2022年4月24日日曜日

大惨事の果てに: ホストメリ(アントノフ)空港制圧作戦におけるロシア軍の失敗


著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 (この記事の執筆時点で)ロシアのウクライナ侵攻から6週間が経過した今、ロシア軍とその作戦計画に影響を及ぼす一連の問題が露呈したと言うことができます。

 ロシアは制裁緩和と引き換えにウクライナの将来的な地位について西側諸国と交渉する際に有利な立場に立つため、まずは開戦から数日以内にキーウを占領することを目指しました。しかし、その期限を1ヶ月も過ぎたところで、 彼らは獲得した領土は僅かで、軍隊はボロボロとなり、イメージも深刻なまでに悪化したことに突如として気づいたようです。経済についても、これまで課された中で最も重い制裁のもとで行き詰まりを見せていることについて知ったことも言うまでもありません。[1]
 
 少なくとも500台の戦車を含む3000以上の軍用車両や重装備を失ったロシアは、すでにほぼ掌握していたウクライナ南東部を除くドンバス地域のドネツク州とルガンスク州だけを、自称「人民共和国軍」部隊の支援を得て征服するという野望を修正せざるを余儀なくされたのです。[2]

 キーウへの攻勢について、ロシアは単にウクライナ軍を首都近郊の攻防戦で疲弊させ、その戦闘能力を低下させながら別の地域に部隊を進撃させるための陽動作戦にすぎず、キーウにおける作戦地域からの撤退は停戦協議を進めるための信頼醸成措置の一環だったと主張しています。しかし、これらは深刻な軍事的な敗北に対する単なる面子上の言い訳であることは、疑い深い人でなくとも指摘できることは一目瞭然でしょう。[3]

 キーウの北西10kmに位置するホストメリ空港(アントノフ国際空港)は、ロシアがキーウを外部と封鎖するプランの中で重要な役割を担っていたようです。

 この空港はアントノフ設計局の貨物輸送部門であるアントノフ航空の本拠地であり、特にロシア軍による襲撃を受けた際には世界最大の航空機である「An-225」が敷地内のハンガーに収容されていたことでその名が広く知れ渡りました。残念なことに、この荘厳な機体は避難が間に合わず、戦闘中に破壊されてしまいました。

 ロシアの計画では、その後のキーウの包囲と征服をするための後続部隊の拠点として活用するため、ホストメリ空港を迅速に占領することを必須としていたようです。その重要な役割にしたがって、ホストメリ空港は2月24日にロシア空挺軍部隊(VDV)によるヘリボーン作戦で大々的に制圧されてしまいました。

 2022年1月の時点で、ウクライナはウィリアム・ジョセフ・バーンズCIA長官からホストメリ空港が(ロシアの侵攻時における)主要な目標であることが伝えられていたものの、それでもロシアのヘリボーン作戦の速度はウクライナ軍に不意打ちを食らわせたようです。[4]
 
 襲撃の際、ベラルーシから投入された「Mi-35」「Ka-52」攻撃ヘリコプターが空港の防御力を弱体化させ、VDVの兵士たちを乗せた「Mi-8」輸送ヘリコプターが安全に着陸できるようにしました。

 この制圧作戦の過程で、1機の「Ka-52」が携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)の命中を受け、空港を囲む境界線の外側に緊急着陸して放棄されました。[5]

 結局のところ、ウクライナの防衛網はほとんどが無傷のままであり、VDVはいかなる有効な航空支援も受けることができなかったため、彼らはすぐにウクライナ軍による反撃に直面することになってしまいました。

もう二度と目にすることができない夢:破壊された「An-225 "ムリヤ"」

 VDV部隊がウクライナ軍と空港の支配権をめぐって争っていた中、ベラルーシから進撃してきたロシア軍の地上部隊はイヴァンキフ付近でウクライナの防衛線を突破することに成功してホストメリに向かって突進したものの、途中で何回かウクライナ軍による待ち伏せ攻撃に遭いました。それでも、ロシア軍は2月25日にホストメリ空港を完全に制圧することができました。 

 その後のロシア陸軍とVDVは、ホストメリ空港を前方基地にしてキーウ攻勢の開始に着手しました。ところが、この時点からロシアによるウクライナへの攻勢が停滞し始め、悪名高い64kmにもなる輸送車列が形成されたり、燃料不足で進撃の中断を余儀なくされた部隊が続出するまでに至りました。
 
 新たに到着したVDVとロシア陸軍の部隊は、ほかの場所での挫折に屈することなく、ホストメリ空港から近隣の町へ抜け出して(大虐殺で世界を震撼させた)ブチャとイルピンへの前進を試みたようです。

 しかし、両者の連携が不十分なまま進撃を開始したためにホストメリとブチャで待ち伏せ攻撃に遭遇し、結果として人員や装備に著しい損害がもたらされてしまいました。

 ロシア軍はウクライナを電光石火の勢いで簡単に制圧できるように準備していたようですが、気が付いてみると、今や自身が予想外の状況に置かれていました。 一見したところ、彼らは敵がどこに存在して、いかに戦うべきか見当もつかない状況にあったのです。

 ホストメリとブチャでの待ち伏せ攻撃は、彼らにかなりの犠牲者を出したばかりか、キーウへ向けてさらに前進する際に自身に何が起こるかを徹底的に認識させるものでした。

 その後の展開は、結果として極めて致命的なものになってしまいました。キーウ周辺の VDV とロシア陸軍は新たな事態に応じてそれに対処する方法を模索するどころか、 大部分が追加の補給物資と64kmにも及ぶ輸送車列が前進して(決して実現することがなかった)キーウ包囲を完成するのを待つだけの停滞した部隊と化してしまったからです。

 統率力の乏しさや欠如、物資の不足、連日の砲撃、相当の犠牲と低い士気に直面したVDVとロシア陸軍は、ウクライナ軍による砲撃や無人機の攻撃から身を守るため、道端に塹壕を掘って身を潜めること余儀なくされました。

 彼らは(たいていは砲撃目標を捜索・観測する)民生ドローンや、夜戦で大きな犠牲をもたらす敵の特殊部隊(SOF)にますます苦しめられ始めましたが、 ロシアは自軍の兵士への(暗視装置を主とする)夜間装備にほとんど投資していなかったため、こうした攻撃に対する備えが十分にできていませんでした。

 この時点で、ロシア軍が市民に銃を向けたり、略奪を始めるための布石が出来上がっていたのです。

ブチャでウクライナ軍に待ち伏せされた攻撃を受けたロシア軍が遺棄した車列の残骸

 状況はVDVと大規模なロシア陸軍の部隊が駐留していたホストメリでも全く同じであり、彼らは絶え間ない砲撃のもとで、決して与えられることのなかったキーウ侵攻の命令を待っていたようです。


 その映像からは、この場所に駐留していたロシア軍が進撃命令も退却命令も出ずに身動きがとれなかったため、実質的にウクライナ軍の「格好の餌食」となっていたことが容易に推測できます。そのような状況を終わらせる命令は3月29日になってようやく出され、ホストメリにいたロシア軍はキーウ州からの撤退を開始したのでした。[3] 

 ウクライナ軍の砲弾が空港を襲う中で、持ち出すことができない損傷した兵器類は爆破処分されました。ホストメリ空港の場合、爆破処分された兵器の中にはVDVが保有する最新鋭の装甲戦闘車両である「BMD-4M」16台と「1L262E "Rtut-BM"」電子戦システム1基が含まれていました。

 それらの位置から、彼らが撤退の準備段階で撃破されたか、ロシア軍自身によって爆破処分されたかのどちらかであることがわかります。

 ウクライナ軍がホストメリ空港を奪回した後、そこで彼らは未開封のレーションパスポートキャッシュカード、さらには奪還できなかったウクライナの装甲車など、ロシア軍が慌てて撤退した証拠をあちこちで目にしました。[7] 


