2022年9月5日月曜日

立ち上がるバイキング:ウクライナに供与されたノルウェーの武器一覧と取り組み


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 欧州諸国の大部分がロシア軍との戦いにおいてウクライナを支援するために一丸となっている中で、ウクライナの継戦能力を維持するための英国とドイツによる努力に多くの注目が注がれています。

 しかし、ノルウェーやスウェーデン、そしてフィンランドといった国々がウクライナに軍事支援を行ったことについては全く報じられていません。これは一部の国の政府がウクライナへの武器供与の詳細を開示しないという決定をした結果でもありますが、 ニュースサイクルでこれらの国々による貢献が取り上げられていないことの方がより普遍的な要因であることは否定できないでしょう。
 
 ノルウェーはロシアによるウクライナ侵攻の僅か数日後に軍事支援の第1陣を供与することを約束したという、60年にわたる紛争地帯への武器輸出の禁止を覆した国です。[1] 

 3月上旬にウクライナに到着したこの軍事支援の物資は、2000発の「M72」 使い捨て式対戦車ロケット砲と5000個のヘルメット、そして1500個の防弾チョッキで占められていました。[2] 

 その翌月には、さらに2000発の「M72」と100発の「ミストラル2」携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)がウクライナに届けられ、三脚に備え付けられた同MANPADSの少なくとも一部は、後にピックアップトラックに搭載されて機動性を得ることができました。[3] [4]

 ノルウェーによるこれまでのウクライナへの支援で最も重要なものは、2022年5月に供与された22台の「M109A3GN」155mm自走榴弾砲(SPG)で、1960年代後半に初めてノルウェー陸軍で運用された「M109A3」を1990年代に改良を加えたものです。

 「M109A3GN」はドイツやオランダが供与した「PzH2000」SPGに比べると旧式で性能も劣るものの、砲弾を最大射程25km先(ロケットアシスト弾を使用した場合は30km)まで撃ち込むことが可能な依然として強力なシステムであり続けています。

 22台もの「M109A3GN」は供与されたウクライナの砲兵装備でも著しい数を占めており、彼らの旧式という弱点はその数で十分にカバーされているのです。 

ノルウェーから供与された「M109A3GN」自走榴弾砲(ウクライナにて撮影)

 ノルウェーはフランスのように未改修の多連装ロケット砲(MRL)を埃まみれにしておくのではなく、イギリスと提携して同国陸軍に「M270」を3台供給し、これを受けたイギリスはより新しい「M270B1」3台をウクライナに譲渡できるようにもしたのです。

 この巧妙な迂回しての供与に続いて、2022年7月下旬にウクライナへ14台のイヴェコ製「LAV III」歩兵機動車(IMV)を寄贈することが発表されました。

 また、ノルウェーは、米国によって調達された2個中隊分の「NASAMS」地対空ミサイル(SAM)システムをウクライナに納入する予定にもなっています。このSAMに搭載される「AIM-120C」ミサイルの射程は25km以上もあるため、高空を飛ぶ目標との交戦も可能にさせます。
 
 国家だけでなく、ノルウェー市民による民間の取り組みもウクライナへの支援に大きく貢献しています。

 (ウクライナ軍に軍事装備や訓練を提供する退役軍人の組織である)「ベテラン・エイド・ウクライナ」はウクライナ支援のための資金を募っており、その活動を通じて、すでに3機のテレダイン・フリアー製「スカイレンジャーR60」VTOL型UAVがウクライナに送られています。[5] 

 彼らは3月にウクライナへ入り、毛布や缶詰などの人道支援物資に加えてリヴィウの病院へ発電機を届けました。2022年7月、「ベテラン・エイド・ウクライナ」は再びウクライナへ戻ってきました。今回、彼らはサーマル照準器とDJI製「マヴィック2 あるいは 3」ドローン10機を提供しました。[5] [6]


 余剰の重火器に関するノルウェー軍のストックはほぼ底をついたようですが、ウクライナが他国の防衛企業から兵器を調達するための資金をノルウェーが提供するなどを通じて、ウクライナ軍への支援を継続する可能性があります。

 「M109A3GN(M)」SPGやイヴェコ「LAV III」 IMV、あるいは「M113」装甲兵員輸送車(APC)が追加的に譲渡されることもあり得ますが、これは当該車両の状態やノルウェー軍のこれらを迅速に置き換える装備の調達能力に左右されると思われます。

