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2025年7月6日日曜日

【復刻記事】鋼鉄の野獣: シリア軍のT-62戦車


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2014年11月27日に「Oryx」本国版(英語)とベリングキャットで公開された記事を日本語にしたものです。10年前の記事ですので当然ながら現在と状況が大きく異なっていたり、情報が誤っている可能性があります(本国版ブログは情報が古くなったとして削除)。ただし、その内容な大いに参考となるために邦訳化しました。 

 登場当時の「T-62」戦車は技術的な奇跡の産物と考えられていました。なぜならば、最先端の115mm滑腔砲を搭載していたからです。しかし、この戦車は「T-55」から多くの問題を受け継いだだけでなく、さらに多くの新たな問題も生み出してしまいました。

 NATOが恐れていた115mm砲については、「T-55」の100mm砲で新型の砲弾が使用可能になったため、冗長なものとなってしまいました。この理由と毎分僅か4発という受け入れがたい発射速度が合わさって、「T-62」は同時代の戦車の中で「厄介者」となったのです。

 実際、ブルガリアを除くワルシャワ条約機構加盟国は「T-62」を導入せず、より多くの「T-55」を調達する道を選びました。

 それでも、この戦車は中東や北アフリカのソ連勢力圏内にある国々に広く輸出されています(注:2010年代後半においてもシリアやリビアへ供与された)。エジプトとシリアは実戦で「T-62」のテストを試みており、その後1973年の第四次中東戦争で投入したものの、期待に応える結果を得ることはできませんでした。

 1960年代の終わりから70年代にかけて、シリアは最大で800台の「T-62」を入手したと推測されています。このうち500台弱が依然として現役か予備兵器扱い、あるいは保管状態にあります。

 1962年に形式不明の戦車の追加バッチが納入されたとされていますが、結局その情報は誤ったものであり、実際は「T-55A」戦車のバッチでした。また、リビアから供給された「T-72」戦車に関する情報もありますが、独自には確認できていません。

 「T-62」の "1967年型"と"1972年型"の両モデルがシリアに納入されました。このうち後者がシリア陸軍で最も運用された型です。この型は空中からの脅威に対する防御力を高め、地上目標への使用も可能にする大口径の「DShK」12.7mm機関銃を装備しています:"1967年型"にはこうした対空用の機関銃はありません。


 「T-62」は1982年のレバノン戦争にも投入されました。ところが、シリア軍の戦車は第四次中東戦争よりも活躍したにもかかわらず、イスラエル軍の歩兵や戦車、そしてヘリコプターによる攻撃の結果、約200台もの「T-62」戦車が失われました。

 この戦争では「RPG-7」や「RPG-18」、「9K111 "ファゴット"」「ミラン」対戦車ミサイルで武装した遊撃対戦車部隊の方がはるかに活躍したことが知られています。ベイルートとその周辺で活動する彼らは、狭い路地で攻撃を実施して圧倒的な優位に立ったのでした。

 興味深いことに、シリア軍が保有していた「T-62 "1967年型"」の1台が南アフリカ国防軍に配備されていることが明らかとなっています。同軍はすでに仮想敵(OPFOR)訓練用としてだけでなく、アンゴラで将来起こりうるこれらの戦車との衝突に備えて評価するために「T-55」の部隊を運用しているのです。


 シリア軍の「T-55」とは対照的に、「T-62」は戦闘能力を向上させるための大幅な近代化改修を受けていません。その代わり、90年代には一部の「T-62」が保管庫送りにされています。現役で残っていた「T-62戦車」については、被占領地であるゴラン高原から遠く離れた場所に配備され、主に予備部隊によって運用されていました。

 少数の「T-62」戦車には、風力センサーを搭載するという小規模な改修が実施されました。本来ならば将来実施されるかもしれない近代化計画の試作車両として用いられる可能性が高かったものの、改修された戦車の数が極めて少なかったこともあり、同計画が開始されることはなかったようです。

 少なくともこの1台がシリア内戦で反政府軍に鹵獲されたことが確認されています。下の画像の改修型「T-62」には、「بشار(バッシャール)」と「منحبك يا بشار(我らはバッシャールを愛す)」の文字がペイントされています。