ホストメリ空港での大惨事の跡
  1. ホストメリ空港で撃破されたり、鹵獲されたロシア軍の兵器類の詳細な一覧を以下で見ることができます。
  2. この一覧には、ホストメリ空港の敷地内とその直近で撃破や放棄された車両や重装備のみを掲載しています。
  3. 実際にホストメリ空港周辺で撃破や鹵獲された兵器類の総数は、ここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。
  4. この一覧の「撃破」はロシア軍自身の手による爆破処分されたものも含めています。
  5. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、破壊や鹵獲された当該兵器類の画像を見ることができます。

装甲戦闘車両 (7, このうち撃破: 5, 奪回: 2)


歩兵戦闘車 (23, このうち撃破: 20, 損傷: 1, 奪回: 2)


装甲兵員輸送車(3, このうち撃破: 3)


牽引砲 (2, このうち鹵獲: 2)


対空砲 (1, このうち鹵獲: 1)


電子妨害・攪乱システム (1, このうち撃破: 1)


ヘリコプター (3, このうち墜落: 2, 損傷: 1)


トラックやジープ,各種車両 (67, このうち撃破: 64, 鹵獲: 2, 奪回: 1)
 
 
 ずたぼろで血まみれのホストメリ空港は、今やロシアの侵略軍に対抗するウクライナの闘争のモニュメントとして建っています。

 ゴリアテに対抗するダビデのように、ウクライナはロシアによるキーウ攻撃を阻止することに成功したものの、その過程で、悲しいことにウクライナが誇る「優しい巨人」が失われてしまいました。それでも、「敵や抑圧者から解放される」というウクライナの国や人々の夢のように、「An-225 "ムリーヤ "」は未完成の2号機が生き続けています。[8] 

 おそらくこの機体の組み立ては、この自由なウクライナの再建と同じように、いつか遠くないうちに達成されることでしょう。

トルコが完成に関心を寄せている(未完成)の「An-225」2号機 [8]

[1] Putin thought Russia's military could capture Kyiv in 2 days, but it still hasn't in 20 https://www.businessinsider.com/vladimir-putin-russian-forces-could-take-kyiv-ukraine-two-days
[2] Attack On Europe: Documenting Equipment Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/attack-on-europe-documenting-equipment.html
[3] Russia in retreat: Putin appears to admit defeat in the Battle for Kyiv https://www.atlanticcouncil.org/blogs/ukrainealert/russia-in-retreat-putin-appears-to-admit-defeat-in-the-battle-for-kyiv/
[4] Vladimir Putin’s 20-Year March to War in Ukraine—and How the West Mishandled It https://www.wsj.com/articles/vladimir-putins-20-year-march-to-war-in-ukraineand-how-the-west-mishandled-it-11648826461
[5] https://twitter.com/RALee85/status/1504790211011571714
[6] https://twitter.com/RALee85/status/1499643176998641664
[7] https://twitter.com/Militarylandnet/status/1510936820736999424
[8] Sky Giant: Turkey Mulls To Complete The Second Antonov An-225 Mriya https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/sky-giant-turkey-mulls-to-complete.html

  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
  あります。


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2022年4月21日木曜日

「ネプチューン」怒りの一撃:旗艦「モスクワ」の最期


著:ヨースト・オリーマンズ と ステイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo

 ロシアによるウクライナ侵攻が軍事的にも経済的にも純然たる大失敗であったことは、現時点で全く否定することはできません。

 首都キーウとウクライナ東部を包囲・掌握し、西側諸国をウクライナの将来的な地位に関する交渉のテーブルにつかせることを目的とした迅速な作戦は、今やロシアが自らの国力を維持できる状態ではない、東部における血みどろの消耗戦と化したことは一目瞭然です。

 ロシアによる攻撃は、自国軍の指揮・戦術・装備に関する多くの問題を露わにするという、この先何年にもわたって分析されるであろう大惨事を招いてしまいました。
 
 犠牲が大きく非常に見苦しい最近の事件で、ロシア海軍の黒海艦隊はその旗艦である「スラヴァ」級誘導ロケット巡洋艦「モスクワ」を依然として詳細不明の要因によって失い、世界を震撼させました。

 現在最も有力視されているシナリオは、(ウクライナ国防省が発表したとおり)この巡洋艦に海岸から発射された「RK-360MT "ネプチューン"」対艦ミサイル(AShM)2発が命中して搭載されている弾薬類の誘爆を阻止できなかったことから、次第に艦の破壊が進んで最終的に沈没したというものです(注:「モスクワ」が対艦ミサイル2発の直撃を受けたことはアメリカ国防総省の高官が認めたと報じられています)。

 上記とは別の要因として、詳細不明の原因によって弾薬の爆発が引き起こされたという説がロシア当局によって主張されています。[1]

 「モスクワ」の乗組員のほとんどは艦が被弾後しばらくして安全に避難したようであり、ロシア国営メディアは「モスクワ」は修理のためにセヴァストポリ港に戻りつつあると報じていますが、これは単に事態が進行中であることを隠蔽しているにすぎません(注:後にロシア国防省は「モスクワ」沈没を認めました。乗組員もかなりの数の犠牲になったと推測されています)。

 ウクライナにとっては「モスクワ」の沈没は驚異的な偉業であり、士気を大きく向上させるものです。「モスクワ」は反ロシアのスローガン「Русский военный корабль, иди нахуй (ロシア軍艦、くたばれ)!を生み出すきっかけとなった、(以前にウクライナが撃沈したという誤情報を出した)プロジェクト22160級コルベット「ワシーリー・ブイコフ」と共にスネーク島(ズミイヌイ島)の掌握に重要な役割を果たしたことが知られています。

 それにもかかわらず、一般的に考えられているのとは逆に、「モスクワ」の喪失がウクライナ戦争に及ぼす実際の軍事的な影響はほとんどありません。

 この巡洋艦が装備している射程550kmを誇る「P-500」対艦ミサイル16発と射程90kmの「S-300F(S-300Pの海軍版)」地対空ミサイル64発は確かにスペック上では非常に強力に見えますが、主敵のはずのウクライナ海軍は港に引きこもったままであり、空軍はこの地域で「S-300F」を有効活用できるような高度で運用されていないからです。

在りし日のロケット巡洋艦「モスクワ」の威容

 「モスクワ」の撃沈に貢献したと云われているウクライナのアセットの1つが、「バイラクタルTB2」無人航空戦闘機(UCAV)です。

 すでにロシア国防省は(2022年3月に受け取った追加の16機を含めた)ウクライナの保有数よりも多くのTB2を撃墜したと主張していますが、ロシアの非公式情報は、「モスクワ」の乗組員に向かってくる2発の対艦ミサイルよりも無人機へ注意を集中させるための陽動としてウクライナのTB2が投入されたと指摘しています。[2]

 確かに説得力のある説にはなっていますが、そのシナリオが誤りであることはほぼ間違いありません。

 「モスクワ」のような軍艦に装備されている対空レーダーとそのオペレーターは僅か1つの目標よりも多くのものを検知・追尾する能力があるだけでなく、実際に稼働している限り、事実上自動的にそうすることができます。したがって、仮に対空レーダーが実際に無人機を追尾していたのであれば、彼らの状況認識力は不意に攻撃される状態よりも高いレベルにあったということになります。

 もし、本当に沈没が2発の対艦ミサイルの直撃を受けたことで生じたのであれば、単に「モスクワ」のレーダーがミサイルを検知できなかったり(あるいは検知が遅れてしまった)、装備されている6門の「AK-630」近接防空システム(CIWS)では艦を防御しきれなかったという可能性が極めて高いと思われます。

 この意味で、これまでの報道において、(命中ではなく)発射されたと思われる対艦ミサイルの総数が明確に言及されていないことに留意する必要があるでしょう。つまり、「モスクワ」の防空能力が綿密な計画によって実施されたミサイルの飽和攻撃に対処しきれなかったというシナリオもあり得ないわけではないのです。