保管状態にあるノルウェー軍のイヴェコ製「LAV」歩兵機動車

  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際にノルウェーがウクライナに供与した、あるいは提供を約束した軍事装備等の追跡調査を試みたものです。
  2. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されています)。
  3. 一部の武器供与は機密事項であるため、この一覧は供与された武器の総量の最低限の指標としてのみ活用できます。
  4. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  5. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。

戦闘機

地対空ミサイルシステム

多連装ロケット砲 (MRL)
  • 11 「M270 "MLRS"」 (イギリス陸軍がより新型の「M270B1」11台をウクライナへ供与可能とするため、その穴埋めとしてイギリスに引き渡し)

自走砲 (SPG)

戦車

歩兵機動車 (IMV)

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両


携帯式地対空ミサイルシステム (MANPADS)

沿岸防衛システム

レーダー

無人航空機 (UAV)

工兵・支援車両

対戦車兵器

弾薬

衣服・個人携行品
  • 5,000 「HJELM」型ヘルメット [2022年2月]
  • 1,500 ボディアーマー [同上]
  • 1,000 防毒面 [同上]
  • 55,000 防寒着 [2022年11月]
  • 暗視装置 [2022年7月か8月]

その他の物資や装備品
  • 55,000 包帯 [2022年11月]
  •  暗視双眼鏡 [2022年7月か8月]
  • 45,000 レーション (MRE) [2022年2月と11月]
  • 2,000 寝袋 [2022年2月]
  • 10,000 スリーピングパッド [同上]
  • 20,000 「M109A3GN」用予備部品 [同上]
  • 1 野戦病院 [2023年7月] (エストニアとオランダと共同で購入)
  • 4 火器管制ステーション(「NASAMS」用) [同上]
  •  予備部品(「NASAMS」用) [同上]

ノルウェーから譲渡された「M109A3GN」SPGの前で(アメリカから供与された)「M549A1」155mm  HEロケットアシスト弾を構えるウクライナ兵

※  当記事は、2022年8月15日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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2022年9月2日金曜日

影に覆われた全貌:モロッコのUAV飛行隊(一覧)


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 モロッコによる無人航空機(UAV)の運用については、1980年代後半に初めて導入してからずっと秘密に包まれています。この国におけるほぼ全ての防衛関連の調達は秘匿されていますが、この国は特に調達したUAVの種類や配備先について可能な限り明らかにしないように十分に注意しているのです。
 
 しかし、ほとんどの人がカメラ付き携帯電話を所有し、衛星画像を手軽に入手できるようになった現在では、モロッコのドローン運用に関する情報は徐々に明らかになりつつあります。
 
 この王国が初めてUAVを運用したのは1980年代後半のことで、アメリカからいくつかのBAEシステムズ製「R4E "スカイアイ"」の導入から始まったと伝えられています。[1]

 しかし、その後のモロッコでの運用に関しては全く情報が伝わっていません。そのことから、同機の(低い)信頼性や初期世代のドローンの運用で発生した技術的問題のせいで早期退役に直面した可能性があります(同様の問題は、トルコによる米ゼネラルアトミクス社の「ナット」UAVの運用でも発生しました)。 [2]

 この次にモロッコのドローン購入に関する新たな報道がなされるようになったのは2013年になってからのことであり、最終的にはその翌年にイスラエルから3機のIAI「ヘロン」を導入することに至りました。[3] 
 
 モロッコは2020年までイスラエルを国家として承認していませんでしたが、両国は長い間にわたって安全保障問題に関して非公式な協力関係にありました。
 
 その数年後、モロッコがフランスから退役したばかりのEADS社製「アーファング」(「ヘロン」をフランス向けに特別開発したもの)3機の調達に関心を示していることが判明しました。長い交渉期間の後、2020年にモロッコはひそかにこれらのUAVを受け取ったようです。[4]
 

 その少し前から、モロッコはすでにアメリカから非武装の「MQ-1A "プレデター"」無人偵察機4機を入手したと云われていますが、同国での運用が目撃されたことは今までに一度もありません。[5] 
 
 その後の2020年6月になると、モロッコは新たに導入した「AH-64E"アパッチ・ガーディアン" 」攻撃ヘリコプターが、近くを飛ぶUAVが捉えた映像を受信してそれらと連携した作戦を遂行可能にするMUTK(manned-unmanned teaming kits)と共に、4機の「MQ-9B "シーガーディアン"」の導入プロセスも進めていると報じられました。[6] [7] 
 