 シリア内戦は、シリア軍における「T-62」戦車の3度目の実戦投入でした。その大部分はシリア・アラブ陸軍に配備されていますが、ある程度は民兵組織である国民防衛隊(NDF)スクーア・アル・サハラ(デザート・ファルコン)にも配備されています。

 なお、残りの一部は戦略予備として保管状態のままです。 これは、シリア政府がいつでも数百台の戦車を投入することで戦闘による損失を埋め合わせができることを意味しています。もちろん、この状況はシリア・アラブ軍にとって有益なものとなっています。というのも、シリア軍が保有する戦車の数は減少し続けているからです(注:上述のとおり損失の埋め合わせに困らないため)。

 2台の「T-62」がタブカ市で活躍しました。残存した航空機やヘリコプターが空軍基地から脱出できるよう、滑走路の周囲を長時間にわたって防御したのです。

 他の「T-62」は砂漠地帯でスクーア・アル・サハラの攻撃部隊に参加しましたが、これらの戦車がこの部隊の指揮下にあったのか、それともシリア軍の管理下にあったのかは定かではありません(注:スクーア・アル・サハラはシリア軍の支援を受ける民兵組織だったため)。


 少数の「T-62」は僅かながらも防御力の向上が図られました。こうした改良は、一般的に戦車の運用者がどれだけの労力とリソースを投入したかによって度合いが左右されます。つまり、改良と一口で言ってもレベルはピンからキリまであるということです。例えば、単に土嚢で覆うという策(下の2番目の画像)から装甲版の追加といった大幅な改良まで、全く異なる改良がなされる場合があるわけです。

 このような応急的な改良は通常のロケット擲弾(RPG)に対して多少は役に立つ可能性があるものの、「T-62」をシリアの戦場に蔓延する非常に変わりやすい対戦車戦をめぐる情勢に持ちこたえる助けにはなりそうもありません。


 それでも、内戦によってシリアにおける鋼鉄の野獣が徐々に減少し、すぐに使用できる戦車の数も少なくなっているため、「T-62」戦車が今後の極めて過酷な戦いで非常に重要な役割を果たす可能性は高いと思われます。


2025年4月13日日曜日

【復刻記事】鋼鉄の野獣: シリア軍のT-55戦車


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 この記事は、2014年11月27日に「Oryx」本国版(英語)とベリングキャットで公開された記事を日本語にしたものです。10年前の記事ですので当然ながら現在と状況が大きく異なっていたり、情報が誤っている可能性があります(本国版ブログは情報が古くなったとして削除)。ただし、その内容な大いに参考となるために邦訳化しました。

 (この記事の執筆時点で)約4年に及ぶ内戦は、シリアの戦車部隊とその運用方法に影響を与え続けています。今や、彼らはシリア各地に点在しており、数多くの友軍に火力支援を提供しているのです。

 この新シリーズでは、シリア軍が運用する鋼鉄の野獣にスポットライトを当てます。

 シリア国内でアサド政権の戦車を実際に運用しているのは誰なのか、やや曖昧なままです:多くの人はシリア国内における全ての戦闘任務をシリア・アラブ軍(SAA)が担い続けていると考えていますが、SAAはその人員と装備の多くを国民防衛隊(NDF)やその他の民兵組織に移管しています。

 しかしながら、シリア軍は依然として多数の旅団とシリア各地に点在する無数の駐屯地を維持しています。つまり、そこで発見された戦車は、その全てがシリア軍の指揮下に置かれたものというわけです。

 戦車部隊で運用される戦車は大きく3種類に分類することができます:「T-55」と「T-62」、そして「T-72」です。さらに2種類:「T-54」と「PT-76」もかつてシリアで運用されていたものの、現存する「T-54」の大部分はレバノンに寄贈され、その他は保管状態にあります。今のところ、前者は多くが現役に戻されつつありますが、後者はこの10年間でスクラップにされたと考えられています。

 内戦が勃発する前のシリアは約5,000台の戦車を保有していたと推測されています:内訳としては、「T-54/55」が2,000台、「T-62」が1,000台、「T-72」が1,500台です。しかし、この数字はかなり歪められています:2010年代初頭でシリアが実際に運用していた戦車は2,500台に近いものであり、その内訳は「T-55」が約1,200台で「T-62」が約500台、「T-72」が約700台でした。もちろん、2,500台の戦車が同時に稼働していたわけではありません。「T-55」や「T-62」の大半は予備兵器扱いや保管状態にありました。