沈む少し前の「モスクワ」

 多くの軍事アナリストたちは、一般に先進的と考えられているロシア軍装備の非有効性に依然として困惑していますが、実際のところ、ロシア軍のハードウェアが現代の戦場で有効に機能できないことが実証されるという傾向が以前から続いています。

 ウクライナでの戦争はこの秘密を広く世間に晒していますが、これを初めて真に世に知らしめた最初の紛争は、2020年に勃発したナゴルノ・カラバフをめぐる「44日間戦争」でした。この戦争で、ロシアの最新の電子戦システムと防空システムの大部分がUCAVと小型の徘徊兵器に対してほとんど対処できなかったことが証明されたのです。[3] [4]

 つまり、最新型の対艦ミサイルによる攻撃に直面した場合、ロシア海軍の艦船に搭載されたレーダーや対空ミサイルシステムの有効性がそれらと異なることを示す根拠は何もありません。

 「モスクワ」を撃沈に至らせたと云われる新型地対艦ミサイル「RK-360MT "ネプチューン"」は、ウクライナ国産ですが、基本的にソ連の「Kh-35」をベースにしたものです。

 こうした対艦ミサイルには、攻撃が成功する可能性を高めると共に適時の探知を困難にする、さまざまな技術が取り入られています。その1つは、ミサイルが海面から僅か数メート高度高度を飛行しながら(レーダー波が目標に検知されるのを避けるために)終末段階まで慣性航法を用いることから、 敵艦がレーダーでそれを探知して正確に迎撃することが非常に困難であることです。

 現代の対艦ミサイルには、ほかにも多くの秘策を有していると考えられています。「ネプチューン」がそのような能力を備えているかどうかは不明ですが、現代の対艦ミサイルの大分部は、命中のタイミングを正確に調整できるように飛行経路をプログラミングし、同時に複数の方向から攻撃して防御側を圧倒することが可能です。

 このようなミサイルを撃墜することは非常に困難かもしれませんが、「Kh-35」と「ネプチューン」は亜音速で飛行する比較的軽量級の対艦ミサイルであり、「ネプチューン」の最大射程は280キロメートルであることも同時に強調しなければなりません。

「モスクワ」は「ネプチューン」が想定していた目標よりもはるかに巨大なだけでなく、現代の戦闘群が活発な戦闘地域で警戒状態にあることを考慮すると、対艦ミサイルの攻撃を完全に防ぐことはできないにしても、少なくとも命中で引き起こされるであろう損傷を最小限に抑えることはできたはずです。

 確かに、「モスクワ」はウクライナが依然として支配している沿岸地域から100km未満の海域で作戦に従事していたと考えられるので、それが「ネプチューン」の格好の標的にしたに違いありません。[5] 

 結果として、巨大な巡航ミサイルと豊富な弾薬類を備えた「モスクワ」の重武装は最初のミサイル直撃後に制御不能の火災を引き起こし、それが艦自体の終焉をもたらした可能性があります。

 ところで、著者はTB2の話が全くの誤りとは言っていません。実際、ロシア国防省は「モスクワ」が沈む前日に、黒海上で「バイラクタルTB2」と交戦するロシアのフリゲート「アドミラル・エッセン」を撮影したとされる映像をリリースしました。[6] 

 また、今まで報じられていない別の事例では、ウクライナ海軍がロシア海軍の艦船に対して1機のTB2を投入し、「MAM-L」誘導爆弾を敵艦に命中させたものの、(弾頭重量が軽いため)ほとんど損害を与えることができなかったというものがあります。

 TB2のより適切な使用例としては、黒海にいる敵艦の位置を把握し、その位置を沿岸防衛ミサイルシステム(CDS)などの地上配備型アセットに中継することが挙げられます。実際、TB2に装備されたWESCAM製「MX-15D」 FLIRシステムは、天候が良ければ少なくとも100km先にいる「モスクワ」程度の大きさの目標を発見することが可能です。

 攻撃当時の気象条件のおかげでその検知可能な距離が狭まったことで、TB2は「モスクワ」が誇る「S-300F」防空システムの射程圏内を飛行せざるを得なくなった可能性があります。

 高度な艦対空ミサイルシステムの交戦圏内に入ることについて、多くの人は特にTB2のようなアセットが確実に撃墜されることを意味すると思い込むでしょうが、実際には必ずしもそのとおりにはなりません。

 特にウクライナ海軍の場合、保有するTB2はクリミアに配備されているロシアの「S-400」の射程圏内で多くの任務を遂行しているため、それを踏まえるとこの恐るべき防空システムはどうやら戦果を挙げることがあまりできていないようだからです。

ウクライナ海軍に属する「バイラクタルTB2」の1機。胴体下部の「WESCAM」製「MX-15D」FLIR装置に注目。

 CDSはウクライナ軍にとって比較的新しい戦力であり、同国は射程距離280kmの対艦巡航ミサイル「RK-360MT "ネプチューン"」の導入を通じてその戦力の構築に重点的に取り組んできました。

 ウクライナにとって不運なことに、最初の「ネプチューン」CDS複合体の導入はちょうど2022年4月に予定されていましたが、 2月に開始された戦争とロシアによるウクライナの軍事産業に対する激しい無力化措置によって、その導入は当然ながら困難となってしまいました(同時に導入の必要性も生じたことは言うまでもないでしょう)。

 しかし、「ネプチューン」のような極めて重要なアセットを実際に無力化するための取り組みはあまり徹底されていないように見受けられます。 ロシア国防省の傲慢さが真の脅威を特定し、それに対処することを阻んでいるようです。

 例えば、開戦初日に(信じられないことに、ウクライナが隠す試みをしなかった)TB2の地上管制ステーション(GCS)に打撃を与えるのではなく、それを無視したことによってロシアが初日にウクライナのUCAV戦力を麻痺させることができたにもかかわらず、 ウクライナにGCSを安全に移動して秘匿することを許してしまったのです。
 
 「ネプチューン」について、ウクライナは僅かなシステムとミサイルから構成された試作型を有する1個中隊しか運用していませんが、まもなく運用が開始される予定だった最初の量産型「ネプチューン」大隊のために、すでに完成していたもの全てで増強していたのかもしれません。

 この中に対水上捜索レーダー(ウクライナ版「モノリート」)が含まれているかどうかは不明です:単に初回生産分のシステムを新品の車体に急いで組み込み、既存の「ネプチューン」中隊に配属された可能性が考えられます。

 ただし、もしそのようなレーダーがまだ使用可能な状態になかった場合、現場の空域を飛んでいたと報じられているTB2は索敵任務が与えられていた可能性があり、(事実であれば)沿岸部の海上目標を探知するのに非常に有効な手法であったことが実証されたことになります。

「ネプチューン」CDS複合体の発射試験の状況

 早ければ(ウクライナ時間の)4月13日に発生したと思われる事件の直後、「モスクワ」はセヴァストポリ港に向けて曳航されているとの情報がソーシャルメディア上に流れました。

 この情報は後にロシア当局によって追認され、当局は火災がきっかけで搭載されていた弾薬が誘爆し、乗組員が完全に避難していたとされる「モスクワ」が深刻な被害を受けたと公表しました。[7]

 その翌日、ロシア国防省は、この曳航中だった巡洋艦が荒天のためにバランスを失って沈没したことを明らかにしました。

 また、「モスクワ」が沈没する直前に54人のロシアの乗組員をトルコの船が救助したという情報も流れてきました。[8] 

 巡洋艦「モスクワ」の乗組員が510人であったことを考えると、沈没の原因がミサイル攻撃か火災にあったのかにしても、この事件で失われた人命は極めて深刻なものであったことは間違いないでしょう(注:4月17日にロシア国防省はイェブメノフ・ロシア海軍総司令官が「モスクワ」の元乗組員を閲兵する動画を公開しましたが、明らかに人数が少ないため、乗組員に死傷者や行方不明者が多いことを暗示しています)。