 この記事を執筆している2021年10月の時点で、「MQ-9B」の導入が実現したのかについては不明です。

 モロッコが最初に無人戦闘航空機(UCAV)を導入したことが確認されたのは、中国製「翼竜Ⅰ」3~4機が引き渡された2020年のことです。 興味深いことに、これらの「翼竜Ⅰ」は中国から直接調達されたものではなく、どうやらUAEから贈り物として得たと思われます。[8] 

 モロッコが新たに入手したUCAVの力を活用するのにそれほど時間はかからず、早くも2021年4月に係争中の西サハラで「ポリサリオ戦線(サハラ・アラブ民主共和国)」のアッダーフ・エル=ベンディール憲兵隊長を暗殺するために「翼竜Ⅰ」を使用したようです。[9]

 UAEによる「翼竜Ⅰ」の供与は、最終的にはモロッコを中国から同型機の追加購入に至らせるだろうと予想されていました。

 しかし、モロッコ空軍は中国から「翼竜Ⅰ」の追加購入ではなく、トルコから13機の「バイラクタルTB2」を推定7,000万ドル(約80.1億円)で調達し、2021年9月に最初の機体の引き渡しを受けることに決めたのです。[10] 
 
 TB2の導入に続いて、モロッコはイスラエルとの間で「ヘルメス900」無人偵察機の導入と驚くべきことに未知のタイプの徘徊兵器を国内で生産するという契約を締結しました。[11] [12] [13] 
 
 これらの同種兵器は2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャン側で使用されて大きな成功を収めています。これを踏まえると、モロッコは将来的に発生が予想される西サハラのポリサリオ戦線やアルジェリアとの紛争でこの成功の再現を目指しているのかもしれません。


無人偵察機(UAV)

  • IAI「ヘロン」 [2014] (3機が導入されたと思われ、 ベン・ゲリル空軍基地を拠点にしているが西サハラのダフラに前進配置されている)
  • EADS「アーファング」 [2020] (フランス向けのIAI「ヘロン」であり、2020年に3機の中古機をフランスから導入するも、現時点で目撃情報なし)
  •  エルビット「ヘルメス900」 [2021] (2021年に4機を導入するも、現時点で目撃情報なし)
  •  ブルーバード・エアロシステムズ「ワンダーB」 (2021年に導入したと報じられるも、 するも、現時点で目撃情報なし。 2019年にモロッコでトライアルを受けたとのこと)
  •  ブルーバード・エアロシステムズ「サンダーB」 (2021年に導入したと報じられるも、 するも、現時点で目撃情報なし)


無人戦闘航空機(UCAV)


徘徊兵器


記録化されているものの実際に運用が未確認のアメリカ製UAV

  • MQ-1A「プレデター」(複数の情報源で言及されるも、現時点で目撃情報なし)
  • MQ-9B「シーガーディアン」(同上)
 
[2] HALUK BAYRAKTAR İNGİLİZ DÜŞÜNCE KURULUŞU RUSI'NIN PANELİNDE KONUŞTU https://youtu.be/jKj-FOMQlNw?t=1205
[8] Marruecos también se ha dotado con UAVs armados chinos Wing Loong 1, captadas las primeras imágenes https://www.defensa.com/africa-asia-pacifico/marruecos-tambien-ha-dotado-uavs-armados-chinos-wing-loong-1
[9] First-time use of drone by Moroccan army highlights Polisario’s vulnerability https://thearabweekly.com/first-time-use-drone-moroccan-army-highlights-polisarios-vulnerability
[12] The “suicide” cement deal of Israel and Morocco https://middleeast.in-24.com/News/280923.html (注:現在はリンク切れ)
[13] Morocco Partners With Israel to Develop Local Loitering Munitions Industry https://www.moroccoworldnews.com/2021/09/344481/morocco-partners-with-israel-to-develop-local-loitering-munitions-industry 

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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2022年8月26日金曜日

似た境遇の友人へ:戦争で疲弊したウクライナに対する台湾からの支援(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 ウクライナに対する支援は世界中の至る所から届けられています。しかし、軍事援助やウクライナからの難民に国境を開放することで支援可能な国々がある一方で、政治的な理由やウクライナとの(あらゆる意味での)距離の問題のためにそうした行動を行えない国々も存在していることが見落とされがちです。