 2,500台の戦車のうち、1,000台以上が内戦で失われました。その大多数は「T-55」ですが、残存する戦車の多さがこうした損失をカバーしています。

 2014年末の時点で、シリア軍は推定700台の「T-55」が作戦能力を維持している一方で、この国を支配するべく戦っている多くの勢力も、さまざまな種類の「T-55」を運用し続けています。その中でも特筆すべき運用者はイスラム国です:彼らは第93旅団で数十台を鹵獲して、この戦車の主要なユーザーとなったのです。同旅団が保有していた戦車のほとんどは、後にイスラム国によるコバニへの攻勢に投入されました。


 シリアでの「T-55」は4種類に分けることができます:標準的なスタイルの「T-55A」、北朝鮮が改修した「T-55」、「T-55AM」、そして「T-55MV」です。これらのうち最も多く運用されているタイプは「T-55A」で、北朝鮮の改良型、「T-55MV」と「T-55AM」がそれに続きます。

 「T-55A」と北朝鮮の改修型はその大部分がNDFでも運用されている姿を目撃されていますが、「T-55AM」と「T-55MV」の運用はSAAだけです。

 北朝鮮の改修型は同国で設計されたレーザー測距儀(LRF)を搭載しているほか、一部は発煙弾発射機や「KPV」14.5mm機関砲さえ装備しています。シリア軍の「T-54/55」には、少なくとも2種類の北朝鮮製LRFが搭載されていることが判明しています。

 これらの戦車の改修は1973年の第四次中東戦争で得た戦訓に基づいたものであり、ソ連による「T-55」の改修:シリア軍の一部が受けた「T-55AM」規格への引き上げよりも安価な代替案として、1970年代初頭から80年代にかけて実施されたものです。

北朝鮮製LRFを装備した「T-55」(イスラム国が鹵獲したもの)

 「T-55AM」規格への改修には、「KTD-2」LRFとサイドスカート、発煙弾発射機の搭載が含まれていたものの、砲塔と車体前部への「BDD」追加装甲の装着については予算の制約から省略されてしまいました。下の画像は、ダラア県で活動する反政府軍:グラバー・ハッラーン大隊が運用するT-55AMです。


 「T-55MV」はシリア国内で使用されている「T-55」の中で最も近代的なものであり、その戦闘能力はシリアの「T-72」を上回るとさえ言えるかもしれません。「T-55」のMV規格への改修については、1997年に200台がウクライナによって実施されました。[1]

 シリアの「T-55AM」とは逆に、「T-55MV」は新型エンジンの搭載や対戦車ロケット弾(RPG)に対して装甲の防御力を強化する爆発反応装甲(ERA)ブロックの装備などで全面的に改修されました。

 シリアの「T-55MV」は、主砲である100mm砲から発射可能な「9M117M "バスチオン"」砲発射式対戦車ミサイルも装備しています。これまでシリアで「9M117M」が使用されていることは知られていませんでしたが、反政府勢力がクネイトラ県のテル・アフマル近郊で約10発を鹵獲したことで判明したのです。

 クネイトラは昔から「T-55MV」戦車隊の拠点であり、戦争になれば同ミサイルはイスラエルの戦車にとって厄介な奇襲の道具となったことでしょう。これらのミサイルは高価なため、各戦車は数発しか搭載していません。ミサイルの大多数は将来的にイスラエルの機甲部隊に使用される可能性があることから、ゴラン高原沿いのテル・アフマルのような弾薬集積地点に備蓄されたままです。


 一部の「T-55MV」はLRFの上に奇妙な装置を搭載しています。おそらく、この装置はある種のカメラとして機能すると思われます。というのも同様の装置がウクライナによって改修された「BMP-1」でも見られたからです。ただし、決定的な証拠は車内を映した映像でしか得られないので断定はできません。


 すでに共和国防衛隊の「T-72」で見られたものと同様に、「RPG」に対する防御力を向上させるため、「T-55」にも土嚢で防御力を向上させたスラット装甲が少しずつ導入されています。こうした装甲を装備した「T-55」を下の画像で見ることができます。ちなみに、改修された「T-55」の大半は砲塔の周囲にスラット装甲を施されただけでした。