 しかし、仮にロシア国防省が公表したシナリオが真実であったとすれば、そのたった1日後にウクライナの対艦ミサイルの製造と修理を手がけるキエフの工場を攻撃したと公表したことについては、明らかに偶然にしては不可解なものがあります。[9]

 ロシアが隣国を征服しようとした破滅的な物語は、攻撃を見守る人々だけでなく、ロシア自身をも驚かせたに違いありません。なぜならば、かつて世界で最も強力な軍隊の1つと信じられていたロシア軍の最大の敵は、NATOではなくロシア政府そのものであることが判明したからです。

 無能や腐敗、そして現実を完全に否定することが深く組み込まれた統治手法は、他国を無益な戦争に引きずり込むことに加担しただけでなく、有用な戦闘部隊としてのロシア軍自体を崩壊させたように見受けられます。

 この意味で、巡洋艦モスクワの沈没は一見したところ1つの出来事にすぎませんが、はるかに大きな問題が噴出する兆候であると言えるでしょう。

 「モスクワ」撃沈でウクライナが直接的に軍事面での恩恵を得ることは少ないかもしれませんが(それでも、ウクライナ軍が享受できる士気の向上をもたらした最も有益な出来事の1つであったことは云うまでもありません)、前述の問題がこの戦争を軍事的に勝利しようとするロシアの試みを邪魔し続けることは間違いないと思われます。

 ロシアの政治的及び軍事的指導者が最終的にこうした深刻な問題にある程度対処することができるかどうかは不明ですが、それを実行する能力の有無がロシアの残虐な戦争の結果を決する唯一にして最大の決定要因となるでしょう。


[1] Cruiser Moskva retains buoyancy, explosions of ammunition stopped — Defense Ministry https://tass.com/politics/1437605
[2] https://twitter.com/RALee85/status/1514398732611211271
[3] The Conqueror of Karabakh: The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-conqueror-of-karabakh-bayraktar-tb2.html
[4] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[5] Satellite Image Pinpoints Russian Cruiser Moskva As She Burned https://www.navalnews.com/naval-news/2022/04/satellite-image-pinpoints-russian-cruiser-moskva-as-she-burned/
[6] https://twitter.com/RALee85/status/1514401183900831756
[7] Fire breaks out onboard Moskva missile cruiser, crew evacuated — defense ministry https://tass.com/emergencies/1437443
[8] Ukraine braces for revenge attacks from Russia after Moskva sinking https://www.theguardian.com/world/2022/apr/15/ukraine-braces-revenge-attacks-russia-moskva-sinking
[9] Ukraine says fighting rages in Mariupol, blasts rattle Kyiv https://www.reuters.com/world/europe/powerful-explosions-heard-kyiv-after-russian-warship-sinks-2022-04-15/

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2022年4月18日月曜日

蘇るAFV:タリバン軍が機甲戦力を復活させる(短編記事)



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2001年のアメリカによる侵攻をうけた後、アフガニスタンにおける機甲戦は劇的に減少しました。

 過去の政権や軍閥は火力支援プラットフォームとしての使用で装甲戦闘車両用(AFV)に大きく依存していましたが、米国主導の有志連合軍は重装甲戦力が新しいアフガン国民軍(ANA)にとって全く役に立たないものと考えていたようです。

 その結果として、唯一残っていたANAの機甲部隊にM60A3戦車を再装備する計画については最終的に棚上げされたため、ANAは純真な献身によってのみ1個の戦車大隊を何とかして維持することができたのです。[1]

 BMPシリーズの歩兵戦闘車やZSU-23自走対空砲のような他のAFVはさらに幸運に恵まれず、2000年代半ばの至るところでますます多くの車両が退役に直面していました。

 それにもかかわらず、アメリカは約200台のM113装甲兵員輸送車(APC)をANAに供与しました。しかし、M113のIEDに対する脆弱性と貧相な武装は対反乱戦には不向きであったため、その大部分がすぐに国内各地にあるANAの基地で放置されてしまいました。[2]

 全国の遠隔地にある基地では、いくつかのT-55とT-62がトーチカとして活用されていました。これらの戦車の活用については、その多くは自力で動くことができなくなっているため、大抵の場合は全国的な規模で戦車を移動式のトーチカとして転用することに取り組んだというよりは現地の指揮官が主導して行われたようです。[3]

 戦車がまだ自走できた場合は単に基地の周囲を走り回る際のときに動くだけであって、作戦への投入で動くことはありませんでした。

 しかし、2021年11月中旬に公開された画像は、アフガニスタンの新たなイスラム首長国(タリバン政権)が再び大規模な機甲戦力を使用に転じる可能性を示唆しているように見えます。カリ・ファシフディン陸軍参謀長がカブール近郊の基地を視察した際に、少なくとも各1台ずつのT-62M、T-55、BMP-2を使用していると思われる部隊を訪問したのです。[4]

 さらに、この画像(ヘッダー画像)の後ろには2台のM1117装甲警備車(ASV)も見えます。ASVはタリバン軍が国内で急速に進撃している際に、膨大な数が無傷のまま彼らに鹵獲されています。

カブールでの軍事パレードに登場したBMP-2(ヘッダー画像と同一の車両)

 タリバンの指導下にある新しいアフガニスタン軍が、今でも全国各地の基地で依然として放置され続けているより多くの重火器を復活させようと試みるであろうことは考えられないことではありません。これには戦車から「BM-27」220mm多連装ロケット砲のみならず弾道ミサイルまでもが含まれています。[5] [6] [7]

 しかし、後者の場合は何年も屋外で(野ざらしで)保管されていたので再使用はできそうもなく、カブールの新政府はほぼ間違いなくこのような兵器を全く必要としていないと思われます。

特別協力: NatsecjeffLukas Muller(敬称略)

[1] Afghanistan’s tank battalion is melting away https://www.stripes.com/afghanistan-s-tank-battalion-is-melting-away-1.543030
[2] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[3] Disaster At Hand: Documenting Afghan Military Equipment Losses Since June 2021 until August 14, 2021 https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/disaster-at-hand-documenting-afghan.html
[4] https://twitter.com/Natsecjeff/status/1459921989225877506
[5] https://twitter.com/oryxspioenkop/status/1432401256086188032
[6] https://twitter.com/oryxspioenkop/status/1438829457528213510
[7] https://twitter.com/AlHadath/status/1438566027663593484

※  当記事は、2021年11月15日に本国版「Oryx」ブログに投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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2022年4月15日金曜日

眠ったままの将来性が目を覚ます日は来るか?:ウクライナとトルコが提携してアントノフ機を開発する



著:ステイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)

 航空宇宙分野におけるパイオニアとして、トルコは数多くの高度な有人・無人機を設計してきました。これらの大部分は、トルコ空軍や世界中の航空部隊のために開発されたものです。

 ただし、トルコはかつて国産旅客機「TRジェット」で民間航空市場に参入するという野心的な計画を進めていたものの、2017年にお蔵入りとなったことがありました。これによって、民間航空機の設計と生産に関する具体的な計画に終止符が打たれたように思われましたが、この分野におけるトルコの野心が裏で温存され続けてきたことは間違ないでしょう。

 トルコが世界最大の貨物機である「An-225 "ムリヤ"」2号機の完成に関心を示したことについて、私たちはすでに当ブログで紹介しました。[1]

 当記事では、トルコがほかにも数多く存在するウクライナの航空プロジェクトに関与し、緊密な協力を行っている動機を考察・解説していきます。

 これらのプロジェクトには「An-132」ターボプロップ輸送機、「An-178」中型輸送機、そして「An-188」戦略輸送機が含まれています。トルコはすでに2018年以降、「An-178」と「An-188」の共同生産に関心があることを頻繁に公言しており、ごく最近では2021年10月にその意思を表明しました。[2] [3] [4]