 このような国々の1つに、一般的には台湾と呼ばれる中華民国があります。台湾はウクライナから公式に国として承認されていないにもかかわらず、人道的支援や資金、さらには小型ドローンまでウクライナに届けています。

 こうした支援の大半は市民と企業からのものです...ウクライナの人々への共感のみならず、北京に主権を否定され、長年にわたって外国による侵略の恐怖に直面してきた台湾とウクライナの類似点を彼らが認識していることは明らかでしょう。

 台湾はウクライナを侵略したロシアに制裁を加えている西側諸国にも加わっており、その対応としてモスクワへの半導体の輸出を停止しています。[1][2]

 ロシア企業は電子機器や軍用機器の製造を台湾製の半導体に全面的に依存していることに加え、世界的な半導体不足のおかげで、台湾による輸出禁止以前の時点ですでにロシアはその供給量の確保に苦心してきました(制裁はこの状況をさらに悪化させます)。[2]

 したがって、台湾によるウクライナの窮状への最大の貢献は「ウクライナに何を提供するか」ではなく「ロシアに何を提供しないか」にあるのです。

 台湾からのその他の援助については、これまでにドローン企業「Xダイナミクス-台湾」による合計で35,000ドル(約470万円)相当の(公式には民生用として使用される)VTOL型偵察用無人機10機、(医療)物資、少なくとも3300万ドル(約44.6億円)に上る医療機関やウクライナ難民向けの資金援助が挙げられます(注:「Xダイナミクス」社自体は香港に拠点を置くグローバルに展開しているドローン企業です)。[3]

 また、2月以降には(約十数人と推定される)台湾人義勇兵がウクライナ軍に加わり、貴重な戦闘経験を現地の軍人にもたらしました。[4]

 EUが「一つの中国」政策に傾倒する中でも台湾は欧州諸国との関係をさらに強化しているため、今後の支援は追加の資金援助と(医療)物資で構成されることになるかもしれません(微妙な立場の台湾は積極的に武器支援をすることが難しい環境にあるということ)。

 2022年3月中に行われた台湾政府主導のキャンペーンによって、ウクライナ市民や近隣諸国の難民を支援するための膨大な量の物資のみならず 3300万ドル(約44.6億円)もの人道援助用の資金が集められました。

 台湾の蔡英文総統、頼清徳副総統、そして蘇曾長首相もそれぞれが給与の1か月分を人道支援のために寄付したことは極めて高度なレベルでのウクライナとの連帯の表明以外の何物でもありません。[5]

 現在でもウクライナと台湾はいかなる外交関係も結んでいないため、こうした台湾の市民や政府からのドッと寄せられる支援は非常に特別なものと言えるでしょう。

  • 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際に台湾がウクライナに提供した、あるいは提供を約束した装備などの追跡調査を試みたものです。
  • この一覧はさらなる支援の表明や判明に伴って更新される予定です。


ドローン


小火器の部品

車両


(医療) 物資
  • 27トン分の医療物資 [2022年2月]
  • 650トン分の各種物資 [2022年3月]


資金援助
  •  300万ドル(約4億円)キーウ特別市向け [2022年4月] (市民から寄せられたもの)
  •  500万ドル(約6.75億円) ウクライナにある6つの医療機関向け [同上] (同上)
  •  2500万ドル (約33.7億円)ウクライナの難民向け [同上] (同上)


[1] The Republic of China (Taiwan) government strongly condemns Russia’s invasion of Ukraine in violation of the UN Charter, joins international economic sanctions against Russia https://en.mofa.gov.tw/News_Content.aspx?n=1328&s=97420
[2] Taiwan’s semiconductor ban could spell catastrophe for Russia https://www.investmentmonitor.ai/special-focus/ukraine-crisis/taiwan-semiconductor-ban-russia-catastrophe
[3] Taiwan firm donates NT$1 million in drones to Ukraine military https://www.taiwannews.com.tw/en/news/4479918
[4] Wary of China threat, Taiwanese join Ukraine’s fight against Russia https://www.washingtonpost.com/world/2022/07/03/taiwan-fighters-ukraine-war-russia-china-threat/[5] Taiwan president to donate salary for Ukraine relief efforts https://www.aljazeera.com/economy/2022/3/2/taiwan-president-to-donate-salary-for-ukraine-relief-efforts

※  この記事は2022年8月10日にOryx本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもので
 す。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所がある
 場合があります。


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