2024年2月3日土曜日

赤い龍を抑止せよ:近年における台湾の兵器調達リスト


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 2023年の総予算が190億ドル(約2兆7千億円)である台湾は、拡大し続ける中国の軍事力のペースに追いつかなければならないという困難な課題に直面しています。そのため、台湾は空軍と海軍への投資を優先するとの戦略的決定を下しました。この決定は、両軍種がこの島国の防衛において果たす重要な役割について十分に認識されていることの証しです。

 陸軍は中国軍が自国領土に上陸した後にのみ交戦する方針を採用しているため、台湾軍の最大目的は、まずは中国の上陸作戦を抑止するための強固な抑止力を確立することにあります。

 台湾は中国に対する抑止力の構築に取り組んでいますが、小型潜水艦や高速攻撃艇(FAC)、そして沿岸防衛ミサイルシステム(CDS)の追加よりも、ドック型輸送揚陸艦(LPD)や外洋行動能力を持つ攻撃型潜水艦などの大型艦艇を優先する調達戦略を追求しているとして、絶え間ない批判にさらされています。

 台湾の安全保障における最大の脅威は中国による着上陸侵攻であると多くの人が認識しているものの、台北は中国が海上封鎖によって台湾を包囲して孤立させるという予定された戦略を実行する可能性を懸念しているのが実情です。

 戦時に台湾との連絡線を確保するためのアメリカ海軍の役割がこの島国に有利をもたらす主張もありますが、アメリカが1970年に南ベトナムを放棄したり、2011年のイラクに続いて最近ではアフガニスタンからも撤退した事例を考慮すると、台湾はアメリカ軍との協力に警戒感を持って接することになるかもしれません。

 これに加えて、両国が緊密な同盟関係にあるにもかかわらず、台湾はアメリカから兵器を制限なく調達することが認められていません。海外から兵器を調達する選択肢が限られていることから、台湾は兵器システムの大部分を独自開発することを選択し続けています(注:ただし、アメリカを含む国の防衛企業と提携する場合も散見されます)。

 しかしながら、台湾軍の即応性については大きな懸念が漂っています。最近、台湾は自国の全面戦争への備えが比較的不十分であることを認識しました。これらの問題に対処するため、台北はロシアによるウクライナ侵攻から学んだいくつかの教訓を実行に移し始めました。一例として、十分な数の弾薬を備蓄することの重要性が挙げられます。

 中国の急速な軍拡によって台湾の防衛上の利点の多くが損なわれているため、こうした教訓は極めて重要なものとなっています。これらの問題に対処することは、進化する脅威に直面する台湾が安全保障を維持するために極めて重要であることは言うまでもありません。

  1. 以下に列挙した一覧は、台湾陸空軍及び海巡署によって調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステムや排水量が100トン以下の艦艇などは掲載されていません。
  3. この一覧は新しい兵器類の調達が報じられた場合に更新される予定です
  4. 台湾軍の(現用)軍用車両や重火器の一覧はこちらで閲覧することができます。


中華民国陸軍

戦車
  • 108 M1A2T [納入中]
  • 460 M60A3の改修(新型エンジン及び射撃統制システムの装備)[2020年代後半に完了]
  • 450 CM-11の改修 (新型エンジン及び射撃統制システムの装備)[2020年代後半か2030年代前半に着手]

装甲戦闘車両

火砲

防空システム

徘徊兵器

兵器システム


中華民国空軍

戦闘機

高等訓練機 / 軽戦闘攻撃機

無人戦闘航空機

防空システム

兵器システム


中華民国海軍

強襲揚陸艦

ドック型輸送揚陸艦

水上艦艇

潜水艦

掃海艦

その他の艦艇

無人(戦闘)航空機

兵器システム


海巡署

巡防救難艦(ミサイルコルベット)

巡防救難艦
  • 2 「嘉義」級巡防救難艦 [2023年と 2024年に引き渡し] (2021年と2022年に就役した同型艦2隻を補完するもの)
  • 5 1,000トン級巡防救難艦 [2022年から2024年にかけて引き渡し] (2022年に就役した同型艦1隻を補完するもの)
  • 6 3,000トン級 外洋巡防救難艦 [2026年から2032年にかけて引き渡し]

航空機
  • 6-12 洋上監視機 [案]

ヘリコプター
  • 8 捜索救助及び環境監視用ヘリコプター [案]