 今のトルコ空軍には、すでに運用されている「CN-235」や「C-130」、「A400M」以外の輸送機を加える必要性が全く無いと異論を唱える人もいるかもしれませんが、「アントノフ」社の設計機はトルコ軍の将来的な需要に応えるだけでなく、世界中への輸出も相当な成功を享受する可能性を秘めています。

 トルコの部品、技術、搭載機器を統合することによって良好な市場シェアを得たり、同国の世界的な影響力を利用して、アフリカ、ヨーロッパ、アジア、南アメリカで素晴らしい販売実績を達成するという利益を得ることができるかもしれません。

 トルコの関与は、「An-132」、「An-178」、「An-188」の設計を改良するだけでなく、この国の現代的な技術支援によって実際にこれらが量産に入るための刺激を与えるなどのブレークスルーをもたらすことができるでしょう。

 これらの航空機(の一部)をトルコで生産することについては、自国を(数多くある国家プロジェクトの中でも特に)電気自動車、無人航空機、高速鉄道といった先端革新技術の製造拠点に変えるというトルコ政府の長年にわたって目指している目標にうまく調和しているように見えます。[5] [6]

 最近のトルコの航空宇宙企業は、「トルコ航空宇宙産業(TAI)」の新型ジェット練習機「ヒュルジェット」やステルス戦闘機「TF-X」、そして「バイカル・テクノロジー」社の無人戦闘機「MIUS:バイラクタル・クズルエルマ」の開発の仕上げで多忙のため、どの国内企業も現時点で真の国産旅客機や輸送機の設計・開発を実施できそうにはありません。

 これは、そのようなプロジェクトが将来的にトルコ企業によって始動されないということを意味しません。「バイカル」社の空飛ぶ自動車「セゼリ」は、同社の将来における開発の方向性を見せているかも明らかでしょう。[7]

 「TAI」の場合、(国産機開発の一環として)すでに「「N-219」及び「N-245」ターボプロップ旅客機のプロジェクトで「PTディアガンタラ・ インドネシア(PTDI)」社に協力しています。[8]

  ジェット旅客機よりも競争の少ない市場セグメントに位置するこれらの機体は、トルコの影響力が高まっているアフリカで商業面での大成功を収める可能性がありますし、「PTDI」と「アントノフ」社とのプロジェクトの背後にある強力で政治的な後ろ盾も機体の輸出販売を推し進める大きな要因となるかもしれません。

 トルコによる「N-219」及び「N-245」のプロジェクトの関与で生じるだろう潜在的な恩恵については、当ブログで取り上げる予定です(注:本国版Oryxで公開済みですが、当日本語版での公開は未定です)。

 2015年に立ちあげられた「TRジェット」プロジェクトもそれらと同様に、既存の機体を最大限に活用することでプロジェクトのスピードアップとこの規模のプロジェクトに特有のリスクを抑え込もうとしました。

 「TRジェット」プロジェクトが頓挫したのは前述のとおりですが、最終段階では、短距離飛行用の32の乗客席を備えた「TRJ328」とそのターボプロップ型「TR328」、中距離飛行用の60〜70席の乗客席を備えた「TRJ628」とそのターボプロップ型「TR628」の4機種を製造することになっていました。[9]

 4機種のうち「TRJ628 」と「TR628」だけが新規設計で、「TRJ328」と「TR328」は既存のドイツ製「ドルニエ328ジェット」と「ドルニエ328」を高度に発展させたものでした。

 「TRジェット」と同様の名称変更がアントノフ機にも適用される可能性があり、その場合、「An-132」は「TR-132」、「An-178」は「TRJ-178」、「An-188」は「TRJ-188」と呼称されることになります。

 (必ずしも好ましいものではありませんが)「アントノフ」社とその飛行機は世界の大部分でそのブランド認知力を誇っていますが、トルコが国際政治において地域大国に台頭したは、今後のさらなる商業的成功に重要な役割を果たす可能性があると言えます。

 その意味では、飛行機の原産国(トルコ)にちなんだ呼称は確かに有益なものとなるかもしれません。それでは、「TR-132」、「TR-J-178」、「TRJ-188」について詳しくチェックしていきましょう。


 「An-178」と「An-188」は主に軍事市場向けの機体ですが、「An-132」ターボプロップ輸送機は民間市場でも成功する可能性があります。

 「An-32」の改良型として設計された「An-132」は潜在的な顧客にとってより魅力的な機体にするべく、「An-24/26/32」ファミリーを商業的に成功させた頑丈さと飛行能力を維持しながら西側諸国の部品や技術を取り入れた機体です。

 また、同機は「プラット&ホイットニー」社製「PW150」ターボプロップエンジン2基を搭載しており、ロシア製の部品に代えて西側諸国製のコンポーネントを備えています。

 「An-132」プロジェクトは、生産ラインを国内に置くことで自国の航空産業を促進させるため、2015年にサウジアラビアに採用されたことで知られています。しかし、当初は80機の発注を公約し、後にサウジアラビア空軍で使用する6機の「An-132D」を実際に発注したにもかかわらず、成功が約束されたはずのプロジェクトは最終的に2019年にサウジアラビア自身によって棚上げされてしまいました。[10] 

 特にサウジアラビア空軍は、「An-132」プロジェクトが国軍の実際に必要とする条件を満たすものではなく、単に産業的な理由だけで進められているものと感じて反対していたのです。

 「アントノフ」社は以前にも、航空機の製造に関心を示す別のいくつかの国々に、同じ「航空機製造計画」を売り込んでいたことがあります。[10] 

 この計画の下では、同社が自社製航空機の改良型を開発・試験して、後でその機体に関する知的財産権をパートナー国に譲渡し、その国で生産ラインを立ち上げるということになっていました。イランはこのプランを採用した(サウジ以外で)唯一の国で「An-140」と「An-148」旅客機の国内生産しようとしましたが、制裁のおかげでプロジェクトは中止に追い込まれてしまったため、組み立てられた「IrAn-140」はごく少数に終わってしまいました。[11] 

 2019年にサウジアラビアとの契約が破綻した後、「An-132プロジェクト」は今や実質的に暗礁に乗り上げた状態となっています。「An-132」の試作機は2019年に最後の飛行を行い、耐空証明が失効した後にウクライナ当局によって登録されている航空機のリスト上から抹消されました。[10] 

 したがって、今の状況はトルコが介入して「An-132」プロジェクトを蘇らせるめったにない機会をもたらしています。トルコ製の部品や技術、ペイロードの統合とトルコの関与する度合いが強まることが予想されるにもかかわらず、おそらく「アントノフ」社によって以前に売り込まれたプランのいくつかの側面が取り入れられたものになるでしょう。



 「An-132」を旧世代機の単なる改良型として簡単に片付けるのは間違いです。なぜならば、この一連の推論は、現在の航空機市場で販売されているほぼ全ての輸送機に該当するからです。

 非常に人気のある「C-130J "スーパーハーキュリーズ "」は1950年代の設計を全面的に一新したものであり、「C-27J」と「C-295」はそれぞれ1970年代と1980年代の機体の高度な派生型です。「C-27J」と「C-295」は「An-132」のダイレクトな競争相手で、1990年代後半に発表されて以来、輸出市場で大きな成功を収めてきました。

 彼らの継続的な商業的な成功は、「An-132」のような航空機に大きな市場が実際にあることを証明していますが、このことは、「An-132」の見こみ客の多くが、すでに「C-27J」や「C-295」を運用していることも意味しています。

 そのため、「An-132」は進化したペイロードといった斬新な特徴を提示し、そして何よりも競合機よりも導入と運用コストを安くするなどして、その限界を改善しなければいけません。ただし、トルコによる強い政治的な後ろ盾が、友好国が航空機を調達に寄与する強力な要因となる可能性があります。