 NDFは「T-55」を安全な距離から反政府勢力の拠点を攻撃するという積極的な用途で運用し続けている一方で、シリア軍は「T-55」のほとんどを固定式のトーチカとして使用しているため、敵が持つ対戦車ミサイルの格好の餌食となっています。

 シリアにおける戦車の損失の大部分は、地方の守備隊や検問所を強化するという(ほとんど)無駄な試みによる必然的な結果によるものです。


 「T-55」の数があまりにも多いため、シリア軍とNDFには兵士の火力支援に提供する戦車が不足するという差し迫った恐れはありません。

 シリアの戦車部隊にとって最大の脅威は悲惨な燃料不足です。入手可能な燃料のほとんどは、共和国防衛隊やスクーア・アル・サハラ(デザート・ファルコン)といった部隊で使われているからです。燃料不足はすでに戦車運搬車(トレーラー)の広範囲にわたる使用を強いています。なぜならば、戦車が自力で配備地まで走行するための十分な燃料が不足しているからです。この状況は、デリゾール周辺の油田が奪還されない限り改善されることはないでしょう。

2025年3月29日土曜日

草原の守護者:カザフスタンの軍用車両・重火器(一覧)


著: トーマス・ナハトラブ, シュタイン・ミッツァー, Buschlaid と ヤン・ケルダイク

 この記事は2023年8月21日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。

 ソ連から軍備を継承することになった時点で、カザフスタンは自身が幸運な立場にあることに気付きました。この結果は、まさに棚からぼた餅しか言いようがありません。

 1980年代後半にドイツ駐留ソ連軍(西部軍集団)の撤退がなければ、カザフスタンの手元には核兵器搭載可能な相当数の「Tu-95」爆撃機と大陸間弾道ミサイル(ICBM)が残されていたかもしれませんが、通常兵器は著しく不足していました。

 ところが、かつて東ヨーロッパ格好に駐留していた大量の部隊がカザフ・ソビエト社会主義共和国に移動された結果として、カザフスタンは新たに樹立された国家の需要をはるかに上回る膨大な軍備を受け継ぐことになったわけです。カザフスタンにとっても、自国の「Tu-95」を引き渡す見返りとして通常兵器をロシアと交換できたことから、こうした装備の不足に対処するのは比較的容易なことでした。

 こうした要因で、カザフスタン陸軍が過去数十年にわたって比較的最小限の装備しか調達してこなかったことは間違いありません。

 その代わり、この国はソ連時代の装甲戦闘車両(AFV)の改修計画を推進すると同時に、主にロシアから少数のより近代的なAFVを調達しています。さらに、カザフスタンは国産AFVの生産能力を構築するための取り組みを開始しており、この事業で「マローダー」 MRAPと「ムボンベ」装甲兵員輸送車を国内生産するための契約を南アフリカ及びイスラエルと締結しました。

 明らかに、カザフスタンは既存のAFV群の有効性を最大限に活用し、可能な限り長く運用することを優先しているようです。しかしながら、カザフスタンでのAFVを近代化させるという試みのスピードは著しく遅いものとなっています。この国では約10年前から「T-72」戦車の近代化を進めていますが、改修を担当する(外国の)企業を最終決定する段階には至っていません。

 すぐに従来型の軍事的脅威に直面することはないものの、カザフスタンが保有するAFV群は、今後何年にもわたって草原(ステップ)を守る準備が整っているように思われます。

  1. この一覧は、現在のカザフスタン陸軍で使用されている全種類のAFVをリストアップ化を試みたものです。
  2. この一覧には、画像・映像などで存在が確認されたものだけを掲載しています。
  3. レーダーやトラック、ジープ類はこの一覧には含まれていません。
  4. カザフスタンで披露された近代化計画や、国内で生産されたものの陸軍に採用されてないものは含まれていません。
  5. カザフスタンが保有する無人機については、こちらで紹介しています。
  6. 各兵器の名前をクリックするとカザフスタンで運用中の当該兵器の画像を見ることができます。

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[1] Esoteric Armour: Ukrainian T-72UMG Tanks In Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/esoteric-armour-turkmenistans-t-72umg.html
[2] Russia, Redux: Turkmenistan Acquires The Typhoon MRAP https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/russia-redux-turkmenistan-acquires.html

改訂・分冊版が2025年に発売予定です

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