特別協力:Taepodong

当記事は、2023年8月8日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。


おすすめの記事

2024年1月31日水曜日

ビジョン2030:国産UCAVの開発を推進するサウジアラビア(一覧など)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 無人戦闘航空機(UCAV)の調達に関して、サウジアラビア(KSA)は中国にその大半を依存してきました。このことは、KSAが2010年代半ばから後半にかけて「翼竜Ⅰ」や「翼竜Ⅱ」、「CH-4B」を大量に導入したことに表れています。

 これらの中国製UCAVは、2015年3月のサウジアラビア主導のイエメン介入開始以来、すでにイエメン上空に投入されている数種類の南アフリカやイタリア、ドイツ製無人偵察機を補完するものでした。[1] 

 2019年になると、サウジアラビアはトルコの「レンタテク」社製「カライェル-SU」UCAVを導入し、保有するドローン兵器群をさらに増強しました。この同型機は「ハブーブ」のという名前で近いうちにKSA国内で生産される予定です。[2] 

 サウジアラビアは「ビジョン2030」の一環として2030年までに防衛支出額の少なくとも50%を現地調達に充てることを目指しており、防衛企業が兵器類の現地生産ラインを構築するための刺激材料となっています。
 
 現在、サウジアラビアは海外の企業や科学者たちと協力して、さらに数種類のUCAVを開発しています。それらの最初の1機である「サクル-1」は、南アフリカの「デネル・ダイナミクス」社によって開発された「バトルゥール」中高度長時間滞空(MALE)型UAVの設計をベースにしています。より小型の「スカイガード」は、2017年に初めて発表された国産機です。

 「サムーン」と呼称される7つのハードポイントを持つ大型の双発機のほかに、サウジアラビアは中国と契約を結んで、双発または三発機の「TB001」重UCAVを「アル・イカーブ-1」及び「アル・イカーブ-2」として開発しています。[3] [4]

 ちなみにウクライナとUAVを共同設計・生産する計画もありましたが、ウクライナ戦争のせいでキャンセルされたようです。[5]
 
 中国の「腾盾」が開発した巨大な「TB001」は、主翼下部に設けられた4つのハードポイントに、さまざまな誘導爆弾や空対地ミサイル(AGM)、対艦ミサイル、巡航ミサイルで武装することが可能となっています。

 「アル・イカーブ-1」は三基のエンジンを備えた異例の三発機であることが特徴であり、「アル・イカーブ-2」はその双発機型です。

 「TB001」については2019年に契約が発表されたものの、その開発は長引いており、 サウジアラビアが自国の防衛面での需要を満たすために、このプロジェクトを依然として積極的に推進しているかどうかは今でも不明のままとなっています。

提案されている双胴機「アル・イカーブ-1/2(TB001)」:2019年に契約が締結されたものの、同機をめぐるプログラムの現状は不明のままです

 国産機を開発している間に、サウジアラビアと「中国航空宇宙科学技術公司(CASC)」がKSA国内に生産ラインと地区整備センターを設立して、最終的に今後10年間で約300機もの「CH-4B」を大量生産する可能性についての関する報道が2017年から飛び交っています(現在の統計を前提とした場合、これが実現するとKSAが世界最大のUCAV運用国となるでしょう)。[6]

 なお、このような合意が成立したのか、または計画されたのかすら不明であり、この記事を執筆している2022年9月時点では実現されていないようです。

 おそらくは中国製UCAVの稼働率や運用実績が乏しいためか、サウジアラビアはすでに少なくとも2017年からUCAVの調達先としてトルコに目を向けるようになっています。

 当初は「トルコ航空宇宙産業(TAI)」「アンカ」UCAVに関心を寄せていましたが、最終的にKSAは2010年代後半に「ヴェステル(注:軍事部門はその後「レンタテク」に社名を変更)」社と数量不明の「カライェル-SU」について契約を結びました。[7] [2] 

 これらはほぼ即座にイエメンでの作戦に投入され、現時点で4機が失われたことが視覚的に確認されました。[1]

 「イントラ・ディフェンス・テクノロジーズ」社による「カライェル-SU」の国内生産はCOVID-19の影響を受けて1年半遅れたものの、2022年半ばに開始される予定です。[4] 
国内生産は「レンタテク」が重要なコンポーネントを供給し、サウジアラビアで組み立てられる方式となっています。[2]

