時点の世界で存在している同じ動きの中では間違いなく最速であり、韓国のペースよりも上回っています。

 現在トルコに兵器類を供給している国々が10年後には代わりにトルコから兵器を導入するかもしれません。それが実現した暁には、数十年に及ぶ防衛産業への投資の成果を世に示すことになるでしょう。


[1] Turkey to Export Unmanned Mine Clearing Equipment to Burkina Faso https://www.thedefensepost.com/2021/07/30/turkey-minesweepers-burkina-faso/
[2] Togo gets Turkish remote-controlled mine clearance vehicles https://defensehere.com/en/HaberDetay/togo-gets-turkish-remote-controlled-mine-clearance-vehicles/1
[3] Turkey’s Dearsan Shipyard to Build 2 OPVs for the Nigerian Navy https://www.navalnews.com/naval-news/2021/11/turkeys-dearsan-shipyard-to-build-2-opvs-for-the-nigerian-navy/
[4] Hull of Nigeria’s Seaward Defence Boat 3 (SDB III) comes together https://www.africanmilitaryblog.com/2020/05/hull-of-nigerias-seaward-defence-boat-3-sdb-iii-comes-together
[5] Small But Deadly - Turkish Fast Attack Craft In Service With Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/small-but-deadly-turkish-fast-attack.html
[6] Offshore Patrol Vessel OPV 76 http://www.dearsan.com/en/products/naval-vessels/offshore-patrol-vessel-opv76
[7] MKEK’nin 2023 Vizyonunda Hedef 76mm’den Sonra 127mm Deniz Topu’nu da Millileştirmek! https://www.defenceturkey.com/tr/icerik/mkek-nin-2023-vizyonunda-hedef-76mm-den-sonra-127mm-deniz-topu-nu-da-millilestirmek-4845
[8] https://twitter.com/BarbarosToprak2/status/1455952042283913220
[9] 'Turkey aims to boost cooperation in defense industry with Nigeria' https://www.aa.com.tr/en/africa/turkey-aims-to-boost-cooperation-in-defense-industry-with-nigeria/2396812
[10] Turkey, Nigeria determined to deepen cooperation: Erdoğan https://www.dailysabah.com/politics/diplomacy/turkey-nigeria-determined-to-deepen-cooperation-erdogan
[11] French media eyes Turkish drones during Erdoğan’s Africa trip https://www.dailysabah.com/business/defense/french-media-eyes-turkish-drones-during-erdogans-africa-trip

  です。意訳などにより、僅かに意味や言い回しを変更した箇所があります。



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