 「An-132」の設計はすでに「C-27J」や「C-295」の多くの特性を上回っており(以下の画像)、ほかの輸送機が運用できない未整備の滑走路から運用する能力を有しています。

 この強みは、「An-132」をジャングル奥地にある人里離れた仮設滑走路への運航を継続させることが多い南アメリカやアフリカの民間貨物業者にとっても魅力的な選択肢にさせます。これらの大陸にあるいくつかの航空貨物運送事業者は、特に未舗装の滑走路での離着陸があることから「An-26」と「An-32」を使用し続けており、現時点でこれらを真の意味で代替する航空機は存在しません。

 「An-132」は民間市場で成功を収めるだけでなく、「C-27J/C-295」を調達する資金が不足していたり、あるいは「An-26/32」のより高度なタイプに置き換えたいという軍事方面の顧客を引きつける可能性があります。

  アフリカの場合、そのような国にモザンビーク、コンゴ民主共和国、スーダン、リビア、エチオピア、アンゴラ、赤道ギニア、ナイジェリアが含まれていますが、ペルー、エルサルバドル、コロンビアといった南アメリカの諸国も将来の運用者として見込まれます。

 より身近なところでは、ウクライナとイラクが「An-26/32」の後継機に「An-132」を選定するかもしれません。

 これらの国の大部分については1国につき僅か数機ずつの契約となると思われますが、航空貨物運送事業者に対する売却の可能性を合算すると、販売機数は早い段階で積み重なっていくでしょう。


「C-27J」及び「C-925」と比較した「An-132」 の各オプション時におけるペイロード図

 「An-132」は軍用貨物機や商業貨物機としての用途に加えて、かつて想定されたことがある空中消火、電子戦(EW)、医療後送(MEDEVAC)、さらにはガンシップや海上哨戒(MPA)を含む、広範な分野にわたる特殊任務を遂行することも可能です。

 EW機や(ジェット機ベースの)将来型MPAプロジェクトがすでに進行中であるトルコにとっては、前述の特殊任務の全てに必ずしも興味を示すわけではありませんが、それらのような派生型は一定の輸出先にとって依然として関心を引くかもしれません。

 2017年、ウクライナの「ウクルオボロンプロム」社とトルコの「ハヴェルサン」社は、サウジアラビアによって見込まれた要求を満たすために「An-132」のMPA及びISR型の開発に関する協定を既に締結していましたが、その後すぐにサウジアラビアが「An-132」プロジェクトを放棄したため、最終的には実現に至りませんでした。[12]



 トルコにとって最も興味を引くと思われる「An-132」の派生型は、間違いなく空中消火型の「An-132FF」でしょう。

 かつてトルコは約9機の「CL-215」と11機のPZL「M18」消防機から成る空中消火飛行隊を保有していましたが、その全機が過去数年間で退役しており、現在ではチャータされたロシアの「Be-200」水陸両用機や「Mi-17」、そして「Ka-32」ヘリコプターの飛行隊がその重要な任務を引き継いでいます。[13] 

 2021年にトルコで発生した大規模な山火事は、リースの航空機やヘリコプターに依存せずに独自の空中消火機を運用することの利点をこの国に再び認識させ、同年10月には、4機の空中消火機を調達することが公表されました。[14]

 トルコとウクライナで森林火災が増加しているため、「An-132FF」は、より多くの空中消火機の需要に応えることが可能です。

  もし、そのような調達が実現した場合 トルコ空軍による「An-132」の採用にもいっそう関心が高まるでしょう。というのも、同空軍は1990年代前半~後半から運用している約50機の「CN-235」飛行隊が今後の10年で更新が予定されているからです。

 ターボプロップ機である「An-132」の(商業的な)可能性があるにもかかわらず、トルコはこれまで「An-178」と「An-188」ジェット輸送機にだけ関心を公に示してきました。

 アントノフ「An-178」中型輸送機は「An-158」旅客機の貨物機版として設計されたものであり、飛行甲板、翼板、尾部、そして機内のシステムの多くが同一となっています。ただし、胴体は最大で16トンの貨物を搭載できるように新たに設計され、1,620km(5トンの貨物を搭載した場合は4,700km)を飛行する能力を有しています。

 両機は共にウクライナの「モトールシーチ」社が生産する「イウチェンコ・プロフレス」設計の「D-436」または「AI-28」エンジンを搭載しています。「モトールシーチ」社は2017年に中国にほぼ乗っ取られかけた結果、アメリカ政府がウクライナ政府に介入させ、安全保障上の理由からこの買収劇を頓挫させた過去があったことは以前に紹介しました。[15]

 ウクライナは、民間旅客機を生産するというトルコの計画を復活させるためのパートナーとしても言及されています。このことは、「An-178」との共通性からトルコが「An-158」にも興味を示す可能性を示唆しています。[3]

 「アントノフ」社は主に軍用機市場の分野で活躍していますが、数種類の旅客機も設計・開発したことについて見落とされがちです。これにはターボプロップ式の「An-140」や「An-148/158」ジェット旅客機も含まれていますが、いずれも国際市場でほとんど成功を収めることができませんでした。

  1990年代にはかつてないほど高まった野心が「アントノフ」社は、民間旅客機である「An-180」「An-218」や、エアバス「A380」に対抗するために戦略輸送機「An-124」の旅客機版である「An-418」の開発を開始しましたが、残念ながら頓挫して無駄に終わりました。[16]

 その全てを費やした努力に対して、「An-148」とその胴体を延長した「An-158」は商業的に期待外れで終わりました。ウクライナとロシアにある僅か2つの航空会社だけが、今でも合計7機の「An-148」を運航し続けています。

 ウクライナとロシア以外の国に対する販売実績には、北朝鮮の「高麗航空」への「An-148」2機、キューバのフラッグキャリアである「クバーナ航空」への「An-158」6機が含まれていますが、後者の場合は多数の技術的問題で悩まされたため、2018年に全機が運用停止に追い込まれてしまいました。

 「An-178」に類似していることから、「An-158」はトルコの旅客機に対する野心を満たす理にかなった候補のように思えますが、同機は結局のところ、経済的に不可能と見なされて開発が中止された「TRジェット」プロジェクトの「TRJ628」と酷似しているものとなります。[17]

 「An-158」旅客機への投資は純利益でプラスをもたらす可能性は極めて低いですが、「An-178」はリスクと利益のバランスがやや魅力的です。

  既存の競合機に追いつく必要がある「An-132」とは対照的に、「An-178」はライバルの多くが登場する以前に中型輸送機市場への早期参入が可能となっています。ライバル機として、ブラジルの「エンブラル」製「KC-390」、将来に登場する予定であるロシアの「Il-276」とエアバス「A400M」の小型版(仮称「A200M」または「A410M」)が挙げられます。[18] 

 「An-178」の見こみ客には、イラク、アンゴラ、エチオピア、ナイジェリア、エジプト、インドネシア、パキスタン、ペルーが含まれています。

 新しいエンジンオプションを通じて最大離陸重量と燃料効率を向上させることができるため、「An-178」には将来的に成長する可能性も秘めていますが、実際のところ、航空機が商業的な成功を得るためには取得・運用コストが決定的な要因となります。

 機体をさらに「西側化」するためにトルコ製のコンポーネントをインテグレートすることで、輸出販売の見こみも高まるかもしれません。

 それにもかかわらず、「An-178」が輸出される可能性は「An-132」よりも低く、航空貨物運送事業者から広範な関心を持たれることは起こりえないと言えます。これは「An-178」の設計とは全く関係がなく、より小型か大型で、積載可能な量が増加した長距離飛行機に対する市場の需要によるものです。