サウジアラビアにおける「カライェル-SU "ハブーブ"」:同機は「MAM-C/L」やほかの小型爆弾を搭載可能なハードポイントを4つ備えています

 「カライェル-SU」の国内生産は、「サクル-1」プロジェクトにとって"とどめの一撃"となるかもしれません。

 少なくとも2012年からアメリカに拠点を置く「UAVOS」社と「キング・アブドルアジーズ科学技術都市(KACST)」で共同開発が進められてきた「サクル-1」は数多くの修正がなされ、2020年に公開された最新型の「サクル-1C」までプロジェクトが進んでいます。

 しかし、これらはどれも実用化されておらず、より小型の「サクル-2」と「サクル-4」も実機の生産までには至っていません。[8] 

 最大で48時間という目を見張るような滞空時間を誇りますが、「サクル-1」は兵装搭載用のハードポイントを2つしか備えていないため、UCAVとしての有用性は著しく制限されたものとなります(注:「CH-4B」や「TB2」のハードポイントは4つ)。

 「イントラ」社が現在開発中である「サムーン」が「サクル-1」の代わりにサウジアラビア初の量産型国産UCAV となるのか、あるいは(既存のサウジアラビアの防衛プロジェクトの大部分と同様に)開発サイクルの長期化や内部からの反対、最終的に中止という事態に直面することになるのかは、まだ分かりません。[9] 

 中国製ドローンの高い消耗率と、(おそらく)基本的な整備上の問題にさえ悩まされていることから、サウジアラビア当局が最近公表した高い人気と実績を誇る「バイラクタルTB2」「アクンジュ」の導入へ関心を示したことについては、一部の人が予想したほどあり得ない動きではないのです。[10]

 これらはサウジアラビアで開発されたものではありませんが、無人機技術への協力、そしておそらくKSAでの「バイカル・テクノロジー」社製品の生産は、同国の新興UAV産業を実質的に有効なレベルまで引き上げるのに役立つ可能性がある貴重な知見をもたらすことになるでしょう(注:2023年8月、サウジアラビア軍事産業:SAMIは「バイカル・テクノロジー」と「アクンジュ」の70パーセントを現地生産する契約を結びました)。

南アフリカの「バトルゥール」MALE型UAVをベースに開発された「サクル-1」

今後登場する「サムーン(1/2サイズのモデル」:このモックアップの主翼に中国製の「ブルーアロー7」と「TL-2」対地攻撃ミサイルが搭載されていることに注目


※ 各UCAVの名称をクリックすると当該機体の画像が表示されます(括弧内の年はプロ
 ジェクトの公表または始動日を指します)。


無人戦闘航空機 - 生産中
  • ハブーブ [2018年 または 2019年] (「イントラ・ディフェンス・テクノロジーズ」)

無人戦闘航空機 - 生産予定
  •  アクンジュ [時期未定] (「バイカル・テクノロジー」)

無人戦闘航空機 - 開発中

[1] List Of Coalition UAV Losses During The Yemeni Civil War https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/coalition-uav-losses-during-yemeni.html
[2] Saudi Arabia’s Intra Pushes Ahead with Drone Programs https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2022-03-14/saudi-arabias-intra-pushes-ahead-drone-programs
[3] Sino-Saudi heavy unmanned aerial vehicle https://vpk.name/en/487652_sino-saudi-heavy-unmanned-aerial-vehicle.html
[4] https://twitter.com/inter_marium/status/1099657284911841280
[5] It is possible that this joint venture had already effectively ended before the Russian invasion of Ukraine in February 2022.
[6] Saudi Arabia https://drones.rusi.org/countries/saudi-arabia/
[7] Saudis in talks with TAI to buy six Anka turkish drones https://www.defensenews.com/digital-show-dailies/2017/11/17/saudis-in-talks-with-tai-to-buy-six-anka-turkish-drones/
[8] https://i.postimg.cc/W4My3cMX/18933-2.jpg
[9] Intra’s Samoom: the future Saudi Armed Forces MALE unmanned air system https://www.edrmagazine.eu/intras-samoom-the-future-saudi-armed-forces-male-unmanned-air-system
[10] Saudi GAMI, Baykar and Bayraktar drones https://www.tacticalreport.com/news/article/59638-saudi-gami-baykar-and-bayraktar-drones

 当記事は、2022年9月13日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

2024年1月27日土曜日

抑止力の目覚め:近年におけるルーマニアの兵器調達リスト


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ルーマニアは東欧のNATO加盟国で2番目に大きな軍隊を保有しているにもかかわらず、装備の大部分は冷戦時代のもので占められています。

 ただし、2014年のロシアによるクリミア占領を受けて、ルーマニアは軍事力の近代化を図るためのプロジェクトを数多く実施してきました。今までに調達した中で最も重要な装備としては、ポルトガルとノルウェーからの「F-16」戦闘機を49機、アメリカからの「パトリオット」地対空ミサイルシステムを7個中隊分と「M142 "ハイマース"」54台 、「M1A2」戦車54台、そしてイスラエルからの「ウォッチキーパーX」UCAVが挙げられます。

 これらの契約の一部には技術オフセット条項が含まれており、ルーマニア企業が下請け業者や部品サプライヤーとして不可欠な役割を果たすことを確実にするでしょう。 

 ルーマニア軍の近代化は、交渉の長期化と納期スケジュールの遅延を特徴とする大きな課題に直面しています。海軍用に計画された重要な装備の一部には4隻のコルベットがあり、ナバル・グループが率いるフランスとルーマニアの企業連合体が2019年に契約を勝ち取りました。ところが、3年も経過したにもかかわらず、ルーマニアとナバル・グループとの合意は未締結のままです。

 こうした障害を克服して装備の調達先を多様化するため、ルーマニアはポーランドに習って韓国などの他国との協力を模索しており、現在では韓国との間でさまざまな種類の高度な兵器システムの調達を確保するための交渉が進行中です。

 2023年4月、ルーマニアのクラウス・ヨハニス大統領はルーマニア軍の著しい発展を発表し、2023年から始まる「加速する近代化」プランのフェーズについて明らかにしました。この近代化フェーズは、ルーマニアのGDPの2.5%に相当する60億ユーロ(約9,540円)という巨額の予算によって支えられる予定です。

 特筆すべきは、この予算配分がNATOによって義務付けられている2%の基準を上回っていることでしょう。これは、ルーマニアが同盟の防衛基準に沿って軍事力を強化する取り組みに一層力を入れていることを示しています。 

  1. 以下に列挙した一覧は、ルーマニア陸空軍によって調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステム、小火器、指揮車両、トラック、レーダー、弾薬は掲載されていません。
  3. 「将来的な数量」は、すでに運用されている同種装備と将来に調達される装備の両方を含めたものを示しています。
  4. 中期近代化改修(MLU)については、当該兵器の運用能力の向上に寄与する場合にのみ掲載してます。
  5. この一覧は新しい兵器類の調達が報じられた場合に更新される予定です。


陸軍 - Forțele Terestre Române

戦車 (将来的な数量: 326)

歩兵戦闘車 (将来的な数量: ~600)

水陸両用強襲輸送車 (将来的な数量: 21)

特殊車両
  • 80 モワク「ピラーニャV」の派生型 (指揮車, CBRN偵察車, 回収車,救急搬送車) [納入中]

歩兵機動車・戦術車

火砲・多連装ロケット砲 (将来的な数量: 26 自走迫撃砲, ~200 自走砲, 100+ 多連装ロケット砲)

防空システム(将来的な数量: 3個中隊 と 大量の発射機)

無人戦闘航空機 (将来的な数量: 18)


空軍 - Forțele Aeriene Române

戦闘機 (将来的な数量: 48)
  • 32 F-16A [ 2023年以降に納入] (既存の「F-16A」17機を補完するもの)
  • 48 F-35A [調達を検討] (最終的に「F-16A」を更新するもの)

無人戦闘航空機(将来的な数量: 21)

防空システム (将来的な数量: 4 「パトリオット」中隊 と 8 「ホーク」中隊)



海軍 - Forțele Navale Române

コルベット(将来的な数量: 4)
  • 4 コルベットの導入計画 [調達を検討]

ミサイル艇 (F将来的な数量: 3)
  • 3 「プロジェクト 1241.RE "タランタル"」級の中期近代化改修(対艦巡航ミサイル,三次元レーダー, 戦闘管理システムが対象) [2020年代半ばから後半までに完了]

潜水艦 (将来的な数量: 2)

掃海艇 (将来的な数量: ~7)

沿岸防衛ミサイルシステム (将来的な数量: 2個中隊)