 「An-178」を国際的な顧客にとってより魅力的なものにするため、「アントノフ」社は同機のさまざまな派生型を提案しています。[19] 

 これには空中給油型、MEDEVAC型、捜索救助型が含まれていますが、「An-148-301MP」MPA、「An-148-301ISR」、さらには「An-148-301AEW」空中早期警戒機がある同社の「An-148」発展計画を考慮すると、「An-178」にも他の派生型が提案されることも考えられないことではないようです。[20] 

 多岐にわたる派生型の具現化については、最終的にそのような特殊な派生型の対する関心の高さに左右されるでしょう。

 「An-178」に対する各国の関心の程度を予測することは、現時点で困難です。同機は「An-132/C-295/C-27J」と「C-130/IL-76」の間の微妙なギャップを埋める存在であることから、大部分の国は「An-178」で可能な任務を遂行するために、単にこれらの機種のどれかを選択するだけでしょう(注:中途半端な存在ということ)。

 ただし、現在「C-130」クラスの輸送機が不足している国や企業は、「An-178」を選定する可能性がもっとも高いと思われます。これまでにウクライナとペルーがそれぞれ3機と1機の「An-178」を発注していますが、現時点におけるペルーとの契約状況は定かではありません。[21]

 (「An-225」以外で)ほぼ間違いなくトルコが最も関心を示している航空機は、間違いなく「An-188」戦略輸送機のコンセプトでしょう。

 この「An-188」は、ソ連の「An-12」の後継機として1980年代後半に開発された「An-70」 プロップファン式中距離輸送機を発展・進化させたものです。

 1990年代初頭のソ連崩壊後、「An-70」はウクライナとロシアの共同所有の下でゆっくりと開発が継続されました。2014年のロシア・ウクライナ戦争が勃発した後、ロシアはウクライナから正式に「An-70」計画から追放されましたのは言うまでもないでしょう。

 しかし、この動きはほとんど表面的なものでしかありませんでした。というのも、ロシアはすでに2013年の時点で国産機の開発に集中するため、このプロジェクトから手を引いていたからです。[22]

 1994年の初飛行から約20年が経過しても依然として当局から認証を受けていなかったため、「An-70」計画は2014年まで決して安泰なものではありませんでした。

 この20年間、同計画は資金不足とロシアとウクライナの内部対立に悩まされ続けていました。(後に「Y-20」の開発に進んだ)中国との短い仕事の後、ドイツとフランスが「C-160」を置き換える将来の大型機計画で「An-70」を評価し始めたため、1990年代後半にこの計画に突破口が切り開かれる可能性が浮上しました。[23]

 ドイツ国防省の評価によると、西側化された「An-70」は「エアバス」社が売り込んでいた「A400M」より技術的に優れており、価格も推定で30%も安いことが判明しました。[23]

 しかし、結局は実用的な理由から「A400M」が選定されて終わりました。

 それ以来、「An-70」を海外に売り込もうと試みた「アントノフ」社は、見こみ客を獲得するための多岐にわたる提案を行ってきました。

 これらには「An-70」を西側化した「An-77」、より強力なプロップファン・エンジンを搭載した「An-170」、4基のプロップファン・エンジンを2基のジェットエンジンに置き換えたアメリカ空軍向けの空中給油機「An-112KC」、2~4基の「イウチェンコ・プロフレス」製「D-18T」か米仏共同開発の「CFM56-5C4」ジェットエンジンを搭載した「An-70-118」・「An-70T-300」・「An-70T-400」、そして4基のジェットエンジン、西側製のコンポーネント、空中給油装置が装備された「An-70」の最新改良型である「An-188」が含まれていました。[24] [25]

 「An-70」の最も見こみのある派生型ということを別にしても、「An-188」は「An-70」計画を復活させるための唯一の現実的な選択肢でもあります。

 「An-77」プロジェクトでは「An-70」のロシア製コンポーネントを西側諸国のもので置き換えようとしたものの、西側には特定の部品を置き換える類似品が存在しなかったことから、これがすぐに実現不可能と判明しました。[26] 

 「An-70/77」の強力な「イウチェンコ・プロフレス」製「D-27」プロップファン・エンジンは同機特有のものであり、他国では簡単に製造できないロシアの部品をいくつか用いています(注:「ベリエフ」製「A-42」水陸両用機にも搭載されることになっていますが、現時点では「An-70」にしか搭載されていません)。

 2020年のインタビューでウクライナのオレグ・ウルスキー戦略産業大臣がこのプロジェクトを「袋路」と述べたことは、「An-77」が商業的な面で実現できないことををはっきりと示しています。[26]

 ウクライナ空軍は、今でも2015年に正式に就役した1機の「An-70」を運用し続けています。[27] 

おそらく最も実現が高いもの:「An/TR-188」

 「An-188」計画は、空中給油機能やウィングレット付き巨大な主翼、西側諸国製のコンポーネントを備え、4基のジェットエンジンを搭載した重量級の中型輸送機として、2015年のパリ航空ショーで初めて公表されました。[28] 

 「An-188」は、4基の「イウチェンコ・プロフレス」製「D-436」か(「An-178」にも搭載される)「AI-28」エンジン、もしくは西側向けのオプションとして4基の「CFMインターナショナル」製「LEAP」を搭載することができます。[28] 

 見落としてはいけないのは、この「An-188」が「C-130J-30」と「C-17」のギャップを埋めることを目的とした輸送機ということです。つまり、「エアバス」製「A400M」の直接的な競合機という立場にあるというわけです。

 「An-188」の広々とした貨物室には、装甲戦闘車(AFV)や無人航空機(UAV)、ヘリコプター、さらにはトルコが近く配備する無人水上艇(USV)を含む最大で40トンの貨物を搭載することができます(注:ただし、積載量は搭載するエンジンの種類に左右されます)。

 また、MEDEVAC仕様で展開した場合は2つのデッキに最大で300人または200人以上の負傷者を収容でき、兵員輸送仕様では130人以上の完全装備の空挺隊員を収容することも可能となっています。[29] 

 左右の主翼下に各1基ずつの空中給油ポッドを搭載した場合、同機は空中給油機としても活用できます。

 2018年5月、トルコとウクライナが「An-188」の共同生産について交渉中であることが公表されました。[28]

 この交渉は、両国が担当する作業の割り当てやライセンス契約、技術移転、他国への輸出の可能性を中心に展開されました。共同生産に関する契約を進めるために、トルコの当局者は、航空機をNATO加盟国の機体と互換性のあるものにする必要があると発言したと伝えられています。[28] 

 これはトルコ空軍が求める必要条件であることに加え、輸出市場における同機の競争力を大幅に向上させることにもなります。

 現在、トルコ空軍は10機の「A400M」と16機の「C-130B/E」輸送機の飛行隊を運用しています。同国の「C-130」はもともと1960年代に製造された機体であることから、この10年先の終わり頃には後継機が必要と見込まれています。

 同時に、トルコの航空路線はここ数年で劇的に拡大しており、今ではリビアやほかのアフリカ各地へ頻繁にフライトを行っています。「A400M」のさらなる導入が実現するか不透明であるため、「An-188」はトルコの「C-130」の後継機としてますます魅力的な選択肢となっています。

 同様に、ウクライナ空軍も老朽化した「Il-76」の後継機として「An-188」を採用し、少なくとも6機以上の機体を導入する契約を結ぶ可能性があります。

 「An-188」の見こみがある輸出先には、インドネシア、アンゴラ、リビア、ナイジェリア、フィリピン、ルーマニア、サウジアラビア、カザフスタン、ウズベキスタン、パキスタン、ペルーなどの諸国が含まれています。

 また、この大型輸送機は、世界中の多くの航空貨物運送事業者で用いられている「Il-76」の後継機として、商用機市場からの需要にも応えることもできるかもしれません。しかし、「An-188」に対する商用機市場からの関心は不確かなものであり、空軍が主要な顧客となる可能性が高いと思われます。




 トルコは国際政治における新興国であり、困難なプロジェクトを実現させてきた確かな実績があります。

 全世界的な製造業の拠点化を目指して、トルコの企業は進歩的な技術をもたらすための革新的な計画に着手しており、2022年には初の国産電車「TOGG」製の「国家電気自動車」シリーズ、さらには電気トラクターの量産を開始する予定となっています。[30] [31] [32]

 これらの成果に続いて旅客機や貨物機の設計・生産も行うというトルコの願望は、自らを全世界的な製造拠点へと移行していく上での論理的な次のステップと言えるでしょう。

 トルコとウクライナの技術協力は、相互利益と手付かずの機会を活用する可能性に基づいています。互いに必要とする技術や専門知識・ノウハウを有していることが、両国を公平な立場に立たせているのです。

 トルコは、「ウクライナとトルコのドローン」としてまもなくウクライナで生産が開始される「バイラクタルTB2」UCAVといった高度な兵器の信頼できる供給源です。[33]

 そして、トルコは「バイラクタル・アクンジュ」UCAVや将来型無人戦闘機「ミウス(無人航空戦闘システム)」の動力源に用いるため、ウクライナのエンジン製造会社から恩恵を受けています。

 両国の軍の将来的な需要に応え、願わくは世界中に輸出できるようにするため、トルコとウクライナは「An-132」、「An-178」、「An-188」の共同開発・生産・販売を通じて科学技術分野における協力をさらに拡大・深化させていくかもしれません。

 トルコの技術・ノウハウ・世界的な影響力と「アントノフ」社が有する既存の機体と経験を合わせることは、どちらの国も単独では成し得なかったことを達成する最高の組み合わせと成就する可能性を秘めています。

トルコ政府が今後の国産航空機事業において現実的なアプローチで実現を試みることは確実です。この事実は2017年に「TRジェット」計画が中止されたことで浮き彫りとなりました。

 「アントノフ」社の既存の機体を利用することで、設計作業の大半を省略できることは、トルコにそれらの生産ラインを設置する可能性があることと同様に高く評価されることは間違いないでしょう。

 「バイラクタルTB2」が技術的側面において、まもなく「ウクライナ・トルコのもの」になるように、「An-132」、「An-178」、「An-188」も同様の道を辿ることになるかもしれません(注:ウクライナで生産されるTB2には同国産のエンジンが搭載される予定です)。[33]

今でも残存する未完成の「An-225」2番機。トルコのエルドアン大統領は2020年10月にこれを完成させるアイデアを提起しています。[1]

[1] Sky Giant: Turkey Mulls To Complete The Second Antonov An-225 Mriya https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/sky-giant-turkey-mulls-to-complete.html
[2] Turkey, Ukraine advance An-188 co-production talks https://www.defensenews.com/global/europe/2018/07/27/turkey-ukraine-advance-an-188-co-production-talks/
[3] Ukraine: Aviation firm Antonov aims to work with Turkey https://www.aa.com.tr/en/economy/ukraine-aviation-firm-antonov-aims-to-work-with-turkey/1965437
[4] Ukraine, Turkey develop plans to join forces in Antonov aircraft production, - Kuleba https://112.international/society/ukraine-turkey-develop-plans-to-join-forces-in-antonov-aircraft-production-kuleba-66301.html
[5] The Market Leader: Turkey’s Indigenous Unmanned Surface Vessels (USVs) https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/the-market-leader-turkeys-indigenous.html
[6] Turkey to start manufacturing 1st indigenous electric train locomotive in 2022 https://www.aa.com.tr/en/economy/turkey-to-start-manufacturing-1st-indigenous-electric-train-locomotive-in-2022/2386599
[7] Cezeri Flying Car https://www.baykartech.com/en/fighting-car/
[8] https://twitter.com/officialptdi/status/1440521718888497159
[9] Turkey terminates local jet program worth billions https://www.defensenews.com/air/2017/10/27/turkey-terminates-local-jet-program-worth-billions/
[10] Taqnia An-132: the curious tale of Saudi Antonovs https://www.aerotime.aero/28590-Taqnia-An-132-the-curious-tale-of-Saudi-Antonovs
[11] ANALYSIS: How Iran's aerospace dream began and ended with the licence-built IrAn-140 https://www.flightglobal.com/analysis-how-irans-aerospace-dream-began-and-ended-with-the-licence-built-iran-140/115133.article
[12] Antonov An-132 Advances with First Flight and New Partner https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2017-05-23/antonov-132-advances-first-flight-and-new-partner
[13] An Unmanned Firefighter: The Bayraktar TB2 Joins The Call https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/an-unmanned-firefighter-bayraktar-tb2.html
[14] Turkey to buy 4 firefighting planes following summer wildfires https://www.hurriyetdailynews.com/turkey-to-buy-4-firefighting-planes-following-summer-wildfires-168605
[15] Pandora Papers: How A U.S. Law Firm Attemped To Sell A Defence Giant To China https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/pandora-papers-how-us-law-firm-attemped.html
[16] Post-Soviet wide-body Neverland. Part 2: Superjumbos https://www.aerotime.aero/26412-post-soviet-wide-body-neverland-part-2-superjumbos
[17] https://twitter.com/AlexLuck9/status/1469338085242519552
[18] Turkey terminates local jet program worth billions https://www.defensenews.com/air/2017/10/27/turkey-terminates-local-jet-program-worth-billions/
[19] AN-178 Medium transport aircraft https://www.antonov.com/en/file/hADqQn7lEwEJs?inline=1
[20] Innovations https://www.antonov.com/en/innovations
[21] Spetstechnoexport gives its version on Peruvian An-178 delays https://www.aviacionline.com/2021/12/spetstechnoexport-gives-its-version-on-peruvian-an-178-delays/
[22] Самолетостроение как разменная монета https://zn.ua/internal/samoletostroenie-kak-razmennaya-moneta-_.html
[23] An-70's uncertain future http://www.aeronautics.ru/news/news002/news094.htm
[24] Ан-70: строить нельзя закрыть программу http://www.kr-media.ru/upload/iblock/af8/af8695008c15e9482af9f980e150f60f.pdf
[25] Paris Air Show 2015: Antonov reveals An-188 strategic transport aircraft http://www.janes.com/article/52287/paris-air-show-2015-antonov-reveals-an-188-strategic-transport-aircraft
[26] Вице-премьер Уруский: "Воздушный старт" может стать для Украины национальной идеей https://interfax.com.ua/news/interview/675352.html
[27] An-70 military transport aircraft enters Ukrainian Armed Forces service https://www.kyivpost.com/article/content/war-against-ukraine/an-70-military-transport-aircraft-enters-ukrainian-armed-forces-service-377854.html
[28] Turkey, Ukraine negotiate industry participation in An-188 co-production https://www.defensenews.com/global/europe/2018/05/11/turkey-ukraine-negotiate-industry-participation-in-an-188-co-production/
[29] Antonov An-188 Military Transport Aircraft https://www.airforce-technology.com/projects/antonov-188-military-transport-aircraft/
[30] Turkey to start manufacturing 1st indigenous electric train locomotive in 2022 https://www.aa.com.tr/en/economy/turkey-to-start-manufacturing-1st-indigenous-electric-train-locomotive-in-2022/2386599
[31] Minister Varank: TOGG will start mass production at the end of 2022 https://www.bazaartimes.com/minister-varank-togg-will-start-mass-production-at-the-end-of-2022/
[32] Elektrikli traktör için ön siparişler alındı https://www.trthaber.com/haber/ekonomi/elektrikli-traktor-icin-on-siparisler-alindi-562507.html
[33] Ukraine deepens defence ties with Turkey amid standoff with Russia https://www.middleeasteye.net/news/turkey-deepens-defense-ties-ukraine-drone-trade

  ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
  があります。



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